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Part.2学生の主体的な学修の支援 - Kei-Net

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Part.2学生の主体的な学修の支援 - Kei-Net
Part.
2
学生の主体的な学修の支援
近年、日本の大学生の学修時間が少ないことが課題と
されており、学生の主体的な学修を促す教育への転換
が、大きなテーマとなっている。問題解決型の授業を設
定したり、また講義型の授業でも発表やグループディス
CO NT ENT S
◆キーワード…………………………………… P.20
◆大学選びのポイント………………………… P.23
◆大学の取り組み
カッションを積極的に取り入れたりするなど、授業の改
会津大学……………………………………… P.24
善が試みられている。しかし、学生の主体的な学修を促
長崎大学……………………………………… P.26
すためには、授業を変えるだけでなく、施設の整備やサ
ポート体制の充実も必要となる。ここではそうした面に
も注目して、学生の主体的な学修を支援する取り組みを
紹介する。
共愛学園前橋国際大学……………………… P.28
慶應義塾大学医学部………………………… P.30
大阪樟蔭女子大学…………………………… P.32
九州工業大学………………………………… P.34
キ ー ワ ード
アクティブ・ラーニング
教員による一方通行の講義形式ではなく、学生が積極
ている。学生が授業に積極的に参加し、問題意識を高め
的に参加するスタイルの授業・学修方法の総称。グルー
ることで、授業時間以外でも主体的に学ぼうとする意欲
プディスカッション、ディベート、グループワーク、フ
を喚起することが期待されている。
ィールドワーク、PBLなど、さまざまな方法が導入され
▼アクティブ・ラーニングの具体例
英語を通してNPOやボランティア活動
の意義や役割、リスクマネジメントを実践的に学ぶ「英語で
換教育を行うことを早くから(2002年度∼)実施し、成果
地域貢献」
、小学校・幼稚園・保育所などにおける児童育成
を挙げている。また、学生の自主的学び(調査・発表・討議)
の実態を体験を通して学ぶ「教育現場体験」
、基礎的な考古
を促すように、ゼミ形式の授業の多様化(早期化)
、重点化
学用語の理解と整理作業の技術を修得し、地域貢献を通して
を意識している。
考古学研究の意味について理解を深める「考古学基礎」など、
滋賀県立大学環境科学部
本学部独自の講義科目として
必修科目「環境フィールドワークⅠ、Ⅱ」を開設している。
20
昭和女子大学
1年次に基礎ゼミを行い、転
岩手大学人文社会科学部
学生が主体的に取り組む授業を豊富に設けている。
愛知大学経営学部
論理的な思考力や専門的なコミュニ
1年生を対象とする「Ⅰ」は、実際に地域環境問題が生起す
ケーション能力の習得を目的に、討論を通じて学ぶ少人数ゼ
る現場に出向いて問題にふれ、数値データに記録する方法を
ミナールを1年次から導入。
「ディベート大会」の実施・運
学ぶ。
「Ⅱ」では、学生をグループに分け、現実の環境問題
営により、学生の主体性と実行力を高める。また、企業で就
を対象に、自然調査や社会調査の基本的手法を学ぶとともに、
業を体験するインターンシップを単位化し、実社会にある問
プレゼンテーション、レポートの各スキルを身につける。
題の発見・解決能力および提案力を磨く。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
PBL
ProblemあるいはProject Based Learningの略で「問
ていく授業である。学生たちは、与えられた課題の中か
題解決型学習」と訳される。5 ∼ 10名程度の学生グルー
ら問題点を見つけ出し、それを解決するために必要な知
プを編成し、与えられた課題に対して、教員の助言のも
識を得ようとする中で、主体的、能動的な学びの姿勢を
と、議論・検討を重ねて、学生たち自身で解決策を考え
身につけていく。
▼PBLの具体例
筑波大学医学類
工学院大学グローバルエンジニアリング学部
基礎、臨床ともにPBLチュートリアル
エンジニ
アリング能力の取得のために、PBLを主体とするプログラム
教育を実施している。コースごとに、教員から提示されたシ
を実施している。企業と連携して実際の課題を通じて学び、
ナリオに基づいて問題を抽出し、調べて、最後にまとめのプ
コミュニケーション能力、創造力、マネジメント能力など、
レゼンテーションを行う。原則として2週間のコースであり、
卒業後もすぐに使える能力を養成している。
講義→グループ学習→発表会の流れで実施する。
岩手県立大学ソフトウェア情報学部
1∼3年生各学年
摂南大学
2010年度から「PBL型学生プロジェクト科
目」を開講。実践的な社会活動プロジェクトを通して得た成
2名ずつの6名でチームを組み、学年ごとに目標を設定し、
果や問題意識を、教育の場に持ち込み、課題を発見し、解決
学生主体でテーマの企画・構想・プレゼンを行う「プロジェ
策を社会に提案・実践・還元することで、主体的に行動する
クト演習」を実施している。最後の合同発表会では、全チー
力を養成することを目的にしている。
ムがポスター発表を行い相互に投票し、表彰する。
ラーニング・コモンズ
学生の自学自習用の施設のこと。グループディスカッ
図書館の一部にラーニング・コモンズを設置する大学
ションや、学生同士の教え合いなど、さまざまな方法で
が多く、「学習用図書館」と訳されることもある。一方
学修できるようになっている。移動可能な机と椅子が用
で、66ページからの兵庫教育大学のように、図書館以外
意され、人数や目的に合ったレイアウトで学修できるほ
にラーニング・コモンズ専用の施設を設置する大学も見
か、ICT環境も整えられていることが多い。また、ラー
られる。
ニング・コモンズ内に学修支援のコーナーを設置する大
いる。
学もある。
▼ラーニング・コモンズの具体例
北海道大学
なお、図書館については24時間開放する大学も増えて
図書館に「オープンエリア」があり、利用
愛媛大学
「愛大ミューズ」内に、少人数グループ学習
に適した「リラクゼーションラウンジ」
「ブックラウンジ」
、
者が机や椅子を自由に組み合わせて多目的に学修できる。プ
一人で静かに過ごせる「スカイラウンジ」など、趣向の異な
ロジェクターやホワイトボード、パソコンなどを使って、グ
る5つのラウンジを整備。授業時間外の自主学修、学生と教
ループでディスカッションしながら学んでいる。
職員のコミュニケーションの場などとして活用されている。
山形大学
図書館内に「サポートプラザ」を設置し、学
京都産業大学
ラーニング・コモンズとして、図書館に
生主体の学修環境(移動可能な机・椅子、ホワイトボードなど)
グループ学習室を設置。活発なディスカッションの場になっ
を提供している。プラザには、学修についての相談に応じる
ている。また、PC56台を配備したパソコン室、プレゼン装
大学院生も配置している。
置を備えた視聴覚室も、学生の自学自習に利用できる。休憩
大阪大学
図書館に、
図書や雑誌、
電子ジャーナルやデー
タベースを自由に利用できるネットワーク環境が整ったラー
室はコーヒーなどを飲みながら、学修・議論できる場になっ
ている。
ニング・コモンズを設置している。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
21
学修支援センター
授業内容やレポートの書き方、授業外学修の進め方な
や大学院生を起用する大学も増えている。いずれの場合
ど、学修に関するさまざまな支援を行う施設。大学によ
も、開室時間を設定して担当者が常駐し、質問に応じて
って、教員が担当する場合と、学部生や大学院生が担当
いる大学が多い。
する場合がある。教員よりも気軽に相談しやすい学部生
▼学修支援センターの具体例
江戸川大学
「学習支援室」を設置し、担当教員が交代
学 生 に よ る 学 生 の た め の 学 習 支 援SLA
で待機しており、いつでも学生が相談できるようにしている。
(Student Learning Adviser)事業を推進。SLAサポート室教
授業の欠席などが続く学生に対する補習も行っている。また、
職員が中心となって、主に学部3年生∼大学院生の学生が集
学生リーダー制度を設け、選抜された優秀な学生による履修
まり、学部1・2年生の学習サポートを行っている。
「とも
相談コーナーを、毎学期開始当初の2週間設けて、時間割作
と学ぼう、ともに育とう、『ともそだち』」をキーフレーズに
成などの相談に応じている。
東北大学
している。
