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しんかい6500 - jamstec

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しんかい6500 - jamstec
海洋科 学技術 センタ ー試 験研究報 告 JAMSTEC R 23
(1990 Mar.)
「 し ん かい6500 」用海 水 ポ ンプ の開発
高川
真一*1 高 橋
憲二*1
手塚
久 男*2
下瀬
沢生*3
永田
幸明*4
6500m 潜水 調 査船 「し んかい6500 」が,海中 や海底で安定し た中正浮 量状 態が得
ら れるよ う,低 温・高圧 環境 下で補助 タン クに海 水を注排水し て重 量 調 整 す る高 性
能海 水 ポンプ が開 発さ れた。
本 海水 ポンプ は,固定 シリンダ・回転斜板式 のアキシャルプ ラ ン ジ ャ ポンプ で あ
り,シール部 の シリンダ・ プ ラン ジャには耐 摩耗・ 耐食性 に富む 特 殊溶 射表 面 処 理
法 によ るセ ラ ミクス等 が用 いら れて いる。
本論 文で はこ れら の技 術と諸 確性試 験結果 につ き報告 する。
On the Development of Sea Water Pump for
the "SHINKAI
6500"
ShinichiTAKAGAWA*S
Kenji TAKAHASHI*5
Hisao TEZUKA" Takuo SHIMOSE*7
Yukiaki NAGATA*8
A high performance sea water pump was developed which was used to adjust the
weight of the 6, 500m deep research submersible "SHINKAI
6500" by charging
or
discharging sea water directly to/from the weight adjusting tank in the low tem
perature and high pressure environment in order for the submersible to obtain
a
neutral buoyancy condition.
This sea water pump is an axial plunger type pump with fixed cylinders and a
rotating swash plate,and the ceramics by special thermal spraying surface treat-
深海開発技術部
三菱重工業㈱神戸造船所
川崎重工業㈱船舶事業本部
㈱スギノマシン開発部
Deep Sea Technology Department
Mitsubishi Heavy Industries,Inc.
Kawasaki
Heavy Industries,Inc.
Sugino Machine Co. Ltd.
315
・merit are used on the surface of cylinders and plungers in order to obtain good seal
gap properties and abrasion-resistant and corrosion resistant properties.
This paper describes these technologies and various test results on this sea water
pump.
Key word: Sea Water Pump, Axial Plunger, Ceramics, Gap
ment.
Seal,Weight Adjust-
対して前者の場合は,海水を 直接高圧で送り出 す
1 はじめに
潜水調査船の海中,海底での行動様式 は,丁度飛
海水ポンプの開発が必要であ るが,こ の ポンプ シ
行船と同じであって,自らの重量と浮 量とが一 致
ステムが小型軽量であれば, 余分 にな る非耐圧容
した中正浮量状態で海中に漂うようにし た上で,
器が不要であるため全体としての小型軽量化がで
推進器を用いて自在に運動する。この中正浮量状
