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JPEC 世界製油所関連動向 - 石油エネルギー技術センター

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JPEC 世界製油所関連動向 - 石油エネルギー技術センター
2010 年 7 月 27 日(火)
JPEC 世界製油所関連動向
(2010 年 –6 月度)
(財) 石油産業活性化センター
調査情報部
目 次
概 況
1. 北 米
2 ページ
2. ヨーロッパ
6 ページ
3. ロシア・NIS諸国
7 ページ
4. 中 東
8 ページ
5. アフリカ
8 ページ
6. 中 南 米
9 ページ
7. 東南アジア
10 ページ
8. 東アジア
11 ページ
9. オセアニア
12 ページ
※ 「世界製油所関連動向」の過去のレポートは石油産業活性化センターの
ホームページから閲覧することができます。
=> http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery.html
1
概 況
ケンブリッジ・エネルギー研究所(IHS CERA:IHS Cambridge Energy Research
Associates)は、定期的にエネルギーに関わる幾つかの指数を公表しているが、その中
の一つに石油下流部門建設コスト指数(DCCI:Downstream Capital Costs Index)があ
る。
製油所や石油化学設備の建設コストについて、
その時点の建設費が基準年である2000
年を 100 とした場合と比較し、同等の設備を建設した場合に幾らと見積れるか検討し指
数化したものである。
DCCI の推移を見ると(*1)、これまで 2008 年第 3 四半期の 187 を最高値とし、2009 年
第 1 四半期にはピーク時に比較して 9%低下し 170 を示したが、その後、同年第 3 四半期
には 173 を示し、上昇傾向を表していた。続く 2010 年第 1 四半期の DCCI は 175 で更に
1.5%上昇し、ピーク時には及ばないものの製油所建設コストが昨年来、確実に上昇傾向
にある事を示している。
IHS CERA の解説では、精製マージンは依然として低いが世界経済が回復基調にあり、
建設資基材等のコスト上昇を促していることや不況前から開始されていたプロジェクト
を終了させようとする継続的活動が指数を押し上げているとしている。
現在、北米、西ヨーロッパ及び日本では精製能力の余剰が叫ばれており、今後も合理
化・整理が進められると予測されているが、石油製品需要が好調で政府の精製能力増強
方針が執られている中国、インド及び中東では建設工事が継続していることは見逃せな
い。HIS CERA は、この様な環境下で上昇に転じている DCCI は、近い将来、2008 年の最
高値に到達するのではないかと予想している。
IHS CERA は簡単な説明として、DCCI は建設コストの平均的な変動を表す「消費者物価
指数」の様なものであるとしている。10 年前と比較して製品の品質や製油所設備構成が
大きく変化している現在、DCCI が建設コストの実態を的確に表わしたものであるか否か
は検討を要するが、DCCI の上昇傾向が石油精製業全体の復調を示すものであれば歓迎し
たい数値である。
(*1) http://ihsindexes.com/dcci-graph0608.htm
1.北 米
(1) カナダ産原油と米国への輸送及び製油所処理
カナダ石油生産者協会(CAPP:Canadian Association of Petroleum Producers)は、
毎年オイルサンド由来の原油を含む国内石油生産量予測を発表している。今年も 2010 年
度版として「2010-2025 Canadian Crude Oil Forecast and Market Outlook」(*2)を 6
月に公表した。
2
同資料中にはカナダ産原油の生産量予測のほか、主要市場となる米国の動向、米国ま
での輸送パイプライン関係情報、同原油の処理製油所情報も併記されており、参考にな
る情報が多く含まれている。
同資料に記載されている原油生産量の推定値は、将来のオイルサンド事業の展開を考
