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新時代を迎えた病院薬剤師 - 田辺三菱製薬 医療関係者サイト Medical
ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声を お届けする情報誌です。 特別号 山形県版 山形県病院薬剤師会 会長 山形大学医学部附属病院 薬剤部長・教授 白石 正 立石寺 先生 山形県病院薬剤師会 理事 山形市立病院済生館 薬局長 荒井 浩一 先生 新時代を迎えた病院薬剤師 ∼さらなる飛躍に向けた業務展開と課題∼ 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。 患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員 として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・山形県版 2013」では、山形大学医学部附属病院薬剤部長の白石正先生と山形市立病院済生 館薬局長の荒井浩一先生のお二人に、山形県における病棟薬剤業務の現状および山形県病院薬剤師会の支援体制、薬剤師の 資質向上への取り組みについてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。 ■山形県における病棟薬剤業務の現状と展望 ――山形県における病棟薬剤業務実施加算への取り組み状況 についてお伺いします。 白石 山形県内で病棟薬剤業務実施加算を算定しているのは、 2013年6月現在で9施設あり、さらにもう1施設が近々算定予定と 聞いています。加算の算定には、全病棟に専任の薬剤師を配置 する必要があるため(資料1)、病棟が多い大病院ほど多くの薬 剤師が必要になり、基準を満たすことが難しいのが実情です。そ れだけに県内の大規模基幹病院が病棟薬剤業務の体制を整備 して算定すれば、かなりのインパクトになりますし、情報を共有化 することで病院薬剤師全体のレベルアップにもつながると考えら れます。 ――山形県病院薬剤師会としては、病棟薬剤業務実施加算に対 してどのような支援体制をとられているのでしょうか。 白石 山形県病院薬剤師会(県病薬)では、 「病棟薬剤業務」 資料1 病棟薬剤業務実施加算の施設基準 ①病棟※ごとに専任の薬剤師が配置されていること。 (※障害者施設等入院基本料又は特定入院料(病棟単位で 行うものに限る)を算定する病棟を除く。 ) ②薬剤師が実施する病棟薬剤業務が十分な時間(1 病棟・1 週当たり 20 時間相当以上)確保されていること。 ③医薬品情報の収集及び伝達を行うための専用施設を有する こと。 ④当該保険医療機関における医薬品の使用に係る状況を把握 するとともに、医薬品の安全性に係る重要な情報を把握し た際に、速やかに必要な措置を講じる体制を有していること。 ⑤薬剤管理指導料の施設基準に係る届出を行っている保険医 療機関であること。 ⑥病院勤務医の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制が整 備されていること。 厚生労働省保険局医療課:「平成24年度診療報酬改定の概要」より抜粋 ――先生方の施設では病棟薬剤業務にどのように取り組んで いらっしゃいますか。 しら いし た だし 白石 正 先生 山形県病院薬剤師会 会長 山形大学医学部附属病院 薬剤部長・教授 をテーマとした研修会などを実施し、既に病棟薬剤業務を実施 している施設の薬剤師から、現状の問題やメリット、デメリットな どをお話しいただくなど情報交換の場を設けています。 荒井 昨年度は実務研修会や県病薬の総会において病棟薬剤 業務に特化したシンポジウムを実施しました。シンポジウムには 各施設の薬局長などマネジメントに携わる立場の方だけではな く、現場の若い薬剤師も多く参加され、関心の高さを実感してい ます。 ――病棟薬剤業務実施加算を算定して成果が示されれば、薬 剤師の増員に対する理解も得られやすくなるのでしょうか。 白石 加算の算定は別にして、病棟での薬物治療の質が向上し たという評価が得られれば、増員に対する理解も得やすくなる と思います。