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第1回解答指針
紛争解決手続代理業試験が行われた日(あっせん事件では、紛争となった日) 現在に適用されていた法律や判例に基づいて解答指針を用意しました。 この解答指針は、問題文にある事件で、判例が大きく変更された場合と、法 改正があって解説に整合性が保てなくなった場合を除き、改訂はありません。 その点をご了承ください。 一方、書籍『おきらく社労士の特定社労士受験ノート』は、毎年改訂を重ね ています。試験は回を追うごとに難しくなっており、解答指針の追加掲載だけ ではなく、解答の考え方、注意点を毎年整理し直して、最新情報にしてお届け しておりますので、ぜひ読み込んでいただき、ご活用いただければと願ってお ります。 1 第 1 回紛争解決手続代理業務試験解答指針 第1問 別紙記載の X 及び Y 社の「言い分」に基づき、以下の(1)から(5)までに答 えなさい。 事件の概要 技術系社員の人で地元に残る人は業務委託先の業者への出向という形で雇用が維持されて いますのに、私には何の措置もなされずに解雇ということで困っております。他の支店の 私と同じ地元雇用社員の人の中では何人かの人が退職に異議を述べていると聞いていま す。 4.私の給料は、基本給月額 19 万円で、別に交通費が実費で支給されており、支払日は毎 月 25 日です。また、労働社会保険にはすべて加入しており、所定の保険料も控除され納 付しています。 5.なお、会社からは平成 18 年 5 月 31 日付で 2 ヶ月分相当の金額が私の口座に振り込ま れてきました。私は、解雇を認めていないのですが、この振込み金額はそのまま受け取っ ておいてよいのでしょうか。 Y 社は経営上の都合から、X(勤務地限定特約付の期間雇用社員)を整理解 雇した。 〔Y 社の言い分〕 〔X の言い分〕 別紙 1 1.私は、Y 社という木造住宅の施工販売会社の支店に、短大卒業後平成 14 年 4 月 1 日付 で地元雇用社員(その支店限りで、雇用期間の定めはないが他に転勤のない社員)として 採用されました。そして、会社から平成 18 年 5 月 31 日付をもって就業規則の「会社都 合による」との規定に基づき解雇する旨の予告を同年 4 月 30 日に受けました。 Y 社の支店の仕事は、住宅の開発、販売の広告宣伝が中心で、営業は主として販売代理 店の人に委せております。施工工事はすべて地元の建築業者への下請により施工していま す。 したがって、当支店は、この県内唯一の支店ではあっても、人数は少なく、正社員の人 は支店長を含めて 10 人位で、 「地元雇用社員」は事務担当の私 1 人で、他に庶務業務のパー トタイマーの方が 1 人います。 従前から、当社の取り扱う木造住宅の施工販売は次第に滅ってきており、経営上の赤宇 が累積して問題となっており、最近は社内で民事再生とか会社更生といった言葉も時々出 ていました。 2.このような状況から、会社は再建のために大幅なリストラを行うことになり、当支店は 閉鎖されることになりました。そこで、本年 3 月中旬頃にこのことが、支店長より伝え られ、正社員の人は、全社的に加算退職金による希望退職の募集があり、これに応募する 人や本社とか統合する隣県のブロック支店に転勤する人、当社業務を委託している地元の 建設会社に出向する人もあり、解雇になる人はありません。 また、パートタイマーの人は、期間雇用契約でしたので、平成 18 年 5 月 31 日付の雇 用期間の満了を承諾しました。 私の場合は、平成 18 年 5 月 31 日付で支店の閉鎖により解雇となり、もともと地元雇 用社員には退職金はありませんが、今回は 2 ヶ月分の退職金を特別に出すということです。 3.私としては、突然の支店閉鎖による退職とか解雇だとかいわれても他に転職先もなく、 1 別紙 2 1.私は、Y 社の取締役で管理本部長をしています。当社は、甲社という大手建設会社系列 の木造住宅の施工販売専業会社で、宅地開発、住宅販売を業としています。バブル崩壊前 は相当に営業成績もよく、また全国ブランドで「Y 社の○○ハウス」として人気も信用も 得ていました。 2.ところが、バブルがはじけて平成不況時代の到来とともに次第に木造住宅の開発や販売 が減ってきまして、苦戦を強いられることになりました。 