慮し、一定の期待値を含ませた予測値と既存プロジェクト及び建設中のプロジェクトを
ベースとして算出した言わば最小予測値の両建てで記載されている。
今年の特徴としては、オイルサンド開発が競合できる程度にまで WTI 原油価格が上昇
していることに伴い、かつて開発を一時延期していたプロジェクトが活動を再開し始め
ていることに注目している。
ここで CAPP の資料に基づく原油生産量並びにオイルサンド由来の原油生産量予測を
まとめて転載すると表1に示す通りで、総原油生産量に占めるオイルサンド由来の原油
の割合は、2009 年における実績値では 50%弱であったが、2015 年には 65%前後、2020 年
には 68~74%と予測しており、カナダでは通常油田の枯渇に伴いオイルサンドが大きな
ウェイトを占めていく様子が窺える。
表1.カナダ産原油生産量予測
[単位:千 BPD]
原油生産年
実績
予 測
予測ケース
2009 年 2015 年 2020 年
通 常 期 待 ケ ー 国内原油生産量
2,722
3,294
3,882
ス
オイルサンド原油(内数) 1,348
2,162
2,868
最 小 成 長 ケ ー 国内原油生産量
3,202
3,160
ス
オイルサンド原油(内数)
2,071
2,147
出典:CAPP、
「2010-2025 Canadian Crude Oil Forecast and Market Outlook」
原油市場に関しては、これまでも米国向け輸出量が大部分を占めており、この傾向が
変わる事はないと予測している。2009 年の実績として、特に多く輸出されている地域は
米国中西部(Petroleum Administration for Defense District Ⅱ: PADDⅡ)の東部域
で、米国向け輸出量の 68%がこの地域で消費されている。後述する通り、今年稼動する
カナダと米国を結ぶパイプラインも米国中西部のターミナルを終点としており、今後数
年以内の稼動を目指すパイプラインも中西部を経由して米国メキシコ湾岸部(PADDⅢ)
へ向かうルートとなっている。
米国市場でのカナダ産原油の消費予測は、CAPP が米国の関係先にアンケート調査した
結果でもあり、これらの地域での製油所拡張計画はカナダ産原油輸送用パイプライン建
設工事の進捗状況と密接に関係していると考えられる。
3
CAPP のアンケート調査に基づく米国中西部及びメキシコ湾岸部で拡張が計画されてい
る製油所は表2に記す通りで、特に中西部において重質原油処理を念頭に置いた拡張計
画がここ数年以内の完成を目指して進められていることが解る。
表2. 米国中西部及びメキシコ湾岸部での製油所拡張計画
カナダ産原油を米国へ輸送するパイプラインの状況を見ると、今年中に 88.5 万 BPD 分
の輸送能力を持つ米国向けパイプラインが稼動する。一つは Enbridge 社の「Alberta
Clipper」で、アルバータ州 Hardisty とウィスコンシン州 Superior を結ぶパイプライン
である。このパイプラインは既存ラインの拡張工事を行ったもので、45 万 BPD の輸送能
力拡張に当り、今年 4 月から稼動し始めている。二つ目は TransCanada 社の「Keystone」
で、同じく Hardisty からイリノイ州 Wood River 及び Patoka ターミナルまで新設された
パイプラインで、今年 7 月には稼動を開始する。輸送能力は 43.5 万 BPD である。
米国メキシコ湾岸部(PADDⅢ)の市場をにらんだパイプライン設置工事も幾つか申請
されているが、中でも TransCanada 社の「Keystone XL」プロジェクトが進んでいる。こ
のプロジェクトは、Wood River 及び Patoka ターミナルまで新設された Keystone パイプ
ラインをカンザス州とネブラスカ州の州境にある Cushing ターミナルまで延長し、15.5
万 BPD の追加輸送を 2011 年に可能ならしめる「Keystone Extension」プロジェクトと
Cushing からメキシコ湾岸まで更に延長し、2013 年までに 70 万 BPD の輸送を可能とする
プロジェクトの 2 つで構成されている。
