...

PDF:5097KB - 大学教育センター

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

PDF:5097KB - 大学教育センター
巻
頭
言
『大学における授業改善ヒント集(改訂版)』が完成いたしました。前回の『授業改善ヒ
ント集』が山口大学 FD ハンドブック第 3 部として発行されたのは、2005 年のことでした。
以来 7 年の間に全学的 FD として実施された取組として、主要なものだけでも、グラデュ
エーションポリシーの策定、カリキュラムマップの作成と改善、成績分布共有システムの
稼働、カリキュラムフローチャートの作成、などを挙げることができます。いずれも学士
課程教育の現状を可視化するという目標に向かってのものですが、その作業を通じていく
つかの課題が浮上してきました。その一つは共通教育と学部教育の接続の問題であり、そ
れは同時に 1 年次と 2 年次の教育の接続の問題でもあります。現在、この課題を解決する
ための共通教育改革原案が検討されており、学部研究科再編等会議においてその方向性が
合意され、24 年度には具体的な改革プランが練り上げられる段階になっています。全学部
と大学教育センターが共通教育カリキュラム策定の責任を分担して、実施体制をより強固
なものにすると同時に、内容を文字通り全学共通化することによって上記の接続性の問題
を解決し、継続的な FD 活動を可能にすることによって教育の質を維持向上させながら、
今後に向けて予測される予算減にも対応できるものを目指しております。
このように、カリキュラムの大枠が変わり、PDCA サイクルの大きな歯車が動き出そう
という時期に合わせて、新しい『授業改善ヒント集』を制作しお届けできるのを大変喜ば
しく感じております。前回に比べて 2 倍のボリュウムがあり、カリキュラムの森全体から
選ばれた個々の樹木を十分に観察することができます。ページをぱらぱらとめくってみる
だけでも、学内で実施されている授業はこれほどの違いがあるのか、と印象づけられます。
学部を超えたピア・レビューとして、ヒント集を参照することがすなわち日常的な FD 活
動と考えることができます。どのような授業を設計しどのように実施すべきか、そのヒン
トは必ず得られることでしょう。
本書は、山口大学の教員全員に冊子として配布されることになりました。近い将来赴任
される新任の教員にも、FD 研修会等を通じてお渡しすることができると思います。近年、
大学教育機構は印刷物を極限まで減らし、印刷経費を節減するという課題にも取り組んで
おります。毎年の『FD 報告書』はオンラインでの閲覧だけです。機構の紀要論文集に相
当する『大学教育』もすでに冊子は存在しません。しかし、FD ハンドブックだけは例外
です。いつも机上において、手に取っていただきたいからです。長年に渡って継続的な使
用にも耐える内容を持つからです。
「絶対に冊子の形で読んでいただきたい」との強い要望
が執筆者から寄せられたことも、本書をあえて印刷物とする決断につながりました。ご協
力いただきました御礼かたがた、本書をお手元にお届けいたします。
大学教育機構大学教育センター長
岩部
浩三
目
次
第 1 章 授業の基本編-新任教員向け-
1.授業設計の方法 ................................................................................................... 1
2.教授法の基礎 ....................................................................................................... 4
3.授業実施上の留意点 ............................................................................................ 6
4.こんなときどうする? -Q&A 集- .................................................................. 7
5.FD 用語集 ......................................................................................................... 12
第 2 章 実践編
1.授業設計・教科書・教材の工夫
・基礎セミナーの実践例 ....................................................................................... 19
・疑似ディスタンス・ラーニングを組み合わせた DVD 視覚教材の開発 .............. 21
・新入生の大学への適応を促進する「基礎セミナー」 ......................................... 25
・授業に興味を持たせる工夫 ................................................................................ 29
・授業の際の心がけ .............................................................................................. 30
2.授業の展開方法
・複数教員が担当する授業の効果的な進め方 ....................................................... 31
・外国語の授業への動機を維持するためのレパートリー ...................................... 35
・受講意識向上のための講義支援システムの利用事例 ......................................... 38
・外部人材を活用した授業づくりの工夫 .............................................................. 41
・模擬授業で学習指導力を身につける方法 ........................................................... 43
・習熟度に差のある科目に対する授業の進め方 .................................................... 45
・化学の見える化 ................................................................................................. 47
・問題演習の効果的な実施による基礎学力の定着に向けた工夫 ........................... 49
・様々な生物の事象を有機化合物レベルでとらえ
考察できる能力を身につけるための工夫 ........................................................... 51
・学生に自己習熟度を思い起こさせる .................................................................. 53
3.ICT を活用した授業の工夫
・PowerPoint をノート代わりに利用する工夫 ..................................................... 54
・芸術系の授業で写真を使って細密描写の描写力を効果的に養う方法 ................. 55
・Power Point を教科書の代わりに利用する工夫................................................. 57
・パワーポイント資料(穴埋め式)の効果的な利用方法 ...................................... 59
・動画(ドラマ)を利用した授業の工夫 .............................................................. 63
・ICT を利用した授業外学習の工夫 ..................................................................... 65
4.学生を授業に巻き込む方法
・授業における学生のモチベーションを上げる工夫 ............................................. 68
・授業にグループ学習を取り入れる工夫 .............................................................. 71
・学生を“授業の世界”に参加・共感させる方法 ................................................ 75
・多人数を考えさせ対話に巻き込むための工夫 .................................................... 77
・多人数授業で学生が意見を交換し共有する工夫 ................................................ 81
・道徳授業にロールプレイングを取り入れる試み ................................................ 83
・授業にディスカッションを取り入れる工夫 ....................................................... 84
・PBL 型テュートリアルの現状と課題 ................................................................. 87
・工学部専門科目としての数学系科目の授業のあり方 ......................................... 89
・学生を講義に参加させるために ......................................................................... 91
・実習授業において学生の理解度を高めるための工夫 ......................................... 93
・マイクロ・ティーチングの手法を取り入れた学生参加型の授業展開 ................. 95
・1年生でもプレゼンさせて、社会への興味・関心を引き出す! ........................ 97
・大学院生のプレゼンテーション能力に関する工夫 ........................................... 100
・工学部における心理学教育 .............................................................................. 101
5.学生の授業理解度の確認方法
・授業内演習で授業の進め方を微調整 ................................................................ 102
・学生の理解状況を確認しながら進める試み ..................................................... 105
6.授業外学習を促進する方法
・授業外学習時間の確保 ..................................................................................... 107
・時間をかけて課題に取り組ませる工夫 ............................................................ 109
・内容を採点対象としないレポートを活用した復習を促進する取組み ............... 111
7.教室管理の方法
・授業中の私語等の抑止 ..................................................................................... 113
・大規模授業での私語対策 ................................................................................. 115
8.成績評価の方法
・語学教育授業における小テストの効果及び活用 .............................................. 117
・成績分布共有システムの活用方法 ................................................................... 119
9.障害のある学生への授業中の配慮方法
・聴覚障害のある学生ための配慮方法 ................................................................ 121
・発達障害のある学生ための配慮方法 ................................................................ 125
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
・授業にディスカッションを取り入れる工夫(1)プレゼンテーション ........... 128
・授業にディスカッションを取り入れる工夫(2)グループワーク .................. 130
・ICT を活用した授業の工夫(1)ポータルサイト ........................................... 132
・ICT を活用した授業の工夫(2)タブレット(電子教材ビューア)の活用 .... 133
・ICT を活用した授業の工夫(3)クラウドの活用 ........................................... 135
11.その他一般
・地域医療と山口県の魅力を伝えるための地域医療実習の試み ......................... 139
・「パワポ授業」導入の可能性に関する一考察 ................................................... 141
・人文学部キャリアカウンセリング ................................................................... 143
・ポートフォリオ「ステップアップノート」を用いた学生指導の実践 ............... 147
第1章
授業の基本編-新任教員向け-
本章では、山口大学で初めて授業を担当される新任教員向けに授
業設計の方法、教授法の基礎、授業実施上の留意点等を説明します。
毎年、新任教員研修会では「授業を初めて担当しますが、どのよ
うに授業を組み立てたらよいのか分かりません」
「研究者になるため
の訓練は積んできましたが、教え方については一度も習ったことが
ないので不安を感じます」という声がよく聞かれます。
そこで、このような疑問・不安を解消するために本章では授業の
基本的事項に加えて、「困ったときの Q&A 集」「FD 用語集」も用意
しました。ご参考になれば幸いです。
第1章
授業の基本編-新任教員向け-
1.授業設計の方法
(1)授業設計とは何か
「採用後は○○と○○の授業を担当してください」。そのような連絡を受けて準備に取
りかかってはみたものの、どのような授業内容にするのか、教科書をどうするか、成績評
価をどうするかなど、検討しなければならない事項がたくさんありすぎて困ってしまった
経験はありませんか?
授業を担当するための第一歩は、事前に授業をしっかりと組み立てることです。これを
「授業設計」と呼びます。授業設計とは一般に「ある学期を通じて担当する科目の学習の
目標、学習の内容、学習の方法、評価の方法などの全体像を設計すること」(夏目他 2010:
26-27)と定義されます。つまり、その授業を通じて学生に身につけさせたい学習到達目標
を設定し、その目標に到達させるためにどのような学習内容を、どの
ような順序で、どのような方法で教えるのか、そしてどのように成績
評価を行うのかを事前にしっかりと考える、という作業を指します。
この出来具合が授業の成否を左右するといっても過言ではありません。
(2)授業設計の方法
1)いつ行うか?
授業設計はいつ行えばよいのでしょうか?それは初回の授業よりもかなり前の時期に
なります。山口大学ではシラバスの web 入力を通常 1 月にお願いしています。これは前期・
後期にかかわらず全ての授業が対象になります。4 月には全てのシラバスが web 上で公開
され、学生は修学支援システム上でシラバスを閲覧しながら受講計画を立て、履修登録を
行います。たとえ 10 月からの授業であっても 1 月にはシラバスを完成させておく必要が
あります。したがって授業設計はシラバス入力に間に合うように早い時期に取りかからな
ければなりません。
2)どのように授業を設計するか?
〔適切な学習目標の設定〕
授業設計にあたってまず行うことは適切な学習目標を設定することです。山口大学では
学習目標を「一般目標」と「授業の到達目標」の 2 つに分け、それぞれシラバスに記載し
ています。一般目標は「学習によって得られる総合的な成果」について記し、授業の到達
目標は「学習によって身に付く能力」を 5 つの「観点別」に具体的に記入します。なお、
学習目標の設定にあたっては以下の点を考慮するとよいでしょう(夏目他 2010: 31-32)。
①カリキュラムからの視点・・・カリキュラム全体としてどのような人材を養成しよ
うとしているか、担当する授業はその中でどのような位置づけにあるのか、
他の授業とはどのような関連があるのかを考慮します。
※参照:山口大学 web サイト「教育情報の公開」・・・各学部・研究科の「グ
ラ デ ュ エ ー シ ョ ン ポ リ シ ー (GP)」「 カ リ キ ュ ラ ム マ ッ プ (CUM)」
「カリキュラムフロー チャート(CFC)」を閲 覧することができま
す。山口大学トップページから「情報公開・公文書管理」→「教
育情報の公開」にアクセスしてください。
1
−1−
②学問分野からの視点・・・自分が教えようとする学問分野・テーマにおいて何が本
質的で重要なのかを検討します。学問分野の研究成果を教えることを重視
するのか、または学問分野特有の考え方や研究方法を教えることを重視す
るのか。
③受講者からの視点・・・学生はどの程度の予備知識・能力、関心を持っているか、
どの程度の学習習慣が身についているか、卒業後はどのような進路を選択
しようとしているのか等を考慮します。
④物理的制約条件からの視点・・・教室の大きさ、使用可能な情報機器、TA(ティー
チング・アシスタント)・SA(スチューデント・アシスタント)によるサポー
トの有無、予想受講者数、などの条件の中での実現可能な授業を考えます。
〔授業内容・方法の検討〕
次に、設定した一般目標・到達目標を実現する授業内容・方法を考えます。教える内容
を厳選し、それらの効果的な配列を検討します。また、学習方法(一斉学習、少人数学習、
個別学習など)や授業外学習についても考えます。
〔成績評価方法の検討〕
さらに、学習到達目標を適切に評価するための成績評価方法を検討します。ここで注意
しなければならないのは、到達度判定に適した成績評価方法を選択することです。たとえ
ば知識・理解の評価についてはテスト法が向いていますが、技能・表現の評価については
テスト法よりも観察法や作品法が向いています。山口大学のシラバスは観点別の到達目標
とそれに対応した成績評価方法を記入する構造になっています。また、各評価方法の割合
も記入します。なお、出席点は成績評価に利用することはできません。「欠格条件」(所定
の出席回数に満たない 場合単位を与えない等)としてのみ利用できま すのでご注意くださ
い。
なお、担当する授業に前任者がいる場合は、その教員から授業について話を聞いておく
とよいでしょう。可能であればシラバス、配布資料、試験問題、成績評価の方法などの情
報・資料も入手してください。また、前任者がおらず初めて授業を設計する場合には類似
の授業をインターネットで検索すると多くのシラバスを入手できます。英語で検索すれば
世界中のシラバスが入手可能です。
3)シラバスの具体的な書き方
次に、山口大学のシラバスの具体的な書き方について説明します。
<山口大学のシラバス項目と記入方法>
概要・・・授業の概要を記したもの。どのような授業を行うのかを「教員」を主語に
して記述してください。例:○○を講義する、○○を考察する。
一般目標・・・学習によって得られる総合的な成果を記したもの。この項目は「学生」
を主語にして記述してください。例:○○を総合的に検討することができ
る。
授業の到達目標・・・学習によって身に付く能力を 5 つの観点別に具体的に記したも
の。この項目も「学生」を主語にして具体的に記述してください。上記の
一般目標との違いは、学習後に学生が最低限到達すべき目標を観点に分け
2
−2−
て具体的に記述する点です。以下は観点の内容ですが、すべての観点を記
述する必要はありません。授業の特性に応じて利用する観点を選択してく
ださい。
「知識・理解の観点」特定の具体的な知識や能力を身につけることを要求する目標。
例:○○を理解している、○○を説明できる。
「思考・判断の観点」単なる知識習得に留まらず、論理的思考力や創造性などを身に
つけることを要求する高次の目標。例:○○を指摘できる、○○
を考察することができる。
「関心・意欲の観点」学習に関する関心・意欲を高めることを要求する目標。例:○
○に関心を持っている、○○を意欲的に討議できる。
「態度の観点」学習活動の結果、身につけてほしい態度や行動を要求する目標。例:
○○に参加できる、○○と協調できる。
「技能・表現の観点」学習活動の結果、身につけてほしい技能や表現力を要求する目
標。例:○○が使用できる、○○を表現できる。
授業計画【全体】【週単位】・・・一般目標・到達目標を実現する授業内容・方法を記
したもの。「全体」と「週単位」がありますが、両方を記入します。「全体」
には授業計画を文章で記入し、
「週単位」には週ごとに授業計画を記入して
ください。また「授業外指示」には授業外学習の内容を具体的に記入し、
学生の予復習を促してください。
「授業記録」の欄には授業で用いた資料や
レジュメ等へのリンクを貼ることができます。なお、シラバスの中では授
業計画のみ授業開始後でも修正ができます。授業の進行に合わせて適宜修
正し、学習に役立ててください。
成績評価法【全体】【観点別】・・・授業の到達目標の達成状況を評価する方法を記し
たもの。「全体」と「観点別」がありますが、両方を記入します。「全体」
には成績評価方法を文章で記入し、
「観点別」には授業の到達目標として採
用した観点それぞれについて成績評価方法を「◎(より重視する)」
「○(重
視する)」の 2 段階で記入します。また、「評価割合」は各評価方法によっ
て評価する割合(合計 100%)を記入します。なお、使用しない観点は「評価
に加えず」を選択してください。出席点は成績評価に利用できませんので
「欠格条件」としてください。
教科書・参考書・・・授業で用いる教科書・参考書名を記入してください。なお、テ
キストを使わずにプリント等を配布する場合は「教科書その他の情報」の
欄にそのように記入してください。
メッセージ・キーワード・関連科目・・・受講生へのメッセージ、検索しやすいキー
ワード、関連科目名を記入してください。
連絡先・オフィスアワー・・・メールアドレスや研究室の場所等の連絡先とオフィス
アワー(学生からの質問や相談に対応するため、教員が必ず研究室にいる時
間帯)を指定してください。学生はこの時間帯は事前のアポイントなしに研
究室を訪問することができます。
3
−3−
2.教授法の基礎
(1)授業づくりの基本の型
次に、一回の授業の展開方法について考えていきます。19 世紀後半のドイツのヘルバル
ト学派の教育学者 T.ツィラーと W.ラインは 5 段階教授法(予備-提示-比較-総括-応用)
を提唱しましたが、これはアメリカや日本(明治 20 年代)にも普及しました。今日では「導
入-展開-終結」「導入-展開-まとめ」といった 3 段階や「導入-展開-整理-発展」
の 4 段階で授業が構造化されることが多いようです(日本教育方法学会編, 2004: 308, 328)。
「導入」のパートは学習者の学びの方向付けを行う役割を担っています。学習内容への
興味付けを行い、能動的な知的活動を喚起します。
「展開」のパートは授業の山場と称され
る段階であり、課題解決や新たな課題の発見が行われます。さらに「終結」「まとめ」「整
理」の段階ではその時間の授業目標・内容についての確認が行われます。最後に「発展」
では次の授業の予告が行われ、授業後の復習と次の時間の予習が指示されます。なお、授
業はこの段階に沿って進むとは限らず、複雑に絡まっているのが実情です。
山口大学の授業の多くは 1 コマ 90 分で行われます。この場合、たとえば導入(15 分)-
展開(60 分)-まとめ(15 分)という流れで組み立てることができます。
次に各パートの展開方法を見ていきましょう。
(2)導入のパート
導入のパートでは学習者の学びの方向付けを行いますが、特に学習者の内発的な動機づ
けを誘いながら、教員の教えたいものが学習者の学びたいものに転化していくように授業
を方向づけていくことが重要です。J.S.ブルーナーは内発的な動機づけを促すものとして
学習者の能動性を 1)知的好奇心、2)上達意欲、3)理想的人物への同一化、4)学習者の相互
作用、の 4 点にまとめています。こうした内発的動機づけを引き出すには意外性、具体性、
方向性が必要とされます(日本教育方法学会編, 2004: 328)。以下は導入のパートの工夫を
まとめたものです(夏目他 2010: 40-43)
・快適な雰囲気で始める・・・挨拶、雑談、温度調節、マイク確認などを行い、準備が
整ったところで授業の開始を宣言します。
・興味や関心を喚起する・・・授業内容に関連する刺激的な質問、ニュースの紹介、デ
ータ提示、写真の紹介、クイズなどを行います。前回のコメントペーパー(授
業の最後に 5 分程度で書かせるもの)の中から優れたコメントを紹介する
のも効果的です。
・学習目標を知らせる・・・・その日の授業でどのような知識や技能の獲得が期待され
ているのか、学習目標を知らせます。目標が明確になるので学習意欲が高
まります。板書しておくのも効果的です。
・アウトラインを紹介する・・・授業のアウトラインを先に示しておきます。事前に授
業の流れを知ることで安心して授業に臨むことができます。
・学生の準備状況を確認する・・・学生が必要な知識や技能を持っているかを確認しま
す。質問したり、小テストを行ったりするのもよいでしょう。
(3)展開のパート
展開のパートは「授業の山場」の段階です。授業の山場とは「学習の絶頂、学習の最も重
大な場面」のことを指します。ここでは、拮抗や対立や衝突を起こしながら課題や問題が追
及されていき、理解を確かなものにしたり、思考を深めたりしていくことが求められます。
4
−4−
では「授業の山場」はいかにして作られるのでしょうか。それは「授業設計」と「授業
展開技術」によって可能になります(日本教育方法学会編, 2004: 308,311)。
まず、授業設計の段階では、どのような内容をどのような順序で教えるか、どのような
教材・教具を使うか、どのような発問(授業でなされる教員からの問いかけ)をするか、板
書をどうするか等を明確にしていきます。しかし、これはあくまで授業の青写真にすぎず、
実際の授業では修正を迫られることが多々あります。そこで授業展開技術が必要となりま
す。これにはたとえば課題や問題を明確にする技術、学生の思考や理論を確認したり取り
上げたり潰したりする技術、イメージをわかせる技術、学生の認識をゆさぶる技術などが
あります。授業設計に固執せず、授業の流れに応じて適切な授業技術を瞬時に選択・変更
できる力量が必要になります。
なお、多くのことを効率的に教えようとする授業や「教えてやろう・わからせてやろう」
とする授業、用意した答えが唯一の正解であるとする授業、などは授業を展開させていく
技術は必要とならず、授業の山場を作ることに無頓着になりがちだと言われます。教員は
肝心なところを教えすぎず、学生が自ら積極的に考え、思考を深めていけるよう授業を展
開することが求められるでしょう。
以下は展開のパートの工夫をまとめたものです(夏目他 2010: 40-43)。
・内容を精選する・・・・・・・詰め込みすぎないことがポイントです。学生が消化で
きる情報量は限られています。
・内容を順序よく配列する・・・学習内容をいくつかの部分に分け、理解しやすいよう
に配列します。
・発問を工夫する・・・発問によって「おかしい」「なぜ」「どうして」という疑問を生
じさせ、学生自ら考えるよう刺激します。
・ハイライトを演出する・・・最も印象に残したい内容を教える場面では演出が必要と
なります。たとえば、身振り手振りを大きくする、板書に色をつける、内
容を繰り返す、
「今日の授業で一番重要なところ」と伝えるなどの工夫が考
えられます。
・学習方法を工夫する・・・・教師が一方的に講義するだけでなく、図で示す、質問の
時間をとる、写真や映像を見せる、ディスカッションを行う、グループワ
ークをさせるなど、学習方法を工夫する必要があります。
・学習の進み具合を確認する・・理解しづらい内容にさしかかったら、学生を指名して
質問に答えさせたり、練習問題を解かせたりして理解度を確認します。
(4)まとめのパート
まとめのパートは授業で学んだことを定着させる上で非常に大切です。以下はまとめの
パートの工夫をまとめたものです(夏目他 2010: 40-43)。
・内容の定着を図る・・・授業の内容を振り返って、重要なポイントをもう一度確認さ
せます。
・学習の成果を確認する・・・簡単なクイズや質問の時間をとり、学習によって身に付
いた成果を確認します。小テストやコメント用紙に意見・感想・質問を記
入させるのも効果的です。
・達成感を与える・・・1 つの学習内容が終わったという印象を与えます。授業の導入
で示した学習目標がどのように達成されたかを説明します。
・その後の学習につなげる・・・次回の授業時間までの授業外学習の手引きを与えます。
復習、予習、宿題、参考文献の提示など。
5
−5−
3.授業実施上の留意点
(1)ティーチング・アシスタント(TA)とスチューデント・アシスタント(SA)について
ティーチング・アシスタントとは授業の補助を行う学生のことです。山口大学では TA
は大学院生が行います。なお、共通教育では学部 3・4 年生をスチューデント・アシスタ
ント(SA)として雇用できますが、 SA は TA よりも職務内容が限定されています。詳しく
は共通教育係(内 5050)までお問い合わせください。
<TA の職務内容>
授業準備
①教材の作成補助、②配布資料の印刷、③AV 機器の準備及
び設営、④実験・実技及び演習の準備、⑤その他
授業中の教育補助
①資料配付、②実験・実技及び演習の指導、③教室内の巡回・
指導、④中間試験・定期試験等の試験監督補助、⑤その他
授業外の補助
①レポート・試験の採点補助、②授業に関する相談・質問へ
の回答、③その他
<TA・SA への教育効果を高めるための留意点>
□ 業務に関して事前にオリエンテーションを行う
□ 授業の初回に受講生に対して TA・SA を紹介し、TA・SA の役割を認識してもらう
□ TA・SA に対して継続的な指導・助言を行う
□ TA・SA から業務の改善点などについて意見聴取を行う
□ 業務内容が単なる雑務処理にならないよう配慮する
□ TA・SA 業務が学生の本来の学業に支障をきたさないように配慮する
(2)障害学生修学支援
山口大学では修学に障害のある学生の教育を受ける権利を尊重し、その学習活動の支援
を目指して以下のような基本方針を定めています。
受講者の中に障害のある学生がいる場合には、修学支援のための FD 研修会が開催され
ますので、必ずご参加ください。
「国立大学法人山口大学における修学に障害のある学生の支援に関する基本方針」
1.山口大学は、自主自立の精神、自己決定権、プライバシーの尊重の視点から、障害のある学生本人の意思
を 尊 重 して 修 学上 の 支援 を行う 。
2 . 山 口大 学 は、 障 害の ある学 生 及 び修 学 を支 援 する 者と連 携 し て、 修 学上 の 環境 と支援 体 制 を整 備 する 。
3.山口大学は、障害のある学生の支援を通して、学生サービスの充実、教育方法の改善など、大学の教育活
動 の 向 上を 図 る。
6
−6−
4.こんなときどうする?
-Q&A 集-
授業内容・教科書・教材
Q 授業の初回で、何を話せばよいでしょうか?
A 授業の初回は大変緊張するものです。しかし、学生も同様に授業への
期待と不安を抱えています。そこで、初回の授業では、学生の不安を取り
除き、授業への興味を引き出すような工夫をしてみてください。まず、教
員の自己紹介、シラバスの配布・説明、教科書等の指示、遅刻・私語の禁
止や携帯電話の注意などの基本事項を確認します。また、学生の基礎知識を尋ねたり、少
人数であれば学生に自己紹介させたりするなど、リラックスした雰囲気づくりを行ってみ
てください。コメント用紙を配布して学生に自己紹介、受講動機、関心のある点などを書
かせてみるのもよいでしょう。
さらに、学生に少しでも授業の中身を体験させるようにしてみてください。面白そうだ
な、受講してみようかな、と思わせることが大切です。ただし、選択や選択必修の授業の
場合、最初の週は様々な授業を見て回っている段階なので、あまり深い内容に入らずにイ
ントロダクションにとどめておくのがよいでしょう。
Q 特定の教科書を指定したほうがよいですか?
A 大学の授業では、教科書に沿ってすべて授業を行うスタイル、教科書は指定するがい
くつかの章のみ取り上げて授業を行うスタイル、教科書は指定せず毎回資料を配付するス
タイルなど様々な方法があります。一般に、教科書を使うことは学生の学習理解を助け、
授業運営をスムーズにしてくれます。ただし、選ぶ際には本全体を読
み通し、授業内容に即しているかを確かめる必要があります。
(教科書を指定するメリット)
・授業の全体像が明らかとなり、各回の授業がどこに位置づけら
れるかを明示できる
・重要な概念や定理、定義、データ等を常に参照することができる
・学生が予習をしたり、授業内で理解できなかったことを復習す
ることができる
・定評のある教科書を使うことにより、授業の質保証となる
(教科書を指定する注意点)
・指定してもあまり使用しなかった場合、学生から不満が出る
・テキストの筆者による定義や用語、表記法に拘束される
・授業の内容と離れた教科書を指定すると学生から不満がでる
・欠本などにより、教科書が入手不可能なことが起こりうる
・金額が高すぎると学生の負担になる
Q プリントを作るときの注意点はありますか?
A 自作のプリントは授業の内容や進度に合ったものを作成できます。作成する際は単な
る資料集を作るのではなく、学生がプリントを見て学習を進められるような内容が望まし
いでしょう。また、学生が書き込むスペースを空けておく、データには出典を明記する、
といったことも配慮するとよいでしょう。なお、プリントを充実させすぎて学生がノート
をとる必要がない状態になると、かえって効果が薄れてしまうので注意してください。
7
−7−
Q パワーポイントの資料は配付した方がよいですか?
A パワーポイントを授業で使用する場合、スライドを印刷・配布した方が学習しやすい
ようです。ただし、スライド数が多い場合は印刷枚数が多くなります。その場合、重要な
スライドのみを選んで印刷・配布するという方法をとっている教員もいます。手元資料を
配付しない場合、学生はほとんど理解できないか、または理解できてもすぐに忘れてしま
うことが多いようです。
Q 板書はどのように書いたらよいですか?
A 板書を上手に行うと効果的な授業ができます。板書は思いつきで書くのではなく、事
前に準備しておきましょう。多くの学生は板書をそのままノート・プリントに書き写しま
す。試験前に見直したときに授業内容が思い出せるように、重要な概念やポイントを板書
して書き写させると効果的です。
授業形態
Q 授業でパワーポイントやビデオを使いたいのですが教室に AV 機器は備え付けられて
いますか?
A 多くの教室にはプロジェクターとスクリーンが備え付けられていますが、中には設備
がない教室もあります。各学部の学務係に問い合わせてください。事前に教室で AV 機器
が正常に動くかを確認しておくこともおすすめします。
Q 授業にディスカッションを取り入れたいのですが、どのような準備が必要ですか?
A 授業中にディスカッションさせるためには、議論の前提とな
る基本的な知識がまず必要です。学生に事前学習を求めるととも
に、教員側でも十分な準備をしておく必要があります。以下はそ
の一例です。
(事前準備)
・議論のテーマを明確に設定する。できるだけ具体的で 2 つか 3 つに意見が限定
されるテーマが望ましい。
・ディスカッションの際に参考となる資料やデータを掲載したプリントを準備して
おく。
・当日の時間配分を明示し、グループ分け、役割分担を行う。
(授業中)
・ディスカッションの前に個別学習をさせる。
・グループの中で司会を決める。
・教員は基本的に交通整理、進行役に徹する
・議論が滞ったときに、議論の端緒となるヒントを与える。
・議論の結果、自分がどう考えたのか、どのように考えが変わったかをコメント用
紙にまとめさせて提出させる。
授業の管理
Q 授業中に私語をしている学生がいます。どのように注意したらよいでしょう?
A 大変悩ましい問題ですが、まず、初回の授業で「私語は厳禁である。授業の妨げにな
るだけでなく、他の学生の学習権の侵害になる」ということをしっかりと説明してくださ
8
−8−
い。また、私語をさせないためにときどき教室内を巡回しながら授
業をしたり、TA・SA に私語を注意してもらうといった方法もあり
ます。それでも守らない場合はその場で注意することが必要です。
ただし、感情的になると逆効果になることが多いようです。
なお、最近は私語をしないかわりに携帯電話でメールをしたり、
音楽を聴いたりする学生が増えています。静かだから良いというのではなく、授業に集中
していないことについて注意する必要があるでしょう。イヤホンで音楽を聴いている場合
は耳から外すよう指示してください。
Q 授業の最後にコメント用紙を提出させています。しかし、他人の分まで代筆して提出
する学生がいるので困っています。
A 提出させる際に教員・TA・SA が必ず手渡しで受け取るようにします。その際は「一
枚しか受け取らない。2 枚受け取った場合は無効とする」といった内容を事前にアナウン
スしておくと効果的です。
Q 出席をとりたいのですが、どのようにしたらよいでしょうか?
A 出席確認には様々な方法があります。以下にあげるのは一例ですが、授業の様態やク
ラス規模に応じて適切な方法を工夫してください。なお、共通教育棟の教室にはすべて IC
カード学生証のリーダーが設置されており、簡単に出席をとることができます(出席確認
システム)。
1)点呼:最も基本的な方法で名前を読み上げるものですが、代返の可能性が排除でき
ないうえ、クラス規模がある程度以上になるとそれに費やされる時間の多さが問題
となります。
2)出席票:出席票を配り、学籍番号や氏名を記入させる方法。大規模授業でも手間を
掛けずに出席確認が出来ます。しかし、代筆が後を絶たないということとクラス規
模が大きいと事後処理の事務量が多いという問題があります。
3)一連リスト:出席票と同じですが、違いは1枚の受講者リストに毎回名前を書かせ
る点です。同じ名前がたとえば横一列にずっと並ぶことになります。筆跡が違うと
すぐに判明するため、代筆は極端に少なくなります。しかも、一目で出欠状況がわ
かり、後処理がきわめて簡単という長所があります。注意点は、欠席した場合は斜
線等で書けないようにしておくことです。そうでないと次の回に書き込まれてしま
います。なお、受講者リストは修学支援システム上からダウンロードできます。
4)指定席=座席表法:最初の回に「座席への着席で出席チェックしているので、毎回
同じ座席に座ること」を確認し、記入用の座席表を配って受講者に記入させます。
次回からは、この座席表を利用して、空席かまたは人のいる席をチェックする方法
で確認します。TA・SA がいれば簡単に確認できます。手間がかかるようですが、
点呼より遥かに早く出席確認ができます。
5)小テストないし授業内レポート:小テストや授業内レポート(感想や質問を求めて
よい)は、単に出席を確認するだけでなく、担当者が受講者の受け止め方をリアル
タイムに把握する方法でもあります。とくに小テストは、授業外学習を確保し、成
績評価の公平性・厳格性を維持する上でも意義があります。ただし採点や整理など
雑務が伴うので、TA・SA の活用等がなければ大規模授業になるほど担当者の負担
が増加します。
9
−9−
各システムについて
Q 修学支援システムとは何ですか?
A 各教員がパソコンの Web ブラウザを使用して成績評価報告やシラバス登録・閲覧を行
うためのシステムです。このシステムは他に、履修者名簿の出力・学生へのメッセージ機
能も備えていますので、授業担当教員から履修学生への休講・補講・お知らせ等を行うこ
とができます。システム機能の概要は以下のとおりです。
メニュー名
処理内容
履修者名簿
担当する授業科目の履修者名簿(CSV,PDF)が出力できます。履修登
録期間においても,リアルタイムで履修者名簿を出力することが可能で
す。また、履修者名簿から学生情報(メールアドレス,顔写真)が閲覧で
きます。
成績評価報告
成績入力期間に担当する授業科目の成績を入力します。直接入力と CSV
入力する 2 つの方法ができます。入力期間は,別途お知らせいたします。
シラバス登録
シラバス入力期間に担当する授業科目のシラバス情報を入力します。入
力時期は例年 1 月頃です。入力期間は,別途お知らせいたします。
メッセージ確
認
担当授業科目の履修者に休講・補講・お知らせをすることができます。
指導学生
教員が指導する学生について,履修・成績を照会することができます。
※操作マニュアルは, http://www.yamaguchi-u.ac.jp/yf_student.html に掲載しています
ので,ご覧ください。詳しくは以下にアクセスしてください。
<アクセス方法> 山 口大学トップページ → 教職員 → 教育活動 → 修学支援
システム
Q 出席確認システムとは何ですか?
A 共通教育では、平成 21 年度後期より授業への出席状況を Web 上で確認することがで
きる「出席確認システム」を導入しています。共通教育の授業を履修している学生は、授
業の開始前に各教室の入口に設置されたカードリーダーに学生証を読み込ませます。その
データは翌日以降にシステムに反映されます。教員は受講者の出席状況を随時システム上
で確認し、ダウンロードすることができます (学内限定)。出席確認システムへは以下から
アクセスできます。操作マニュアルも掲載していますので、そちらもご覧ください。
<アクセス方法> 山 口大学トップページ → 教職員 → 教育活動 → 出席確認
システム
Q 成績分布共有システムとは何ですか?
A 各授業の成績分布を教職員向けに学内公開しているシステムです。本システムは、各
授業科目の成績評価分布を全教員で共有し、例えば次のような授業改善を行う場合の基礎
資料(データ)としていただくことを目的としています(ただし、学生の成績の特定を避
けるため、履修者が5名以下の場合は公開しません。)
(例)○ 自分の担当科目に関連する他の授業科目の成績分布状況をシラバスと併せて
参照し、個々の教員が担当授業科目の適切な到達目標設定の参考とする。
○ 学籍番号等によるクラス分けによる同種の授業科目を複数コマ開講している
場合等に,各コマの成績分布の比較により,到達目標や成績評価の差異を確
認し,必要に応じ試験難易度等の均衡を図る等,組織的な教育改善を行う。
10
− 10 −
<アクセス方法>山口大学トップページ
システム
→
教職員
→
教育活動
→
成績分布共有
Q 教育情報システム IYOCAN(いよかん)とは何ですか?
