...

製造企業主導型マーケティング史の国際比較 - SUCRA

by user

on
Category: Documents
25

views

Report

Comments

Transcript

製造企業主導型マーケティング史の国際比較 - SUCRA
製造企業主導型マーケティング史の国際比較
―― 日米英を中心に ――
Comparative Study on the History of Manufacturer-led Marketing:
USA, UK and Japan
プロジェクト代表者:薄井和夫(経済学部・教授)
Kazuo Usui (Faculty of Economics, Professor)
1.本研究の特徴
本プロジェクト研究は、プロジェクト代表者と英国エディンバラ大学経営学科教授ジョン・ド
ーソン(John A. Dawson)教授との国際共同研究であり、プロジェクト代表者の英国への出張によ
る共同作業や電子メールによる研究打合せを含め、両者の綿密な共同研究体制により遂行された。
本研究では、プロジェクト代表者がこれまで行なってきたアメリカにおける製造企業主導型マ
ーケティング史に関する研究をベースとし、これに英国およびわが国の史資料を加えることによ
り、マーケティング史の比較検討を行なった。特に、わが国およびイギリスにおける製菓産業、
家電産業を比較検討の中心的なテーマとして取り上げ、これらの産業における製造企業主導型マ
ーケティングの実態とその史的展開を、小売流通との関係を含めながら検討し、これを通じて製
造企業主導型マーケティングの歴史的意義とその限界とを確定することに努めた。
本研究の成果は、プロジェクト代表者の邦文論文だけでなく、日米英の初期マーケティング研
究に関するわが国学会報告(日本商業学会第 54 回大会)、わが国菓子マーケティング史に関する
アメリカでの学会報告(第 12 回 CHARM、於ロング・ビーチ、2005 年4月末∼5月初め)、アメ
リカ・マーケティング史に関する英文著作刊行(2006 年予定)として結実した。また、今回の共
同研究の成果を基礎に、プロジェクト代表者とドーソン教授との共同で、「1950∼1973 年におけ
るマーケティング発展の日英比較研究」という新たな共同研究プロジェクトがスタートしている。
2.研究成果
(1) 薄井和夫「戦前期森永マーケティングの再検討 ― 流通系列化政策を中心に ― 」『関西
大学商学論集』第 49 巻第 3・4 号、2004 年 10 月、189∼211 ページ。
(2) 薄井和夫「イギリスにおける家電マーケティングと競争政策 ― 競争委員会報告書を中心
に ― 」埼玉大学『社会科学論集』第 113 号、2004 年 10 月、1∼23 ページ。
(3) Kazuo Usui, “An Early Version of the “Keiretsu” Retail Store: Marketing of Western-style Sweets
by Morinaga before the Second World War in Japan”, in E. H. Shaw and L. C. Neilson eds., The
Future of Marketing’s Past: Proceedings of the 12th Conference on Historical Analysis and
Research in Marketing (CHARM), May 2005, pp. 301-311.
(4) Kazuo Usui, The Development of Ideas in Marketing Management: The Case of USA 1910-40,
London: Ashgate, 2006.(刊行予定)
(5) 学会報告:薄井和夫「アメリカにおける初期マーケティング論の基本性格 ─ 商業学、配
給論、流通論、マーケティング論 ─ 」 2004 年5月 日本商業学会第 54 会全国大会
(於)慶應大学
3.研究内容の概要
(a)製造企業主導型マーケティングは、アメリカにおいて 19 世紀末以降の流通構造変化をもた
らしてきた主役であり、アメリカ・マーケティング論生成の基盤として機能してきた活動で
ある。アメリカにおいては、19 世紀末以降、新興消費財産業を中心に製造企業の市場活動が
一般化し、新製品開発、製造業者による垂直的な価格統制、製造業者の卸売事務所の設立と
卸売商排除・小売商の統制、ナショナル・ブランドの全国広告と自立的行商人のセールスマ
ン化などが進行した。こうした活動を基盤として、R・S・バトラーや A・W・ショウのマー
ケティング管理論が形成され、科学的管理法の諸原理をマーケティングへ適用しようとする
努力によって、理論の「科学化」が図られた。その一方で、とりわけ両大戦間期には、チェ
ーンストアやスーパーマーケットなどによる小売業態の自律的展開がみられ、製造企業を基
盤としたマーケティング管理論は、次第に小売マーケティングの要素をも自らのうちに取り