カナダ産原油を米国メキシコ湾岸部に輸送するために重要な位置を占めている
「Keystone XL」プロジェクトであるが、BP のメキシコ湾における原油流出事故やオイ
ルサンドに起因する環境問題を重要視した米国下院エネルギーおよび商業委員会の委員
長である Henry Waxman 議員が、
7 月に入り Keystone XL の建設に反対の立場を鮮明にし、
政権に工事中止を働き掛けており、同プロジェクトの実現は雲行きが怪しくなりつつあ
る。
4
(*2) http://www.capp.ca/getdoc.aspx?DocId=173003
(2) 6 月度の米国製油所動向
今月度、米国における製油所の動きとして以下に記す情報が得られている。
① Billings 製油所のディレードコーカー、アップグレード工事
ConocoPhillips のモンタナ州 Billings 製油所(6.4 万 BPD)にあるディレードコーカ
ーのアップグレード工事に伴うコーカードラムの輸送が始まった。製造元は隣のアイダ
ホ州 Lewiston で、同所から陸路で 7 月に 1 基目を、8 月中旬に 2 基目を輸送する。
輸送する構造物(全長 69mx直径 9m)の輸送は約 1,100km の行程を 1 ヶ月かけ、夜
間のみで行うことになる。尚、Billings 製油所での設置工事終了は 2011 年夏が予定さ
れている。
② Superior 製油所のアップグレード工事
Murphy Oil がウィスコンシン州に持つ Superior 製油所(3.5 万 BPD)のアップグレー
ド工事を終了させている。工事自体は 5 月に完成しており、目的も製油所としての増処
理を伴うものではなく、環境保護局(EPA)が提示している基準の遵守を目的とする低硫
黄ディーゼル製造用の工事となっている。
EPA 基準に基づくと 2006 年以降、ディーゼル中の硫黄分は 500ppm 以下から 15ppm 以
下としなくてはならなかったが、同基準の小規模製油所への適用には 4 年間の猶予期間
が与えられていたために、Murphy でもこの適用を受けて今回の工事となっている。
今後、同製油所では 2011 年から規制が始まるガソリン中のベンゼン量低減に向けた工
事として精留塔の新設が計画されている。
③ Wood River 製油所の拡張工事
ConocoPhillips は、Encana Corp.がカナダで行っているオイルサンド開発事業の権益
を受ける代わりに米国イリノイ州の Wood River 製油所及びテキサス州 Borger 製油所の
権益を Encana に譲渡し、これらの製油所でオイルサンド由来の重質油処理を共同事業と
して行う旨の契約を 2008 年に取り交わしている。
その後、昨年になって Encana から分離独立した Cenovus Energy Inc.がこれらの事業
を継承する事となり、現在では ConocoPhillips と Cenovus Energy の共同事業となって
いる。尚、両製油所の運営・運転は ConocoPhillips が実施している。
Wood River 製油所では 6.5 万 BPD のコーカーの新設を含む製油所拡張工事が進められ
ており、2011 年中期の稼動に向け、現在では 80%程度の完成になっていると言われてい
る。この新設コーカーが完成すると Wood River 製油所のコーカー能力は 8.3 万 BPD に増
5
強され、Borger 製油所にある 2.5 万 BPD のコーカーと合わせると 10.8 万 BPD の処理能
力を誇る事になる。更に、両製油所の重質油処理能力は合計 27.5 万 BPD になる予定であ
る。
今後、両社はオイルサンド事業の拡充を図る事にしているため、2012 年にはオイルサ
ンド由来の原油生産量が両製油所処理能力を上回ると考えられるが、両社は余剰分を原
油あるいはビチューメンとして販売する方針であると言われている。
2.ヨーロッパ
(1) OMV の重要戦略地域と事業集約
オーストリアの巨大石油会社 OMV の株式構成は 31.5%を政府が所有、20%をアブダビ国
際石油投資会社(IPIC)が所有、残りの株式を一般投資家が所有する企業である。この
ことから、同社は国営石油会社としての側面を持ち合わせていると言える。2009 年 11