ただし、施設によっては、業務を効率化することで 対応できていれば、 「今の人員で十分できるではないか」と判断 される可能性もあります。したがって増員に対する要望は「さら に人数が増えればこういう業務もできます」という形で提案して いく必要があると思います。問題の一つは、山形県には薬科大 学がないため、もともと薬学生が少ないことです。山形県出身で 仙台や東京の大学を卒業した学生は現地で就職してしまうこと が多く、どの施設も人員確保には苦労されていると思います。 資料2 平成24年度に開催した病棟業務等に関連した 主な研修会(県病薬主催・共催) ●第 52 回 山形県病院薬剤師会研修会(5/13) ●第 2 回 がん化学療法セミナー(6/10) ●山形県臨床薬学研究会(7/19) ●第 3 回 がん化学療法セミナー(7/22) ●山形県感染制御研究会(8/3) ●第 1 回 山形県病院薬剤師会感染対策講習会(9/14) ●フィジカルアセスメント研修会(9/15) ●県薬剤師会・病院薬剤師会合同研修会(11/4) ●山形県病院薬剤師会実務研修会(11/11) ●山形 IC 研究会(11/17) ●第 5 回 がん化学療法セミナー(11/18) ●解剖学実習研修会(12/1) ●山形臨床薬学研究会(1/24) ●第 6 回 がん化学療法セミナー(2/10) ●第 2 回 山形県病院薬剤師会感染対策講習会(3/16) ●第 1 回 がん化学療法セミナー(4/14) ●ICT スペシャルミーティング(4/20) 白石 山形大学病院(637床)では薬剤師30人の体制で、全14 病棟および手術部に担当薬剤師を1人ずつ配置して薬剤管理指 導業務を実施しています。しかし、調剤室、製剤室、薬品管理 室、医薬品情報室、PET室などとの兼任のため、現時点では 「週20時間以上」という基準を満たすことは難しく、病棟薬剤 業務実施加算は算定できていない状況です。なお、加算は別に して、10月から2つのモデル病棟で病棟薬剤業務を開始し、徐々 に対象を広げていきたいと考えています。 荒井 山形市立病院済生館(575床)では、2012年5月から病棟 薬剤業務実施加算の算定を開始しました。当院では以前から積 極的に病棟業務を実施しており、加算で求められている業務は これまでの延長上にあるものとして、違和感なく対応できまし た。けれども、休暇や出張に伴う薬剤師不在時のやりくり、病床 利用率が低いときも週20時間以上の業務を実施する必要がある など、人員や時間の割り振りには苦慮しています。ただ、現在の 診療報酬では「薬剤管理指導料」と「病棟薬剤業務実施加算」 に分かれていますが、将来は「病棟業務」として統合されること が予測され、確かに今は大変な時期といえますが、せっかく獲得 した加算を大切にし、将来のためにも実績を残していく必要が あると考えています。 ――病棟薬剤業務の標準化についてはどのようにお考えでしょ うか。 白石 現時点では、日本病院薬剤師会が作成した「薬剤師の 病棟業務の進め方」を参考にしながら、それぞれの病院がさら に詳しいガイドラインを作っていく必要があるでしょう。病棟薬 剤業務は「医師の負担軽減」という大義名分のもと行われてい ますが、どのような業務でも肩代わりする訳ではありません。持 参薬の管理や処方の提案など、薬剤師が病棟ですべき業務や その目的などを、病院長や看護部長、そして現場のスタッフと話 し合い、スムーズに業務が行えるようにコンセンサスを得る必要 があると思います。そうしないと、薬剤師が本来やるべきではな い業務まで行うケースも生じかねません。 ――山形市立病院済生館ではどのように病棟での業務を創り 上げてこられたのでしょうか。 荒井 当院では15年程前にパイロット病棟において「診療支 援」という名目で病棟業務を始めました。当初は病棟で薬剤師 ができることは何でもやろうと、それこそ薬剤師の仕事ではない ことまで行っていましたが、次第に病棟でのさまざまな問題点が 見えてきました。例えば患者さんの服薬の管理が不十分である ことに気付き、薬剤師が患者さんごとに薬をセットして与薬を開 始しました。そうすると患者さんの顔が見えてきます。