東京理科大学
岡山大学理学部
授業で理解が十分でない点などを大学
教育開発センターに「学習相談室」を設
置。開室時間に専門のスタッフ(学部2年生以上から選抜さ
院生に個別に相談できる「アカデミック・アドバイザーアシ
れた学生)が常駐しており、大学での学修の基礎となる数学、
スタント(AAA)」制度を導入し、学習上の問題を早い段階
物理、化学の学修方法に関するアドバイスや、授業で生じた
で解消できるようにしている。
疑問などに対応している。
アカデミック・アドバイザー
学生の成績(GPA)や履修状況等を考慮しながら、
学時から卒業時まで継続的に指導する体制とすることで
教員が履修相談や学生指導を行う制度のこと。それぞれ
学生の修学指導に責任を持ち、また、きめ細やかな支援
の学生についてアカデミック・アドバイザーを決め、入
を行っている。
▼アカデミック・アドバイザーの具体例
国際基督教大学
専任教員(准教授以上)が、アドバイ
2012年度から、教員によるチューター制度
ザーとして、学生一人ひとりについている。アドバイザーは、
を導入し、学生に対する定期的な面談の実施による学修支援
学生が授業以外の時間に自由に質問・相談ができるように、
を行うとともに、メンタル情報を把握することで、その後の
原則として1週間に最低2時間をオフィスアワーの時間に設
指導に生かしている。同時に学生相談センターを開設し、
コー
定し、授業内容や専修分野についてのきめ細かな助言を行っ
ディネーターを採用するとともに、4学部のキャンパスにカ
ている。
信州大学
ウンセラーを配置している。
岐阜薬科大学
洗足学園音楽大学
学年初めに学生をグループ
(10 ∼ 15人)
アカデミック・アドバイザー(教員)
が学生一人ひとりの学力・適性に応じた履修指導を行ってい
に分けて、教員がそれぞれのグループの担任およびアドバイ
る。全学生の成績・修得単位を精査し、
成績不振者に関しては、
ザーとなり、学修・経済・精神衛生上の悩みや不安、さらに
教職員による個別面談等、定期的な助言・指導を行っている。
将来の進路について相談にのり、助言や指導を行っている。
(各大学の具体例は、2012 年度・2013 年度の「ひらく 日本の大学」調査への回答に基づく)
22
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
大学 選びのポイント
学生の主体的な学修が注目される背景
2012年8月、中央教育審議会から
備・授業受講・事後展開を通して主
学生の学修時間の不足は、日本の
「新たな未来を築くための大学教育
体的な学修に要する総学修時間の確
大学教育の大きな課題とされている。
の質的転換に向けて∼生涯学び続
保が不可欠」とし、大学教員には
東京大学 大学経営・政策研究セン
け、主体的に考える力を育成する大
「教員と学生あるいは学生同士のコ
ターの調査によると、日本の学生
学へ∼」という答申が出された。こ
ミュニケーションを取り入れた授業
の1日の学修時間は平均4.6時間と、
の答申では、学生が主体的な学修の
方法の工夫、十分な授業の準備、学
授業外にはほとんど学修していない
体験を重ねることで、生涯学び続け
生の学修へのきめ細かい支援などが
という実態が浮き彫りになった。そ
る力を修得できるような教育に転換
求められる」としている。つまり、
こで、まずは学生の授業外学修時間
することが重要と指摘。その大前提
学生に主体的な学びを促す教育への
に注目した教育改善が、多くの大学
として、学生については「事前準
転換が求められているのである。
で進められている。
主体的な学びを促す授業方法が工夫されているか
学生に自学自習を促すため、シラ
シラバスに『準備学習の内容(事
することが不可欠である。そこで、
バスを工夫する大学が増えている。
前・事後学習)』を具体的に明示す
アクティブ・ラーニングの導入が多
例えば、シラバスに授業に関する準
ることにより、十分な学修時間の確
くの大学で試みられている。問題解
備学修内容や、授業に関する標準的
保による学修成果の充実と、単位の
決型学習、実験や実習、フィールド
な学修時間(予習・復習)の目安を
実質化を図っている」(九州産業大
ワークなどの授業科目をどれだけ設
提示する大学が増えている。
学 )などの例がある。
定しているか、また各学年で継続的
具体的には、
「ウェブ版シラバス
しかし、シラバスでこうした指針
に、学生の自学自習に役立つ情報
を示して、学生に「学修時間を増や
また、講義科目においても、発表や
(予習・復習のポイント、参考資料
そう」と掛け声をかけるだけでは、
グループワークなどを積極的に取り
など)を掲載している」
(滋賀県立
学生の学修を促すことは難しい。学
入れているかどうかが、重要なポイ
、
「学生が自主的な学びを行
大学 )
生自らが主体的に学ぼうとする意欲
ントである。
うための指針として、全授業科目の
を喚起するように、授業方法を改善
に受講できるようになっているか。
主体的な学びに活用できる環境が整備されているか
さらに、主体的な学びに向かう学
ども効果的に行うことができる。ま
工業大学のように、学生が提案する
生を支援する環境の整備も重要にな
た、アカデミック・アドバイザー、
プロジェクトに資金援助や教員によ
る。例えば、ラーニング・コモンズ
学修支援センターなどが充実してい
るアドバイスをするような仕組みが
が設置されていれば、学生がグルー
れば、主体的な学びの中で、疑問点
あれば、学生たちも個人では難しい
プ学修をしたいと思ったときに利用
などが生じたときに、すぐに相談で
テーマを追究することができる。こ
することができ、問題解決型学習な
きる。さらに、34ページからの九州
うした点にも注目すると良いだろう。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
23
会津大学
「ベンチャー体験工房」での経験を中心に
自発的にビジネスプラン創出に挑戦する学生を育成
会津大学は1993年に開学したコンピュータ理工学の専門の大学であり、24時間使用可能なコンピュ
ータ環境、約4割を占める外国人教員、英語の卒業論文提出など、特色ある教育システムを構築してい
る。2007年度からは授業科目として「会津IT日新館」を開設。地域社会や企業のニーズに応える多
様なテーマに取り組んでおり、イノベーションに挑戦する精神と技術力を高めている。
産学連携で実践的なビジネス知識を修得する
「ベンチャー基本コース」
外部講師の体験に根ざした講義は、学生にとって大い
に刺激になる。学生の授業評価アンケートを見ると「ベ
ンチャー企業の社長の話を聞いて、大企業に就職するだ
会津大学は、開学当初から、公立大学の使命として、
地域に新しい産業を興し、地域社会の活性化につなげる
けが理想の道ではないと、人生観、価値観が変わった」
「企業に就職しても、与えられた仕事をこなすだけでな
ことを理念に掲げて教育・研究を推進してきた。
く、社会の課題を解決しようといった意識を持ち続けた
その理念を具現化するために、2007年度にスタートし
いと思うようになった」といった声が寄せられている。
たのが、講義型の「ベンチャー基本コース」と演習型の
「ベンチャー体験工房」の二つの授業体系から成る「会
津IT日新館」である。地域ニーズに対応したITベンチ
実際に使える商品開発をめざす
「ベンチャー体験工房」
ャー起業家精神育成のための工房型教育として、2007年
度の文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラ
一方、実践的なスキルを身につける場が「ベンチャー
ム」
(現代GP)にも採択されている。
体験工房」である。こちらも2∼4年次の選択科目で、
会津の藩校「日新館」に由来する名称にしたのは、会
希望すれば複数年受講可能である。例年、約100名の学
津藩の「文武両道」の教育が、現代のベンチャー精神に
生が受講している。2013年度は<図表>の10プロジェク
も結びつくという思いが込められている。
「文」は幅広
トが設けられ、それぞれ10名前後の学生が週に1回集ま
い知識、「武」は実践的なスキルであり、その両面を鍛
り、テーマに即して自分たちで課題を見つけ、問題解決
えるプログラムを構築している。
策を考えていく。講義には、会津大学の教員のほか、大
学生はまず、2∼4年次の前・後期に開講される選択
科目「ベンチャー基本コース」の講義を通じて、幅広い
知識を修得する。講義の大半を外部講師が担当している。
講師はIT企業だけでなく多様な業種・職種から招聘さ
れており、さまざまな分野の実践的なビジネス知識を学
ぶことができる。
また、会津大学の周辺にはITベンチャー企業が多く、
卒業生をはじめ、会津大学の関係者が起業した大学発ベ