A 学生による授業評価の結果を Web 上で閲覧したり、教員自身が授業の自己評価を入力
するためのシステムです。詳しくは以下にアクセスしてください。
<アクセス方法>山口大学トップページ → 教職員 → 教育活動 → FD・授業評価
→ IYOCAN2 学生授業評価・教員授業自己評価
なお、医学部医学科・保健学科、大学院人文科学研究科(修士課程)、大学院農学研究科(修
士課程)の授業については IYOCAN ではなく独自の方法で授業評価が実施されています。
詳しくは各学部・研究科学務係にお尋ねください。
11
− 11 −
5.FD 用語集
以下は、中央教育審議会(2008)『学士課程教育の構築に向けて(答申)』より抜粋した用
語解説集です。なお、本答申以外からの引用については出典を明記しています。
【学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針】
入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)に加えて,将来像答申*が新たに提
唱した「教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(ディプロマ・ポリシー,
カリキュラム・ポリシー)」に対応するもの。入学者受入れの方針と異なり,モデルとなる
具体例や典型的な形態が存するものではない。将来像答申は,組織的な取組の強化が大き
な課題となっている我が国の大学の現状を踏まえ,各機関の個性・特色の根幹をなすもの
として,3つの方針の重要性を指摘するとともに,
「 早急に取り組むべき重点施策」の中で,
3つの方針の明確化を支援する必要性を強調している。
※注 将来像答申=中央教育審議会が 2005 年 1 月に公表した「我が国の高等教育の将
来像(答申)」の略称。中長期的(平成 17(2005)年以降,平成 27(2015)年~平成 32(2020)
年頃まで)に想定される我が国の高等教育の将来像(言わば「グランドデザイン」と
も呼ぶべきもの)と,その内容の実現に向けて取り組むべき施策を示している。
【学士と学士課程教育】
従来,学士課程教育は,一般的に「学部教育」などといった「組織」に着目した呼び方
がなされていた。しかし,知識基盤社会においては,新たな知の創造と活用を通じ,我が
国社会や人類の将来の発展に貢献する人材を育成することが必要であり,そのためには,
「○○学部所属」ではなく,国際的通用性のある大学教育の課程の修了に関わる知識・能
力を習得したことが重要な意味を帯びる。学位は,そのような知識・能力の証明として,
大学が授与するものであることが,国際的にも共通理解になっており,その学位を与える
課程(プログラム)に着目して整理し直したものが,学士課程教育である。
【学習成果(ラーニング・アウトカム)】
「学習成果」は,プログラムやコースなど,一定の学習期間終了時に,学習者が知り,
理解し,行い,実演できることを期待される内容を言明したもの。
「学習成果」は,多くの
場合,学習者が獲得すべき知識,スキル,態度などとして示される。またそれぞれの学習
成果は,具体的で,一定の期間内で達成可能であり,学習者にとって意味のある内容で,
測定や評価が可能なものでなければならない。学習成果を中心にして教育プログラムを構
築することにより,次のような効果が期待される。
・ 従来の教員中心のアプローチから,学生(学習者)中心のアプローチへと転換できる
こと。
・ 学生にとっては,到達目標が明確で学習への動機付けが高まること。
・ プログラムレベルでの学習成果の達成には,カリキュラム・マップの作成が不可欠と
なり,そのため、教員同士のコミュニケーションと教育への組織的取組が促進される
こと
・ 「学習成果」の評価(アセスメント)と結果の公表を通じて,大学のアカウンタビリ
ティが高まること。
12
− 12 −
【学習ポートフォリオ】
学生が,学習過程ならびに各種の学習成果(例えば、学習目標・学習計画表とチェック
シート、課題達成のために収集した資料や遂行状況、レポート、成績単位取得表など)を
長期にわたって収集したもの。それらを必要に応じて系統的に選択し,学習過程を含めて
到達度を評価し,次に取り組むべき課題をみつけてステップアップを図っていくことを目
的とする。従来の到達度評価では測定できない個人能力の質的評価を行うことが意図され
ているとともに,教員や大学が,組織としての教育の成果を評価する場合にも利用される。
【カリキュラム・マップ(CUM: CUrriculum Map)】
ディプロマ・ポリシー(山口大学におけるグラデュエーション・ポリシー)が、どの授業
によって達成されるかを一覧化にしたもの。シラバスだけではわかりにくかったカリキュ
ラムの全体構造が一望できる。(参考:山口大学大学教育センターweb サイト
http://www.epc.yamaguchi-u.ac.jp/curriculum.html 2012 年 1 月現在)
【カリキュラム・フローチャート(CFC: Curriculum Flow Chart)】
カリキュラム・フローチャート(山口大学独自の呼称。他大学では例えばカリキュラムツ
リーと呼称される)とは、カリキュラムの年次進行とグラデュエーション・ポリシーの関係
を流れ図として示したもの。学生がどの講義をどの時期に履修することで、どのグラデュ
エーション・ポリシー達成に繋がるのかが一望できる。
(参考:山口大学大学教育センター
web サイト http://www.epc.yamaguchi-u.ac.jp/curriculum.html 2012 年 1 月現在)
【グラデュエーション・ポリシー(GP: Graduation Policy)】
山口大学版ディプロマ・ポリシー。山口大学が教育活動の成果として学生に保証する最
低限の基本的な資質を示したもの。山口大学では 2006(平成 18)年 4 月より学部・大学院
におけるグラデュエーション・ポリシーを web 公開している(参考:山口大学大学教育セ
ンターweb サイト http://www.epc.yamaguchi-u.ac.jp/curriculum.html 2012 年 1 月現在)
【初年次教育】
高等学校から大学への円滑な移行を図り,大学での学問的・社会的な諸経験を“成功”
させるべく,主として大学新入生を対象に作られた総合的教育プログラム。高等学校まで
に習得しておくべき基礎学力の補完を目的とする補習教育とは異なり,新入生に最初に提
供されることが強く意識されたもので,1970年代にアメリカで始められ,国際的には
「First Year Experience(初年次体験)」と呼ばれている。具体的内容としては,(大学に
おける学習スキルも含めた)学問的・知的能力の発達,人間関係の確立と維持,アイデン
ティティの発達,キャリアと人生設計,肉体的・精神的健康の保持,人生観の確立など,
大学における教育上の目標と学生の個人的目標の両者の実現を目指したものになっている。
【シラバス】
各授業科目の詳細な授業計画。一般に,大学の授業名,担当教員名,講義目的,各回ご
との授業内容,成績評価方法・基準,準備学習等についての具体的な指示,教科書・参考
文献,履修条件等が記されており,学生が各授業科目の準備学習等を進めるための基本と
なるもの。また,学生が講義の履修を決める際の資料になるとともに,教員相互の授業内
容の調整,学生による授業評価等にも使われる。
13
− 13 −
【大学設置基準の大綱化】
個々の大学がそれぞれの理念・目的に基づき,自由かつ多様な形態で教育を実施し得る
ようにするため,平成3年7月に大学設置基準等を改正し,規制を大幅に緩和したこと。
具体的には,一般教育科目,専門教育科目等の科目区分の廃止,教員数の制限の緩和,学
生数の弾力化など。
【単位制度の実質化】
現在の我が国の大学制度は単位制度を基本としており,1 単位は,教室等での授業時間
と準備学習や復習の時間を合わせて標準45時間の学修を要する教育内容をもって構成さ
れている。しかし,実際には,授業時間以外の学習時間が大学によって様々であるとの指
摘や 1 回あたりの授業内容の密度が大学の授業としては薄いものもあるのではないかとの
懸念がある。このような実態を改善するための種々の取組を総称して単位制度の実質化の
ための取組と言うことがある。
【ティーチング・アシスタント(TA)、スチューデント・アシスタント(SA)】
優秀な大学院生に対し、教育的配慮の下に、学部学生等に対する助言や実施・実習等の
教育補助業務を行わせ、大学院生の教育トレーニングの機会を提供するとともに、これに
対する手当てを支給し、大学院生の処遇改善の一助とすることを目的としたもの。我が国
の TA の数は 8 万人(平成 18(2006)年度の文部科学省調査)であるが、その内訳を見ると、
実験・実習など自然科学系での活用が中心になっている等の傾向がある。また、大学院で
なく、学士課程の学生を教育の補助業務に携わらせる場合、TA とは区別してスチューデ
ント・アシスタント(SA)と称することが多い。
【ティーチング・ポートフォリオ】
大学等の教員が自分の授業や指導において投じた教育努力の少なくとも一部を,目に見
える形で自分及び第三者に伝えるために効率的・効果的に記録に残そうとする「教育業績
ファイル」,もしくはそれを作成する際においての技術や概念及び,場合によっては運動を
意味している。ティーチング・ポートフォリオの導入により,①将来の授業の向上と改善,
②証拠の提示による教育活動の正当な評価,③優れた熱心な指導の共有などの効果が認め
られる。
【ファカルティ・ディベロップメント(FD)】
教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取組の総称。具体的な例とし
ては,教員相互の授業参観の実施,授業方法についての研究会の開催,新任教員のための
研修会の開催などを挙げることができる。なお,大学設置基準等においては,こうした意
味でのFDの実施を各大学に求めているが,FD の定義・内容は論者によって様々であり,
単に授業内容・方法の改善のための研修に限らず,広く教育の改善,更には研究活動,社
会貢献,管理運営に関わる教員団の職能開発の活動全般を指すものとして FD の語を用い
る場合もある。
【補習教育(リメディアル教育)】
大学教育を受ける前提となる基礎的な知識等についての教育をいう。
14
− 14 −
【ユニバーサル段階】
アメリカの社会学者マーチン・トロウは,高等教育への進学率が 15%を超えると高等教
育はエリート段階からマス段階へ移行するとし,さらに,進学率が 50%を超える高等教育
をユニバーサル段階と呼んでいる。
「ユニバーサル」というのは,一般に「普遍的な」と訳
されるが,トロウによると,
「ユニバーサル・アクセス」というのは,誰もが進学する「機
会」を保障されているという学習機会に着目した概念である。
【リベラル・アーツ】
リベラル・アーツの起源は,古代ローマにおける自由(liberal)市民に必要な学芸(arts)
としての言語と数学系の諸科にあり,生産階級である奴隷(servile)の技芸(arts)に対
し て い っ た 。 そ れ は , 中 世 の ヨ ー ロ ッ パ 大 学 に お い て , 文 法 ・ 修 辞 ・ 論 理 の 言 語 系 3学
(trivium)と算術・幾何・天文・音楽の数学系4学(quadrivium)の7自由学芸として
哲学(学芸)部に定着し,特定の職業からの拘束を受ける神・法・医の専門職学部の諸学
芸に対して自由な学芸とされ,また一方でそれらの教育のための基礎学芸と位置づけられ
た。近代のそれはアメリカの大学で確立した概念で,自由人に相応しい,特定の職業のた
めではない,一般的な知力を開発する学芸を意味し,言語・数学系の諸科と人文科学,社
会科学,自然科学の諸学芸を指す。これらの諸科は学芸(文芸)科学学部(faculty of arts
(letter)and sciences )等を構成し,古典的な神・法・医及び近代的な工,農,経営,教
育等の専門職学部(professional schools)における職業系諸科に対する。一部に,近代科
学とその生み出す技術(science and technology)の知を別種のものとみて,それらを除
いた諸科をリベラル・アーツとみる向きもある。なお,リベラル・アーツは教養と訳され
るが,教養の英訳がカルチャーつまり文化一般であるのに対して,リベラル・アーツはデ
ィシプリン(方法)を持った諸科目であり,リベラルアーツ・カレッジにおいても,一般
教育に加えリベラル・アーツ分野の専攻の学習が課されるのが通常である。
●略語(アルファベット順)
【GPA:Grade Point Average】
アメリカにおいて一般的に行われている学生の成績評価方法の一種,一般的な取扱いの
例は次のとおりである。
① 学生の評価方法として,授業科目ごとの成績評価を 5 段階(A,B,C,D,F)で評価し,そ
れぞれに対して 4・3・2・1・0 のグレード・ポイントを付与し,この単位当たり平
均(GPA,グレード・ポイント・アベレージ)を出す。
② 単位修得はDでも可能であるが,卒業のためには通算の GPA が 2.0 以上であること
が必要とされる。
③ 3 セメスター(1年半)連続して GPA が 2.0 未満の学生に対しては,退学勧告がなさ
れる。(但し,これは突然退学勧告がなされるわけではなく,学部長等から学習指導・
生活指導等を行い,それでも学力不振が続いた場合に退学勧告となる。)
なお,このような取扱いは,1 セメスター(半年)に最低 12 単位,最高 18 単位の標準的
な履修を課した上で成績評価し,行われるのが一般的である。
【ICT:Information and Communication Technology】
① 「ICT」とは,Information and Communication Technology の略で,コンピュータや
情報通信ネットワーク(インターネット等)などの情報コミュニケーション技術のこ
15
− 15 −
と。(参考:文部科学省(2010)『教育の情報化に関する手引』2 頁より)
② Information and Communication Technology の略で,多くの場合「情報通信技術」
と和訳される。IT(Information Technology)の「情報」に加えて「コミュニケーシ
ョン」
(共同)性が具体的に表現されている点に特徴がある。ICT とは,ネットワーク
通信による情報・知識の共有が念頭に置かれた表現であるといえる。情報の共有化と
いう点において,ICT は IT に比べ、一層ユビキタス社会に合致した表現であるといえ
る。日本でも,2000 年頃に盛んに提唱された「e-Japan 構想」では「IT」が盛んに用
いられたが,2005 年を始点とする「e-Japan 構想」ではもっぱら「ICT」が用いられ
ている。総務省の「IT 政策大綱」は,2005 年までに「ICT 政策大綱」に改称されて
いる。(参考:金沢大学 FD・ICT 教育推進室 web サイトより
http://www.el.kanazawa-u.ac.jp/home/words/index.html 2012 年 1 月現在)
6.参考文献
池田輝政、戸田山和久、近田政博、中井俊樹(2001)『成長するティップス先生-授業デ
ザインのための秘訣集』玉川大学出版部。
大阪大学大学教育実践センター編(2007)『魅力ある授業のために-共通教育賞受賞者に
よる教育実践集』大阪大学出版会。
梶田叡一(2001)『教育評価』有斐閣双書、有斐閣。
香取草之助監訳(1995)『授業をどうする!カリフォルニア大学バークレー校の授業改善
のためのアイデア集』東海大学出版会。
京都 FD 開発推進センター(2010)
『おしえて!FD マン FD ハンドブック【新任教員編】』
(http://www.kyoto-fd.jp/handbook/digital_book/ 2012 年1月現在)。
佐藤浩章編(2010)『大学教員のための授業方法とデザイン』玉川大学出版部。
杉江修治、関田一彦、安永悟、三宅なほみ編著(2004)『大学授業を活性化する方法』玉
川大学出版部。
夏目達也、近田政博、中井俊樹、齋藤芳子(2010)
『大学教員準備講座』玉川大学出版部。
日本教育方法学会編(2004)『現代教育方法事典』加藤文明社。
バーバラ・デイビス著、香取草之助監訳、光澤舜明、安岡高志、吉川政夫訳(2002)『授
業の道具箱』東海大学出版会。
L.ディー・フィンク、土持ゲーリー法一監訳(2011)『学習経験をつくる大学授業法』玉
川大学出版部。
A.ブリンクリ・B.デッサンツ・M.フラム・C.フレミング・C.フォースィ・E.ロスチャイル
ド、小原芳明監訳(2005)『シカゴ大学教授法ハンドブック』玉川大学出版部。
山口大学教員能力開発(FD)委員会(2003)『シラバスの作成』山口大学 FD ハンドブック
第 1 部、山口大学大学教育センター。
山口大学 FD ハンドブック制作 WG(2005)『大学における授業改善ヒント集』山口大学
FD ハンドブック第 3 部、山口大学大学教育センター。
吉田香奈(大学教育センター)
16
− 16 −
17
− 17 −
第2章
実践編
本章では、山口大学で実際に行われている授業実践の事例を紹介し
ます。
今回の改訂版では、授業実践の事例を 11 種類に分類して掲載してい
ます(1.授業設計・教科書・教材の工夫、2.授業の展開方法、3.ICT
を活用した授業の工夫、4.学生を授業に巻き込む方法、5.学生の授業
理解度の確認方法、6.授業外学習を促進する方法、7.教室管理の方法、
8.成績評価の方法、9.障害のある学生への授業中の配慮方法、10.社
会人大学院生 を対象と した授業の工 夫、11.そ の他一般)。ご 自分の 興
味・関心や困っている課題に応じて必要な事例をお読みいただければ
幸いです。
なお、ご執筆いただきました方々は各学部・研究科から推薦された
優秀な先生方です。本ハンドブックの制作・配布を通じて授業改善や
学生指導のノウハウを共有する、という趣旨にご賛同いただき、特別
に原稿をお寄せいただきました。お忙しい中、ご協力いただきました
ことを心よりお礼申し上げます。
18
− 18 −
第2章
実践編
工夫の種類
1.授業設計・教科書・教材の工夫
テーマ
基礎セミナーの実践例
授業科目名
基礎セミナー
対象学生
教育学部スポーツ健康科学コース1年生
受講者数
約 15 人
授業形態
演習
教材・メディア等
パワーポイント、プリント資料
工夫のポイント
・ 実験実習(レポート作成を含む)を行うことで、本コースの専門
教育について、実際的にイメージでき、動機付けができるように
工夫
・ 実験実習の結果をまとめる際に、グループ学習を取り入れ、ディ
スカッションやプレゼンテーション能力も養うように工夫
・ 学外の健康関連施設の見学を行い、専門教育への動機付け、進路
について考える機会の提供ができるように工夫
キーワード
実験実習、グループ学習、ディスカッション、プレゼンテーション、
施設見学
授業担当者名
教育学部スポーツ健康科学教室
曽根涼子
塩田正俊、杉浦崇夫、丹
信介、
具体的な内容
<オリエンテーションについて>
・ 最初に、本コースの理念、カリキュラムなどの説明を行い、コース全体を理解しても
らうようにしています。
・ コースの教員・高年次生との対面式などを行い、コースへの所属観をもたせ、人間関
係作りの機会を提供するようにしています。
<実験実習について>
・ 簡単な実験実習(運動時の心拍数などを測定)を行い、測定したデータをコンピュー
タを使って解析します。そして得られた結果について、文献を調べて解釈し、レポー
トにまとめて提出します。レポート完成後にはプレゼンテーションを行います。
・ 測定データの解析は、基本的には授業の中でコンピュータを使って一緒に行います。
・ レポートの基本的な作成方法については最初に講義するようにしています。
・ 文献検索の方法については、コースの教員とともに図書館でオリエンテーションをし
てもらっています。
・ 提出されたレポートは、基本的な書き方および内容が適当なレベルにいたるまで、教
員が校閲して返却、学生が訂正して再提出を繰り返し、完成させるようにしています。
・ 1 教員あたり学生が 4~5 名になるように分かれて、レポートの内容について意見交換
(ディスカッション)する時間を持ち、それも踏まえてレポートを完成させるように
しています。
・ レポート完成後には、レポートの内容について学生一人一人がパワーポイントを使っ
てプレゼンテーションを行います。
19
− 19 −
<健康関連施設見学>
・ 市内の健康関連施設にコース教員が同伴して見学に行きます。
・ 施設では、本コースの学生の興味関心が大きい運動指導に関することやそこで働いて
いる人の実際的な仕事内容のお話を伺ったり、施設自体の見学をさせていただいたり
しています。
・ 学生は基本的に正装で見学に行きます。対外的にはどのような態度や服装であるべき
かを考える機会にもなっています。
・ 施設見学について、新しく知り得たこと、感想などをレポートとして提出するように
しています。
成果・効果
・ 基礎セミナーの中で実験実習およびレポート作成をすることは、実際に学生にとって、
本コースの専門教育を実際的にイメージすることにつながるものとなっており、かつ
専門教育への動機付けにもなっているようです(レポートの中の感想部分から)。また、
基礎セミナーでのレポート作成の経験が、その後の様々なレポート作成時に役立って
いるようでもあります。
・ 実験実習の結果をまとめる際のグループ学習の成果としては、その場限りではなく、
ディスカッションやプレゼンテーション能力を養う必要性を学生が感じるようであり、
それが大きいと考えています。
・ 学外施設の見学では、専門教育で何を学ぶべきかを考えたり、地域で健康づくりのた
めの運動指導を行っている人に直接的に話が聞ける場合もあり、そのような進路もあ
ることを改めて考えたりしたという学生もおり(レポートから)、期待した成果が上が
っていると考えています。
20
− 20 −
第2章
実践編
工夫の種類
1.授業設計・教科書・教材の工夫
テーマ
疑似ディスタンス・ラーニングを組み合わせた DVD 視覚教材の開発
授業科目名
「体育・スポーツ原論」および「体育・スポーツ史」
(学部専門教育)
対象学生
教育学部 1・2年生
受講者数
各 30~40 人
授業形態
講義
教材・メディア等
テキスト、DVD 視覚教材、スライド
工夫のポイント
体育・スポーツという動的環境の視覚化と問題の明示化、現場との
視覚的コンタクト、教育実習・インターンシップ前の 1・2 年次授業
の在り方、社会環境の相対化―国内外比較と未来構想
キーワード
疑似ディスタンスラーニング、DVD 視覚教材開発
授業担当者名
教育学部
池田恵子
具体的な内容
【改善の意図】
数年前に大学院教育学研究科所属の現職教員から、教育現場の問題を念頭に置きつつ、
講義において基礎理論を学び直したことにより、理解が深まったという感想を頂いた。し
かしながら、こうした見解は、大学に入学して間もない 1 年次の受講生にはあてはまらな
い。現場の問題を意識しようにも、専門教育における基礎科目は、教育実習やその前に義
務づけられている参観実習・参加実習といったインターンシップ以前に単位を取得するこ
とが望まれているからである。したがって、1・2 年次の受講者の間で意識される「社会的
諸条件」や「現場認識」は、子ども時代に経験した主観的な学校教育現場や社会のイメー
ジに左右されてしまう。しかし、現場の環境・課題はつねに変化しており、彼らが卒業し、
教員資格を得て、実際に現場に立つときには、経験主義的理解では解決不能の問題に遭遇
するのが常である。他方、カリキュラムの構成上、また大学の社会的責任上、学生がイン
ターンシップ以前に基礎科目を受講し、科目の原理に関する講義の単位を揃えておくこと
は必須の要件である。こうした基礎学の講義において、現状の問題を可能な範囲で認識で
きる環境を準備し、さらに体育・スポーツに特徴的である動的環境を視覚的に把握してお
くことは有効な手立てになる。インターネットやスライド等のメディアを駆使しつつ、こ
れまでも講義を行ってきたが、受講者が今日的な問題に意識を及ぼしつつ、適切な原理を
学ぶ必要性を理解するために、視覚教材開発の試みは効果的であるように思われる。さら
に、動的環境の可視化は、現状認識のみならず、日本における体育・スポーツ的環境を相
対的に捉えるまなざしにもつながる。たとえば、日本から遠く離れた海外における体育・
スポーツ文化事情を、映像を通してまのあたりにすることにより、文字資料では、遠い世
界の出来事に思われる事象をリアルに実感し、共通認識と相違点を相対的に把握する上で
効果的であろう。
【内容】
DVD Part I: タ イ ト ル 「 英 国 に お け る 草 の 根 の ス ポ ー ツ 的 風 土 」( Dinnington
Comprehensive School / From Victoria Park to Bradgate County Park, Leicester 市街地
の野外運動施設 / 運動公園他):平成 22 年 10 月に、以下の内容で DVD を作成した。英
国シ ェ フィ ー ルド 近 郊 、中 北 部に 位 置す る 平 均的 な 規模 の Dinnington Comprehensive
21
− 21 −
School(中等教育学校)において、体育授業および体育施設を視察した。学校長より許可
を得、現地の教員スタッフの協力の下、視察した内容を映像に収めた。編集の折、日本語
の字幕を付し、受講者が日本語で内容を理解
できるよう工夫した。英国の協力校に対して
本 DVD を 献 呈 し て い る ( ヨ ー ロ ッ パ 対 応
PAL および日本対応 NTSC モードで作成)。
DVD PARTⅡ:タイトル「ドゥ・モンフ
ォート大学およびラフバラ大学」:Part II に
は、英国レスター市のドゥ・モンフォート大
学にある、英米文化圏における唯一の国際ス
ポーツ史文化研究所 ICSHC で講義されてい
たスポーツ・スタディーズの授業内容を収録
した。さらに、スポーツ文化論を専門とする
大学研究所教授4名にインタヴューを行い、
英国スポーツ事情を解説した映像を添えた。
講義およびインタヴューの収録に際しては、
現地のセンター長の許可を得、当該の研究所
においても利用できるよう、Part I 同様に、
日本語字幕を付し、英語・日本語双方で視聴
可能なフォーマットとし、研究所に DVD を
献呈している。ラフバラ大学は体育大学から総合大学へと昇格した英国有数の大学である。
すぐれた体育・スポーツ施設を誇り、2012 年ロンドン五輪の日本代表チームのキャンプ地
として選定された。そのため、一部の施設内部については、トレーニング設備情報の公開
を禁じ、収録できない場所もあったが、英国の大学における最先端の体育施設の概要を映
像に収めることに成功している。
以上2つの大学機関の映像情報は、大学と大学をオンラインで結ぶ、ディスタンス・ラ
ーニングに近いものがある。スカイプ等を用いれば、技術的には双方向での授業交流は可
能であるが、実際には、英国は 8 時間(サマータイム)から 9 時間(冬季)の時差を伴う
ため、同時中継のような遠隔システムによる講義の受講は実質困難である。しかしながら、
講義の DVD を作成することで、地球の裏側でなされた授業の受講を通じて、英国で教え
られているスポーツ学の中身を共時的に視聴可能となる。一教員の座学による講義やテキ
ストでは効果的に伝えきれない中身についても、
「百聞は一見にしかず」の論理で、入学ま
もない 1・2年次の学生に教授し、受講生の問題意識を耕し、拡げることが可能である。
成果・効果
上記の DVD は、平成 22 年度および平成 23 年度の授業において実際に使用した。Part I
は配当学年が 1 年次の講義である「体育・スポーツ原論」において使用し、Part II は、配
当学年が 2 年次の「体育・スポーツ史」において使用した。以下は、アンケートに記載さ
れたコメントの例である。
【Part I を視聴した「体育・スポーツ原論」受講者のコメント】(配当学年1年次)
・英国では体育の実技授業を受けても、最終試験に合格しなければならないことに驚いた。運動場が
広く、様々な種類のスポーツに親しむことができてうらやましい。
・身近な地域・近所に広大なグラウンドやコートがあるというのが、日本と異なる。道具・用具が充
実しており、スポーツと触れ合う機会の頻度の違いを感じた。
22
− 22 −
・英国では、公園など、身近な場所の草の上で、遊びたくなる環境があることや、中等教育機関で運
動生理学やスポーツ史の知識が学ばれている。日本との相違を感じた。低学年のこどものことを考
えた安全性の高いスポーツ用具があった。日本でも自然にスポーツに親しめる環境をつくれると良
い。
・学寮ごとに異なるルール(規範)があり、それぞれがチームとなって戦うという起源が日本にない
文化だと思った。スポーツ史を中学校課程で学ぶことは素晴らしいことだと思うので、日本でも十
分な体制を整えて採用しても良いのではと感じた。日本の学校のグラウンドや競技用具の設備の違
いに驚いた。
・今日、授業で学んだ、近代スポーツの定義が中等教育機関で学ばれていることを知り、世界共通な
のだとわかった。グラウンドマンは日本にはいないので、設備を整えることに力を入れていること、
日本との違いを感じた。
・公園にサッカーコートが6面収まる光景を見て驚いた。自分の目でも見てみたい。
・日本の体育の授業は今のままでいいのかと不安に思う。
・体育理論を学ぶために PC の配備された専用の部屋 があることに驚いた。グラウンドが芝生なのも
生徒が怪我をしないためにも良いと思った。プラスチック製のゴルフ道具など、子供の安全を配慮
している点も素晴らしい。
・風土や国民性がスポーツをつくっていることに気付いた。楽しそう。
・英国の風土の豊かさ、スポーツを取り巻く環境がよくわかった。
・公園でさまざまな人がウォーキングをしており、丘(ゴルフ場でない場所)ではゴルフを楽しんで
いたりと、日常生活の中にスポーツが解けこんでいることがわかった。日本では考えられない。
・わたしも現地に行って、見てみたい。
・人間も野生動物も居る中で、スポーツが楽しまれている。教育面でも環境面でもスポーツ文化に大
きな違いがある。日本でもこどもたちが他国のスポーツ環境について学べる環境があるといいと思
う。
・体育は体を動かすことだと思っていたが、体育を座学で学ぶ環境が整っていることが英国ではあた
り前だった。
・外国人がスポーツをするときに感じる事と日本人がスポーツをするときに感じる事に差があるよう
に感じた。
~講義終了後、毎時提出の「体育(スポーツ)原論
コミュニケーションカード」より抜粋~
【Part II を視聴した「体育・スポーツ史」受講者のコメント】(配当学年
2年次)
・英国の教授がインタヴューで語ったように、スポーツは社会的アイデンティティーを形成し、社会
に大きな影響をもたらす。スポーツを理解することは社会を理解することにつながる。スポーツは
社会を豊かにする力を持っている。
・インタヴューで、スポーツは社会の在り方を表した明白なシンボルだと述べられていた。スポーツ
と社会は密接な関係にあり、その足跡を追うことで、スポーツ史やスポーツそのものについて理解
できると感じた。
・ブリティッシュ・スポーツとは何なのか、アメリカン・スポーツとは異なるものだと教授は答えて
いた。自発的な組織やミーティングをもつこと、アマチュアリズム、勝利至上主義にこだわらない
スポーツ規範があること、代表的なスポーツとして、サッカー、クリケット、グレイハウンドレー
スが挙げられていた。狩猟からスポーツが発展したことは学んだが、これらの回答に驚いた。イギ
リスを訪れるときに、スポーツに触れ、スポーツをもっと知りたい。
23
− 23 −
・英語を学び、世界のスポーツを知りたい。日本でスポーツの成り立ちが理解されていないことはも
ったいない。
・日本独自のスポーツ文化の在り方を築いていくことを考えたい。
・スポーツとは社会の有り方そのものなのだということを意識した。それを意識したスポーツ政策が
望まれる。
・特定の社会が特定のスポーツを生み出す、スポーツは社会のシンボルであるということばが印象に
残った。国外の専門家の意見・映像に触れたことで、自分自身の学ぶ意欲が高まった。よい機会と
なった。
・ドイツの体操やアメリカ型スポーツ、イギリス型スポーツの違いが理解できた。イギリス型とは、
スポーツ徳性に特化した定義のことであった。すべての階級が関与するサッカーと、フォーマルで
イギリス人にしか理解できない英国ルールを有するクリケット、スポーツのルール形成に影響を与
えたグレイハウンドレースなど、自国のスポーツを語る上で、スポーツ史を学ぶことは欠かせない。
・インタビューを通して、良い女性になること、良い男性になること、自発的な組織をもつこと、チ
ームメイトを築き・・といったことが英国型スポーツだと教えられた。グレイハウンドレースが英
国の三大スポーツのひとつに入ると知って驚いた。国民特性がスポーツを規定している。日本で生
まれ、日本で育ち、スポーツに小さい頃から親しんできた。しかし、日本特有のスポーツ文化の特
性を思い浮かべることができない。日本のスポーツ文化特性に興味が湧いた。
~体育(スポーツ史)受講者による(6項目について提出の)ミニレポートより抜粋~
以上、授業後に回収した受講者のコメントからわかるように、2つの DVD は、受講者
の学びを深め、スポーツを取り巻く社会環境に関する問題点を顕在化している。さらに、
外国の環境を視覚的に捉えることにより、日本社会の環境を相対化し、現状を絶対視する
のではなく、環境は条件に応じて可変的であることや、どのような因果関係・要因によっ
て環境が規定されるのかに関心をもち、思考を及ぼすことが可能である。映画や既成のビ
デオ、インターネットから得られる情報からも、映像教材は再構成可能であるが、やや重
要に思われたことは、ロケ地の現場に教員自らが赴き、そこでの教員の学びを通じて、映
像の解説を行うという試みは、いっそうの効果と信憑性をもたせることにつながる。今後
も可能な範囲で、映像資料作成のためのソースを入手し、教材開発を行っていきたい。試
みの結果、あらたな授業改善につながると気づいた。また、英国の大学での講義は日本の
大学における授業を刺激するとともに、日本で行われている講義の映像資料化もまた、諸
外国の大学でおこなわれている講義内容に刺激を与えるものとなるように思われた。遠隔
システムを通じたディスタンス・ラーニング(オンライン授業や遠隔指導を指す)にも可
能性が開かれるが、自作 DVD 教材開発の試みは、疑似ディスタンス・ラーニングの効果
を伴っている。さらに体育・スポーツといった教科特性からも、動画による資料提示の試
みは功を奏した。なお模索の段階であるが、昨年の試みをここに記載してみた。
24
− 24 −
第2章
実践編
工夫の種類
1.授業設計・教科書・教材の工夫
テーマ
新入生の大学への適応を促進する「基礎セミナー」
授業科目名
「基礎セミナー」(共通教育)
対象学生
経済学部1年生
受講者数
約 20 人
授業形態
演習・実習
教材・メディア等
パワーポイント、ビデオ、報告レポート
工夫のポイント
大学への適応に困難を抱える新入生が増えているように思えます。
これに対して、自覚を促すこと、課題設定能力を育むこと、行動力
を培うことを目的意識的に追求しています。
キーワード
自己意識化、グループ学習、プレゼンテーション
授業担当者名
経済学部
植村高久
具体的な内容
1) 経緯と狙い
大学設置基準が改定され、いわゆる「キャリア教育」が大学の必須要件として求め
られるようになりました。その背景には求人の減少や人材への要求水準の高まりによ
る、就職困難者の増加があるようですが、それだけはありません。私はほぼ 15 年間、
継続して「基礎セミナー」という新入生向けの授業を担当してきましたが、この授業
を通じて入学時からこのままでは就職困難者になるだろうと危惧される学生の増加を
見てきました。
それは学力不足という問題とはかなり違ったものです。実際、経済学部では TOEIC
の統一テスト点数を見る限り、学力が低下しているとは言えないのです。そうではな
くて、彼らは大学に入っても何をしてよいのか分からない、あるいは何もしない学生
たちです。圧倒的な経験不足のために、社会人として当然求められる様々な能力、と
くにその場その場に合わせて他人の考えを推し量る社会的想像力が欠けており、要す
るに大人になれないまま就活期・卒業期を迎えるのです。大人になるための体験はア
ルバイトや部活、ボランティアなどのカリキュラム外(そして多くは大学の埒外)にあり、
今までの学生は私たちとは関わりなくこうした体験を積んで大人になっていました。
今ではそうした経験の必要性にすら気づかない学生がたくさんいるようになってきま
したが、教員として歯がゆいのは、そうした体験の大部分がなおわたしたちの手の届
かない領域にあることです。
私の「基礎セミナー」という授業は、そうした埒外にある社会的経験の領域にアプ
ローチするために、専ら学生の自覚と活性化を目標とした授業に変化してきました。
ここでは、その試行の実例をしめし、そこから得た知見を述べます。
2) 「基礎セミナー」の外形と内容
まず、この授業の概要とシラバスを示します。
○ 通年、2単位、基本的に隔週開講、15回
○ 最初の1回はオリエンテーション、最後の2回は最終プレゼンテーションとし、
その間の 12 回を 3 回ずつの4ユニット(テーマ)で構成。
① オリエンテーションは、まず大学生活の基礎となる考え方――自ら何かをしなけ
れば何も得られない――の理解を目標にしました。
25
− 25 −
内容は、第 1 に、以下の点をパワーポイントを用いて説明しました。大学生の生活
の特徴として、A)自由時間が多いこと、B)自由時間を使って様々な経験を積むことが
できること、C)しかしながら、自覚的に取り組まないと自由時間はまったく浪費され
ること、D)このために重要なのは自己管理(自己の時間管理)だということ。
第 2 は、3年生2名による大学生活の紹介(パワーポイント使用)であり、充実した大
学生活を送っているロールモデルの提示。
② 第1ユニットは情報収集。3人グループを作り、主にインターネットを利用して
テーマに関する情報を収集・整理し、プレゼンテーションで報告するもの。
テーマはその時々の話題から選び、11 年度は①原発事故による放射性物質放出によ
る健康被害、②原発の仕組みと事故及び予想される結果、③日本における大規模災害
の予測と防災・災害対策、④「ジャスミン革命」とアラブ世界への影響、⑤イラク戦
争・アフガン戦争の行方、⑥地球環境問題の現在、⑦日本の非正規雇用とワーキング・
プア、の7つで、くじ引きでグループを作り、テーマも割りあてました。
まず中間報告させ、さらに最終報告をさせるという形をとりましたが、ポイントは
中間報告に対して行うコメントの仕方・内容にあります。テーマは大学1年生にとっ
ては難しいもので、「調べる」といっても、どこからかコピーしてきたものを理解しな
いで喋るのみ。加えて、グループで内容を確認するような努力もふつう自発的には生
まれません。そこで、内容の食い違いやキーワードの説明などを個々の学生に質問し、
理解不足と共同作業不足を自覚させるようにして、最終報告に向けての課題を課します。
このことには2つの狙いがあります。第一は共同作業を促すことによって好ましい
交友関係を形成すること。第二は共同作業によって一人では難しい問題についても協
力し合って理解を深めることができることを認識することです。
③ 第 2 ユ ニ ッ ト は 情 報 理 解 と 題 し た ビ デ オ 鑑 賞 を 通 じ た 情 報 批 判 。「 卒 業 、 し か
し・・・高校生は」という定時制高校生の就職困難を描いたものが素材です。ビデオ
のテーマは実は大人に なることで、これは大学1年生にも共通する課題なのですが、
ビデオを視ただけではなかなかそれが理解できない、という点がポイントです。
1000 字程度のコメントを書かせて、2回目は全員分の抜き書きを素材に討論し、さ
らにもう1回のコメント書かせて、その抜き書きを3回目で討論しました。
狙いは高校生を鏡にして自分を見直す(自己に対する覚醒)ことです。まずビデオの高
校生と自分との共通面を見出し、その次に違いを考え、あるいは違いを創り出そうと
する(ビ デオの高 校生は 劣等感の塊 のよう に見 える)と いう自分 への眼 差しが生ま れる
ことを期待しました。
④ 第3ユニットは再び情報収集。これは「福島原発事故と放射能被害」という統一
テーマ(ただし関連した様々なテーマを自由に選んでよい)という形でのグループ学習
(グループは編成替え)です。資料として、福島原発事故関連の雑誌文献リスト(約 100
点)を配布しました。
狙いは社会的想像力の涵養。1年生には放射能被害の深刻さに対する認識がありま
せん。自分が被害を受けたわけではなく、自分の問題として捉えられないのも当然な
のですが、社会人となるためにはそうした被害を受けている人がいることと、そうし
た人々がどのような状況にあるのかを推測することが求められます。このために、中
間報告に対しては問題がどの位深刻なのか、どのようにしてどれくらいの人々の生活
と生命を脅かしているのか、という点に焦点を絞らせるようにコメントし、最終報告
では福島の人々との深刻さの共有が感じられる方向での報告の総括を期待しました。
⑤ 第4ユニットも情報理解(ビデオ教材)。「貧者の兵器とロボット兵器」という、ア
26
− 26 −
フガン戦争に関するビデオを素材にしたもの。内容はアメリカ軍が米本土からリモコ
ンした無人機で住民を巻き添えにしつつ、アルカイダを暗殺しようとするのに対し、
アルカイダは自爆テロで対抗するというもので、1年生にとってはまったく非日常的
なものですが、これも社会的想像力を狙いにしたものです。
前回と同様に1回目のコメントを素材に2回目で討論し、そのコメントで3回目に
討論するという形式で行いました。1回目のコメントでは、理解不能でただただ「戦
争には反対」というばかりで、全員が評論家的な見方しかできませんでした。そこで、
日本の戦時にも同じようなことがあったというサジェッションを与えました。さらに
テロ対策特措法で日本が戦争の当事者になっており、アルカイダにも敵視されていて、
実際にも被害者が出ているという事実を説明しました。2回目のコメントでは戦って
いるそれぞれの側の人の考え方を想像できるように配慮しました。
⑥ 最終プレゼンは各自 10 分の制限内でパワーポイントを使用しつつ、「大学でやり
たいこと」をテーマに全員が個人で行います。11 年度授業では未実施ですが、自分に
対する自覚とアクティビティというこの授業の狙いを理解して、元 気な、希望の溢れ
る大学生活に向かう決意表明を期待してきました。
成果・効果
以下では各ユニットに対する効果を学生のコメントを中心に示します。
① オリエンテーションについて:(先輩の体験談に)「自分の生活の管理はとても大変
な面が多いと思った。…毎日多忙な生活を送っていて、ちゃんと単位とってと、やる
べきことをきちんと出来ているのは素晴らしい」
「もっと自分なりの時間割を作ろうと
思った。やってみたいことは数多くあるけれど、行動がともなわないと意味がない」
他、コメントを見る限り、最低限、大学生活の課題を意識化できており、狙い通りの
効果を確認することが出来ました。
② 第1ユニット情報収集について:プレゼンテーションでの報告が成果なので、具
体的に示すことはできませんが、過半数以上のグループが内部でかなり討論して内容
を詰めてきた形跡があり、まずまずの成果だと思われます。1グループのみ課題を未
達のものがあり、未達であることを確認させました(他はかなり立派な報告だったので、
厳しい表情が印象的でした)。
③ 第2ユニット情報理解について:「自分で意志決定し、独立することが大人になる
ための最低ラインだということも分かりました。意志決定で大切なことはそれをしっ
かり実行に移すことだ。正しい情報を集められる能力、情報を整理できる能力も大人
になるために必要なことだと感じた。私たちは普段の何気ない生活の中で「いかにして
大人になるのか」という課題にぶつかっているのだろう。私たちは今、自分自身の意識
の持ちようで大きく将来が変わる分岐点に立っている」
「自由になった時間で何をする
かを自分できめなければならない……何が正しいことなのかを自分で判断して自分で
決めなければならないということが、こんなに苦痛だとは思わなかった」など課題に
対する理解およびビデオの批判的な解釈の成功を示す記述が多数を占めるようになり
ました。現在の大学1年生はふつう‘大人’という自覚がありませんが、だからとい
って大人になる常道もまた示されていない点への了解は大学生を教える側には絶対に
必要なものだと思います。
④ 第3ユニット情報収集について:これについても成果がプレゼンの報告なので、
印象批評的にならざるを得ませんが、結果から見れば福島の深刻さを理解は困難だっ
たようです。利用された情報がネットワーク由来のものが多かったため、情報を上手
27
− 27 −
くまとめることが出来たグループは過半数に上りましたが、得られたものは知識のレ
ベルに限られ、問題の深刻さと被害者の心情にまで想像力を及ぼすことはほとんど出
来ませんでした。新聞記事でも、雑誌記事でももう少し社会的想像力を喚起できるよ
うに思われます。(ネットワーク経由でもそういう情報もあるとはいえ)インターネッ
トの利用は結局、必要な部分だけのコピー&ペースト化を促進する恐れがあり、情報
が社会的脈絡から乖離させられてしまうことが起こりうるという点には留意すべきで
しょう。とくに、目的が明確な場合ほどそうなるという点は要注意だと思われます。
⑤ 第4ユニット情報理解について:
「自分はたんなる評論家になっていた、……前の
「大人になるとは」の時に、物事を自分と関係のあるものとして意識し、そこから学び、
自分を成長させるようなことを書いたが、それが今回も出来ていなかった」「正解がな
いことについて考え、自分なりの答えを出すことの難しさを、今、身をもって感じて
いる。でも、社会に出ると正解のないことばかりだと思うので、大学生のうちに「考え
て判断すること」に慣れておことは大切だし、必要なことだと感じた」。このほか、ア
フガン、アメリカ、両当事者の意識や考え方に触れたコメントも多数ありました。1
回目のコメントでは、ビデオ内の非日常的な世界に圧倒されて、生理的な反応に近い
ものが多かったのですが、討論を重ねて、概ねこのような情報理解のレベルに到達し
ました。ビデオに関しては、画面や言葉の印象という面が強くて、内容を曲解してし
まう(そのように演出されている?)危険はあるものの、それらを逐一点検し、正確な
理解を図れば想像力を喚起する能力は非常に高いといえます。
⑥ 最終プレゼンについて:11 年度は現時点では未実施ですが、昨年度までの状況を
踏まえて言うと、一部にはやや脱落感のある手抜きのものが見られますが、概して受
講者は非常に元気なプレゼンを行って来ています。この授業では、各ユニットの最初
または最後にその部分の目標を明らかにしていますが、最終プレゼンについてもその
趣旨と目的・評価基準(相互評価による)を明らかにしています。大多数の受講者は、
それに沿って期待に違わぬパフォーマンスを示してくれています。
最後に これまで十分に説明できなかった点を2つ示して、締めくくりにします。
一つはグループ化の効能です。今の学生は友達づくりがとても下手で、こちらで強制
的にでもくっつけてやらないと友達は出来ません。そこで、情報収集のユニットでは
グループ学習を行わせていますが、ポイントは実際にかなりの時間にわたって、しか
も相互にぶつかり合う程度まで共同作業させることです。1年生はほとんど他人と意
見を戦わせた経験がありません。そうした経験をできるだけ早くさせておくことは、
自分の長所・短所を理解させ、人間関係を築く能力を培わせることに繋がります。
もう一つは、大学1年生はほほ全員が「自分は子供だ」と認識していること、加え
て「大学生は遊んでいる」と思っており、自分も「遊びたい」のだが、
「遊び方」すら
知らない1年生が多いということ。驚くほど空疎な日々を送っている1年生がたくさ
んいるのですが、彼らにはもちろん明るい未来もないでしょう。学生の人づくりをす
ることが、これからの大学の課題になってくるように思えます。
28
− 28 −
第2章
実践編
工夫の種類
1.授業設計・教科書・教材の工夫
テーマ
授業に興味を持たせる工夫
授業科目名
生物学Ⅱ(共通教育)
対象学生
理学部1年生
受講者数
約 130 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、ビデオ、DVD、プリント
工夫のポイント
1. 講義形式の授業は受け身になりがちなので、まず、パワーポイ
ントを提示したうえで、さらに口頭で要旨・概略を解説し、板
書させたのち、内容がよく理解できるようなビデオやDVD教
材(市販品や手作り教材)を選び、内容を具体的に理解できる
よう工夫しました。
2. 映像提示もマンネリになりがちなので、提示資料や板書内容か
ら、毎回、出席確認を兼ねた小テストを課しました。
3. パワーポイントでは詳しく説明できないところを補うためにプ
リントを配布し、それを予習・復習用の教材としました。時に
は、その内容要約を宿題にすることもあります。
キーワード
視聴覚教材、プリント教材、小テスト
授業担当者名
理学部
松村澄子
具体的な内容
・パワーポイントは便利ですが、長い文章が書けないのでどうしても補足資料は必要です。
・パワーポイントの内容を板書させる時間が必要ですが、書くスピードが個人で違うので、
早く書き終わった学生にはプリントを読みながら待つように指示しています。
・配慮した点は、ともかく、単調な講義にならないことです。学生の様子を観察すること
も重要と思います。
・1 時間目の講義だったので、とにかくだらだらと遅刻されるのが講義を進める際の支障
となり、困りました。入室時間を区切り、決めた時間以上の遅刻者には小テスト用紙を配
布しないなどの措置で対処しました。きちんとしたルールを学生に明示することが重要と
思います。
・前期・後期それぞれの期間内に必ず中だるみになる時期があります。たとえば、後期で
は大学祭の前など。その時期を的確に把握し、集中させるための特別なイベント(たとえば、
宿題内容を口頭発表させるなど)を行うと、結構効果があります。
成果・効果
・時間中に眠るという学生は減らすことができたと思います。
・また「もう少し長く資料映像を見たい」という意欲を持った学生も複数出ました。
・視聴覚教材を用いたことで、専門的知識が増えたかどうかは疑問ですが、少なくとも、
各生物の形や動きを実感し、対象への興味や、観察への導入にはなったと思います。
29
− 29 −
第2章
実践編
工夫の種類
1.授業設計・教科書・教材の工夫
テーマ
授業の際の心がけ
授業科目名
原子物理学、量子力学(専門教育)
対象学生
理学部2・3年生
受講者数
各約 20〜30 人
授業形態
講義
教材・メディア等
プリント
工夫のポイント
きわめて基本的なことから反省してみます。
キーワード
こころがけ
授業担当者名
理学部
白石清
具体的な内容
「こんな素晴らしいことを実践し,成果を得ました」,という皆様のご努力には頭が下が
ります。また,わざわざこのハンドブックを作るための「勉強会」を開催されるなど,F
D関係担当者の方々のご尽力に敬意を表します(おかげで勉強にはなりました)。
皆様のような華々しいプラスの成果がありませんので,小生は逆に「べからず」的な気
付きをメモさせていただきたいと存じます。私自身の授業とまわりを見渡しての「観測」
に基づきます。もうちょっと「ゆとり」があれば,具体的改善報告ができるでしょうが。
『授業はきちんと90分』…授業終了前にぞろぞろと学生が出てくるのをしばしば見ます。
われわれがきちんと働いているところを見せないと,学生がちゃんと勉強しません(少な
くとも文句が言えないでしょう)。休講も避けたいですが,かなり多いように見えます(補
講はされているでしょうが)。うちのようにスタッフの絶対数が少ないことは学生の関知し
ないところです(逆に大学当局は熟考すべき)。
『メリハリをつけて話しましょう』…板書もですが,単調だと,とたんに学生は眠り始め
ます。また,メモを取らないと単位が取れないくらい,話に重きを置きましょう。
『パワポなど使わないようにしましょう』…学会と違って知識の共通基盤がほとんど無い
ことが授業の(現状における)前提ですから,学生受けが良くても頭に入れてくれません
(掲示板を写真にとって安心するだけと同じ)。こちらもプレゼン作って自己満足に終わり
ます。プリントはどんどん配りましょう(読んでない学生をどんどん落としましょう!)。
『授業の最初に必ず前回の復習』…ほとんど自己保身のためですが,ここで「わかってい
ますね」と念を押しておくと,スムーズに授業が進みます。
『テストの問題は事前にそのまま解説』…なにせレポートで0点解答を提出して平気な学
生が多い(半分程度ですが)ので,翌年のことを考えればこうするしかありません。
『学生の顔を思い浮かべながら,全てのことにあたる』…良くも悪くもこれが総まとめで
す。しかし学生におもねることとは違います。ある意味,「快適」にさせてはいけません。
・・・だんだん冗談めいてきましたが,どうしてどうして,現実って厳しいですね。
成果・効果
なかなか自己満足的なもの以上の効果があるかどうか疑問です。しかしまずはそこから始
めないと,各先生方の精神衛生上よろしくありません(授業以外にも膨大な精神衛生上よ
ろしくない仕事がいっぱいありますから(○○とか))。
30
− 30 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
複数教員が担当する授業の効果的な進め方
授業科目名
卒業研究(英語学演習(4年生))
対象学生
人文学部英語学専攻4年生
受講者数
約 15 人
授業形態
演習
教材・メディア等
プリント、パワーポイント
工夫のポイント
・3 名の担当教員が共同で卒業研究の授業を行い、この 10 年間で一
人の留年者も出さない工夫をしてきました。
・学生のプレゼン能力等が高まるだけでなく、教員同士も事前の打
合せを密にし、切磋琢磨し合いながら授業を行うので、指導方法等
の改良・改善が着実に行われてきました。
キーワード
ペア・グループ学習、ディスカッション、プレゼンテーション
授業担当者名
人文学部
赤羽仁志、岩部浩三、太田聡
具体的な内容
[経緯]
英語学専攻の学生に「卒業研究」を始めたのは 2000 年度(平成 12 年度)からです。そ
れ以前は、各学生の興味関心に応じてテーマを決めさせ、卒業論文の執筆を必修科目(8
単位)としていました。つまり、一般的なゼミ形式の卒論指導を行っていたわけです。し
かしながら、10 数年前は(現在と同様)就職難の時代で、夏休み以降も就活に追われて、
指導教員がどんなに促しても、卒論に真剣に取り組めない学生がかなり多くいました。そ
して、11 月や 12 月になってようやく指導を受けに来るのですが、それでは時間がなくて、
結局卒論が書けず(あるいは、たとえ卒論が提出されても、それは何かを丸写ししただけ
で、到底卒論とは認められず)留年する者が続出しました。そこで、英語学分野の教員で
話し合って、「毎週 2 コマ分の授業にきちんと出席して、与えられた課題を予定通りこな
せば、卒論と同じ 8 単位を認定する」という卒業研究に切り替えました。この卒業研究制
度に移行してからは、一人も留年せずに、全員無事に卒業してきました。
[卒業研究の進め方]
① 2 月中に、卒業研究の発表(オーラルレポート)が最も優れていた 4 年生を選び、「最
優秀レポーター」として表彰し、賞状、カップ、副賞(図書券など)の授与を行いま
す。そして、この最優秀レポーターに、卒業研究の授業で用いたハンドアウトの一つ
を再度用いて、発表のお手本を後輩たち(英語学専攻の 3 年生たち)に示してもらい
ます。
② この手本を見せた後、1 年間の卒業研究の進め方について学生たちに説明します。まず、
10 数名の学生たちを 2~3 名ずつのペアもしくはグループに分け、発表日や担当教員
などのスケジュールを決めていきます(例えば、6 月は教育実習で 2 週間不在というよ
うな学生もいるので、発表の順番を入れ替えるなどの調整がかなり必要です)。そして、
早速春休み中から読めるように、最初の課題論文を与えます。
③ この授業は、年間で 8 単位を与えられるように、毎週水曜日の 1・2 時限~3・4 時限に
設け、英語学専攻の 4 年生全員の出席を義務付けています。授業の課題は、英語学・言
35
− 31 −
語学分野の英文で書かれた論文の内容を理解して、ハンドアウトにまとめ、皆の前で
分かりやすく発表し、質問にも的確に答えるようにする、というものです。使用する
論文は担当教員が厳選して与えます。これらの論文は、学生たちの知識などをある程
度考慮して選びますが、どれも数十ページに及ぶ高度な専門論文ですから、内容をし
っかり理解するにはかなりの時間と努力を要します。また最後に、英文による 20 ペー
ジ程度のレポートを仕上げさせます(提出期限は卒論と同じ日です)。
④ オーラルレポートは、各組が前・後期に最低 2 回ずつ(1 年間に 4 回)行います。学生
の組み合わせ、発表日、担当教員、発表する論文などが決まったところで、半期ごと
にスケジュール表を完成させて(例えば、「4 月 20 日:A 君と B さん担当、指導教員
は X、論文名○○××」など)全員に配布・予告します。なお、前期が終わる段階で、
それぞれの学生たちがより専門的に取り組んでみたいテーマが明らかになってきます
ので、後期のスケジュールでは、同じようなことに関心がある学生同士に組み替えを
する(連動して担当教員も変わる)ことがあります。そうすると、学生同士の議論の
レベルも高度になり、発表内容も一段と専門的になります。
⑤ 学生たちは、まず一人で論文をじっくり読んで、できるだけ内容をつかむようにしま
す。次に、同じ組の人と集まって、内容について話し合い、疑問点を解消していきま
す。しかし、学生が自分たちだけで議論し合ってもまだ十分には理解できないところ
もあります。そこで、担当教員に質問に行くことになります。難しい論文では 1 回質
問に行くだけでは全ての内容を把握して、ハンドアウトに仕上げることはできません。
よって、何度も指導を受けなくてはなりません(学生たちには、「慣れるまでは、遅く
とも 3 週間前までに最初の質問に行くように」と指導しています)。一つの発表につき、
この事前指導の時間は合計 10 時間以上になります。
以下に、より具体的に一つの発表を終えるまでの過程を例示します。
3 月 1 日: 各自で与えられた論文を読み始め、内容の理解に努める。分からな
いところはメモ等をしておく。
3 月 15 日: 2 人もしくは 3 人で集まって、論文の内容(著者の主張)等を確か