月にも報告した通り、この OMV が中央ヨーロッパ、南ヨーロッパ及びトルコを重要戦略
地域と位置付け、事業展開を図っていくことを鮮明に打ち出している。
中期的なエネルギー需要動向については、ヨーロッパ地域では石油需要は減少するが
天然ガス需要の大幅増加が期待でき、トルコでは天然ガスも石油製品も堅調な需要増加
が期待出来ると見られている。
OMV がこの地域を重要地域と位置づける理由には、トルコは地理的に天然資源が豊富
な中東とカスピ海の中間に位置していることや欧州諸国がロシアに対するエネルギー依
存を低減する目的で天然ガスをカスピ海からトルコ、バルカン半島を経由し、オースト
リアに集積した上で同国から欧州各国に供給する目的で建設する「Nabucco ガスパイプ
ライン」の権益を OMV が 16.67%持っていることも同社が当該 3 地域を重要戦略地域と位
置付けている要因になっている。
最近この OMV が石油上流分野へのシフトを加速しており、
2015 年までに資本支出の 50%
以上を上流部門に集約する方針で事業の再構築と非中核石油資産の売却を進めている。
具体的な動きとしては石油メジャーと同じく精製部門の整理が大きなウェイトを占めて
おり、例えば、ルーマニア子会社の Petrom が所有する 7 万 BPD の Arpechim 製油所を、
2012 年を目途に売却あるいは閉鎖する方針である。
(2) Eni、Sannazzaro 製油所に EST コンプレックスを建設
Eni 社はイタリア北部にある Sannazzaro 製油所(17 万 BPD)に水素化分解装置を建設
する計画を進めていたが、資金調達が思うように進んでいなかった。この度、設備投資
総額約 13.2 億ドルの内、欧州投資銀行(EIB:European Investment Bank)が約 5.4 億
ドルを融資することになり、資金調達に見通しがついたことで建設に弾みがついた。
6
この装置には Eni が独自に開発した EST 技術(Eni Slurry Technology)が使われてい
る。同技術を採用した装置では、重質油を接触水素化分解することにより低硫黄(10ppm
以下)のディーゼルが製造出来る。Sannazzaro 製油所に建設する装置は 2.3 万 BPD の能
力で、減圧残油を原料とし、主要設備の他に水素製造装置(100 kNm3/h)や硫黄回収装
置(80 トン/日、2 系列)が建設され、2012 年末に稼動する予定である。装置の基本設
計並びに FEED は Snamprogetti/Saipem が実施済みで、既に環境影響評価報告書(*3)の作
成・提出も終了している。
尚、Eni が開発した EST 技術の実証化装置(1,200BPD)はイタリア南部にある同社の
Taranto 製油所(11 万 BPD)に建設され、2005 年 11 月から各種原料を使った運転がなさ
れており、これまでにウラル原油、アサバスカ・ビチューメン、バスラ原油等の減圧残
油やビスブレーカー残油で運転したデータが採取されている。
(*3) http://www.eib.org/attachments/pipeline/20100027_nts_it.pdf
3.ロシア・NIS 諸国(New Independent States)
(1) カザフスタン、Pavlodar 製油所の売却を検討
カザフスタンは今後 5 年以内に政府が所有していた主要国営会社の権益を一部売却す
る計画である。売却予定の企業の中には銀行やエネルギー関係資産が含まれている。こ
の流れの中で、国営石油ガス会社・KazMunaiGaz が所有する同国最大規模の Pavlodar 製
油所(15 万 BPD)の権益の半分を売却する検討も進められている。
カザフスタンの総精製能力は小さく約 26 万 BPD である。従って、同国内では Pavlodar
製油所の精製能力は 50%以上を占めている事になる。同製油所を取り巻く課題は、ロシ
ア原油がパイプラインで直接輸送されてくるシステムになっているが、裏返すとロシア
の影響を直接受ける状況になっていること、カザフスタンには石油製品販売に絡む各種
規制があるため国外企業の参入が困難なことが上げられ、
過去、
ロシアのLukoil、
Rosneft