ンチャーも約25社ある。それらの企業の社長なども、講
師を務めている。
24
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
<図表>ベンチャー体験工房2013年度テーマ一覧
工房No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
テーマ
ネットワーク技術で安全・安心・便利な生活環境の実現
プログラマブル・センサネットワークの構築
スマートグリッド、セキュアクラウドを実現する情報基盤
ツイッターリアン認識のためのスマートフォンアプリ開発
※開講なし
ソフトウェアの開発プロセスを学ぶ
クロスプラットフォームGUIアプリケーション開発
福島インターネットメディアラボ
生体信号の計測装置と処理アルゴリズムの開発
アイデア創出、地域貢献プロジェクト
ビジネスアナリティクス
Part.2 学生の主体的な学修の支援
学発ベンチャーも協力しており、学生は現場の技術者か
「課外プロジェクト」という選択科目は、2013年度は
ら直接指導を受けることができる。
260名の学生が履修した。こちらは1年次から参加でき
学生に大きな影響を与えるのが、実体験である。モノ
るため、特別な知識・技能がなくてもプロジェクトに取
づくりの現場では、作ったものが理論通りに作動しない
り組めるようなテーマを設定している。2013年度のテー
ことがよくある。失敗し、挫折を繰り返す中で、臨機応
マを見ると、「政策ディベート入門」「電子工作プロジェ
変に工夫を重ねる経験が大きな財産になるのだ。
クト」
「競技用ロボットの開発」
「実践的プログラミング」
「ベンチャー体験工房」ではアイデアを出すだけでな
「暗号に親しむ」など、「ベンチャー体験工房」と比較す
く、実際に使える商品の開発を目標としている。特に地
ると、やや入門的な内容になっている。実際に、1年次
域社会の活性化につながる商品開発を重視しており、す
に「課題プロジェクト」で、基本的な問題解決の方法
でに成果もあがっている。
を身につけた上で、2年次以降、「ベンチャー体験工房」
例えば、「ベンチャー体験工房」の学生と西会津町、
で本格的に取り組む学生が多いそうだ。
および地元のレストラン、パン屋が協力して生まれたの
そして、こうした授業での活動をきっかけとして、外
が、
「ベジメルバーガー」だ。地産地消を意識して、西
部のコンテストなどに参加する学生も多い。
会津産の米粉とミネラル野菜(レタス、トマト、タマネ
例えば、ACM国際大学対抗プログラミングコンテス
ギ)を使用。高齢者の多い地域性を考慮して、肉の代わ
ト(国際計算機学会が、世界中の学生のコンピュータの
りに西会津特産の車麸を用いたところに特色がある。さ
知識と技術レベルの向上をめざして開催している世界大
らに、学生たちは販売促進用ツールとして、野菜をキャ
会)もその1つだ。過去3回、会津大学がアジア地区予
ラクターにしたアニメの制作や、QRコードを使ったモ
選の会場となったこともあって、例年出場し、好成績を
バイルサイトも立ち上げた。地元の道の駅で販売されて
収めている。特に2009年度は、スウェーデン王立工科大
いるが、すぐに完売するほどの人気商品になっていると
学で開催された世界大会に出場し、初出場ながら100チ
いう。一見、学んでいる専門分野とは関係ない食品を扱
ーム中49位と健闘した。
っているようだが、販売促進にITを活用している点が、
また、会津若松市では、2004年度から、地域の大学や
会津大学の学生らしい取り組みである。
企業が開発した新しい技術、ITを用いたビジネスモデ
また、福島県中小企業家同友会会津地区の「あいづ農
ルの中から、特に優秀なものを「会津産IT技術」とし
商工観学フェア実行委員会」では、地元企業が活用でき
て認定している。会津大学の学生も例年応募しており、
るビジネスアイデアを学生から募る「こんなビジネスあ
これまでに、
「カム機構をベクトル解析するシステム」
ったらいいな企画コンペ」を開催しており、
「ベンチャ
「『服LIVE』の開発(今いる地域でどんな服を何枚着れ
ー体験工房」の学生たちも数多く参加している。例え
ば快適かがわかりやすく表示されるスマートフォンのア
ば、「赤べこ印のてのひら観光ガイドBOOK」という会
プリケーション)」などが認定されている。
津地方に伝わる玩具である「赤べこ」が会津弁で観光案
さらに、2011年度には「起業部」というサークルも発
内をする、スマートフォンのアプリケーションを提案し
足した。将来、起業も選択肢になるように勉強会を開催
た。これは地元のITベンチャー企業が大変興味を持ち、
しているほか、慶應義塾大学とアメリカ大使館が共同開
連携して実用化を検討している。
催しているビジネスプランコンテストにも出場し、入賞
を果たしている。2013年度には、地方でイノベーション
起業サークルも発足し
ビジネスプランコンテストにも積極的に参加
を起こす意義を討論する「ローカルプレナーカンファレ
ンス」などのイベントも開催している。
このように、会津大学では授業だけでなく、自主的な
そのほかにも、会津大学はPBL形式
に実施している。
(注)
の授業を活発
活動においても、社会との接点を意識することによって、
学生の主体的な学びの意欲を高めている。
(注)PBL…ProblemあるいはProject Based Learningの略で「問題解決型学習」と訳される。5 ∼ 10名の学生グループを編成し、与えられた課題に対して、
教員の助言のもと、議論・検討を重ねて、学生たち自身で解決策を考えていく授業形式である。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
25
長崎大学
教養教育の改革の中で
学生の自学自習をより重視する英語教育に転換
長崎大学は、2012年度に教養教育を大幅に転換し、英語教育においても学生の主体的な学びをより
一層重視するようになった。外部テストも活用して到達目標を定め、それをめざして自学自習できるよ
うなe-learning 教材を活用したシステムを構築するなど、学生の学びを支援している。
英語関連の教員をほぼ倍増し
質の高い授業環境を実現
ミュニケーション」の授業では、1年次のすべてのクラ
スと、2年次のほとんどのクラスをネイティブ教員が担
当。ディスカッションやプレゼンテーションを取り入れ、
長崎大学は、国際社会で活躍できるリーダーの育成を
目標に掲げ、2012年度に抜本的な教養教育改革を行った。
英語によるコミュニケーションを充実させている。
「総合英語」においては、習熟度別クラスも導入した。
改革は、
「教養教育の履修単位の大幅な増加」
「教養教育
7月に実施する国際英検(G-TELP)のスコアによって
のモジュール方式の採用」
「英語教育の充実」を改革の
1年次の後期のクラス(2学部)が決まり、さらに1月
3本柱とし、同時にアクティブ・ラーニングを積極的に
の国際英検で2年次のクラス(5学部)が決まる仕組み
導入した。
である。こうしたきめ細かなクラス編成を可能にするた
現在の大学教育の大きな使命の一つに、グローバル人
め、2012年度から英語教育関係の教員をほぼ倍増させ、
材の育成がある。そこで求められる能力は英語力だけで
特に専任教員を大幅に増員した。その上で、言語教育研
はないが、英語の運用能力が高まれば活躍の可能性は大
究センターが全学的な英語教育方針を打ち出し、非常勤
きく広がる。そこで、教養教育改革をきっかけに、言語
教員まで含めてその方針を周知徹底することで、質の高
教育研究センターを新たに設置し、英語力を大幅に伸ば
い授業を展開している。
すさまざまな取り組みを始めることにしたのだ。
改革のポイントは、学生の主体的な英語学修を支援す
ることにあった。そのため、まずは学部ごとに卒業時に
オンラインコールシステムを導入し
授業外での自学自習をサポート
身につけておくべき英語力の到達目標を定め、そこに向
かって学生が努力していけるようさまざまな仕組みを用
意した。
教育効果は、一般に「教育の効率」「学修時間」
「学生
のやる気」によって決まるといわれている。英語力を伸
英語教育改革のポイントは、学生の主体的な英語学
ばすには、授業の質を高めるのと同時に、学生の授業時
修を支援することにあった。そのため、まずは学部ごと
間外の学修を促す必要がある。そこで、自学自習システ
に卒業時に身につけておくべき英語力の到達目標を定め、
ム「オンラインコールシステム」をさらに充実させ、学
そこに向かって学生が努力していけるようさまざまな仕
内のCALL教室だけでなく、自宅のパソコンからも、い
組みを用意した<図表>。
つでもe-learning 教材を学習できるようにした。
英語教育のカリキュラムは、全ての学生がネイティブ