め合ったり、難しかった点・理解できなかった点について議論し合
ったりして、自分達で疑問点の解決を図る。どうしてもよく分から
ないこところをまとめる。担当教員に指導可能な日時をメール等で
尋ねる。
3 月 21 日: 担当教員のもとで内容の確認や、疑問点についての質問を行う。
3 月 25 日: 同じような作業を行い、内容の全てをほぼ理解する。
4 月 4 日: 内容をハンドアウト(ver. 1)にまとめ上げ、担当教員に見せて、添削
指導を受ける。
4 月 8 日: ハンドアウトの改定版を担当教員に見てもらう。必要があれば再修
正を行う。
4 月 10 日: ハンドアウトを完成させる。
4 月 11 日: 1 時間半~2 時間くらいの時間で分かりやすく説明できるかどうか、
発表の担当箇所を決めて、自分達でリハーサルをしてみる。
4 月 12 日: ハンドアウトの完成原稿を担当教員に手渡す(送信する)。
4 月 13 日: 定刻に来て、発表を行う。
( 無事に終われば、次の論文に取りかかる。)
[成績評価]
前期は、「事前指導における出来具合」と「授業時の発表の出来具合」によって評価し
ます。事前指導の評価は、
(論文の)担当教員が「前もってスケジュール調整や連絡をして
36
− 32 −
きたか」、「どの学生がちゃんと英文を読めて内容を理解できているか・いないか」といっ
たことから行います。この事前指導時の評価点は全体の 2~3 割です。そして、7~8 割を
占めるのが、授業時の出来具合です。評価するのは、
「資料の出来具合」、
「発表の分かりや
すさ」、「質問に対する適切な返答」の 3 点です。この授業時の評価点は、他の二人の教員
も付けて、それらを合計(平均)していきます。さらに、発表者ではない学生たちも、分
からないところを途中で質問するだけでなく、授業の終わりにコメント用紙にその日の感
想やコメントを正直に書くように指導しています。よって、ただ座っているだけというわ
けにはいきません。また、発表者たちにもそのコメントを見せて、不十分だった点などに
気付かせ、次回の発表の改善に役立てさせます。
後期は、前期と同様の評価に卒業レポートの点数を加えて、100 点満点に換算します。
卒業レポートは 1 年間行った発表課題(論文)の中から一番関心をもったものを選んで、
それについてレポートします。レポートは論文を与えた指導教員に提出され、評価基準は、
取り上げた論文の内容をきちんと英文でまとめることができていれば「可」に相当、単な
るまとめではなく、問題点を指摘するなど、自分なりの意見が含まれていれば「良」に相
当、そしてさらに、そうした問題点を解決するための代案(新たな原理や制約の提案や、
自分の考えを裏付けるデータなど)が示されていれば「優」や「秀」に相当です。事前指
導時や授業時に、3 名の教員たちから「○○といったところがこの論文では不明確なまま
になっているから、そこを××といった観点から分析してみるといいね」というようなヒ
ントも種々与えられているので、それらを参考にすれば、学生たちはレポートで取り上げ
るべき課題を見出していくことができます。
成果・効果
卒論は、自分でテーマを決めて取り組むわけですから、苦労して書き上げた後には、自
分の作品を仕上げたような満足感が得られると思います。それに対して、卒業研究のよう
に授業に出て単位を取る形式だと、自主性・主体性・独自性などに欠ける気がするかも知
れません。しかし、我々の卒業研究には、留年者が出なくなったこと以外に、卒論執筆の
場合にはない以下のようなメリットがありました。
・ 2~3 人の組で担当・発表させることで、一人ずつに発表させる演習よりも、はるかに
高度な演習が実現しました。一人ずつに担当・発表させて、一人ずつを評価する演習
では、「できる学生はできるが、できない学生はできない」という状態になります。し
かし、グループで発表させることで、誰かが手を抜けば同じグループの他の人に迷惑
をかけたり、グループ全体の評価を下げたりするので、皆が一生懸命になります。例
えば、3 人の学生に 20 ページ分を発表させようとすると、3 分の 1 ずつ分担して、一
人が 7 ページしか読まないといったことが、普通の演習の授業ではよく起こります。
しかし、この卒業研究ではグループ責任にしましたから、誰かがいい加減な発表をし
た場合には、容赦なく、そのグループの発表を(次週以降の)やり直しにさせました。
そうすると、単にそのグループの評価点が下がるだけでなく、他のグループの人たち
と教員たちのスケジュールをも狂わせて、大変な迷惑をかけることになります。よっ
て、(発表のやり直しにならないように、)教室での発表担当箇所にかかわらず、グル
ープ全員がどの箇所でも同じように読んで理解し、答えられるように努力してくれま
す。そのため、例えば、A さんが緊張して質問にうまく答えられないと B さんがさっ
と助け舟を出す(代わりに答えたり補足したりする)、という具合になりました。
・ 3 人のグループであれば、例えば、一人は春の段階で民間企業の内定が早々と取れたが、
あとの二人は夏の公務員や教員の採用試験に向けて忙しい、というような差がありま
37
− 33 −
・
・
・
・
す。そのような場合には、時間的・精神的に余裕のある学生がハンドアウト作りなど
を中心になって行い、他の二人の負担を少しでも軽くしてやろうと心遣いをしている
様子を目にします。その代わり、後期になると、前期に負担を軽くしてもらった学生
の方が面倒な作業を率先して引き受けたりして、いわば恩返しをしています。こうし
たことを通して、それまでは大して仲が良かったわけでもない者たちが、苦楽を共に
した親友たちへと変わっていきます。
聴く側の学生にも、短時間で要点を理解しながら、分からないところは積極的に質問
して、議論を盛り上げていく楽しさを多く経験させることができました。基本的なこ
とでも恥ずかしがらずに質問してくれると、そのやり取りを聴く周りの者たちの理解
も「なるほどそういうことだったのか」と一層進みます。
一人の教員が一人ずつの学生を評価するのではなく、ペア・グループの準備や発表を
複数の教員と学生が評価する形式の導入によって、チームワークをよくする経験をさ
せることができました。お互いのスケジュールを調整して、助け合いながら、課題を
一つずつこなしていった経験は、社会に出てからもきっと役立つはずです(考え方や
好みやペースなどが違う人と一緒に仕事をしなくてはならないということは、よくあ
りますから・・・)。
卒業論文の場合には、4 年の前期の段階では、何を論じるかはまだ不明確でしょう。一
方、ここで紹介した卒業研究では、4 月や 5 月の段階で既に最低 1 回は発表を行ってい
ますから、会社の採用試験の面接で「今どんな研究をしていますか?」と聞かれたと
きに、非常に具体的に答えることができます。
(実際、某有名会社の面接試験において、
卒業研究で発表した内容を人事担当の人の前でスラスラと披露していたく感心され、
見事採用となった卒業生がいました。)
学生たちの計画性や協調性が磨かれ、また、プレゼン能力が高まるだけでなく、担当
教員の指導能力のアップにもつながっています。3 教員の合同授業ですので、あるグル
ープの発表を通して、その担当教員の指導の具合が他の二人の教員から、知らず知ら
ずにうちに評価されているわけです。よって、指導に手抜きができません。つまり、
学生たちに演習をさせながら、教員たちは同時にピア・レビューを毎回行っているこ
とになります。
専門的な論文に特有の英語表現を覚え、自分でもそうした英文が書けるようになるとか、
見やすく分かりやすい資料を作成できるようになる、といった成果があることは言うまで
もありません。3 年生までは英文をもじもじと訳すだけで精一杯だった学生たちが、難解
な内容を堂々と説明・議論できるまでに成長する様を見られるのは、嬉しい限りです。
写真: 最優秀レポーター表彰の様子
38
− 34 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
外国語の授業への動機を維持するためのレパートリー
授業科目名
初習外国語(共通教育)、外国語・文学(独語・独文学)(専門教育)
対象学生
全学部、人文学部(または研究科)1・2年生
受講者数
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、ビデオ、教科書、プリント、オーディオ、模造紙
工夫のポイント
初習外国語の授業の勉学に学生を動機づけることを工夫することで
(「シャフル」とグループ形成、意識調査、プレゼンテーション)、展
開や緊張感のある授業運びをし、学生の学習意欲を喚起する。
キーワード
クラスの雰囲気や活気づけ・関心を起し維持する・学習効果のある
評価
授業担当者名
人文学部
エムデ・フランツ
外国語の授業への動機を維持するためのレパートリー
外国語教育に関して更に新しいヒントを提供することは、陳腐な感じがします。しかし
視点を変えれば、何となく分かったような事を再発見することは出来るに違いありません。
教師が多かれ少なかれ長い教育経歴で積んだ経験を常にすべて発揮できるとは限りません
し、もうクリアしたと思われた工夫が、相手(誰か)から聞かされると新鮮に聞こえるかも
知れません。
各クラスや各年度に相違があり、前年度に抜群に効果をみせた工夫が今年度に不出来に
終わったという経験はないでしょうか。このようなムラに対して、教師として幅広い工夫
のレパートリーが欠かせません。(クラスという)相手の顔を見ず一方的に授業の計画を
固めてしまうと惨敗に終わる可能性が十分あります。従って、学期の早期から、又は各段
階においてクラスの特性に答える柔軟な対応が必要と思われます。クラス全体の状況を受
入れると同時にこれを再形成し、指導することが重要です。結局、教師とクラスの対話的
な関係を作り上げることは、一つの教育的なチャレンジだと感じます。
・クラスの雰囲気の活性化
新しいクラスには人見知りをする学生がよくいます。孤立し、コミュニケーションを避
け、パートナー練習を嫌がる学生が必ず何人かいます。初めのうちは仕方がないが、この
状態がそのまま続くと練習効果が落ちてしまうし、クラスの雰囲気は芳しくありません。
これに対して、受講生を「シャフル」していきます。過去数年前から最初の授業でドイツ
語での挨拶と自己紹介の仕方を覚えさせ、クラスメート 4 名(男女 2 名ずつ)とアトランダ
ムにインタビューをさせることにします。初めてのドイツ語で興奮し、他人に対する抵抗
を乗り越えやすい状態が生まれます。勿論、これはドイツ語に限らず、様々な科目でも色々
なきっかけで実施することが可能だと思います。
更に、抽選や数の順番でグループを形成し、課題を与えることによって、学生同士ほぼ
全員の交流があり、お互いの遠慮や恥ずかしさが減少していくことが観察できます。授業
の感想文で学生からもこのような練習スタイルが歓迎されるコメントが少なくありません。
32
− 35 −
クラス内の付きあいがリラックスして、パートナーやグループ練習に意欲を持って取り
組めることが大きなメリットです。対話パターンや会話の場面をロールプレー(例えば家族
の紹介:「こちらは母です!」など)で皆の前で披露する勇気も見られます。
活発な雰囲気を作り出すために有効なもう一つの手段はグループ・ゲームです。例えば
学生にとっては苦手な分野である単語の勉強の効率を上げるために「言葉の鎖」をつくり
ます。五,六人のグループが輪になって、メンバーひとりひとりが練習対象の単語、例え
ば携帯品、食べ物、家具などから一つを挙げます。つぎの人がそれを先ず繰り返し更に自
分の単語を加えていきます。このように 2 周、3周と回ると 15 個も 20 個もの単語の羅列
を暗唱していきます。同時に同じ単語を繰り返し聞くことになります。失敗や笑いのある
練習で相手ひとりひとりを見つめてそちらの言葉を思い出そうという雰囲気で苦手な単語
の勉強が楽しめます。
ドイツ語における男性・女性・中性という名詞の性は、日本人の学習者にとってのみな
らずドイツ語を母国語としない人々にとって正確に覚えることは面倒な作業です。これに
クラスの机の列を定冠詞の「der」、「die」と「das」のいずれかを担当するグループに分
け、定冠詞抜きの名詞を挙げ、3 秒以内に当てはまるグループのメンバーが立ち上がると
立っている人数分の点数をもらえる、間違って起きた場合に減点になるというゲームがあ
ります。学生が名詞の性別をつかもうと必死になります。こういったゲームは大学生に相
応しくないといわれるかも知れませんが、授業内容について学生に親近感を感じさせ、快
適な環境や親しみやすい感覚を作り上げるのには効果的です。そして、ゲームなどにはも
う一つの重要な役割があります。
・学生の関心を起こし保つため、学生の自らの興味・関心を調査し、意識させる
授業内容の説明を時間をかけて聞かせたり、単独にペーパー練習を解かせたりすると、
集中力が低下することは自然な現象です。受信型と発信型の時間が入れ代り、受け身にな
ったりアクティブになったりすると、心身の相互的な展開によって学生が関心を保ちやす
い授業になります。練習をグループ・ワークに変え、学生同士での課題解決が中心になる
ときは、教師のほうが相談役を務めます。多少騒がしい雰囲気の中で普段は殆ど出てこな
い質問も増えてきますので、一定の教師と学生の間に信頼感が増します。
学期の最初の授業では自己紹介の他に受講生の意識調査を行います。ドイツ語やドイツ
文化などについて口頭で話して、そして感想文も書いてもらいます。薄い予備知識やステ
レオタイプが主で、たまに詳しいことも現れてきます。重要なのは、学生全員が意外に色々
と知っていることと、あれもこれもドイツと関係しているんだという思いがけないこと、
そしてドイツに自分にとって興味のあることも幾つかがあるんだという発見で関心を喚起
することが出来ます。
新しい文化への入り口を自らの関心を持って選んでもらうために、感想文から得られた
テーマや分野において課題を作り、自由選択でグループに分けて、好きなテーマ(例えばス
ポーツ、クリスマスなどの祭り、食文化、ケルンの大聖堂、クルマ、ベルリンの壁、グリ
ム童話、クラシック音楽、ドイツの旅、黒い森などの地方紹介、その他)についてプレゼン
テーションを作成し、授業で発表するという課題を課すことがあります。語学学習が目標
ですが、関心を持ち続けてもらうためには、言葉や文化への自らの扉を発見してほしいと
いう狙いがあります。
先にもふれましたが、90 分間にわたり集中力や生産的な緊張感を維持するには更に工夫
が必要です。学生は、一日に平均数コマを受講しているので、気分転換を授業に織込むと
33
− 36 −
結果が大分違ってきます。身体的に行動させ、学生同士のインタビューなどで動かし、聞
かせたり、話をさせたり、交流させたりすることで、学生の意欲を満たすことができます。
また、様々なメディアを通じて短い映像や音楽で授業の合間に感覚的に楽しませたり、写
真や新聞によるアクチュアルなニュースを伝えることをします。機会があれば、山口にお
けるドイツ関連のコンサートや展覧会など催し物の情報を与えたり、県立美術館や YCAM
の関係者によるプレゼンテーションも取り入れることも有ります。
・学習効果のある評価
学務係の期末試験のアンケートに時々ためらうことがあります。通常は授業時間内に既
に何回もの単語テスト、小テスト、又は中型の試験も実施しているからです。欠席を重ね、
宿題も出さずに、最後になって頑張るという学生がいます。こうした学生は、試験のため
のつめ込みになり切って、「一夜漬け」の勉強も得意のようですが、残念ながらドイツ語
が身についていません。そこで評価方法を徹底的に説明することにします。授業の狙いは、
合格や単位ではなく、定期的な勉強の積み上げによって、実践的なドイツ語能力を身につ
けさせることです。従って、評価方法は、テストなどにできる限り学習効果が伴うように
行う配慮をします。小テストは学生に返して、問題点について説明し、勉強の方法の助言
を与えます。こうフィードバックをしますと、勉強態度を改善し意欲的になる学生がいま
す。
しかしテストだけのフィードバックでは不十分に感じますので、宿題も評価の対象にし
ます。ほぼ毎回宿題を課し、電子メールで送信してもらいます。全員に個別に返事を出し、
必要な場合には次回の授業で追加説明もします。受講生が 30 名を超えるとややしんどい作
業ですが、学生が自らの勉強の成果を目にし、学力向上につなげることが出来ます。そし
て教える側には、授業内容の理解度を把握できるメリットがあります。確かに進み具合が
鈍ることもありますが、受講生に理解不足が重なると関心が落ち、反発を買うことがあり
ます。受講生に練習の効率的なやり方、単語勉強のコツなど、要するに「学ぶ方法を学ぶ」
ことも一つの目標にします。学生には、その学期が終わっても学習を一生やり続ける必要
があります。「生涯学習」の時代ですから、学生の勉強意欲を教師として最も大事にした
いと思って、計画通りの内容をやり尽くさなくても、「Less is more」というモット-で我
慢します。
成果・効果
主観的な印象では、授業運営は教師と学生にとってお互いに苦痛になっていないことが
感じられます。授業アンケートによると、多少難しいと感じることもありながら、関心を
持って授業に取り組むことのできる学生が大半を占めています。
秋に山口大学でも行われている全国のドイツ語検定試験では、一年生でも3級にチャレ
ンジする学生と、高学年生で一級にチャレンジする学生がいます。そして、一年次にドイ
ツ語を自由選択で選んだ学生に人数の割りには、2,3年生で留学に出かける学生が比較
的多いと言えます。これは山口大学のドイツ語の授業で実践的なドイツ語能力を発揮でき
る証ではないでしょうか。勿論、これはドイツ語スタッフ全員の業績です。
34
− 37 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
受講意識向上のための講義支援システムの利用事例
授業科目名
デザイン情報処理Ⅰ(実習を含む。) (専門教育)
対象学生
教育学部表現情報処理コース2年生
受講者数
約 20 人
授業形態
講義(実習を含む。)
教材・メディア等
インターネット、Web 教科書
工夫のポイント
キーワード
受講態度、学習意欲、Web、インターネット
授業担当者名
教育学部
熊谷
武洋
具体的な内容
本講義においては、メディア基盤センターによる講義支援システムを活用しています。
講義支援システムはアカウントがあれば学外からのアクセスも可能となっています。
以下に講義支援システムを利用した講義展開の大まかな流れを記します。
1.出欠通知
支援システムによる電子出席は、管理画面に出欠の集計が表示されるだけでなく、受講
者自身が自分の出欠履歴を参照することが可能となっており、出欠状況を自宅からでも把
握することができます。ただし、PC の電源投入、支援システムへのログインといった一
連の操作が必要であるために、実際の出席受付時間は、本来の始業時間から 5 分~10 分程
度遅らせています。
通常講義の出席のように、挙手や返答による直接確認の方法でも教員 PC からの電子的な
処理は可能ですが、いずれにせよ講義支援システムへのログインは必要不可欠なので、多少
のラグタイムは発生します。なお着座の位置は、基本的には任意ですがプロジェクター投影
画面の視認性確保と受講意識向上のため、範囲を決めて前列に着座するようにしています。
2.講義の導入
まずは、導入としてログイン処理の間に講義内容に関連する最近話題になったトピック
等をノート PC 上からプロジェクターに投影して紹介・解説しています。受講者の意識の
切り替えがスムーズに行われ意欲が高まることを期待して映像資料を用いています。音響
設備のない教室でも比較的大きな音量で再生できるようにコンセント不要の小型 USB ス
ピーカを持参しています。
講義後においても自主的に再閲覧が可能であり、観点の共有化や意識化を促すものとい
う考えから、ネット上でアクセスできるリソースか、もしくは大容量サーバ上に用いた映
像資料ファイルをアップロードし、受講者がネット上からアクセス可能にしています。導
入の時間は解説も含めて平均 10 分程度割いています。
3.意欲・集中力維持促進のための質問と回答
導入が終わり、次いで目標の明示やプログラミングの方法などの概説を行います。この
ような座学形式は、どうしても受動的になってしまい、すぐに導入時の意欲や集中力が低
下してしまいがちになります。そこで、時に冗長で退屈に聞こえる講義説明も能動的に聞
39
− 38 −
いてもらうために説明の合間に受講者に難度の低い質問を行います。
質問の際のルールは予め決めており、講義の初回に受講者に通知します。ルールの内容
は以下のようなものです。
z 最初に質問される回答者は、AO 入試による入学者、先回の課題評価の高かった者、
ID 登録順等状況に応じて都度変わる。
z 回答者が回答できない場合、次の回答者を現回答者自身が任意に指名する。
z 質問を受けた回答者が何らかを答える(応える)ことができた場合は、回答送りの
連鎖が一旦断絶し、新規の質問は、再度最初に質問される回答者から始まる。
このルールでは、質問をされた受講者が「わかりません」「特に何もありません」で済
まそうとすると、特定の他人に不利益を生じさせてしまうことになります。そのため回答
者は何らかの応答をせざるをえない心境になります。
質問・回答行為にこうした基本ルールを定めることにより、本来の行為の機能と意味合
いが変化します。このように本講義における質問行為は受講者の理解度を確認するための
ものだけではなく、受講者の緊張感を維持することを目的として行っています。
内容理解のために必要な受講者からの質問は、講義内にその機会を設けていますが、自
分から積極的に質問をする受講者は稀です。そのような現状を踏まえた上で、実質的な質
問は講師支援システム内の質問メニューによる電子的なやりとりで行っています。
講義時間外での対応になるためデメリットもありますが、質疑のやりとりを受講者に講
義支援システム上で同報通知できるので効率性の点でメリットもあります。
4.実習と評価
能動的な参加意識や積極性を促進するために受講者自身の知識やアイデアをモチーフと
して課題の設定を行っています。そのためにプログラム言語は GUI で視覚的に処理フロー
を構築でき、その都度自在に編集・実行可能なインタープリタ型の言語を採用しています。
課題のアップロードは自宅からでも可能に設定してあるため、宿題として課すこともあ
ります。その場合、期限は 23:59 というように深夜に設定しています。
講義支援システムの設定では、過去の講義の提出課題も閲覧可能にすることができるた
め先輩らの事例を参考にすることができます。
提出された課題は、全員が相互評価できるように閲覧可能状態に設定します。相互評価
は以下のルールによって行います。
z 発表後は必ず次の発表者が現発表者の内容について質疑を行う
z 全ての発表が終了した後に一人 3 回までの挙手による評価の集計を行う
z 評価方法は、講義内で扱った機能を用いているか、独自のアイデアがあるか、主観
的な印象、3 項目によって総合評価する
z 評価対象は自分自身の提出課題作品も含める
z 結果は一覧化し、講義内で掲示した後、講義支援システム上のメールで通知する
z 最終提出課題において優れた課題作品はオープンキャンパス等の機会において活用
する
教員の成績評価の参考であると前提してはいますが、自身の成績評価に受講者が参与する
ことにより、積極性や緊張感の維持促進、顕示欲の刺激といった心理効果を期待できます。
成果・効果
1.出欠の電子化について
出欠の電子化によって遅刻者は低減しました。
40
− 39 −
2.意欲・集中力維持促進のための質問と回答および相互評価について
一般化されていない講義独自のローカルルールは受講者の同意や理解が必要です。
講義前のオリエンテーション時にその目的とするところが受講者の利益や便益のため
であることを伝え、納得したうえでの実施であることは言うまでもありません。
もちろん、前段階で全員が一様に理解し、納得するというのは難しい場合もありますが、
今の状況としては、実際に施行していく段階で受講者に受容されています。
3.提出された過去の受講者の作品を公開一括表示について
機能自体は標準的ではありますが、あえて公開一括表示することにより、優れた提出課
題作品を実際に閲覧し、自分の課題のリソースとして活用できるのみならず、学年間の交
流なども同時に促進する効果もありました。学習時の質問を教員だけではなく、上級学年
に行う機会があることにより、本来的な意味での先輩後輩意識、帰属意識の高まり、自主
的な学習意欲の向上といったことに寄与しました。
加えて、課題のアップロードは自宅からも可能、期限は深夜というこの物理条件により、
課題を基本的な学習形態として受容することが促進されました。
4.その他
PC やネットを活用した講義では、「受講者が PC 画面に過度に集中しすぎる」、「何か他
のことをやっていても気づきにくい」という指摘が少なくありません。本講義での解消法
としては、以下のような極めてシンプルな方法を採っています。
z 頻繁な机間の巡視
z ホワイトボードへの板書
z 講義者のジェスチャーによる説明
特に板書やジェスチャーについては適宜、受講者が見るべき対象の場所とタイミングを
具体的に明示しています。
「投影されているプロジェクター画面の真ん中から上を見てください」、「今の私の手の動
きを見てください」、「これからホワイトボードに書くので見てください」
常に受講者にアイコンタクトを行い、視線を移動していないなら注意を都度行っていま
す。このことにより、受講者に視線の迷いが無くなり、テンポが生まれ、受講リズムが形
成されてきます。そうしたテンポやリズムが希薄になりがちになると、受講者が PC 画面
ばかりを見つめはじめ、場合によっては講義と関係の無いサイトを閲覧したりするように
なることを本務校や非常勤の講義で数多く経験しています。スレート PC やタブレット PC
が普及すれば、PC を用いた講義でも講義者の離席が容易になり、よりアクティブな講義
スタイルが物理的に可能になるだろうと予想されます。
このように PC を積極的に使う本講義では、講義者の身振り手振りやボードへの板書と
いったような PC とは対極的なアナログ的行為が授業展開において重要な位置にあります。
5.まとめ
受講者人数の規模や講義分野によって講義展開の方法やアイデアは様々考えられます
が、本講義において一番重視している点は、「“学び”に対して受講者が自信を持つ」とい
うことです。デザイン情報処理という分野の性格上、多岐に渡る知識や感性が求められま
す。萎縮する前に、いかに自信を持ってもらうか、ということが方策の動機です。自信は
エネルギーでもあり、エンジンでもあります。自信というものは総合的・集約的なもので
あるために、講義という限定された条件下だけで形成・発露するようなものではありませ
んが、講義自体がその自信が作られていく契機となることで相互的な作用があるものと期
待しています。
以上
41
− 40 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
外部人材を活用した授業づくりの工夫
授業科目名
教職概論(教職に関する科目)
対象学生
教育学部(1年前期開講)
受講者数
250 人(学校教育教員養成課程 120 人と他課程等 130 人での 2 編制)
授業形態
講義、小集団による演習等
教材・メディア等
講義:PC(パワーポイント等)、DVD、学習プリント等
小集団演習:PC、ビデオ、OHC、プレゼン材料等
工夫のポイント
受講生の授業や学習内容に対する関心意欲を高め、実践的、実感的
理解を深めるため、現職教員や上級生等外部人材を積極的に活用す
る工夫をしています。
キーワード
人材活用、学外連携、学部附属連携、現職教員、異学年交流
授業担当者名
教育学部「教職概論」講義運営チーム(村上清文、久保田尚、霜川
正幸、鷹岡亮、高橋雅子、長谷川裕)
具体的な内容
1.「教職概論」の目標と授業改善
「教職概論」は学部入学生の 95%近くが受講する教職スタート科目です。そこで、私た
ちは「教職概論」の目標を次のとおり確認して授業づくりを行っています。
① 教職をめざす学生に、教職の魅力、やりがいや使命感等を理解させることをとおし
て、教職への情熱や志向性、今後の学びに対する意欲を育む。
② 教職をめざす学生に、本学部の教員養成カリキュラムを理解させることをとおして、
様々な学びや活動に積極的に取り組もうとする態度を育てる。
③ 教職をめざす学生に、教職や学校教育等についての基礎的知識、技能等を学ばせる
ことをとおして、教員としての見方考え方や指導方法等について理解させる。
受講生をこの目標に近づけるには、学習内容を具体的、実感的に理解させ、自分のこと
としてとらえさせる必要があります。現場での教育実践や在学中の学習等の様子を、具体
的に、いきいきとした教師や学生の姿とともに感じさせ、教職の魅力やあこがれ、教職を
目指す諸活動への意欲を持たせることが必要です。
そのために、私たちは教育委員会、附属学校園等との連携や在学生、卒業生からの人材
発掘を進め、積極的な外部人材の活用による授業改善に努めています。
2.外部人材を活用した授業づくり(実践事例)
(1)現職教員を活用した「教職座談会」
6 月には、附属学校園教員と公立学校教員 11 人の現職教員
を指導者として招聘し「教職座談会」を実施しました。教員
の実践報告の後、質疑応答、協議や意見交換等を行いました。
受講生からは授業づくり、いじめや不登校、通常学級にお
ける特別支援教育、保護者対応から教員服務、福利厚生に至
教職座談会の様 子
るまで幅広い質問や意見が出され、また現職教員からは、教職の魅力、やりがいや子ども
のよさや魅力等がいきいきと語られ、教職、子どもや教育等について具体的なイメージを
持つことができたようです。
42
− 41 −
(2)先輩学生を活用した「先輩学生と語る会」
7月には「先輩学生と語る会」を2週連続で行いました。
第 1 回は教育実習経験学生 11 人を呼び「教育実習について
先輩と語る会」を行いました。上級生は自らの教育実習を振
り返り、教育実習の意義、概要、成果や後輩に対するアドバ
イス等を発表し、その後協議や意見交換を行いました。
第2回は、教職ボランティア参加学生 11 人を呼び「教職ボ
先輩と語る会の様子
ランティアについて先輩と語る会」を行いました。上級生が
プレゼンテーションの形で、在学中に取り組める活動の紹介、活動での成果や後輩へのア
ドバイスを行い、質疑応答や意見交換等も行われました。
両会とも、身近な上級生から直接、教育実習や教育ボランティアの実際、魅力や厳しさ等を聞
くことができ、今後自分が取り組むべき課題や姿勢を考える上で大変効果があったようです。
(3)卒業生を活用した「先輩と教職を語る会」
「教職概論」講義のまとめにあたって、学部 OB で教職経験
3 年目の現職教員を講師に招聘し「先輩と教職を語る会」を
行いました。現在までの取り組み、学級担任、学年や校務分
掌にかかる業務、保護者や地域とのつながり等の経験につい
て、画像や子どもの声等を盛り込んだ具体的な報告をしてく
れた後、子どもや教職の魅力、教員として教育に携われる喜
先輩と教職を語る会の様子
び等を具体的にいきいきとした表情で報告してくれました。
また、自身の学生時代の反省、学生時代にやっておきたい事柄等について、採用後の業
務との関わりをふまえて説明してくれました。OB というつながりが親近感を生み、自分自
身の将来像を描きながら学んでいたようでした。
成果・効果
日々、子どもと関わり教育実践を積み重ねている現職教員や、身近な上級生等の活用に
よる授業は、受講生の実践的、実感的理解を深め、授業や教職キャリア形成に向けた取り
組みに好影響を与えています。受講生の感想を以下に示します。
「現場の先生方の生々しいお話から、現在の学校や教育現場の厳しさ、難しさを感じた。しかし、
それを超えるやりがいや喜びがあり、子どもとともに成長できる魅力があると嬉しそうに言われ、なに
か温かくなった。大変なことも分かったが、それでもなってみようかと思った。
(教職座談会を終えて)」
「教育実習はまだまだ先のことで何も知らなかったが、具体的に説明して貰い少し分か
ってきた。しかし、それ以上に、上級生は話すのが上手い。自分もあのように話せるよう
になるのか不安になった。(先輩:教育実習経験者と語る会を終えて)」
「元気の良い先輩、いきいきと笑顔で話される先輩、声の大きい迫力有る先輩が多いと
思う。何事にもチャレンジする、良いと思うことは即やるという人が多い感じがして、そ
ういう人が教員には向いているんだろうと思った。自分自身を変えていく気持ちが必要と
感じる。(先輩:ボランティア経験者と語る会を終えて)」
「教職 1・2 年目の苦労を聞いて、やはり教員は大変で力が要ると思った。しかし、それ
を乗り越えた先にあの喜び、表情や笑顔があるんだろうと思う。乗り越えられるもの、力や
その源はなんだろうか。自分自身で考えてみたいと思う。(先輩と教職を語る会を終えて)」
「○○先生の笑顔、子どもたちの表情が本当に素敵だと思った。子どもの可愛さ、純粋
さ、それに関わる先生の楽しさや教職のすばらしさを感じた。自分の学科の先輩でもあっ
て嬉しかった。(先輩と教職を語る)」
43
− 42 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
模擬授業で学習指導力を身につける方法
授業科目名
家庭科指導法Ⅲ(学部専門教育)
対象学生
教育学部3年生
受講者数
約 20 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、ビデオ、中学校教科書、ワークシート
工夫のポイント
・グループ学習により、積極的に授業参加できるよう工夫していま
す。
・授業観察の視点を明確にすることにより、授業分析能力を養うよ
う工夫しています。
・模擬授業の実施により、授業構成能力を養うよう工夫しています。
・学生司会のディスカッションにより、話し合いを進める能力を養
うよう工夫しています。
キーワード
模擬授業、ディスカッション
授業担当者名
教育学部
西敦子
具体的な内容
[模範となる授業を見る]
模擬授業を行う前に、模範となる授業を観察します。授業観察の視点を明確に捉えるこ
とにより、授業構成の要点を押さえることができると考えます。3 人グループになり、グ
ループ内で話し合ったことを代表者が発表します。発表後に、教師が解説してまとめます。
授業観察の視点について、ここでは、附属中学校教員による「大根を選ぶ」の授業を例に
述べます。
<教材研究について>
・複数の店に行き、売られている大根の情報(種類、産地、価格、大きさ、売り場の状況
など)について調べている。
・トレーサビリティを活用して、大根を出荷している農家に取材している。
・複数の大根の試食。
・有機栽培やエコファーマーなどの用語・マークについて調べる。
<授業構成について>
・導
入:実物の大根を提示して学習者の興味を引きつけている。
・教材教具:①学習者全員が大根の食べ比べができるように、試食を用意している。その
際には、短時間での配付、衛生的な扱いなどを考慮し、トレイ、容器、フ
ォークなどが準備されている。
②学習の流れに沿ったワークシートが授業の途中で配付されている。
③板書を時間短縮すると同時にキーワードを意識づけるために、黒板に貼り
付けるカードが用意されている。
・発
問:基本発問は1ないし2である。
・学習形態:一斉 → ペア → 班 → 一斉 → ペア → 一斉 と変化している。
44
− 43 −
<教師の指導力>
・明るい表情やはきはきとした言葉は、学習者に安心感を与えている。
・教室全体を見渡しながら、学習者の発言に対して丁寧に対応している。
・机間指導により、班や個人への支援を行っている。
・適宜、学習者に質問の機会を与えている。
など
授業観察後に、学習指導案に表すとどのようになるか、配付して確認します。学習指導
案の書き方は、このときに学習します。
[模擬授業の方法]
① 学習指導案を配付します。授業者が準備をしている間に、できるだけ指導案に目を通
すよう指示します。ワークシート配付のタイミングは、授業者が決めます。
② 模擬授業を開始します。授業は 50 分で計画しますが、1つの模擬授業に与える時間は、
およそ 25 分としました。中学生に 5 分与えるところは大学生なら 2 分に短縮するなど
して 25 分でできるところまで授業をし、残った学習活動については、口頭で解説させ
ました。この方法ですと、1 コマに 2 名の学生の模擬授業が可能です。授業する場面は、
指導案の中から興味深いと感じる学習活動を選んで行わせますが、多くは、導入部分
を指示します。
③ 学生の司会により、ディスカッションを行います。司会者は輪番制で、以下のことに
留意して話し合いを進めます。
・授業者から、補足説明や話題にしてほしいことはないか。(あれば、それが協議の中
心となります。)
・目標設定は適切か、また、目標が達成できる学習過程となっていたか。
・授業構成は適切か。代替案は考えられないか。
・教師の態度で取り入れたい点や工夫すべき点はどこか。
④ 教師がまとめを行い、レポートの提出を指示します。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・授業観察の視点を明確にすることで、授業分析能力が高められたと思います。そのこと
が、自分が授業をつくるときの観点ともなり、授業づくりに有効に働きました。
・模擬授業では、生徒の反応によって、教師の臨機応変な対応が求められます。生徒との
双方向性の授業を実現するために必要な教師の自信や柔軟な思考は、十分な教材研究に
裏打ちされることを実感できたのではないかと思います。
・ディスカッションを取り入れることで、自分とは異なる視点の考えを認めたり新しいア
イデアに気付かされたりして、仲間からの刺激を受けることができました。また、人と
は異なる自分の主張点も自覚できたのではないかと思います。司会を担当すると、授業
の見方もかわるようでした。
[課題]
一番の悩みどころは、時間不足です。授業時間の 25 分、協議とまとめを合わせて 20 分
は、本当に駆け足で進めなくてはなりません。解決の方法として 2 人 1 組で模擬授業を行
うことが考えられますが、学生からは 1 人 1 授業の方が真剣に取り組めるという声を聞い
ています。
45
− 44 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
習熟度に差のある科目に対する授業の進め方
授業科目名
情 報 リ テ ラ シ ー 演 習 (共 通 教 育 )、 プ ロ グ ラ ミ ン グ 演 習 I(専 門 教 育 )
など
対象学生
理学部 1 年生(情報リテラシー演習、プログラミング演習 I)
受講者数
約 60 人(情報リテラシー演習)、約 40 人(プログラミング演習 I)
授業形態
演習
教材・メディア等
ホームページ、パワーポイント
工夫のポイント
• すべての学生が取り組める課題設定。
• 課題をほぼ毎回課し、メールで提出。
• 授業に関する要望等の意見収集。
キーワード
メール、ホームページ、学習支援
授業担当者名
理工学研究科 浦上直人
具体的な内容
【問題意識】
他の授業に比べ、コンピュータ関係の授業は、授業開始時点で学生の習熟度にかなり差
がある場合が多いと言えます。特に、情報リテラシー演習では、必修科目であるため、word
や excel に対して、かなりの使用経験を持つ学生から、全く使用したことのない初心者ま
で履修します。このような授業では、できる学生に進行スピードを合わせても、初心者に
合わせても、どちらからも不満が出ますし、真中に合わせた場合は、逆に中途半端な授業
となってしまい、進め方自体が難しい授業だと言えます。
【授業のポイント】
・ 授業の進行スピードは、できるだけ初心者に合わせる。不満を口に出すのは、大抵で
きる学生です。ついついそちらに授業の進行速度を合わせがちですが、初心者の方が
人数としては、はるかに多いものです。そのため、初心者に合わせる方が、全体の不
満は少なくなります。また、初心者のための授業と言うことを開始時に明言しておき
ます。そうすることで、できる学生もそういう意識で授業を聞いてくれます。
・ 課題は、初心者用とある程度できる学生用の 2 つ用意します。どちらを選択するかは、
学生に任せます。
・ 課題提出は、メールで行います。メールでの提出は、単に紙でレポートを受け取るよ
りも、授業の進行速度など、学生からの意見を聞くことができます。
【方法】
ここでは、情報リテラシー演習をもとに説明します。
(1) ホームページを利用し、word や excel の最低限の使用方法を説明します。
(2) 各自、word や excel を使用して、課題に取り組んでもらいます。授業での課題は、word
や excel に関する「使用説明書」を作成することです。
例えば、word では、
・フォントや文字の大きさの変更
・箇条書き
46
− 45 −
・表の作成
・数式の入力
など、レポートを書くために必要な操作方法を解説したものを word で作成してもらい
ます。excel の場合は、excel を使用して作成してもらいます。
(3) 「使用説明書」の内容は、単に言葉だけで説明する場合の例と、図などを使用して操
作方法が視覚的に分かる場合の例を示します。どちらの「使用説明書」を作成するか
は学生に任せます。当然、word の使用に不慣れな学生は、前者を選びますし、慣れて
いる学生は、後者の方法で説明書を書きます。また、ルーラーの使用方法やファイル
の暗号化など、課題にない操作方法を「使用説明書」に加えた場合は、加点するよう
に学生に伝えます。要するに、できる学生の「のびしろ」を十分に取ることが、ポイ
ントです。
(4) 作成した課題はメールで提出してもらいます。この際、メールの本文に、課題や授業
の感想などをできるだけ書くようにしてもらいます。そうすることで、学生が授業中、
どのようなことを感じたのかを知ることができます。私の授業では、メールの送信テ
スト、word と excel のレポート提出時、計 3 回、意見の収集を行っています。授業時
間数が 7 回ですから、かなりこまめに意見を収集していると思います。
(5) レポートを受け取った趣旨のメールを返信します。その際、メール内容やレポートに
関するコメントを書きます。メールだとレポートがうまく送信できていない場合もあ
りますので、学生には、私からの返信メールを受け取った時点で初めてレポート提出
が完了することを、何度も伝えておきます。
【TA の利用方法】
TA からの情報収集は重要です。TA の方が受講生と話す機会が多く、受講生がどのよう
に感じているのかは、TA の方が良く知っています。また、TA には積極的に受講生に話し
かけるようにしてもらっています。
成果・効果
【成果・効果】
平成 23 年度情報リテラシー演習の学生アンケートの結果を見ると
・ あなたは、この授業の内容を理解できましたか? 4.29 (平均 4.07)
・ この授業は、あなたにとって満足のいくものでしたか?4.26 (平均 4.06)
でした。私の授業では、どちらも平均値を超えており、ほとんどの学生が 2 つの項目で、
「そう思う」、「ややそう思う」と回答してくれています。授業の進め方としては、ひとま
ず成功したと思います。
また、学生からの意見も、ほとんどが肯定的であり、幸いにも進行速度が遅いと言った意
見はありませんでした。しかしながら、
「何を言っているのか分からない時がある」と言っ
た意見もあり、初心者に合わせるとはいえ、まだまだ丁寧に説明する必要があると言えそ
うです。
【課題】
今回の説明した方法は、当然のことながら講義形式の授業には、あまり適応できません。
学生が多様化する現在、今後、講義でも有効な方法を考えていく必要があるでしょう。
47
− 46 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
化学の見える化
授業科目名
無機化学(専門教育)、配位化学(専門教育)
対象学生
工学部2・3年生
受講者数
約 80~100 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、プリント、パワーポイント
工夫のポイント
授業は通常の講義形式です。
「化学」は初めて習うものではないので、
小・中学校~高校の化学とのつながり、既に習った大学の科目との
つながり、各授業間のつながりを意識させ、化学の「森」と「木」
が見えるように心がけています。また、言葉ではなく、イメージを
掴むことで「使える化学」を身につけることを目標にしています。
キーワード
化学の目、つながり、エネルギー、板書
授業担当者名
工学部
中山雅晴
具体的な内容
最初の授業で…
・最初の授業をガイダンスとし、授業を通し
ての目標と私自身の考え方をパワーポイント
スライドにして示します(図 1 参照)。「大学
の授業は難しい」という先入観を与えるとす
ぐに意欲が低下するので、
「 当然理解できるも
の」と思わせる必要があります。この点で消
化不良を起こすような難しい教科書は使いま
せん。
・言葉(専門用語)と現象が遊離していると、
「化学は暗記するもの」と思われがちです。
授業では、できるかぎり専門用語から現象が
「見える」よう働きかけています。新しい専
門用語がまったく初めてのものではなく、実
は身近に経験したこと、あるいは小・中~高
校で何度も習ったことが姿を変えたものであ
ることを酸解離定数、標準電極電位を例にと
って説明しています(図 2)。
・化学で出てくる数式についても「解こう」
とする気持ちを抑え、この式が何を言ってい
るのか?をまず理解することが大切であるこ
とを教えます。
・
「化学の目」として、平衡論(熱力学)と速
度論的な見方を掲げ、誰でも知っている水の
生成反応を例にとり、化学反応の基本的な見
方を最初にインプットします。また、
「縦軸に
48
− 47 −
図1.ガイダンスで使うスライド1
図2.ガイダンスで使うスライド2
エネルギー、横軸に距離」はとても化学らし
い考え方なので、水素分子の核間距離とエネ
ルギーの関係を例にとり、あえて最初の授業
で触れています。
2回目以降の授業で…
・2 回目以降はパワーポイントではなく、ホ
ワイトボードを使います。ホワイトボードマ
ーカーは備え付けのものではなく、
「平太」の
見やすいものを持参しています。私自身の経
験から、勉強は試験前に集中してやるもので
あり、後からでも見やすいノートを作ってお
くことは学生にとって非常に重要です。この
図3.ガイダンスで使うスライド3
点で、階層性を気にしながら整理して板書し
ています。学生にとっては書くことそのものが勉強・理解であり、ノートに書く時間を十
分与えるよう心がけています。
・板書では図を多用し、「見える化」を心がけています。
・授業の始まりには毎回「前回のハイライト」を示し、今週の授業とどのようにつながる
かを明らかにしておきます。15 回の授業がつながって初めて 1 話が完結することを了解し
てもらっておく必要があります。
成果・効果
・上記のような工夫なので、目に見える成果・効果はありませんが、人数に関わらず静か
な環境が保たれているので学生も真面目に取り組んでいるものと理解しています。学生が
真剣だとこちらも集中できるので相互に良い効果をもたらしているのかもしれません。
49
− 48 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
問題演習の効果的な実施による基礎学力の定着に向けた工夫
授業科目名
電気回路Ⅱ(学部専門教育)
対象学生
工学部2年生
受講者数
約 100 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、演習用プリント
工夫のポイント
週2回開講されるメリットを生かすために、1回を講義の時間、も
う1回を演習の時間と区別して、徹底した問題演習を実施すること
により、学生の能動的な取り組みを促しています。
キーワード
徹底した問題演習、能動的取り組み
授業担当者名
理工学研究科
山田陽一
具体的な内容
[問題意識]
・電気回路は電磁気学とともに電気電子工学科の基盤科目(必修科目)であり、全ての受
講生の理解度を、ある一定の基準以上に到達させる必要があります。
・講義内容を理解するスピードには個人差があります。
・学生が講義を聞いてその内容を理解できたと感じているレベルと、実際に演習問題を解
くことができる能力のレベルにギャップがあると感じています。
[授業のポイント]
・講義内容の理解を促進するために徹底した問題演習を実施しています。毎週、試験形式
の問題演習を実施することにより、学生に自らの理解の程度を自覚させ、授業時間外に
おける自主的な学習を促しています。
[方法]
・1週間に2コマ分開講されるメリットを生かすために、各週の最初の1コマを講義の時
間、残りの1コマを演習の時間として区別しています。
・講義の時間は板書をする努力を惜しまず、授業外学習の際に分かりやすい講義ノートと
なるように丁寧な板書を心掛けています。
・演習は毎週試験形式で実施し、その週の講義の内容に関連した演習問題に取り組ませる
ようにしています。
・個々の学生の理解度に応じて演習の時間を有効に利用させるために、講義内容の理解が
遅れている学生に対しては、解らない演習問題は教科書や講義ノートを参考にしながら
解答してもよいことにしています。
・演習の時間中は教室内を巡回し、学生からの質問を個別に受け付けています。
・演習の答案は毎週提出させて、全て採点しています。採点に際しては、教科書や講義ノ
ートを参考にして解答したか否かは不問としています。採点済の答案は模範解答例とと
もに翌週の演習の時間に返却し、授業時間外における学生の自主的な学習をサポートし
ています。
・期末になると学生に対してアンケート調査を行い、それまでの半期に実施してきた演習
50
− 49 −
問題の中から難解な問題をピックアップさせます。学生からのリクエストが多い順に、
再度、その演習問題に対する基本的な考え方、解法の解説をしています。
成果・効果
・学生による授業評価の結果から判断すると、前述した方法の満足度は高いようです。
・演習への取り組みをみると、多くの学生は、当方の狙い通り、毎週、自分自身の実力試
しという意味を込めて問題演習にチャレンジしており、試験形式での演習の実施は一定
の成果をあげているようです。
・しかしながら、演習の時間が始まると同時に、教科書や講義ノートを広げて解答を始め
る学生もおり、そのような学生の数が年々増えています。講義の時間に集中できていな
いこと、授業外学習の習慣がないことなどが、演習の時間を単なる復習の時間にしてし
まっている要因であると考えられます。
51
− 50 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
様々な生物の事象を有機化合物レベルでとらえ考察できる能力を身
につけるための工夫
授業科目名
天然物有機化学、機器分析化学
対象学生
農学部2・3年生
受講者数
約 50 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、教科書、プリント
工夫のポイント
小テストを毎回実施し、講義の開始時に、前回の授業の復習と小テ
ストの解答を行い、有機化合物の構造や化合物名を常に手書きし、
記憶する工夫をしています。
キーワード
小テスト、復習、手書き、記憶
授業担当者名
農学部
赤壁善彦
具体的な内容
農学部において、基礎分野として有機化学が重要であるにもかかわらず、十分な授業の
提供ができていないため、より効率の良い学習を心がけ、以下のような方法を実践してい
ます。
<初回の授業>
シラバスに示してある内容をもとに、15回の授業の内容と進め方、授業評価方法(出
席の取り方、小テスト、期末試験)を説明して、授業を開始します(授業中の工夫に関し
ては、3 の項目を参照)。授業の最後に、説明した内容から出題して、小テストを行います。
<毎回授業の方法>
1. 前回の授業の復習
前回の授業の内容の重要な点を繰り返し説明し、各自で復習する時間を与え、内容にで
てくる有機化合物や化合物名が確かな記憶に残るように工夫します。
2. 前回の小テストの解答
前回の小テストの問題を説明して、復習の内容をもとに各自で考える時間を与え、その
後、解答を詳細に説明します。また、間違いの多かった問題、間違え易い点の注意を行
い、再度、問題の解答を各自で手書きする工夫をします。
3. 授業内容
教科書の内容の説明の際、説明不足な点はホワイトボードに書き、常にノートや教科書
へ手書きすることを促します。また、各節ごとに練習問題を行って、解答を説明する場
合も、構造式や化合物名を各自で手書きする機会を与える工夫をします。なお、必要に
応じ、配布する資料は、一部空欄として、構造式、化合物名、専門用語などを各自で記
入するように工夫します。
4. 小テストの実施
必ず、有機化合物の構造式を問う問題とその化合物名に関する問題を小テストに含め、
各自で繰り返し手書きする工夫します。
<最後の授業>
これまでの14回の授業の要点を説明し、期末試験の出題形式、採点方法、評価方法を
説明し、必要であれば資料を配布します。最後に、学習した内容全てと結びつけられる身
52
− 51 −
近な生物の事象において関連する有機化合物を各自で複数取り上げて考察する小テストを
実施し、有機化合物をより身近なものと感じることができるように工夫します。
なお、後期の授業の場合は、冬休みの期間があるため、年明け最初の授業では、昨年の
内容の復習をかねて、中間テストを実施します。
成果・効果
1. 前回の授業の復習による効果
一週間経つと、前回の授業の内容や記憶したものが曖昧となり、新たな内容との結びつ
きや理解が得にくくなります。そこで、重要な点を繰り返し説明することによって、各
自で復習する時間を最初に与えると、前回の内容やでてきた有機化合物や化合物名が確
かな記憶に残り、新たな内容の理解力も高まります。
2. 前回の小テストの解答による効果
一週間経つと、前回の小テストの問題や解答した内容自体も曖昧となります。そこで、
再び問題を呈示し、各自で考える時間を与え、その後、解答を詳細に説明して、再度、
問題の解答を各自で手書きさせ、間違いの多かった問題、間違え易い点の注意の説明も
聞くことによって、より効果的な復習ができます。
3. 授業内容における効果
教科書の範囲だけでは説明の不十分な内容も含まれます。そこで、不足な点は、あえて
ホワイトボードに書き、常にノートや教科書へ手書きすることを促します。また、学習
した内容の理解を確実なものとするため、各節ごとに直ちに練習問題を行って、構造式
や化合物名も含め各自で手書きするように促します。さらに、必要に応じ、配布する資
料がある場合は、一部空欄として、構造式、化合物名、専門用語などを各自で記入する
ようにします。このように、教科書やスクリーンを眺めるだけでなく、絶えず各自で手
書きする習慣を与えると、より正確な理解を求めることができます。
4. 小テストの実施による効果
毎回ごとの授業の内容全般をどの程度理解できているのかが不明です。そこで、有機化
合物の構造式を問う問題やその化合物名に関する問題も小テストに含め出題すると、理
解できていたつもりでも、手書きすることによって分かっていない内容が明白となり、
各自の理解度の向上と再学習ができます。
以上の方法を毎週実践することの成果として、有機化合物の構造から化合物名、化合物
名から有機化合物の構造がイメージでき、様々な生物の事象を有機化合物レベルでとらえ、
考察することが養われると思います。
53
− 52 −
第2章
実践編
工夫の種類
2.授業の展開方法
テーマ
学生に自己習熟度を思い起こさせる
授業科目名
獣医病理学各論 (専門教育)
対象学生
農学部3・4年生
受講者数
約 30 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、副読本
工夫のポイント
キーワード
教科書中の専門用語
授業担当者名
農学部
森本將弘
具体的な内容
特に紹介したい工夫があって書いているのではなく、立場上、担当者として指名されてし
まったので、現状を書きたいと思います。ここに書く内容は、何も特別な工夫でも無く、
多くの先生方もされている事だと思います。
[問題意識]
・国家試験に対応して教授範囲も示されており、配当時間内にそれらを網羅的に示すだけ
でも困難な状況があります(一回に 30~40 の疾患の説明)。
・講義の中で話さない項目があると、講義で聞いていないとの批判を受けることもある。
・上述の状況では、配当時間内で一つの課題に時間をさけない。
・自発的に講義外の時間を使っての学習をしないと内容を消化できない。
・この様な状況では、各自に自覚を持ってもらう事が大切だという問題意識の中で、自分
なりの少しの工夫をしてみました。
[授業のポイント]
・教科書中には、既修得科目での専門用語は特に説明も無く、教科書を読んでいるだけで
字面を記憶しても内容を理解できないため、理解していない事を自覚させることが自発的
に学習する切掛けだと思いました。
[方法]
・教科書でその様な用語が出てくるたびに、簡単に学生たちに質問し、意識を促すように
しました。
成果・効果
・既修得の内容を十分に整理出来ていないのは自分の責任であるとの認識は生まれたと思
います。
・授業は聞いているだけで、それを覚えると言う受け身の姿勢ではやり過ごせない状況で
有り、自分自身の学習は必須であるとの認識は出来たと思います。
54
− 53 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
PowerPoint をノート代わりに利用する工夫
授業科目名
教育工学 I(学部専門教育)、情報科教育法 I(学部専門教育) など
対象学生
教育学部2年生(教育工学 I)、教育学部2年生(情報科教育法 I)
受講者数
約 15 人(教育工学 I)、約 30 人(情報科教育法 I)
授業形態
講義
教材・メディア等
Powerpoint(Word)、プロジェクタ、授業 Web
工夫のポイント
・ 主体的に知識構成するための手段としての Powerpoint の利用。
・ 「次回に発表させられるかもしれない」という学生の緊張感と目
的意識を持たせるために、前回の授業要約を発表させる工夫。
キーワード
知識構成、ノートテイキング、Powerpoint、プレゼンテーション
授業担当者
教育学部
鷹岡亮
具体的な内容
[問題意識]
・ 授業におけるコンピュータ利用は、学生を Web やゲームに夢中にさせてしまう危険も。
・ 講義中心の授業に緊張感を持ってのぞんでもらえないだろうか。
・ これらの問題意識のもとで、少しだけ授業を工夫してみました。
[授業のポイント]
・ 学生に Powerpoint でノートを作成させるだけではなく、そのノートを授業内で活用す
るところがポイントです。
[方法]
「授業まとめノート」について
・「授業まとめノート」作成方法の説明例
指定された日だけ!
