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メキシコの石油・ガス産業の現状~原油生産減少への対応策を模索する

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メキシコの石油・ガス産業の現状~原油生産減少への対応策を模索する
JPEC レポート
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第 11 回
2011年度
平成 23 年 8 月 12 日
メキシコの石油・ガス産業の現状
~原油生産減少への対応策を模索する世界 7 位の石油生産国~
メキシコは 1821 年にスペインから独立、大統領を元首とする連邦共和制国家である。北米南
部に位置し、面積は日本の 5.2 倍で世界第13 位、国土北部の平均標高は 1,000m 前後・中央部
は 2,000m 前後の高原の国である。通貨はメキシコ・ペソ(MXN)、公用語はスペイン語。
2011 年時点の推計人口は 1 億 970 万人、首都はメキシコシティで市内人口は約 900 万人で
ある。名目GDP は約85 兆円(2010 年度実績)、中南米諸国ではブラジルに次ぐ経済規模で、主
に石油や宝石の輸出・水産業・製塩業・観光業などで外貨を獲得している。しかし近年は工業
化が進み自動車・製鉄・家電などの生産量が拡大している。
また、同国は世界第 7 位の石油生産国であり、2010 年の全輸出収入の 14%を石油が占めて
いる。しかし、大手石油生産国でありながら石油輸出国機構(OPEC)には加盟していない。政府
歳入の 32%を石油分野が占めており、石油産業の動向が直接、国全体の財政バランスに影響を
及ぼす構図になっており、国内エネルギー消費量の 58%を石油、30%を天然ガスに依存してい
る。近年は原油産出量が減少してきており、政府はメキシコ湾での原油・天然ガス田の探鉱、資
源開発に力を入れており、また北部では天然ガスやシェールガスの開発も進めている。
1. 石油産業
(1)国営石油会社 : Pemex
1938 年に石油分野が国有化され、メキシコで唯一の石油会社としてメキシコ石油公社
(Pemex) が設立された。Pemex は 4 つの子会社 (Exploration and Production、Gas and Basic
図 1. メキシコの概略地図
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図 2. メキシコのエネルギー消費内訳
Petrochemicals、Petrochemicals、Refining) をもつ世界最大級の石油・ガス会社の 1 つである。
同社は 2011 年3 月、20 鉱区を国際的な入札者に提供するため、国有化以来・同国初の石油
生産ライセンシングラウンドを発表している。
また同社は国内に約 500 本・総延長 4,800km 超に及ぶ広範囲な石油パイプライン網(主要石
油生産センター~製油所と輸出基地)を築いているが、近年、タップスィフト(パイプラインを開孔
して石油を盗む者)が増え、年間 20~30 億ドルの損失が発生し重大問題となってきている。
(2) 石油埋蔵量
OGJ発表の 2011年1月時点の石油確認埋蔵量は 104 億バレルで、大半が重質原油である。
同国南部沖(特にカンペチェ海盆)に最も多く、同国北部の内陸盆地もかなりの量を埋蔵してい
る。
(3) 石油の生産と探査
①海洋油田
石油のほとんどは同国南東部メキシコ湾内の小湾・カンペチェ湾で生産されている。同湾内
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のカンタレルとクマロブサップ(KMZ)の 2 つの生産センターがメキシコの原油生産量合計の 54%
を生産しているが、しばしば、当該海域を通過する熱帯性低気圧やハリケーンによって石油生
産の中断を余儀なくされている。
かっては、カンペチェ湾内のカンタレル油田は世界最大級の油田の 1 つであったが、ここ数
年間、生産量が劇的に減少してきている。2010 年の生産量は 55.8 万 BPD で対前年比 19%減、
また、2004 年のピーク生産量(214 万 BPD)から 74%減となっている。
カンタレル油田に隣接して発見されたクマロブサップ油田が現在同国最大の生産量を占め
ている。Pemex が当該油田に対し窒素再注入法を採用、2010 年の生産量は 83.92 万 BPD で、
ここ 4 年間で倍増している。
カンペチェ湾南西部の Abkatun-Pol-Chuc 油田とリトラルタバスコ油田の 2010 年の合計生産
量は 24.81 万 BPD で前年(21.23 万 BPD)を上回っており、これらの油田の増加分がカンタレル
油田の減衰分の一部を穴埋めしている。
図 3. メキシコ湾内の海洋油田鉱区
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②陸上油田
同国南部で最大の陸上油田はサマリアルナ油田で、2010 年の生産量は 20 万 BPD であった。
Pemex は 2008 年に同国北部で新しい内陸油田を開発し、2010 年には 4.1 万 BPD の原油を生
産した。他に 10 万BPD を超えない小規模内陸油田が数多く存在するが、陸上油田の総生産量
は全生産量の約 25%に過ぎない。
図 4. メキシコの主要油田の生産量(2010 年)(百万BPD)
図 5. メキシコの主要油田の原油生産量の推移(千BPD)
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現在、メキシコシティ北東内陸部の Chicontepec 盆地(3 州に跨る約 3,800km2 のエリア)で
Chicontepec 石油開発プロジェクトが進行中である。まだ、当該エリアの石油生産量は僅か約 3