態を達成するにはいくつかの方法 があ り,小 さな
きる利点がある。
海洋科学技術センターが開発し, 現在 運用さ れ
お もりを少しずつ投棄する方法は最 も簡単であ る
ている2000 m 潜水調査船「 しんかい2000」 で は
代わりに可逆性がない。それに代 わって,耐 圧容
200気圧の水圧に抗して海水を 直接送り出す海水
器と ポンプを用いて海水を注排水す る方 法は, 装
ポンプが開発されて使用されており, 新 たに開 発
置が若干複雑になるものの,可逆性があるために,
された6500m 潜水調査船「 しんかい6500」 で も水
信頼性があって小型軽量であれば, 深海調査を効
深6500m の水圧にして海水を直接送り出す海水ポ
率的に行うには最 も適しているものであ る。
ンプが採用された。
ポンプ注排水方式 にも2通りあ って, 図 1に示
この海水ポンプの開発指針を以下に示す。
すように海水を直接ポンプで注排水す る方式 と,
(1) 水深6500m の低温高水圧に抗して海水を直接
耐圧容器と非耐圧容器を 1つずつ設けて高圧油圧
吐出できること。
ポンプで両容器間 に油を移送して非耐圧容器内の
(2) 海水に対する耐食性を有すること。
海水と置換する方式とがある。後者 の場合 は,高
(3) 海底付近での運転に伴う砂泥等の混入に対処
圧油圧 ポンプ自体は製作 は容易であ る反面, 別途
すること。
非耐圧容器を設けなければならないので, 装 置全
(4) 小型軽量高効率で注入の際も流量制御がで き
体,ひいては潜水調査船の大型化を招 く。 それに
ること。
図 1 重量浮量調整方式の比較
Comparisionof Weight Sdjusting
System
316
JAMSTEC
R
23 (1990)
そこで「しんかい 6
5
0
0
J用として,本体に均圧
て吐出バルブを通り吐出口へ圧送される。
機構を設けたアキシャルプランジャ式で,プラン
深海潜水調査船用海水ポンプは,陸上で使用す
ジャとシリンダにセラミック材を使用して隙間シー
る水.海水ポンプとは異なり,以下の問題点がある。
ルと呼ばれる特殊なシール構造とするとともに各
これらについて多方面から検討し,基本構想を固
部に軽量高強度で耐食性の良いチタン材を多く使
めた。
用した海水ポンプとすることとした。
(1)小型軽量化及び低起動トルクのための機種選
定
ここでは,海水ポンプの関発に関するシリンダ,
プランジャ,チェックバルブ、の材質及び、フ。ランジャ,
深海潜水調査船用海水ポンプは,可能な限り
シリンダ間の隙間の検討,ならびに高圧下で運転
小型,軽量化を図る必要がある。また,ポンプを
できるアキシャルプランジャ式ポンフ。の構造につ
駆動するモータ側から見ると,起動トルクが小
いて述べる。さらに,ポンプを評価するため実施
さくポンプの回転慣性の少ないものが望ましい。
した試験の方法及び結果について述べる。
これらの構造条件をより満足するポンプの形式
として,今回採用したアキシャルプランジャ式
2 問題点と基本構想
が挙げられる。この方式は,プランジャを円筒
採用することとしたアキシャノレプランジャ式の
状に多数高密度に配列してコンパクトにまとめ
海水ポンプの基本構造と作動原理を図 2に示す。
ることができ,かつより高速回転が可能である
ポンプは電動機により回転され,回転斜板を回転
ことから
することにより,斜板が揺動運動し,コンロッドに
ク式に比較して小型軽量化ができる。しかもア
より連結されたプランジャがシリンダ内を往復運
キシャルプランジャ式は主要な回転部にボー J
レ
動する。この往復運動により,海水は吸入口より
ベアリングの ようなころがり軸受けを使用でき
吸入バルブを通りシリンダ内に引き込まれ,そし
るのですべり摺動部分が少なく静止摩擦が小さ
e
f
r
しんかい 2
0
0
0
Jで 採 用 し た ク ラ ン
均圧袋
フィルタ
斜板
吐出パルプ
ー吸入パルプ
‘
h
/
プランジャ
シリンダ
吐出口
I'
¥
.
.1 ):f
4
ドライブシャフト
戸~
1
1/
」ご
開?
同
・、
『
吉
弘
吸入口
,
4
.
.
:
判手~ :.fぜ /r i
江
I
s
l
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1可V/
h
7
f
:立ペホ
仔寸.・.:
7寸 ・6E
ケ'
¥1
:
機
側
jI
、
.