9作業内容
‹1日分の授業を1分間で説明できる(理解できる)ように,PowerPoint 1ページ に
『 1 日 分の 授 業 を 1 分 間 で 説 明で き る ( 理 解 でき
図や表などを利用して授業内容の要点をまとめて下さい.
る)ように,PowerPoint 1ページ に 図や表など 9授業内での活用
‹ 「授業最後のまとめ」もしくは「授業最初の復習」として,1~数名を指名して,1分
間で発表(説明)してもらう予定です.
を利用して授業内容の要点をまとめてください.』
9出欠への活用
[提出期限]
・「授業まとめノート」授業内活用の説明例
・指定された回は, 原則, 19:00 までに提出すること。
[提出方法]
・[email protected] 宛に送付すること。
『「授業最後のまとめ」もしくは「授業最初の復習」 ・件名は,◯月△日出席【氏名(学部)】とすること。
・PowerPoint のファイル名は、氏名(学部).ppt とすること。
として,1~数名を指名して,1分間で発表(説明) ・出席メールは、PowerPointファイルを添付して送信すること。
・メールの件名は「◯月△日出席【氏名(学部)】」とすること。
してもらう予定です.』
図:「授業まとめノート」の説明ポンチ絵
授業まとめノート
○○学部
□□ △△
1page
○月△日
○月△日
………
………
2page
以降
[備考(こんなふうにしても…, こんなところにご注意を!)]
・ 作成方法の説明時に、文科省等の答申・報告書などの概要(ポンチ絵)を提示すると学
生さんの作成イメージがつくと思います。
・ 優秀なノートだけではなく、問題ありのノートの提示も有効な教育手段になります。
・ ノートを学生間で相互評価をさせることも可能だと思います。
成果・効果
・ノート作成のなかで「授業キーワード」を聞きとる(読みとる)ことができつつあります。
55
− 54 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
芸術系の授業で写真を使って細密描写の描写力を効果的に養う方法
授業科目名
絵画 II(学部専門教育)
対象学生
教育学部2年生
受講者数
約 10 人
授業形態
実技
画板、画用紙(A1)、鉛筆 2H〜6B、練り消しゴム、定規、水張りテープ、
教材・メディア等
ストラップ等の小物、デジタルカメラ、PC、画像処理ソフト、プリンタ
ー、高画質プリント用紙
・絵画の実技に関する授業で、デジタルカメラ、PC、画像処理ソフト、
プリンターなどを使い、プリントアウトした写真画像を使用。
工夫のポイント
・フォトリアリズムとして A1 大の画用紙に鉛筆で拡大描写することに
より、普段の素描実技では気づきにくいモチーフの細部描写を無理なく
行う事ができるよう工夫した。
キーワード
デッサン、描写力、フォトリアリズム、写真画像(画像処理ソフト)
授業担当者名
教育学部
中野良寿
具体的な内容
[問題意識]
・絵画実技の実習を行う際、静物画におけるデッサン力は、素描や油彩画を描く際の極め
て重要な基礎力となります。このデッサン力は持続して行う身体的な訓練、対象物を理性
的に理解する事、また3次元のものを2次元の平面に置き換えるという能力にも関係しま
す。この対象物を平面に描く作業の中で、絵画におけるデッサンのアカデミックな指導法
に従えば、学習者はまず形や空間、量感、陰影など対象物における特徴をおおまかに捉え
ることから始めねばなりません。それからさらに細部まで適切に描けるようになるにはか
なりの訓練期間が必要となります。また、授業時間数には制限があり学習者は細部の描画
まで十分に時間をさく段階にまでいたらないのが絵画の実習の現状です。
・特に対象物が生ものであった場合には形態や位置、光の方向が変化して必ずしも同じ条
件の下で描けないというジレンマを学習者は感じます。つまり、初心者の学習者にとって、
細部を落ち着いて描くという時間配分が難しいのです。そのため対象物の細部を描く能力
は初心者あるいは中級者の学習者にとって、あまり訓練されないままになる可能性があり
ます。
[授業のポイント]
・この講義でとりあげた写真を利用した課題では対象物のおおまかな形や陰影については
写真からトレースすることができるため、上記のような初・中級の学習者にとって細部を
描くことに集中することができるというメリットがあります。またその経験により、デッ
サン力の総合力を高めることに寄与することがこの授業のねらいとなります。
[方法]
・具体的な方法としては画用紙の上に罫線を引き鉛筆を使い、A4 サイズの原画にあたる写
真を A1 サイズのパネルに拡大トレースして、それをもとに描画してゆくいわゆるフォトリ
アリズムの手法を用いました。
56
− 55 −
<作業行程>
1)モチーフの選択:身近にある小物を用意。普段から慣れ親しんでいて思い入れのある小
物が望ましい。大きさは 3cm〜15cm くらい。
2)モチーフを撮影:白い紙を使って台の上に作った専用の撮影ブースに撮影する小物をの
せ、クリップランプを使ってモチーフを照らす。デジタルカメラを三脚に固定して撮影す
る。対象物の背景は白く、できるだけ影がでないようにしたい。(ディフュージョ
ン・フィルターを背景につかうと照明が映り込むのを避ける事ができる。)
3)画像の補正:撮影された画像を PC に取り込み、画像処理ソフトを使って白黒の画像に
変換。コントラスト等の補正を行う。
4)画像のプリントアウト:加工した画像を PC 用のプリンターを使ってプリントアウトす
る。使用するプリンター用紙は EPSON や CANON の光沢紙を使用。
5)升目の作成:画用紙を水張りした A1 パネルと同じ比率になるように A4 の写真にガイド
になる升目をほどこす。同じ比率で A1 パネルにもガイドの線を薄く引く。
6)描画:原画写真と A1 パネルの各升目を確認し、各種( 2H〜6B) の鉛筆を使い描画してゆく。
学生作品
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・かつて銀塩写真をプリントするためには撮影、現像、プリントと手間のかかっていたカ
メラ技術ですが、現在ではデジタルカメラ、PC、 画 像処 理ソ フト 、 プリンターがあれば、
画像の調整も含めて現像技術がなくてもプリントアウトを素早く行える環境が整い、絵画
の時間にも無理なく取り入れることができました。
・肉眼では見えないカメラの目を通して、即物的な物の表情に気付き、細部まで詳しく描
くことができました。
・モチーフを写生することと、写像を描くことの違いを意識して描くと、写真を表面的に
見るだけでは描けない部分を意識する事ができました。
[学生からの意見]
・陰影の付け方を微妙に変化させるだけで、生き生きした描写になりました。
・写真を見て描くと写真には輪郭線がないことに気がつきました。
[この方法の課題]
・多人数になると、撮影からプリントアウトまでの作業に時間がかかるので、機材の台数
を増やして、効率化を図る必要があるでしょう。
・或る程度、時間をかけて描画しないと中途半端な描写の段階で終わってしまう可能性が
あるので、授業担当者は時間配分にも注意しながら授業を構成する必要があります。
57
− 56 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
Power Point を教科書の代わりに利用する工夫
授業科目名
アジアの交通と文化(共通教育)
対象学生
全学部1~4年生
受講者数
400 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、教科書
工夫のポイント
試験直前まで教科書を購入しようとしない学生の授業参加を高め、
授業の中で特に重要な部分を的確に伝えるための手段として Power
Point を利用しています。
キーワード
多人数教育、Power Point
授業担当者名
経済学部
澤
喜司郎
具体的な内容
[問題意識]
・授業で必要な教科書を試験直前まで購入しない学生が多く、そのため当然のように予習
もしていません。このような状態で授業を進めると、教科書をもっていない学生が落ちこ
ぼれてしまう可能性があるため、少なくとも授業時間中には教科書をもっている学生と同
程度の理解ができるように工夫しています。
・一般に 90 分の授業を行った場合、学生に伝える情報(授業内容)は莫大な量になり、学生
は何が重要なのか、何がキーポイントなのかを判断できなくなる可能性があります。読書
量が少なく読解力が乏しい学生は尚更です。そのため、授業の中で特に重要な部分を容易
に伝えることができるように工夫しています。
[授業の方法]
・教科書の内容をすべてスライドにして表示します。大教室では、プロジェクタの機種選
定等が適切に行われていないため、スクリーンに表示された文字等が教室の後方からは見
え難く、そのためスクリーンに表示された文字を読み上げ、その後に解説をしています。
・教科書では紙幅の関係から記述されていない事項や、省略されている事項もあります。
これらを参考資料としてプリント配布することも考えられますが、量的に少ない場合には
プリント配布は資源と時間の浪費となるため、参考資料であることを明示したスライドを
準備して補足説明等をしています。
・授業のテーマ上、文字や口頭では十分に伝えられないことが多くあり、そのため教科書
には多くの写真が掲載されていますが、これも紙幅の関係からその量は制約されています。
理解を深めるために、教科書に掲載されていない写真を多く表示することによって理解が
深まるようにしています。
・スライドで表示された教科書の内容のうち、特に重要な部分については文字と同時に教
科書の掲載ページ数と行数を表示しています。このような簡単な方法によって、この授業
の中で何が重要なのか、何がキーポイントなのかを伝えることができます。
58
− 57 −
成果・効果
[感じられる効果・成果]
・教科書の内容をすべて Power Point のスライドにして表示するという方法により、教科
書をもっていない学生が途中で落ちこぼれ、授業を断念・放棄する比率が低くなり、それ
は毎回の高い出席率で確認されます。
・スライドで表示された教科書の内容のうち、特に重要な部分については文字と同時に教
科書の掲載ページ数と行数を表示しているため理解力が高まり、それは高い合格率で確認
されます。
・重要な部分としてページ数と行数の表示されたスライドの内容と、ページ数と行数の表
示されていないスライドの内容を比較することによって、学生は次第に何が重要なのか、
何がキーポイントになるのかを判断できるようになり、読解力の向上に資するものと考え
られます。
[この方法の課題]
・試験直前まで教科書を購入しない学生の授業参加を高め、授業の中で特に重要な部分を
的確に伝えるためとはいえ、この方法はあまりにも親切で丁寧すぎると言えます。大学で
初めて学ぶ低年次の学生には大きな問題はないと思いますが、高年次の学生にはいろいろ
な意味で「優しすぎる」との問題もあります。しかし、これはカリキュラムの問題であっ
て、授業担当者が解決できる問題ではありません。
59
− 58 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
パワーポイント資料(穴埋め式)の効果的な利用方法
授業科目名
流通論(専門教育)
対象学生
経済学部生
受講者数
約 250~350 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、教科書、プリント
工夫のポイント
講義形式の授業に教科書、パワーポイント及びその資料を用いて効
果的な授業を実施する
キーワード
パワーポイント、受講者目線、穴埋め式プリント
授業担当者名
経済学部
藤田
健
具体的な内容
(1) 授業設計・教科書・教材の工夫
流通論は、商学という研究領域の中にあって、1 つの理論体系をもちます。この理論体
系が射程に収める現実は広範囲に及びます。それは、生産から消費に至るまでの財の所有
権移転(取引)を中心として、物流から情報システムまでを対象とします。また、この理
論は卸売業者や小売業者の活動のみならず、商業者と生産者との連携関係といった深い問
題までもその領域におさめています。現在では、ネット取引の普及、流通の国際化といっ
た動きにも対応し、より先進的な現実を取り入れながら、授業を展開させる必要がありま
す。
このように広範囲で、それでいて深く、変化の激しい現実を対象としているため、流通
論を授業するにあたって、現実の事例を紹介しながら理論をわかりやすく説明するように
心がけています。通常はパワーポイントを用いた講義形式の授業を行っていますが、そう
した形式の授業効果を高めるツールが、教科書と配付資料です。
① 受講者目線の教科書を採用
第 1 の教科書は、現実の事例や歴史をベースに組み立てられた教科書を採用しています。
一般に「○○論」の教科書というと、総論から始まり、理論的な考え方や構成要素を説明
したあと、各論に入るという進め方になっています。このような進め方で授業をしていく
と、初回からしばらくの授業は「流通の定義」や「商流とは何か」といった抽象的な議論
が中心となり、よほど熟練した教授でもない限り、抽象的な理論をわかりやすく説明した
り、学生に興味を持たせるようにすることは難しいものです。
ところが、筆者の流通論で使用している教科書は、「学生の日常的な目線」から授業を
組み立てて、それがやがて「抽象的な理論の理解」に結びつけられるように構成されたも
のです。学生が目にする日常的な小売業者の実態やその歴史的な変遷を振り返りながら、
いかに小売業態が仕組みを作り上げて成長し、イノベーションを起こして進化してきたの
かを学びます。そうすることで、学生はいつも目にする小売業者にもさまざまな仕組みが
存在することを理解でき、小売業者の背後にある卸売業者やメーカーの存在に気づいたり、
物流や情報技術に支えられた高度な仕組みに対する関心を持ったりするようになります。
そのうえで、教員は「広くて深い現実のむこうに流通論という理論がある」ことを指摘し、
学生を抽象的な議論へと誘えるのです。
60
− 59 −
つまり、学生の目線から授業に入ることは、教員と学生のあいだで流通の現実に対する
共通認識を作り上げることを意味しています。そして、その共通認識があるからこそ、教
員も理論の世界を説明しやすく、学生も理論の世界に関心を持ってくれると考えています。
② 埋め式プリントを配布する理由
第 2 のツールである配付資料は、穴埋め式のプリントです。「穴埋め式のプリントを配
っています」というと、怪訝な顔をする先生が意外と多いものです。おそらく、
「ノートは
自分で取るものだとか」とか、「中学・高校・予備校みたいなことを大学でするな」とか、
「面倒くさいことをする人だね」といった目で、私を見ているのかもしれません。しかし、
筆者には学生に穴埋め式プリントを配る明確な理由があるので説明させて頂きます。
第 1 の理由は、講義の重要な点を明確に示せるからです。すでに述べたように、筆者は
現実の小売業者の状況や盛衰の歴史を説明してから、理論をあとのほうで説明する授業を
進めています。そうしていると、学生は教員の話に興味を持ってくれるのですが、
「何をメ
モすればいいのか」がわからないまま授業を聞き続けてしまいます。そして、授業の終盤
にさしかかり、
「ちょっと難しい話が出てきたなぁ」と学生が思った頃には、授業が終わっ
てしまうのです。すると、試験前になって、学生は何を勉強したらよいかわからないとい
う問題に直面します。
つまり、教員が何も配付資料を配らないままでは、流通理論の要点を理解してもらうど
ころか、流通の現実の要点すら理解してもらえるはずもありません。学生はいつまで経っ
てもシラバスに書かれた「授業の到達目標」を達成できないことになります。だからこそ、
「どこが重要なのか」を明確にし、理論と現実に対する目の付けどころを、授業の場で理
解してもらうためにも穴埋め式のプリントが有効なのです。
「それなら、パワーポイントの資料を全部印刷して配ってしまえばいいじゃないか」と
言われる先生もおられるかもしれません。筆者の経験からすると、すべて印刷された資料
を配布すると、学生は安心して寝てしまいます。たとえば、受講中の学生にノートを取ら
せずに約 10 分間、たんたんと講義を聴かせ続けたら、多くの学生が寝てしまったことが
あります。だからこそ、穴埋め式プリントを用意し、学生に最小限の“作業”をしてもら
うことが、ちょっとした目覚まし薬になります。こうした目覚まし薬の役割を持たせたこ
とが、第 2 の理由です。
以上のように、講義を(眠らずに)聴いて、講義の重要な点を理解してもらえるところ
が穴埋め式プリントの良いところです。板書やパワーポイントをすべて学生に書き取らせ
るか、パワーポイントの内容をすべて学生に配布するかの二者択一ではありません。教員
が穴埋め式プリントを作成し、配布する一手間をかけることで、学生の理解度を高めても
らえると筆者は考えています。
(2) 授業時間内の工夫
私の授業では、毎回、パワーポイント資料を使っています。パワーポイント資料はその
内容によって異なりますが、約 30 枚程度を毎回準備しています。その内容は文字だけで
はなく、図・写真を多用し、一部にはアニメーションを入れ込み、プロセスや変化を理解
しやすいように工夫しています。パワーポイント資料の中で重要だと思われる部分に色(た
とえば赤色)を付けていますが、教室の採光や機械の特性を考慮して、その都度見やすい
ように変更しています。
授業の工夫は以下の 3 つの点にあります。まず、1 つめは映像資料を多用できる環境な
ので、学生が日常的にしばしば見聞きする現象(製品名や店舗名など)を資料の中に取り
61
− 60 −
込んだことです。たとえば、ある回の授業では、
「宅急便」や「しまむら」を登場させたり、
さらに主要な概念を説明するときには「コカ・コーラ」・「卵パック」・「しょうゆ」などの
具体的な製品を取り上げたりして、店舗での陳列や物流についての現象を見せるようにし
ています
次に 2 つめは、スライドとスライドとのつながりを明確にするようにしています。パワ
ーポイント資料ではスライド間のつながりがわかりにくいことがあるので、①授業の冒頭
に当日の授業の流れを説明するとともに、②スライドの切り替え時には、できる限り、前
後のスライドのつながりを説明するようにしています。全体の流れを鳥瞰できるように、
前述した穴埋め式のプリントも活用しています。
3 つめは、理論と事例を可能な限り対応させていることです。事例を取り上げる授業だ
と、事例を聴いて「面白かった」と答えますが、理論が理解できたどうかは怪しいことが
あります。そこで、理論と事例とを出来る限り一致させ、事例がわかれば理論も自ずとわ
かり、
(試験前に)理論を憶えるときに事例を頭に浮かべられるように工夫しています。要
するに、事例が単に「興味を持たせる小話」に矮小化されないように、事例と理論の連動
を目指して授業全体を組み立てたことが、最も工夫を凝らした点です。
(3) 教室管理の工夫
流通論は毎回 250 人~350 人の学生が受講する科目です。過去 10 年間に開講した流通
論は、すべて大講義室で行われました。これまでの経験から、学生の「私語」が授業の円
滑な進行をさまたげ、勉強しようとする学生の不満を著しく高めていました。そこで大教
室での授業環境を整えることが不可欠であると考え、筆者は私語の発生を根本から抑える
ことに注力してきました。
大教室で私語が発生する原因は 2 つあります。第 1 の原因は、好きなもの同士が並んで
着席するところにあります。残念なことに、筆者の授業は親友同士の会話ほどには楽しい
ものではありません。そのため、友達同士が固まって座っていると、自然と「仲良しクラ
ブ」が再結成され、私語が増えます。
第 2 の原因は、教室において、授業からの自由と無関心を謳歌できる楽しい空間が存在
するところにあります。この空間は大教室の最後列 3 列分に該当し、筆者の経験上、この
列に座る学生は「授業からの自由空間」だと認識しているようです。なかにはお菓子を食
べたり、しゃべったり、音楽を聴いたり、笑ったり、とても楽しそうな学生もいます。当
然、こうした学生たちは、授業には関心がなく、授業のプリントをもらって安心し、あと
は適当に(自分たちの都合の良いように)ツレと絡んでいたいから教室に座っているだけ
です。身分は学生ですが、学ぶつもりは毛頭ない「無関心層」だと言えます。
そこで筆者は、騒音源である「仲良しクラブ」と「無関心層」を発生させないように、
着席方法を指定し、教員の指示通りに座るまで指導し続けることにしました。流通論では、
2 つのルールを明確に示しています。そのルールは、①大講義室の中央通路を基準に一つ
飛ばしで座ること、②最後部 3 列は絶対に座らないというものです。こうすれば「仲良し
クラブ」も「無関心層」も発生しません。
そのうえで、私的ルールを「常識」に高めるように、教員が継続的に努力すれば良いの
です。筆者はパワーポイントのスライドで着席ルールを説明し(初回の授業から7・8 回
目の授業まで)、何度も何度も全員が理解するまでスライドと口頭で説明します。そして、
毎回毎回、着席ルールに従うように学生の目の前まで歩いて行って注意を促します。ルー
ルを守らない学生がいれば、騒音公害を生み出す可能性があることを説明し、席を移動す
るまでマイクで説得し続けるなど、地道な活動を行っています。
62
− 61 −
大教室内に「仲良しクラブ」を発生させず、
「無関心層」の居住空間を奪えば、大教室で
も静寂のなかで授業が続けられます。先日、流通論の FD に参加された先生方も、大教室
の異様な静寂さに、たいへん驚いておられました。大教室で授業を担当される先生には、
一度、試して頂きたいと思います。
成果・効果
① 学生の目線から授業に入ることは、教員と学生のあいだで流通の現実に対する共通認
識を作り上げることに役立ちます。
② 教員が穴埋め式プリントを作成し、配布する一手間をかけることで、学生の授業に対
する理解度が高まります。
③ 事例が単に「興味を持たせる小話」に矮小化されないように、事例と理論の連動を目
指して授業全体を組み立てています。
④ 大教室内に「仲良しクラブ」を発生させず、「無関心層」の居住空間を奪えば、大教室
でも静寂のなかで授業が続けられます。
63
− 62 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
動画(ドラマ)を利用した授業の工夫
授業科目名
高度先進医療看護学(専門教育)
対象学生
医学部保健学科看護学専攻4年生
受講者数
約 65 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、DVD、プリント
工夫のポイント
ドラマ形式の動画を視聴し、登場人物の対応の問題点や良い点を考
えさせ、単元のポイントを具体的なイメージを持って理解できるよ
うに工夫しています。
キーワード
動画視聴、ディスカッション、プレゼンテーション
授業担当者名
医学部
山勢博彰
具体的な内容
[問題意識]
高度先進医療看護学では、高度先進医療の具体例を紹介しながら、 それにかかわる看護
の役割について理解させることを授業の目標にしています。具体的なテーマとして、脳死
下臓器移植を取り上げ、臓器移植という高度医療に生命倫理の問題を関連させながら、看
護師の姿勢や対応方法についてわかりやすく教授する必要があります。
知識の理解では、脳死の定義、脳死判定の方法、臓器移植に関わる医療チーム、レシピ
エントへの移植などについて講義をしますが、臨床経験がない学生にとって、具体的な臨
床場面での理解は困難です。そこで、臨床場面をドラマ形式の動画によって再現し、ポイ
ントを具体的なイメージを持って理解できるように工夫しています。
[授業のポイント]
脳死下臓器移植の臨床場面で起きやすい問題を、ドナー家族の実際を見てもらうことで
理解させ、ディスカッションを通して問題点の整理をし、望ましい看護の対応を教授する
ことです。
[方法]
① 動画視聴の前に、パワーポイントによるスライドプレゼンテーションによって、
「脳死
患者の家族の特徴と心理的プロセス」
「 医療者の基本的な対応姿勢」などを講義します。
② 次に、約 10 分間のドラマ形式の動画を視聴してもらいます。この動画は、海外の医療
ドラマのような構成で、ヨーロッパの脳死下臓器提供にかかわる医療者やコーディネ
ーターのために作成されたものです。交通事故で脳死状態となった息子の父親と医師
たちとの対応が描かれていて、父親が医師に対し不信感と怒りを表出するシーンが出
てきます(図)。
③ 視聴後は、重要なシーンを改めて取り上げ、父親や医師の言動を確認します。
④ 学生には、なぜ父親はあのような言動をとったのか、医療者の対応の問題点はどこに
あったのかを考えてもらい、周囲の学生とのディスカッションをさせます。
⑤ ディスカッションの結果を学生の何名かに発表してもらい、問題点の整理をします。
⑥ 改善策や望ましい医療者の対応を説明します。
64
− 63 −
⑦ まとめとして、具体的な対応を
種類毎に整理し概念化した上で、
脳死下臓器移植に関わる看護の
役割を理解させます。
⑧ 最後に、この単元での理解度を
評価するため、小テストをしま
す。また、授業評価を自由記述
で書いてもらいます。
[備考]
約 10 分の動画では、様々な医療
者と多くのセリフが出てきますので、
図:ドラマ形式の動画の 1 シーン
何となく視聴すると、問題点が見えて
きません。そこで、学生に気づかせた
いこと、考える上でのキーワードなどを視聴前後に押さえることが重要です。そうするこ
とによって、ドラマに引き込まれても、一視聴者ではなく学びを得る学習者としての立場
を認識できると思います。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
医学系の教材には、動画が数多く存在しますが、その中身は専門的知識の説明が主で、
楽しく視聴するという側面はあまり見受けられません。しかしこの授業で用いている動画
は、海外の医療ドラマのような本格的なストーリーになっているので、テレビや DVD の
ドラマを見ているように学生は物語の展開に引き込まれていくと思います。また、ただ見
せるだけでなく、登場人物のセリフや行動のポイントを整理しますので、どこに注目すれ
ばいいのかも学生は理解できているようです。
脳死下臓器移植という、高度医療の中でもさまざまな側面を抱えているテーマを、臨床
経験がない学生に理解してもらうには、何らかの工夫が必要です。こうした具体的な臨床
場面をドラマ化した動画教材は、一方的な講義に比較して十分な効果を持っていると思い
ます。学生に飽きさせない効果ももちろんありますが、知識と実践を結びつけた理解の深
まりがあるのではと考えます。
[学生からの意見]
授業最後の小テスト時に記述してもらった授業評価には、
「よくある VTR 教材と違って
真剣に見入ってしまった」「脳死患者家族が抱く心情が理解できた」「医療者の対応の問題
点が具体的にわかった」
「脳死臓器移植にある程度の関心はあったけれど、具体的な課題を
発見したような気がする」
「 看護師になった時に、きちんと家族に対応できるか不安である」
「もう少しディスカッションの時間があると良かった」などと記載されていた。
[この方法の課題]
特定のテーマのみに関連した動画のため、そのテーマ以外の教授内容は講義に頼らざる
を得ません。本教科全体の授業目標を達成するための授業スケジュールや時間配分にも工
夫が必要です。
65
− 64 −
第2章
実践編
工夫の種類
3.ICT を活用した授業の工夫
テーマ
ICT を利用した授業外学習の工夫
授業科目名
農商工連携による植物工場を活かした高品質な農産物生産と商品開
発・マーケティング研修(全国中小企業団体中央会 農商工連携人
材育成事業)
対象学生
社会人受講生
受講者数
約 25 人
授業形態
講義・実習
教材・メディア等
パワーポイント、プリント、e-ラーニング
工夫のポイント
e-ラーニングシステムを活用し、自宅での復習機能の支援を図りま
した。
キーワード
e-ラーニング
授業担当者名
農学部
山本晴彦、学術研究員
吉越恆
具体的な内容
近年の食の安全・安心の問題や農業参入への規制緩和施策などの様々な社会情勢を受け
て、植物工場への社会的期待は非常に大きくなり、今では農業・商工業問わず、幅広い分
野の方々が植物工場に関心を寄せるようになりました。山口大学でも、
「食料生産と環境保
全」をテーマとして、安全で安心できる食の確保や、エネルギー、環境問題といった生物
生産に関わる諸課題に取組んできましたが、特に植物工場分野においても、その普及と発
展に貢献することを目標に、社会人を対象とする植物工場の人材育成プログラムを開発し、
これまで約 3 年間にわたって実施しました。
具体的には、平成 21 年度後期から平成 23 年度までの約 2 年半の間に、一連の講義と実
習からなるコースプログラムを計 4 回行い、延べ 60 余名の社会人受講者を迎えました。大
学と民間協力企業および行政機関(県の農林水産部 他)によるコンソーシアムのもと、
平成 21・22 年度には、経済産業省の産業技術人材育成支援事業(産学人材育成パートナー
シップ等プログラム開発・実証事業)の支援を受けて、
「植物工場管理技術者育成プロジェ
クト」を実施し、現在(平成 23 年度)は、全国中小企業団体中央会の農商工連携等人材育
成事業として、
「農商工連携による植物工場を活かした高品質な農産物生産と商品開発・マ
ーケティング研修」講座を開講しました。
講座の内容は、平成 21~22 年度は、農業経営者や新規参入法人、関連産業分野を対象
に、
「植物工場の管理運営に必須な知識と生産管理技術を有する人材の育成」を目標として
経営の早期安定のための栽培技術面中心のプログラム、そして現在では、技術的内容に加
え、
「競争力・魅力ある商品開発・マーケティング」をキーワードに、地域経済や行政支援、
中山間地の立地といった経営的視点や具体的課題を掘り下げるプログラムに発展していま
す。
表 1 に、山口大学のカリキュラムの例を示しますが、この人材育成プログラムの検討を
はじめた頃は、植物工場を扱った講習は全国的にも少なく、例えば植物工場と言っても、
太陽光利用と人工光での違いや、細かい栽培ハードウェアが様々に異なるという事情、さ
らに、受講者の農業経験や予備知識など、なかなかオーソライズするのが難しいテーマで
した。色々と検討を重ねた末、農学の基礎知識から関連分野まで網羅的に理解できるよう
に、環境調節工学、園芸学や肥料・栄養学からの LED 光源の特性や、植物工場を取り巻
129
− 65 −
く最新の流通・経営の話題まで、植物工場に関連した内容を順に構成したのがこのカリキ
ュラムです。日常の勤務を抱える社会人に配慮して、座学と実習の計 54 時間を約 3 ヶ月
間にわたって土日曜に開講し、復習や欠席時の自宅学習支援には、インターネットを利用
した講義動画(e-ラーニング)の配信も行いました。
表1
山口大学植物工場管理技術者育成プログラムにおけるカリキュラムの概要
科目
Ⅰ 植 物 工場 学 概論
内容
環 境 制 御・ 生 産管 理 技術 の概要
生 育・生産 技 術に 関 する 知 識。 光 合成 、代 謝等 の 生理 反応 な ら びに 栄 養・肥 料 、病 害虫
管 理 、 農薬 管 理
高 度 な 環 境 制 御 に 関 す る 知 識 。 光 ( 人 工 照 明 ・ 自 然 光 )、 温 湿 度 、 養 液 管 理 、 計 測 手 法 、
制御技術
Ⅱ 植 物 工場 栽 培学
Ⅲ 植 物 工場 環 境学
Ⅳ 植 物 工場 管 理学
経 営 や 生産 工 程管 理 に関 する知 識 。 植物 工 場模 擬 ライ ンを用 い た 施設 運 用の 実 践指 導
Ⅴ 植 物 工場 学 実験
作 物 の 生育 状 態、 光 ・温 湿度・ 水 質 環境 の 計測 技 能の 実践
< 選 択 科目 >
Ⅵ 植 物 工場 学 実習 Ⅰ
Ⅶ 植 物 工場 学 実習 Ⅱ
実 際 の 植物 工 場( 完 全人 工光型 、 太 陽光 利 用型 ) にお ける現 地 見 学と 作 業実 習
e-ラーニングとは、情報通信技術を利用した「教材・学習材」および「学習管理システ
ム」であり、学習者側にとっては、①自由な時間・場所で学習可能、②自分のペースや達
成度に応じて学習を進めることができる等の利点があります。今回の事業では、受講生の
参集が遠隔地に及ぶことや、参加が困難な場合の学習支援に配慮して e-ラーニングシステ
ムを導入しました。使用したシステムでは、講義で使用したスライドショーの映像を講師
の音声と同時に収録し、コンテンツとして閲覧することで講義の復習を行うことができま
す。各スライドの頭出しや早送り、巻き戻し機能などとともに、スライド内に含まれる語
句をキーワードとして、閲覧したいスライドを検索する機能を有しています。一方、提供
側としても、アクセスログから e ラーニングシステムの利用状況も把握可能であり、講師
間での評価や講義内容の調整にも効果的なツールとして活用できるようになっています。
平成 22 年度は、前年度に開発したこれらの e-ラーニングシステムを活用し、自宅学習や
遠方からの参加者の利便を図りました。
① 講 義 中の 講 師の 映 像が 表 示さ
れます。
② 講 義 スラ イ ドの タ イト ル が表
示 さ れ ます 。
③検索キーワードを入力しま
す 。 任 意の キ ーワ ー ドか ら 該当
す る ス ライ ド を検 索 する 際 に使
用 し ま す。
④ ス ラ イド シ ョー の 早送 り 、巻
き 戻 し を行 い ます 。 スラ イ ドの
頭 出 し や、 前 後の ス ライ ド へ移
動 す る とき に 使用 し ます 。
⑤ ス ラ イド の 映像 が 表示 さ れま
す 。 ① の映 像 とリ ン クし て いる
の で 、 講師 の 音声 を 聞き な がら
ス ラ イ ドを 閲 覧す る こと が でき
ます。
⑥ 再 生 中の ス ライ ド の再 生 、停
止 、 早 送り 、 巻き 戻 し、 音 量調
節 を 行 いま す 。
図1
e ラーニングシステムによる動画配信学習のイメージ
130
− 66 −
図 1 には e ラーニングシステムによる動画配信学習のイメージ画面を示しました。動画
配 信 に は 大 学 の 情 報 イ ン フ ラ を 利 用 し 、 受 講 生 へ の 連 絡 や 管 理 に は フ リ ー の CMS
(Content Management System)を利用しました。このシステムは、講師陣にも利用さ
れ、講義内容の重複回避や補足に大変有効でありました。平成 22 年度については、山口
大学メディア基盤センターのサーバーに開設したWEBサイトとリンクする形で閲覧でき
るよう設計しました。特に企業の講師による講義内容(企業秘密、ノウハウ)が不特定者
に無制限に公開されることを避けるため、講師、受講生個々に認証アカウントを発行し、
メンバー限定の公開とした。上記に関連して、受講生全員から講義内容および e ラーニン
グシステムの利用に関する守秘義務承諾書を得ました。
講義収録・動画編集にかなりの時間と手間を要するなどの課題がみられましたが、実習
状況も含めて平成 22 年 8 月中旬から順次新規追加する形でコンテンツ公開を実施しまし
た。これらの視聴は、アクセスログ解析から、全員が閲覧していたことが確認できました。
さらに、平成 23 年度では、e ラーニングのみの講義(前年度とカリキュラム構成を若干
変更したもの)についても、公開対象とし、座学の補完を行うとともに、レポート提出と
いう形で IT 活用による習熟度調査を行いました。
①講義(座学)の録画
講師動画・音声
連動
プレゼン動画
動画・音声&プレゼン
ファイル
山口大学
メディア基盤センター
スライド目次
閲覧
講義毎の電子コンテンツ
各受講生は、自宅から閲覧可
※専用WEBサイトから認証 アクセス
図2
e-ラーニングシステムの構成概要
成果・効果
・社会人受講生を対象とした本研修プログラムでは、異業種からの参入を目指した受講生
が大部分を占めたことから、農学の基礎知識を有していない受講生にとってインターネッ
トを利用した講義動画(e-ラーニング)の配信は講義後の復習のための学習支援として、
きわめて有効なツールであることが確認できました。今後は、開発した e ラーニング教材
については、著作権の問題をクリアし、一般公開が可能な独自のコンテンツ化を進める予
定です。
131
− 67 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
授業における学生のモチベーションを上げる工夫
授業科目名
血液学(専門教育)
対象学生
医学部・保健学科2年生
受講者数
約 40 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、ビデオ、教科書、カラープリント資料
工夫のポイント
・教員とのディスカッションを取り入れ学生の緊張感を高める工夫
・学生とコミュニケーションを図り授業に集中させる工夫
・グラフィックや動画を駆使したスライドにより視覚効果で理解度
を高める工夫
・完結型授業と小テスト実施により学生のモチベーションを高める
工夫
キーワード
ディスカッション、小テスト、コミュニケーション、完結型授業
授業担当者名
医学部
野島
順三
具体的な内容
医療専門職養成教育では、科学的探究と論理的思考能力による専門性の開発が重要とな
ります。医学部の教員は、各自の専門分野で洗練された高度な授業を行っていますが、
「ど
んなに素晴らしい内容の授業でも学生にきちんと伝わらなくては意味が無い」というのが、
私の教育のモットーです。講演などでは、対象者が既に医療現場で活躍しておられる医師
や臨床検査技師であり、多くの人は私の発表内容に興味があり会場に足を運んで下さった
方々なので、モチベーションも高く内容も伝わりやすい。しかし、学部講義の場合、医学
部の学生とはいえ2年生では血液学に関しては素人同然であり、そもそも全ての学生が血
液学に興味があるとは限らず、教室内のモチベーションも様々です。授業の成果の大きな
指標となる「理解度」と「満足度」を上げるためには、勿論、教員のプレゼンテーション
能力も必要不可欠ですが、学生側のモチベーションを如何にして統一し、一定レベルに上
げるかが重要となります。その工夫として、次の5つの項目を授業内で実践しています。
1.講義の最初に、この学問を学ぶ重要性を説きます。単位を取得する為や国家試験に合
格する為だけではなく、将来臨床の現場に出た時に、この授業で得られる知識がどれ
ほど役に立つものなのかを、自身の臨床経験を紹介しながら、とにかく「知的好奇心
が旺盛な授業」を心がけています。
2.教室内のモチベーションを一定レベルに統一するために授業の中で全員に共通したル
ールを幾つか設定しています。1つは、私の質問に対して「わからない」の即答は
NG としました。わからなければ私とディスカッションし、質問の意図と答えを導き
出す努力をするように学生に要求しています。2つ目は、講義毎に終了前 10 分間を
使って、その日の授業の理解度をチェックする小テストを実施しています。試験内容
は、高度な暗記力を必要とするものではなく、授業に積極的に参加していれば比較的
容易に解けるレベルですが、単に教科書を予習していても授業を聞いていなければ落
としてしまう問題にしています。大学の授業の多くは、学期末試験により学生の習熟
度を評価しますが、小テストも学期末試験同様に厳格に実施し、14 回実施した小テス
86
− 68 −
トの評価点(100 点満点)と学期末試験(100 点満点)の平均点で最終的に学生の習
熟度を評価しています。
3.学生とのコミュニケーションを重視した分かりやすい授業を常に意識しています。学
生が講義をどのような表情で聞いているかを常に観察し、時折、アイコンタクトやジ
ェスチャーを交えてコミュニケーションを取ることにより学生を授業に集中させてい
ます。その際には、アイコンタクトと共に学生の名前を正確に呼び、教員が個々の学
生をひとりひとりきちんと認識しているということを示すことも重要なポイントだと
考えます。そして、大きな声で、明瞭な発音と適度なテンポで、とにかく「聞き取り
易い講義(音声)」を意識しながら、大事なポイントは切り口を変えて繰り返し説明す
ることにより柔軟性のある知識を育める様に工夫しています。
4.グラフィックや動画を駆使したスライドにより視覚効果で学生の理解度を高めていま
す。話の内容だけでは、個々の学生のイメージングや理解度は様々で、話の内容を補
足するメディアを効果的に使用し、
「分かり易く、印象に残る授業」を常に意識してい
ます。そのためには、授業に使用するスライドは、文章による説明は極力少なくして、
グラフィックや動画を効果的に用いて視覚効果により学生のイメージングを統一する
ことが重要だと考えています。
5.授業は毎回完結させる事も重要なポイントだと考えます。
「終了の時間がきたから、こ
の続きは来週に・・・」といった流れではなく、講演と同じく授業も毎回「テーマ」
を決め、時間内に必ずその日の内容を完結させています。授業の内容も、その科目内
に限定するのではなく、例えば「貧血」がテーマなら、血液学や免疫学のみならず生
化学や遺伝子学など多方面から解説することにより、総合的に理解できるような授業
を工夫しています。そして最後に質疑応答と小テストを実施することにより、今日の
授業内容が完結した事と自分がどれほど理解出来たかという事を学生に自覚させるよ
うにしています。
成果・効果
1.「知的好奇心が旺盛な授業」は、学生を授業に巻き込むのに最も重用なポイントだと
考えます。実際、教科書には書かれていない臨床の現場での経験談から、その学問の
重要性・必要性を説くと、学生の目つき表情が変わるのを何度となく経験しました。
2.授業の中で全員に共通したルールを設定することには、最初は抵抗感を示す学生もい
ましたが、いつ質問されるかも分からないという緊張感で授業に対するモチベーショ
ンが明らかに向上しています。また、教員とディスカッションするためにはある程度
の知識が必要だという思いから予習をしてきてくれる学生が増えました。さらに、小
テストの実施は、「重要なポイントが分かり易い」「自分の知識を整理し易い」「真面
目に授業に参加すればきちんとした成果が得られる」など学生からは大変好評です。
3.授業における教員と学生とのコミュニケーションがどれほど重要かを実感しています。
大人数の授業では難しいかもしれませんが、私が担当する 40 人程度の授業では、個々
の学生の性格や学力をある程度理解した上で、平等にコミュニケーションを取ること
により学生の授業に向かう意欲が明らかに向上し、質問や前向きな意見が多く見られ
るようになりました。
4.メディアを効果的に使用し、
「分かり易く、印象に残る授業」を実践することにより、
明らかに学生の興味と理解度が向上しており、授業の満足度も高い評価が返ってきま
す。
87
− 69 −
5.講演形式の完結型授業を実践することにより、学生に教科書的知識を一方的に与える
教育ではなく、それぞれのテーマに応じて多方面から解説することにより、医学の全
体像を把握し、その中で個々の事象を理解出来る解析能力を養うことが出来ると考え
ます。さらに、様々な角度から問題を提示し、それを学生と一緒になって討議する双
方向性の教育を実践することができ、自己解決能力や柔軟性にとんだ創造能力を育む
ことが出来ると確信しています。
88
− 70 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
授業にグループ学習を取り入れる工夫
授業科目名
人文学部、日本語学(専門教育)など
対象学生
人文学部(または人文科学研究科)1年生~4年生
受講者数
約 30~60 人
授業形態
講義・演習
教材・メディア等
パワーポイント、教科書、プリントなど
工夫のポイント
講義形式 の授業 に学生 のグルー プ学習 (ペア ワ ーク、デ ィスカ ッショ
ン、プレゼンテーション)を取り入れ、コミュニケーション能力や情報
分析・発信力を養うよう工夫しています。
キーワード
ペアワーク、グループ学習、ディスカッション、プレゼンテーション
授業担当者名
人文学部
林
伸一
具体的な内容
1、日本語学特殊講義での構成的グループ・エンカウンターの実践
日本語学特殊講義(林担当分)では、構成的グループ・エンカウンター(Structured Group
Encounter:以下 SGE)を教授法の一つとして位置付け、学生をリーダーにして模擬授業
のようにエクササイズを展開しています。また、日本語教師志望者と国語科教員など教職
志望者のための教育実習の予行演習の要素を持たせています。
SGE が、内容・時間・人数を構成する形で課題を行うことから、就職活動を控える大学
生や教員を目指す大学生のコミュニケーション能力の向上や情報分析・発信力を養うのに
有効であると考えられます。
SGE のエクササイズの実践を通して、まずは参加者が楽しみながらグループ活動に慣れ
ていき、特に人前で話をする、あるいはプレゼンテ―ションする際の緊張や抵抗感を軽減
させ、社会に出てから必要となるコミュニケーション能力が高まることが期待されます。
エンカウンター(encounter)とは「出会い」という意味であり、心とこころのふれあ
いを重視します。これを一対一で実施するペア・ワークとグループで実施する場合があり
ますが、後者をグループ・エンカウンターと言っています。さらにグループ・エンカウン
ターには二通りありますが、①課題(エクササイズ)の内容、②グループの人数、③時間
の枠を定めて行うのが SGE です。日本では SGE が 1970 年代から國分康孝・國分久子ら
によって提唱・実践され始めました。
2.エクササイズを実施手順と実施例
エクササイズを実施する前にそのねら
い、大まかな内容、やり方、ル-ル、留
意点を説明するインストラクション
(instruction)が必要です。またエクサ
サイズ( exercise)と は、ねら いを 達成
するために用意された課題や実習であり、
体験したエクササイズをふりかえり、感
じたことや気づいたこと等を分かち合う
のがシェアリング(sharing)です。
68
− 71 −
またグループのエンカウンターが促進されるように軌道修正したり、その場がうまく進
行しなくなった際の対応や言葉かけ等の応急措置をしたりすることを介入(intervention)
と言い、SGE を有意義に進める上で必要な要素です。以上のように SGE には、①インス
トラクション、②エクササイズ、③シェアリング、④介入の 4 つの柱が存在します。
最初の授業では、まず学生がペア・ワークしやすいように二人一組になって座り、参加
体験型の授業をすることを知らせ、授業の最後には「振り返りシート」に記入することを
約束事として確認します。授業は、約 30~40 分使って、SGE を卒論のテーマに選んだ学
生が中心になってエクササイズを実施します。まず、ねらいと手順を書いた紙をワークシ
ートなどとともに配布します。あとは時間を区切ってエクササイズを実施していきます。
(右の写真は、リーダーが時間を図って、合図をだしているところ)
授業の後半では、エクササイズを実施する意味や実施上
の問題点について教員が解説したりまとめたりします。
今まで学部生が SGE をテーマに卒業研究を実施した例
としては、太田(2008)が「コミュニケーション活動に役立
つ構成的グループ・エンカウンターの実践」を本人がリー
ダー役を務め、エクササイズを実施し、結果を社会的スキ
ルの観点から分析しています。
深見(2011 写真右)も「制限時間内の発表力向上のための
エクササイズ」をテーマとして、SGE の実践研究を行な
っています。(本人は現在高校の国語教師をしています)
また、大学院レベルでは、現職の国語教師の立場で研究
授業を実施した守政(2011)が「参加者の振り返り記述をも
とにした日本語授業の質的研究」を研究発表しています。
松尾(2011) は「構成的グループ・エンカウンターの実践による自己表現力の向上につい
て」報告しています。(実施場面の写真は前頁:グループの間を見まわっているのが本人)
学習者の前に立つ教師としては、自分を表現することに対して難しさや恥ずかしさを感
じているようでは、いかに自分を印象付け「臆することなく、自分を表現する能力」はな
かなか身に付きません。
「自己開示」や「自己理解」
「自己表現」などは、教職を目指す者、
企業人にとっても必要な要素です。SGE のエクササイズがそれらの要素を強化するので、
コミュニケーション能力や情報分析・発信力を養う基盤的な役割を果たすと思われます。
2011 年には、就職活動に役立つ SGE のエクササイズも実施され、分析されました。
成果・効果
前項で紹介した深見(2011)の「制限時間内の発表力向上のためのエクササイズ」の成果
と し て 意 識 )」 に お け る 評 価 値 の 推 移 を SGE の 実 践 の 成 果 と し て 次 に 紹 介 し ま す 。 深 見
(2011)は①1分間スピーチタイム、②他者紹介、③時間半分トーク、④いろいろ PR の 4
つのエクササイズを実施し、それぞれ参加者自身が「振り返りシート」に自己評価してい
ます。
1.「時間を意識して発表できた(=時間意識)」における評価値の推移
評価項目
エクササイズ
①
エクササイズ
②
エクササイズ
③
エクササイズ
④
②時間意識
3.68(―)
3.79(↗)
4.23(↗)
4.24(↗)
69
− 72 −
「時間意識」の評価値は、エクササイズ①、
②においては、いずれも 4 ポイントを下回っ
ていますが、エクササイズ③ではエクササイ
ズ②の評価値から 0.44 ポイントも上昇し、4
ポイントを上回りました。さらにエクササイ
ズ①からエクササイズ④まで一貫して評価値
が上昇しています。参加者が徐々に時間を意
識し発表を行うようになった証左と言えるで
しょう。
②時間意識
①
4.30
4.24
4.23
4.20
4.10
4.00
3.90
3.80
3.79
3.70
3.68
3.60
エクササイズ① エクササイズ② エクササイズ③ エクササイズ④
2.「制限時間内に伝えたいことが伝えられた(=時間制限)」における評価値の推移
評価項目
エクササイズ①
エクササイズ②
エクササイズ③
エクササイズ④
③時間制限
3.63(―)
3.64(↗)
4.20(↗)
4.21(↗)
「時間制限」の評価値は、エクササイズ①からエクササイズ②においては、横ばいで前
項「時間意識」と同様に、エクササイズ③で急激な上昇が見られます。0.56 ポイント上昇
しています。さらにエクササイズ③からエクササイズ④においてはまた上昇が緩やかにな
っています。おそらく 2 回のエクササイズで、制限のある発表について、コツをつかみ、
その結果エクササイズ③の評価値の上昇に繋がったと推測できます。特に注目したいのは、
最も重要視していた「時間」に関する「時間制限」の評価値が、毎回上昇しているという
点です。このことから SGE は時間制限内での発表能力の向上に有効だと言えるでしょう。
3.「自分なりに工夫して発表したところがあった(=工夫)」における評価値の推移
評価項目
エクササイズ①
エクササイズ②
エクササイズ③
エクササイズ④
④工夫
3.32(―)
3.68(↗)
3.87(↗)
4.00(↗)
④工夫
③
4.10
4.00
4.00
3.90
3.87
3.80
3.70
3.60
3.60
3.50
3.40
3.30
3.32
エクササイズ① エクササイズ② エクササイズ③ エクササイズ④
「工夫」の評価値は、エクササイズを実施
する度に右肩あがりに上昇しています。エ
クササイズの回を増す毎に上昇が緩やかに
なってはいますが、着実に評価値が上昇し
ていった項目であると言える。エクササイ
ズに参加する度に、他の参加者から学んだ
り、自分で気付いたりして、
「次はこうして
みよう」と実践していけた証左ではないか
と思われる。工夫の仕方を仲間同士で学ぶ
よい機会と言えるでしょう。
4.授業展開のコーヒー・カップ方式
最後に工夫の結果、成果・効果が得られるためのモデルとして、コーヒー・カップ方式
を紹介しておきたいと思います。(詳細は、林 2001 参照)
もともとコーヒー・カップ方式は、國分康孝の提唱したカウンセリングのモデルで、①
リレーション(人間関係)をつくる、②問題をつかむ、③処置/問題の解決方法の三段階
論です。これは、教師が授業の教案を作成するときに、①導入、②展開、③まとめの三段
階で構成する方式に援用できます。授業参加者と教師のリレーションをつくるのが、①導
入段階であり、教師または発表者の話を傾聴しながら問題点をつかんでいくのが、②展開
70
− 73 −
段階となり、やがて問題の検討や解決
方法を考えるのが、③まとめの段階と
なります。
上記の SGE のエクササイズでも①
苦手意識の軽減、②時間を意識する、
③制限時間内の発表力の向上という三
段階のモデルと見ることができます。
留学生の立場から、
「話すこと」に焦
点化して SGE の実践研究を実施したの
が修士生の黄潔(2012a,b)です。①イン
タビュー、②スピーチ、③ディスカッ
ション、④ロールプレイの四つのエク
ササイズを日本人中心の授業と留学生中心の授業でそれぞれ実施し、その評価値と自由記
述を分析しています。その中で日本人学生の③ディスカッションと④ロールプレイの評価
値が低かったのは、実施の仕方にも問題はありましたが、そもそも日本人学生がそれらの
活動になじんでいなかったことが大きな要因であると思われます。今後、教職免許取得に
必要となる教職実践研究においても考えておく必要があるでしょう。
授業で討論した内容を発表する場合やゼミでの発表、卒論や修論の発表会でも、せっか
く内容のあることを話していても口頭発表のしかたが下手なためにその内容までが評価さ
れないような事態も見られます。そういった発表だけでなく就職活動においても自己肯定
感を持って自己 PR していくことが大切であることが、濱崎(2012)の実践研究でもよくわか
ります。社会人となってからのコミュニケーション能力とプレゼンテーション能力がます
ます必要となり、求められていると思われます。
【参考文献】
太田陽子 (2008)「コ ミュニ ケーショ ン活動 に役立 つ構 成的グル ープ・ エンカ ウン ターの実 践」山 口大学
人文学部林研究室『エンカウンター研究』第 1 号、 pp.111-158
黄潔(2012a)「話すことに関 する構成的グループ・エンカウンターの実践―日本人中心の授業と留学生中
心の授業との比較―」山口大学人文学部国語国文学会発行『山口国文』第 35 号 、pp.99-112
黄潔(2012b)「話すことに関 する構成的グループ・エンカウンターの実践研究」山口大学人文学部林研究
室『エンカウンター研究』第 5 号、 pp.1-100
濱崎南美 (2012)「自 己アピ ールのた めのグ ルー プワー ク―就職 活動に 活か せる SGE―」山 口大学 人文学
部林研究室『エンカウンター研究』第 5 号、 pp.101-162
林伸一 (2001)「コー ヒー・ カップ方 式」 國分康 孝ヒュ ーマン・ ネッ トワー ク『國 分カウン セリ ングに学
ぶ、コンセプトと技法』瀝々社、pp.158-167
深見知 南(2011)「 制限 時間 内の発 表力 向上 のた めの エ クササ イズ ―大 学生 対象 の 構成的 グル ープ ・エン
カウンターの実践研究」山口大学人文学部国語国文学会『山口国文』第 34 号 pp.42-56
松尾加 奈子 (2011)「構 成的 グルー プエ ンカ ウン ター の 実践に よる 自己 表現 力の 向 上につ いて 」山 口大学
人文学部林研究室『大学における日本語授業の活性化―構成的グループ・エンカウンターの実践研
究―』pp.43-88
守政昭 浩(2011)「 参加 者の 振り返 り記 述を もと にし た 日本語 授業 の質 的研 究― 新 聞記事 をめ ぐっ ての大
学生の談話分析―」山口大学人文学部国語国文学会発行『山口国文』pp.25-40
71
− 74 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
学生を“授業の世界”に参加・共感させる方法
授業科目名
宗教学概論(学部専門教育)、宗教学特殊講義(学部専門教育)
対象学生
人文学部2~4年生(宗教学概論)、人文学部2~4年生(宗教学特
殊講義)
受講者数
約 60 人(宗教学概論)、約 50 人(宗教学特殊講義)
授業形態
講義
教材・メディア等
ビデオ、プリント
工夫のポイント
1)テーマと事例の選択、2)ペアワークまたはグループディスカ
ッション、3)描画方式のレポート
キーワード
身近なテーマ、身近な事例、ペアワーク、グループディスカッショ
ン、描画レポート
授業担当者名
人文学部
ジュマリ・アラム
具体的な内容
宗教学という学問分野は、宗教という人間や社会の客観的な事象を、当事者の心(感性、
知識、経験等を含む)に、つまり主観的な世界に照らして、説明しようとするものです。
観察者や説明者は常に、当事者の心の世界に可能な限り共感しながら、こうした事象の理
解を試みる必要があります。
こうした学問分野の性格を、どのような方法で大学教育の現場において活かすかは、宗
教学を担当する教員にとって、とても大きな課題です。私の場合、次の三つの方式を通し
て、学生を“授業の世界”に参加させたり共感させたりする方法を模索しているところで
す。
1)テーマと事例の選択。学問が探究の対象としているものは、いま現在われわれが生活
を営んでいる世界の中にある、ということを授業の大前提として学生に実感してもら
うため、私は毎回のテーマと事例を、学生にとって身近なものを取り上げます。しか
しこの場合、学術的な視点や学説が説く原理・法則・パターンをこうした身近な事象
に当てはめるのではなく、そうした事象から毎回、追体験的に導いたり発見したりす
る方向に授業を展開していくということが重要になります。
2)ペアワークまたはグループディスカッション。上記の「事象に対する理解と原理・法
則・パターンの追体験的な導き・発見」を授業時間内に、部分的であれ完結させるた
めに有効な方法が、ペアワークまたはグループディスカッションであると思われます。
学生が授業中に投げかけられた課題に対する一定の見方や感じ方を抱いたとしても、
一旦それをざっくばらんな雰囲気の中で口にしないからには、
“自分のもの”にはなり
にくいからです。
3)描画方式のレポート。授業外レポートを授業期間中に三回ほど課しますが、文章方式
のものと描画方式のもの(一定の解説文章を含む)を選択できるようにしています。
描画方式のレポートを取り入れたのは、文章的な表現では語りつくせない、宗教事象
の、無限かつ不可視な実体、およびそれを個々が個性的にとらえるイメージを、描写
という方法で、完全に見落とさずに少しでも表現がかなうような場を設けるためです。
72
− 75 −
成果・効果
上記三つの方法は、私が担当する宗教学の授業において、どれほどの成果・効果がある
か、現時点ではっきり述べることはできませんが、
「学生を授業の世界に参加・共感させる
こと」および「事象に対する理解と原理・法則・パターンの追体験的な導き・発見」とい
う、この分野における一つの“理想的な授業”の観点から見ますと、一定の成果・効果を
途中経過的に見ることができます。これは、レポートの内容と毎回の授業における学生の
受講姿勢から見ることができますが、
「教員が主催する授業の世界を、他人事として見ない
こと」
「自らの率直な見方や感じ方が、事象に対する学問的な理解やとらえ方に通ずるもの
として自覚すること」
「学問的な理解やとらえ方が、学問的世界の自己満足的な取り組みで
はなく、自らの日常生活に直結するものであるというスタンスに立つこと」というような
かたちで現れています。
73
− 76 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
多人数を考えさせ対話に巻き込むための工夫
授業科目名
哲学(共通教育)、哲学倫理学Ⅰ・Ⅱ(専門教育)
対象学生
全学部1年生・社会人(哲学)、教育学部2年生・社会人(哲学倫理
学Ⅰ・Ⅱ)
受講者数
哲学:約 140 人、哲学倫理学Ⅰ・Ⅱ共に約 30 人
授業形態
講義
教材・メディア等
プリント
工夫のポイント
多人数を考えさせ対話に巻き込むための前提として、教室管理の方
法、授業開きの方法を工夫しています。yes/no 方式の発問から出発
すること、コメントカードを活用することにより全員を対話に巻き
込む工夫をしています。定期試験のための模擬試験を行い、個別の
指導を行い、定期試験で十分に自分の哲学を展開できるように工夫
しています。
キーワード
教室管理、授業開き、発問、対話、コメントカード、模擬試験、作
品としての定期試験、同僚参観
授業担当者名
教育学部
佐野之人
具体的な内容
1.