そして、平成 17 年 3 月末の決算では、累積赤字が大幅に増加し、このままでは倒産も あり得る経営状況となり民事再生の申立ても検討されました。 しかしながら、親会社の立場もあり、メインバンクの指導援助等を得て、再建案を検討 してきました。再建案が本年に入ってまとまり、大幅に企業規模を縮小して再建を図るこ とになりました。具体的には、支店の数を大幅に削減し、各県に支店があったものを各ブ ロック別 1 支店に統合し、正社員については全社的に特別加算退職金等を条件に希望退 職を募り、閉鎖支店の正社員は本社、ブロック支店に転勤させ、正社員のうち技術系社員 の一部は従来から施工に協力を願っていた地元の委託会社に出向又は転籍を受入れても らっています。また、賃金体系を変更し全社員一律に 20%カットとし、業績連動のボー ナスを大幅に増やすこととしました。 3.このような再建案の決定をして、平成 18 年 3 月初めから各支店で説明会を行い、正社 員の人には全員納得してもらい、同年 5 月 31 日付をもって、転勤、出向、転籍、希望退 職という形で全員円満に解決しました。雇用期間を定めて雇用しているパートタイマーの 人については、雇用期間満了の予告により円満な雇い止めができました。 4.X さんは「地元雇用社員」として、支店限りとの特約により雇用した者ですから他に転 勤してもらうこともできず、会社再建のための支店の統合・閉鎖という事情で、「会社都 合による」という就業規則の定めにより当然解雇となるのはやむを得ないところです。し かし、本来なら地元雇用社員の人には、就業規則に退職金の定めがなく、支給していない のですが、平成 18 年 5 月 31 日を退職日として 2 ヶ月分相当額の特別退職金を一律支給 することにしました。 2 5.今回の X さんのような地元雇用社員の方も全社で二十数名いました。そのうち何人か の人から異議が出ましたが、何とか支店長が説得して了解してもらいました。そこで、X さんだけを特別扱いすることはできませんので、同じ条件でやめていただくことにして平 成 18 年 4 月 30 日に解雇予告し、同年 5 月 31 日付の会社都合解雇とし、また同時に特 別退職金も振込み支払いました。なお、当社には労働組合はありません。 解答指針 ① X は Y 社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの 確認を求める。 ② X は Y 社に対し、平成 18 年 6 月 1 日以降、本件解決の日まで、 毎月 25 日限り、金 19 万円の支払いを求める。 労働社会保険の加入について、X の言い分の中にあります 小問(1) 本件の Y 社の支店閉鎖による X の解雇が有効か無効かについては、一般的 にどのような基準により判断が行われますか。 が、これは X が正社員と同様に働いていたことをアピールし アドバイス 問題の言い回しは難しいですが、要は整理解雇の 4 要件を書き出 すことになります。 解答指針 ① 経営上の人員削減の必要性 抗弁(主張)するのであれば、 「適用除外事由に該当せず、法 律上当然に資格を取得させたものである。」といったような内 解答用紙の第 1 欄に箇条書きで記載しなさい。 【考え方】 ていると考えてください。これについて Y 社の立場に立って 容になります。 小問(3) X の立場に立って、 「Y 社の言い分」中の「X は支店に限って特約して雇用 した転勤のない地元雇用社員であり、支店の閉鎖により当然解雇となる」との 主張に対し、具体的にどのような主張ができますか。解答用紙第 3 欄に 250 字以内で記載しなさい。 ② 解雇回避努力の履行 理解 ③ 解雇対象者の人選の合理性 ④ 手続の相当性 【考え方】 職種限定・勤務地限定の合意(特約)があったとしても、整理解雇 が労働者の帰責事由のない解雇であることから、配転・出向等の打診 を行うことが解雇回避努力義務の内容であると考えられ、本件では、 小問(2) 本件について、X の主張に基づき解雇を争い都道府県労働局長にあっせん申 請をする場合の「求めるあっせんの内容」はどのようになりますか。求める権 利関係を踏まえて解答用紙第 2 欄に箇条書きで記載しなさい。 それを怠ったことに問題があります。 解答指針 X の雇用契約は、勤務地限定特約付雇用契約であり、原則としては X の同意なくして異動させることは不可能である。