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ぼうれい 1948年8月9日の長崎。助産師の福原伸子(吉永小百合)の前に、3年前に かずなり なぐさ はる 原爆で死んだはずの息子・浩二(二宮和也)が亡霊として現れる。浩二は生前と同 しよう が い 昨年 月 日に公開された映画『母と 暮せば』。『男はつらいよ』や『学校』な のぞ どで知られる山田洋次監督が「生涯で一 番大事な作品をつくろうという思い」で 製作に臨みました。長崎に投下された原 爆で亡くなった息子が、亡霊としてひょ っこり戻ってきたことから始まる家族の 物語。青年の感想から映画の魅力を探り ます。 (文中は一部仮名) を見に来たという坂本美紀 人は若いのに町子のように いる。原爆の被害に遭った あ 映像がすごく怖かった」と さん( 歳)です。浩二の 話に花を咲かせる様子が描 言 う の は 高 橋 真 奈 美 さ ん か れ て い ま す。「 亡 霊 な の (大学3年) 。「学校では原 にすごく明るくて、お母さ 恋人・町子は「生きている 思 っ て し ま う 」 と 坂 本 さ いの母・伸子にも思いを寄 爆のことは習うけど文字だ んも笑顔で優しい家庭なん のが申し訳ない」と負い目 ん。息子を失い、悲痛の思 け。映画だけど被爆した人 だ な と 思 っ た 」( 高 校 1 を抱え、自身の幸せを望ん ように、浩二は明るくユー す。坂本さんは町子の思い 内浩三がモデルの一人とな 年の感情を歌った詩人の竹 残して死んだらああいう気 の話を見聞きすることは初 年、女性)という声もある で は い け な い と 苦 悩 し ま せ、 「戦争でなくても母を めてで、伝わってくるもの モラスな青年として登場し ます。戦時下でも映画や漫 覚 え た 」 と 言 い ま す。「 自 戦争は防ぐことできる とが大切な時期だと思って 話します。 とは母のためでもある」と た。自分が幸せに暮らすこ に「言葉にならない感情を 持 ち に な る の か な と 考 え があった」と話します。 舞台あいさつも行われた 主演の二宮和也さんのファ 初日、訪れた観客の中には 画を愛し、みずみずしい青 分はまだ若いし、自分のこ ンという人もいました。西 りました。前出の西川さん い。その人が生きていた時 や戦争について考えた人も くなったのかは分からな 強調しています。作中でも 川沙穂さん(高校3年)は 「自分から進んで戦争の映 は「( 原 爆 で ) た く さ ん の 良 か っ た 」 と 話 し ま す。 うのは分かるけど、誰が亡 「原爆が落ちた時の音にび 人が亡くなったんだなとい す ぐ の こ と で し た。「 あ をきっかけに見れた。見て っ」という学生の声ととも 画を見ないので、二宮くん 『母と暮せば』公開初日 原爆投下で死んだことを 映画を通して現在の社会 ぐことができるとくり返し の東京・丸の内ピカデリー に何をしていたのか。それ います。太田亜衣さん(高 せんこう に突然青白い閃光が走り、 っくりした。リアルな感じ いまし 諭すシーンがあります。前 さと 年の昨年に安倍政権が し、伸子が強い口調で戒め 強行した戦争法についての できるし、人を殺めること を挙げ「戦争は防ぐことが で、思い出させたり、語り を追ったドキュメンタリー 不安な気持ちが高まったと 出の坂本さんはそのシーン 浩二役の二宮さんは製作 後 には、若い女性を中心に多 ごうおん ます。 「運命」と言う浩二に対 びん さん。「(原爆を)知ってい 浩二の机に置かれていたイ で怖いなと思った」と西川 を知れて良かった」と話し 校1年)は映画を見て、戦 ンク瓶が熱線で溶かされ、 すさ い世代として、戦争や被爆 で、どんどん人が死んでし 画が大切だと思う」 継がれるためにこういう映 番組の中で、戦争を知らな い い ま す。