Comments
Description
Transcript
国際協力銀行の役割 - G-SEC
2015 年度グローバル金融市場論 研究論文 外貨準備の活用-国際協力銀行の役割- 慶應義塾大学 法学部法律学科 3 年 吉原菜緒 目次 はじめに 第1章 外貨準備の現状 1-1 外貨準備の定義 1-2 日本の外貨準備保有高 1-3 日本の外貨準備運用状況 1-4 外国為替資金特別会計 1-5 外貨準備増加の背景 1-5-1 為替介入 1-5-2 外貨準備運用に伴う利息等 1-5-3 IMF からの資金の借り入れ 1-6 外貨準備に対する需要 第 2 章 外貨準備の問題点 2-1 外貨準備の運用損益 2-2 米国債への一辺倒投資 2-3 外貨準備運用の不透明性 2-4 為替介入の効果 2-4-1 理論的検証 2-4-1-1 非不胎化介入 2-4-1-2 不胎化介入 2-4-1-2-1 ポートフォリオ・バランス効果 2-4-1-2-2 シグナル効果 2-4-2 実証検証 2-5 外貨準備の適正規模 2-5-1 分析結果から導く仮説 2-5-2 バッファーストックモデル(buffer stock model) 第 3 章 運用の国際比較 3-1 スイス 3-2 シンガポール 1 3-3 中国 3-3-1 外貨準備保有状況と為替介入 3-3-2 CIC による外貨準備の運用 第 4 章 外貨準備の運用方法 4-1 大量売却 4-2 政府系ファンドの設立 4-3 一般会計への繰り入れ 4-4 国際協力銀行以外の政府系金融機関による運用 第 5 章 国際協力銀行の外貨準備運用 5-1 国際協力銀行の業務 5-2 国際協力銀行による外貨準備活用の歴史 5-3 国際協力銀行の今後の外貨準備活用 5-3-1 今後の役割 5-3-2 運用額 5-4 国際協力銀行が外貨準備を運用する利点 5-4-1 国際社会における日本のプレゼンスを維持・向上させることができる 5-4-2 様々な通貨ニーズに対応することができる 5-4-3 運用のプロがいる 5-4-4 運用の透明性が確保されている 5-5 国際協力銀行による外貨準備の運用における反論とそれに対する反駁 5-5-1 国際協力銀行の規模は小さすぎるのではないか 5-5-2 政府系金融機関が民業を圧迫してしまうのではないか 結論 参考文献 2 はじめに 本論文では、日本の政府が保有する外貨準備の現状、運用状況を他国の外貨準備と比較 しながら分析する。その上で、外貨準備を今後どのように活用するべきなのか提言を行う。 近年、東アジアを中心に外貨準備高は急増しており、国際金融の大きな話題の一つとな っている。外貨準備とは通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、通貨危機等によ って、他国に対して外貨建債務の返済が困難になった際等に使用する準備資産のことだ。 すなわち、外貨準備は本来、国際収支の赤字や通貨危機に備えて、一時的に保有するもの である。 外貨準備が世界で一番多いのは中国で、日本は二番目に多い。また、東南アジア諸国は 1997 年のアジア通貨危機の際に外貨不足に陥ったために、外貨資産を多めに保有する傾向 があり、現在では多額の外貨準備を蓄積させている。財務省が「外貨準備等の状況」にて 公表した統計によると平成 27 年 4 月末における日本の外貨準備高は、1 兆 2500 億 7300 万ドル(約 150 兆 87 億 6000 万円。1 ドル=120 円で換算。以下同様に計算する)であり、 平成 27 年 3 月末と比べ、47 億 5700 万ドル(約 5708 億 4000 万円)増加した。運用状況 の詳細は明らかではないが、外貨資産の大半は、ローリスク・ ローリターンの米国債を中 心とするドル資産で運用されてきたとみられる1。 日本が多額の外貨準備を保有しているのは、日本政府の外国為替市場介入政策のためだ。 1973 年の変動相場制導入以降、概して円高であったため、為替介入のほとんどは円売り・ 外貨買いであった。介入の際には、まず国庫短期証券を発行して民間金融機関から円を借 り入れ、その資金を元手に外国為替市場で円売り・外貨買いを行うため、外貨準備が増え るのと同時に国の債務も増大することになる。これにより、巨額な外貨準備が蓄積されて いる。さらに、日本の外貨準備の取引は「政府の円キャリートレード(金利の低い通貨を 借り入れた後、それを売って金利の高い通貨の金融商品に投資すること)」であり、その 際にリスクヘッジを全く行っていない状況にある。このことから、外貨準備は低水準に維 持するよう努力する必要がある。さらに、現在の米国債一辺倒の投資では、円ドル金利が 変動するリスクがあるにもかかわらず、ほとんどリスクが分散できていないため、為替介 入を抑制するのと同時に、外貨準備をより積極的に有効活用すべきである。 財務省[2015a] 「外貨準備等の状況(平成 27 年 4 月末現在)」 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/2704.htm 1 3 続いて、昨今の邦銀の状況を見てみると、メガバンク等の邦銀の業績は好調であるが、 その原動力となっているのは、従来の国内事業に代わり、著しく拡大している海外ビジネ スである。しかし、資金調達コストが上昇しているため、海外ビジネスにおいて不可欠な 外貨の調達が困難になっているのが現状である。外貨の調達が困難な状況が続けば、日本 企業は業績を上げることができず、日本の国際競争力はますます低下することが懸念され る。 そこで、本論文では、国際協力銀行が外国為替資金特別会計と民間企業の架け橋として 日本企業の国際競争力を向上させるという点で、特に重要な役割を果たすと考えられるこ とから、外貨準備の活用政策の一環として、国際協力銀行が果たす役割に焦点を当てて検 討する。 以下では、各章についての概要を述べる。