万BPD であるが、プロジェクトオーナーである Pemex は積極的な掘削計画によって劇的に増え
ることを期待し、2017 年までに 55~70 万 BPD に上げる目標を立てている。なお、Pemex は
Chicontepec 油田の可採埋蔵量を 177 億バレルと推定している。
(4)石油の輸出入
①石油の輸出
Isthmus 原油と Olmeca 原油は軽質だが、高硫黄重質のマヤ原油がメキシコ産原油の約 60%
を占めている。軽質原油を国内消費に向け、重質原油を処理する高度な精製設備をもっている
米国メキシコ湾岸地域にマヤ原油を輸出している。2010 年に原油を 130 万BPD 輸出した。その
ほとんどが米国向け(114 万BPD)であった。米国へは石油製品も 14 万BPD 輸出しており、石油
合計として約 130 万 BPD 輸出した。米国の石油輸入先として、メキシコはカナダについで 2 番
目に位置している。
図 6. 米国の原油輸入国:上位 5 カ国(2010 年、百万BPD)
②石油の輸入
世界最大の原油輸出国の 1 つであるにも拘らず、国内の石油製品消費量が原油精製能力を
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上回っており、メキシコは石油製品の純輸入国となっている。2009 年には石油製品を 49.6 万
BPD 輸入し、その約 60%はガソリンであった。
(5)製油所
国内に 6 製油所があり、全て Pemex が所有している。原油精製能力合計は 154 万 BPD で、
各製油所の原油処理能力は下記のとおりである。
Pemex は石油製品の輸入量を低減する目的で、2011 年 3 月に約 100 億ドルを投じてイダル
ゴ州トゥーラで新製油所(30 万 BPD)建設を開始した。又、既設のミナティトラン製油所のディー
ゼル生産能力を 3.4 万 BPD・ガソリン生産能力を 4.73 万 BPD 増強する工事が 2011 年 8 月まで
に完了する見込みである。因みに、Pemex は国外で米国テキサス州ディアパーク製油所(34 万
BPD)の 50%の権益を保有している。
・ 南東部内陸のミナティトラン製油所(18.5 万 BPD)
・ 北部内陸の Cadereyta 製油所(27.5 万 BPD)
・ 中東部内陸のトゥーラ製油所(31.5 万 BPD)
・ 中南部内陸のサラマンカ製油所(24.5 万 BPD)
・ 東部メキシコ湾岸のシウダードマデロ製油所(19.0 万 BPD)
・ 南部太平洋岸のサリナクルース製油所(33.0 万 BPD)
2.天然ガス資源
(1)天然ガスの埋蔵量
OGJ 発表の 2011 年 1 月時点の天然ガス確認埋蔵量は 3,400 億 m3 で同国南部地域が多く
埋蔵している。しかし、Pemex は北部地域の推定埋蔵量が南部地域のほぼ 10 倍あり、将来の埋
蔵量成長の中核になるだろうと見ている。
(2)天然ガス企業
天然ガス探査はPemexが独占している。政府は 「非随伴ガス開発の国際企業への開放」 や
「天然ガスの輸送・貯蔵・配給分野の民間企業への開放」 などで開発や流通分野での自由化
を促進しているが、現在までまだ 1 社も参加していない。
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(3)天然ガスの生産と探査
メキシコの全土で天然ガスが生産されている。2010 年の生産実績では、北部内陸部のガス
田が全生産量の 36%・南部内陸部のガス田が 25%・カンペチェ湾の海洋ガス田が残り(39%)を占
めている。2010 年に 590 億 m3 の天然ガスを生産、国内消費量は 620 億 m3 で、不足分を米国
からのパイプライン経由および諸国から LNG として輸入した。2007 年以降、天然ガス消費量は
着実に伸びている。
図 7. メキシコの天然ガス生産量と消費量の推移(10 億立方フィート)
現在、北部のブルゴス盆地が天然ガス探査の中心地域になっており、当該盆地で 2010 年内
に新しい 3 つのガス井が生産を開始した。加えて、Pemex は 2011 年 3 月に同国北東部のイー
グルフォード堆積層の探査井で同国初のシェールガス生産を開始した。
(4)天然ガスパイプライン
Pemex はメキシコ国内に総延長 9,170km 超の天然ガスパイプラインを操業している。当該パ
イプラインは米国のパイプラインにも繋がっており、2010 年には米国から同パイプライン経由で
97 億m3 の天然ガスを輸入した。Pemex は 12 ヶ所の天然ガス液を抽出する天然ガス処理センタ
ーをもち、同国の天然ガス配送ネットワークのほとんどを牛耳っている。
(5)LNG
国内に 2 ヶ所の LNG ターミナルが稼動中で、現在もう 1 ヶ所が建設中である。各国から LNG
を輸入しており、2009 年にはナイジェリア(74%)、エジプト、カタールから輸入した。東海岸の
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LNG 基地として、シェル・トタール・三井物産の JV が運営するメキシコ湾沿岸のアルタミラ LNG
基地(1,420 万m3/D)が稼動中、西海岸の LNG 基地として、米国カリフォルニア州拠点のエネル
ギー企業 Sempra Energy が操業する太平洋岸・コスタアスル LNG 基地(2,830 万 m3/D)が稼動
中である。現在、三井物産・韓国の KOGAS とサムスンの企業連合が太平洋岸で 2 番目の LNG
基地となるマンサニヨ LNG 基地(初期能力 1,420 万 m3/D)を建設中で、2011 年末までに稼動開
始の予定となっている。当該基地はペルーLNGプロジェクトからのLNGを長期的に受け入れる
計画である。
図 8. メキシコのパイプライン天然ガス(米国産)とLNG輸入量の推移(10 億立方フィート)
3.電力供給
メキシコの発電形式のほとんどは在来型火力発電である。以前は、発電用燃料として重油と