見
、
コンロ ッド
海水
均圧油
図 2 作動原理図
F
i
g
.2 ¥
l
1echanismo
fSeawaterpump
JAMSTEC R 23 (1990)
317
いこと,ならび、に運動部の質量が小さく回転慣
プ本体の均圧治と周囲の海水とが接する部分で
性が少ないので起動トルクを小さくできる利点
あり,また,コンロッドがプランジャと連動し軸
がある。
方向に高速摺動する部分であるため,シール性
(
2
) 耐 深度圧のための構造
ポンプを深海中で使用すると,深度とともに
及び耐久性の面から検討が必要である。この部
分のシール方式として, Uパッキンによる方式,
500mで 680kg/cm2
大きな外圧を受け,水深 6
ブーツ式による方式及び Vパッキンによる方式
の外圧を受ける。この外圧下で支障なくポンプ
等を検討したが,
を運転するために,ポンプ本体に均圧油を封入
Uパッキンはシー Jレカが,ブー
ツは耐久性が劣るため Vパッキンを採用するこ
して弾性体で外と仕切る均圧構造とする。
ととした。
(
3)耐食 性
海水中で使用し,作動流体として海水を用い
るため海水に触れる各部は高い耐食性を必要と
v
ノマッキンの構成及び材料について
は次項の基礎調査で述べる 。
(
5
)逆止ノてルブ
ポンプの高速化と,海水が潤滑性を持たない
T
i,
する。そこで,海水に触れる材料はチタン材(
ことから,通常の油圧アキシャノレプランジャポ
T
i
6
A
l
4
V
)や ス テ ン レ ス 鍋 (
S
U
S
3
0
4,SUS316,
SUS630
等)で製作する。
(
4
) シール方法
ンプで使用されているような高い面圧で滑りな
がら回転するロータリーパルプは適さない。そ
こで追従性,耐久性を考慮してポペット式逆止
プランジャ,シリンダ部の高圧シール部は,作
バ ルブとした。バルブズプリングの材質は長年
動流体として海水を使用するため,海底付近で
の使用に耐えられるよう,耐食性に優れたチタ
の使用時には砂泥等の混入が考えられる。
ン材で製作することとした。ポペット式逆止バ
またポンプの小型化に伴い,高速化が必要で
あり,しかも海水には潤滑性はほとんどない。
ルブの材質,シート面形状,バルブスプリングの
強さについては,次項の基礎調査で述べる。
そこでこれらの条件下で長寿命の高圧シールを
考えた場合,種々の工業材料の中で非常に優れ
3 基礎調査
た耐食性・耐摩耗性を有するセラミック材を使っ
前章で問題点が明らかとなったシリンダ・プラ
た隙間シールが最も有望であることから,隙間
ンジャ用セラミクスの選定,コンロッド部シール
シール方式を採用することにした。│線問シー Jレ
用パッキン,逆止バルブの材質,同形状,バルブス
とは,シリンダとプランジャの間に若干隙聞を
プリングについて,基礎調査を行った。
設けて作動流体がわずかながらそこから漏れる
3
.
1 シリンダ,フランジャ用材料の選定
ことにより,シリンダ・プランジャ問の冷却・
シリンダ用セラミック材料としては,窒化珪素,
潤滑を行うものであり,かっセラミクスを用い
炭化珪素,高純度アノレミナなどがあり,機械的性質
ることから砂泥等の混入に対しでも強い。但し
は蜜化珪素,炭化珪素が優れているが,加工性,入
この漏れ量は微小で,昇圧吐出量にはあまり影
手の容易さでは高純度アルミナが良い。本海水ポ
響を与えない程度の量である。
ンプでは精密な加工が必要なため,シリンダ材質
一方,セラミクスは引張力,曲げカ,衝撃力に
として高純度アルミナ HIP処 理 品 (
Hot1
s
o
-
き依めることにより補強して,高い内圧から守
s
t
a
t
i
cP
r
e
s
s
=熱間静圧プレスの略。アルゴンな
0
0
0気圧, 1
0
0
00C以
どの不活性ガスを媒体とした 1
る構造とし,プランジャセラミクスは金属棒に
上の高温高圧の加工処理方法)を採用することと
コーティングすることにより,折損を避けるよ
した。
弱いので,シリンダセラミクスは金属外筒を焼
こ
。
うにし f
また,プランジャ用コーティング材質を選定す
シリンダのセラミック材の種類,プランジャ
るにあたり,各種コーティング材の機械的性質等
コーティング材の種類については次項の基礎調
についても調査した結果,タングステンカーバイ
査で述べる。
ト・コバルト系は耐食性に問題があり,クロム系
コンロッド部の均圧シー Jレ部は,前述のポン
318
とプラズマ.