そして、患 者さんのことをもっと知りたいとカルテを見始めることで、より良 い処方や患者さんのコンプライアンスを高める方法を考え、医師 に提案をするようになったのです。最初はなかなか医師に取り合 ってもらえなかったものの、看護師とともに問題点について医師 と話をし、さらに薬剤師の関与によってコンプライアンスが改善 してくると、医師も薬剤師の話に耳を傾けてくれるようになりま した。このように、当院では薬剤師が小さなことを積み重ねて、 チーム医療の中で存在感を発揮することで、医師に対して処方 山形県 版 提案や疑義照会を行うルートができあがり、病棟で薬物治療の 安全性や有効性の向上に寄与する業務を行うことが可能になっ たのです。ですから、病棟業務の経験の少ない薬剤師には、病 棟の看護師や医師に近いところで業務を行い、信頼を積み重ね ていくことが大事だと話しています。また、一つの病棟だけでは なく、すべての病棟で同じレベルで業務を継続的に行うことが 重要ですから、薬剤師のスキルや業務の均質化は常に取り組む べき課題であると言えます。 ――病棟 薬剤業務実施加算は、今後、効果の検 証などを経 て改定されることも考えられますが、ご要望や提言はありま すか。 白石 薬剤師が病棟にいることで医療事故を未然に防げた例 など、病棟薬剤業務によって得られた成果や事例が全国的に集 積されており、来年度の診療報酬改定にも反映されるものと思 います。私個人としては、 「週20時間以上」という時間枠を外し ていただくことを希望します。病棟薬剤業務はあくまでも「病棟 専任の薬剤師がいること」に意義があり、時間に縛られるもので はありません。 荒井 病棟薬剤業務は「医師の業務軽減に資する業務」と定義 されていますが、業務軽減につながる仕事がはたして薬剤師の 業務なのかという疑問があります。確かに広く解釈すれば、持参 薬の管理や検査オーダーの依頼なども医師や看護師の業務軽 減に資する業務であり、安全管理の面でも重要な業務です。しか し、薬は治療効果を発揮してこそ意味があるのであり、自分が 調剤した薬が患者さんに効いているか、臨床の現場で確認する ことが本来の薬剤師の業務だと私は考えています。現状では薬 剤師は持参薬の管理や配薬、定期処方のチェックなどに多くの 時間を費やしていますが、薬物治療の質向上に寄与する業務こ そ時間をかけて行うべきであり、今後、病棟薬剤業務が「医師の 業務軽減に資する業務」ではなく、 「薬剤のプロフェッショナルと しての業務」として捉えられるようになることを期待しています。 白石 その通りですね。薬の相互作用や配合変化のチェック、 副作用モニタリングなど、薬学的な知識を生かして医師にアドバ イスすることが本来の薬剤師の役割であり、そこを評価していた だきたいと思います。 ■薬剤師の資質向上への取り組み 特別号 の希望を早めに聞き、そのうえで「がんもいいけれども、栄養管 理も大切だよ」と可能性を広げるよう努めています。私が考える 理想の薬剤師とは、米国のような形で薬剤師が処方権を持ち、 医師から患者さんの症状を聞いた時に、適切な処方を提案でき る薬のプロフェッショナルです。その実現のためには薬剤師のカ リキュラムから考え直す必要があるので、今はまだ難しいでしょう が、医師にそれぞれの専門があるように、いずれは薬剤師も循環 器や腎臓など各専門領域に特化したプロフェッショナルが現れる かもしれませんね。 荒井 専門・認定薬剤師の資格取得の必要性に関しては、私も 白石先生と同様に考えています。近年、さまざまな領域で認定看 護師が増えた結果、医師や看護師が薬に関しても認定看護師に 相談することが多くなっていますが、薬物治療に関しては、薬学 に特化した勉強をしてきた薬剤師が担うべきであり、そのために も薬剤師はより専門性を高める必要があります。当院の薬剤師 には常に専門・認定薬剤師の資格を取得するように話をしていま すが、研究機関でもある大学病院と異なるのは、臨床の現場で すぐに役立つ資格の取得を勧めている点です。問題は、認定を 受けようとするとき、経済的な負担が大きいことです。実際、受験 するにも、単位を履修するにもお金がかかります。そこで私が薬 局長になってから、認定に必要な学会に参加するための出張費 などの援助を管理者に働きかけ、増額になりました。 ――病棟薬剤業務実施加算の新設は薬剤師のモチベーション 向上に影響しているのでしょうか。 白石 そうですね。特に1、2年目の若い薬剤師は早く病棟に行 きたいという人が多いです。しかし、薬剤部での業務や取り決め などをしっかり理解してからでないと、病棟に行っても看護師や 医師と対等に話ができません。初めは薬剤部内で経験を積んで、 その後、先輩薬剤師に付いて病棟に行くという手順を踏んでい ます。このバランスが重要だと考えています。 荒井 当院でも同じですね。若い薬剤師の気持ちは分かります が、まだ薬局の業務も臨床の知識も不十分な薬剤師が病棟に行 っても、臨床の現場では全く役に立てないのが実状だと思いま す。当院では4月に入職した新人薬剤師を12月になって初めて先 輩薬剤師の見習いとして病棟に行かせましたが、基本的には、特 定の病棟の専任にはせず、研修医と同様に3∼6ヵ月単位でロー テートさせています。先ほど白石先生が仰ったように、専門に特 ――病棟薬剤業務を実施していくためには薬剤師の資質向上 も大切ですね。 白石 2012年から6年制の薬学教育を修了した薬剤師が誕生し ましたが、やはり4年制を卒業した薬剤師よりも実践力を持って いると実感しています。それでも最低5年間は、病院の中で基礎 的なことを学ぶ必要があると思います。この5年という期間は専 門・認定薬剤師の試験を受けるのに必要な実務経験の年数で す。私は若い薬剤師にはできるだけ専門・認定薬剤師の資格を 取得してほしいと考えていますが、大学で6年間学んできた知識 の上に5年間の臨床経験を積むことで、循環器やがん、感染など 自分の興味のある領域が見えてきます。薬剤部長の立場として は、部内の薬剤師にバランス良くいろいろな資格を取得してほし い気持ちがありますが、こちらから決めつけるのではなく、本人 あら い こう い ち 荒井 浩一 先生 山形県病院薬剤師会 理事 山形市立病院済生館 薬局長 山形県版 化する仕事は5年経てばできるので、それまではジェネラリストと して広い視野を持ち、いろいろな病棟で多くのスタッフと仕事を する中で経験を積み、知識を養ってもらいたいと考えています。 自分のコンサルトした薬物治療が奏功する過程を目の当たりに することは、薬剤師のモチベーション向上につながりますし、一 度でもそうした成功例があると、医師からも頼られるようにな り、それがさらなるモチベーション向上の原動力となると思いま す。 ■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ ――最後に、今後の展望とともに薬剤師の皆さんにメッセー ジをお願いします。 師のさらなる評価にもつながると考えています。薬剤師の皆さ んには将来を見据えながら、希望を持って仕事をしてほしいと 思います。 白石 薬剤師の仕事に自信と誇りを持ってほしいと思います。 そのためにはまだまだ経験が必要ですし、勉強しなければいけ ないことはたくさんありますが、この両者があることで医師や看 護師とのコミュニケーションも格段に良くなります。医師が治療 に専念でき、薬物治療において薬剤師が医師をサポートすると いう未来像を実現するために、豊富な知識を身につけて、医師 から信頼される薬剤師として存在感を発揮することを期待して います。 荒井 先ほど白石先生から理想の薬剤師の話が出ましたが、 薬物療法が医師と薬剤師の合意なしには始まらないような仕 組みができ、それによって医療の質がより向上することが私の 理想とするところです。現在は医師に裁量権があり、トップダウ ンで薬物治療が始まりますが、6年制課程を卒業した薬剤師が 社会に出て実績を積み、社会的地位も向上すれば、いずれはこ うした仕組みも実現可能ではないかと期待しています。そのた めには薬剤師が一層の努力をして、臨床の現場で実績を残すと ともにエビデンスを蓄積し、論文化していくことが重要で、薬剤 特別号 山形県版 発行月:平成 25年12月 発 行:田辺三菱製薬株式会社 田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp 特別号 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先:営業推進部 06-6227-4666