「 戦 争 は 危 険 ぱつ 言います。テロや紛争が頻 ひん はどんな理由があっても理 の体験を想像し、戦時中に いと思えた」と言う佐藤佳 な人だったらと思うとすご 体験を引き継いでいけると 爆によって一瞬で亡くなっ いう希望を語りました。原 などの自然災害と違い、人 のない平和な世界になって ほしい」と話します。 人が亡霊になったら、悔し さ ん。「 原 爆 で 亡 く な っ た が印象に残ったという佐藤 況を知らないと語るシーン いう思いを強くしました。 あらためて感じ、戦争を二度と起こしてはいけないと って人間として幸せに生きることを奪われるむごさを になることを拒絶する町子の苦悩に、戦争や原爆によ 生きた人たちを身近に感じることができました。幸福 慰められていく母・伸子の姿が温かく描かれ、当時を 亡霊の浩二の明るくユーモラスな性格と、その姿に さやさよならも言えなかっ 山田監督は「家族や友だちと映画の感想を話し合う を重ねて考えたという人 と誘い合わせて見てほしい映画です。(松浦裕輝記者) らうことができるのでは」と語っています。身近な人 ことで、日本の歴史や未来に少しでも興味を持っても も。友だちに誘われて映画 た家族や恋人の思いに自身 原爆によって引き裂かれ たと感じたかもしれない」 た浩二が、自身や周りの状 温かく家族を描いた 人々の思いを想像し、戦争 間の起こしたことであり防 通して、原爆で亡くなった と話します。亡霊の浩二を などで、戦争は津波や地震 に駄目。恐怖を感じること なんだから殺し合いは絶対 ん。「 自 分 が 殺 さ れ た ら 嫌 感じているという坂本さ 「想像できるかもしれな なり、そこに行くのが身近 発する現在の社会に不安を ころに行かないといけなく まう。日本が集団的自衛権 爆の被害を直接描いたシー 生きた青年を演じる難しさ を行使して戦争していると 解できるものではない」と 二が通っていた長崎医科大 (こまつ座社長)から話を聞いたことがきっか 山田監督はインタビュー 山田監督初のファンタジ て 母・ 伸 子 の 元 を 訪 れ ま 子さん( )は浩二の姿に く怖い」 「想像できると思えた」 ンはほとんど出てきませ 「原爆が落とされた時の を重く受け止める声が多く く―。 想を聞くと、原爆の悲惨さ る音など凄まじい轟音が響 ひ さん 映画を見終えた青年に感 爆風によりガラスが飛散す る 人 も 亡 く な っ て い く 中 まれました。 くの観客が訪れ、熱気に包 原爆投下のその時 22 を語っています。 出されました。映画では原 70 ん。唯一描かれたのは、浩 学での講義中に原爆が落と 11 31 時 ーとなる今作では、原爆で す。物語は母と亡霊の息子 「リアリティーを感じた」 が思い出話やたわいのない ▲アイドルグループ・嵐のファンで 「二宮くんを見に来た」という女性 2人組(2015年12月12日、東京) 亡くなった浩二が亡霊とし けで『母と暮せば』の製作が決まりました。 1945年8月9日 いた作品の映画化を井上さんの長女麻矢さん 12 される瞬間のシーンです。 生き残った娘の物語でした。題だけが決まって 戦争を生きた家族の姿 思い浮かべて せば』は、広島の原爆投下で亡くなった父親と じように明るく面白い会話で伸子を慰めるが、1番の関心は恋人・町子(黒木華) © 12 2分、教授が講義を始めて 劇作家の故・井上ひさしさんの作品『父と暮 のことだった。結婚の約束をしていた浩二を原爆で突然失った彼女は自分だけが幸 2015「母と暮せば」製作委員会、全国公開中) 福になることを強く拒絶していた。伸子も浩二も彼女の幸せを願うのだった―。 伸子の元に亡霊として現れる浩二( 井上ひさしさんの思いを映画化 物語 (12) 2016年1月11日(月曜日) 民 主 青 年 新 聞 (第三種郵便物認可)