溶射のアルミナ・チタニア系は耐剥離
JAMSTEC R 2
3(
1
9
9
0
)
3
.
3 逆止パルプの材質
性で問題があることから不採用とした。
ポンプの高速化に伴い,逆止ノてルブ、の追従性,耐
また爆発溶射のアルミナ・チタニア系と同じく爆
発溶射のタングステンカーバイト・タングステン
摩耗性,騒音が問題となる。候補材として S
U
S
6
3
0
クロム・ニッケル系の 2種類が有望とされたが,
及びチタン合金が考えられ,追従性,耐摩耗性では
高圧時における耐剥離性を重視して,爆発溶射の
特に両者の差はないが,バルブの軽量化と騒音低
タングステンカーノてイト・タングステンクロム・
減化のためにチタン合金を選択することとした。
3
.
4 パルプ及びパルプシートの形状につい
ニッケル系を採用することとした。
3
.
2 コンロッド部シール用 Vパッキンの構
て
性能の安定したパルプとするために,図3に示す
成及び材料の選定
コンロッド部の均庄三ノール部には,当初フッ素
ゴム製の往復動用に 2個を 1組にした Vパッキン
を二重に使用したが,性能試験の過程で長期間水
中に放置するとコンロッドにノマッキンが粘着し,
Aタイプのテーパシートにテーパバルブを組み合
わせたものと, Bタイプのテーパシートに球面パ
ルプ、を組み合わせたものを製作し,比較作動試験
起動トルクが過大となることが判明したため,シー
Aタイプは 3
0
時間の運転で吐出量が約 1
0%下が
5
0
時間後で約2
0%下がった。 Bタイプでは 2
0
0
り
,-
ル性,耐久性に加え,非粘着性の面からも見直し,
調査試験を行って検討した。
材料としては,当初計画のフッ素ゴムの他にテ
0
度ニトリルゴム,スーパーラパーを
フロン,硬度9
候補として各材料の組合せによる Vパッキンの構
成も変えて行った結果,テフロンは起動トルクは
を行った。
時間後でも吐出量はほとんど変化せず¥正常な運
転を行うことができた。よって本ポンプには Bタ
イプを採用することとした。
3
.
5 バルブスプリングについて
バルブスプリングの材質は耐久性を考慮してチ
小さいが摩耗による耐久性で劣り,硬度 9
0度ニト
タン製とした。またスプリングカについては,計
リルゴム,スーパーラパーはともに起動時の摩擦
算上良いと思われる強さと,その前後の計3
種類製
カが大きいことが分かった。そこで構成を含めた
比較検討の結果,材料はフッ素ゴムとし,当初二重
としていたものを一重にするとともに,テフロン
作し,ポンプに装着して試験を行い,最も適当なス
微粒子を潤滑油中に添加することにより起動トル
とした。
プリングを選ぶこととした。結果は計算上よりや
や強めのスプリングが良好でこれを採用すること
クを 4
0%程度に軽減でき,漏れ量も二重パッキン
の場合とほぼ同等となることが分かったため,本
方式を採用することとした。
•
4 海水ポンプの構造
以上の設計,検討,要素試験を経て製作された海
•
•
•
Aタイプ
Bタイプ
パルプシート面
図 3 パルプシート図面
F
i
g
.3 S
e
c
t
i
o
no
fS
e
a
w
a
t
e
rV
a
l
v
eS
e
a
t
JAMSTEC R 23 (
1
9
9
0
)
319
mm 杓
595
図 4 ポンプ構造図
F
i
g
.4 S
t
r
u
c
t
u
r
eo
fS
e
a
w
a
t
e
rPump
水ポンフ。の構造を図4に示す。またその基本仕様
表 1 海水ポンプ基本仕様
と完成外観をそれぞれ表 1
,写真 1
に示す。
Ta
b
l
e1 S
p
e
c
i
f
i
c
a
t
i
o
no
fS
e
a
w
a
t
e
rPump
図 4において,ポンプ駆動車由①と斜軸②ならび
に回転斜板⑤は一体に成形されている。③は斜軸
斜板④とはネジで結合され,斜軸②に対して一体
形
に揺動できるよう構成されている。
計
式
画
吐
出
目
要
自
項
②に依め合わされた第 1
の揺動斜板で,第2
の揺動
量
海水浸潰型,アキシャルプランジャ式
6.