ディーゼル燃料が最大シェアを保持していたが、近年、天然ガスが著しく増加し、今や主要燃
料となっている。一方、2008 年以降は石炭も発電用燃料として伸びてきている。2008 年時点の
総発電能力は 5,720 万 kW で、2009 年の年間発電量は約 2,390 億 kWh であった。
メキシコ湾沿岸・ベラクルスにメキシコ国有電力会社(CFE)が操業する同国唯一の原子力発
電所がある。当該ラグナベルデ原発(136.5 万 kW)は東電福島第 1 原発と同タイプの米国 GE 社
製の沸騰水型原子炉(BWR)を 2 基保有している。福島第一原発の事故を受け、地震国メキシコ
は新たな原発建設を保留し、事故原因究明後に再検討する方針を示した。現在、全発電量に
占める原子力由来電力は約 4.5%である。
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グアテマラと国境を接する同国最南端の州・チアパス州に同国最大の水力発電所・マヌエル
モレノトレース発電所(240 万 kW)がある。2009 年における水力由来電力は全発電量の約 11%を
占めている。一方、水力を除く再生可能エネルギー由来(Non-hydro Renewable Source Energy)
電力は約 3%を占めるに過ぎない。
図 9. メキシコの電源別発電量の推移(10 億 kWh)
図 10. メキシコの電力用化石燃料消費量の推移(兆 Btu)
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4.まとめ
改めて、要点のみを箇条書きにすると、
・世界第 7 位の石油生産国でありながら、OPEC には加盟していない。
・現在、石油の純輸出国であるが、2020 年までに純輸入国になると予測されている。
・世界最大級のカンタレル油田の生産量が激減中である。
・陸上油田開発の大型プロジェクト(Chicontepec 石油開発)が進行中である。
・原油精製能力不足により、石油製品を輸入に依存している。
・北部地域に大量の天然ガスが埋蔵されていると見られている。
・Pemex が同国北東部・イーグルフォード堆積層で同国初のシェールガス生産を開始した。
・発電形式のほとんどは在来型火力発電で、天然ガス燃焼が主力となっている。
・原発は 1 ヶ所のみで、東電福島第 1 原発と同タイプの沸騰水型原子炉を保有している。
・水力を除く再生可能エネルギー由来(Non-hydro RSE)電力は約 3%を占めるに過ぎない。
以上
<出典および参考資料>
(1)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート: “Mexico Country Analysis Brief”
http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=MX )
(2)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート: “Short-Term Energy Outlook”
http://www.eia.gov/emeu/steo/pub/contents.html )
(3)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート: “International Energy Outlook 2010”
http://www.eia.gov/oiaf/ieo/index.html )
(4)Litoral de Tabasco field: リトラルタバスコ油田
http://www.searchanddiscovery.com/documents/halbouty03/images/0116.PDF )
(5)Business News Americas : Project Profiles, Chicontepec
http://www.bnamericas.com/project-profile/oilandgas/Chicontepec_,Aceite_Terciario_del_Golfo,Chicontepec )
(6)World Atlas :Gulf of Campeche(カンペチェ湾)
http://www.world-atlas.biz/images/mexico-map.gif )
(7)Wikipedia : Mexico
http://en.wikipedia.org/wiki/Mexico 、
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(8)Wikipedia : Chicontepec Field
http://en.wikipedia.org/wiki/Chicontepec_Field
(9)Wikipedia : Cantarell Field
http://en.wikipedia.org/wiki/Cantarell_Field
(10)Wikipedia : Laguna Verde Nuclear Power Station
http://en.wikipedia.org/wiki/Laguna_Verde_Nuclear_Power_Station )
(11)世界の経済・統計 情報サイト 、メキシコの人口・雇用・失業率の推移
http://ecodb.net/country/MX/imf_persons.html 、
(12)メキシコの GDP の推移
http://ecodb.net/country/MX/imf_gdp.html )
本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析し
たものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected]
までお願いします。
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