改善の意図と条件
どのような制約(条件)のもとで改善を意図したかについて述べたいと思います。学問
を通じての教育において最終目標とすべきは「自ら問いを立て、自ら考え、共に対話する」
ことであると思います。それが人間の精神的な自立に直結するからです。哲学においては
特にこの姿勢を学ぶこと、すなわち「哲学を学ぶのではなく、哲学することを学ぶこと」
が肝心です。しかし多くの受講者を抱える共通教育や学部の基礎的な講義での学生のモチ
ベーションは概してあまり高いものではありません。単位がとりやすいから、時間割の関
係で、何となく面白そうだから、などといった理由で履修している者が大半でしょう。し
たがって彼らは何となく講義を聴きに来、教わろうとし、分かった気になろうとし、学ん
だことを鵜呑みにしようとします。こうした条件下にあっても上述の最終目標に向けて学
生を教育すること、これが改善の意図です。
2.
具体的な内容
(1) 教室管理の方法について―集中力を途切れさせない環境を作る
まず多人数が講義の場に集中できる環境を整えなければなりません。彼らの多くが何と
なく講義を聴きにきている、そこから着手します。まず机の上を準備させます。携帯など
の要らないものは置かせない、鞄も置かせずに机の上をきれいにさせる、心構えを準備さ
せる、そうして大きな声で挨拶を交わす、こうして講義を開始します。そうしなかった時
に比べてはるかにスムーズに始めることができるように思われます。遅刻者がいたら明確
な意志をもって授業を中断します。毎回資料としてプリントを配布しているので、それを
前に取りに来るように指示し、そうしてそれを取って席に着くまでは授業を開始しないよ
うにしています。私語の場合も私語がある間は授業を中断します。始めは気がつかない私
語も周りから注意されて気がつく場合が多いようです。居眠りがあった場合もその学生が
74
− 77 −
しっかりと頭を上げるまでは授業を中断します。周りの者が注意する場合もあれば、私が
起こしに行くこともあります。適宜机間を行き来し、内職や、携帯などの使用があれば注
意をすることにしています(これまで注意するに至ったことはありません)。そうして初回
講義の際に、あるいは折に触れて遅刻、私語、居眠り、内職が何故いけないかを、重要な
面接や試合のときには君たちはそうしないからだ、と言って考えさせます。口うるさくて
書いている本人がうんざりしますが、多人数の講義で考えさせ、対話に巻き込むためには
集中力を途切れさせない環境づくりが必要です。そのためにこれに類した施策は不可避だ
と思います。
(2) 授業開きの方法―心構えを作る
学生の多くは教わろうとし、分かった気になりさえすればよいと思っており、それを鵜
呑みにして記憶し知識にすればよいと思っています。ここも始めに切り崩しておかなけれ
ばなりません。第 1 回の講義で 3 つの戒めを提示します。「一つ、教わる気になるな。二
つ、分かった気になるな。三つ、前提を問え(前提に無批判になるな)。」この戒めを絶え
ず繰り返し、学生自らの内面の声になることを目指します。自ら分かっているつもりだっ
た前提を問うことは決して楽なことではありません。そこでもう一つの誓いを立てさせま
す。「考えることから逃げない」。講義中は学生が答えに窮してもじっと待つように心がけ
ています。多人数の講義で考えさせ、対話に巻き込むためにはこうした心構えを自覚させ
ることが是非とも必要です。
(3) 多人数を考えさせ対話に巻き込むための工夫
【イエス/ノーで発問し、全員に挙手させてから考えさせ、対話させる】
以上は多人数の講義で考えさせ、対話に巻き込むための前提です。ではどのようにして
実際に多人数を考えさせ、対話に巻き込んでいったらよいでしょうか。現在行っている哲
学倫理学Ⅱ(公共哲学)での工夫を述べてみたいと思います。まず一つの講義で主要な発
問を一つか二つ用意します。問いは身近で答えやすいものでなければなりません。公共哲
学では「公とは何か?」と問いたいのですが、そのように正面から問われると分からなく
なるのが哲学の問いです。そのように問うてもまず答えは返ってきません。以前それは嫌
というほど経験しました。そこで工夫をしてみました。そのようには問わず、「授業中に、
授業内容に関して二人だけで会話を交わすことは私語か?」と問うのです。しかもそこで
いきなり一人一人に当てて答えさせるのではなく、まず「イエス/ノー/どちらとも言えな
い」で全員に挙手させるのです。そうすることで全員が問いに参加することができるのみ
ならず、自分がどのくらい他の人と考えを共有しているか、という学生の大きな関心にも
応えることができます。それだけではありません。手を挙げた学生の全員が、自分がどう
してそのように考えるかの根拠を考え始め、また自分とは違った考えを持っている人の根
拠を知りたいと思い始めます。そこで「君はどうしてそのように考えるのか?」と問うの
です。当てられた者は自ら挙手した責任を感じてでしょうか、
「分かりません」とはまず答
えません。こうして数人の学生から「公」へ向けた哲学的な考察の糸口を獲得することに
成功します。ここでは結論を出すことが目的ではありません。ある程度の議論が行われ、
論点が明確になってきた段階で、問いを問いとして保持しておくように指示します。
【コメントカードを活用して全員でさらに深めていく】
講義では必ず出席票を兼ねたコメントカードを配布し、講義の終わりに今日学んだこと、
考えたことや疑問を書いてもらうようにしています。あまりたくさん書いてもらっても処
75
− 78 −
理できませんから小さなカードです。講義後それを持ちかえり、次回の講義の資料プリン
トに掲載するコメントを選出し、さらにこれを分類、配置し、コメントを付けて資料プリ
ントを作成します。学生のコメントは匿名ですが、このプリントに自分のコメントが私の
コメント付きで採用されることに学生はやはり関心を持っているようです。また他の学生
がどのように考えているかに興味を持っている学生も少なくないようです。こうした学生
の興味関心を活用するのです。授業中に発言する学生はどうしても定まってきてしまうの
で、この学生コメントはコミュニケーションのためには不可欠のツールとなっています。
【教員の説を疑わしい説として紹介し、今度は学生が哲学的な問いを発する】
次の講義ではまずプリントの内容について考察します。ここでも発問を主とするように
しています。学生自らの思索の成果をさらに論点を整理し、深めさせます。また前回の論
点を振り返り、さらに根源的な発問を行います。そうして適切な時機を見計らって、適宜
語源や学説の紹介などを織り交ぜながら、さしあたりの「佐野説」を提示します。
「佐野説」
は常に赤字で書かれ、怪しい説として注意を喚起しています。そうしてそこに問われるべ
き哲学的な問いはないか、分かっているとして前提されているものはないか、今度は学生
に問いを出させるのです。そこからまた新たな問いと共にテーマが設定されます。大体こ
のようにして講義を進行させたいのですが、後で述べますようになかなかこううまくはい
かないのが実情です。
【テーマによってはディベートを活用する】
平成 23 年度前期の講義では「哲学は必要か」「生きる意味は何か」といったテーマでデ
ィベートを行いました。「哲学は不要である」「生きる意味はない」などという主張は自分
の主張としては言いにくいでしょう。そういう場合にはディベートの手法を用います。
「本
心でなくてよい。その役割に徹してくれればいい。」これで発言しやすくなると思います。
(4) 成績評価の方法―定期試験の前の模擬試験を行い、定期試験は作品と考える
評価の方法はコメントカード記入などの受講態度 4 割、定期試験 6 割としています。試
験は持ち込み可で、本質を押さえているか、哲学になっているかどうかで評価すると伝え
ています。定期試験前に模擬試験を行っているのが特徴でしょう。教員がどのような問題
を出し、どのような採点をするかを予め体験しておき、そうした体験に基づいて試験対策
を練ることができます。模擬試験は採点して返却します。これは全く出題意図と関係ない
ことを、とにかくたくさん書けばよいと考えている学生を始め、答え方というものを知ら
ない学生に多く直面してきたので、まずは答え方というものを指導し、期末で満足な考察
と解答ができるようにさせるという狙いがあります。さらに言えばこの模擬試験はかなり
厳しめに採点します。もちろん奮起を促す=勉強させるためです。期末試験はそれまでの
哲学することの総決算であり、一つの作品であるという位置づけです。
(5) 同僚参観を活用する
初めからそうした工夫をしようと思ったわけではありませんが、これは講義にとても大
きな緊張感をもたらします。学生と教員との間で成り立つ講義は両者の共犯関係で成り立
ってしまう面がないとは言い切れません。それがまずできません。またその同僚の先生と
私は当然哲学的に異なった考えを持っているはずです。その先生は遠慮されながら発言も
されます。その先生の授業を履修している学生も出席しています。学生はとても大きな関
心と緊張をもってその先生の発言に耳を傾けます。そうして二つの授業を関連させようと
76
− 79 −
します。私もその先生の講義を聴講させていただいています。二つの授業を学生がどう関
連付けるか、とても興味がありますし、何より私自身が関連を気付かせていただき、大き
な刺激になっています。
成果・効果
1.成果・効果
授業に活気がでてきたと思います。楽しそうです。手を挙げて積極的に発言する学生も
次第に増えつつあります。プリントに掲載された他の人のコメントに刺激され、学生コメ
ントに書く量も次第に増え、内容も充実してきていると思います。他人の意見と自分の考
えを比べ、その中で自分の考えを深めていこうとする態度も育ちつつあります。哲学的な
気付きや問いも次第に多くみられるようになってきています。その反面やはり意見を求め
られることに苦痛を感じる学生も少なくありません。また私から見れば、彼らは間違いな
く自ら、そして共に、考える力をつけることによって生きる力を確実に身につけているの
ですが、全く正解というものがない学問の在り方に違和感を覚えている者、確実な知識や
技能を身につけることこそが大切で、答の出ない、しかも分かりきった問題をやたら難し
くして考えることに何の意味があるか、と考える者も少なくないようです。最も深刻なの
は哲学することによって人生観の根底が揺らぎ、それを再構築するに至らないまま講義を
終了してしまう場合です。しかし概して学生はよく頑張っていると思います。
2.この方法の問題点
このやり方の問題点はほとんど教員(私)の在り方に関するものです。第一に様々な哲
学的な問いを発する私自身が、そうした問いに対する答えを当然のことながら持っていな
いということです。分かっているつもりになっているだけであり、本当にそうなのかを自
らに問わなければならないのは学生だけではありません。そのために授業中に学生(社会
人を含む)から様々な考えが思いもよらない仕方で噴出してくると、教員自身が混乱し、
論点を明らかにすることができなくなる可能性があります。のみならず、講義後も本当に
全く分からなくなってしまい、次の授業をどのように組み立てたらいいかすらわからなく
なる危険性があります。
第二に教員(私)はやはり「教える」者であり、一番分かっていなければならない、と
いう自負心がどうしても捨てきれません。つまり「共に哲学する」と口では言いながら、
それがなかなかできないのです。どうしても哲学の説についても教える立場に立ってしま
うのです。この 2 点はこのやり方で私が感じる最も難しい点です。
あと一つ課題として挙げることができるのは時間外学習の時間を設定することでしょ
う。時間外に哲学させ、文章を書かせ、それをメールで送らせるなど方法はあります。し
かし私自身の処理能力に不安があって実施できていないのが実情です。何とか実現したい
と思っています。
77
− 80 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
多人数授業で学生が意見を交換し共有する工夫
授業科目名
教科教育法算数(学部専門教育),教育メディア論(学部専門教育)
対象学生
教育学部3年生(教科教育法算数)、教育学部3年生(教育メディア論)
受講者数
約 150 人(教科教育法算数)、約 90 人(教育メディア論)
授業形態
講義
教材・メディア等
複数教室、ワークシート、グループ・班表、(Powerpoint、OHC)
工夫のポイント
・ 受け身になりがちな多人数授業に学生が参加できる工夫。
・ 多くの学友と意見を交換し共有できる工夫。
・ グループ代表として他者に知識・情報伝達を行うことを設定する
ことにより、積極的に頭を働かせ手を動かすことができる工夫。
・ 教員がなるべく楽に授業が展開できる工夫。
キーワード
学生主導,学生の満足感,知識・情報共有,課題解決,
グループ議論(ディスカッション),発表(プレゼンテーション)
授業担当者名
教育学部
鷹岡亮
具体的な内容
[問題意識]
・ 多人数授業では、
「教員が話す」,
「学生は聞く,夢心地になる,寝る」になりがちです。
・ 授業で、学生に緊張感を持たせて,多少なりとも満足感を持ってもらえないだろうか。
・ 教員が話す場面を少なくして学生主導の授業という認識を持ってもらえないだろうか。
・ これらの問題意識のもとで、少しだけ授業を工夫してみました。
[授業のポイント]
・ 授業外学習を含めて、学生に「自分自身で課題解決をする」「グループの意見を聞く・
共有する」
「他の班に責任を持って伝える」という活動をおこなわせたいと思いました。
①学習課題の提出
[方法]
<ここでは,説明のために,
受講生 100 名を想定します>
① 学習課題(ワークシート)を授業
外学習として提出しておきます。
② 1 週目に、100 名の受講生を 10 グ
ループ(A グループから J グループ)
に分け,グループ内で課題解決案
を発表しあい(聞き手はワークシ
ートに要約します)、解決案をまと
めさせます(ワークシートには「ま
とめ」スペースを設けます)。
③ 2 週目には、各グループメンバーを
1 班…10 班に振り分けます。各班
において、グループの代表として、
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
A
山田
田中
青木
佐藤
村田
古川
井口
山口
広田
西田
B
‥
深山
吉田
C
‥
笠井
田村
D
‥
西村
西川
E
‥
田岡
三河
F
‥
岡田
G
新井
三島
H
‥
山崎
岡村
②グループ内発表
まとめ作業
岡本
川口
川中
三郷
山本
小野
野口
新田
平田
I
‥
西本
東山
J
‥
中山
山村
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
A
山田
田中
青木
佐藤
村田
古川
井口
山口
広田
西田
B
‥
深山
吉田
C
‥
笠井
田村
D
‥
西村
西川
2班のなかで,
Aグループのまとめを E
田中くんが発表
F
‥
田岡
三河
‥
岡田
岡本
G
新井
三島
H
‥
山崎
川口
川中
岡村
三郷
I
‥
西本
東山
J
‥
中山
山村
③班内での発表
まとめ作業
古川くんが A と 6 のまとめを発表
小野さんが G と 7 のまとめを発表
山本
小野
野口
新田
平田
5班のなかで,Gグループのまとめを
三郷さんが発表
④解決案(学べたこと)の学生(例:古川,小野) 発表と教員説明
図:グループ・班活動・発表の流れ
78
− 81 −
グループ で話さ れた解 決案を発 表しま す(聞 き手
はワークシートに要約します)。最後に、各自で解
決案をワークシートにまとめさせます。
④ 最後に、 授業時 間との 兼ね合い があり ますが 、数
名の学生 にワー クシー トの解決 案(学 べたこ と)
を受講学 生の前 で発表 してもら い、教 員が授 業の
まとめを行います。
⑤ 授業終了後、ワークシートを提出し
てもらいます。
写真:グループ議論の様子
[備考(こんなふうにしても…, こんなところにご注意を!)]
・ 「授業 1 コマ分での実施」,「授業 2 コマ分での実施」など確保できる授業時間に応じ
て、実施可能だと思います。
・ グループ・班別の発表・議論は,他のグループや班の話が聞こえてこない発表・議論
環境を提供したいところですが,確保できた教室数のなかで「いかに工夫して環境を
つくるか?」ということになります。
・ 多人数でグループや班で活動をさせるとどうしても移動含めて時間がかかり、最後の
教員のまとめの時間にしわ寄せがきますが、学生の活動や成果を価値づけ、教員の立
場からのまとめをしっかりと行うことが学生の満足度向上につながるようです。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・ グループや班のなかでの発表を義務づけているため、学生によってレベルは異なりま
すが、「課題解決を行う」、
「それをメンバーにどのように伝えるかを考える」といった
活動を行わせることができました。
・ 聞き手として、ワークシートを埋めることが必要になるため、学生のレベルは異なり
ますが、話し手の伝達事項を聞き取ろうとする態度が身につくように思えました。
・ 2 回、3 回と発表・議論回数を重ねるたびに、議論が盛り上がりを見せていました。
・ グループ活動によって、様々な解決策や意見・アイデアを他者と共有でき、自分だけ
では発見できなかった様々な視点を学習することができていました。
・ 他者に伝達する活動を通して、他者に分かりやすく考えをまとめたり、話し方を工夫
したりするなど、相手に伝えようとする意識を持ち、発表の仕方について考えること
ができていた学生も存在していました。
[学生からの意見]
・ 班やグループの議論時間やまとめの時間を長くして欲しかった。
・ 班やグループの人数が多く、一人あたりの発表時間が少なかったので、個々の解決策
やアイデア、意見を掘り下げることができなかった。
[この方法の課題]
・ 全てのフェーズで時間に追われがちになってしまう部分の改善が必要だと思います。
・ 教員養成を目指す学生としては、自分自身の学習活動だけではなく、適切な学習環境
を構築するという教師の視点も学習できる方法への改善が必要だと思います。
79
− 82 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
道徳授業にロールプレイングを取り入れる試み
授業科目名
道徳教育(専門教育)
対象学生
教育学部3年生
受講者数
約 200 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、プリント
工夫のポイント
講義形式の授業に学生のグループ学習(ロールプレイング、ディスカ
ッション、プレゼンテーション)を取り入れ、資料の登場人物を実際
に演じさせながら役割取得ができるように工夫しています。
キーワード
グループ学習、ロールプレイング、ディスカッション、プレゼンテ
ーション
授業担当者名
教育学部
西村正登
具体的な内容
1)小学校と中学校の「道徳の時間」に実施する道徳授業の資料を掲載したプリントを配
布し、授業の目的・内容・方法について説明します。
2)前時に 5~6 名の小グループを編成しておき、資料の登場人物の役割分担をします。
3)各グループでロールプレイングの練習をします。
4)役割を交替しながら演じます。演者と観客も交替します。
5)各役割を演じてみてどんな気持ちがしたか、グループ内でシェアリングをします。
6)教室の前に舞台を作り、グループごとに演じます。
7)各グループの演技について、クラス全体で討議し、感想を述べ合います。
成果・効果
1) 道徳授業にロールプレイングを取り入れることにより、実践的で生き生きとした授業
になりました。
2) ロールプレイングに登場する人物を演じたり、役割を交替して演ずることにより、
登場人物のそれぞれの立場に立った気持ちを理解できるようになりました。
3) 各登場人物を演じた後、観客の立場に立ってロールプレイングを眺めることによって、
より客観的にそれぞれの立場を理解することができるようになりました。
4) ロールプレイングの後、各グループでシェアリングをすることにより、よかった点と
反省点を振り返ることができ、今後の課題が発見できました。
5) 各グループが舞台で役割を演じながらプレゼンテーションすることにより、クラス全
体で各グループの成果や改善点等を評価し合うことができました。
今後の課題
1) ロールプレイングは劇化と違ってアドリブがきくので、状況や場面に応じたセリフを
工夫すれば、より創造的なものになります。
80
− 83 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
授業にディスカッションを取り入れる工夫
授業科目名
文化心理学 (専門教育)
対象学生
経済学部3年生
受講者数
約 30 人
授業形態
講義とセミナールの中間
教材・メディア等
パワーポイント
工夫のポイント
講義形式の授業に英語教育で開発したシステムを取り入れ、コミュ
ニケーション能力や情報分析・発信力を養うよう工夫しています。
キーワード
コミュニケーション不安の克服・発信力の増強
授業担当者名
経済学部
武本 Timothy
具体的な内容
出身校では、緒論を教える各講義形態の授業項目に対して1コマの少人数・ゼミナール
形式の授業が行われていました。そのように「論を教える時間」プラス「論を応用・論じ
合う時間」がなければ、せっかく教えてもらった理論は納得したり応用したり理解したり
することはできないという前傾にたったシステムだと思われます。山口大学では、セミナ
ー形式の授業時間はもうけられていないために、講義の中に「論を応用・論じ合う」ディ
スカッションの時間を導入しています。ディスカッションを効率よく実施するためには、
英語教育で利用されている授業形態を活用しています。
1)学生が輪になって座ること
学生が輪になって座ることには二つの利点があります。
1.1)伝統的な教室座席レイアウト(図1)にあるよう、学生全員は前に立っている教
員を見ていると、自分らが受身的に情報を受信することになっているとの誤解をしてしま
うことが多いです。いくら口頭で「本授業では論じ合ってほしい」と説明しても、それま
での教育体験での条件付けがあまりにも強いため、学生が教員に向いているかぎりでは他
の学生との対話をしません。
図1 伝統的教室配置レイアウト
学生
ボード
教員
81
− 84 −
一方、図2のように、輪になって座ってもらって他の学生も話し合っていることが分か
れば、全員が自発的に話し合うことになるというのは筆者の経験です。
1.2)輪になって座ってもらうと、話し相手を頻繁に変えることで、常に新しいディス
カッションパートナーにすることができます。授業の始まりに、輪の中に座っている学生
の半数(図2の●のマークで示されている学生)を一席飛ばしに立ってもらい、時計回り
にまず2席回ってもらいます。それ以降は、一緒に入ってきて隣に座っていた友人同士で
ディスカッションすることになっていないので、友人同士が共有する授業態度ではなく、
授業の規範が適応されることになる。各ディスカッション時間が終わると、もう一席回っ
てもらうことで、ディスカッションを終わらせて授業形式の時間にすばやくもどることが
できます。教員(図2の●のマーク)が学生のディスカッションをモニタリングし、下記
の《ポイントカード》を配ることで、きちんとディスカッションを行っている学生を奨励・
評価します。
図2
新教室配置
学生
常にモニターしている教育
ボード
●学生の循環
学生
2)《ポイントカード》
授業中のディスカッションを促進・奨励・評価するためにも、英語教育で利用している
《ポイントカード》制度を活用しています。大学授業中における日本人学生の発言の少な
さを取り上げた先行研究(McCroskey, Gudykunst, & Nishida, 1985)によれば、英語教育現場
におけるコミュニケーション不安は英語に対する不安というよりは、英語・日本語を問わ
ず言語的コミュニケーションに対する不安ですから、英語教育において英語の発言を促進
するための工夫は、日本語にるディスカッションを促進するためにも応用できると思われ
ます。
英会話教育(共通教育の English Speaking 等)では行動心理学主義的なトークン(token)・
《ポイントカード》システムを利用しています。偽造しにくい教室の紙幣たる《ポイント
82
− 85 −
カード》を数多く準備し、積極的にディスカッションしている学生に与え、試験日までに
保管してもらいます。《ポイントカード》は試験の解答用紙と一緒に回収し評価に影響し
ます。《ポイントカード》を利用することで、学生を指名したり指差したりすることなく、
全員の前の発言も容易に促進することができます。
日本人が発言しないのは評価不安(evaluation anxiety)が原因であるということも論じら
ています(Cultrone, 2009)から、ポイントカードを与えることで、発言が評価の対象とな
っているという意識を強化させ、評価不安が増大し、逆に発言が減るという懸念は一理あ
ります。しかしまず、クラスの前でふざけた発言をする学生はごくすくないですので、ど
の発言も評価することで否定的な評価がくだされることはないということを理解してもら
います。また、評価不安というよりは、「でしゃばり」と見られることに対する不安の方
が強いように思われます。つまり学生がもっとも恐れているのは、「自分の声が聞きたい
でしゃばっているやつだ」という他の学生からの評価であって、教員からの評価ではあり
ません。逆に、教員からの評価がもらえる、あるいは教員からの《ポイントカード》が必
要であるというクラス設定の中では、発言することが「でしゃばり」ではなく、点数稼ぎ
という特に嫌がられない行動だと見なされ、発言しやすい教室雰囲気になります。
参考文献
Cultrone, P.(2009). Overcoming Japanese EFL learners' fear of speaking. University of
Reading Language Studies Working Papers, 1, 55-63. Downloaded from
http://www.reading.ac.uk/AcaDepts/ll/app_ling/internal/Cutrone.pdf on 2011/12/12
McCroskey, J. C., Gudykunst, W. B. & Nishida, T. (1985). Communication
apprehension among Japanese students in native and second language. Communication
Research Reports, 2, 11-15. Downloaded from
http://www.jamescmccroskey.com/publications/126.pdf on 2011/12/12
成果・効果
コミュニケーション能力や発信力が養われます。
授業内容の理解が深まります。
より楽しく面白く受講できます。
学生は寝ません。
83
− 86 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
PBL 型テュートリアルの現状と課題
授業科目名
展開系テュートリアル(学部専門教育)
対象学部
医学部医学科4年生
受講者数
約 100 人
授業形態
演習
教材・メディア等
テュートリアル室(少人数グループ用学習室)
工夫のポイント
シナリオを基に少人数のグループに分かれた学生たちが学習課題を
抽出し、自学自習(自己学習+グループ学習)で課題を探求し、そ
の成果をまとめて発表することで、課題探求能力を養うことができ
るよう工夫しています。
キーワード
PBL、テューター、シナリオ、グループ学習、
授業担当者名
医学部
川崎
勝
具体的な内容
一般に少人数(1 名〜数名)の学生に 1 名の教員がついて個別指導する学習形態がテュ
ートリアルと呼ばれていますが、ここでいう「PBL(Problem Based Learning)型テュー
トリアル」(あるいは、単に「PBL」と略称)とは、1980 年代以降英米の主要医科大学に
おいて急速に普及した、シナリオの形で表現された患者(paper patient)の事例から学生
自身が問題(課題)を抽出し、その課題について自学自習する学習法(問題基盤型学習)
のことです 1 。この学習方法は、欧米では医学教育以外の高等教育の諸分野に広まりを見せ
ていますが、日本においても 1990 年頃から東京女子医大を筆頭に導入が進み、特に 21 世
紀に入ってからはほとんどの医学部・医科大学に普及しました。
山口大学でも平成 14(2002)年度以来、「展開医学系テュートリアル」の科目名の下、
PBL 型テュートリアルの導入・普及に励んできました。平成 17(2005)年に刊行された
本書の前版にあたる『山口大学 FD ハンドブック第3部 大学における授業改善ヒント集』
では、シナリオ作成のコツにポイントを絞って PBL 型テュートリアルについて紹介しま
した。今回は、全国の医療系学部を中心としたその後の展開と、ある程度普及したからこ
そ浮かび上がってきた諸々の課題について紹介したいと思います。
日本での PBL は、当初医学部医学科で普及しましたが、「患者のシナリオを元に課題を
抽出する」という共通点から看護を中心とした医療系の学部・学科にも普及しつつありま
す。また、工学系教育においても問題基盤型学習(同じ「PBL」ではあっても”Project” Based
Learning と称される場合も多いようですが)は導入が進みつつあります。PBL の普及が
見られる学部・学科の特徴は、複雑な状況に対処することが要求され、社会的に重要と見
なされ、かつ具体的かつ実践的であるような諸課題に適切に対応しうる高度な知識と技能
を兼ね備えた専門家の養成を使命としているところにあります。そのために、現場での実
践(医学科で言えば臨床推論)を模擬的に先取りし、訓練する PBL へのニーズが生まれ
ていると理解できます。
1
「PBL 型テュートリアル」そのものに関しては次の書物を参照してください。Peter
Cantillon 他著『医学教育 ABC』篠原出版新社(2004)、吉田一郎・大西弘高編著『実践
PBL テュートリアルガイド』南山堂(2004)
84
− 87 −
21 世紀に入っての日本における PBL の普及の過程で興味深いのは、改めて PBL の理論
的基盤整備が行われたことと、ある程度普及することで改めて PBL を大学教育において
実践することの諸問題が明確化したことです。
PBL の理論的な基礎付けで重要な役割を果たしたのが「成人教育理論」です。紙幅の関
係で詳細は省きますが 2 、PBL にとってのポイントは、学生(学習者)を、既に自らのニ
ーズを明確に把握し、能動的な自己主導型学習へのレディネスを備えた「大人」と見なす
ことです。
他方で、普及とともにどんどん明らかになっていった問題点は、大きく分けて教員側に
起因する問題と学習者側に起因する問題があります。教員側にとっての問題点の第一は、
PBL テュートリアルが膨大なマンパワー(ひいては諸々の教育リソース)を必要とするこ
とにあります。PBL では、学生を 5〜8 人程度の小グループに分け、それぞれにテュータ
ーを貼り付けることを前提としていますので、仮に 100 名の学生を対象に週に 3 回テュー
トリアルを実施するだけで少なくとも延べ 50 名程度の教員を動員することが必要になり
ます(医学科モデル)。医学部は教員数は多いですが、その大部分は多数の患者を抱える臨
床医でもあるので、これだけの教員を確保するのは極めて困難です。また、教員の役割は
「教授する者」(teacher)ではなく、「(学生の自己学習を)支援する者」(facilitator)で
あることが期待されているので、事前のテューターとしての訓練(FD)が要求されます。
また、学習者側にしても、これまで一方的に教えられる高度な知識を習得することにば
かり集中してきた集団が、全員ただちに成人学習理論でいうところの「大人」になれと言
っても無理があります。
かくして、近年、PBL に本格的に取り組み始めた看護系や工学系はともかく、20 世紀
末から取り組んできた医学系にとって、ここ 10 年はよりよい PBL を求めて暗中模索の時
代となりました。
成果・効果
現時点で、日本の高等教育システムに充分に適合した普遍的な PBL モデルはまだ確立
していないように思えます。したがって、
「成果・効果」を述べるのはまだ時期尚早でしょ
う。
前提条件として一番強く望まれるのは「ヒト・モノ・カネ」の教育リソースの充実です
が、この点で近未来に条件が大きく好転することは極めて困難に思われます。だとしたら、
所与の諸条件の中で、PBL から期待できる成果を確保しつつ、教員側にとっても無理なく
実践できるモデルを確立することが急務に思えますし、他学部・他学科の教育システムに
も示唆を与えることができると思います。
実際、上述の従来の PBL の医学科モデルに対し、1 名のテューターが複数の学生グルー
プを巡回しながら指導する Floating Facilitator Model や学生(上級生)がテューターの
役割と務める Peer Tutor Model、あるいは、TBL(Team Based Learning)とも呼ばれる
大教室モデル(Large Class Model)など様々な PBL のバリエーションが日本の各大学で
試みられております。
残りのポイントは(これが一番難しいのかもしれませんが)、いかにして学生に PBL へ
のレディネスを身につけてもらえるかです。この点について、また改めて報告する機会を
得られれば、と願っています。
2
例えば、渡邊洋子『生涯学習時代の成人教育学──学習者支援へのアドヴォカシー』明
石書店(2002 年)を参照してください。
85
− 88 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
工学部専門科目としての数学系科目の授業のあり方
授業科目名
線形代数及び演習, 常微分方程式及び演習 (工学部専門教育)
対象学生
工学部1・2年生
受講者数
210 人(線形代数及び演習)、140 人(常微分方程式及び演習)
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書
工夫のポイント
講義形式の授業の後半 15~20 分をかけて演習問題を解答する時間
を設けることによって一層の理解を深めるようにしています。次回
の授業の始めに解答を板書し説明を加えることで復習をかねて再度
理解を深めるように工夫しています。
キーワード
教科書,演習問題
授業担当者名
理工学研究科
柳
研二郎
具体的な内容
・工学部の専門科目としての数学系科目の現状
工学部 7 学科の専門科目としての数学系科目は次の 6 科目あります。
線形代数及び演習(1 年),常微分方程式及び演習(2 年),応用解析Ⅰ(2 年),
応用解析Ⅱ(2~3 年),確率統計(2~3 年),数値解析(3 年)
特に線形代数及び演習は 7 学科とも 1 年生で開講されている唯一の数学系専門科目です
ので共通教育の数学 1,数学 2 とともに大学に入学後すぐに学ぶ重要な数学基礎科目と
して位置づけられています。共通教育の数学 1、数学 2 はいわゆる微分積分を中心とし
たもので高校で学んだ微分積分の内容を深めたものになっています。また専門科目の線
形代数及び演習は行列,行列式,ベクトル空間,固有値などを学ぶことになっています。
いずれも工学部には各専門学科での教育に必要な最低限の知識や数学的方法を身につ
けるたいへん重要な科目です。
・他大学との比較
通常他大学では微分積分と線形代数は 1 年生の共通教育科目として通年で学ぶことにな
っていますが,山口大学工学部では以前から線形代数は半期で修得するカリキュラムに
なっています。したがって 1 年かけて学ぶ内容を半分の期間で学ばなければならないの
で学生にとってはたいへん厳しい勉学を要求されることになっています。また教員にと
ってもいかに能率良く教えるかという工夫が必要になってきます。
・授業の進め方
線形代数及び演習(3 クラス)と常微分方程式及び演習(2 クラス)の 2 科目を担当していま
すので,その授業方法を紹介します。まず年度初めにシラバスを入念に作成し第 1 回目
の授業のときに全員にシラバスを印刷したものを配布し,詳しく説明します。毎回の授
業の進め方,出席の取り方,演習の仕方等々です。基本的には教科書を決めてその教科
書にそって丁寧に板書し説明を加える方法で授業を進めます。授業の終わり 15 分くら
いをかけて A4 の半分の紙を配布し,演習問題を解答してもらいます。その日に学んだ
項目に相当する演習問題を教科書の中から選んで解いてもらうことにより一層の理解
を深めてもらうことにしています。解答できた人から順に提出してもらい, その日の授
業を終えることになります。集めた答案は 1 週間かけて TA に添削してもらい翌週の授
90
− 89 −
業の始めの 5 分でその解説を行います。そして答案は授業の終わりに持ち帰ってもらう
ことにしています。このスタイルの授業方法を数年間続けていますが,なかなか評判は
良いようです。また試験のみで成績をつけていますので,いかに試験に取り組んでいる
かで学生の成績に直接的に反映されます。中間試験を 7~8 週間経ったところで行いま
す。そして 16 週目に期末試験を行います。中間試験と期末試験の成績の合計が 120 点
以上の人を合格としますが, 120 点未満の人については改めて再試験を課しています。そ
の再試験で 60 点以上をとれば追加合格とします。
成果・効果
・過去 5 年間の成績の例
ゆとり教育世代の学生は入学時には数学の知識は十分とはいえないですが,授業のやり
方を工夫することで何とか専門学科の授業について行けるようにしたいという気持ち
で毎回の授業を行っています。過去 5 年間のある学科の線形代数及び演習の成績です。
線形代数及び演習
受講者数
平成 18 年度
平成 19 年度
平成 20 年度
平成 21 年度
平成 22 年度
81
76
88
82
83
合格者数
81
74
79
74
79
秀
33
24
16
14
9
優
良
19
14
21
26
22
13
17
19
18
20
可
16
19
23
16
28
不可
0
1
9
7
4
未
0
1
0
1
0
合格率
100%
97%
89%
90%
95%
確かに秀での合格者数をみますと減ってきていますが, 全体としては合格率や不合格者
の数は横ばいですので何もかもゆとり教育のせいにすることはできないような気がし
ます。やはり授業のやり方, 教材の選び方,演習の方法等々で学力を伸ばせる可能性が
大きいと思われます。そこで今まで教科書は 1 つに決めてその教科書にそって授業を行
ってきましたが,今年度新たに教科書を自ら書いてある出版社を通して出 版し まし た。
あいにく今年度当初には間に合いませんでしたが 6 月初めからはこの教科書を使って授
業を進めることにしました。今まで使いにくかった箇所がいくつかありましたが,それ
も解消されて納得のいく授業ができましたのでまずはホッとしています。現在後期の授
業でも同じ教科書を使って授業を行っていますが,教員としては充実した年が送れそう
です。
91
− 90 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
学生を講義に参加させるために
授業科目名
情報理論(専門教育)
対象学生
工学部知能情報工学科2年生
受講者数
約 90 人
授業形態
講義
教材・メディア等
プリント、教科書、及びスライド資料
工夫のポイント
多対1の講義において点呼で出席を確認し、講義中にも指名して学
生に発言させることによって1対1の要素を取り入れ、これによっ
て学生の思考力や忍耐力を養うよう工夫しています。
キーワード
点呼、考えさせる、当てる、叱る、1対1
授業担当者名
工学部
平林
晃
具体的な内容
私が所属する情報系学科の科目は概して、プログラミングなどの実装手段を学ぶ技術的
内容と、知的情報処理の数理を学ぶ理論的内容に大別できます。前者は一般社会にも広く
認識されている内容であり、こうした技術を学ぶ為に学生は大学に入ってきます。一方後
者は一般にはほとんど知られておらず、学生も入学してから面食らう内容です。私が担当
する「情報理論」はまさに後者に属する科目です。平均や条件確率などの統計の基本項目
を用いて、情報の圧縮限界や、誤り無し通信の効率限界を学びます。ガイダンスはともか
くとして、メインストリームにおいては概念の導入とそれらを表現する数式が頻出します。
平均の計算すら「足して2で割る」程度の認識しか持たない学生を、この講義にどのよう
に参加させればいいのか。私なりに実践している事は以下の内容です。
・ 出席を取る:知能情報工学科には4,5年前から出席チケットというものが存在します。
これは中村教授が構築して下さったネット上のシステムで、講義で配ったチケットに書
かれた乱数を学生が Web 入力すれば、その回の講義に出席されたことが記録されます。
これは集計され、学生、教員が確認できるのみならず、保護者にも開示されています。
チケット導入以前、私は一人一人点呼して、出席を確認していましたが、このシステム
は学生にも好評なので、一時期、点呼をやめていました。しかしそうしますと、わずか
ながらに顔と名前が一致していた学生の人数が更に少なくなり、名前を読めなくなる学
生が逆に増えてしまいました。これはまずいと思い、最近の講義では二度手間になると
思いながらも、開始時に点呼で出席を確認し、最後にチケットを配布しています。これ
によって学生は多少は目を覚ますと思いますし、遅刻した学生が明確になりますので、
次回の無遅刻を促す事もできます(要するに「説教」です)。実は、200名を越える一
般教養でこれを実施したことがあります。このときは15分程度掛かってしまいました
が、それでも、寝ている学生を起こす効果はあったと思います。
・ 問題を考えさせる:上記の通り、数式が頻出する講義内容ですので、聞いているだけで
は学生はさっぱり理解できません。そこで、私はプリントをできるだけ毎回配布して、
問題を解かせるようにしています。実際に手を動かして計算させることで、少しは内容
理解の助けになっているのではと思います。また、このプリントは中間/期末試験と同
形式ですので、それらの機会にもそれほど動揺なく取り組めているのではと思います。
・ 当てる:配布された問題に学生が取り組む姿勢はまちまちです。直ちに頭が回り始める
92
− 91 −
学生もいれば、ようやく教科書を開きだす学生もいます。こうした学生個別の状況に対
応する最も適した方法は当然、個別指導ですが、時間的な制限でいつもそうするわけに
はいきません。そこで、学生を順番に当てていき、問題に答えてもらうようにしていま
す。諦めの早い学生も中にはいますが、食らいついてくる学生も少なくなく、そのやり
取りは他の学生の意識向上にも貢献していると考えています。
・ 叱る:以上のような対応をしつつも、やる気の無い態度を示す学生もいます。(講義に
関係のない)私語がやまない学生もいたりします。そのような場合に私は「叱る」よう
にしています。もちろん、相手の人格を否定するようなことのないように言葉を選びま
す。しかし、多くの卒業生が社会で活躍する姿をみて来て、このままではこの学生がも
ったいないと思えるときには、その気持ちを伝えるようにしています。反発する学生も
いましたが、やる気を取り戻した学生もいたように思います。
・ 最後に私は声が「でかい」です。先日、C11 講義室でマイクの電池が切れていたので
仕方なく地声で話しをしたのですが、たまたまそのとき公開授業に参加して頂いていた
先生から終了後に「一番後ろでも全く問題なく聞こえていましたよ」と言って頂きまし
た。この「でかさ」も、学生を講義に参加させる一助になっていると思います。
成果・効果
以上のような取り組みをして参りましたが、特にこれといったポイントが無く、申し訳
ない限りです。ただ、学生からは比較的良好な感想を頂いておりますので、手前味噌では
ありますが、若干それらを紹介させて頂きます。以下は無記名の感想です。
・ 「楽しかったです」
・ 「わかりやすいので後輩達にもこのまま授業してほしい」
・ 「あなたはとてもすばらしい!」(なめられてます)
また、他の一般教養科目ではありますが、同様の講義形式に対する感想(記名式)があ
りましたので、若干長いですが引用させて頂きます。
・ 「私が講義を受けた中で一番感動的だったのは、積分の反対が微分になる理由を知った
ときです。微積分は高校のときからずっと疑問に思っていたので、講義を受けて良かっ
たなと思いました。今まで微分の公式とか、とりあえず暗気(「暗記」の誤字)していた
けど、ちゃんと意味を理解して解けるようになりました。先生の授業楽しかったです。
2年になっても楽しみにしています。」
・ 「とても熱くて、とてもためになる授業でした。僕はきちんとしかってくれる先生がい
いので、自分も集中できました。これからも他の講義でも、履修したからには何かを学
んでいきたいと思いました。じゃないと、もったいないですよね!」
もちろん、こうしたポジティブな感想だけではなく、時には耳の痛い内容も頂きます。
そうした内容にも可能な限り、耳を傾けられればと思っています。
最後に、最近の学生はバリアンスが大きいとは経産省の指摘でもありますが、こうした
状況に対応する為には、1対1がキーワードになると思います。多対1の講義において1
対1の教育をどのように実現するかが重要になるのではと思います。この点を意識しつつ、
各種教育改革に取り組んでいく事によって、山口大学の教育を更に発展していければと思
っています。
93
− 92 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
実習授業において学生の理解度を高めるための工夫
授業科目名
ものづくり創成実習Ⅱ(学部専門教育)
対象学生
工学部機械工学科2年生
受講者数
約 100 人
授業形態
実習
教材・メディア等
ケント紙、CADソフト、金属材料、工作機械
工夫のポイント
実用品の製作を課題に取り入れ、学生自身による工程説明、レポー
トでの事後考察を通して学生が自主的に理解を深められるようにし
ています。
キーワード
ものづくり、技能教育、実用品製作、学生による説明、事後考察
授業担当者名
工学部 新銀秀徳、國次公司、機械工作工房 岩谷健治、前川昇司、
上田政洋、宮崎清孝、伊藤望美
具体的な内容
授業概要
機械工作によるものづくりには、様々な技術が求められます。自分が作りたいものの形
状を正確に把握して表現する基礎的な能力はもちろんのこと、実際にものを作るためには
厳密な設計から製図さらには工作機械による加工の技術が必要になります。こうした技術
に対する基本的な知識と経験は、将来ものづくりに携わる者に求められる素養であるとい
えます。本授業では、これらについて学ぶための実習を行っています。
授業は立体構成演習と工作実習から構成されています。立体構成演習では物体形状の把
握と表現、工作実習では機械工作に関する実習を行っています。立体構成演習では、様々
な三次元立体を紙面上に投影法を用いて表現する作業と、さらに投影図からケント紙上に
展開図を描き三次元立体として組み立てる作業をそれぞれ1週で行います。また、CAD
ソフトを用いてコンピュータ上に三次元立体のモデルを作成する作業を2週に渡り行いま
す。工作実習では、旋盤、フライス盤、手仕上げ、溶接および切断、NC工作機械の実習
をそれぞれ1週で行います。この中で、旋盤、フライス盤、手仕上げの実習を通して金属
丸棒を材料に文鎮の製作を行い、それぞれの実習でつまみ部の加工、底面の切削、端面仕
上げを行います。
製作する文鎮
工作機械(左から旋盤、フライス盤、NC工作機械)
94
− 93 −
授業における工夫
本授業では、学生の理解度を高めるために、次のような工夫を取り入れています。
1. 学生による説明
授業中は製作作業だけではなく、学生自身が寸法の計算方法や決定理由、工作機械の
使用方法などを教員や他の学生に対して説明する機会を設けています。
2. 実用品の製作
製作自体を目的とした特殊なものを作るのではなく、実用品である文鎮を製作し、完
成品については各自が持ち帰ることができるようにしています。
3. 事後の考察
実習後はレポート作成を行い、加工誤差の原因追及や使用技術の詳細な調査を行うよ
うにしています。
工作実習の様子
成果・効果
本授業の目的は技能教育であるため、学生は新たなものを生み出すというよりも、与え
られた課題に取り組むことになります。このような授業の場合、学生は内容に対する理解
が浅いまま、指示通りの作業をこなすことに終始する恐れがあります。このため、学生の
意欲や自発性を引き出すことにより、理解度を高めることが重要になります。
本授業では、上記のように学生一人一人が説明責任をもつことで、自分の理解が曖昧な
点を明らかにし、これを解消しながら作業を進めていくことができます。立体構成演習で
は、立体の寸法を正確な計算で求めずに直感のみによる曖昧な方法で決めると、展開図を
立体として組み立てることはできません。工作実習では部品どうしの整合性を考慮して寸
法を決めなければ、部品を合わせて一つの文鎮を完成させることはできません。また、課
題の内容については、文鎮のような実用品の製作を目標に掲げることにより、ものづくり
の実感や製作品への愛着が得られるため、実習に対する意欲を高めることができます。さ
らに、技能実習であってもただ作って終わるのではなく、事後のレポート作成過程におい
て作業工程について分析し、関連技術について調査することで授業中に得られた理解を深
めることができます。
ものづくり教育の創造力を養うという面には大きな意義があると考えます。しかしなが
ら同時に、アイデアや直感的発想の段階に留まり、実現の可能性や方法を考慮しないまま
に終わるおそれもあります。アイデアや発想を実現に結び付けるためには、その過程にお
いて科学的裏付けや技術的手法に対する熟慮が必要不可欠であり、そこに現実問題の難し
さがあるとも考えられます。本授業がこのことの理解に対する一助となることを期待して
います。
95
− 94 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
マイクロ・ティーチングの手法を取り入れた学生参加型の授業展開
授業科目名
授業設計論(学部専門教育)、商業科教育法(学部専門教育)情報科
教育法Ⅱ(学部専門教育)など
対象学生
教育学部3年生(授業設計論)、経済学部2年生(商業科教育法)、
教育学部2年生(情報科教育法Ⅱ)
受講者数
10 名(授業設計論)、10 名(商業科教育法)約 20 名(情報科教育
法Ⅱ)
授業形態
講義、演習
教材・メディア等
プリント、模造紙、パワーポイント、パソコン、授業評価表
工夫のポイント
・教科指導の実践力向上を目指した主体的な学生参加授業の展開
・指導案の作成、教材開発、授業評価の実施、授業改善のための指
導案の再修正、2 回目のマイクロ・ティーチングの実施等の一連
の授業改善の手法を学生が主体的に実施する授業法の工夫
キーワード
マイクロ・ティーチング、授業改善、学生の主体的な学習活動
授業担当者名
大学教育センター
小川
勤
具体的な内容
[問題意識]
・教科教育法や授業設計論などの授業では、一般的に講義形式の授業形態になりがちです。
・しかし、教科教育法では実践的な教科指導力の向上が学校関係者や保護者から強く求め
られています。
・各県の教員採用試験でも、近年、
「模擬授業」を採用試験の中で課せられ、その結果が採
用の結果に大きな影響を与えることが多くなってきています。
・一方、教科教育法等の授業の中で受講者全員に 50 分間の模擬授業を実施することは時
間的な制約から難しいのが現実です。
・これらの問題を解決する手段として、20 分間という短時間の模擬授業を複数回実施する
「マイクロ・ティーチング(以下、MT)」の技法を取り入れることにより、教科指導の実
践力を向上させる試みを実践してみました
[授業のポイント]
・MT は同じ個所を必ず 2 回以上実施させます。
これにより、1 回目と比べて、2 回目以降の授業
技術がどのように変化したかを MT の評価者であ
る生徒役の受講生だけでなく、MT 実施者本人に
自覚させるためです。2 回以降は前回の MT や評
価シートの結果を受けて、指導案や教材を必ず改
善するように、教員は指導・助言します。
写真:マイクロ・ティーチング(MT)の様子
[方法]
MT の実施方法について説明します。受講生が多い場合には、5 名~6 名で1つの班を作っ
て、班ごとに以下の手順で実施します。
96
− 95 −
①1 回目の MT のための指導案1を作成します。②MT
を実施する上で利用する教材(プリント、資料等)を
開発します。③指導案を提出させ、指導案の添削を担
当教員が実施します。添削した指導案を受講生に返却
し、受講生は指導案2を作成します。④指導案2に基
づいて第 1 回目の MT を実施します。⑤MT 実施中、
生徒役の受講生は、評価シートの評価項目にしたがっ
て評価をします。⑥MT 終了後、MT 実施者は生徒役
写真:評価シートの様子
の受講生から評価シートを受け取ります。⑦MT 実施者
は自己評価を評価シート(自己評価用)に記入します。⑧自己および生徒役の受講生から
の評価結果を受けて、指導案を修正し、指導案3を作成します。⑨評価結果を受けて使用
する教材を改善します。⑩指導案3に基づいて 2 回目の MT を実施します。以下⑤~⑨の
作業を繰り返します。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・指導案の作成、利用する教材開発、MT の実施と学生自身一人で主体的に取り組まなけ
ればならない授業形態であるため、当初は準備作業の大変さに不満を述べる者もいるが、
第 1 回の MT を実施した後は、生徒役の学生からの評価結果や自己評価の結果から安易な
考えは消え、2 回目以降の MT に真剣に取り組むようになる。したがって、学習意欲は他
の授業に比べて極めて高いと思われます。
・教科の実践的な指導力は 1 回目の MT より、2 回以降の MT において、確実に向上しま
す。
・生徒役の受講生は、他者の MT の授業評価をただ単に実施するだけでなく、自らが MT
を実施する際の「授業の進め方」、
「生徒に対する話し方」
「教材の利用方法」などのノウハ
ウや知識を他の学生から学び獲得することができるため、自らの教科指導の実践力に結び
付けることができるようになります。
[学生からの意見]
・MT を終了して、人に教えることの難しさを実感する学生が多い。
・相手(生徒)の立場にたって、思いやりの心で臨むことの重要性を自覚したようだった。
・自分で理解している内容でも、確実にそれを「伝える」ことの難しさを自覚することが
できたようだった。
・大学等での学びを基礎としてさらに自分で十分に準備して教材研究しておかないと自信
を持って教壇に立つことができないことを自覚するケースが多い。
・教育実習に行く前にこのような体験をすることができてよかったという意見が多かった。
[この方法の課題]
・受講生が多い場合、5~6 名の班で MT を実施することになるが、受講生だけの相互評価
だけでは十分でない場合が多い。
・上記の解決ためには TA を多く配置して対応することも考えられるが、他の授業と異な
り、当該のような授業形態での TA には授業評価に対するそれなりの見識と経験が必要で
ある。したがって、これに対応できる適切な人材を確保できるかどうかが難しい。
97
− 96 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
1年生でもプレゼンさせて、社会への興味・関心を引き出す!