R/min
コンロッド⑥は,揺動斜板③及び④に対して回
計画吐出圧力(連続)
6
8
5kg/cnf
転可能で、かっ半径方向にスライドできるよう支持
最大試験吐出圧力(連続)
7
5
0kg/C
I
r
l
され,また⑬の軸受部材でガイドされることによ
最大設計 吐出圧力
8
2
0kg/c
n
f
り完全な直線往復運動ができるようになっている。
計画吸入圧力
0
"
"
"ー0
.
3kg/c
n
f
そして他端に俵め込まれたプランジャ⑦を軸線方
回転速度及び方向
向に往復動させる。これらのプランジャ,シリン
耐
組
,
ダ,コンロッド等のセットは,ポンフ。円周上に5
所
装着されている。
潤
滑
均
使
⑬はゴム製のベローズで,ポンプ外圧とポンプ
内圧を等しくする均圧
性
2
0
0時間
ク
約4
.
4kg-m
方
式
油封入潤滑
圧
方
式
ポンプ固有の均圧器
用
流
体
海水
動
方
式
無負荷
久
要
ト
J
レ
ー
用部材であり,均圧器室⑫と連通した斜板室@と
起
外圧を等しくしている。
プランジャ径×ストローク
⑬はシリンダ室⑫ヘ出入りする海水のフィルタ
で,シリンダ・プランジャ聞の隙間シールから漏
れ出た海水はシリンダ室に入る。
海水は,プランジャが下がることによって逆止
320
2
2
5
0rpm,電動機側から見て反時計方向
重
量
計画吐出量計
画吐出圧力時
ポンプ
入力動力 最 大 試 験
吐出圧力時
φ8mmX14.2m m
自重 58kg
以下×封入油約 2kg
約1
0.
0kw (常温にて)
約1
0.
5kw (常温にて〉
JAMSTEC R 23(1990)
トバルブ@が関,同⑫が閉となってシリンダ内に
ポンフ。
の吐出圧は圧力調整弁で所定 の圧力に設
入り,逆に プラン ジャが上がることによ って@ が
定される。使われた海水は熱交換器で十分に冷却
閉,⑫が開となって吐出される。
した後,タンク内へ入りポンプを冷却し,また吸入
写 真 1 海水ポンプの外観
Photo1 C
o
n
f
i
g
u
r
a
t
i
o
no
fS
e
a
w
a
t
e
rPump
水として再度使用される。
5 性能試験
常圧水中での試験と高圧水中での試験を行った。
5
.
2 高圧水中試験装置
図 6にポンプの高圧水中下性能試験を実施した
また,深海水中での使用を想定した場合,冷水中で
海洋科学技術センターの高圧実験水槽における試
の起動試験が必要であり,ポンプの性能として耐
験装置を,図?と写真 3に高圧水中 2
0
0時 間 耐 久
久性も大きな要素である。従つて'常圧 水 中 及 び
試験を実施した試験装置をそれぞれ示す。
開発した本海水ポンプの性能を確認 するため,
∞
7
k中試験ならびに 2
0
O
時間の
高圧水中において冷水
耐久試験もそれぞれ行つて性能を碓
5
.