及び Gazpromneft も同製油所買収に関心を寄せていた時期があったが、これらの問題の
ために買収を断念している。
今回、売却交渉中の相手は TNK-BP(ロシア・チュメニオイルと BP の合弁、ロシア第
3位の石油会社)で、政府としては Pavlodar 製油所の権益の 50%を売却する予定である
が、TNK-BP としては製油所買収のみならず同国内で販売店網を展開している Gelios
(Helios)社の買収もセットで交渉したいとしている。大方の予測としては年末までに
は売却することで決着する目途が立ってきているとされている。
7
4.中東
(1) イランにおける製油所建設・拡張計画の進捗
西側諸国による経済制裁が続くイランでは、多くの製油所建設計画を実行に移そうと
しているが、国内だけでは建設費調達が思うように進まず、海外機関による融資や建設
計画への参加を切望している。そのために製油所処理原油価格の割引、政府による国際
価格での製品の買上げ、優遇税制措置等、様々な有利な条件を提示しているが、海外企
業の融資や参加が得られたとの情報は無く、計画が進められている様子は見受けられな
い。
この様な状況にあるイラン国内の製油所状況に関して、バーレーンで開催された国際
会議「Heavy Oil World MENA 2010」に出席したイランの副石油相兼 National Iranian Oil
Refining and Distribution Co.(NIORDC)社長である Shahnazi Zadeh 氏が言及し、同国
では 114 億ドルを掛けて既存製油所のアップグレードを急いでおり、このアップグレー
ドが終了すれば 2 年以内にガソリンの自給が可能になるとの見通しを発表している。
また、2008 年 12 月度に報告している通り、現在同国で建設中あるいは計画中の 7 箇
所の製油所の内 2 箇所の製油所では重質原油の処理が可能な設計になっていることやこ
れらの製油所が完成すれば、ガソリン生産量は現在の 4 倍に、また、軽油の生産量は 2
倍になることを明らかにしている。更に、7 箇所の製油所建設には 270 億ドルの投資を
要するが、この内の 20%を政府が融資し、残りを国内外の各種機関からの融資に期待す
る旨の発表も行っている。
5.アフリカ
(1) エジプトにおける常圧残油処理装置群の建設計画
世界銀行の投資部門の機関である国際金融公社(IFC:International Finance
Corporation)は、Egyptian General Petroleum Corp.の子会社である Cairo Oil Refining
Co.がエジプトの首都カイロ近郊で計画している設備投資総額 37 億ドルの製油所建設プ
ロジェクトに対し、投資会社の Citadel Capital (CCAP) 経由で 1.2 億ドルを融資する
と発表した。これに先立つ 2010 年 3 月には日本の国際協力銀行(JBIC)が同製油所建設
に係わる 9 億ドルの融資を発表している。
当該製油所建設計画の情報は 2 月度でも報告している通りであるが、計画上の製油所
稼動時期は 2013 年末とされている。更に、国営石油会社の Egyptian General Petroleum
Corp.が製品を市場価格で 25 年間買取り、販売する事になっている。
また、製油所建設地はカイロの北東約 10km のところにある Mostorod 製油所(14.2 万
8
BPD)に隣接した場所で、新製油所は同製油所で製造される常圧残油を原料とし、ディー
ゼル等の軽質油を製造する一連の装置群を建設することになっている。少し古い情報に
なるが 2009 年 3 月時点で公表されている環境影響評価結果絡みの同計画に関する資料
(*4)を添付するので参考としていただきたい。
(*4)
http://www.afdb.org/fileadmin/uploads/afdb/Documents/Environmental-and-SocialAssessments/Egypt_ERC_EIES_Non-TechnicalSummary_Final_March18_2009.pdf
6.中南米
(1) Tula Bicentenary 製油所を取り巻く最近の情報