導 入 し た 教 材 は、 千 葉 大 学 が 開 発 し た「 3-Step
教員の授業を受講できるように改めた。同大学の英語の
CALLシ ス テ ム 」 と、 民 間 で 開 発 さ れ た「ALC Net
中心的な科目は、1・2年次を通じて開講される「英語
Academy」などである。前者は主にリスニング教材と
コミュニケーション」と「総合英語」である。
「英語コ
して、後者は学士課程教育を受けるのに必要な語彙を獲
26
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
得するための教材として活用している。そして、
「総合
<図表>長崎大学 英語教育の全体像
英語」の全てのクラスでe-learning 教材を使った課題を
出し、その結果を成績の20%として組み込むことにした。
学生には、これらの教材を使って一定時間勉強する
という課題を出している。教材は学生の習熟度に応じて、
毎日勉強しないと達成できない程度のものを指定してい
るため、自然と学修習慣が身につくようになる。ここで
重要なことは、英語教育は入学直後の1年次前期から取
り組まれることである。英語の課題を通じて学修習慣を
身につけることで、その後の教養教育科目、専門科目に
おいても学生の主体的な学修を促すことができるためで
ある。
また、どの学生がどのレベルの教材で何時間勉強した
かがクラス単位で把握できるようになっており、教員は
学生の学修進度に応じて授業や課題の内容を調整するな
ど、指導にも生かすことが可能となっている。あるクラ
スでは、学生一人ひとりの学修時間を棒グラフにして掲
示し、学修時間の少ない学生の発奮材料にしているそう
(「長崎大学 大学案内 2014」より)
だ。
学修時間が大幅に伸び
半年間で確実に英語力が向上
を検討している。
長期留学
国際社会で
通用する
英語運用能力
また英語力の高い学生に対しては、3年次から「アド
アドバンストクラス
卒業時の
英語教育改革が始まって1年ほどしか経過していない
が、早くもその成果が現れ始めている。
その一つが、英語に関する外部検定のスコアの向上で
ある。1年次の7月と1月の国際英検の結果を比べると、
TOEIC目標値達成
バンストクラス」を設置して、さらに高いレベルの英語
能力の伸長
教育を提供していく予定だ。
個々の
の確認
補充すべき
新しい教材も開発中である。医学部のメディカルイン
TOEIC
能力の明示
タビュー用の教材などを独自に開発したり、学生からの
半年間でスコアが大きく伸びていた。今後は、1年次と
習熟度別
TOEIC
クラス編成
要望の多いスマートフォンでも使える教材を開発したり
3年次の4月に受検するTOEICの結果等も比較しなが
するなど、学生の自学自習環境の整備をさらに進めてい
ら、教養教育、英語教育を通じた学生の伸びを、さらに
るところだ。
詳細に分析していく予定だ。
また、学生の学修時間も大幅に伸びている。数学など
の教材に取り組んだ時間も含んでいるものの、2012年度
「オンラインコールシステム」への年間ログイン時間が
全ての学部で伸び、前年の2倍に達する学部もあった。
英語教育は、今後もさらに充実させていく予定である。
国際英検
国際英検
短期留学(夏)
CALLシステム
(コンピュータによる
入学時の
短期留学(春)
英語自学自習システム)
さらに、2014年度には多文化社会学部を新設。大学入
英語運用能力
TOEIC
学内・学外からアクセス可能
試に外部検定のスコアを活用したり、1年間の留学を義
ネイティブによる
携帯でも自学・自習
英語コミュニケーションのクラス
務付けるコースを設置したりするなどの特徴的な教育を
行い、高度な英語運用能力と高度な専門性を身につけた
教養教育における強力な英語教育教員
専門分野での英語教育教員
(外国人教員4名)
グローバル人材を育成していく予定だ。
長崎大学ではこれまで、英語教育を中心として主体的
2013年度からは「英語カフェ」を導入。図書館の一角を
な学修を促す教養教育改革を進めてきたが、新学部の設
使って、週に1回開催するもので、ネイティブ教員と日
置を通じて、さらに大学全体の教育改革を進めていく予
本人教員、希望する学生らが集まり、コーヒーを飲みな
定だ。
がら英語で会話が楽しめる。毎回20∼30人の学生が参加
するなど評判が良いため、現在、開催回数を増やすこと
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
27
共愛学園前橋国際大学
全学的なアクティブ・ラーニングの展開と
学修環境の整備により学生の主体的な学修を促す
共愛学園前橋国際大学は、126年の歴史を有する学園を母体に1999年に開学した大学である。設置学科
は国際社会学部国際社会学科のみだが、英語、国際、情報・経営、心理・人間文化、児童教育の5コー
スを有する。1学年の入学定員が225名という規模を生かし、少人数教育を徹底。授業や課外活動でさま
ざまな課題に取り組むほか、学修環境も整えることで、アクティブ・ラーニング(以下、AL)(注1)を全学
的に推進し、
「ちょっと大変だけれど実力がつく大学」として教育関係者から注目が集まっている。
数々のデータが物語る
アクティブ・ラーニングの効果
授業やゼミで社会と関わる機会を設け
学びの意欲を喚起する
共愛学園前橋国際大学では、開学当初から『授業開
いくつか具体的なALの取り組みを紹介しよう。
発研究会』を設け、学生にとって望ましい授業の在り方
「電子商取引演習」は、1・2年次合同の授業で、2
を模索し続けている。当初は学生の授業アンケートの結
年続きで履修した学生が後輩を指導しながら活動を進め
果も芳しいものではなかったが、大学側はその要因を教
ていくところに特色がある。学生グループが企業を訪ね
員の授業内容のみに求めるのではなく、教育体制そのも
て、一緒に商品開発を進めている。
のを見直すことも重要だとの視点に立って、改善を進め
当初は、仮想で商品開発を行うことが想定されていた
てきた。まず、少人数クラスを徹底させることとし、現
が、近年は実際に製品を開発している。例えば、群馬県
在では1クラス50名以下の授業が85%を占めるようにな
川場村から「雪ほたか米」をアピールする商品開発を依
った。学生一人ひとりの顔が見えるようになったことで、
頼された「繭美蚕(まゆみさん)」という学生グループは、
授業は自然と双方向型になっていき、これをさらに発展
地元の老舗菓子店と協力して、この米を使った「雪ぽん
させて、学生が積極的に授業に参加するALが活発化し
クランチ」という菓子を開発。高崎駅の土産物店などで
ていったのである。
も販売され、人気を博している。
「繭美蚕」は、学生の
現在では、完全な講義形式は全授業の25%程度であ
手で代々受け継がれ、学園の登録商標にもなっている。
り、残りの授業は何らかの形でALが取り入れられてい
ゼミでもユニークな活動が進められている。その1つ
る。その効果はてきめんだった。すなわち、まず授業ア
が、国語教育、美術教育、産学連携の3つの異分野のゼ
ンケートの評価の平均が、それまでの3点台から4.3前
ミが協同で、エフエム群馬の協力も得て完成させた「ぐ
後に上昇(5点満点)
。卒業生へのアンケート調査では、
んま方言かるた」である。国語教育のゼミの学生が読み
「共愛学園前橋国際大学に入学してよかった」との回答
句を考え、美術教育の学生が絵札をデザインし、産学連
が約90%、「入学してから力がついた」との回答が約85
携の学生がマーケティングして販売している。完成した
%にのぼるなど、学生の満足度も高まった。また、社会
直後はほとんどの店舗で門前払いされたそうだが、粘り
人基礎力の自己評価も、学年が上がるにつれて数値が大
強く交渉して、少しずつ置いてもらうことに成功。今で
幅に上昇した。これらのデータによって、教員は成果を
は生産が追いつかないほどのヒット商品になっている。
実感することができ、さらにALを推進しようという気
さまざまな困難を乗り越えて、自分たちの手で成功に導
運が生まれたのである。
くことができたことは、大きな自信と、その後の学びの
意欲向上につながっているという。
(注1)アクティブ・ラーニング…授業者が一方的に学生に知識伝達をする講義スタイルではなく、
課題研究やPBL(Project / Problem based learning)
、
ディ
スカッション、プレゼンテーションなど、学生の能動的な学修を取り込んだ授業の総称。
28
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
2013年度からは、授業外でも主体的な学びを促進する
ために、学生の自主的なグループ活動に上限10万円を支