1 常庄水中試験装憲
ならびに写真 2
に常圧水中における海水ポン
図5
高圧実験水槽では
I
Iしんかい 6500J に実際に
装備する水中電動機と組合せた海水ポンプユニッ
トの状態でユニット全体を水槽に入れ,高圧雰囲
気下で試験を行った。 ポンフ。への入力動力は, 高
プの試験装置 を示す。
圧水中下での直接計測が困難なため,インバータ
ポンプ駆動には試験用空中電動機を使用 し,回転
の出力値を計測し,水中電動機の高圧下特性から
数検出器で回転数を確認しながら,インバータに
算出することとした。
て所定の回転速度に設定する。またトルク検出器
でランニングトルクを検出する。
入力軸はカップリング、で海水ポンプと固定され
0
0時間耐久試験に用いた試験装置は,
高圧水中 2
常圧水中試 験で使用した装置の水槽を海水ポンプ
が収納可能な超高圧容器に換装したものである O
る。水槽は海水ポンプを固定した状態で完全にポ
超高圧容器内のポンプへ駆動力を伝えるために
ンプが水没するよう十分な容積を持っている。ま
は,高圧シールが必要となる。そこで今回,独自の
たポンプの吸入ライン内に絞り弁をおき,吸入圧
超高圧隙間シール方式を採用した。このシールは
力を任意に設定できるようにしている 。
若干の漏れは伴うものの,摩耗等がなく,シーノレ性
JAMSTEC R 2
3(
1
9
9
0
)
321
冷却水
熱変換器
負圧計.(!
フィ Jレ
タ
インバータ
コントロー Jレパjレブ
¥
モータ(l5Kw)
トルク計
回転計
タンク
圧力計
│制御盤│
C二
コ
仁二コ
リリーフパルプ
¥海水ポンプ
回転数検出器
図 5 常圧水中テスト装置構造図
F
i
g
.5 Equipmentsf
o
rSubmergedP
e
r
f
o
r
r
n
a
n
c
et
e
s
ti
nN
o
r
r
n
a
lP
r
e
s
s
u
r
e
写真 2 常圧水中テスト装置の外観
Photo2 E
q
u
i
p
r
n
e
n
t
sf
o
rSubmergedN
o
r
r
n
a
lP
r
e
s
s
u
r
et
e
s
t
能及び漏れ量が安定し,またシール抵抗も極めて
5
0
0
k
g
小さく安定したものである。超高圧容器は 1
/
c
n
fもの高い内圧に耐えるよう製作されている。
ポンフ。の吸入圧力は大気圧で、あり,耐圧配管で
図 5に示した試験装置を用いて常温常圧水中性
能試験を行い,表 2のような結果が得られた。図
超高圧容器内のポンプに接続している。海水ポン
8に吐出圧力と,吐出流量及びポンプ効率の関係
プは直接超高圧容器内へ吐出し,ポンプ本体から
の吐出圧で容器内を昇圧し,ポンプ吐出圧力と雰
を示す。
0
0
k
g
/
c
n
f
以下で、効率が低いのは,均圧油
圧力 3
322
囲気圧力とを等しくしている。
5
.
3 常温水中性能試験
JAMSTEC R 2
3(
1
9
9
0
)
高圧フレキシブルホース(吐出〉
高圧フレキシプルホース(吸入)
a下抵厳装置
高
平
l!
i
一﹁
庁二て二日
「--)
I
Q
:
;しヒ
面耐水圧レセプタクル
ーも吸入配管及び継手合物
用アイプタ 1
耐水圧レセプタクル
械プラ久性とご
l
jJr
槽
一
氷
一
一験一
タ:一台
シ直一柴
・i-
Tlui
本+ー
〈笑殺t
l
f
I
N
V
)
記事
一一一般配管〈吸入)
〈吐出〉
AC400V
50Hz3O
自
_.一一一ユニット内配管
ー
ポリ容器
‘
=
=
-i
l
h
iWケープル
一一動力電線
落下物受南フラット
図 6 高圧下性能試験装置
y
s
t
e
mf
o
rS
u
b
m
e
r
g
e
dP
e
r
f
o
r
m
a
n
c
et
e
s
t
F
i
g
.6 S
冷却水
熱交換器
ーーーーーー
ーーーーー
・・・・.