授業科目名
建設情報基礎工学(専門教育)
対象学生
工学部
受講者数
約 80 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、プリント
工夫のポイント
講義形式の授業に学生のグループ学習(ディスカッション、プレゼン
テーション)を取り入れ、コミュニケーション能力や情報分析・発信
力を養うよう工夫しています。
キーワード
グループ学習、ディスカッション、プレゼンテーション
授業担当者名
大学評価室
社会建設工学科1年生
鈴木素之
具体的な内容
建設情報基礎工学は、社会建設工学科の1年次の専門教育科目の一つで、ノートパソコ
ンを用いて、社会建設工学を学ぶ上で必要となる情報処理の基礎と活用法を身につけるこ
とを目標としています。具体的には、ワード、エクセル、パワーポイントなど基本アプリ
ケーションソフトの使い方を実習により習得させています。
その集大成として、班ごとに、あるテーマに沿って、情報を取得・整理・分析し、それ
らをまとめるプレゼンテーションを行っています。そのプロセスでは、各テーマの現状や
課題について、班ごとにディスカッションして、意見を集約させることを求めています。
この授業では、1年生でも、できる範囲で、プレゼンテーションを行って、発表するこ
との意義や面白さ、発表態度・技巧の大切さなど、発表までのプロセスから多くのことを
学べることを狙いとしています。
以下のように、全15回の授業のうち、5回分の授業をこのプレゼンテーションに充て
ています。
1回目:テーマ一覧の説明、コンテンツの検討と役割分担
2回目:資料の収集と整理、図・イラストの作成
3回目:ファイルの修正、ファイルの統合
4回目:発表(前半)・講評
5回目:発表(後半)・講評
まず、1回目の授業において、各班のテーマを決定します。2009年度のテーマの一
覧は下記のとおりで、各テーマは、建設分野の様々なトピックとそれに関連した研究・技
術開発の動向を踏まえて選んでいます。なお、2011年度においては、東日本大震災や
TPP といった社会・経済に関連する事柄を取上げました。新聞やニュース、インターネッ
トの各メディアに登場する最新のトピックを取り上げることにより、学生の興味・関心を
引き出しやすくなっていると思います。
・ 超電導リニアによる中央新幹線
・ 地下資源(メタンハイドレートなど)
・ 大深度地下利用
・ 高齢化・人口の減少と土木工学
98
− 97 −
・ 環境アセスメントとは
・ 地球温暖化
・ 最近の土砂災害のまとめ
・ 最近の地震災害のまとめ
・ 建設事業(建設投資)の変遷
・ 公務員・ゼネコン・コンサルタントの仕事
プレゼンテーションの体験がほとんどないと思われる1年生に対しては、調査方法やパ
ワーポイントのスライド作成に対して、以下のような指示を与えています。
・ 情報収集のツールとしてインターネットや文献(図書館等)などを利用する。
・ ただし、引用・参考にした文献などはスライド中に明記する。
・ テーマに対して班としての意見・感想を記述する。なお、提案や感想、調査した上
での将来展望などでも可とする。
時間の都合上、発表時間は質疑応答を含めて5分間としているため、スライド枚数は一
律4枚(表紙は別)に指定し、テーマに関する説明スライドを3枚、班としての意見・感
想を述べるまとめスライド 1 枚の構成にしています。また、エクセルの図表を用いること、
パワーポイントの作図やアニメーション、ノート機能を使用することを条件にしています。
各班の発表については、前述のように、第14回、15回の講義時間に行なっています。
計20班になりますので、前半と後半に10班ずつ分けています。発表の評価については、
以下の点を学生に事前に伝えています。
・ スライドのわかりやすさ、これまで学んだことがいかせているか等を評価する。
・ 発表は代表者が行なうが、誰が発表してもよいように準備する。
・ 質問をされた場合、班員ならば誰が答えてもよいとする。
・ 発表や質疑応答した人には加点をする。
その他、授業において配慮した点は次のとおりです。
・ 班員をできるだけ少人数(4名程度)にする。
・ 前年度のプレゼンテーション例などを見せて、先輩学生の見本をみせる。
・ 他班の発表を評価させる。
・ 1テーマに対して2班が担当し、作り手の観点や工夫によって、インプレッショ
ンに差がつくプレゼンテーションになることを理解させる。
成果・効果
2010年度のプレゼンテーションの一例を以下に示します(ただし、表紙は除く)。
99
− 98 −
このテーマは「地球温暖化」で、中身の説明は割愛しますが、1 年生でも、わかりやす
いスライドを作成できることが一目瞭然です。この班では、自分たちで、データを取得し
て円グラフの作成を思い立ったそうです。このようなサンプルを学生全員で見て、聴衆の
.....
立場から、わかりやすさが大事であること、そのために創意工夫する(つくりこむ )こと
が必要なことが納得できたと思います。授業中は、やる気が出るように、
「これは面白い!」
などと声掛けをしています。
この講義のシラバスに掲げている目標としては
「情報を収集し、整理・分析する方法を身につける」
「プレゼンテーションの基本を理解し、パソコンによるプレゼンテーションを行うこ
とができる」
「他学生のプレゼンテーションについて正しく評価できる」
「主体的な態度でプレゼンテーションを行うことができる」
「プレゼンテーションソフトのさまざまな機能を使って、表現力と説得力のあるプレ
ゼンテーションを行うことができる」
などです。このプレゼンテーションをきちんと行うことにより、これらの目標はある程度
達成できると考えています。
教員の感想として、この取り組みによって、学生から社会への興味・関心が引きだされ、
学生同士に協調性がついたように感じます。また、2年次以降の専門科目の学習の動機づ
けになっているとも思います。最近の学生のマインドとしては、厳しい経済情勢を反映し
てか、入学後、将来について悩んだり、迷ったりすることがあるように思います。本学科
には「人や社会の役に立ちたい」「スケールの大きなモノづくりに携わりたい」「豊かな自
然を守りたい」といった志望動機で入学する学生が多いと思います。この授業には、これ
らの志望動機を発展させると上記のようなテーマに結びつくこと、また、これらのテーマ
が日本だけでなく外国でも重要であることが、自分たちの情報収集を通じて理解できる仕
掛けがあります。学生が将来の夢や希望を達成するよう、ぶれないで・しっかりと学習す
るには、入学時の動機をより強く・深めるような働きかけを授業に取り入れることが、今
後重要になると考えます。
以上
100
− 99 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
大学院生のプレゼンテーション能力に関する工夫
授業科目名
病態・予防獣医学特別演習
山口大学大学院連合獣医学研究科博士課程学生
約 5 人(学部学生 10 人程度)
対象学生
受講者数
授業形態
教材・メディア等
プレゼンテーション
パワーポイント
工夫のポイント
最先端の論文を 15 分程度に簡潔にまとめ、プレゼンテーション
し、ディスカッションを行っています。発表は、学部学生も聴講
しております。学部学生も理解できるようプレゼンテーションを
まとめるために、大学院生はかなりの論文読解力を要します。ま
た、プレゼンも分かりやすくすることが要求されます。教員のみ
ならず下級生からの両方の視点からの討議が行われるため、知識
のみならずディスカッション能力が養われます。更に、学部学生
のプレゼンに対するディスカッションにも参加するため、指導者
としての立場からのディスカッション能力も養われます。
キーワード
プレゼンテーション、ディスカッション
授業担当者名
連合獣医学研究科
前田
健
具体的な内容
本研究科の病態・予防獣医学特別演習では感染症に関する最先端の論文を読んで、パワ
ーポイントにまとめ、それを大学院生のみならず、教員と学部学生にプレゼンテーション
し、その内容に関して、質疑応答とともにディスカッションを行います。また、学部学生
のプレゼンにも参加し、ディスカッションを行います。
・教員のみならず、同じ博士の学生、学部学生のそれぞれの視点から質問があるため、知
識力を問われます。
・学部学生にも理解できるようにプレゼンする必要があるため、より簡潔に、重要ポイン
トをわかりやすくプレゼンする能力が問われます。
・博士課程の学生は、学部学生のプレゼンに関しても上級生としてのディスカッションを
する必要があるため、指導者としての視点を養うことができます。
成果・効果
・博士課程の学生は、この演習を通じて、その論文以外の知識が要求されるため、自主的
に勉強するようになります。
・上だけでなく下にもプレゼンテーションを行うことにより、簡潔かつ分かりやすいプレ
ゼンテーションを行う努力をします。
・学部学生に関しては、どちらかといえば指導者的にディスカッションに参加するため、
更に勉強する必要があります。
101
− 100 −
第2章
実践編
工夫の種類
4.学生を授業に巻き込む方法
テーマ
工学部における心理学教育
授業科目名
デザイン心理学(専門教育)、感性心理学(専門教育)
対象学生
工学部2・3年生
受講者数
約 50 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、出席カード
工夫のポイント
講義形式の授業において、デモや模擬実験を多用し、学生の参加意
識を高めます。また、出席カードに講義で印象に残ったトピックの
日常生活への応用、質問、感想などを記述させることで、講義への
積極的参加を促します。
キーワード
デモ
授業担当者名
理工学研究科
模擬実験
など
日常への応用
松田
憲
具体的な内容
1.講義開始時に前回の内容の復習をしています。
2.講義用パワーポイントは、文字だけではなく、図や動画を多用しています。
3.講義中にデモを見せたり模擬実験を行ったりすることで、受講者の参加意識を高めてい
ます。
4.講義資料は配布せず、ノートを取らせます。その際に、PPT の丸写しではなく、自分
にとって見やすいように工夫して書くように指示しています。
5.出席カードには、今回の講義で印象に残ったトピックを挙げさせています。
6.挙げたトピックの日常生活への応用を提案させています。
7.出席カードに、講義への質問、感想、要望を書かせています。次回の講義冒頭で、全て
の質問に回答します。
成果・効果
1.講義開始時に前回の内容を概観することで、受講者はスムーズに講義に入れています。
2.文字だけでなく、グラフやイラストを用いることで、抽象的な理論への理解が促進され
ます。
3.実際に実験に参加させることで、心理学へのなじみの薄い工学部の学生に対して心理学
とはどのような学問であるか、どうようにしてデータを収集し、分析し、考察するかを
理解させています。
4.工夫しながらノートを取らせることで、漫然と講義を受けるのではなく、考えながら聞
くことによって講義内容への理解が深まります。
5.出席カードにトピックを挙げさせることから、受講者は講義をしっかり聞いてノートを
取る必要が生じます。また、トピックを挙げるために自分で書いた講義ノートを読み返
すことで今回の内容の復習ができます。
6.受講者がものづくりを主目的としている工学部の学生であることから、挙げたトピック
の日常生活への応用を提案させることで、講義内容をしっかり記憶させ、それを机上の
知識に留めることなく、活きた知識として身につけさせています。
7.全ての質問に丁寧に回答することで、最初は少なかった質問も徐々に増えていきます。
質問とそれへの回答を全受講者で共有することで、講義内容への理解が一層進みます。
89
− 101 −
第2章
実践編
工夫の種類
5.学生の授業理解度の確認方法
テーマ
授業内演習で授業の進め方を微調整
授業科目名
移 動 現 象 論 (学 部 専 門 教 育 ) , 環 境 プ ロ セス 論 及 び 演 習 (学部 専 門 教
育,大学院教育) など
対象学生
工学部2・3年生、理工学・医学系研究科1年生
受講者数
約 20~70 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書,プリント,解答用紙
工夫のポイント
講義形式の授業の途中で演習の時間を設け、これに取り組んでいる
学生の状況を巡回しながら注意深く観察します。これによって理解
度を確認し、講義の進め方を再構築しています。
キーワード
講義,授業内演習,巡回
授業担当者名
理工学研究科
佐伯
隆
具体的な内容
講義形式の授業に最低二回の演習時間を設けます。通常は講義の半ばと終わり頃に問題
を出しています。解答用紙として氏名と学籍番号をマークシート形式で記入できる用紙を
使い、演習の後に回収します。回収した解答用紙で出欠を付け、スキャニングして記録を
残しますが、大切なのはその用紙に最終的に書かれた”答え”ではなく、解答を書き進めて
いる学生の様子を観察することです。演習中に巡回し、どこはすらすらできていて、どこ
で止まっているのかを見ることで、学生の理解度を判断し、授業の進め方を修正していき
ます。どこが分からないのかを発見し、それに対応していくことが、分かりやい講義を組
み立てる上で重要と考えています。
成果・効果
一時間半の講義でぶっ続けに話していると、
「学生がついてきているのか?」という不安
にかられることがしばしばあります。自分では分かりやすく工夫して話しているつもりで
も、
「当然知っているだろう」と思ってしまっている部分があると、中間や期末試験の後に、
「ああ、あまり分かっていなかったのか...」と気づくことになります。これでは講義の意
味がありません。理解度は講義を聞いている学生の様子からある程度は分かりますが、も
っと詳細につかまなければ、授業を改善するには至りません。このため、授業内演習は最
も有力な方法と考えています。
演習の解答用紙を回収して、授業が終わってからじっくりと分析する、というのが一般
的と思います。解答の出来を見て、
「あまり分かっていないようだから、次回の講義のはじ
めに復習が必要だろう」という対策をとることもできます。しかし、以下のような問題点
もあります。
・ 演習は試験と違うので、必ずしも一人一人が自力で解くとは限らず、友達の解答を
そのまま写すことも多い。
・ 答は合っているが途中経過が書かれていない場合、理解できているのかどうか分か
らない。
・ 書き込みが少ない答案について、分からなかったのか、それとも他の理由があるの
かが分からない。
103
− 102 −
このように、回収した解答用紙の分析には限界があります。そこで実施しているのが演習
中の巡回です。解答に取り組んでいる学生の観察で、私は予想しなかったことにいくつも
気がついてきました。授業の進め方の改善点も含めて、以下に示します。
・ 演習を始めてもすぐに取りかからない学生がいます。何から始めたら良いのか...
というような予想される理由の他に、教科書を忘れたとか、電卓を忘れたという場
合もありました。そこで、教科書がないと演習ができないという状況を避けるため、
問題は板書することにしています。携帯電話に電卓機能があるものの、使っていい
のだろうかと複雑な計算を筆算でしている学生もいて、携帯電話を使ってもいいと
指示しました(試験では使えないことも念を押しておきます)。
・ 例題を板書しながら説明し、このすぐ後にほぼ同じ演習問題を出題した際、ノート
ではなく教科書を開く学生が少なからずいます(講義で教科書は補助的に使ってい
る場合でも)。これはノートを取るということに対する教育が必要ということを示し
ています。
・ 演習の途中で答えに近いものを板書しながら説明することにしています。巡回しな
がら、どこが分からないかを調べ、これをヒントとして板書します。また、計算問
題は はじ め に間 違う と 、そ の後 の 問題 に影 響
する こと も 多い ので 、 ある 程度 の 答え 合わ せ
円の面積について
や確 認が で きる よう に 板書 しま す 。こ れが 行
小学生から高校生までは
き過 ぎる と 、次 の答 え を板 書す る まで 手を 動
かさ ない こ とに なる の で、 全て 書 かな いこ と
がポイント(?)です。
・ 問題 で問 い たい こと よ りも ずっ と 前の とこ ろ
で、 壁に ぶ つか って い る学 生も い ます 。例 え
ば、 リッ ト ルと 立法 メ ート ルが 換 算で きな か
った り、 円 の面 積が 正 しく 求め ら れて いな い
場合があります。「これくらいできるだろう」
というのが危険です。また、「これもできない
のか 」と が っか りす る のも 違い ま す。 円の 面
積が 正し く 求め られ な いの は、 公 式を 知ら な
いの では な く、 使わ な いか ら忘 れ そう にな っ
てい る、 か 、ケ アレ ス ミス です 。 ケア レス ミ
スに は三 つ あり 、う っ かり して 円 周の 長さ の
公式 を使 っ てい る、 π を掛 ける の を忘 れて い
る、 そし て 半径 と直 径 を間 違え て 代入 する 、
です 。は じ めの 二つ は とも かく 、 円の 計算 は
小学 生か ら ずっ と半 径 を使 って き まし た( 右
図参照)。しかし、工学では直径を使うことが
断然 多く な りま す。 例 えば 、パ イ プの 直径 は
ノギ スで 計 れま すが 、 半径 を簡 単 に測 定す る
方法 はあ り ませ ん。 こ のよ うに 、 問題 で直 径
が与 えら れ る理 由を 説 明し 、直 径 を使 った 円
の公 式を 一 度は 説明 す る必 要が あ りま す。 こ
れをしないのが「これくらいはできるだろう」
の落 とし 穴 です 。円 周 率に 3を 使 う学 生に は
104
− 103 −
πr 2
実際問題として、
半径より直径が測りやすい。
パイプ
ノギス
よって、これからは
πD 2
4
ちなみに
Dは diameter(直径)
rは radius
(半径)
まだ出会っておらず、「ゆとり教育」と簡単に言い切るのは違うと思います。
・ 解答用紙に書いている式は正しいのに、答えが違うことも多々あり、電卓の操作に
慣れていないことに気がつきます。分数の複雑な計算では、まず分母を計算し、こ
れを紙に書き写してから電卓の表示をクリアーし、分子の計算の後、紙を見ながら
割り算をしていました。よく使うはずのべき乗やマイナスの指数が入力できない学
生がいることも分かります。関数電卓を持ってきていることだけで安心はできない
ということです。
・ 前年の授業内演習で学生がよく間違えていたところを次年度の学生は難なく解いて
いることがしばしばあります。ここでも、「ゆとり教育」という言葉で簡単にすまさ
れない因子があるということを示しています。そして、このことは毎年、同じ講義
をするのではなく、軌道修正、再構築が必要であることを示しています。
授業内演習による観察で授業改善のヒントを多く得ることができます。さらに、巡回し
ながら個別に間違いを指摘したり、考え方を説明することもでき、大人数の授業であって
もきめ細かい指導ができる可能性があります。みんなの前では質問できなかったり、板書
の間違い(あってはいけませんが)を指摘できなくても、巡回中に言ってくる学生もいま
す。また、演習中に活発な議論をしているグループができたり、解答用紙を提出した後も、
分からない友達に教えている学生がいるなど、一方的な講義ではない光景に出会えます。
最後に授業内演習は「書いたものを提出する」という緊張感を学生に与えることになり
ます。一方、試験とは違って、学生同士で相談することを認めているので、ときとして人
の解答を写して提出している状況があるのも分かります。演習のはじめには、
「これは授業
の理解度を調査し、今後の授業の進め方の参考にするもので、評点を付けない」と説明し
ているとはいえ、そのあたりの誤差が生じることは承知する必要があります。
105
− 104 −
第2章
実践編
工夫の種類
5.学生の授業理解度の確認方法
テーマ
学生の理解状況を確認しながら進める試み
授業科目名
情報基礎 I・情報処理基礎
情報基礎 II・OS 概論
対象学生
教育学部 1 年生
受講者数
情報基礎 I・情報処理基礎:約 30 人
情報基礎 II・OS 概論:約 50 人
授業形態
講義
教材・メディア等
プリント
工夫のポイント
学生の理解度の確認のため、授業の最後に小課題を課す。
キーワード
小課題、机間観察、出席確認
授業担当者名
教育学部
野村厚志
背景と試み
背景:
教員は学生の理解の状況を想定しながら授業を進めていきます。特に講義形式の授業に
おいては、教員の説明を学生が聞く座学中心となり、教員が一方的に話すという状況にな
りがちです。そこで教員が学生の理解状況を確かめるために、学生に質問がないか尋ねて
も、なかなか質問が出る状況にはなりません。その結果、教員の想定と学生の理解状況と
が乖離していく状況に陥ります。学生の理解状況を確認するための試みが必要となります。
教員が学生の理解の状況を確認するための試みとして、コメントカードの提出や小テス
トの実施などが一般に行われています。授業の感想をコメントカードに書いてもらう際に、
質問等があれば一緒に書くように促したり、あるいは、授業内容に関する小テストを最後
に実施することにより、授業内容が十分理解できたかを確認する試みです。また、これら
を出席確認や成績評価へ取り入れることで、学生の授業への取り組みを促します。
近年、大学においては、授業の出席状況を把握することも求められています。学生が授
業に出席することを促すことに加えて、不調学生を早期に把握するという意図もあります。
講義で出席を確認する方法として、(1)学生の名前を呼ぶ方法、(2)授業の途中で学生に質問
をして出席を確認する方法、(3)名簿や出席簿の紙を回して出席を取る方法、(4)電子的な方
法、などがあります。出席状況を成績に考慮するとすると、(1)・(3)では代返・代筆が問題
となってきます。また、(1)については名前を呼ぶ時間が必要となり、名前を呼ぶだけなら
ば無駄な時間が生じます。(2)のように適宜学生に質問をしつつ授業を進めることは、学生
の理解度を把握しながら授業を進める意味で効果的ですが、限られた時間の中で全ての学
生に質問をすることは困難です。また、学生によっては、皆の前で名前を呼ばれて質問さ
れることへの抵抗感を訴える者もいます。(4)では、情報環境の整備が必要となり、誰でも・
どこででもできる訳ではありません。
試み:
上で述べたような背景から、学生の理解状況を確認する方法として、授業の最後に小課
題を課すことを試みています。まず、授業の準備として、講義内容をまとめたプリント(A4
両面印刷 2 枚程度)を作成しますが、その最後に小課題として 1,2 問程度を書いておきま
す。さらに、講義内容のプリントとは別に A5 の課題提出用の紙を一人 1 枚ずつ準備して
106
− 105 −
おきます。また、プリントは website にアップロードしておきます。学生は、授業の終わ
り 10 分~15 分程度で、プリントに記載の小課題を考え、その解答を提出用の紙に記述し
て提出します。小課題の紙には質問などを記述して良いこと、時間内にできなかった者は、
持ち帰って翌週に提出してもよいこと等を伝えておきます。小課題の提出が出席確認の代
わりとなっていることも伝えておきます。
教員は提出された課題を次の週までにチェックし、学生の理解状況を確認します。そし
て、次の週の授業の最後の学生が小課題に取り組んでいる時に、教員は学生の名前を呼び
ながらチェック済みの課題の紙を返却します。その際、机間観察も同時に行うことで、そ
の週の授業の理解状況についても概ね確認しておきます。授業時間の最後に、前の週及び
その週の授業内容についての補足事項を説明します。
結果と課題
上記のような試みをこれまで約 10 年ほど続けており、その効果として次のような事項
を挙げます。まず、提出された課題をチェックすると、講義内容によっては、共通して間
違っている箇所があることがわかります。2~3 割の学生が誤っている点については、翌週
の授業で補足説明をするとともに、次年度の講義における課題としてメモしておきます。
また、出席を確認する方法としても、学生一人一人の名前を呼んで課題を手渡すので、代
返・代筆の対策となっているとともに、時間の節約にもなっています。
副次的な効果として、やむを得ず欠席した学生も、プリントを読んで課題に取り組むこ
とができます。学生は、website からプリントを取得することもできますが、教員の研究
室にプリントを取りに来る学生が多く、そのとき、欠席の理由や最近の状況についてそれ
となく聞くこともできます。また、毎年の学習内容は同様なので、意欲のある学生は、前
年度のプリントの内容を見て、詳細に予習をすることができます。
問題点としては、他の学生の課題の解答を丸写して提出する者、白紙を堂々と提出する
ものがいます。解答を丸写ししている学生に対しては、机間観察の際にできるだけ注意す
るように、また、白紙を提出する学生については、課題をチェックする際に「再提出」と
書いて返却するようにしています。教員が説明している時に課題に取り組む学生や、課題
の時間だけ出席する学生もいますが、それらの学生に対する対策は今のところありません。
最も問題なことは、受講学生数が多くなったり、教室が広くなったりすると、課題を返
却することが困難になることです。現在、50 人程度の授業でも、このような方法を続けて
いますが、課題の返却に時間がかかり、現実的でない状況もあります。
参考・プリントを掲載している website(学内からのみアクセス可能):
http://an.edu.yamaguchi-u.ac.jp/text/
107
− 106 −
第2章
実践編
工夫の種類
6.授業外学習を促進する方法
テーマ
授業外学習時間の確保
授業科目名
TOEIC 準備(共通教育)
対象学生
全学部1年生
受講者数
約 2000 人
授業形態
講義・演習
教材・メディア等
教科書、e ラーニング・オンライン教材
工夫のポイント
宿題のクラス間統一
キーワード
授業外学習、単位の実質化、統一シラバス、e ラーニング
授業担当者名
英語分科会教員(岩部浩三 執筆)
具体的な内容
・単位制度における 1 単位は 45 時間で、これは 1 週間の労働時間に相当するものです。8
時間労働が 5 日で、土曜日は 5 時間という前提のようです。現在は土曜日が休日になった
りで、大学や世の中の労働条件も変わっていますが、単位制度が見直されるという動きは
当面ないようです。大学の授業は前後期それぞれ 15 週で試験期間を入れても 16 週ですか
ら、このとおりに考えると取得できるのは年間 30 ないし 32 単位になります。休業期間を
見直し、年中休みなく勉強するとして最大で 52 単位です。単位の実質化をすべての授業
について制度通りに行おうとしても無理が生じることは明らかですが、セメスター2 単位
の授業科目においては、原則、授業時間の 2 倍の授業外学習時間が求められていることを
意識しておく必要はあります。
・英語学習では、授業外に自学自習することが、授業そのものよりむしろ重要と言っても
言い過ぎではないでしょう。特に 400 点未満の学生には学習時間の確保がもっとも重要な
課題であり、単位制度の原則に従って、180 分の授業外学習を目標としたシラバスと教材
を用意することにしました。そして「TOEIC 準備」と「Basic English」において、すべ
てのクラスの宿題を統一しています。
・
「TOEIC 準備」では、
「自習課題(宿題用 e ラーニング教材)」のシステムを英語教員と大
学教育センター教員が協力して開発し,全クラスで使用しています。授業内容自体も 6 月
の TOEIC に向けた共通の内容で、統一シラバスとなっています。
・「Basic English」では市販の e ラーニング教材 ALC NetAcademy を全クラス共通の宿
題として活用しています。単位積み上げ可の授業であるため、宿題はクォーター毎に出題
箇所を変えており、授業内容は各クラスで異なります。
成果・効果
・「TOEIC 準備」の「自習課題」の週あたり平均時間は 150 分余りです。授業内容そのも
ののための予復習は比較的少ないのですが、合わせて 180 分程度の授業外学習は実現でき
ていると考えられます。この e ラーニングシステムは本学独自のものであり、解答を間違
えると次に進めない仕様になっています。市販の教材は、選択肢を間違えても直ちに別の
選択肢を選択できますが、本システムでは問題文を再生し直さないと選択肢が選べません。
つまり、自力で時間をかけて全問正解しないと最後まで到達できないようになっています。
・「Basic English」では、週 120 分のオンライン学習を義務づけており、サーバ上で学習
108
− 107 −
時間をチェックしております。担当教員はこのルールを厳格に守っており、学習時間がわ
ずかでも足りない受講生はそれだけで不合格となります。授業の予復習と合わせてここで
も週 180 分程度の授業外学習時間は確保されていると考えています。
オンライン学習には次のようなメリットがあります。
・紙ベースの宿題と違って、学習者がただちに正解を知ることができます。
・担当教員にメールで質問ができ、教員の回答を早く確実に届けることができます。
当初はレポート用紙で宿題が提出されていましたが、教員がせっかく宿題に目を通して
質問に答えて返却しようとしても、取りに来ない受講生が目立ちました。次に、ワークブ
ック形式に改めました。すなわち、ワークブックを取りにこないと次の週の宿題ができな
いようにしました。今度は、教員の負担が増大しました。授業終了後ただちに宿題に目を
通して、返却しなければならなくなったからです。また、1 クラス分のワークブックを積
み上げると 50cm 以上にもなり、2 クラス担当すれば一度に運搬できない物量になりまし
た。オンライン化により時間的肉体的負担は大きく軽減されました。
メールの質問は、英語とは直接関係ないものも少なくありません。例えば、いきなり「日
本語と英語がおかしくないですか?」という質問が来て、趣旨がわからず戸惑っていると、
別の人から続けて「どうして Can I get discount?が、[勉強してくださいよ。]の意味なん
ですか?」という質問が来ます。
「勉強する」という日本語の意味がわからないということ
で、2 番目の人への回答は簡単ですが、最初の人にはメールの書き方を指導しなければな
りません。そもそも、オンライン学習を始めるためにはネットへの接続の仕方を全員に教
える必要があります。第 1 週目から宿題があるので、「情報リテラシー」よりも先に対応
しなければならず、PC-SOS にサポートしていただきながら、短時間(現在では長くて 2
週間程度)で全員ができるようになっています。
・宿題を各クラスで統一することは効果があります。かなりの量の宿題を課しても不公平
感が生じず、全員がきちんとこなしてくれます。
・「TOEIC 準備」は全学生必修ですが、「Basic English」は TOEIC 400 点未満の学生が
対象です。400 点取れなかったら後がずっと大変だ、ということで 6 月の TOEIC 受験で
400 点以上を目指す動機付けになっている可能性もあります。TOEIC の平均点が年々上昇
している要因の一つかもしれません。
「Basic English でしっかり学習したから成績が上が
った」という成果と、「Basic English を受講しなくても良いように自発的にしっかり学習
して良いスコアを取った」という成果の両方があります。前者は授業の成果、後者はカリ
キュラム全体の成果と言えるかもしれません。
109
− 108 −
第2章
実践編
工夫の種類
6.授業外学習を促進する方法
テーマ
時間をかけて課題に取り組ませる工夫
授業科目名
計算機概論Ⅰ(専門教育),情報処理演習(専門教育)
対象学生
教育学部1年生
受講者数
約 25 人
授業形態
講義と演習
教材・メディア等
パワーポイント,Web ページ
工夫のポイント
・プログラミングの経験のない学生が試行錯誤を繰り返しながら,
粘り強くプログラミングに取り組むようにする工夫。
・どこをしっかりと考えればよいのかを焦点化する工夫。
・課題に取り組むことに有用感を感じさせる工夫。
キーワード
プログラミング,BASIC,算数・数学の教材
授業担当者名
教育学部
糸長雅弘
具体的な内容
〔問題意識〕
次のような問題意識のもとで,授業の工夫をしてみました。
・プログラミングの経験のない学生が初めてプログラミングに触れる授業です。
・どんな計算機言語であれ,時間をかけ,粘り強くプログラミングに取り組まない限り,
それを修得することはできません。
・基本事項を応用すれば事足りる課題を課したのでは,学生は漫然とそれに取り組むだけ
に終わってしまいます。かといって,しっかりと考え,場合によっては試行錯誤が必要
となる課題を出して,ただそれに取り組みなさいといったのでは,学生はどこから手を
つければよいのか分かりません。
・新しいものを学ぶとき,有用感を感じなければ,人は熱心にそれに取り組むことはしま
せん。
〔授業と課題の工夫〕
・覚えるべき基本事項の少ない JIS Full BASIC を受講生全員のノート PC にインストー
ルし,それを用いて授業を行いました。
・学生が思わず取り組みたくなるよう,早い段階でグラフィックスの解説を行い,FOR~
NEXT を用いて,色を変えながら同心円を 10 個描くことを最初の課題としました。
・全部で 8 個の課題を出しましたが,受講生のほぼ全員が初等科・中等科の算数・数学教
員を目指しているので,いずれの課題も教育現場で役立つものであるように心がけまし
た。これは,課題に取り組むことに,学生が少しでも有用感を感じるようにするためで
す。
・課題の一つは,「 変数 n に 2 以上の整数を読み込んで,INT(n/2)+1 個の要素(添字付
き変数)から成る配列 p を宣言し,各要素に n 以下のすべての素数を小さいものか
ら順に格納して,素数の個数とそれらの素数を表示する BASIC プログラムを作成し
なさい。」というものです。これは,エラトスネネスのふるいについて解説した後に出
した課題ですが,いきなりこのプログラムを作成しなさいといわれても,学生はどこか
ら手をつければよいのか分かりません。そこで,一番本質的な部分を残し,作成すべき
110
− 109 −
プログラムのそれ以外の部分はすべて授業中に示して,解説しておきました。こうする
ことで,学生には,どこを集中的に考えればよいのかが焦点化されます。
・最後の課題は自由課題で,「 中学校または高等学校の数学の授業で教材として使えそ
うな(あくまでも使えそうなである。),グラフィックスを使用した BASIC プログラ
ムを作成しなさい。」というものです。また,その教材を用いる授業場面もしっかりと
考えるように指示しました。これは,学生が試行錯誤を繰り返しながら,粘り強くプロ
グラミングに取り組むようになればと念じて出した課題です。
成果・効果
〔成果・効果〕
学生授業評価によると,質問項目「あなたはこの授業において,時間外学習(予習・復
習・宿題やレポート作成・試験勉強)をどれくらい行いましたか?総時間を平均し,授業
1 回あたりの時間に換算してお答えください。」に対する回答で,3 時間程度または以上と
答えた者が全受講生の 22.2%,2 時間程度と答えた者が 5.6%,1 時間程度と答えた者が
33.3%,30 分~50 分程度と答えた者が 22.2%,30 分未満と答えた者が 16.7%でした。1
時間程度以上とする受講生が 6 割に上るので,授業外学習を促進する方法として,今回取
り組んだ授業と課題の工夫は,一定の成果・効果があったと思われます。
授業中に何人かの学生から,課題に時間をかけているという声を聞いていたので,学生
授業評価の結果は,授業者の実感に合うものでした。
〔今後の課題〕
一方で,30 分未満と答えた者が 16.7%もいましたが,このような学生には,自ら考え
ようとせず,他者に頼ろうとする傾向があるのではないでしょうか。そうなると,このよ
うな学生への対応はなかなか難しく,本授業の工夫だけで,解決することのできる問題で
はないのかもしれません。仮にそうであったとしても,
「考えることは苦しいけど楽しさも
ある」ということを彼らに少しでも体験させるため,工夫を重ねなければならないと思っ
ています。
111
− 110 −
第2章
実践編
工夫の種類
6.授業外学習を促進する方法
テーマ
内容を採点対象としないレポートを活用した復習を促進する取組み
授業科目名
プログラミング言語 I、II、データベースシステムなど
対象学生
教育学部1~3年生
受講者数
各授業
授業形態
講義(実習を含む)
教材・メディア等
レポート用紙
工夫のポイント
・ 毎回の授業毎に受講者氏名と提出期限を記載した A4 レポート用
紙を配布します。ただし、提出は任意とします。
・ レポートの内容は採点の対象としません。教員が内容をチェック
する負担はありません。
・ 期末試験当日に、それまでのレポートを返却し、持ち込みを認め
ます。
キーワード
授業外学習、復習、出席確認、出席点
授業担当者名
教育学部
20~40 人程度
中田充
具体的な内容
【背 景】
・ 授業外学習といえば、「出されたレポートをこなす」、「試験直前の一夜漬け」となりが
ちで、試験直前になってようやく、「先生が言っていることが分かった」という状況が
少なくありません。
・ 日々の授業に出席した後、できるだけ早く授業内容を自分なりに復習することが、授
業内容の理解や記憶の近道です。しかし、毎回の復習はなかなかできないもの。何ら
かのインセンティブを与えることで、復習する意欲を持たせられないか。
・ そうは言っても、負担が大きいと長続きしません(教員側も学生側も)。
このような問題意識のもと、可能な限り教員側の負担を増やすことなく、学生に授業内
容の復習を促すような工夫を考えました。
【内 容】
・ 授業に出席する度に A4 レポート用紙一枚を配布します。この用紙には各受講生の氏名
と用紙毎の提出期限が記載されています(図 1 参照)。受講生は授業を通して合計 15
枚ほどの用紙を受け取り、提出することになります。
・ レポートの内容は採点の対象に含めません。従って、内容のチェックは行いません。
ただし、以下の条件を満たしたレポートは、その提出回数に応じて加点し、さらに、
試験への持込を許可します。
9
手書きであること。ワープロ書きや他の用紙やコピー等の貼り付けは認めません。
9
各自に配布した名前入りの指定用紙に書いてあること。別の授業の用紙や用紙
毎に記載してある期限を過ぎた用紙に書かれたものは受け付けません。
9
提出期限が守られていること。
・ 提出された用紙を試験開始の直前に返却します。後日の書き込みはできません。
112
− 111 −
【ポイント】
・ 教員側は提出されたレポート用紙を試験まで保管しておくだけです。採点の手間は掛
かりません。
・ 教員の手元には未配布のレポート用紙が残るため、出席状況の把握が容易になります。
・ 受講学生の氏名と提出期限を記載したレポート用紙を授業回数×受講者数だけ用意す
る必要がありますが、修学支援システムからダウンロードしたデータを、Word を用い
て差し込み印刷することで比較的簡単に作成できます。
・ 用紙毎に提出期限(次回の授業までの 1 週間)を定めていますので、次の授業までに
復習することを促せます。
・ 受け取った用紙に後日書き足すことができないので、いい加減なことしか書いていな
いと、試験の時に自分が困ります。このことが、授業外学習の質の向上に繋がります。
・ 提出に対して加点はしますが、提出は義務づけません。これにより、学生の負担感も
軽減できます。
図 1:
配 布 す る レ ポ ー ト 用紙 ( 上 部 分 抜 粋 )
成果・効果
【効 果】
・ 対象授業の 2009 年度と 2010 年度の学生授業評価を参照すると、両年ともほとんどの
科目で受講生の 50%以上が「授業 1 回あたりの時間外学習時間」について「2 時間程
度」、
「3 時間程度または以上」と回答しています。このことから、授業外学習の量につ
いては効果があると考えます。
・ レポートは内容を採点の対象としませんが、その内容を確認することで、受講生がそ
の回の要点と捉えた箇所や、難しいと考えている箇所を推測することができます。さ
らに、受講生の学習の意欲や進度なども大まかに把握できます。
・ 本学では「出席点は与えない」という方針がありますが、レポートが提出されている
場合は加点することで授業への出席を促すことができます。
【気づき、課題など】
・ 記名済みレポート用紙の配布を考えると、TA や座席指定が必要になります。
・ 教科書や参考書などの丸写し、学期末が近づくと過去問とその回答の丸写しが多くな
ります。そのため、試験問題の作成に気を遣う必要があります。
・ 授業に遅刻してくる学生に対して、レポート用紙を配布するか否かをあらかじめ決定
し、通知しておくことが必要です。
・ こちらの意図通り、自分なりの考えで教科書等をまとめ直す学生がいる反面、読むこ
とが困難なほど小さな文字で教科書を丸写しする学生、ほとんど何も書かない学生、
出席してもレポートを提出しない学生など様々です。つまり、時間外学習の質につい
ては個人差が大きく、この点は改善の余地があります。
113
− 112 −
第2章
実践編
工夫の種類
7.教室管理の方法
テーマ
授業中の私語等の抑止
授業科目名
情報リテラシー演習(共通教育)
対象学生
経済学部1年生、人文学部1年生
受講者数
約 70 人(経済学部)、約 50 人(人文学部)
授業形態
演習
教材・メディア等
パソコン、プロジェクタ、Web、Word、Excel、Power Point、プリ
ント
工夫のポイント
座席指定、TA 活用
キーワード
私語の抑止、出席管理
授業担当者名
大学教育センター
木下
真
具体的な内容
受講学生の多い授業では、私語をしたり授業とは別のことをする学生がおり、中には何
度注意してもやめない学生がみられます。情報リテラシー演習においても、このような学
生がいて、授業の回を追うごとに増える傾向にありました。そこで平成 22 年度前期の授
業から私が担当するすべての授業において座席指定を行うことにしました。
座席指定をするにあたっては、まず初回の授業の際に以下のことを学生に明言していま
す。
(1)次回の授業で座席票を配布し、これに基づいて座席指定を行うこと。
(2)座席票を用いて、欠席、遅刻、授業中の私語、授業とは無関係のパソコン等の操作を
する者の詳細な記録をとり、減点の対象にする。特に演習中の私語は他人の迷惑になるの
で、厳しい減点の対象とする。
(3)授業中は教員だけでなく TA にも席を巡回させて、私語や演習と無関係なパソコンの
操作等をしている学生を記録する。
次に座席票の作成ですが、これにはかなりの手間がかかるというイメージをお持ちの先
生方もいらっしゃると思います。しかし、座席配置図 1 と修学支援システムから得た受講
学生一覧を用いると、Excel で簡単に作成できます 2 。座席票は学生用(図 2)と TA 用(図
3)を作成しています。
次回の授業では印刷した座席票を学生に配布し、これ以降の授業では必ず指定された席
に座るように指示しています。また、TA には毎回の授業で TA 用座席票を配布し、隈なく
席を巡回しながら座席票に前述の記録を記入するように指示しています。
共通教育や学部の事務では、Excel を用いて教室の座席配置図を作成しています。
座席票作成用 Excel ファイルの例を以下の URL で公開する予定です(学内限定)。
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~kdev/gakunai/zaseki.htm
1
2
114
− 113 −
図 2
学生配布用座席票
図 3
TA 配布用座席票
成果・効果
座席指定を行うようにしてからは、授業中の私語や授業外のことをする学生はほぼみら
れなくなり、以前よりも授業が円滑に進むようになりました。
最初は「座席指定をして私語等を厳しく監視する」というやや強硬な姿勢に緊張する学
生も少なくない印象でした。しかし、授業の回を重ねるうちに、授業に真面目に参加する
ことが習慣化するとともに、余計な緊張も解け、学生の表情も座席指定前と変わらない状
態になってきました。
私個人としては、座席指定をして学生を抑えつけて機械的に管理するようなやり方はで
きることならしたくないというのが本音ですが、授業に真面目に参加する習慣を学生に身
に付けさせるための方法としては効果的だと思います。
115
− 114 −
第2章
実践編
工夫の種類
7.教室管理の方法
テーマ
大規模授業での私語対策
授業科目名
化学Ⅰ(共通教育)