第 1 章では、導入として外貨準備の定義、内 訳・運用状況、増加の要因を見ていく。第 2 章では、為替介入の効果、最適保有規模の分 析を通して、政府はその効果に比して過剰な為替介入を行ってきたことを示し、現在の外 貨準備運用の問題点について述べる。第 3 章では、国際比較として諸外国、特に外貨準備 保有高世界一である中国や政府系ファンドを設立したシンガポール、多角的運用を行うス イスの外貨準備保有高やその運用状況を分析する。続く第 4 章では、外貨準備資産の運用 方法として、外貨準備の大量売却、政府系ファンドの設立、一般会計への繰り入れ、国際 協力銀行以外の政府系金融機関による活用について考察する。最後に第 5 章では、政策提 言を行う。具体的には、国際協力銀行に着目し、外貨準備の運用の積極化を提言する。 4 第1章 外貨準備の現状 まず、外貨準備の定義を確認する。その後で、現在日本はどれほどの外貨準備を保有し、 そしてどのように運用しているのかを示す。 1-1 外貨準備の定義 外貨準備は、通貨当局が為替介入に使用する資金であるほか、経済危機などにおいて海外 に対する外貨建ての借金の返済などが困難になった際に使用する準備資産2と定義すること ができる。通貨当局は中央銀行と政府、日本においては日本銀行と財務省を指す。各国が 外貨準備を保有する主な目的は、 前述のように①自国通貨の急激な為替変動の防止②対外 債務の返済 ③輸入代金の決済などである3。 1-2 日本の外貨準備保有高 従来日本は世界最大の外貨準備を保有していたが、2006 年に中国が日本を抜いたため、現 在の外貨準備保有高は世界第 2 位となっている。とはいえ、財務省が「外貨準備等の状況」 にて公表した統計によると平成 27 年 4 月末における日本の外貨準備高は、1 兆 2500 億 7300 万ドル(約 150 兆 87 億 6000 万円)と巨額であり、平成 27 年 3 月末と比べ、47 億 5700 万ドル(約 5708 億 4000 万円)増加している。そして、東南アジア諸国は、1997 年のアジ ア通貨危機の際に外貨不足に陥ったために、現在では外貨準備を増大させる傾向にあるも のの、ドイツの 16 億 1219 万ドル(約 1934 億 6300 万円)、イギリスの 12 億 7320 万ドル (約 1527 億 7200 万円)と比較しても明らかなように、日本の外貨準備は他の先進国と比 較すると著しく高い水準となっている。 2 3 経済産業省[2005] p.50 大和証券投資信託委託株式会社[2013] p.1 5 図表 1-1 外貨準備保有高上位 10 か国 出所:世界銀行[2015]4より筆者作成 4 The World Bank[2015] http://data.worldbank.org/indicator/FI.RES.TOTL.CD 6 図表 1-2 主要先進国の外貨準備高(単位:10 億ドル) 2000 年 2003 年 2006 年 2009 年 2012 年 日本 347.2 652.8 874.6 996.6 1195.6 アメリカ 31.2 39.7 40.9 40.9 50.5 ユーロ圏(欧 35.3 36.1 39.0 50.5 53.9 イギリス 46.1 52.4 61.2 42.6 53.3 カナダ 347.2 652.8 874.6 996.6 1195.6 州中央銀行 が保有して いる外貨準 備のみ) 出所:IMF [2015]5より筆者作成 先述のように、日本の外貨準備は年々累積し巨額になっている。その一方で、他の主要 先進国では 1990 年代までに為替介入があまり実施されなくなり、それに伴い外貨準備高も 低水準で安定している6。日本と他の主要先進諸国では何が異なるのだろうか。まず、為替 介入が為替レートに与える影響に関する通貨当局の考え方や国の経済における輸出の重要 性が異なるということが考えられる。日本の通貨当局は為替介入に一定の効果を認めてお り、また日本は輸出大国であるために円高を阻止する狙いで円売りドル買い介入を頻繁に 行ってしまう。そういった日本の事情に加え、外為特会が為替介入を容易に行うことがで きる仕組みが日本と他の主要先進諸国との大きな為替政策の違いを生んでいる。現在の外 為特会には①外貨準備運用に関する情報の公開が不十分である、②経理がきちんと機能し ていないという大きく 2 つの問題点があり、そのため日本と他の主要先進諸国は外貨準備 保有状況が大きく異なっている。 1-3 日本の外貨準備運用状況 外貨準備は大きく分けて、外貨資産(預金、証券等)、IMF リザーブポジション(IMF 5 IMF[2015] https://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/weodata/index.aspx 6 Schwarts A J[2000] pp.34-52 7 加盟国がその出資金に応じて、ほぼ無条件で借りることのできる相当額)、SDR(IMF 加 盟国が持つ特別引出権)、金からなっており、その内訳は、外貨資産 1 兆 1924 億 700 万ド ル(約 230 兆 9640 億円)、IMF リザーブポジション 97 億 7500 万ドル(約 1 兆 1730 億 円)、SDR183 億 4000 万ドル(約 2 兆 2008 億円)、金 49 億 300 万ドル(約 5916 億円) で、外貨資産が外貨準備高全体のおよそ 95%を占める。財務省[2014]は、外貨資産のうち 外貨証券の国債と非国債の金額は、それぞれ前者が約 94 兆 9038 億円(79.7%)、後者が 24 兆 2462 億円(20.3%)であると公表している7。以上より、外貨資産のおよそ 76%が国 債で運用されていることが分かるが、どの国の国債で運用されているか、その状況の詳細 が明らかではない。