タンク
負圧計 (1
絞り弁
インパータ
トルク計
,.",コントロー lレパ Iレプ
.~レ圧力計
F
モータ(15
Kw)
超高圧シール部
ずトルクレリーサ
¥てトルク検出器
、ミ '¥.1
ヘ
t
i ¥
回転計
│制御盤
c
二
コ
l
仁二コ
リリーフパルプ
海水ポンプ
回転数検出器
.
図 7 高圧水中テスト装置構造図
F
i
g
.7 E
q
u
i
p
m
e
n
t
sf
o
rS
u
b
m
e
r
g
e
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P
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r
f
o
r
m
a
n
c
et
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s
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nH
i
g
hP
r
e
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s
u
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JAMSTEC R 2
3(
1
9
9
0
)
323
写真 3 高圧水中テストスタンドの外観
Photo3 T
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n
df
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rubmergedHi
g
hP
r
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s
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表 2 常温常圧水中性能試験結果
T
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b
l
e2 SubmermanceT
e
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s
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u
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吐出圧力
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-O
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-O
.3
-O
. 3
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.
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7
. 53
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.0
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.1
2
. 46
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. 74
65
.8
2254
2
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7
.0
8
.0
87
.5
4
. 58
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. 02
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3
. 81
6
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.0
78
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7. 00
8
..82
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7・9
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4
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6
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7.50
9
. 44
79
.5
表 3 常温高圧水中性能試験結果
T
a
b
l
e3 SubmergedP
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a
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c
eT
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QQz 〈
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力
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L~'
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2
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. 80
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. 75
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. 5
2
. 59
4
. 35
59
. 5
-O
. 3
2336
2
. 88
7
. 15
8
. 34
86
. 7
4
. 69
6
. 90
68
. 0
。
ー
687
7 52
816
-O
. 3
2314
4
. 19
6
. 30
8
. 26
76
. 3
7
. 08
9
. 95
71
. 2
-3
. 0
2307
4
. 37
6
. 16
8
. 23
74. 7
7
. 56
1O
. 35
73
. 0
-O
. 3
2301
4
. 57
6
. 05
8
. 21
73. 7
8
. 07
1O
. 80
74. 7
,
※ ポ ン プ 雰 囲 気 庄 と ポ ン プ 吐 出 圧 を 等 し く し て テ ス ト を 行 った。
の撹搾抵抗の影響が大きく作用するためと考えら
ノレからの漏れ量が若干増えるためである。
れる。高圧になるにしたがって流量が減るのは水
また図 6に示した試験装置を用いて常温高圧水
が圧縮されて 1吐出行程あたりの吐出体積が小さ
中性能試験を行い,表 3のような結果が得られた。
くなることと,シリンダ ・プランジャ間の隙間シー
図 9に吐出圧力と,吐出流量及びポンプ効率の関
324
JAMSTEC R2
3(
1
9
9
0
)
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ポンプ効率 η
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吐出流量 Q。
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吐出圧力 P0 (Kgf/
cn
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図 8 常圧水中性能テストにおける吐出圧力と吐出流量及びポンプ効率の関係
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400
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600
700
800
雰囲気圧力 P0 (Kgi/
cnO
図 9 高圧水中性能テストにおける吐出圧力と吐出流量及びポンプ効率の関係
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i
g
.9 O
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tVolume,O
u
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nSubmerged
HighP
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JAMSTEC R 23 (1990)
32ラ
0にそ の運転時間
ングトルクの変化を調べた。図 1
係を示す。
推移図を示す。起動時トノレクは安定時より約 3%
全体的な傾向は常圧水中性能試験と同じである
が,ポンフ。効率が常圧水中の場合より低いのは,雰
高いだ けで,しかも 2分後には安定する。このこ
囲気圧力により,均圧油の粘性が高くなり,撹狩抵
とから,常圧下では冷水による影響は少ないもの
抗と滑り抵抗が増加したためと考えられる。
と考えられる。
5
.
4 低温水中起動試験
また次に高圧低温状況での性能を調べるために,
深海の状況の 1つである低温状況での性能を調
図?に示した試験装置に冷水を用いて,ポンプを
べるために,まず常圧下で図 5に示した試験装置
運転し,そのランニングトルクの変化を調べた。
に冷水を満たしてポ ンプを運転して,その ラ ンニ
図1
1にその運転時間推移図を示す。起動時トルク
4.