メキシコ国営石油会社の Petroleos Mexicanos (Pemex)が 30 年ぶりに Hidalgo 州 Tula
に建設する 30 万 BPD の新製油所は、メキシコがスペインから独立して 2010 年が 200 年
の区切りの年になるため“Tula Bicentenary refinery”と呼ばれている。現在では新製
油所建設用地の買収も最終段階を迎え、関係機関がスペインによる征服以前の考古学的
遺跡の保全に取り掛かっているところである。
これまでも度々触れてきている様に、メキシコのガソリン消費量は国内で生産される
量だけでは足りず、既存製油所の近代化・拡張に加え新製油所の建設が叫ばれてきた。
ガソリン需給の実績を見ると、国内消費量は平均して約 79.4 万 BPD で、設備能力として
はほぼ見合った能力を有しているが、保守・保全が充分なされてきていないために実稼
動率や製品品質面で劣り、これまで平均して約 35 万 BPD のガソリンを主として米国から
輸入してきている。今後の需要増を考慮すると、上記の Tula Bicentenary 製油所の新設
によるガソリン生産だけでは国内需要に対して不足している事が理解できる。
この様な状況下、6 月末にインドの Reliance Industries Ltd. (RIL)と Pemex が共同
でメキシコに製油所を建設する旨の報道が数多く流された。その多くはインド側から報
道された記事と見られ未確定事項とされているが、RIL が Tula Bicentenary 製油所の建
設をジョイントベンチャーとして行うか、同建設に関わる何らかの請負契約を受ける可
能性があるとするものである。この報道に対しメキシコの Georgina Kessel エネルギー
相は、
“メキシコの法律では海外企業と共同事業で製油所建設計画を進めることが許され
ていない”とし、RIL との共同事業化を否定した上で、
“新製油所建設を側面から支援す
る”可能性を示唆している。
RIL の Jamnagar 製油所(新旧合計で 124 万 BPD)製品のインド国内向け供給過剰、更
には先月度報告した様にメキシコにおける製品供給不足解消の一方策として、海外製油
所能力の積極的利用等を模索していることを考え合わせると、RIL からのガソリン輸入
を念頭に置いた報道とも受け取れ、今後の推移に関心が持たれるところである。
9
7.東南アジア
(1) ベトナムの製油所状況と日本からの投資
Nghi Son Refinery and Petrochemical LLC (NSRP)は、クウェート国営石油会社(KPI)
と出光興産が各 35.1%、
ベトナム国営石油会社の PetroVietnam が 25.1%、
三井化学が 4.7%
を出資する合弁企業で、ベトナムの首都ハノイの南、約 200km にある Thanh Hoa 省 Tinh
Gia 地区 Nghi Son に 20 万 BPD の製油所並びに石油化学コンプレックスの建設に向けて
計画を展開中である。
建設地となる土地の整地作業も終了し、10 月初旬には引渡しが行われる見通しとなっ
ており、これと機を合わせるようにプロジェクト側では製油所建設に向けたエンジニア
リング会社を選定し契約に漕ぎ着けたいとしている。製油所建設の応札には日本のほか
韓国、イタリア、米国等の企業が応じると予想される。
昨年、ベトナム初となる Dung Quat 製油所(14 万 BPD)が完成し、製品製造を開始し
ているが、国内需要を満たすには程遠く、既に同製油所の拡張計画も浮上している。国
内の第 2 製油所とも言うべき Nghi Son 製油所が稼動を開始するのは 2014 年が予定され
ており、両製油所で国内消費量の約 80%に対応出来るとしているが、精製能力不足は当
面解消されそうにない。
この様な折、日本の政府・企業の協力に期待を寄せるベトナムと日本貿易振興機構
(JETRO)との間で共同セミナーと商談会が 6 月下旬に東京で開催されている。同セミナ
ー・商談会では多くの案件が話合われているが、石油関連事項では同国での第 3 製油所
とも言うべきベトナム南部・Ba Ria-Vung Tau 省の Long Son で 2016〜20 年の稼働が予
定されている製油所建設計画が取上げられている。同製油所の能力は約 20 万 BPD、投資