対象学生
工学部1年生
受講者数
約 80 人
授業形態
講義
教材・メディア等
ビデオ、教科書、プリント
工夫のポイント
複数の学部4年生を教室内に配置し、にらみを効かせます。
キーワード
大人数教室
授業担当者名
理学部
川俣
純
・
具体的な内容
・
・大学院受験を予定している理学部4年生に、講義を聴講してもらいます。
・聴講してもらう4年生は、教室の後ろの方にバラバラに座ってもらいます。
・演習を行うときは、聴講している4年生にも受講生からの質問に答えてもらい、にらみ
を効かせている人が教室内に多数存在することを受講生に印象づけます。
・講義5回目くらいになると、慣れてきて私語をする学生が出てきます。私語をした学生
はマークしておき、4年生には翌週その学生の近くに座ってもらうようにします。
・それでも私語をする学生は、講義中に実名で呼びかけ質疑をすることで、講義に集中で
きていない学生は誰か、教員が把握していることを印象づけます。
・ここまですれば教室内の静粛はほぼ保たれます。
・
成果・効果
・
・本来の受講生は、聴講している4年生をTAと感じているようで、近くに座られるとお
となしくなります。
・当初、学部4年生は自分の研究室の学生としていましたが、基礎が復習でき大学院受験
の準備として効果があることが口コミで広がり、他の研究室からの自主的な聴講もみら
れるようになりました。
・本来のTA以外にも多くの人手があるので、講義内で演習を行う際には受講生からの質
問に迅速かつ、きめ細かに対応できるようになり、教育効果が高まりました。
・本学の学生の中には、一度講義を聴いただけでは学問が身につかず、同じ事柄を複数の
教員から「違う言葉」で聴いて、ようやく理解できる者が少なからずいるように感じて
います。大学院受験という明確な目的を持った理学部の学生が、工学部の学生向けの「違
う言葉」の講義を聴くと、今まで「何となくわかっていた」ことが、「なるほどそうい
うことだったのか」という確実な理解につながっているようで、言わばボランティアで
聴講している学部4年生にもメリットがあると聞いています。過去に聴講したことのあ
る院生から大学院受験予定の4年生に、「あの講義は聴きに行った方が良い」と口コミ
で言い伝えられているようで、協力してくれる学部4年生が居なくて困るという事態は
生じていません。
116
− 115 −
117
− 116 −
第2章
実践編
工夫の種類
8.成績評価の方法
テーマ
語学教育授業における小テストの効果及び活用
授業科目名
初習外国語・中国語(共通教育)など
対象学生
全学部1年生
受講者数
約 20 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、テスト用紙
工夫のポイント
小テストを授業中に活用する場合における教員の負担軽減、学生の
学習意欲促進。評価への活用。
キーワード
小テスト、語学、復習、予習、評価
授業担当者名
大学教育センター
何暁毅
具体的な内容
・小テスト実施の意義
語学を学習する場合、授業の
内容を理解することは言うまで
もないが、学習した内容を覚え
ることはもっと大事です。しか
し週一回或いは二回の授業では、
もし予習、復習しなければ、学
習する内容より、忘れる方が多
いと言わざるを得ません。その
ため、受講者に授業時間外での
復習、予習を促す、要求するこ
とは何より重要です。しかし現
実では、目下の学生では特に目
的意識が持てない限り、いくら要求してもなかなかやりません。そのために、毎回小テス
トを実施することで、いわば半強制的に復習、予習させます。そして小テストを実施する
ことで、学生の授業習熟度も掌握できるし、成績評価の平常点も計算しやすくなります。
・小テスト実施の困難
しかし、毎回小テスト実施することは、授業担当者にとって一定の負担になります。特
に担当する授業が多い場合と、受講者が多い場合、その採点などでかなりの時間を費やさ
なければならないと考えられます。そのため、多くの教員は効果を認めながらも、毎回実
施することに踏み切れません。
・負担軽減するための工夫
工夫その一、分量を最小限にします。僕の場合、毎回10問に決まっています。前の5
問は予習してもらった新出単語、次の5問は復習してもらった既習の内容。
工夫その二、リスニングに特化します。プリントを作るための時間などを節約するため、
小テストをリスニングに特化します。リスニングに特化することで、授業の準備時間を節
118
− 117 −
約できるだけではなく、学生のリスニング能力と理解力の向上にもつながるという思わぬ
効果も生まれます。
工夫その三、採点は受講者同士にさせます。担当者が小テストを実施したがらない一番
の理由はおそらく採点にあるだろうと考えられます。とても煩雑で、とても時間がかかり
ます。そのため、採点は受講者同士にさせ、お互いに採点してもらいます。
具体的なやり方は次のフローチャートにご参考いただきたいです。
小テスト用紙を配る (用紙は共通教育係にある)
リスニングテスト
(テキストに附属する音源を利用する場合音源の準備がとても煩
雑になるため、担当者口頭で読み上げた方が便利)
学生に答案用紙を交換させる (学生に赤いボールペンを出すよう指示する)
黒板に答案を板書
学生はお互いに採点する (赤いボールペンを用いて○付け、○の数を記入させる)
答案を回収 (最初に座席を固定すれば、順番で回収でき、記録する時に便利)
チェックとエクセルに記録 (簡単な表を作成し、「修学支援システム」から名簿を
ダウンロードして、毎回それぞれ○の数を記録する)
次回の授業に答案を返す (共通の間違いなど、注意点を説明する)
・成績評価など実施するときの注意点
学生の習熟度及びミスの傾向をチェックする意味では、時間が許す限り、○の数を記録
するときに、答案を確認します。
学生が採点するとき、他人のミスを訂正する傾向があります。それならミスした本人の
勉強にならないから、必ず○付けのみさせ、本人に自分のミスを訂正させましょう。
私はこの成績の 20%を平常点として最終評価に計算しています。そのために最初の授業
のシラバス説明及び授業内容等説明の時にきちんと説明しています。最終評価にも影響す
るから、みんな真面目にやります。
成果・効果
・教員の負担軽減につながります。
・学生の勉強意欲を刺激します。
・学生の習熟度が分かります。
・受講者の声(授業アンケート自由記述欄による):
・毎回小テストがあったので、授業だけでなく、自分でも勉強しなくではならないとい
う気が起きました。
・毎回の小テストは大変だったけど、ためになったと思いました。
・小テストのための勉強は大変だったけど、楽しい授業だった。
・良い意味で厳しかった。
119
− 118 −
第2章
実践編
工夫の種類
8.成績評価の方法
テーマ
成績分布共有システムの活用方法
授業科目名
修学支援システムに成績が登録されている科目で利用出来ます
対象学生
各講義の受講生(教員のみ統計値を参照できます)
受講者数
個人が特定出来ないようにとの配慮から 5 名超となっています
授業形態
-
教材・メディア等
-
工夫のポイント
関連科目における学生の達成状況、成績分布を参考に出来ます
キーワード
成績評価、GPC(Grade Point Class average)
授業担当者名
大学教育センター 岡田 耕一(成績分布共有システム開発を担当)
具体的な内容
大学教育センターでは各授業科目の成績分布を教員間で共有(閲覧)するシステムを開発
し 2011 年 2 月より提供を開始しています。このシステムは、授業前、授業後の以下のよ
うな場面で授業改善活動に役立てて頂ける判断材料を提供するツールです。
z 授業前:授業間のスムーズな接続、最適なレベル設定、無理のない授業展開、授業
計画・シラバスの充実を図っていただくための材料として、学生の達成度について
の大まかな傾向を提供します。これは、関連科目の成績分布状況及びシラバスを参
照していただくことで得られます。
z 授業後:クラス振分による不公平感解消するために、クラス間の成績格差発見・レ
ベル調整を行う材料として、授業毎の成績分布状況、同一科目間における成績分布
状況、及び個別講義と同一科目全体との成績分布比較を提供します。
学籍番号により機械的にクラス分されている講義において、講義毎に試験難易度や成績
評価にばらつきがあり不公平感が生じていると、以前から学生による指摘がありました。
このような問題点を発見・解消するためのツールとして活用して頂けると思います。
以下の URL から成績分布共有システムにログインしてください。ユーザー名とパスワ
ードは山口大学公式メールアドレスと同一です。
z http://www.epc.yamaguchi-u.ac.jp/SSS.html (短縮 URL: http://goo.gl/EZJYp)
ログインすると、
「教員名検索」、
「科目
名検索」、
「教育課程一覧」、
「分科会一覧」
から目的の科目を探すことが出来ます。
年度の選択
一覧表には年度、所属、科目コード、教
員名等にリンクが張られています。それ
複数講義の
らのリンクをクリックすると、一覧項目
成績分布一覧
の絞込みが行えます。
図 1 の例では、「時間割コード」のリ
ンクから、対応する講義単体の成績分布
(図 2)、同一科目全体の成績分布、および
講義単体と同一科目全体の成績分布の比
較(図 3)を閲覧する画面に移動します。
図 2 は、GPC(Grade Point Class average)、
評点の区間別人数分布、評価別の人数分
同一科目の一覧
講義単体の成績分
図 1: 科目一覧時のリンク箇所と選択時の機能
120
− 119 −
布を表示しています。GPC の値は、評定、
秀、優、良、可、不可、欠席の人数を
S,A,B,C,F,K、 で 表 し た 際 、 単 位 取 得 者
の Grade Point 合計を X=4S+3A+2B+C
として、以下 3 パターンの計算結果を提
供しています。
X
S+ A + B+C
X
GPC[ SABCF] =
S+ A + B+C+ F
X
GPC[ SABCFK] =
S+ A + B+C+ F+ K
GPC[ SABC]
=
評点の区間別人数分布と評価別の人数
図 2: 成績分布表示画面
分布の階級は表 1 のように対応しています。現在のシス
表 1: 点数と評定の対応
テムでは、評点の各区間を 10 点刻みとしているため、
点数
評価
100 点だけ別枠を設けています。
60 点未満
F
個別講義の成績分布(図 2)に続けて、同一科目全体の
60 点以上 70 点未満
C
成績分布を図 2 と同様の形式で表示します。
70 点以上 80 点未満
B
最後に、
「同一科目全体との比較」(図 3)では、個別講
80 点以上 90 点未満
A
義と同一科目全体の成績分布を GPC と人数分布の割合
90 点以上
S
で比較表示します。個別講義における割合が同一科目全
体よりも高ければプラス低ければマイナ
スで表示されます。上側のグラフでは人
数分布割合の差をプラスマイナスで表示、
下のグラフでは人数分布割合(図 3 では
青が全体、赤が個別の割合)を並べて表示
しています。
図 1 の例のように、一覧表上部に「成
績分布一覧」のリンクがある場合は、一
覧表に表示されている複数講義の成績分
布を一覧表示にして比較する画面に移動
します。この場合、一覧表に表示されて
いた講義のそれぞれについて図 2 の成
績分布を同一画面に一覧表示します。
成果・効果
本システムを利用することで、関連科
目等における学生の達成状況や、同一科
目間における成績評価のばらつきを知る
ことが出来るようになりました。
授業・試験の内容決定、及び成績評価
の基準について参考にして頂けると思い
ます。
図 3: 個別講義と同一科目全体との成績分布比
121
− 120 −
第2章
実践編
工夫の種類
9.障害のある学生への授業中の配慮方法
テーマ
聴覚障害のある学生ための配慮方法
授業科目名
共通教育および専門教育に関する授業科目
対象学生
聴覚障害のある学生
受講者数
共通教育における多人数授業や演習関係授業
授業形態
講義、演習
教材・メディア等
プリント、ノートテイク、書画カメラ、補聴器(FM補聴器)
工夫のポイント
聴覚障害学生のための情報保障、教材の配慮、配慮方法等
キーワード
聴覚障害、情報保障、授業保障、配慮事項
授業担当者名
大学教育センター
小川
勤
具体的な内容
[問題意識]
・ 本学では「山口大学における修学に障害のある学生の支援に関する基本方針」(平成 19
年 2 月 13 日第 36 回教育研究評議会承認)の制定以来、障害のある学生を本格的に受け
入れ、彼らに対してさまざまな配慮を実施してきました。しかし、教職員の間では、障
害学生に対する理解が足らずに、十分配慮がなされている状況にはありません。
・ 障害のある学生や保護者の中には、障害のことを公表することを躊躇う者もいるため、
後からその事実が判明した際に、その時点では対応することが難しいことになりがちで
す。
・ 教職員は、常に障害ある学生に対してさまざまな配慮するとともに、彼らに対応する準
備を日頃からしておく必要があります。特に教員は聴覚障害学生が履修する講義を担当
す る 場 合 に は 授 業保 障 や 情 報 保 障 な どに 関 す る 研 修 を 事 前 に受 講 し 対 応 し て い く 必要
があります。
[授業のポイント]
・聴覚障害のある学生に対してさまざまな配慮する際には、まず、教員は大学教育センタ
ーなどが開催する研修会などに参加して聴覚障害に対する知識や理解を深めていく必要
があります。
・同じ聴覚障害でも個人差があるので、障害学生本
人や保護者と話し合い、どのような支援が必要か
を確認する必要があります。また、学内の支援組
織と連携を取り合ってどのような配慮が具体的に
必要であり、対応可能であるかを十分事前に検討
していく必要があります。
・教員は大学教育センターが毎年発行している「教
務手帳」の中に障害学生修学支援に関する記述部
分(平成 23 年度版では p48~55)を参考に、自
らの授業における授業保障や情報保障の方法につ
いて考えておく必要があります。
写真:聴覚障害に関するワークショ
・実際に授業を実施していく上で困ったことが発
ップ(ノートテイク体験)の様子
122
− 121 −
生した場合には、すぐに対応できるように日頃から支援手順や修学支援体制を確認して
おく必要があります。
[方法]
以下、聴覚障害学生が履修している授業を担当する際に配慮しなければならない事項につ
いて記述します。
①聴覚障害学生と補聴器
聴覚障害学生は補聴器を装用していますが、補聴器は音を大きくする役割しかありませ
ん。そのため、ラジオのボリュームを上げ過ぎると余計に聞き取りにくくなるように、音
の有無は分かっても、必ずしもコトバがはっきりと聞こえるわけではありません。また、
個人用補聴器は 1 対 1 の会話では役立っても、授業場面では話者との距離が遠すぎて、効
果が薄くなります。「補聴器をつければ OK」ではない点を理解してください。
②聴覚障害学生に必要な情報
聴覚障害学生は、補聴器からの情報と視覚的な情報(話者の口の動き・板書・OHP・配
布資料など)をあわせて授業内容を理解しています。聴覚の障害が重くなるほど、視覚的な
情報の比重は増します。このように、聴覚障害学生は情報の多くを視覚に頼っていますの
で、次の点にご配慮ください。
〈配慮していただきたいこと〉
・学生の方を向いてはっきりと口を動かし、ややゆっくりと話してください。
・授業内容を分かりやすく示した資料を事前手渡しておくことは聴覚障害学生にとって大
変役立ちます。授業用の講義録のコピーを授業の始めにお渡しいただいて も結 構で す。
・授業中に作業等が入る場合は、作業課題の内容が理解できているかどうかを、事前に本
人に確認してください。
・聴覚障害学生は、教員の話しを聞いているとき(口元を見ているとき)はノートがとれま
せん。逆に、ノートを取ったり、資料を見るときには教員の口元を見ることができませ
ん。できるだけノートをとる時間的な余裕を与えてください。
〈避けていただきたいこと〉
・板書しながら話す・・口元が見えないので聴覚障害学生には全く理解できません。
・部屋を暗くする…視覚情報が遮断されて何も分からなくなってしまいます。
③ノートテイク支援について
聴覚障害学生の受講に際しては、学生の両脇に 2 名のノートテイク・ボランティアを配
置し、授業を少しでも多く理解できるように必要に応じて支援しています(写真参照のこ
と)。ボランティア学生は交代で講義内容をノートに書き、聴覚障害学生はそれを見て教員
の話す内容を理解します。しかし、文字を書くには時間がかかるため、授業内容の全てを
書き取ることはできません。また、教員の話す速度が速すぎると、ノートテイクがついて
いけなくなってしまいます。
i)ノートテイク支援が行われているときは、ゆっくり目の速度で話すようにしてください。
教員の話にノートテイクがついていけているかどうか、ときどき確認していただくと助か
ります。
ii)授業の始めに、その日の講義の流れを示す講義概要や配布資料を、聴覚障害学生とノー
トテイカーの両方に手渡して頂くと大きな助けとなります。
④FM 補聴器の使用について
学生によっては、FM 補聴器を使用する場合があります。FM 補聴器は、話者がつけた
ピンマイクから無線で学生の補聴器に直接音声を伝えます。FM 補聴器を使用するときは、
学生からピンマイク装着の申し出がありますので、協力をよろしくお願いします。なお、
123
− 122 −
FM 補聴器は、話者の声が聞き取りやすいという長所を持つ一方、マイクをつけている人
以外の人の声が聞こえないという欠点もあわせ持っています。
⑤聴覚障害学生がいちばん困る場面
くビデオの視聴場面〉
聴覚障害学生がいちばん困るのがビデオの視聴です。ノートテイクや手話を見ていると
きは画面を見られませんし、画面を見ているときはノートや手話を見ることができません。
もっとも効果的な支援は、画面に字幕を挿入することですが、それには設備・時間・費用
がかかります。そこで、現実的な支援方法として、授業で用いるビデオを 1 週間ほど前に
聴覚障害学生に貸し出し、支援ボランティアと一緒に前もって視聴させることが考えられ
ます。事前の貸し出しが困難な場合は、授業が終ったあとに貸し出して、内容を理解でき
るようにしてください。
〈ディスカッションの場面〉
ディスカッションでは、会話が連続する上に、話者の位置や話者との距離が様々なため、
内容の聞き取り・読み取りが極めて困難です。ディスカッションの進行にあわせたノート
テイクは難しく、たとえできたとしても、聴覚障害学生の理解はリアルタイムの会話から
常に遅れることになります。この問題を解消するためには、十分な通訳能力を持つ手話通
訳者の配置が必要ですが、手話通訳者の確保が難しいことと予算面の問題から、配置が困
難な現状です。そこで、最低限の援助として、ディスカッション場面では、以下の配慮を
お願いします。
i)発言者に、聴覚障害学生の方を向いて、ゆっくり目に話すように指示する。
ii)複数の人が同時に発言しない。発言と発言の間には少し間を置いてもらうように する 。
iii)学生の発言が筋道立っていないときは、教官が内容を整理・要約して確認する。
〈外国語の授業〉
ノートテイクや手話通訳による対応が困難ですので、できるだけ板書してください。ま
た、聴覚障害学生は Listening ができませんし、OralExpression も難しいことが多いので、
試験等では代替課題で対応していただくようにお願いします。
〈音楽・音〉
通訳のしようがなく、対応が不可能です。聴覚障害の程度によっては、特殊な方法を用
いることで、聞こえるようになる場合もありますので、必要な場合は障害者学習支援委員
会にご相談ください。
⑥体育実技について
体育実技は、ルールが明確な上に、周囲の人を見ながら行動できますので、聴覚障害学
生にとって比較的わかりやすい授業です。ただ、進行・手順が複雑な場合や途中で指示が
必要な場合は、その内容を近距離で、1 対 1 で伝えていただくようにお願いします。
⑦手話通訳について
手話通訳は、外国語の通訳と同じで、十分な通訳ができるためには、長年の研修と努力
が必要です。そのため、手話通訳の配置にあたっては、十分な能力を持つ通訳者の派遣を
学外の団体に依頼するほかなく、それには謝金が必要となります。この点についてのご理
解を、どうかよろしくお願いいたします。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・聴覚障害学生が受講している講座を担当する先生方に聞くと、自らの教育方法を再考す
る良い機会となっているという感想を多く聞きます。
124
− 123 −
・情報保障や授業での配慮事項などの対応は、聴覚障害学生本人に対する対応だけでなく、
その他の健常な学生に対する授業改善にも結び付く可能性があることを理解してくだ
さい。
・構成員(教員・職員・TA)が一体となって、聴覚障害学生の支援に取り組むことによ
り、聴覚障害学生が所属する学部・学科の一部の先生が障害学生への対応を一手に引き
受けることの負担は軽減されます。
・共通教育段階では大学教育センターがコーディネーターとなるとともに、聴覚障害学生
の日々の生活面や教育面での相談窓口には、教育支援課の共通教育係の職員の方々が授
業担当の先生方と聴覚障害学生との仲介役になって対応しています。聴覚障害学生の支
援が組織的に有効に機能した例であると考えられます。
・聴覚障害学生が所属している学部・学科の教職員だけでなく、障害の種類別に応じた研
修会や講演会、ワークショップなどへ大学の構成員(教員・職員・学生)が積極的に参
加し取り組んできたことが、聴覚障害学生の支援の在り方に対してある程度共通理解を
得る機会になり、大変有意義であったと考えられます。
[学生からの意見]
・研修会には、聴覚障害学生の授業を担当する教員のほか、障害学生が所属する学部の教
職員も多数参加しました。また、聴覚障害学生本人も研修会に参加したケースもありま
す。本人にとっては、先生方に授業のやり方で注意することや要望することを直接聞い
てもらえるよい機会になり、ありがたかったという感想が寄せられました。また、研修
会参加者全員が障害の程度を直接理解する機会となり良かったという感想も寄せられ
ました。
[この方法の課題]
・今後さらに大学のユニバーサル化が進行すれば、大学は現状より多くの聴覚障害学生を
受け入れていかなければなりません。広島大学などの支援体制が整った拠点校を受験す
ることを勧めても、当人の学力や一人住まいすることに対する不安や負担などの課題も
多く、地元の大学を受験する機会が増えてきています。また、大学内部の一部の組織に
聴覚障害学生支援のための負担が偏ってしまうという現実があります。これは、障害学
生支援のセンター的な機能を果たす組織が本学に存在しないことが原因であると考え
らます。障害学生支援の全学的に組織として「委員会」形式の組織は存在しますが、こ
の組織はあくまでも受験前の配慮事項の検討や何か問題があった時に相談し合う組織
であって、日々のきめ細かい障害学生の支援を行う組織ではありません。最近では本学
に入学を希望する聴覚障害の受験生が毎年一定数います。このような状況を考えると、
本学も「障害学生支援センター(仮称)」を設置して、全学的な障害学生支援のセンタ
ー的機能を持った組織の設置の検討が必要になってくると考えられます。
125
− 124 −
第2章
実践編
工夫の種類
9.障害のある学生への授業中の配慮方法
テーマ
発達障害のある学生ための配慮方法
授業科目名
共通教育および専門教育に関する授業科目
対象学生
発達障害のある学生
受講者数
共通教育における多人数授業や演習関係授業
授業形態
講義、演習
教材・メディア等
プリント、
工夫のポイント
発達障害学生のための授業上の配慮事項、教材の配慮等
キーワード
発達障害、配慮事項、授業保障、
授業担当者名
大学教育センター
小川
勤
具体的な内容
[問題意識]
・本学では「山口大学における修学に障害のある学生の支援に関する基本方針」
(平成 19
年 2 月 13 日第 36 回教育研究評議会承認)の制定以来、障害のある学生を本格的に受け
入れ、彼らに対してさまざまな配慮を実施してきました。しかし、教職員の間では、障
害学生に対する理解が足らずに、十分配慮がなされている状況にはありません。
・平成 20 年 3 月に本学に ADHD およびアスペルガーという発達障害の診断を受けた学生
が入学してきたことにともなって、授業のやり方や情報保障についての研修会を開始し
ました。その後も毎年数名の発達障害の学生が入学してきています。これまでは対処療
法的なやり方で対応してきましたが、授業担当者だけでなく、全学的にこの問題に取り
組んでいく体制が必要になってきています。
・発達障害学生の場合、サポートしてくれる人が基本的に必要です。高校までは保護者や
クラス担任がその役割を果たしていることが多いようです。しかし、大学では高校まで
のように大学教員が日々発達障害学生の面倒をみることも少なく、友達を作ることが苦
手な発達障害学生は孤立することになりがちです。特に、大学入学後、共通教育段階の
1・2 年生では大人数授業が多く、学部・学科との繋がりも薄いために、この危険性はま
すます高くなります。気が付いた時には取り返しのつかない状況に追い詰められている
ことも起こりがちです。
[授業のポイント]
①発達障害とは
最近、
「 軽度発達障害」という言葉をよく聴きます。
正式な医学用語ではありませんが、文部科学省は
特別支援教育の中で使用しています。その中には
高機能自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、
注 意 欠 陥 /多 動 性 障 害 (AD/HD)な ど が 含 ま れ て い
ます。ここでは、
「軽度発達障害」のうち、大学生
が抱えている可能性のある「高機能自閉症」、
「アス
ペルガー症候群」、
「AD/HD」について説明します。
「自閉症」とは、コミュニケーションがうまく取
126
− 125 −
写真:発達障害に関する授業担当
者の研修会の様子
れない、対人関係がうまく取れない、興味や関心の限局性(いわゆるこだわり)といった行
動特性を持っていることを言います。
「高機能」とは、知的なレベルには問題がないとい
うことを意味します。
「アスペルガー症候群」は、自
閉症と同様の行動特性を持っているのですが、言語
の使用には特に問題を示さない状態を言います。例
えば、コンピュータについてすごく高度な専門性を
持っていて、そのことになるとまわりの人達の様子
にお構いなく、際限なく語り続けたりします。また、
諺などはたくさん知っていて、その意味は説明でき 写 真 : 図 書 館 職 員 に 対 す る 発 達 障
るのですが、その諺を実際のコミュニケーションで 害に関する研修会の様子
はうまく使えないなどがあります。「AD/HD」は、衝動性が高く、思ったらすぐに行動し
てしまったりします。例えば、講義室で目の前に美しく光る髪が見えたら、思わず触れて
しまったり、実験道具などの取り扱い説明を受ける前に思わず触れてしまったりというこ
とがあります。
②発達障害への対応
発達障害についての理解があまりないと、わざとしているのではないか、何となくこち
らの意図が通じない、何度も同じミスをするのは困ったなどと考えてしまいます。このよ
うな行動は、社会的な場で本人と周りの人が困っていなければ、個性として接すればよい
でしょう。しかし、何らかの困った状況(上記のような行動は、場の読めない人、冗談が通
じない人と思われたり、時としてストーカーだと訴えられたり、セクハラと取られたりす
ることもあります)が生じた場合、なんらかの対応が必要になります。その際もし「発達障
害」ならば、頭ごなしに注意をすることは、お互いにマイナスにしかならないでしょう。
したがって、
「発達障害」かもしれないという知識があれば、相応しい対応を取ることが必
要です。
・大学生の年齢になれば、それまでの学校生活の中で「発達障害」が原因で、いじめに遭
っていたり、なんとなく人間関係が苦手という意識が積み重ねられていたりすることも
あります。
・大学生としてのプライドもあります。大学生の行動がもしかしたら「発達障害」に起因
するものかもしれないと思われる場合は、保健管理センターか学生相談室に相談をして
みましょう。そこで、医師から「発達障害」と診断されればカウンセラーとその学生に
あった対応方法を話し合ってみましょう。
③授業で配慮していただきたいこと
(講義形式)
・文字から情報を読み取ることに困難な発達障害学生の場合には、文書を音声化する方法
が有効です。テキストファイルやホームページを音声化するソフトを本人に紹介してみ
てください。
・聞いて理解することや記憶することが難しい場合には、授業担当者が事前に講義内容に
ついてできるだけ詳しい配布資料を準備するなどの配慮が必要です。また、授業内容を
録音して聞き逃した部分を後から聞くことも有効です。
(演習形式)
・コミュニケーションが苦手な学生にとって、この形態の授業は力を発揮しにくいです。
127
− 126 −
自分の考えを述べたり、質問に答えたりといった部分が上手いかないこと が多 いで す。
このため、「あなたはどう思うか」といった漠然とした質問より、「AとBではどちらが
良いと思いますか」といった具体的な形に質問を置き換えると答えやすくなります。
・自分の関心のある質問や主張だけ一方的にしてしまう場合には、議論のルールを明確に
事前に示しておく必要があります。
(授業に関する全般的な配慮事項)
・当該学生自身が苦手なこと、得意なことを説明し(学生から説明を求める)、必要な配慮
が要請できるように支援することが重要です。本学でも過去に発達障害学生が所属する
学科で本人の希望と保護者の要望から基礎ゼミの場で本人から自分の障害について説
明し、他の学生に発達障害について理解を得たというケースがあります。
・授業担当者は情報提示の方法を工夫することが必要です。
・コミュニケーションに関する困難が大きい場合には、周囲に説明し理解を求めることが
重要です。
・コミュニケーションを仲介する「通訳者」のような役割ができる身近な支援者(友人、
セミの先生、大学職員、大学教育センターや学生相談室の教員など)を見つけることも
必要です。
成果・効果
[感じられる成果・効果]
・発達障害学生が受講している講座を担当する先生方にとっては、発達障害自体の理解を
深めることになり、質問の仕方など自らの教育方法を工夫・改善する良い機会となって
います。
・授業内容に関するより詳しい資料の作成などの授業上の配慮事項の対応は、発達障害学
生に対する対応だけでなく、その他の学生に対しての授業改善にも役立ちます。
・構成員(教員・職員・TA)が一体となって、発達障害学生の支援に取り組むことによ
り、発達障害学生が所属する学部・学科の一部の先生が障害学生への対応を一手に引き
受けることへの負担が軽減されます。
・保護者や発達障害学生本人と定期的に意見交換会を継続的に開催することにより、大学
に対する要望や大学が保護者に対して対応してほしいことなどに対して相互に理解を
深め、相互に協力することができるようになります。
[学生からの意見]
・発達障害学生本人が授業を受講する上で困ったことや悩んでいることを考慮した「授業
上の配慮事項」を作成してくれたことにより、授業を受講しやすくなった。
・発達障害学生本人および保護者と大学が相互に障害のことについて話し合い、相互理解
をする場を設けてくれたことは学習活動や大学生活を送っていく上で障害が少なくな
りよかった。
[この方法の課題]
・今後さらに大学のユニバーサル化が進行すれば、大学は現状より多くの発達障害学生を
受け入れていかなければならない。一方で、大学内部の一部の組織に発達障害学生支援
のための負担が偏ってしまうという現実があります。したがって、日々のきめ細かい支
援を実施する「障害学生支援センター(仮称)」の設置を本学も今後設置していく必要
があると考えられます。
128
− 127 −
第2章
実践編
工夫の種類
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
テーマ
授業にディスカッションを取り入れる工夫
(1)プレゼンテーション
授業科目名
企業戦略特論
対象学生
大学院技術経営研究科
受講者数
約 15 人
授業形態
講義
教材・メディア等
パワーポイント、教科書、プリント
工夫のポイント
講義形式の授業に大学院生のグループ学習(ブレーンストーミング、
ディスカッション、プレゼンテーション)を取り入れ、コミュニケー
ション能力や情報分析・発信力を養うよう工夫しています。
キーワード
プレゼンテーション、ディスカッション、
授業担当者名
技術経営研究科
大学院生
稲葉和也
具体的な内容
・カリキュラムにおける本科目の位置づけ
本科目は、大学院技術経営研究科一年生を対象とした必須科目の一つです。本研究科に
入学した大学院性は、一年次前期にこの科目を履修します。
・受講者の特長
本研究科は社会人を対象にした大学院であり、大学院生は個々の課題を解決するために
学ぶという明確な修学意識を持っていることが特長です。大学院生の年齢は 20 代から 60
代までと広く、職業も製造業、金融、公的機関など多岐に渡っています。
・授業の概要
今日企業を取り巻く環境は大きく変化しており、過去の企業行動の原理や行動様式の変
革が迫られています。将来が予測できない環境の元でどのように対処すればよいのかを考
えるためには経営戦略という指針が必要であり、経営戦略的な思考を身につける必要があ
ります。本講義では、(1)企業のパフォーマンス測定に関する財務理論、(2)取引費用理論、
(3)プリンシパル・エージェント理論、(4)ポジショニング理論、(5)内部資源を重視するR
BV(リソース・ベースト・ビュー)、(6)ミンツバーグに代表される創発戦略、(7)リアル
オプション理論等を取り上げます。企業戦略に関するこれらの理論や研究成果を習得し、
応用できる力を身につけることを目指します。
・学習目標
本科目では、以下のことを身につけることを目標とします。
(1)企業経営の外部環境と内部の経営資源について理論的に要約し、統合して考えるこ
とができる。
(2)企業戦略論で取り上げるいくつかの理論について理解し、説明できる。
(3)戦略を策定し、実行することを意識して、企業経営に臨むことができる。
132
− 128 −
・授業の進め方(工夫)
本科目は、ジェイ・B・バーニー著「企業戦略論~競争優位の構築と持続」を教科書と
して利用します。著者のバーニーは「経営資源に基づく戦略論」(Resource Based View)
の第一人者です。本著は、アメリカのビジネススクールで近年評判が高い経営戦略論の教
科書の翻訳です。数多くの戦略事例が述べられていて、「戦略とは何か」「パフォーマンス
(成果)とは何か」「脅威および機会の分析」「企業の強みと弱み」の分析などで構成され
ています。
授業では毎回一人ずつ、この教科書の内容のレビューするレジメ資料を作成し、プレゼ
ンテーションするというゼミナール方式で進めます。一人一回あたりの分量は教科書の 1
章分を担当します。15 回の授業のうち、最初の 3 回は教師である私がプレゼンテーション
を行って、レビューの見本を示します。4 回目から 15 回目までの授業では、1 回あたり一
人ずつ担当箇所のレビューを行います。持ち時間は 50 分程度です。レビューのあと、10
分程度の評価を行って、レビューの総合評価をします。そして、残りの 30 分を利用して、
疑問点や気付いたことなどについて、クラス討議を行います。
成果・効果
・レジメ資料の作成とプレゼンテーション
本科目では、受講者が教科書の内容をレビューするという方法で授業を進めます。この
方法で授業を行うことによって、二つの学習効果があると考えられます。一つは、自分の
担当範囲について丹念に予習し、レジメ資料を作成することによって、単に教科書を黙読
するだけの学習と比較して、より理解度が深まることが期待できます。もう一つは、作成
したレジメ資料に基づくプレゼンテーションを行うことで受講者の理解における偏りがよ
く分かります。例えば、指摘して欲しい事柄や視点が述べられていない、あるいは論述の
組み立てが不十分であるなどです。プレゼンテーションの後、レビュー内容の総合評価を
行うことにより、本人へのフィードバックを行います。これらの気付きは、自らが能動的
に学習と向き合うことによって初めて達成されるものであり、高い学習効果を引き出すと
ともに学習満足度が得られるものと思います。
「習うより慣れよ」という諺を実践的な授業
形態に落とし込んだ方法であると考えます。
133
− 129 −
第2章
実践編
工夫の種類
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
テーマ
授業にディスカッションを取り入れる工夫
授業科目名
プロジェクトマネジメント演習
対象学生
大学院技術経営研究科
受講者数
約 15 人
授業形態
グループ演習
教材・メディア等
パワーポイント、プロジェクター、プリント、模造紙
工夫のポイント
演習講義におけるグループワークのツールとしてプロジェクターを
活用し、ブレーンストーミング、ディスカッション、コミュニケー
ション能力や情報分析・発信力を養うよう工夫しています。
キーワード
プレゼンテーション、ディスカッション、プロジェクターの活用
授業担当者名
技術経営研究科
(2)グループワーク
大学院生
大島直樹
具体的な内容
・カリキュラムにおける本科目の位置づけ
本科目は、大学院技術経営研究科大学院生を対象とした選択必須科目の一つです。一年
次前期に開講されるプロジェクトマネジメント(PM)特論(必須科目)に対する演習科
目になります。本研究科に入学した大学院性は、一年次または二年次の後期に PM 演習を
履修します。
・受講者の特長
本研究科は社会人を対象にした大学院であり、大学院生は個々の課題を解決するために
学ぶという明確な修学意識を持っていることが特長です。大学院生の年齢は 20 代から 60
代までと広く、職業も製造業、金融、公的機関など多岐に渡っています。
・授業の概要
本科目は,プロジェクトマネジメント特論で学ぶプロジェクトマネジメント知識体系の
理解をより深めるとともに,プロジェクトを効率的かつ効果的に遂行するためのツールと
スキルの修得を図ります。
この演習では,プロジェクト管理に役立つ代表的な PM ツールとして、(1)リスク標
準モデルによるプロジェクト・リスク分析ならびに(2)コストとスケジュールの進捗管
理のためのアーンドバリューマネジメント手法について学びます。
・学習目標
本科目では、以下のことを身につけることを目標とします。
(1)プロジェクト憲章の役割と意義について説明できる。
(2) プロジェクトマネジメントにおけるスコープマネジメントの位置づけについて説明
できる。
(3)アーンドバリューマネジメントの考え方について説明することができる。
(4) アーンドバリューマネジメント手法の一つであるブルズアイチャート分析について
説明することができる。
134
− 130 −
・授業の進め方(工夫)
PM 演習では、グループワークを通じて実践的にプロジェクト管理に役立つツールを学
んでいきます。アーンドバリューマネジメントに関する演習は、プロジェクト管理データ
を基にして、アーンドバリューグラフとブルズアイチャートを計算します。これらの計算
結果から読み取れるアイディアや考え方を書き留めながら討議を進めます。そこで、計算
結果とグラフをプロジェクターでホワイトボードに映し出し、計算結果のビュー画面に直
接書き込む、あるいは付箋を貼っていきます。ホワイトボードに映し出すことによって、
あたかもパソコンの画面に直接書き込むようなインターラクティブ性を確保します。
図1
(1)
(2)
(1)グループごとにプロジェクターを設置し、討議をしている様子。
(2)ホワイトボードに投影したパソコン画面に書き込んで作成した討議資料。
成果・効果
・ホワイトボードへの投影
本科目の演習では、プロジェクトデータの分析を効率的に行うためにパソコン処理が不
可欠です。しかしながら、パソコンによる作業は小さなパソコン画面を見ながらの作業に
なるため、どうしても個々に作業を進めがちになり、グループ作業としての討議に発展し
ません。そこで、上述のようにパソコン画面をホワイトボードに投影にすることによって
グループ全員が計算結果を容易に共有することが可能になります。また、小さな画面上で
は見落としてしまうような変化も気づきやすくなります。そして、投影された画面に直接
書き込んだり、付箋紙を貼ってメモを加えるという作業を通じて、活発なグループ討議を
行うことができます。
また、学習者は、手を動かすこと、書き込むこと、意見発信することなど、グループワ
ークをインターラクティブに進めるので、より実感しながら理解を深めることができます。
135
− 131 −
第2章
実践編
工夫の種類
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
テーマ
ICT を活用した授業の工夫(1)ポータルサイト
授業科目名
全科目
対象学生
大学院技術経営研究科
受講者数
約 15 人
授業形態
講義ならびに演習
教材・メディア等
パワーポイント、教科書、配付資料
工夫のポイント
研究科専用の学習ポータルサイトを設置し、授業の講義資料のダウ
ンロードやレポート提出などの学習活動を支援しています。
キーワード
学習ポータルサイト、
授業担当者名
技術経営研究科
大学院生
全教員
具体的な内容
・大学院技術経営研究科では、大学院の学習活動を支援する学習ポータルサイトを開設し
ています。学習ポータルサイトでは、講義資料のダウンロード、課題レポートの提出、な
らびに学習状況の自己評価が行えるようにしています。
成果・効果
・講義資料のダウンロード
講義資料の電子化が進んでいるので、講義資料を電子ファイルとしてダウンロードした
いという要望が大きくなっています。また、課題レポートも電子ファイルとして提出する
ことが多くなっています。そこで、技術経営研究科では、電子講義資料のダウンロードと
課題レポートの提出を支援するための学習ポータルサイトを設置しています。この学習ポ
ータルによって、すべての科目の学習作業インターフェースを統一することができます。
136
− 132 −
第2章
実践編
工夫の種類
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
テーマ
ICT を活用した授業の工夫
(2)タブレット(電子教材ビューア)の活用
授業科目名
情報化製造技術特論、創造的問題解決特論、プロジェクトマネジメ
ント特論
対象学生
大学院技術経営研究科
受講者数
約 15 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教材ファイル、タブレット、教材ビューア
工夫のポイント
電子教材ビューアとしてタブレット端末を取り入れ、学習効率が向
上するよう工夫しています。
キーワード
タブレット、iPad、電子教材ビューア
授業担当者名
技術経営研究科
大学院生
具体的な内容
・概要
近年,携帯端末の高機能化と普及に伴って,教材や教科書の電子化が急速に進んでいま
す.今後,教育の現場における主要な IT デバイスはノートPCからスマートメディアに
移る可能性があります.そこで、本研究科では,学習支援ツールとしてタブレット型端末
(iPad)の導入を図っています。平成 24 年度は、情報化製造技術特論、創造的問題解決
特論およびプロジェクトマネジメント特論の 3 科目で iPad を利用した授業を実施しまし
た。ここでは、プロジェクトマネジメント特論における取り組みを紹介します。
・学習端末としての iPad の特徴
iPad はクライアント PC とスマートフォンの中間に位置するデバイスであり,その特徴
を十分に理解する必要があります.学習支援ツールとしての iPad の特徴は,動作が軽い
こと,優れた PDF ビューア機能を有すること,クラウド環境との連携が容易であること、
などが挙げられます.
一方,iPad はノート PC と比較して使い勝手が異なることも考慮する必要があります.
iPad は一画面表示なのでマルチウィンド表示ができません,パワーポイントファイルの表
示には Windows との互換性が完全ではないので、ビューア表示ではレイアウトが崩れる
ことがあります。そのため、予め PDF ファイルに変換しておく必要があります。そのた
め,パワーポイントの補助機能(動画再生や外部ファイルへのリンク)などは引き継がれ
ません。また、ファイルは予め iPad にネットワーク経由で転送しておく必要があります。
iPad を授業で利用する際には、これらの特性を十分に理解しておく必要があります.