援する「学生プロジェクト支援」という制度を導入した。
優れた取り組みに対しては「学生プロジェクト室」も提
<図表>KYOAI COMMONSの構成
供される。初年度は、地域活性、学生生活への貢献など
をテーマとする10個のプロジェクトが採択された。
さらに、文部科学省の「グローバル人材育成推進事
業」の採択を受けて「Global Career Training副専攻」
もスタート。地域連携のプロジェクトに参画するGlobal
Project Workや、海外の講師と1対1で英語を学ぶプロ
グラムを含むGlobal Language Intensiveといった科目群
に加え、Global Skills科目群がある。Global Skillsではデ
学びの重層化をめざす
アクティブラーニング
に対応する先端の教
室 群 で、ガラス張り
によるまなざしの重な
りが互いを触発する。
Learning Studio
ラーニングスタジオ
2F
1F
Learning
Commons
ラーニングコモンズ
学 生 の 主 体 的・協
働 的 な アクティブ
ラーニングの場。5つ
のエリアと2つのスタ
ジオからなる。
Communication
Commons
コミュニケーション
コモンズ
学 生・教 職 員・地 域 の 皆
様による豊かなコミュニ
ケーションが育まれる
「広
場」。レストランや学生が
運営するカフェがある。
つながり方に選択肢がある
エリアを越えた連続性
(河合塾編著『「深い学び」につながるアクティブラーニング
−全国大学の学科調査報告とカリキュラム設計の課題−』より)
ィスカッションや、グループで課題解決に取り組むPBL
(Project / Problem based learning)などを中心とした
卒業生のコモンズ・コンシェルジュによる学修支援や学
内容の10科目が開講され、いずれも英語でコミュニケー
生によるITサポートを受けられるスタッフ・カウンタ
ションを図る。どの科目も18時から始まり、地元企業や
ーなどが設置されている。
教育委員会などから、社会人も参加している。その1社、
「Communication Commons」は学生、教職員、地域
サンデン株式会社は世界中に拠点を持つグローバル企業
の住民の集いの場であり、レストランや学生運営カフェ
であり、国際感覚に優れた社会人と一緒に学ぶことは、
が置かれているほか、各種イベントや学生の自主的な活
学生にとって大きな刺激になっている。今後は、社会と
動にも活用されている。「Learning Studio」には、可動
の連携にさらに力を注ぎ、学生の学びの場に広がりを持
式の机・椅子、プロジェクター、AV機器などを備えた、
たせていく計画である。
AL型の授業に適した教室が設置されている。
KYOAI COMMONS内にはあまり壁が設けられてお
ユビキタス環境の整備と
「KYOAI COMMONS」の開設
られず、ゾーン間で連携した学修も可能になっている。
例えばLearning Studio での授業の内容について、授業
後すぐにLearning Commons で議論を深めたり、ICTを
さらに、学生の主体的な学修を促す環境も整備されて
使って調べ物をしたり、という学生の姿も見られるそう
いる。キャンパス全域に無線LANを整備するとともに、
だ。もちろん、前述のようなプロジェクト等にも大いに
全学生・教職員にモバイル端末
活用されている。
(注2)
を配付し、ユビキタ
ス・キャンパスを実現している。履修登録や授業の出欠
KYOAI COMMONSは完成して3年目だが、予想以
確認をネット上で行うといった活用に加え、キャンパス
上に学生が活用しており、
「こんなに学生が勉強してい
内のどこからでもインターネットを利用できるようにし
たのか」と教員が驚くとともに、学びにとって環境が重
たことで、ある科目ではTwitterを用いて授業中や授業
要であることが実感されたという。ただし、施設を整え
後に議論し、そこでの議論を踏まえて次の授業を展開し
ることだけが重要ではなく、KYOAI COMMONSを使
ているなど、学びが教室外にも広がっている。
った授業や企画をできる教職員や学生同士の学び合いが
また、2012年3月にはさらなるALの推進を狙って、
「KYOAI COMMONS」も建設した<図表>。
「Learning Commons」には、ホワイトボードやプロ
ジェクターを備えた、グループで課題に取り組むため
あるからこそ、このような学修が可能となっているのだ。
共愛学園前橋国際大学では、今後も、こうした環境も活
用しながら、ALをさらに効果的に導入していきたいと
考えている。
のグループワークエリアや、最新の高性能PCを揃えた
ICTエリア、個人で課題に取り組めるスタディエリア、
(注2)2010∼2012年度には全学生にiPod touch(Apple社)を、
2013年入学者にはNexus7(Asus社)を配付。教職員にはiPod touchやiPad(Apple社)を配付、
または各自のPCを活用し、ペーパーレス会議が行われている。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
29
慶應義塾大学医学部
問題解決能力を育成し、潜在能力を引き出す
「自主学習」を4年次の必修科目として開講
慶應義塾大学医学部では、「自主学習」という特徴的な科目を開講している。ほぼ1対1で、担当教員
とともに研究の現場に身を置き、最先端の研究に触れる科目だ。刺激的な学びの場として学生からも好
評で、この科目を通して、自主的な研究姿勢が養われている。
化学、生物学から基礎医学、臨床医学まで
多彩な約90テーマを設定
時間に当てられる。
配属先では、担当教員が現在進めている最先端の研究
の中で、学生が取り組むテーマを設定し、研究を進めて
慶應義塾大学医学部では、1989年度に「自主学習」を
いく。当初は、教員に実験の手技などを教わり、指示さ
導入した。課題探究能力、問題解決能力を育成するとと
れた手順通りに研究を進めるが、一定の実験結果が出て
もに、医学研究がいかなるものであるかを学生時代から
くる中で、自分なりに検討し、新たな方法を考える学生
体感することによって、自主的な学びの姿勢や、優れた
も増えてくるそうだ。
潜在能力を引き出すことを目的にしている。
実施されるのは4年次で、進級要件の必修科目になっ
ている。4年次に設定されているのは、生理学、解剖学
全学生によるポスター掲示と発表を実施
学会発表や論文につなげる学生も多い
などの基礎医学科目の履修を終えて、研究に必要な知識
を一通り修得した段階だからだ。4年次から内科学、外
4∼7月の研究を経て、11月には「自主学習成果発表
科学などの臨床医学の講義も始まっており、医師の仕事
会」が開催される。2013年度は、108名の学生全員が8
に直結する学びが増えて、学生の意欲が高まってくる時
グループに分かれ、研究成果をポスターにまとめて掲示
期でもある。そのタイミングで「自主学習」を実施する
し、1人6分の発表を行った。学会のような雰囲気の中
ことによって、より能動的な学修姿勢が培われ、5年次
で発表が続き、白熱した質疑応答が繰り広げられる。
からの臨床実習にも良い影響を与えている。
優秀な研究・発表を行った学生約10名は、学部長表彰
「自主学習」には、1年次に履修する化学、生物学な
学生として選出される。2012年度からは、その選考配点
どの基礎的な科目から、生理学、解剖学などの基礎医学、
基準(ポスター 30点、プレゼンテーション50点、ディ
さらには公衆衛生学、法医学、社会医学、臨床医学まで、
スカッション20点)が明示された。ディスカッションは
多様な分野にわたる約90テーマが設定されている。学生
他の学生の発表への質問および議論のことである。ここ
はその中から興味を持ったテーマを選択する。1テーマ
に20点を配している理由は、他者の研究にも通じること
1教員に対して、配属される学生は2名以内と定められ
で医師として重要な「チームとして学ぶ」ことを身につ
ており、ほとんどがマンツーマンで行われている。配属
けてほしいと考えているためだ。
にあたっては、学生は履修希望票に第1∼第3志望まで
<図表>は2013年度に表彰された研究テーマの一覧で
を記入して提出し、定員を超えた場合には面接などで決
ある。iPS細胞や、抗がん剤の開発など、最新の医療に
定される。
つながるテーマもある。過去のテーマの中には、学会発
実施期間は1学期間(4∼7月の13週)で、木・金曜
表を行ったり、“Nature”等の英文雑誌に掲載されるな
日の2日間は、1時限∼4時限がすべて「自主学習」の
ど、大きな成果につながっているものも少なくない。
30
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