しかし、2004 年 2 月 4 日に行われた予算委員会で、当時国務大臣であ った谷垣氏は外貨準備の中で米国のドル建ての資産が多くを占めており、その中でも米国 債の割合が大きくなっていると述べていることからも、外貨資産の大半は、ローリスク・ ロ ーリターンの米国債を中心とするドル資産で運用されてきたとみられる8。 財務省[2014]の発表によると、2014 年度は外貨準備の運用により、2 兆 3000 億円以上の 増益となっている。 とりわけ外貨証券の運用は大きな収益を上げており、その額は 2 兆 2900 億円に上る。ちなみに、外貨準備は日銀にも一部計上されているが、大部分は財務省が管 理、運営する外国為替資金特別会計(以下、外為特会という)に計上されている。 7 財務省[2014c]p.1 財務省[2015a] http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/2704.htm 8 8 図表 1-3 日本の外貨準備の構成内訳 2% 4% 8% 外貨資産 IMFリザーブポーション SDR 金 86% 出所:財務省[2014]9より筆者作成 図表 1-4 日本の外貨資産における国債・非国債の割合 24% 国債 非国債 76% 出所:財務省[2014]10より筆者作成 9 10 同上 同上 9 図表 1-5 日本の外貨建運用収入の内訳(単位:百万円) 平成 26 年度 対前年度比増減額 外貨預け金利子 1,290 60 当座預け金利子 3 △0 定期預け金利子 1,286 60 外貨証券運用益 2,297,951 41,894 外貨証券利子 2,244,341 18,278 外貨証券償還益 38,348 18,363 外貨証券貸出収入 15,261 5,252 その他外貨建収入 20,224 △3,053 合計 2,319,466 38,901 (参考)償還差額補填金 53,832 17,494 出所:財務省[2014]11より筆者作成 図表 1-6 日本の外貨定期預け金及び外貨証券に係る運用資産利回り(単位:百万円) 平成 26 年度 対前年度比増減額 運用収入12 2,245,406 24,460 運用資産平残13 121,228,911 14,992,317 運用資産利回り14 1.85% △0.24% 出所:財務省[2014]15より筆者作成 1-4 外国為替資金特別会計 外為特会は、1951 年に「外国為替資金特別会計法(以下、外為特会法という)」の制定に 伴い設けられた国の特別会計である。政府が行う外国為替等の売買、国際通貨基金協定第 11 同上 外貨預け金利子のうちの定期預け金利子及び外貨証券運用益の当該年度における合計額 から償還差額補填金の金額を駆除した金額 13 外貨預け金のうちの金額のうちの定期預け金及び外貨証券の合計の同年度末残高と前年 度末高の平均の金額(簿価ベース) 14 当年度における運用収入を当年度における運用資産平残で除した数値 15 財務省[2015a] http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/2704.htm 12 10 15 条に規定する特別引出権や対外支払いに伴う取引を円滑に行うために、外国為替資金を 設置し、その運営に関する歳入・歳出を通常の経理である一般会計と分けて特別に行う目 的で設けられた16。財務大臣の責任のもと管理されている。現在、外為特会は、外国為替資 金とその運営に関する経理を行う狭義の特別会計に分けられる。1953 年に外為特会法が改 正され、それ以降外貨準備を運用することで生じる収入や支出は、外為特会の歳入・歳出 としてそれぞれ経理され、その際の歳入と歳出の差額である利益は、一部が積立金となり、 為替リスクに備えるための変動準備金として積み立てることができるようになった。そし て、1981 年までは全額を積み立ててきたが、1982 年から積み立てられなかった多くの余剰 金が一般会計に組み入れられている17。財務相によると、2013 年度の外為特会の資産は時 価ベースで 128 兆 2619 億円。その内剰余金は 3 兆 2094 億円、翌年度の一般会計に繰り入 れられたのは 1 兆 5851 億円で、これは剰余金の内 49%以上が一般会計に繰り入れられて いることを示している。実際は、国庫短期証券の全額が為替介入のために発行されるわけ ではなく、外為特会から一般会計に資金を融通するために発行されたものも少なくない。 一般会計において、国庫短期証券のような短期債務によってその時々の歳出を賄うことは 厳しく禁じられているが、外為特会が事実上その抜け道を提供しており、外為特会の経理 の問題はたびたび指摘されている。そこで、制度の抜本的改革が求められた財務省[2010] は、外為特会の財務の健全性を確保するために、毎年度の利益と積立金の差額を一般会計 に繰り入れるルールを以下のように定めたことを発表している18。 ①外為特会の積立金が中長期的な必要水準(現在の試算では、保有外貨資産の約 30%)に 達していないことから、当分の間、毎年度の剰余金の 30%以上を外為特会に留保し、積立 金の保有外貨資産に対する割合を中長期的な必要水準に向け高めていくことを基本としつ つ、外為特会の財務状況や一般会計の財政状況も勘案して一般会計繰入額を決定すること とする。 ②ただし、現行の中期財政フレームの期間(23 年度予算から 25 年度予算まで)においては、 外国為替資金特別会計法 第 1 条 藤井[2014]p.10 18 財務省[2010] https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_fund_sp ecial_account/gaitame_kuriire.htm 16 17 11 外為特会の内部留保額を段階的に増やしていくことを目指しつつ、一般会計の財政事情に 最大限配慮し、剰余金の一般会計への全額繰入も含めて検討する。 