Comments
Description
Transcript
農業への企業参入における評価と課題
農業への企業参入における評価と課題 ~参入企業営農意向調査結果を中心として~ 島根県農業技術センター 山本 善久 ◆報告の内容 問題意識・参入状況 調査・研究結果 1.問題意識 4.参入企業調査結果(35社) 2.参入状況 5.市町村担当者の評価 3.農業の特徴 6.企業参入の地域経済効果 キーワード 今後の課題: 参入目的の整理、異業種連携 1.問題意識 ◆参入企業数54社、全国的にも先駆的地域 ◆近年、参入数が急激に増加! 地域農業の担い手となり得ているのか? 参入後の状況が不明 経営状況からみた現状の到達点は? 既存参入企業を対象とした経営実態の把握が必要! 経営実態調査 → 今後の支援策・企業経営の方向性 2.参入状況 1)業種別参入数・社会構造との関係 40 35 30 累 計 25 企 業 20 参 入 15 数 10 ◆参入企業:54社 建設業(関連業含) 造園業 食品製造業 農業関連(卸売含) ◆増加の多い業種 1.建設業 2.食品製造業 その他 ◆ここ5年間で急増! 5 0 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 西暦(下2ケタ) 図 企業業種別累計参入数の推移 資料:)島根県農業経営課企業参入促進S資料 注:)89年の値は、それ以前のものも含む。 (72年1社:、76年1社、いずれも農業関連業) ◆建設業と公的需要 は高い相関関係 (-0.74 ← 相関係数) ◆農業関連業と農林水産業 生産増加率も高い相関関係 (-0.86 ← 相関係数) 2)地域農業構造との関係・増加の規定要因 農業産出額 0.60 集落営農組織数 0.50 特定法人貸付事業における参入区域の設定比率 0.26 借地化率 0.20 同居農業後継者がいる農家比率 0.19 1戸当たり農業所得 0.07 1戸当たり経営耕地面積 0.03 自給的農家数増減率 0.03 65歳以上農業就業人口比率 0.02 販売農家数増減率 -0.14 耕作放棄地増減率 -0.15 総農家数増減率 -0.15 -0.4 【重要度の高い項目名】 ◆農業産出額 ◆集落営農組織数 ◆参入区域の設定 ◆借地化率 ◆土地持ち非農家率 -0.11 経営耕地面積増減率 土地持ち非農家比率 は重要度が高い 項目 -0.23 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 図 参入企業増加と地域農業構造との相関係数(重要度) 0.8 3.農業の特徴 1)支払い可能賃金 表 支払可能賃金(1時間当たり)の比較 農業部門 統計資料 水稲(都府県) 水稲(島根県) 根菜類 葉茎菜類 果菜類 果実的野菜 果樹 花き 1,302 412 1,294 1,782 1,070 1,192 1,044 971 県内調査事例 05水稲(コシヒカリ) 06水稲(きぬむすめ) 05大豆(サチユタカ) 05小麦(農林61号) 04ピオーネ(無加温) 05ピオーネ(無加温) 06デラウェア(超早期) 06デラウェア(無加温) 04ブルーベリー(露地) 05ブルーベリー(露地) 06イチジク(ハウス蓬莱柿) 06イチジク(露地蓬莱柿) 06養液葉ネギ 05養液イチゴ 05養液トマト(半促成) 05養液トマト(抑制) 02ゴボウ(秋播6月どり) 97ブロッコリー(10月どり) 98タマネギ(6月どり) 98キャベツ(初夏どり) 農外部門 統計資料 1,639 2,101 1,185 1,365 908 1,834 1,695 1,407 1,326 1,536 2,017 1,438 1,369 882 961 1,919 1,149 1,503 957 1,151 土木工 正 造林 規 恒常的賃金 1,465 1,542 1,279 建設業 臨 製造業 サービス業 時 シルバー賃金 1,155 862 836 678 ◆農業部門(県内調査事例) をみれば、多くの作目で 農外部門の正規賃金の 支払いが可能。 ただし、調査事例は比較 的優良事例。 ◆生産部門への参入では収 支トントンが限界か? 