大学院を早期修了できるようにする。進学者には手厚い
<図表>2013年度「自主学習」表彰テーマ一覧
奨学金も支給される。そして、このコースに進んで、
「自
論文名
所属教室・部門
多段階発癌に関与するmicroRNAの探索 内科学(消化器)
B細胞性急性リンパ性白血病において
先端医科学研究所
CD43発現が増殖・抗癌剤感受性に与え
(遺伝子制御研究部門)
る影響の解析
再生医療に適したヒトiPS細胞の開発
生理学
網羅的トランスクリプトーム解析のた
めの転写調節因子(TFCP2L1, HNF4A,
システム医学
WHSC2, HSF1, SMAD4)発現誘導可能
なヒト胚性幹細胞株の作成
mTOR阻害剤Everolimusの糖代謝への影
臨床薬剤学
響:腎癌細胞でのメタボローム解析
健常者の嗅覚刺激に対する自律神経機能
の変化∼ parkinson diseaseの初期症状検 耳鼻咽喉科学
査への応用∼
胎仔皮膚再生とactin cableの形成の関係 形成外科学
SELDI-TOF MSを使用したプロテオーム
解析によるオキサリプラチン感受性予測 臨床薬剤学
バイオマーカーの探索
胃前癌病変における壁細胞脱落とCD44 先端医科学研究所
発現の関係について
(遺伝子制御研究部門)
cyp1a遺伝子を欠如したメダカにおける 衛生学公衆衛生学
AhRシグナルの亢進
主学習」で取り組んだテーマを発展させた研究を進める
ことを希望する学生も出てきているそうだ。
もうひとつ、学生の能動的な姿勢があらわれているの
が、「自主学習」のテーマの設定だ。履修希望票提出の
ために、当初、学生に提示されるテーマは例年約80ほど
だが、最終的には約90テーマに増える。増加する約10テ
ーマは、学生からの要望、提案によって加えられるもの
である。学生の意欲の高さが感じられるところである。
25年の伝統のある「自主学習」だが、より充実した取
り組みとするために検討も続けられている。例えば、現
在は特定の教員に指導を受ける体制になっているが、現
実には医学部内で複数の研究室が共同で進めている研究
は少なくない。また、近年は工学分野の研究室との連携
も進んでいる。こうした他の研究室との共同研究によっ
て、より発展的なテーマの設定を視野に入れている。
受け身の学修姿勢から脱却
夏休みも自主的に研究を続ける学生も
EEPや医療系三学部合同教育など
学びの意欲を高めるプログラムが豊富
慶應義塾大学医学部では、
「自主学習」によって「教
科書を読んで勉強する」立場から、
「教科書に載るよう
そのほか、慶應義塾大学医学部では、学生の学びの意
な発見をする」立場へと、意識の転換が図られることに
欲を高める多様なプログラムが用意されている。
大きな成果を感じている。与えられた内容を習得すれば
そのひとつが、約15年前から全国の医学科に先駆けて
いいという受け身の勉強に慣れてきた学生が、そのまま
実施している「EEP(Early Exposure Program)」と呼
では未知の分野に挑戦する研究現場では通用しないとい
ばれる早期医療現場体験実習だ。1年次の夏休みに学生
うことを知り、自分なりのアイデアで実験し、結果を検
を4∼5名の少人数グループに分けて、老人医療施設、
討し、さらに次の段階に進むためのアイデアを考えよう
重症心身障害児施設、リハビリテーション施設などに派
とする、能動的な学びの姿勢に変わっていくのである。
遣し、スタッフの仕事や、患者のニーズなどを実地に体
そうした自主性が端的にあらわれるのが夏休みだ。
験する。1年次は基礎科目の学修が中心となるが、医療
「自主学習成果発表会」に向けて、より深い内容の発表
現場の実状に触れることによって、改めて医師をめざす
にするために、夏休みも自発的にキャンパスにやってき
モチベーションを高める意義がある。
て、研究を進める学生の姿が数多く見られるという。
また、2011年度からは、看護医療学部、薬学部の学生
近年、医学部では基礎医学の研究者の道を志す学生が
と一緒に受講する「医療系三学部合同教育」
(グループ
減少していることが課題になっているが、
「自主学習」
アプローチによる患者中心の医療実践教育プログラム)
を通して、研究者をめざす学生も多い。
も開講している。医学部の1年次に初期、4年次に中
慶應義塾大学医学部では、2010年度、新たにMD-PhD
期、6年次に後期の3つのプログラムがある。与えられ
コースを設置した。これは、学部・大学院が一体となっ
たテーマ、課題に共同で取り組むグループワーク中心の
て研究者養成をめざすコースで、特に幹細胞医学、腫瘍
授業形式(PBL:Problem Based Learning)で行われる。
医学の研究者養成を視野に入れている。具体的には、学
バックグラウンドや考え方が異なる多職種をめざす学生
部生の頃から研究室のローテーションや大学院の一部の
と交流することは、将来、「チーム医療」の一員として
科目を履修可能にし、それを単位認定することによって
協力する意識を育む貴重な機会になっている。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
31
大阪樟蔭女子大学
きめ細かい支援の下で成功体験を積み重ねることで
学生の主体的な学びの意欲を引き出す
大阪樟蔭女子大学は学芸学部、心理学部、児童学部の3学部8学科からなる大学で、学生は2つのキ
ャンパスで学んでいる。同大では、アドバイザー教員制度を設け、履修上の指導のほか、学生生活全般
にわたる相談にきめ細かく応じている。また、
「セルフアクセス・センター」
「ファッション・インフォ
メーション・センター」など、教育の分野に特化した学修支援センターも充実している。
ジェネリック・スキルの育成をめざした
「サイクルプロジェクト」
割を果たしたのがアドバイザー教員だ。学生の自己評価
を踏まえて、コメントのやりとりや面談を実施すること
によって、自発的な学びにつなげることができたからだ。
大阪樟蔭女子大学では、2007年度から3年間、「現代
アドバイザー教員は、1989年から設けられている制度
GP」に採択された「総合的人間力を育てるサイクルプ
で、学生全員に担当の教員が配置される。1・2年次の
ロジェクト∼ジェネリック・スキルを用いたキャリア教
担当は入学直後のオリエンテーションで決まり、3・4
育開発プログラム」に取り組んだ。
年次は所属するゼミの教員が担当となる。学科によって
この出発点となったのは、学生へのキャリア教育を
多少仕組みは異なるが、学生1人に対して2人のアドバ
充実させたいという思いだ。就職活動の際には、総合的
イザー教員を配し、話しやすい教員のもとに相談に行け
な人間力が要求されるが、大阪樟蔭女子大学はそうした
るようにしている学科もある。学生は、週1回設けられ
力として「気づく力」
「考えぬく力」
「聴き・伝える力」
ている「オフィスアワー」の時間を中心に、履修に関す
「やり遂げる力」の4つを抽出して「ジェネリック・ス
キル」としてまとめた。この4つの力を高め、授業を充
ることや、学生生活面での悩みが生じたときに、いつで
も相談することができる。
実したものにすることによって、学生の自発的な学びを
アドバイザー教員には、担当学生の成績表が配布され
促進するとともに、就職にも役立てられるような教育体
るほか、2007年度から「お気づきシート」というシステ
制の構築をめざすことにしたのである。
ムも導入。これは、ある学生が授業を長期間欠席するな
具体的には、それぞれの授業科目が4つのうち、どの
ど、問題が発生した場合に、その授業の担当教員からア
力を育成する科目であるのかをシラバスに明記。その授
ドバイザー教員に、学生の状況をシートに記入して連絡
業を受講することによって、どのようなことができるよ
するというものだ。
「お気づきシート」を渡された教員
うになるのか、
「標準的到達度指標」も詳細に示された。
は、学生と面談を行うとともに、その結果について、授
さらに、学生に自身のジェネリック・スキルの到達度を
業の担当教員に報告する。このように、教員間の連携を
把握させるために、ウェブで自己評価した上で、アドバ
図ることによって、早めに学生をフォローできる。
イザー教員とコメントをやりとりし、必要に応じて面談
する仕組みも整えた。
また、学科ごとの事務センターでも、履修方法や学
生生活に関するさまざまな相談を受け付けている。アド
バイザー教員と事務センターの役割が重なっているとい
学生全員にアドバイザー教員を配置
「お気づきシート」で学修状況も把握
う指摘もあるが、学生の悩みは複合的なことが多いため、
相談内容によって切り分けると学生の「たらい回し」に
つながりかねない。学生に対して相談の窓口を多く設け
「サイクルプロジェクト」を推進する上で、大きな役