しかし、今回の整理 【考え方】 交通費については、 実費支払いであったので今回は請求していません。 解雇は、X にとってなんら落ち度のない解雇であり、解雇による不利 益と勤務地変更による不利益を勘案すれば、解雇による不利益のほう が大きいものがある。Y 社は、勤務地の変更の打診すらしておらず、 解雇回避努力義務を怠ったもので、当該解雇は、その権利を濫用した ものとして無効である。 3 (197 字) 4 小問(4) 本件について、Y 社の立場で紛争の解決を図るとした場合、実際上どのよう な方向に向けて具体的に努力することが考えられますか。その内容を解答用紙 第 4 欄に 250 字以内で記載しなさい。 第2問 特定社会保険労務士甲は、X 市の無料相 談会で B 社に勤務する A から B 社が一方 的に労働条件を切り下げ、それによって A の賃金も減額されてしまったので、労働局 あっせん X市無料相談会 協議・指導 受任? のあっせんの申請をしたいとの相談を受 解答指針 け、あっせん申請書に記載すべき申請内容 特定社労士甲 B社 あっせん代理の依頼 仮に X を復職させた場合において、当該解雇に異議を唱える他の者 や手続について協議し、指導した。その後 からも復職に向けてのあっせん申請が起こりうる。このときには同様 しばらくして B 社の社長が甲の事務所を訪れ、 「A から労働条件の切り下げを不服 に復職させねばならず、そうなると整理解雇した意味がなくなる。X として 5 ヶ月分の賃金の差額(金 15 万円)の支払についてあっせんの申請が厚生 に対しては解雇回避努力を十分に果たしていなかったこともあり、X 労働大臣指定の民間紛争解決機関に出されたので、B 社の代理人として手続を進め の再就職に向けての援助を行うとともに金銭による解決に向けて合意 てほしい。 」旨の依頼を受けた。 を目指す。 以下の(1)及び(2)に答えなさい。 (159 字) 小問(5) 小問(1) X としては、Y 社側から X に対し振り込まれた 2 ヶ月分相当の退職金につ いてどうすべきでしょうか。具体的対応策についての見解を解答用紙第 5 欄 に 200 字以内で記載しなさい。 甲は、B 社からの依頼を受けることはできるか、その答えと理由を解答用紙 第 6 欄に 150 字以内で記載しなさい。 【考え方】 【考え方】 設問には、 「協議し指導した」という文言が入っています。この「指 当該退職金を受け取ったままにしておくと、「X は、解雇を受け入 導」という言葉は第 5 回試験においても使われています。社会保険 れているから受け取ったままである」と、Y 社から主張される可能性 労務士法では、 「指導」という言葉は、第 2 条第 1 項第 3 号に使わ もあり、通常は「未払賃金に充当する」と通知を送っておきます。な お、相手方から送りつけられた同様の趣旨の金員として、「解雇予告 手当」などもあります。 第5回試験 第2問 れており、 「特定社会保険労務士甲は、 いわゆる 3 号業務を行っている」 という考え方ができます。 本問での考え方は 2 つあり、 いずれの場合も「依頼は受けられない」 という答えになります。 解答指針 本件は解雇無効を争っているもので、X が特別退職金を受け取ったま まにしておくと、Y 社から「X は、解雇無効だと主張しているものの、 5 A 単独で あっせん申請 ●当該相談が、社会保険労務士法第 2 条第 1 項第 3 号の相談である と考えた場合 当該金銭を受け取ったままにしているのは、当該解雇を受け入れたか A の意思は「あっせん申請をしたい」であって、 「あっせんにより らである」との主張をされかねないことになる。そこで「特別退職金 解決を目指す」とまでは言っておらず、また、特定社会保険労務士甲 名目で送られてきた金銭は、未払賃金に充当する」旨を記載した書面 は「指導」したにすぎないので、当該協議はいわゆる 3 号業務であっ を、Y 社に対し送るよう、X に指導する。 たという判断です。しかし、協議の内容が個別労働関係紛争に関する (175 字) 6 ものですから、この場合は、少なくとも社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 2 号の制限を受けると考えるべきでしょう。 