0
M凶
﹀
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吐出圧力
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0 常圧冷水中起動テストにおけるランニングトルクの時間推移図
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※ポンプ雰囲気圧と吐出E
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運転時間
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0
2
5
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図 1
1 高圧冷水中起動テストにおけるランニングトノレクの時間推移図
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326
JAMSTEC R 2
3(
1
9
9
0)
は安定時より約 1
0%高い。しかも安定するまで2
0
るものではなく,中正浮量の微調整時や着底時,あ
分必要とする。これは冷水高圧下では均圧油の粘
るいは試料採取時等に適宜用いるものであり,
性がかなり高くなっているためで,撹枠抵抗や,滑
「しんかい 2
0
0
0
Jの運用実績から海水ポンプの使
り抵抗損失が非常に大きくなり,トルクが増大す
用状況を調べると, 1回の潜航あたり累積で約 1
る。時間と共にトルクも減少するのは,ポンプが
時間程度の運転である。また毎年必ず年次点検整
温まって油の粘性が下がったためと考えられる。
備を行うので,あまり長時間の耐久性は要求され
ない。そこで「しんかい 2
0
0
0
Jの運用実績を鑑み
5
.
52
0
0
時間耐久試験
2
0
0
時間の耐久試験を行うこととした。そして
て
,
この試験を,常圧下と高圧下で、行った。
潜水調査船は,パラストである積層鉄板の投棄
だけでかなりの精度で中正浮量を得ることができ
常圧下耐久試験における吐出流量及びランニン
る。従って本海水ポンプは潜航中常に運転してい
グトルクの運転時間推移を図 1
2に示す。この試験
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吐血圧力
吸
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0時間耐久テストにおける吐出流量とランニングトルクの時間推移図
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0時間耐久テストにおける吐出流量とランニングトルクの時間推移図
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e
図
JAMSTEC R 23 (1990)
327
では,吐出量,ランニングトルク値にはほとんど変
化が見られなかった。
また高圧下耐久試験における吐出流量及びラン
ニングトルクの運転時間推移を図 1
3に示す。この
試験では,吐出流量の変化はほとんど見られなかっ
た。ただトノレクが開始約3
0
時間までゆるやかに低
下しているが,これは運転に伴うシールのなじみ
によるものと考えられる。
6 まとめ
6
5
0
0
m潜水調査船「しんかい6
5
0
0
J用のアキシャ
ルプランジャ式超高圧海水ポンプの開発として基
礎調査,ポンプの設計を行い,下記の項目の事 柄に
ついて知ることができた。
(
1) シリンダの材質,焼き俵め法, 高精度加工法
(
2
)プランジャのコーティング材質,コーティング
法,高精度加工法
(
3
) シリンダ,プランジャ閣の適切な隙間
(
4
) コンロッド部の均圧シール
(
5
) チェックバルブの材質
(
6
)チェックバルブ及びバルブシート面の形状
(
7
)バルブスプリングの適切なパネカ
これらの知見に基づき,海水ポンプを製作し,常
圧,高圧それぞれの水中性能試験,冷水中起動試験,
水中耐久試験を行い,ランニングトルク,吐出量,
ポンプ効率等を計測して目標性能を満足すること
を確認した。
このように,本海水ポンプは目標性能を満足す
るとともに必要な耐久性を示すことが確認された。
また目的とした耐摩耗性,耐食性に優れ,小型軽量,
低起動トルクにして高吐出圧が得られる高性能な
アキシャルプランジャ式海水ポンプの製作技術を
確立することに成功した。
5
0
0
J に 搭 載 後,試験潜
本ポンプは「しんかい 6
航で毎回使用されたが, 1回のトラブルもなく,そ
の性能をいかんなく発揮することができた。
(原稿受理: 1
9
8
9
年1
2月6日
〉
328
JAMSTEC R2
3(
1
9
9
0
)
Fly UP