・授業における iPad の導入
授業では,学生は iPad を教材ビューアとして利用し,講師も iPad を用いて授業を行い
ました.プロジェクトマネジメント特論では,プリント教材の配布はすべて PDF ファイ
ルで行いました。また、マインドマップ・ソフトウェアを使ってダイナミックなマッピン
グ操作を行うことで、ブレーンストーンミングやディスカッションのツールとして利用し
ました。
137
− 133 −
写真1
iPad を教材ビューアとして利用
写真2
マインドマッピングを利用
成果・効果
・感想
授業で iPad を利用した大学院生(社会人)の感想を記します。
【Aさん】教科書の代用品になる可能性が大きいと思いました.今では百貨辞典が DVD
一枚に入っているように,重たい教科書などの教材一式が iPad 一台になると通学がもっ
と身軽になります.アプリケーションには,書籍だけでなくいろいろな学習ツールがある
ので,それほど抵抗なく普及するかもしれません.
【B さん】iPad は,タッチパネルのお蔭で拡大・縮小が容易にできることがいいです.私
のように年をとり小さい文字は見えぬくいことがあるので大変便利です.また資料の関連
箇所を見たいときも,タッチパネルを手で操作して見ることができるのがいいです.
138
− 134 −
第2章
実践編
工夫の種類
10.社会人大学院生を対象とした授業の工夫
テーマ
ICT を活用した授業の工夫(3)クラウドの活用
授業科目名
プロジェクトマネジメント特論、エンタープライズ PM 特論
対象学生
大学院技術経営研究科
受講者数
約 15 人
授業形態
講義
教材・メディア等
クラウド
工夫のポイント
クラウドサービスを利用して学習ブログを立ち上げ、学習の気づき
を書き込むことによって省察を促進しました。
キーワード
教材資料の共有、学習ブログ、省察(リフレクション)
授業担当者名
技術経営研究科
大学院生
大島直樹
具体的な内容
・カリキュラムにおける本科目の位置づけ
プロジェクトマネジメント(PM)特論は、大学院技術経営研究科一年生を対象とした
必須科目の一つであり、一年次前期にこの科目を履修します。エンタープライズ PM 特論
は選択科目であり、後期に開講されます。
・受講者の特長
本研究科は社会人を対象にした大学院であり、大学院生は個々の課題を解決するために
学ぶという明確な修学意識を持っていることが特長です。大学院生の年齢は 20 代から 60
代までと広く、職業も製造業、金融、公的機関など多岐に渡っています。
・授業の概要
PM 特論では、プロジェクトマネジメント知識体系(PMBOK)により提唱されている
プロジェクトマネジメントのフレームワーク(9つの知識エリアと5つのプロセス群)に
基づいて、プロジェクトを推進するための体系的な方法論を解説します。エンタープライ
ズ PM 特論では、企業の経営という視点からみたプロジェクトマネジメントの位置づけと
企業のビジネス目標を達成するためのプロジェクトの価値評価について解説します。
・授業の進め方(工夫)
クラウドサービスを活用した動的な学習支援環境を教育ツールとして構築し、学習者ご
とに学習ブログを設置することによって、省察(授業やグルール討議などを振り返って学
習の気付きを得ること)を促進しました。
・クラウドサービスを利用した学習環境(ドメインサービスとクラウドサービス)
Google 社によって提供されているクラウドサービス(Google Apps)を利用し,Web ベ
ースの学習支援環境(サイト)を構築します.Google Apps は、Google サイト、Gmail、
Google Docs および Google カレンダーを独自ドメイン上でシームレスに利用することが
できます。ドメイン管理権限を所有することによって,学習支援サイトの URL を簡単に
表記することが可能になります。科目名のプロジェクトマネジメント(PM)特論にちな
んで pm-tokuron.com というドメインを取得し、GoogleApps として登録しました.表 1
139
− 135 −
にクラウドサービス群に割り当てたバーチャルドメインを示します。
また,学習者のユーザー名(アカウント名)の設定については制約がないので,教員が管
理しやすい様に自由に設定することができます.ただし,Google Apps スタンダードエデ
ィションで登録できるユーザー数の上限は 10 個です.そのため、11 個以上のアカウント
を設定する場合は、Google 社にサイトのアカデミック登録を行う必要があります。
表1
図1
本サイトで利用したバーチャルドメイン
機能
バーチャルドメイン
授 業 ポータル
www.pm-tokuron.com
授 業 ポータル
pm-tokuron.com (リダイレクト)
メール機 能
mail.pm-tokuron.com
ドキュメント
docs.pm-tokuron.com
共 有 ゾーン
mysite.pm-tokuron.com
カレンダー
schedule.pm-tokuron.com
サイト管 理ボード
ad.pm-tokuron.com
クラウドサービスによるシームレスな学習環境
アカウント管理権限を所有することによって,ユーザーのアクセス権および閲覧権を個
別に設定することができます.Google Apps ではアイテムごとに共有設定を行って,ユー
ザーのアクセス権を管理します.本研究科は3拠点(宇部、福岡、広島)で開講している
ため,拠点ごとに学習グループを設定しました.それぞれのグループは、閉じた環境を設
定しました(図1に共有ゾーンA,B,Cとして示す).コモンゾーンのコンテンツは,属
するグループに関わりなく閲覧することができるようにしました.受講者は自分が属する
共有ゾーンの学習ブログ群の閲覧と書き込みができます.非共有ゾーンは学習者のプロパ
ーな領域であり,教員を除く自分以外は閲覧することができない様になっています.
・学習ブログを利用した省察
毎回の授業後に,ホームワークとして授業で得られた気付きやアイディアなどを省察と
して学習ブログに書き込みます.学習ブログは共有ゾーンに設置してあるため,グループ
内で閲覧しあうことができます.そこで、グループによるクラスメート同士がコメントを
書き合うことでお互いに気付きを共有し,振り返り学習を行いました.また,授業時間内
に終了しなかった討議を持ち帰り,ブログ上で討議の続きを行いました。
成果・効果
成果その 1 アクセス解析
学習ブログの利用状況を把握するために、Google Analytics によるアクセス解析を実施
しました。このアクセス解析では、授業時間中における学習ブログの閲覧はカウントしな
いようにフィルタリングを設置してあるので、本人並びにクラスメートの自宅におけるア
クセスをカウントしていることになります。
図 2 に、PM 科目サイトと三教室の代表的な学習ブログサイトのアクセス実績を示す。
140
− 136 −
(1) 平成 22 年度 PM 科目サイト
アクセス実績
(2)平成 22 年度
北九州教室(現在は福岡教室)
(3)平成 22 年度
宇部教室
アクセス実績例
(4)平成 22 年度
広島教室
アクセス実績例
図2
アクセス実績例
平成 22 年度 PM 科目 アクセス実績
3 教室の授業は一週間ごとに巡回しながら開講している。図 2(1)ではおおむね一週間ご
とにピークと谷を周期的に繰り返していること、ならびに図 2(2)~(4)では三週間ごとに周
期的なアクセスをしていることが読み取れます。このことから、学習者は授業の開講日に
合わせて学習ブログにアクセスする傾向があることが判りました。
成果その2 学習ブログ
回を重ねるごとに学習ブログの内容が深まり、省察による学習効果が機能していること
が判りました。ここで、エンタープライズ PM 特論における学習ブログの実際の書き込み
例(原文のまま)を紹介します。
【授業】
・プロジェクト選定方法として、①得点モデル、②階層化意思決定法(AHP)、③経済学
的手法、④ポートフォリオ選定手法、⑤リアル・オプション・アプローチ がある。
・階層化意思決定法(AHP)
意思決定における評価体系を階層的な構造とし、各レベルの評価項目について一対比較を
行い、更に個々の評価項目について代替案間においても一対比較を行う。階層は、ターゲ
141
− 137 −
ットを最上位にし、それを構成する機能(レベルあり)とそれらの対象を構造化したもの
である。各機能の相互比較を 5 段階評価(ただし+方向の重要度)で行う。相対的に重要
度が低いものはマイナスではなく逆数で表現する(差を生じさせる)ことがポイント。そ
れらの幾何平均とそれらの合計に対する割合を計算することにより、各機能の重要度を算
出する。この時点で数値が関係者の評価(考え・思い)と整合しているか確認する必要が
ある。次に、対象物の各機能に対する比較を一対評価によって行い、同じく幾何平均を求
め評価値を算出する。それらの数値から、総合評価を行うことで優先順位付けを行う。各々
の値の算出過程には恣意的なものはなく、評価精度は重要度のスケーリングに依存するた
め、関係者間の合意が重要になる。
・リアル・オプション・アプローチ
金融オプションと類似の手法を用いてプロジェクトを選定する比較的新しい手法である。
プロジェクトの価値は研究開発関連プロジェクトのように IRR や NPV では評価しきれな
いものがある。そこで、見込まれる結果の範囲を予測し利得を評価するリアル・オプショ
ン・アプローチが有効である。予測変動率(ボラティリチィー)が大きいほど見込まれる
利得が大きくなり、オプション(=プロジェクト)の価値は高い。
オプションとしてコール(ある一定価格で買う権利)とプット(ある一定価格で売る権利)
があり、ポジションとしてロング(権利を買うこと)とショート(権利を売ること)があ
る。複製ポートフォリオ法やリスク中立確率法といった評価によりオプション価値が算出
できる。(講義にて試算検証)
【所感】
プロジェクトの価値を評価して優先順位付けする手法は、例えばステージゲート法等でプ
ロジェクトの Go/NoGo を決める際に極めて有用だと思う。自社もそうであるが、日本企
業においては Go/NoGo を単純な収益評価で決定している組織が多いのではないかと思う。
このようなツールを用いて合理的な判断をしていく必要がある。特にリアル・オプション
法では、現在は測れない将来の利得を予測して評価することができるため、日本の製造業
にとって競争優位を確立するための必須事項であると考える。リアル・オプション評価に
ついて、内容と適用方法の概念は理解したと思うが、実務への適用するに当たっては、ボ
ラティリチィーの対象を何にするか等、具体的プロジェクトを例に検討する必要がある。
課題レポートして取り組むことで理解を深めたい。
142
− 138 −
第2章
実践編
工夫の種類
11.その他一般
テーマ
地域医療と山口県の魅力を伝えるための地域医療実習の試み
授業科目名
医学部医学科高度自己修学コース「地域包括医療修学実習」、他
対象学生
医学部医学科3年生、他
受講者数
約 50 人
授業形態
実習
教材・メディア等
ポスター、報告書
工夫のポイント
地域・施設、実習内容の工夫、自治医科大学出身医師の協力、自治
医科大学学生との合同、公共交通機関の利用、地域の魅力を伝える、
行政の協力、地域活動への参加、ポスター・報告書の活用
キーワード
地域医療、へき地・離島医療、実習、地域社会、地域医療マインド
授業担当者名
医学部
福田吉治
具体的な内容
【背 景】
山口大学医学部地域医療学講座は、山口県の寄附講座として平成 20 年 4 月に開講しま
した(平成 22 年 4 月からは「地域医療推進学講座」に名称変更。以下、本講座)。本講座
は、山口県の地域医療を支える人材の育成と確保を主な目的に、
「すべての医師に地域医療
マインドを」を合言葉として卒前教育から卒後臨床研修などに関わっています。本学に赴
任して気づいたのは、多くの学生が山口県の地域医療そして“地域”に十分に接すること
なく過ごしていることです。長い歴史と豊かな自然、山口県の持つ魅力を伝えることは、
卒業生が県内で地域医療に従事する動機を高めるために必要なことだと考えています。
【目 的】
医学生の地域医療マインドの向上のため、地域医療の現場を体験し、医師に必要とされ
る必要な知識、技術、態度を理解し、その後の学習に活かすこと。また、山口県の歴史や
自然などの魅力を感じてもらうとともに、地域社会の現状を理解し、社会全体を視野に入
れた全人的な医療を行うことができる医師を育成すること。
【対象のカリキュラム】
・ 地域医療セミナー:平成 20 年度から開始。対象は医学科全学年。夏(8 月)と春(3
月)に実施。2 泊 3 日。年間 30 名程度が参加。
・ 高度自己修学コース「地域包括医療修学実習」:平成 22 年度から開始。2 泊 3 日。対
象は医学科 3 年。選択性で、年間 20 名程度が参加。
【工 夫】
1. 地域・施設:萩市、岩国市(特に、旧美和町・錦町・本郷村)、下関市(旧豊田町)、
周防大島町等の公的医療機関(いわゆる、へき地・離島の診療所・病院)
2. 実習内容の工夫:医学的な知識や技術とともに、患者やその家族への接し方、生活背
景までを考えることを目的とした実習内容に。
3. 自治医科大学出身医師の協力:へき地・離島の公的医療機関を実習対象にするため、
自治医大卒業生に協力依頼。学生時代から地域医療を担うことを自覚した自治医大卒
医師は、学生にとってよきロールモデルとなっています。
4. 自治医科大学学生との合同:平成 22 年度のセミナーからは自治医科大学と共催とし、
両大学の学生が合同で実施。また、他大学の学生の参加も受け入れています。
143
− 139 −
5.
6.
7.
8.
9.
公共交通機関の利用:公共交通機関を利用してもらい、不便さを味わうのも地域を知
ることのひとつです。
地域の魅力を伝える:地域の歴史や出身人物を紹介(萩では幕末の歴史や輩出人物、
周防大島では宮本常一、など)。また、実習の合間にできるだけ名所等を訪問(松陰神
社、周防大島文化交流センター、道の駅、温泉など)。
行政の協力:地域医療の担当課から自治体や地域医療についてのレクチャーを実施。
時に首長の方からのご挨拶もいただいています。
地域活動への参加:健康教育、地区住民の集会(スポーツなど)にできるかぎり参加。
ポスターや報告書の作成:人目を引き、読んで楽しい報告書を作成。学生や協力施設
の医師・スタッフの写真も掲載。講座内で編集を行いコストの削減もしています。
成果・効果
【効 果】
・ 参加した学生に好評。これまでに参加した学生は卒後山口大学医学部附属病院または
県内の病院で研修を行っており、医師確保にも寄与していると思われます。
・ 受け入れ先の医療機関に好評。学生が施設を訪問し、実習することで、医療機関内の
雰囲気がよくなり、職場の活性化に繋がっているようです。
・ 平成 24 年度から地域包括医療修学実習は必須化(全員履修)し、高校生を対象にした
医療現場体験セミナー、初期研修医を対象にした地域医療研修なども開催し、体系的
な地域医療の教育と研修の仕組みが整いつつあります。
【課題と今後】
・ 選択制のため、参加がモチベーションの高い学生に限定されがちです。全体の底上げ
が必要で、平成 24 年度から「地域包括医療修学実習」は必須化になります。必須化に
より、モチベーションの低い学生の参加による問題が生じる可能性がありますが、逆
にモチベーションが低い学生が参加することで彼らの関心が高まることを期待します。
・ 学生全員に対して地域(山口県)の魅力を伝える体系的なカリキュラムが必要かもし
れません。例えば、共通教育での“やまぐち学”(仮称)の実施など。
・ より実践的な実習が求められています。高学年(5~6 年生)を対象に、医療行為がで
き、より長期間、地域医療を学ぶ機会が必要です。平成 23 年度にはそのための「地域
医療セミナーアドバンス」を実施しました。今後、臨床実習の期間延長を視野に、地
域医療実習の充実を図っていく予定です。
・ 事務的課題として、交通機関や宿泊などの調整の労力が大。旅費等の予算確保も。
・ 本講座は寄附講座であるため年限があり、寄附講座終了後、当該実習・セミナーをど
のように継続していくかが大きな課題となっています。
募集のポスターや報告書の表紙。詳細は、山口大学医 学部地域医療推進学講座ホームページを参照下
さい。「山口大学地域医療」検索。
144
− 140 −
第2章
実践編
工夫の種類
11.その他一般
テーマ
「パワポ授業」導入の可能性に関する一考察
授業科目名
商法Ⅱ(専門教育) 、法学(共通教育)
対象学生
経済学部
受講者数
約 200 人
授業形態
講義
教材・メディア等
教科書、六法、レジュメ
工夫のポイント
これからパワポ授業を考える人のために。
キーワード
パワポ、プレゼン・ソフト等
授業担当者名
経済学部
中村 美紀子
具体的な内容
皆がすなる「ぱわぽ授業」というものをわれもしてみむとてするなりと ( 1 )、本稿は、パ
ワーポイントのようなプレゼンテーション・ソフトを用いた授業が世間でよくなされてい
るようなので、これまでにそのようなものを使ったことのない筆者ではありますが、FD
の観点からその導入を自身の授業にするかどうかを検討するために考察するものです。
本稿でいうパワポ授業とは、パワーポイントのようなプレゼンテーション用のソフトウ
ェア(以下、
「パワポ」、
「プレゼン」、
「ソフト」と略記します)を駆使した授業を想定して
います。授業でパワポのようなプレゼン・ソフトを使いこなせると便利かと問われれば間
違いなくイエスであり、パワポは確かに情報の提示能力を拡張してくれるといいます ( 2 )。
しかしながら、教育の場は評価とフィードバックの場でもあります。それを通して、学
習者が既有の知識を改善することが求められるのです。パワポの利用はそのテクニックを
競うような話になる傾向も否定できないようですが、授業は教師のプレゼンの場ではなく、
学生が学ぶ場です。したがって、その内容の構成と道具の使い方の工夫が求められること
はいうまでもありません ( 3 )。
聞き手である学生の立場を考えるとそれは容易に分かります。本質的な情報を分かり易
い言葉を用い、理解の流れを中断しない順序で話す場合にのみ聞く側は関心を示すからで
す ( 4 )。同時に、情報提示に終始せずどのように学生の参加を促すことができるのか、その
インタラクティブ性を高めることが求められるのです ( 5 )。
環境面では、液晶プロジェクター等を使用するため教室を閉めきり暗くしていることか
ら、どうしても集中力が途切れ睡魔に襲われがちになるので、休憩時間を設ける等の対策
が必要といいます ( 6 )。とくにお昼休み直後の時限にこのような状況は顕著に見られるとこ
ろでしょう。
他方、パワポで手抜きをしようというような、なにやら不真面目にもとれるような提唱
も見受けられますが ( 7 )、これは単に標題をキャッチコピーにしているだけのことでしょう
し、パワポで手抜きを考えるような教員が正面切って本稿のような考察を試みるはずもな
いことは読者の皆さまにもご理解いただけることでしょう。
では、パワポ授業は肝心のFDには効果を上げているのでしょうか。この問題について
は、プレゼン・ソフトの使用は授業を改善しているかと問われれば、それには何ともいえ
ないといいます。なぜなら、プレゼン・ソフトとは単にプレゼンのためのソフトに過ぎず、
授業の目的は学生を学ばせることにあるからです ( 8 )。あるいは、教育面におけるIT化の
功罪にはさまざまなFD報告があり、統一した見解は未だ得られていないともいいます ( 9 )。
66
− 141 −
そのような状況にあって参考になると思われますのは、100 名程度の同一学生群に対し
て、従来法の「コンベンショナル」型、完全デジタル化した「パワポ型」、従来法とパワポ
型を共に活用した「ハイブリッド型」の授業を実施しIT化授業の影響を検討した研究で
す。学習者評価では「コンベンショナル型」の学生満足度が最も高く、次いで「ハイブリ
ッド型」でした。学習習熟度に有意義は認められなかったものの「パワポ型」には二極化
傾向が見られたといいます ( 1 0 )。
他にも、パワポによる授業料資料の提示方法に関して、ページ内容の構成やアニメーシ
ョン機能の異なる3タイプを提示することによって、17 名の受講者を対象とするものでは
ありますが、学生にとっての分かりやすさを調査した研究もあります ( 1 1 )。
もちろん、これらの研究は「血液形態学」あるいは「芸術と技術」の講義におけるもの
であり、筆者の担当している法律学の講義とはその場合を異にするということも十分に考
えられるでしょう。
ではその法律学の分野ではパワポはどのような地位を占めているのでしょうか。主要な
学会においての研究発表などは未だ上述するところの「コンベンショナル」なレジュメに
よるものが主流とも思われますが、実務界ではパワポが注目されているようです。
たとえば、単純化された証拠を用いるという実験的に設定された訴訟においては、代理
人によるパワポの使用が陪審員による被告側の法的責任の判断に影響を与える可能性があ
るということを示している研究があります ( 1 2 )。こうした効果が生じる状況やこれらが起
きるプロセスに関する当該研究の結論は、法理論と法実務の双方に示唆を与えるといいま
す ( 1 3 )。
このような傾向は法教育にも波及するのかもしれません。そうすると、会社の経済的機
能を考えた場合にその制度の効用が弊害を超え、株式会社が資本主義社会における典型的
な企業形態となっていることと同様に ( 1 4 )、パワポ授業には僅かばかりの弊害などは全く
あり得ないとは言い切れないようではありますが、教育におけるIT活用が叫ばれる昨今
(15)
、FDの観点からの効用も認めて導入を考えてみてもいいという時機を迎えているの
かもしれません。
そうであれば、次に筆者の行く手に立ちはだかるのは、自らの脆弱なPCスキルをパワ
ポを使いこなせるようになるまでにいかに向上させるかという難問であることは間違いの
ないところでしょう。
(1)紀貫之「土佐日記」
(935 年頃)
。
(2)山口栄一「パワーポイントで授業を創る」看護教育48 巻4 号(2007 年)310 頁。
(3)山口・前掲(注2)310 頁。
(4)篠田一孝「パワーポイントを生かせないウィークポイント」環境管理技術24 巻5 号(2006 年)32 頁。
(5)山口・前掲(注2)314 頁。
(6)箕口秀夫「満足度の高い授業をめざして」大学教育研究年報(新潟大学)12 号(2007 年)46 頁。
(7)村上吉文「次世代教師の賢い手抜き術―パワーポイントを使いこなそう!」月刊日本語24 巻2 号(2011 年)49-51 頁。
(8)山口・前掲(注2)310 頁。
(9)丹羽民和=丹羽和子「パワーポイント授業の功罪―血液形態学講義における FD 実践」岐阜医療科学大学紀要(2007 年)9
頁。
(10)丹羽(民)=丹羽(和)
・前掲(注9)9-20 頁。
(11)本間巌「パワーポイントによる資料提示方法と効果に関する研究」筑波技術大学テクノレポート14 号(2007 年)195-199
頁。
(12)Park, Jaihyun・岩川直子[訳]
「ビジュアルテクノロジーは模擬陪審判断にどのような影響を与えるか―パワーポイン
ト研究の実証的成果」法と心理10 巻1 号(2011 年)74-82 頁。
(13)Park・岩川[訳]
・前掲(注12)82 頁。
(14)末永敏和編著『テキストブック会社法(改訂改題版)
』
(中央経済社、2008 年)2 頁。
(15)丹羽(民)=丹羽(和)
・前掲(注9)9 頁。
67
− 142 −
第2章
実践編
工夫の種類
11.その他一般
テーマ
人文学部キャリアカウンセリング
授業科目名
対象学生
人文学部・人文科学研究科
全学年
受講者数
授業形態
個別相談
教材・メディア等
工夫のポイント
カウンセリングの垣根を低くすること、大学で学ぶ意欲・卒業後の
働く意欲を高める機会にすることを心がけました。教員による面談
ではなく、あえて外部のキャリアカウンセリングの専門家に依頼し
たことも工夫のポイントです。
キーワード
キャリアカウンセリング
授業担当者名
人文学部・脇條靖弘,学生支援センター・平尾元彦
具体的な内容
「学期はじめに健康診断を受けるように、定期的にキャリア診断を受ける」をキャッチ
フレーズに、人文学部では、2010 年夏からキャリアカウンセリングをはじめました。キャ
リアカウンセラー・産業カウンセラーの有資格者に依頼をして、一人 45 分の中で面談を
します。
「相談することが無くてかまわない、とにかく話をしましょう」という方針で、実
施しています。
学生には、別紙のポスターを掲示および電子メールで配信して、広報します。学生の自
発的申込方式をとっていますので、希望する学生は学務係のカウンターで空いている時間
枠を確認し、申込書を提出します。時間枠は授業時間にあわせた時間帯で、一人 45 分で
す。低学年の学生に利用してほしいとの想いから、授業の空き時間に、また、昼休みの時
間帯にも面談できるようにしています。
担当のキャリアカウンセラーには、学生の悩みやとまどっていることを引き出すこと、
必要に応じて教職員や学生支援センターなど学内の支援者につなぐことをお願いしていま
す。面談後に就職支援室の教職員による情報提供が行われることや、学外機関の紹介、あ
るいは、人文学部の先輩を紹介して就職活動の体験談を聞くようにした例もあります。ま
た、書籍や Web サイトを紹介することもあります。自らのキャリアを自ら切り拓いていく
ための必要な援助がここでなされます。
成果・効果
キャリアカウンセリング実績
これまでの実施日数・参加者実績は以下のとおりです。人文学部の学生総数にしては、
さみしい数字ですので、もっと受けてもらいたいところです。冬の回では、就職相談・エ
ントリーシートの添削のニーズが高いことから3年生の利用が多くなっています。就職活
動を通じて自己を見つめなおし、学業への意欲を高めることもありますし、そのことが就
145
− 143 −
職活動を成功させる要素のひとつでもあります。このような好循環を生み出すきっかけと
なればと思っています。
2010 年夏 7月 30 日~8月 11 日のうち8日間 (一 部 の日 程 でカ ウ ン セラ ー 2名 体 制で 実 施)
来談者数(延べ) 79 名
うち1年生(3) 2年生(48) 3年生(18) 4年生(10) 院生(0)
2010 年冬 10 月 13 日~3 月 30 日のうち 22 日間
来談者数(延べ) 68 名
うち1年生(2) 2年生(9) 3年生(55) 4年生(2)
2011 年夏 7月 19 日(火)~8月5日(金)のうち 10 日間
来談者数(延べ) 39 名
うち1年生(8) 2年生(6) 3年生(13) 4年生(11)
2011 年冬
院生(0)
院生(1)
11 月2日(水)~2月 29 日(水)のうち 14 日間(予定)
相談内容・来訪動機
キャリアカウンセラーは、基本的には話の聞き手です。最初の数分間で来談者の警戒心
を解き、話をしやすい雰囲気をつくった上で、いくつかの質問で来談者の主訴を引き出し
ます。今回の人文学部キャリアカウンセリングでは、相談がある人に呼びかけたのではな
く、すべての学生に参加を呼びかけました。問題があるから行くのではなく、
「とにかく行
く」が基本です。ですので、「とりあえず来ました」という学生は少なからずいましたが、
その多くは、話をするなかで自身の課題に気づき、次にステップへの進む方法を自分で見
つけていきました。
ひとつの例をご紹介します。キャリアカウンセラーとの会話のなかで、「公務員になる
にはどうしたらいいか。勉強だけではなくアルバイトもサークルもやらないといけないと
いうことはわかっているが、、、なにもしていない」と言った1年生の学生がいました。口
に出して言って、はじめて自分の課題に気づいたようでした。この学生の言葉を受けとめ
たカウンセラーは「では、いつからはじめますか?」と一言なげかけるだけです。しばし
悩んだような表情を見せながらもすぐに「この夏休みにアルバイトします!」と、自らの
言葉で語りました。それから、どんなアルバイトをして、どんな力を身に付けるのかとい
う会話が続いていくわけですが、学生の自覚をうながすような場面が一対一の対話を通じ
てうみだされます。これがキャリアカウンセリングの場なのです。
このほか、キャリアカウンセラーの報告による学生たちの相談内容・来訪動機のいくつ
かをご紹介しましょう。大学生活の疑問、就職に対する不安など、普段はけっして口にす
ることのない、学生たちの様々な想いをここに見ることができます。
146
− 144 −
主な相談内容・来訪動機
1年生
自分は就職できないのではないか。自分には能力がない。
自分はやるべきことから逃げている。
→
(最後の一言)とりあえずアルバイトしてみようかな。。。
1年生
友人と「人文学部には未来はないよね~」という話になり、不安になった
1年生
国際的に活躍したいがどうしたらいいか
1年生
どんな資格をとったらいいか
1年生
マスコミを目指したいがどうしたらいいか
2年生
就職について真剣に考えたことがないので、来ました
2年生
このままダラダラと大学生活が終わってしまうのではないかと、不安
2年生
教員免許をとっている。このまま教員をめざしていいのだろうか(涙)
3年生
教育実習に行って自信を失った。このまま教員をめざしていいのだろうか
3年生
福祉に関する仕事を知りたい
3年生
人に役立たないといけないと思っているが、何が役立つ仕事かわからない
4年生
どうしていいかわからない。自分の気持ちがわからない(涙)
キャリアカウンセリングの効果
人文学部キャリアカウンセリングを実施して2年目となりました。これまでの事例のな
かから効果をまとめると、なにより「自分を見つめなおすきっかけとなった」という学生
の声に象徴されます。瞳を潤ませながら話をする学生がけっこういることもカウンセラー
から報告を受けていることです。自らと向き合うことはつらいことかもしれませんが、そ
れを乗り越えて次のステップへと進むひとつのきっかけとなったことは、間違いないでし
ょう。それから、キャリアカウンセリングでは、行動へのつながりを重視しています。話
をしてそれで終わりということではなく、どんなアクションをするのか。カウンセラーと
の約束もひとつの手法で、夏の面談で約束したことを、冬の面談で報告をしに来てくれた
という嬉しい話もあります。
人文学部キャリアカウンセリングのポイントは、教職員ではない外部の方にお願いした
ところにあります。学外の方で大丈夫だろうかとの不安はありましたが、面談を終えた学
生たちの表情を見て、話を聞いて、その不安は吹き飛びました。教員との対話はもちろん
大切です。学問のことはもちろん、就職のこと人生のことを語りあいながら学ぶことは大
切ですが、それだけではありません。大学の先生には言えないようなことも、カウンセラ
ーの先生には話をしていたようです。外部の方から客観的にアドバイスをいただくことも
また重要なことを、この2年間の経験から学びました。
今後の課題
参加者の絶対数を増やして、まさに「健康診断と同じようにキャリアカウンセリングを」
を実践することです。とくに低学年の利用者増を目指したいと考えます。教員との連携も
課題のひとつです。教員との対話を大切にしながらキャリアカウンセラーの指導もあおぐ
ような、そういう仕組みをめざしたいと考えています。
147
− 145 −
(参考)2011 年冬
人文学部キャリアカウンセリング広報ポスター
148
− 146 −
第2章
実践編
工夫の種類
11.その他一般
テーマ
ポートフォリオ「ステップアップノート」を用いた学生指導の実践
授業科目名
対象学生
工学部学生
受講者数
授業形態
教材・メディア等
冊子
工夫のポイント
ステップアップノートは、学生各人が自己分析、将来目標、生活プ
ラン、活動実績などを記録し、自己評価をしながら、充実した大学
生活をおくり、自ら成長する手助けとなるように工夫したノートで
す。
キーワード
自己分析、将来目標、生活プラン、活動記録、自己評価
授業担当者名
工学部付属工学教育研究センター
久井
守
具体的な内容
1.ステップアップノートの目的
ステップアップノートは、学生各人が自己分析を行い、入学の動機を確認し、将来の目
標を描き、その目標に向かって卒業までの生活プランを年次ごとに計画し、その結果を自
己評価し、また在学中の活動実績を蓄積し、自己アピールをまとめて、就職活動にも役立
つように工夫したノートです。学生が自分で記入し、充実した大学生活をおくり、自ら成
長(ステップアップ)する手助けとなるように工夫したものですが、教職員との意見交換
も記録できるようにしてあります。平成 19 年に 44 ページからなるオリジナル版を開発し、
それを簡略化した簡略版を平成 21 年から毎年発行しています。簡略版は表紙や目次を含
め 12 ページものですが、毎年少しずつ改訂をしています。
2.ステップアップノートの目次
ステップアップノート簡略版の目次は次のとおりです。これはオリジナル版の目次とほ
ぼ同じものです。
Ⅰ はじめに
1.1 ステップアップノートとは
1.2 ステップアップノート記入の手引き
Ⅱ ステップアップのために(記入用ページ)
2.1 自己分析(過去の自分を振り返る)
2.2 ライフデザイン(夢を描く)
2.3 卒業までの生活プラン
2.4 在学中の活動記録の作成
2.4.1 身につけたこと
2.4.2 やったこと
2.4.3 学んだこと
2.5 自己アピールの作成
2.6 教職員との意見交換の記録
149
− 147 −
3.ステップアップノートの記入内容
(1) 幼少時からの自分を振り返り、工学部という「技術者への道」を選んだ理由、および
長所や短所などを自己分析します。
(2) 将来やりたいこと、または工学部で目指していることを記述します。
(3) 興味のある職業とかやってみたい仕事について記入し、それを踏まえて学年ごとの目
標を計画し、その結果について自己評価をします。
(4) 在学中に身につけたこと、やったこと、学んだことを活動記録として記入し自己評価
をします。それらの記録を蓄積し、就職活動の資源として利用できるようにします。
(5) 材料をそろえ、自分の考えを整理して自己アピールを作成します。
(6) 大学生活における重要な記録として教職員との面談内容のほか、大事なこと、忘れて
はいけないことなどを記録します。
成果・効果
4.ステップアップノートの開発と改訂と試行の経緯
ステップアップノートは、工学部サロンの活動経験を踏まえて、平成 19 年 3 月に工学
教育研究センターが開発しました。これは独自にデザインしたバインダー付きのオリジナ
ル版で 44 ページからなるものです。平成 19 年度前期には 3 学科の「基礎セミナー」で試
行されました。その成果は 9 月 21 日開催の工学教育研究講演会&意見交流会で「ステッ
プアップノートによる学生の活性化支援」と題して発表されています。普及を目指してさ
らにもう1学科で 2 年生にステップアップノートを配布しています。基礎セミナーのシラ
バスから判断すると、平成 20 年度も試行されていますが、試行する学科が次第に減少し
ています。そこで平成 21 年度には「簡略版」(18 ページ)を作成して 1 学科のみですが
新入生オリエンテーションで配布しました。平成 22 年度には「改訂簡略版」(12 ページ)
を作成して新入生オリエンテーションで新入生全員に配布しました。新入生と工学部サロ
ンを結ぶ媒体として活用することを意図しましたが、その意図は達成されたとは言いがた
い結果となりました。平成 23 年度には「簡略版 2011」(12 ページ)を作成し、学生委員
会に依頼して新入生オリエンテーションで説明した上で新入生全員に配布しました。工学
部サロンに来訪する学生には、できるだけステップアップノートを話題に出すようにはし
ていますが、有効に活用されるまでには至っていないのが現状です。
5.今後の課題
ステップアップノートが普及し活用されるためには、まず広く教員に認知され、有用性
が認められるようになることが必要ではないかと考えられます。ポートフォリオや修学の
手引きなどが作成され運用されている学科との調整も必要ではないかと考えられます。さ
らに学生がステップアップノートを積極的に記録し活用するためには、それに適した仕組
みまたは組織的な取り組みが重要になるものと思われます。
6.参考文献
1)
三池,山鹿,進士,堀江,溝田:ステップアップノートによる学生の教育活性化
支援システム,工学教育,第 55 巻,第4号,pp.35-41,2007
2)
三池秀敏:山口大学工学教育センターの取り組み,平成 20 年度中国・四国工学教
育協会講演会,2008
150
− 148 −
(注)工学教育研究センターは、工学教育に係る新たな取り組みを調査・分析して、本学
の工学教育の改善に資することを目的として、平成17年 8 月に設立された工学部付属の
組織です。
工学部サロンは、工学教育研究センターの議論をふまえて、平成 18 年 6 月に吉田キャン
パスに開設され、工学部 1 年生のいろいろな相談に応じ交流するための部屋です。
151
− 149 −
部 局 等
人文学部
氏 名
職 名
章
節
アラム・ジュマリ
教授
2
4-3 学生を“授業の世界”に参加・共感させる方法
75
太田 聡
教授
2
2-1 複数教員が担当する授業の効果的な進め方
31
林 伸一
教授
2
4-2 授業にグループ学習を取り入れる工夫
71
ヒンターエーダー=
エムデ・フランツ
教授
2
2-2 パートリー
脇條 靖弘
教授
2
11-3 人文学部キャリアカウンセリング
池田 恵子
准教授
2
1-2 DVD視覚教材の開発
熊谷 武洋
准教授
2
2-3 用事例
38
佐野 之人
教授
2
4-4 多人数を考えさせ対話に巻き込むための工夫
77
霜川 正幸
准教授
2
2-4 外部人材を活用した授業づくりの工夫
41
曽根 涼子
教授
2
1-1 基礎セミナーの実践例
19
3-1 PowerPointをノート代わりに利用する工夫
54
鷹岡 亮
准教授
2
教育学部
タイトル
外国語の授業への動機を維持するためのレ
疑似ディスタンス・ラーニングを組み合わせた
受講意識向上のための講義支援システムの利
多人数授業で学生が意見を交換し共有する工
4-5 夫
経済学部
医学部
農学部
医学系研究科(理学)
医学系研究科(医学)
芸術系の授業で写真を使って細密描写の描写
ページ
35
143
21
81
中野 良寿
准教授
2
3-2 力を効果的に養う方法
55
西 敦子
准教授
2
2-5 模擬授業で学習指導力を身につける方法
43
西村 正登
教授
2
4-6 道徳授業にロールプレイングを取り入れる試み
83
野村 厚志
准教授
2
5-2 学生の理解状況を確認しながら進める試み
植村 高久
教授
2
1-3 ナー」
25
澤 喜司郎
教授
2
3-3 Power Pointを教科書の代わりに利用する工夫
57
武本 Timothy
准教授
2
4-7 授業にディスカッションを取り入れる工夫
84
中村 美紀子
教授
2
11-2 「パワポ授業」導入の可能性に関する一考察
藤田 健
准教授
2
3-4 用方法
福田 吉治
教授
2
11-1 医療実習の試み
赤壁 善彦
准教授
2
2-9 え考察できる能力を身につけるための工夫
51
森本 將弘
教授
2
2-10 学生に自己習熟度を思い起こさせる
53
山本 晴彦
教授
2
3-6 ICTを利用した授業外学習の工夫
65
川俣 純
教授
2
7-2 大規模授業での私語対策
川崎 勝
准教授
2
4-8 PBL型テュートリアルの現状と課題
野島 順三
教授
2
4-1 工夫
68
山勢 博彰
教授
2
3-5 動画(ドラマ)を利用した授業の工夫
63
新入生の大学への適応を促進する「基礎セミ
パワーポイント資料(穴埋め式)の効果的な利
地域医療と山口県の魅力を伝えるための地域
様々な生物の事象を有機化合物レベルでとら
授業における学生のモチベーションを上げる
− 150 −
105
141
59
139
115
87
部 局 等
氏 名
職 名
章
医学系研究科(工学)
平林 晃
准教授
2
4-10 学生を講義に参加させるために
91
浦上 直人
准教授
2
2-6 習熟度に差のある科目に対する授業の進め方
45
白石 清
教授
2
1-5 授業の際の心がけ
30
松村 澄子
准教授
2
1-4 授業に興味を持たせる工夫
29
佐伯 隆
准教授
2
5-1 授業内演習で授業の進め方を微調整
新銀 秀徳
助教
2
4-11 の工夫
93
中山 雅晴
教授
2
2-7 化学の見える化
47
松田 憲
講師
2
4-15 工学部における心理学教育
柳 研二郎
教授
2
4-9 あり方
山田 陽一
教授
2
2-8 着に向けた工夫
理工学研究科(理学)
節
タイトル
実習授業において学生の理解度を高めるため
ページ
102
理工学研究科(工学)
工学部専門科目としての数学系科目の授業の
問題演習の効果的な実施による基礎学力の定
授業にディスカッションを取り入れる工夫
10-1 (1)プレゼンテーション
授業にディスカッションを取り入れる工夫
10-2 (2)グループワーク
技術経営研究科
大島 直樹
准教授
2
ICTを活用した授業の工夫
10-3 (1)ポータルサイト
ICTを活用した授業の工夫
10-4 (2)タブレット(電子教材ビューア)の活用
ICTを活用した授業の工夫
10-5 (3)クラウドの活用
大学院生のプレゼンテーション能力に関する
101
89
49
128
130
132
133
135
100
連合獣医学研究科
前田 健
教授
2
4-14 工夫
工学部付属工学教育
研究センター
久井 守
特命教授
2
11-4 学生指導の実践
鈴木 素之
准教授
2
4-13 心を引き出す!
2
6-2 時間をかけて課題に取り組ませる工夫
109
2
6-1 授業外学習時間の確保
107
2
8-2 成績分布共有システムの活用方法
119
大学評価室
糸長 雅弘
岩部 浩三
岡田 耕一
主事
教授
センター長
教授
講師
ポートフォリオ「ステップアップノート」を用いた
1年生でもプレゼンさせて、社会への興味・関
マイクロ・ティーチングの手法を取り入れた学生
4-12 参加型の授業展開
小川 勤
教授
2
147
97
95
9-1 聴覚障害のある学生ための配慮方法
121
9-2 発達障害のある学生ための配慮方法
125
大学教育センター
学生支援センター
語学教育授業における小テストの効果及び活
何 暁毅
教授
2
8-1 用
117
木下 真
准教授
2
7-1 授業中の私語等の抑止
113
中田 充
主事
准教授
2
6-3 習を促進する取組み
吉田 香奈
准教授
1
平尾 元彦
教授
2
内容を採点対象としないレポートを活用した復
授業の基本編-新任教員向け-
11-3 人文学部キャリアカウンセリング
− 151 −
111
1
143
ᒣཱྀ኱Ꮫ FD ࣁࣥࢻࣈࢵࢡ➨ 4 㒊ไస࣮࣡࢟ࣥࢢ࣭ࢢ࣮ࣝࣉ ྡ⡙
㒊㻌 ᒁ㻌 ➼㻌
ᡤ䚷ᒓ
ேᩥᏛ㒊㻌
ேᩥᏛ㒊
ேᩥ⛉Ꮫ◊✲⛉㻌
ᩍ⫱Ꮫ㒊
ᩍ⫱Ꮫ㒊㻌
ᩍ⫱Ꮫ◊✲⛉㻌
⤒῭Ꮫ㒊
⤒῭Ꮫ㒊㻌
㎰Ꮫ㒊
⤒῭Ꮫ◊✲⛉㻌
㎰Ꮫ㒊
⌮Ꮫ㒊㻌
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄་Ꮫ䠅
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄⌮Ꮫ䠅㻌
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄⌮Ꮫ䠅㻌
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄་Ꮫ䠅
་Ꮫ㒊䠄་Ꮫ⛉䠅㻌
⫋㻌 ྡ㻌
⫋䚷ྡ
ᩍᤵ㻌
ᩍᤵ
Ặ㻌 ྡ㻌
ᩍᤵ
ᩍᤵ
ᩍᤵ㻌
㻌㻌
㔝ᮧ㻌ཌᚿ
㔝ᮧ㻌 ཌᚿ㻌
㻌㻌
୰⏣㻌 ⠊ኵ㻌 ๓⏣㻌೺
㻌㻌
୰⏣㻌⠊ኵ
෸ᩍᤵ
ᩍᤵ㻌
㻌
ᩍᤵ㻌
ഛ㻌 ⪃㻌
ኴ⏣㻌 㻌 ⪽㻌 ኴ⏣㻌⪽
෸ᩍᤵ
෸ᩍᤵ㻌
Ặ䚷ྡ
㉥ቨ㻌ၿᙪ
ෆ㔝㻌 ⱥ἞㻔䡚㻡 ᭶䠅㻌
ᩍᤵ
ཎ⏣㻌つ❶
㻌
㔝ᓮ㻌 ᾈ஧㻔㻢 ᭶䡚䠅㻌
ᩍᤵ
㻌㻌
ṇᮧ㻌ၨᏊ
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄⌮Ꮫ䠅
ᩍᤵ㻌
ᩍᤵ
ཎ⏣㻌 つ❶㻌
ෆ㔝㻌ⱥ἞㻌㻖
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄⌮Ꮫ䠅
་Ꮫ㒊䠄ಖ೺Ꮫ⛉䠅㻌
ᩍᤵ㻌
ᩍᤵ
㔝ᓮ㻌ᾈ஧㻌㻖㻖 㻌 㻌
ṇᮧ㻌 ၨᏊ㻌
ᕤᏛ㒊㻌
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄ᕤᏛ䠅
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄ᕤᏛ䠅㻌
⌮ᕤᏛ◊✲⛉䠄ᕤᏛ䠅
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄ᕤᏛ䠅㻌
㻌
ᩍᤵ㻌
ᩍᤵ
⏣୰㻌 ᖿஓ㻌 ௒஭㻌๛
ᩍᤵ
௒஭㻌 㻌 ๛㻌
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄་Ꮫ䠅㻌
ᩍᤵ㻌
㎰Ꮫ㒊㻌
ᮾ䜰䝆䜰◊✲⛉㻌
㻌㻌
㻌 㻞 ྡ㻌
⏣୰㻌ᖿஓ
෸ᩍᤵ
᳃㔝㻌ṇᘯ
㎰Ꮫ◊✲⛉㻌
෸ᩍᤵ㻌
኱Ꮫᩍ⫱䝉䞁䝍䞊
ᮾ䜰䝆䜰◊✲⛉㻌
㻌
䝉䞁䝍䞊㛗 ᳃㔝㻌 ṇᘯ㻌ᒾ㒊㻌ᾈ୕
෸ᩍᤵ㻌
㻌㻌
ᢏ⾡⤒Ⴀ◊✲⛉㻌
෸ᩍᤵ㻌
㻌㻌
ᢏ⾡⤒Ⴀ◊✲⛉
་Ꮫ⣔◊✲⛉䠄㎰Ꮫ䠅㻌
䚷䚷䚷䚷䚺
㐃ྜ⋇་Ꮫ◊✲⛉㻌
䚷䚷䚷䚷䚺
኱Ꮫᩍ⫱䝉䞁䝍䞊㻌
෸ᩍᤵ
୺஦
ᩍᤵ㻌
䝉䞁䝍䞊㛗㻌
୺஦
㉥ቨ㻌 ၿᙪ㻌
኱ᓥ㻌┤ᶞ
኱ᓥ㻌 ┤ᶞ㻌
⣒㛗㻌㞞ᘯ
๓⏣㻌 ೺㻌
ᒾ㒊㻌 ᾈ୕㻌
୰⏣㻌඘
㻌㻌
㻌㻌
㻌㻌
㻌 㻌 㻌䚷䚷䚷䚷䚺
㻌 䚺㻌
୺஦㻌
୺஦
⣒㛗㻌 㞞ᘯ㻌Ώ㑓㻌ᖿ㞝
㻌㻌
㻌 㻌 㻌䚷䚷䚷䚷䚺
㻌 䚺㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 䚺㻌
୺஦㻌
ᩍᤵ
୰⏣㻌 㻌 ඘㻌 ᑠᕝ㻌໅
Ώ㑓㻌 ᖿ㞝㻌
㻌㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 䚺㻌
ᩍᤵ㻌
ᑠᕝ㻌 㻌 ໅㻌
㻌㻌
䚷䚷䚷䚷䚺
୺஦㻌
ᩍᤵ
ఱ㻌ᬡẎ
㻌㻌
䚷䚷䚷䚷䚺
㻌 㻌 㻌 㻌 䚺㻌
㻌 㻌 㻌䚷䚷䚷䚷䚺
㻌 䚺㻌
෸ᩍᤵ
ᩍᤵ㻌
෸ᩍᤵ㻌 ෸ᩍᤵ
ྜྷ⏣㻌㤶ዉ
ఱ㻌 ᬡẎ㻌
ྜྷ⏣㻌 㤶ዉ㻌 ᮌୗ㻌┿
㻌㻌
㻌 㻌 㻌䚷䚷䚷䚷䚺
㻌 䚺㻌
㻌 㻌 㻌㻖㻌ᖹᡂ㻞㻟ᖺ㻠᭶䡚㻡᭶
㻌 䚺㻌
෸ᩍᤵ㻌 ㅮᖌ
ㅮᖌ㻌
ᮌୗ㻌 㻌 ┿㻌ᒸ⏣㻌⪔୍
㻌㻌
ᒸ⏣㻌 ⪔୍㻌
㻌㻌
㻖㻖ᖹᡂ㻞㻟ᖺ㻢᭶䡚ᖹᡂ㻞㻠ᖺ㻟᭶
154
− 152 −
㻌㻌
Fly UP