総額は 70 億〜80 億ドルと想定されている。
PetroVietnam では、
今年末までに同製油所建設の共同事業者の選定を行いたい意向で、
日本からの投資や参加に期待を寄せている。金融機関もベトナムのインフラ事業に乗り
出そうとしている韓国やロシア等に官民一体となって対抗すべく、三井住友銀行や国際
協力銀行(JBIC)が進出する日本企業の貿易・投資活動を金融面から支援するための覚
書を PetroVietnam と締結している。
(2) シンガポールの石油精製を取り巻く環境
昨年、中国やインドでは石油精製能力が大幅に追加されている。数値的にはこれらの
国々には及ばないがタイでは5.5%の増強があり、
同国の総精製能力は124万BPDになり、
インドネシアでは 3.6%増強され、総精製能力が 110 万 BPD になっている。精製能力の増
強が行われていないシンガポールの総精製能力は 138 万 BPD で、これまではヒュースト
ン、ロッテルダムに次いで世界第 3 位の一大石油精製拠点であったが、上記したように
10
近隣諸国の精製能力が増強されるに伴い、その面影が薄れつつある。
石油製品の輸出面では、タイやインドネシアは今のところシンガポールの脅威となっ
ていないが、中国やインドと同様に近い将来競合してくることは容易に想定できる。シ
ンガポールの石油精製の将来を憂える専門家は、
「最近建設されたインド・Reliance 社
の Jamnagar 製油所の様な最新式製油所は大型で、運転コストは低く、装置の“複雑度
(complexity)
”を高く取っているので高付加価値製品の製造量が多く、重質燃料油の製
造量が抑えられている」
、としている。
一方、シンガポールの製油所の複雑度は、
「これらの最新式製油所に比べると約半分の
値でしかない。
」として近隣諸国に伍していくには、
「処理原料の多様化策はもとより、
装置の複雑度を早急に上げるための官民一体となった製油所の近代化を図る必要があ
る。
」としている。
シンガポールの強みは石油化学とのコンプレックスを形成していることで、これまで
長年に亘り多額の投資がなされ、他に類を見ないくらいに石油化学との集約が行われて
きている。石油化学との集約のみならず潤滑油製造設備の整備が進んでいることを利点
として上げる専門家も多く、これらの強みを生かし、近隣諸国との競争に勝ち抜いてい
く方策を探るべきだと提言している。
8.東アジア
(1) 中露原油パイプライン設置工事状況
東シベリア-太平洋原油パイプラインの第 1 期工事(ESPO-1)の終点に当る極東連邦
管区 Amur 州 Skovorodino から中国・黒龍江省の大慶に至る ESPO 支線敷設工事(中露原
油パイプライン)は、これまでロシア及び中国がそれぞれ自国内設置工事を行っていた。
ロシア側に関しては 2009 年 4 月に着工され、
溶接工事は昨年末に完成している。
現在、
ポンプ・ステーションの機器設置が行われており、8 月末には運用が可能になる状況であ
る。中国側の漠河-大慶間に関しても溶接工事は終了したとメディアは報じており、新華
社によると、今年 10 月には大慶の製油所向けに送油を開始するとしている。
China National Petroleum Corp.(CNPC)とロシア国営石油会社の Rosneft 及びパイプ
ライン会社の Transneft とは 2009 年に 20 年間に及ぶ長期石油売買契約を締結しており、
この契約に基づきロシアは 2011 年~2030 年の間に中露原油パイプライン経由で年間
1,500 万トン、合計 3 億トンの原油を中国に供給することになる。
(2) 日本における次世代合成燃料を使用したバスの実証運行
11
国土交通省は、独立行政法人交通安全環境研究所を中核的研究機関として、産学官の
連携により「次世代低公害車開発・実用化促進プロジェクト」を実施している。このプ
ロジェクトでは、次世代低公害トラック・バスの技術開発や次世代合成燃料の実証実験
を推進してきているが、実証実験の一つとして、この度、東京都、トヨタ自動車、日野
自動車、昭和シェル石油の協力を得て「既存のディーゼル車への次世代合成燃料の適合
性の検証」並びに「次世代合成燃料専用自動車による実証」を行うことになった(*5)。