32
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
ることに意義があるのだ。
Part.2 学生の主体的な学修の支援
<写真>セルフアクセス・センター
自主的な学びを促進する「セルフアクセス・センター」と
「ファッション・インフォメーション・センター」
学生の自主的な学びを支援する施設も充実している。
その1つが「セルフアクセス・センター」
(SAC)<写
真>だ。SACは、学生の自主的な英語学習を活発化さ
せることを目的にしたもので、留学、TOEIC受験など
をめざす学生のために、適切な学修方法をアドバイスす
るほか、気軽に立ち寄って、外国人教員と日常英会話を
功体験を得てもらう機会を積極的に設けている。例えば
楽しめる環境を整備している。
FICには、卒業製作の優秀作品を展示しており、自分も
しかしこうした施設を作っても、当然のことながら、
こんな作品が作れるようになりたいというロールモデル
学生が利用しなければ意味がない。そこで、月1回、
の役割を果たしている。また、企業の協力を得ての、提
SACでは、留学者の体験談、ハロウィンパーティーな
案型のインターンシップも活発である。大阪樟蔭女子大
ど、学生が興味をもつようなイベントを開催している。
学の学生のアイディアで誕生したと明記された商品も発
また、入りやすく開放的なスペースを実現するために、
売されており、学生の意欲向上につながっている。さら
入口をガラス張りにするとともに、インテリアデザイン
に、学生グループの主体的な活動に、上限50万円の活動
学科の学生に楽しいディスプレイをデザインしてもらう
資金を支給する「いきいき・キャンパスライフ・プロジ
など、工夫を凝らしている。その結果、休み時間や授業
ェクト」も、2006年度にスタートした。老人ホームで音
後に満員に近い状態になることも少なくないという。国
楽を演奏するボランティア、卒業生である田辺聖子さん
際英語学科では、入学直後にプレースメントテストを実
縁の地を近隣の人々と一緒に巡る文学散歩の企画など、
施し、さらに2年次の終了時にも同様のテストを行って、
さまざまな活動が展開されているという。
2年間の進捗状況を調査しているが、SACが誕生して
以降、2年間の得点の伸び率がアップしているそうだ。
大阪樟蔭女子大学には被服学科が設置されていること
キャンパス統合を機に
「ラーニングサポートセンター」(仮称)の設置を構想
もあり、デザイン関連の雑誌や映像資料を所蔵した「フ
ァッション・インフォメーション・センター」
(FIC)
ところで、大阪樟蔭女子大学では、2015年度にキャン
も設けられ、こちらも自学自習に活用できる施設となっ
パスの統合を計画している。それを機に、学生の自発
ている。ただし、SACは国際英語学科、FICは被服学科
的な学びを活発化させる機能を集約した「ラーニングサ
の学生が対象というわけではなく、どちらもどの学生で
ポートセンター」(仮称)の設置が検討されており、こ
も利用可能であり、英語やデザインが得意な学生が他の
こにSACなどの学修支援センターのほか、自学自習や、
学生にアドバイスするなど、学び合う雰囲気を自然と醸
学生同士がミーティングできるスペースなどを設置する
成するのにも役立っている。
予定である。自習用スペースでは、教員が出向いて質問
に応じる「出張オフィスアワー」を設けることも構想さ
学生の主体的な活動を強力にバックアップする
「いきいき・キャンパスライフ・プロジェクト」
れている。さらに、学生の多様な相談の窓口となる事務
組織も入れて、ワンストップ型で、すべての学生サポー
トができるようにする計画だ。学生にとっての敷居を低
また、学生の主体的な学びを引き出すためには、成
くして、ラーニングサポートセンターに行けば必ず何ら
功体験の積み重ねが重要である。というのも成功体験が
かのサポートが得られるようにすることで、安心して学
あれば、さまざまなことに自信を持って挑戦できるよう
びに取り組む環境を構築することが、学生の学びの活性
になるからだ。そこで大阪樟蔭女子大学では、学生に成
化につながると期待している。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
33
九州工業大学
学生主体のプロジェクトへの活動費や場の整備により
学生の主体的な学修を支援する
九州工業大学は工学部・大学院工学府(戸畑キャンパス)
、情報工学部・大学院情報工学府(飯塚キ
ャンパス)、大学院生命体工学研究科(若松キャンパス)からなる国立大学である。1907年(明治40年)
に設立された明治専門学校を起源とし、
「技術に堪能なる士君子」の養成という建学精神を脈々と受け
継ぎ、実学重視の教育・研究を大切にしてきた。学生のものづくりへの意欲も旺盛で、ハード、ソフト
両面で、それを支援する体制が整えられている。
技術系競技大会参加や地域貢献活動など
学生の主体的なプロジェクトの活動費を支援
<図表1>2013年度九州工業大学 学生プロジェクト一覧
No
グループ名
1
九州工業大学KINGS
自主的かつ夢のある活動に対して、活動経費を支援す
2
衛星開発プロジェクト
る「学生創造プロジェクト(夢プラン)
」がスタートし
3
KIT-CANSAT Project
チームCANCAT
た。2009年度には、創立100周年記念事業として募った
4
RoDEP
九州工業大学では、2006年度から、学生グループの
「21世紀教育基金」を活用して、同様の活動を支援する
「100周年記念事業(グループ創造学習支援事業)
」も始
動した。
実学重視の校風のもと、九州工業大学の学生はもの
づくりに積極的に挑戦しようという意識が高く、学生が
自発的に全日本学生フォーミュラ大会(注1)などの技術系
競技大会に参加する、好ましい雰囲気が醸成されていた。
そうした活動が、授業以外の「第二の教育の場」として
極めて重要なものであると確信し、支援する体制を整え
たのだという。
2013年度からは、従来の2つの事業を統合して、「学
5
6
CIR-KIT(サーキット)
7
KIT EV Formula Vol Tech
8
9
10
11
12
生プロジェクト」として公募する形式に移行。技術系競
13
技大会への参加のほか、エコプロジェクト、地域活性化
14
プロジェクトなどの地域貢献活動などをめざす学生グル
ープに対して、1団体上限200万円が支給される。2013
学生フォーミュラ
「KIT-Formula」
15
プロジェクト名
ARLISS(A Rocket Launch for
International Student Satellites)
学生による人工衛星「鳳
龍参号」の開発
KIT CANSAT Project
参加
人員
16
61
19
ロボカップレスキュー実
16
機リーグへの出場
九州工業大学学生フォー
27
ミュラ
自律移動ロボット製作プ
13
ロジェクト
学生フォーミュラ(電気
自動車部門)参戦用車両 17
の製作
家庭用サービスロボット
ロボカップ@ホームリーグ
製作チーム
GPレーサープロジェクト 全日本ロードレース選手権
チーム
GPレーサープロジェクト
超超小型衛星の開発、お
次世代衛星間通信開発プ
よびそれを用いた北極圏
ロジェクトNBCDproject
気象の国際連携観察
ロボットコンテスト参加 ロボットコンテスト参加
プロジェクト
プロジェクト
A.C.P(Android Creation Project)
プログラミング同好会
有翼ロケット飛行実験プ
九州工業大学宇宙クラブ
ロジェクト
ロボット相撲全国大会出
無線部
場プロジェクト
コンバート電気自動車製作
e-car
プロジェクトKYU-TECHER
(キューテッカー)
10
12
15
12
23
65
17
16
年5月に行われた審査には22件の応募があり、15件が選
定された<図表1>。
おり、選定に苦労しているのが実状のようだ。
選定にあたっては、5名の教員で、計画の妥当性、実
また、2012年度からは「萌芽的プロジェクト」も新設
現可能性、創造的で発展性が感じられる夢のある企画か
された。将来、「学生プロジェクト」に発展する可能性
どうかといった点をポイントに審査している。どの学生
がある新規プロジェクトが対象で、総額 300万円が支給
グループも熱のこもったプレゼンテーションを展開して
される。学生グループによる活動のすそ野を広げること
(注1)全日本学生フォーミュラ大会…公益社団法人自動車技術会が主催する、学生による自作レーシングカー(フォーミュラカー)の競技会。
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Kawaijuku Guideline 2014 特別号