以下の図は 2014 年度 3 月末時点における外為特会のバランスシートの内訳を示したもの である。短期の円借入金を用いて長期の外貨投資を行うことには大きなリスクが潜んでい るが、外為特会ではそれに近いことが行われている。図表の負債の大半は政府短期証券に よって占められ、2015 年度末時点の残高は約 117.4 兆円に上る。これらの政府短期証券の 償還期間は原則として 3 か月程度であるため、平均残存期間は 1-2 か月のはずである。一 方、資産のうちおよそ 120 兆円が有価証券によって占められ、その大半が米国債等外国政 府債等の有価証券である。有価証券の中で満期 1 年以下のものは 9.8%しかなく、満期が 1 年超 5 年以下のものが 64.1%、5 年超のものが 26.1%を占めている。 図表 1-7 日本の外貨証券の満期別構成割合(単位:百万円) 満期 平成 26 年度末残高 対前年度末比増減額(シェア 変化) 1 年以下 23,570,279(18.3%) 11,900,156(8.5%) 1 年超 5 年以下 70,686,541(54.9%) 5,750,753(△9.2%) 5 年超 34,447,857(26.8%) 3,405,323(0.7%) 合計 128,704,678(100%) 9,554,726(-) 出所:財務省[2014]19より筆者作成 前述のように、例えば財務省が円売りドル買い介入を行う場合、外為特会から満期 3 か 月前後の為券が発行され、円資金が調達される。負債サイドの多くを占める為券は、一時 的な歳入と歳出のずれを補てんするために発行されるから、本来は年度末までに償還され るべきものである。しかし、現在の日本では為券が償還日を迎える度に新たな為券を発行 し、ロールオーバー(乗り換えを意味する。先物取引などで保有しているポジションを取 引最終日までにいったん決済し、次の期限以降のポジションに乗り換えること)を繰り返 している。そのため、外貨準備高は累積し続けているのである20。 19 20 同上 熊倉[2012] pp.17-20 12 図表 1-8 外為特会のバランスシート 〈資産の部〉 現金・預金 〈負債の部〉 15.41 兆円(円貨預け 政府短期証券 117.4 兆円 金:14.5 兆円、外貨 預け金:0.8 兆円) 有価証券 119.1 兆円 その他 9 兆円 特別引出権 2.1 兆円 負債合計 126.4 兆円 その他 9.29 兆円 〈資産・負債差額の 合計〉 資産合計 145.9 兆円 資産負債差額 19.6 兆円(うち為替 換算差損益:△9.9 兆 円) 出所:財務省[2013]21より筆者作成 上記のバランスシートを見ると、外為特会は 19.6 兆円の債務超過になっていることが分 かる。日本政府の会計は円建てで行われているため、為替レートが変化すると外貨資産の 円評価額は大幅に変化する。 1-5 外貨準備増加の背景 これほどまでに外貨準備が巨額化した要因は何か。本節では外貨準備増加要因を検討して いく。前述のように、外貨準備は通貨当局が為替レートに影響を与えるべく、為替市場に 介入するため、また経済危機などにおいて海外に対する外貨建ての借金の返済などが困難 になった際に使用するために保有する資産である。そこで、一般的に外貨準備の増減要因 は、①通貨当局による為替市場への介入、②外貨準備資産運用により発生する利息等、③ IMF からの資金の借り入れ等であると考えられる22。 21 財務省[2013]p.3 22 日本銀行国際収支統計研究会[2000] p.79 13 1-5-1 為替介入 貿易黒字や、海外からの配当、利子等の受け取りより海外への配当、利子等の支払いを 差し引いた所得収支等の合計額である経常黒字が大きくなると、円高になる。日本は輸出 大国であるから大幅な経常黒字により円高がおこった場合、輸出企業が不振に陥ってしま うため、望ましくない。そこで経常黒字による円高の抑制政策として為替介入が行われる。 具体的には、通貨当局がドル買い円売り介入を行い、円安誘導をするために、外貨準備が 増加する。為替介入は、財務省の決定のもと、日銀が実務を担当して行われる。 円売りドル買い介入に必要となる資金は、政府が外国為替資金証券(以下、為券という) を発行することで調達する。その際、円建てで発行した為券を資金としてドル建ての外貨 資産を購入する。逆に円買いドル売り介入が行われれば、為券は償還される。為券は政府 短期証券の一種で、1 年以内に償還しなければならない。それにもかかわらず、これまで通 貨当局はドル買い介入をドル売り介入よりも積極的に行ってきたために、為券は毎年借り 換えられて、長期債務化し、累積している。財務省によると 2013 年度末の政府短期証券残 高は 115 兆 6884 億円であり、その内為券は 114 兆 3350 億円と、約 99%を占める23。この 為券は、かつては日銀が市場金利を下回る低金利でその大部分を購入していたが、1999 年 以降、原則として市場での公募入札により売却され、民間の金融機関等が保有している。 こうした為券の残高は、外為特会に負債として計上される。一方、為券を発行するために 調達した資金で購入した外貨資産の残高は、外為特会に資産として計上される。以上から 分かるように、外貨準備は、政府が借金をして外貨投資をしている政府保有の資産なので ある。つまり、通貨当局がドル買い介入をすればするほど、外貨準備は累積し、それと同 時に国の借金も増大していくのである24。 23 24 財務省[2014a] pp.139-140 谷内[2008] pp.173-178 14 図表 1-9 為替介入実績(単位:億円) 250000 200000 150000 100000 50000 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 0 -50000 出所:財務省[2015]25より筆者作成 1-5-2 外貨準備運用に伴う利息等 前述のように外国為替市場において為替介入を行うと外貨準備が増加する。