前者の実証期間は 7 月 12 日から 2 か月間程度、後者の実証期間は 7 月 1 日から 12 月
23 日までの半年弱になっており、両者共に使用燃料は FTD(Fischer-Tropsch Diesel)
燃料に HVO(Hydorotreated Vegetable Oil)燃料を 20%混合した油となっている。
FTD 燃料は Fischer-Tropsch 製法により合成された液体燃料を指し、今回使用するも
のはマレーシアの Shell 社 Bintulu 工場で天然ガスを原料とし、Fischer-Tropsch 製法
により合成された GTL(Gas to Liquids)燃料である。他方、HVO 燃料は水素化バイオデ
ィーゼル燃料と言われており、植物油や動物油などを水素化処理することにより得られ
る液体燃料であるが今回用いる HVO 燃料は植物油を原料としたものが用いられる。これ
までも同プロジェクトでは HVO 燃料を化石燃料に 10%混合した燃料を用いた実証実験を
行ってきている。
FTD-HVO 混合液体燃料を使用した長期運行は、今回が初めての実験であるが、車両改
造の必要性、排出ガス性状、車両の燃料噴射系部品や燃料ホース等への影響が調査され
ることになっている。
尚、
(財)石油産業活性化センター(JPEC)でも経済産業省の支援を受け、地球温暖化
問題への対応やエネルギーセキュリティーを視野に入れ、自動車・燃料利用技術の確立
を目指したプロジェクト(JATOP:Japan Auto-Oil Program)を自動車業界と共同で展開
しており、このプロジェクトで「軽油への高濃度バイオマス混合が最新ディーゼル車両・
エンジンからの排出ガスへ及ぼす影響について」調べている。この成果の一部が JPEC の
公表資料(*6)に掲載されているので、参考資料として紹介する。
(*5) http://www.epohok.jp/modules/bulletin3/index.php?page=article&storyid=726
(*6) http://www.pecj.or.jp/japanese/jpecnews/pdf/jpecnews201005.pdf
9.オセアニア
(1) オーストラリアの天然資源に対する新税導入について
2010 年 5 月に新税案として発表された資源超過利潤税(RSPT:Resource Super Profits
Tax)を巡りオーストラリアの政界が大きく揺らぎ、労働党首相の交代にまで至っている。
RSPT 自体はここ数年成長著しい天然資源産業に照準を当て、原油や炭層メタン等の天然
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資源の採掘で得た利益に対して基準を設定し、その基準を超過した利潤分に対して 40%
の税率を課すというもので、財政赤字を抱える政府が 2013~2014 年に黒字化するための
財源の一つとして検討を重ねてきたもので、
2012年7月1日以降の施行を予定していた。
石油業界に関しては RSPT と同じ税率の石油資源利用税(PRRT:Petroleum Resource
Rent Tax)が 1980 年代から施行されているが、天然資源産業界は新税制の導入に強く反
対して新政権との協議を重ねていた。7 月に入り、大手鉱山企業 3 社と合意した新政権
は RSPT を廃案とし、代わりに鉱物資源使用税 (MPPT:Mineral Resource Rent Tax)法案
で置き換えることを明らかにしている。
この MPPT は鉄鉱山と石炭のみに適用され、税率も引き下げられる代わりに一定利率で
長期国債の利率と連動しているほか、PRRT 石油資源使用税についてはこれまで適用外の
ものがあったが、MPPT では全てのものに適用されるなど問題がなお含まれていそうであ
る。協議に参加しなかった中小の鉱山業者団体は必ずしも MPPT に賛同しておらず、新税
導入に当っては今しばらく不安定な状態が続くものと思われる。
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編集責任:調査情報部 ( [email protected] )
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