Part.2 学生の主体的な学修の支援
が目的であり、2013年度は5件の応募があり、4件が選
<図表2>MILAiSの様子
定された。
なお、
「学生プロジェクト」
「萌芽的プロジェクト」と
も、指導教員がいることを申請の条件としているが、そ
の役割は施設や道具の提供や、学生が相談に来た際のア
ドバイスであり、プロジェクトは学生中心で進められる。
正規の授業で学んだ知識・技術が
本物になる貴重な場
ロトタイプを比較的容易に作ることが可能になり、そう
した体験をしやすくなる効果が期待できる。
中央教育審議会の「学士力」では知識・理解、汎用的
もう1つ、特色ある施設が「未来型インタラクティブ
技能と並んで、態度・志向性が掲げられている。態度・
学習教室」(MILAiS)だ<図表2>。グループワーク
志向性は、自分が持っている知識と能力を持続的に活用
形式の授業を実施するために設けられた教室で、移動可
できる力を意味し、その力を高めるためには正課外の教
能な机・椅子を配置。机は直線的な四角ではなく、曲線
育が極めて重要だと考えられる。正課の授業で学んだ知
で柔らかな印象を与える勾玉型とし、グループでの議論
識・技術が本物になる場だからだ。
がしやすい雰囲気を作っている。
実際、「夢プラン」に参加した学生にアンケート調査
MILAiSの設置に伴って、アクティブ・ラーニング型
を実施すると、
「タフになった」
「チームワーク力や、コ
の授業が大幅に増えた。また、授業がない時間帯には、
ミュニケーション力が養われた」
「授業に出席したとき
自学自習が可能な多目的学習室、いわゆるラーニング・
に、活動を通して知識が深まっていたことに気づいた」
コモンズ(注2) としても開放している。
「学生プロジェク
といった声が聞かれた。また、九州工業大学は好調な就
ト」で活用されるほか、学生による自律的な学習コミュ
職状況を維持しているが、特に「夢プラン」に参加した
ニティーも形成されており、MILAiSで議論して、練っ
学生は、自分で学んだことを整理してアピールする力に
たアイデアを発展させて「学生プロジェクト」に応募す
優れており、就職活動の際の強みにもなっている。
るといった動きも生まれている。明るく開放的なスペー
スになっており、透明な間仕切りで部屋を分割して利用
「ものつくり工房」「MILAiS」など
自主的な活動を支える施設を完備
することも可能。授業や他のグループの活動の様子など
を気軽に見ることができ、お互いにいい刺激になってい
るようである。
「学生プロジェクト」の活動を支える施設・設備も充
MILAiSは 最 初 は 飯 塚 キ ャ ン パ ス に 設 置 さ れ た が、
実している。その1つが「ものつくり工房」だ。810㎡
2013年度には戸畑キャンパスにも開設され、環境整備が
という広さをもち、加工、塗装など、大がかりな作業に
進んでいる。
適したフリースペースである。申請すれば、団体ごとに
スペースを割り当てられ、授業の空き時間などに自由に
利用できる。
「わかろうとさせる」教育を重視し
アクティブ・ラーニングを積極的に導入
さらに、2013年度には、戸畑・飯塚両キャンパスに、
3次元プリンター、光レーザーカッターなどを備えた
MILAiSで行われる授業に限らず、九州工業大学では、
「デジタル版ものつくり工房」が設置された。大学のも
学生が積極的に参加するアクティブ・ラーニングが活発
のづくりでは、Build to think、すなわち自分のアイデ
である。特に、学生に課題を与えて解決に向けた学修を
アでものを作り、うまくいかなかったところを改良して
行うPBL(Project / Problem based learning)を重視
作り直すプロセスを体験することが重要になる。
「デジ
しており、PBLプログラムを1∼3年次のすべての学期
タル版ものつくり工房」が完成すれば、考えたもののプ
に必修科目として配置している学科もある。さらに戸畑
(注2)ラーニング・コモンズ…図書館や大学などの施設で利用者の目的や学び方にあわせ、多様な学びが可能な環境を備えた施設のこと。図書館資料や
ICT 設備、議論ができるスペース、それらを活用するための学修支援員などが配置されることが多い。
Kawaijuku Guideline 2014 特別号
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<図表3>PBLプログラム プロジェクトテーマ・ディスカッションテーマ例
入門系PBL
(1年次前期)
・18歳は大人?子供?
・人の死は脳死?心臓死?
・あなたは理系派?文系派?
・複素関数論による物体まわり流れ解析
計算数理系PBL
・統計数学・確率論と高分子物理
(2年次後期)
・線形数学と電磁場解析
情報系PBL
(1年次後期)
・脳型コンピュータの最新技術
・音声入力・音声認識の最新技術
・九州工大前商店街活性化計画
プログラミング系PBL
(2年次前期)
・組み立て型ロボットのプログラミング
・
“右脳トレーニング”プログラミング
・ディジタル信号処理によるデータ解析
・ディジタル信号処理による昆虫脳機能モデル構築
・ロボットを教材とする小中学生理科学習内容開発
システム系PBL ・ハイスピードカメラを用いた様々な現象の観察・
(3年次通年)
考察
・高度道路交通システムにおける運転支援のための
ビジョン型予防安全技術の開発
(「九工大の PBL プログラムで学ぶ」より)
キャンパスにはPBLの専用施設である「プロジェクトラ
に自信が持てず、積極的になれない学生もいる。そうし
ボラトリ」も設けられている。
た学生のための支援の場も用意されている。
PBLは、5名前後の学生チームを編成し、与えられた
近年、全国の大学図書館がラーニング・コモンズの役
テーマについて、課題設定から実施計画立案、プロジェ
割を果たすようになっているが、九州工業大学でもその
クト実行、成果のプレゼンテーションまで、すべてを学
機能を強化し、自学自習の環境づくりに取り組んでいる。
生主体で進めていく。近年のテーマ例を見ると「18歳
例えば、両学部とも、図書館内で学習サポートを行っ
は大人か子どもか」
「人の死は脳死か心臓死か」といっ
ている。工学部の学習サポートの名称が「学習支援室」
、
た入門編から、
「組み立て型ロボットのプログラミング」
情報工学部の学習サポートの名称が「学習コンシェルジ
「ハイスピードカメラを用いた様々な現象の観察・考察」
ェ」であり、両学部とも、学部の教員や、元高校教員の
といった専門に関連するものまでが並ぶ<図表3>。理
専任講師、大学院生などが、数学・物理・英語・情報と
工系の学生は「正解のある学び」を好む傾向があるが、
いった基礎科目の質問に対応している。
こうした「解のない学び」を経験することで、自由な発
想力が育まれる意義は大きい。
九州工業大学では、2011年度に「学習教育センター」
当初は、他の学生の目につく場所だと恥ずかしがる
学生もいるのではないかと思い、目立たない場所に置い
ていたが、ラーニング・コモンズの一階に置いたところ、
を開設し、よりよい教育内容について検討を進めてきた。
利用者が増加した。学修支援で自分の力がついたことを
その議論の中で、単に知識を修得させる「わからせる」
実感する学生が多く、その後の学修意欲にもつながって
教育ではなく、学生に「わかろうとさせる」教育こそが
いるようだ。
重要だという共通認識が得られた。正解のない問題の解
その他にも、学修自己評価システムの開発など、さま
決策を考える中で、学生が「わかろうとする」主体的な
ざまな取り組みが教員からの発案で行われ、学習教育セ
意欲を引き出すことが重要だと考え、学生が主体的に参
ンターが全学に展開し、さらに不断の見直しがなされて
加できるアクティブ・ラーニング型の講義が行われてい
いる。
る。豊富なアクティブ・ラーニングによって、学生はグ
今後は、先述の「デジタル版ものつくり工房」の設置
ループで課題に取り組む楽しさに目覚め、それが「学生
や、戸畑キャンパスでのMILAiSの開設などにより、学
プロジェクト」の活性化にもつながるという相乗効果も
生が正課外でも自由にものづくりをできる環境がますま
生まれているそうだ。
す整備される予定である。今後の課題は、そうした活動
を通じた学修成果の把握だ。2012年度から学生へのヒア
図書館内に学習支援室を設置し
学生の質問に対応
リングを始めたが、今後は分析・評価を行い、学生の主
体的な学修を促すような教育をさらに充実させていこう
と考えている。
ここまで紹介してきたように、九州工業大学では学生
の主体的な学修を重視しているが、中にはなかなか自分
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