このように 取得した外貨資産の多くは預金や有価証券(債券、株式など)であるため、それらには利 息が発生する。そのため、為替介入によらずとも外貨準備高は増加していく。ちなみに、 日本は外貨準備資産の大半を米国債で保有しており、米国債の利回り(10 年物米国債の利 回りを基準とする)は 2~4%と低くなっている26。 1-5-3 IMF からの資金の借り入れ 25 財務省[2015c] 「統計表一覧 過去の介入実績全データ」 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/data.htm 26 財務省[2015a] 「外貨準備等の状況(平成 27 年 5 月末現在)」 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/2705.htm 15 IMF からの資金の借り入れの例としては、1997 年後半から 1998 年にかけて発生したア ジア通貨危機が挙げられる。欧米ヘッジファンド等の投資家が投機的にタイ=バーツを売 ったことからタイが固定相場制を放棄し、急激な資本の流出と通貨暴落を招くというアジ ア通貨危機が起きた。東アジア諸国からの急激な資本流出に伴い外貨流動性の一時的な枯 渇が発生したため、タイ、インドネシア、韓国は IMF の管理下に入り、IMF への金融支援 要請を行った。 1-6 外貨準備に対する需要 国のとる為替相場制度によって、外貨準備に対する需要は変わってくる。元来、外貨準 備を保有する必要があるのは固定相場制度の場合だ。固定相場制度のもとでは、為替レー ト、通貨の価値を一定に保つために、通貨当局が為替介入を行わなくてはならない。その 際に外貨準備が必要とされる。もっとも、同じ固定相場制度の国であっても対外不均衡の 調整を行う方法はいくつかあるために、国により取る手段は異なり、したがって、どれほ どの外貨準備を必要とするかには違いが見られる。例えば、藤田・岩壷[2010]は平価(IMF 体制のもとで、加盟国が自国通貨の価値を金または米ドルで表示した交換比率)を切り 下げ、支出切り替え政策をし、失業を受け入れて景気後退を伴う支出削減政策を進んで行 えば、外貨準備の需要は小さくなると述べている27。 それに対して、変動相場制度では、為替レートは市場に任せておけば需要と供給により 自動的に決定されるから、通貨当局が外国為替市場への介入を行い、人為的に為替レート を操作する必要はない。この場合、外貨準備はゼロで良いということになる。 けれども現実では、変動相場制度のもと為替レートが急激な上昇や下落を起こすことが あり、しばしば問題となっている。そこで、日本は変動相場制を採用しながらも、純粋な 変動相場制としてただ市場に任せるのではなく、為替レートが一定の水準で推移するよう に介入を行い、為替相場を操作している。そのために、変動相場制を採用しているものの、 外貨準備が必要となる。 他の外貨準備に対する需要としては、ASEAN 諸国に対する外貨準備を使ったドル資金の 融資がある。日本は、1990 年代後半のアジア通貨危機を経験した ASEAN 諸国と 2 国間ス ワップ協定を結び、将来再び通貨危機が発生した場合に 245 億ドルを融通する約束をして いる。 27 藤田・岩壷[2010] p.173 16 小括 本章では、日本の外貨準備の現状について考察した。現在、日本は中国に続き世界第 2 位の外貨準備を保有し、その金額は 1 兆 2500 億ドル(約 150 兆円)を超えている。これは GDP や為替市場規模で見ても、他の先進諸国より格段に多い。外貨準備の大半は比較的リ スクの低い米国債を中心とする外貨資産であり、ほとんどが外為特会に計上されている。 平成 27 年 4 月末の日本の外貨準備高は同年 3 月末と比べ、47 億 5700 万ドル(約 5708 億 4000 万円)増加しており、急速に増加が進んでいることが分かる。外貨準備がこれほど多 く蓄積された要因として一般的に、①通貨当局による為替市場への介入、②外貨準備資産 運用により発生する利息等、③IMF からの資金の借り入れ等が上げられる。財務省[2015] によると、政府は平成 23 年 11 月を最後に、為替介入を実施していない28ため、現在の保有 高増加の主な要因は②外貨準備資産運用により発生する利息等であると考えられる。 次章では、外貨準備を現在の水準で保有する危険性について考察する。 28 財務省[2015b]「外国為替平衡操作の実施状況(月次ベース)」 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/monthly/index.htm 17 第2章 外貨準備の問題点 本章では、現在の日本の外貨準備資産運用の問題点・危険性について述べる。 2-1 外貨準備の運用損益 外貨資産として保有する外貨資産は当然為替リスクを伴う。しかし、日本政府は先物取 引等でリスクヘッジを行っていないため、外貨準備の保有は政府による円キャリートレー ドということになる。円キャリートレードとは、日本国内と外国の金利差に着目して、低 金利の日本で融資を受けその資金で外貨を購入し、高金利の国でリスクヘッジをすること なく運用する取引だ。 では、リスクヘッジを行っていない日本政府による円キャリートレードではどれほどの 運用損益が出ているのだろうか。先述のように、介入に伴い増加する外貨準備ははまず国 庫短期証券を発行して民間金融機関から円を借り入れ、その資金を元手に外国為替市場で 円売り・外貨買いを行う、賃借対照表の両建て取引である。