小問(2) 前記(1)の場合、甲が A の同意を得たときはどうか、その答えと理由を解 ・権利義務関係:個別労働関係 答用紙第 7 欄に 150 字以内で記載しなさい。 ・依頼内容:A →社会保険労務士法第 2 条第 1 項第 3 号 B 社→社会保険労務士法第 2 条第 1 項第 1 号の 6 ・制限法律:社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 2 号 【考え方】 解答指針 本問では、社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 3 号の制限について 依頼は受けられない。A に対する従前の協議・指導は、社会保険労務 の理解が求められています。同号の制限は、B 社が抱える A 以外と 士法第 2 条第 1 項に該当し受任を妨げない。しかし社会保険労務士 のあっせん等の事件において、B 社の依頼を受ける際には、A の同意 として指導したことにより、少なくとも協議の程度及び方法が信頼関 が必要となります。 係に基づくものと考えたほうがよく、社会保険労務士法第 22 条第 2 当該事件は A と B 社の個別労働紛争なので、第 22 条第 2 項第 3 項の制限を受ける可能性を否定できない。 号の「同意」が立ち入る余地はありません。 (142 字) ・制限法律:社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 3 号 ●当該相談が、社会保険労務士法第 2 条第 3 項第 1 号の相談である と考えた場合 解答指針 「協議し指導」が、社会保険労務士法第 2 条第 1 項第 3 号 にあたると考えた場合 A の「あっせん申請をしたい」という意思表示を「あっせんにより 依頼は受けられない。A にはあっせんについての手続につき指導した 解決を目指す」と解釈すれば、当該協議は、紛争解決手続に関するも にすぎず、同意の有無にかかわらず社会保険労務士法第 22 条の制限 のとして、社会保険労務士法第 2 条第 3 項第 1 号によるものになり は受けない。しかし、仮に受任すれば、従前の協議による守秘義務か ます。この場合は、第 22 条第 2 項第 1 号により、「協議を受け賛助 ら B 社の権利実現に制限を受ける可能性があり、また A に対する信 した」ことになりますから、同項の制限を受け、「受任できない」と 義則もあるため受任できない。 いう解答になります。 解答指針 ・依頼内容:A →社会保険労務士法第 2 条第 3 項第 1 号 ・制限法律:社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 1 号 (137 字) 「協議し指導」が、社会保険労務士法第 2 条第 3 項第 1 号 にあたると考えた場合 依頼は受けられない。A との従前の協議が、社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 1 号ないし第 2 号に該当するため、当該 B 社の依頼は、 解答指針 A の同意の有無にかかわらず、受任できない。 (82 字) 依頼は受けられない。A の意思表示が 「あっせん申請をしたい」と、あっ せんにより解決する方針を固めており、当該協議は、受任前の紛争解 決手続代理業務となる。したがって社会保険労務士法第 22 条第 2 項 の制限を受けるため、紛争の相手方 B 社の依頼は受けることができ ない。 7 (128 字) 8 4 「社会保険労務士法第 22 条第 2 項第 1 号ないし第 2 号」と した理由 アドバイス 本問では、社会保険労務士法第 22 条第 2 項ただし書にお ける「同意」についての理解ができているかが問われています。 したがって、 「第 2 項」というひとくくりにはできないのです。 また、同項第 1 号と第 2 号における「協議」に対しての、特 定社会保険労務士のリアクションのありようにより、 「賛助(助 言) 」なのか「程度及び方法が信頼関係に基づくもの」なのか で異なりますが、その垣根は低く、どちらともとれるので、 小問(1)では、 「少なくとも第 2 項第 2 号」とし、小問(2) では「第 2 項第 1 号ないし第 2 号に該当」という表現にして います。試験ですから、手堅く得点を稼ぐためにも、あいま いな場合には、断定的な表現を避けるようにしてください。 9