込み、いかなる組織にも適用しうる一般的・形式的体系として自己を確立し、マーケティン
グ論=マーケティング管理論という「常識」とともに、第2次大戦以後、世界に「輸出」さ
れるにいたった〔以上、研究成果(4)英文著作の概要〕。
(b)一方、わが国の場合、第2次大戦前においては、製造企業主導型マーケティングが必ずし
も一般的であったとはいえないが、森永製菓や資生堂など、いくつかのすぐれた早発的事例
がみられた。森永製菓の場合、洋菓子の大量生産体制の確立を基礎に、伝統的な菓子卸売商
を系列化・販売会社化しただけでなく、
「森永ベルトラインストア」として有力菓子小売商約
4千店をも組織し、メーカー主導による垂直的なマーケティング・キャンペーンを実施した。
この製造企業主導型マーケティング、とりわけ小売店系列化政策は、当時なお前近代的な状
態にあったわが国小売流通の急速な近代化を促進した点で、歴史的意義を有するものであっ
たが、戦後(戦後の名称は「森永エンゼルストア」)、スーパーなど自律的な小売業態の成長
とともにその歴史的役割を終え、1970 年代初頭に解散するにいたった。この事例は、戦後、
メーカー主導で急速に組織化され、高度成長期の家電流通を担った系列家電小売店が、今日、
自律的家電量販店の成長によってその基盤を堀崩され、ほぼ歴史的使命を終えたとみられる
という事例の先駆けであり、製造企業主導型マーケティングが、流通近代化の促進という歴
史的役割をも担わざるをえなかったという、わが国マーケティングの特徴を示すものである
〔以上、研究成果(1)邦文論文および(3)英文論文・アメリカでの学会報告の概要〕。
(c)イギリスにおけるマーケティング研究は、バーミンガム大学に新設された商学部の初代学
部長を務めたアシュレー ── 通常はイギリス経済史家として知られる ── による「企業
経済学」ないし「商学」の構想として押し出されたが、米国のように大学の教育研究がビジ
ネスにコミットするということについては、アカデミー界・ビジネス界双方に躊躇がみられ、
戦前、マーケティング研究が大きく進展するということはなかった。アメリカ流のマーケテ
ィング研究(=マーケティング管理研究)が本格的に展開されるのは、戦後のことに属する〔以
上、研究成果(5)学会報告の内容の一部〕。
製造企業主導型マーケティングについては、イギリスのマーケティング研究者自身、必ず
しも大きな関心を寄せてはこなかったが、食品雑貨製造業のユニリーヴァやチョコレートの
キャドベリーなど、製造企業主導型マーケティングは、イギリスにおいても 20 世紀前半期か
らその展開がみられた。本プロジェクトでは、特に家電産業およびアイスクリーム産業に着
目して比較研究を行なった。家電の場合、冷蔵庫・洗濯機・電気掃除機といったいわゆる白
物家電は、各製品について中規模の専門メーカーが生産部門を担っており、総合家電メーカ
ーが流通過程に投資するという日本とは、事情が異なっていた(なお、菓子産業においても、
総合菓子メーカーが流通に投資した日本と、専門菓子メーカーが製品別に樹立されたイギリ
スという対比が可能である)。これに対して、家電小売流通は、ディクソンズを中心とする独
立系チェーンストアが有力な地位を占め、PB商品の開発や小売価格の実質的決定権を掌握
しており、この点は、わが国家電マーケティングの歴史的なあり方と著しい対照をなしてき
たが、近年のわが国家電流通にはイギリスと類似の傾向が生じてきているといえる。
一方、TV、家庭用ビデオなどのいわゆるブラウン家電マーケティングの展開は、わが国
メーカーやオランダのフィリップスなどによる国際マーケティングの一環として行なわれ、
「メーカー希望価格」の実質的強制など、
「日本的」ともいえるマーケティング戦略が持ち込
まれる傾向もあったが、イギリス競争委員会(旧独占・合併委員会)の姿勢は強力で、主要
メーカーが「希望小売価格」を提示することを禁止して現在にいたっている。アイスクリー
ム・マーケティングの場合も、イギリス=オランダの巨大メーカー、ユニリーヴァが、専用
冷凍庫を実質的に贈与することによって零細小売店を系列化しようとしたが、競争委員会は、
こうした行為は反競争的であるとして、伝統的に強い規制の姿勢を保持してきた。これらの
事例は、独占禁止政策(競争政策)の執行の違いによって、一般に「日本的」といわれる系
列化中心のマーケティングのあり方が異なって来る可能性が強いことを示唆している〔以上、
研究成果(2)邦文論文の概要他〕。
(d)以上、本研究プロジェクトによって明らかにされてきた内容の概略を示した。上記の成果
を基礎に、プロジェクト代表者と海外研究協力者は、今後も相互信頼関係にもとづく研究協
力体制を維持し、1950∼73 年の時期に焦点を絞ってイギリスとわが国におけるマーケティン
グ現代史の国際比較研究を遂行することとしており、すでにその端緒的共同作業を行ない始
めている。この研究は、別途、研究費補助金を獲得することによって遂行される予定である
が、今回の「21 世紀総合研究機構研究プロジェクト」の援助によって、今後の研究の基盤
が形成されたことは疑いない。ここに感謝の意を表する次第である。
〔以上〕
Fly UP