よって、負債調達コストであ る為替の金利負担と資金運用収入(日本の場合、主に米国債等の金利収入)の差などから運 用損益が生まれ、為替レートの変動に伴って外貨資産の評価損益が生まれる。ちなみに、 運用損益には、外貨の売買損益なども含まれるが、ドル売り介入を行うことはわずかなの で、運用損益の大きさは基本的に内外の金利差によって決まる。財務省の発表によると、 2012 年 3 月時点の総資産は 111 兆円で、為替差損は 35 兆円を上回ったと発表された。累 積は、これに外貨建て証券の利息から政府短期証券の支払利息を引いたネットの利息収入 分を調整して計算する。藤田[2013]は 2012 年末の累積で数兆円の赤字であると推定してい る29。これまでのところは、日米の金利差は日本の方が低金利であったため、円高ドル安の 際に生じる損失を補うことができたが、現在の日米金利差は短期金利、長期金利ともにほ とんど同じであり、今後は円高時の損失を補てんすることは難しくなる可能性がある。谷 内[2008]は外貨準備が巨額になればなるほどそれだけ政府が負う為替リスクが大きくなる と指摘している30。 29 30 藤田[2013] p.95 谷内[2008] p.122 18 2-2 米国債への一辺倒投資 現在の財務省による外貨準備運用の問題点として、外貨準備資産の運用が米国債一辺倒 になっていることがあげられる。先に述べたように、外貨準備の中で米国債が高い比率を 占めており、その額は外為特会における外貨証券の内、およそ 4 分の 1 に当たる 56 兆円に のぼると予想される31。このような運用を続けることは非常に危険である。仮にドル金利が 円金利を下回った場合や円が急伸しドルが暴落した場合に、大きな損失を被ることになり かねない。そこで、投資先を多様化し、リスクを分散させるべきである。 2-3 外貨準備運用の不透明性 他の問題点として、どのように外貨準備の運用を行っているのか、詳細が明らかになっ ていない部分がある点があげられる。財務省は毎年度、外為特会の外貨建て運用収入の内 訳等を公表しており、円貨貸付金や外貨預け金、外貨証券等の金額をそれぞれ示している。 加えて、外貨証券の満期別構成割合や、外貨証券の国債・非国債の構成割合も公表してい る32。その一方で、外貨準備資産のおよそ 76%を占める外国国債については、どの国の国 債がどれほどの割合で保有されているのか明らかにしていない。これは米国が通貨を明示 して金額を発表していることと比較しても、明らかに不十分である。 2-4 為替介入の効果 前述のように、政府は外国為替市場への為替介入を通して、外貨準備を蓄積し、同時に 運用損失を出すリスクを負っているが、為替介入は本来外貨準備資産を保有するためでは なく、為替レートおよび通貨価値の安定のために行われる。したがって、介入により本来 の目的である為替レートの安定が実現されるのならば、たとえ介入に伴い増加する外貨準 備を保有することによってある程度損失を被ったとしても、国にとっては利益があるとい うことになる。 では、為替介入は為替レートの安定にどれほど影響を及ぼすのだろうか。政府はどのよ うな介入をしていたのか、その実態は以前まで公表されていなかった。しかし、2001 年に 政府はようやく過去 10 年分の介入データを公表し、それ以降は四半期ごとに介入データを 31 渡瀬[2006]pp.41-42 財務省[2014c] https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/gaitametokkai/gaitametokkai_261 110.pdf 32 19 公表している。そのため、1990 年代初め以降の介入が為替相場に与えた効果について厳密 な実証分析を行うことが可能となった。谷内[2007]によると、分析により判明したことがい くつかあるとしている。一つは、90 年代前半において介入の効果が認められていないこと だ。1993 年から始まり 1995 年 4 月には 1 ドル 80 円を突破した大幅な円高に対して行われ たドル買い介入があるが、この介入は全く効果がなかった。たとえ為替相場が小幅に変動 する際に介入効果が一定程度あったとしても、急激に円高が進行しているときに、効果を あげることができなければ、介入する意味はない。また分析により判明したこととして、 介入がその日の為替相場に与える影響は非常に小さいということがあげられる。他に、米 国との協調介入を行った場合に効果が大きくなるということが分かった。しかし、現在ア メリカは為替市場介入に否定的な立場をとっており、今後米国と日本が協調介入する可能 性は非常に低い。日本政府によるドル買い介入は、円高時の輸出への影響を懸念して行わ れているため、介入の効果は 3~6 カ月程度持続しないと意味がない。しかし、前述の実証 分析は、非常に短期的なインパクト効果を検証しているにすぎず、介入の効果は持続的な ものではなく、限定的なものである33。確かに 1985 年プラザ合意後の介入や 1995 年の榊 原財務官主導の介入等、大きな効果をあげた為替介入は存在したものの、いずれも為替介 入の効果は短期的であった34。よって、人工的な為替介入によって中長期的な効果はあげら れず、多大なコストで為替介入を行う必要性は小さいため、いざという時に必要な外貨準 備を保有すれば足りる。 2-4-1 理論的検証 以下、為替介入が為替レートに与える影響について考察する。影響は介入が不胎化され るか否かにより大きく異なるため、不胎化介入と非不胎化介入に分類して検証を進める。 2-4-1-1 非不胎化介入 非不胎化介入とは、為替介入によるマネー・ストックの変動を相殺するための介入を行 わないことだ。非不胎化介入の場合、為替介入の資金状態のまま放置するため、金融緩和 と同じ効果が得られる。