資料:)平成17年産米及び小麦の生産費、平成16年産品目別経営統計、平成17年農作業料金・農業労賃に 関する調査結果、特産作物の経済性調査結果(島根県農業技術センター) 2)農業と他産業との関係 27 耕種農業 食料品 0 ◆生産部門と加工部門の繋 がりは薄い 12 57 9 7 71 45 0 0 ◆加工部門・商業部門と結 8 畜産 飲食店 0 41 29 商業 び付くことで経済効果を 得られる 69 (生産・加工・販売) 64 図 業種別生産誘発額の関係 注:1)図中の数値は各産業で生産額1,000万円の増加があった場合の 生産誘発額(単位:万円)を示している。矢印方向へ波及。 注:2)生産誘発額は、開放型モデルの値である。 4.参入企業調査結果 (1)方法 聞き取り調査 企業参入促進スタッフ(県庁) 農業技術センター (2)時期・サンプル 2006年12月 ~ 2007年8月 35社(全体の65%) (3)内容 経営概況、収支状況、販売・販路 雇用・技術者、今後の方向性 現状の課題 1)調査概要 5年以内 の参入が 05 04 03 02 01 00 99 98 年 97 次 96 95 94 93 92 91 90 ~89年 51.7% 参入時期に 2つの山 n=35 0 2 4 参入企業数 6 図 調査企業の参入時期 8 2)主要導入作目・売上・経営面積 花き 3 9% 特用林産 4 11% 果樹 10 29% 水稲 4 11% 畜産 6 17% 野菜 8 23% 図 主要導入作目 注:1)作業受託企業は水稲に含めた。 :2)特用林産には、菌床シイタケ、わさび等が含まれる。 表 直近の売上高(n=30) 項目 中 央 値 平 均 値 変 動 係 数 合計売上高 統計値 1,650万円 8,717万円 252.1% 26.2億円 表 経営面積の状況(n=31) 自作地 借 地 合 計 経営面積 146ha(49.5%) 149ha(50.5%) 295ha 中央値 255a 350a 175a←1企業 3)経営評価(計画との比較) 目標以上 3% 生産量が尐ない 単価が安い n=28 大幅に目標 を下回る 32% 品質が悪い 流通コストが高い 目標をやや 下回る 46% 各種規制が厳しい *複数回答 n=24 販売競争が激しい その理由は・・・ 図 計画目標と比較した経営評価 計画どおり:22% 生産コストが高い 概ね目標ど おり 19% 下回る:78% 商品が売れない 0 5 回答企業数 10 図6 計画目標を達成できない理由 注:1)その他、農地の整備費用が掛かる、技術指導が不十分、人員不足、 加工能力(技術)の不足、作業受託の減尐、などの理由があった。 15 ◆経営実績と経過年数・導入作目の関係 良 経 営 評 価 悪 良 好 ・ 収 支 均 衡 野菜:1 良 化 中 野菜:1 計 画 を 下 回 る 果樹:2 果樹:2 野菜:3 野菜:3 畜産:1 水稲:1 果樹:1 野菜:1 水稲:1 花き:2 畜産:4 Aグループ:評価良・6年以上 Bグループ:評価良・5年以下 Cグループ:評価悪・6年以上 Dグループ:評価悪・5年以下 ◆経営評価と経過年数の関係 A:C = 63% : 37% B:D = 33% : 67% 果樹:1 水稲:2 畜産:1 特用作:4 ◆経営評価が悪い要因 Cグループ: 土壌条件・技術力・コスト高 気象災害、当初品目撤退 Dグループ: 5年以下 経過年数 6年以上 上記以外で、資金調達・ 単価安、試行錯誤中 4)販路について その他 6% 自社の加工 部門の原料 として 5% 食品加工業 者への出荷 12% 消費者への 直接販売 10% 市場直接出 荷 23% 内 訳 ◆農 協 20% ◆直接出荷販売 57% (市場・スーパー・消費者etc) ◆加工用出荷 17% (自社・他社) 農協出荷 20% 自社店舗販 売 7% 通販 4% スーパー等 への直接販 売 13% 図 主な販路と出荷比率 n=32 販路の開拓時期は? 参入前から 参入後に 自社原料として 38% 56% 6% 5)雇用の状況・担当者の確保 表 雇用状況について(n=34) 正社員 パート その他 1社当たり 中央値 2人 平均値 変動係数 合計 4.1人 134.7% 140人 3人 6.8人 249.1% 231人 6人 10.9人 192.5% - 注:1)その他には、バイト等が含まれる。 :2)パート、その他の雇用については、農繁期のみの季節 雇用も含んでいる。 ◆参入企業の雇用状況 (イメージ) 正社員 2人 パート 3人 ◆雇用者数の動向 増加・一定 84% 減尐 16% ◆担当者(技術者)の確保 確保 73% 育成中 15% 不在 12% 6)今後の展開について ◆参入経過年数別比較 ◆農業部門の拡大意向は強い! 6年以上 縮小, 7% 本 業 拡大 15% 維持 74% n=27 その他, 4% 農 業 部 門 拡大 72% 維持 18% 縮小 10% n=29 図11 本業及び農業部門の今後の展開意向 0% 100% 図 今後の展開意向 5年以下 【本業】(n=12) 拡大 27% 7% 維持 64% 87% 縮小 9% 7% 【農業】(n=17) 拡大 58% 82% 維持 17% 18% 縮小 25% 0% 7)参入企業の要望と今後の取り組み課題 異業種連携に関する参入企業の要望 企業間・地域農家との連携 遊休・空きハウス、農地情報 各 企 業 を の 紹 取 介 り す 組 る み 場 が( 技 ほ 術 し ・ い 販 売 ) 技術・経営ノウハウ、業務の提携 加工ノウハウの提供、技術提携 農業法人協会の経営・ マーケティング手法の活用 企業間・地域施策との連携 同様な取り組みを行う企業間の 連携(直売・観光農園) 及び施設整備 今後の取り組み課題 ◆貸借に関するニーズ把握 ◆情報管理システムの整備 ◆企業、農家、研究機関とのマッチング 支援 ◆企業間連携の事例調査及び課題の抽出 ◆連携可能な技術、経営ノウハウの整理 提案 ◆企業、地域施策、農家とのマッチング 支援 ◆事例調査と課題の抽出 ◆経済的効果の測定と評価 食品製造業との連携 食品残さ(麺・牛乳・米ぬか) の飼料としての活用 食品残さ(野菜くず・オカラ) の土壌改良への活用 ◆実需者(畜産参入企業)及び食品製造業 のニーズ把握 ◆企業間のマッチング支援 ◆事例調査と課題の抽出 ◆連携効果の把握と評価 図 異業種連携に関する参入企業の要望事項と今後の取り組み課題 5.市町村担当者の評価 1)評価点一覧 表 参入実績別にみた農業への企業参入に関する市町村担当者の評価と意識の差異 農業への企業参入実績 実績あり(A) n=15 実績なし(B) n=6 平均評価 標準偏差 順位 期 待 す る 効 果 の 評 価 不 安 ・ 懸 念 事 項 の 評 価 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 水田の耕作放棄地防止 畑地・樹園地の耕作放棄地防止 加工・直売等の多様な経営展開 高収益アグリビジネスへの発展 水稲栽培の担い手 施設園芸の担い手 畜産・和牛・飼料作物の担い手 特用林産物の担い手 企業従業員等の雇用の受け皿 UIターン者等の就業先の確保 栽培技術や品種選定に不安 指導・支援体制が整っていない 販路の確保に不安 まとまった農地の確保が困難 優良農地の確保が困難 黒字転換まで数年かかる 目標が高すぎる 自然災害・価格暴落のリスク 農地の不正利用への不安 行政のチェック機能 水路・農道等への出役問題 地域への環境配慮 既存農家やJA事業との乖離 3.13 3.40 3.80 3.87 3.07 3.80 2.60 3.60 3.67 3.60 3.47 3.47 2.80 3.93 4.00 3.93 3.33 3.33 2.87 2.73 3.07 2.87 2.73 0.99 1.12 0.86 0.83 1.10 0.68 1.12 0.74 0.82 0.83 0.99 0.83 1.08 0.88 0.85 1.03 1.11 1.05 1.25 1.22 1.22 1.25 1.28 6 5 2 1 7 2 8 4 3 4 3 3 7 2 1 2 4 4 6 8 5 6 8 平均評価 標準偏差 順位 3.00 3.17 2.50 2.67 2.50 2.83 3.33 2.83 2.83 3.00 2.67 