この場合、例えば外貨買い介入では外貨資産の減少した分だけ準 備預金が増加するため、日銀のバランスシート上では外貨資産と準備預金が等しく変動す 33 34 谷内[2007] p.30 藤田[2013] pp.89-106 20 る35。 過去に非不胎化介入の例として、2010 年 9 月、通貨当局は一時 1 ドル 82 円台まで急騰 した円高対策として、円売りドル買い介入を実施したものがある。この際、日銀は同時に 金融緩和を進めるため、 1 兆 8000 億円に上る巨額な介入円資金を相殺せず、 非不胎化した。 2-4-1-2 不胎化介入 不胎化介入は、為替介入による通貨供給量の変化を相殺するために市場に介入する政策 である。通貨当局が為替介入を行う際に、マネタリーベース(日本銀行券発行高、貨幣流 通高、日銀当座預金の合計額)は増減し、それに伴いマネー・ストック(金融機関や中央 政府が保有する預金などを除く通貨保有主体が保有する通貨量の残高。M1、M2、M3、広 義流動性の 4 つの指標を持つ)も増減する。マネー・ストックの増減は金利に影響を与え るため、物価の変動要因となる。そこで、為替介入後にマネー・ストックの増減の変動を 相殺するために、不胎化介入として公開市場操作が行われる。バランスシートを見てみる と、不胎化介入の場合、民間銀行の資産サイドでは、外貨買いが行われると外貨資産が減 少し、それと同額の国内資産である国債が増加する。同様に、外貨売りでは、外貨資産が 増加し、同額の国内資産が減少する。よって、不胎化介入が実施されると、民間銀行の外 貨資産と国内資産が入れ替えられることになる。 不胎化介入の例として、中央銀行が外貨買い介入を行い、同時に同額の国債の売りオペ レーション(以下、売りオペという)を実施する場合があげられる。この場合、外貨買い 介入のため民間銀行の保有する準備預金が増加するが、それと同時に国債の売りオペによ ってその額だけ民間銀行の準備預金が減少するため、準備預金高は変化しない。したがっ て、マネタリーベースも変動しない。 このようにして、不胎化介入は為替レートに影響を及ぼす。先述のように、外貨買い介 入を行った場合は、金融緩和効果を持つため金利低下・将来のインフレ率上昇の期待をも たらし、自国通貨安・外貨高となる。外貨売り介入を行う場合は、反対に自国通貨高・通 貨安となる。 先に述べたように、非不胎化介入が為替レートに影響を与えるのは、非不胎化介入が金 融政策を変更し、金融政策の効果を持つからだ。通常の金融政策と同様に、マネタリーベ ースが変動するが、通常は中央銀行が市場で国債を売り買いするのに対し、非不胎化介入 35 谷内[2008] p.179 21 では中央銀行が市場で外貨資産を売り買いするという点が異なっている。 現在、多くの国は物価安定を主な目的として、インフレ率等の動向の変化に対応して金 融政策を行っている。よって、金融政策を変更する必要のないときに、為替介入が行われ 金融政策が変更されるのは不都合なので、為替介入は大抵の場合、不胎化される。例外的 に、金融緩和政策がとられているときに外貨買い介入が行われれば、不胎化が行われない 場合もある。同様に、金融引き締め政策がとられているときに外貨売り介入が行われれば、 不胎化が行われない場合がある。 前述のように、日本政府が外貨買い介入を行う場合は、財務省が為券を発行して円資金 を調達しその資金で外貨資産を購入する。1999 年以前、市場金利よりも低金利で発行され た為券を日銀が購入するのが主流だった。それ以降は民間の金融機関が公募で発行された 為券を購入し、外貨売り介入が行われる場合は為券が償還される。この仕組みでは、例え ば外貨買い介入を行う場合、為券の発行により民間銀行の保有する為券が増加し、為券の 購入に伴い準備預金・マネタリーベースが減少する。そして、為券発行で得た円資金で政 府が外貨を購入し、その結果民間銀行の準備預金は増加し、外貨資産は減少する。よって、 民間銀行の準備預金・マネタリーベースは変化しないことになる。これは外貨売り介入の 際も同様であり、このように現行の仕組みでは為替介入は基本的に不胎化介入となる。 以下では、金融政策が変更されない不胎化介入が為替レートに与える影響について詳し く検討する。 2-4-1-2-1 ポートフォリオ・バランス効果 国債・銀行預金等の金利を生む金融資産の内、国内資産と外貨資産の期待収益率とリス クが等しく、投資家が国内資産と外貨資産のどちらを保有するかにこだわらない場合、つ まりリスクプレミアムがゼロの場合、為替介入は民間のポートフォリオを通じて、為替レ ートに影響を与えることはない。一方、国内資産と外貨資産のリスクまたは期待収益率が 異なり、投資家がどちらかの保有にこだわる場合、すなわちリスクプレミアムがある場合 は、以下の仕組みで影響を与えることがある。例えば、外貨買い介入を行う場合、まず民 間金融機関の国内資産が増加し、外貨資産が減少する。そこで、民間部門はポートフォリ オにおける国内資産と外貨資産の構成比を良くするために、国内資産を売り外貨資産を買 おうとするので、自国通貨安・外貨高となる。外貨高であれば、今後の期待為替レートと 現在の為替レートの差は小さくなり、それに伴い外貨資産の期待収益率(外貨の増加率+外 22 国金利)は小さくなる。不胎化介入においては国内資産の金利は変動しないため、金利裁定 の関係からリスクプレミアムは上昇する。このようなメカニズムで、外貨買い介入は外貨 を増価させる。このメカニズムは、前述のリスクプレミアムがゼロの状態であれば、民間 金融機関がポートフォリオを変更しようとしないため、為替レートへの影響はないという ことになる。 2-4-1-2-2 シグナル効果 ポートフォリオ・バランス効果に加え、シグナル効果を通して為替介入は為替レートに 影響を与えうる。これは、為替介入が将来の金融政策の変更を示唆していると市場が判断 した場合に、為替レートが影響を受けるというものである。