2.67 2.83 2.83 2.67 2.83 3.00 3.00 2.50 2.67 2.83 2.33 3.00 1.67 1.47 0.84 1.03 1.05 1.17 1.37 1.17 1.17 1.55 1.03 1.37 1.17 1.33 1.21 0.75 0.63 0.63 1.38 1.21 1.17 0.82 1.55 3 2 6 5 6 4 1 4 4 3 3 3 2 2 3 2 1 1 4 3 2 5 1 評価差 t検定 0.13 0.23 1.30 ** 1.20 * 0.57 0.97 * (0.73) 0.77 0.83 0.60 0.80 0.80 (0.03) 1.10 * 1.33 ** 1.10 * 0.33 0.33 0.37 0.07 0.23 0.53 (0.27) 2)結果の要約 ①違いの見られた項目 「実績あり」の市町村担当者評価が高い ・「加工・直売などの多様な経営展開」 期 ・「高収益アグリビジネスへの発展」 待 ・「施設園芸の担い手」 ・「まとまった農地の確保」 不 ・「優良農地の確保が困難」 安 ・「黒字転換まで数年かかる」 ② 「実績なし」の市町村担当者の傾向 ・地域農業の負の部分解消へ期待 ・地域農業との関係に強い不安感 高 第2段階 第1段階 参 入 企 業 へ の 期 待 農業への企業参入 の成立 参入企業の抱える 地域農業・経済へ 不安、課題 農業への企業参 の経済効果の波及 入そのものへの 地域農業での主体 不安 的役割に期待 農業への企業参入の推進 方向 低 低(初期段階) 支援の程度 高(成熟段階) 図 参入支援の発展過程イメージ 6.企業参入の地域経済効果 1)事例概要 ◆事例分析(水耕野菜+地域施策との関連が強い) 戸,1000m2 万円 25,000 35 栽培面積 20,000 品 目 別 15,000 売 上 高 10,000 30 栽培戸数 栽 25 培 その他 その他 戸 数 水菜 20 及 水菜 水菜 び ホウレンソウ 栽 15 その他 ホウレンソウ ホウレンソウ 培 面 水菜 ホウレンソウ 10 積 その他 水菜 その他 5,000 ホウレンソウ 葉ネギ 葉ネギ 葉ネギ 葉ネギ 5 葉ネギ 0 0 H14 H15 H16 H17 H18 ・企業参入 ・集荷施設整備 図 調査対象地域における水耕野菜栽培の推移 資料:)JA内部資料 ◆参入前・後の比較 ・売 上 3.6倍 ・栽培戸数 1.8倍 ・栽培面積 2倍 ・地域雇用 41人 (集出荷施設含む) 企業参入と地域農業施策との 連携により相乗効果を発揮! 2)経済波及効果 ◆産業連関分析 純波及効果(参入後-参入前):1億8千万 参入+施策により地域経済波及効果を高める方向に作用! 表 企業参入による地域経済波及効果 地域経済波及効果 ① ② うち 直接+1 生産増加額 次 (直接効果) 10,950 9,755 ③ ④ 2次 雇用者 所得 2,620 ⑤ 合 計 (万円) ①+③ 備 考 1.39 H18実績 8,995 25,336 1.32 H18実績 Bの純波及効果 (18,753万円)←B-C 661 1,563 6,583 1.25 H14実績 520 1,231 5,183 1.25 +α 効果(図2) A 企業参入のみ B 企業参入+ 集荷施設整備 21,535 19,185 3,801 C ~14年以前 (参入+施設整備前) 5,922 5,276 D 集荷施設効果 =B-A-C 4,663 4,154 6,201 13,570 波及効 果倍率 ⑤/② 7.今後の課題・方向性 Point① 参 入 目 的 の 整 理 非営利目的 従業員の雇用の場 ~調査結果を中心に~ 行政支援 ・技術支援 ・農地情報 企業・農家・地域 施策との マッチング支援 Point② 現状の農業システムのなかでは・・・ 営利目的 新規事業として 【共通的課題】 ・技術力(特に施設園芸型) ・経営が軌道に乗るまでの期間を考慮 ・経営規模(特に土地利用型) ・優良農地の確保 ・販売・販路 ? ・異業種との連携 ・自社機能の拡充 ・自社の機能拡大 (生産・加工・販売) ・異業種との連携・提携 (企業の要望事項)