この場合、為替介入が不胎化 され、金融政策やそれに伴う国内資産の金利の変更を引き起こさなくとも、市場が将来の 金融政策・金利の変更を予想すれば、市場の期待為替レートが変動し、それに伴って現在 の為替レートも影響を受ける。なお、シグナル効果はリスクプレミアムがゼロの場合にも 生じる。もっとも、介入後に期待した変動が起きない状態が続けば、市場は先述のような 期待をしなくなるのでシグナル効果は生じない。 谷内[2008]は現行の日本の制度下では、1998 年より施行されている改正日銀法のもとで 日銀の政策決定の独立性はそれまで以上に強くなっていることから財務省の政策判断とは 一致しないことも多く、シグナル効果が大きな影響を持つ可能性は低いと指摘している。 2-4-2 実証検証 以下では、金融政策を変更させる非不胎化介入を除き、不胎化介入が為替市場に与える 影響に関する分析を見ていく。 1990 年代に行われた代表的な為替介入の分析には Sarno and Taylor[2001]がある。この 論文では、金融政策の変更がない場合、すなわち不胎化介入が行われた場合は、介入が為 替相場に大きな影響を及ぼすことを示す決定的な証拠はないと述べられている。もっとも、 1980 年代の介入効果を分析した Edison[1993]とは異なり、Sarno and Taylor は介入の為 替レートへの影響を部分的には認めている36。しかし、国際金融がグローバル化していくに つれて様々な国の金融資産の代替が可能となるので、ポートフォリオにおける構成比を変 更する重要性は減少し、ポートフォリオ・バランス効果のために介入が為替レートに影響 36 Edison, Hali J[1993] pp.21-24 23 を与えることは少なくなるだろうと予想している。また、介入はシグナル効果により影響 を与えうるが、シグナル効果に関しては、1990 年代当時各国の通貨当局が介入について市 場に情報を与えていなかったために為替介入を通して将来の金融政策を予想しえず、効果 が薄いことを問題視している37。 日本政府は 2001 年以降、1991 年以降のデータを含めて、介入日時・介入通貨・介入金 額を 3 か月おきに公表しているため、研究者によって為替介入の効果が分析されてきた。 介入が為替相場に与えた影響に関する代表的な分析は以下の 2 つである。伊藤[2001]は、介 入によって介入実施日の終値が期待通りに変動したか、介入の効果は中期的に持続したか どうか、介入が日本の利益に繋がっているかについて分析した。分析はニューヨーク市場 に注目して行い、「日本の通貨当局は、10 年間にわたり、円ドル相場の安定に寄与してき た」と評価した。井澤・橋本[2004]は、東京市場の為替レートに着目し介入の効果の分析を 行った。介入は為替レートの安定化に一定程度寄与したが、その効果は小さなものだった と結論づけている。両論文では為替介入に対する評価が大きく異なるものの、以下の点で は共通している。まず第一に、1990 年代に行われた介入は為替レートへ影響を与えなかっ たという点だ。1993 年から 95 年まで急激に円高が進み、政府はドル買い介入を行ったが、 93 年 3 月の 1 ドル 115 円が 95 年 5 月には 80 円になり、大幅な円高を止めることはできな かった。たとえ為替相場が小幅に変動する際に介入効果が一定程度あったとしても、急速 に円高が進行しているときに、効果をあげることができなければ、介入する意味はないだ ろう。第二に、介入が介入当日の為替相場に与える影響は非常に小さいということが上げ られる。1 日 1 兆円規模のドル買い介入によっておよそ 70 銭円安になると言われている。 第三に、米国と協調して介入を行う場合に、介入の効果は大きくなるという点が上げられ る。しかし、前述の実証分析は、非常に短期的なインパクト効果を検証しているにすぎず、 介入の効果は持続的なものではなく、限定的なものである38。 以上を踏まえると、為替介入が為替相場に与える影響は非常に小さいものであることが わかる。 確かに 1985 年プラザ合意後のドル売り介入や 1995 年の榊原財務官主導の介入等、 大きな効果をあげた為替介入は存在したものの、いずれも為替介入の効果は短期的であっ た39。日本政府によるドル買い介入は、円高時の輸出への影響を懸念して行われているため、 37 38 39 Sarno,Lucio, and Mark.P Taylor[2001]pp.68-72 谷内[2007] p.30 藤田[2013] pp.89-106 24 介入の効果は 3~6 カ月程度持続しないと意味がない。また、前述のように為替介入の効果 が期待できるのは米国との協調介入の場合であるが、現在米国は為替市場介入に否定的で あり、今後米国と日本が協調介入する可能性は非常に低い。事実、2003 年から 04 年にか けて日本政府により大規模な介入が行われたが、米国は協調しなかった。以上を踏まえる と、人工的な為替介入によって中長期的な効果はあげられず、多大なコストで為替介入を 行う必要性は小さいため、いざという時に必要な外貨準備を保有すれば足りる。 2-5 外貨準備の適正規模 前述のように、これまで政府が外貨準備資を保有してきた主な目的は、為替レートの乱 高下を防ぐ目的で外国為替市場に介入することである。いつでも介入できるように、外貨 準備は流動性がある安全資産で運用する必要があり、やはり米国債が最も適した運用資産 ということになる。 通貨安を防ぐため誤った水準で自国通貨買いを続けると、外貨準備が枯渇する。これが 古典的な途上国の通貨危機だ。メキシコやアジアで通貨危機が起きる前、経験則から途上 国においては、輸入額の 3 カ月分保有するのが適正であるとされていた。しかし、資本の 移動が活発になり、1997 年のアジア通貨危機後には、満期 1 年未満の短期債務以上の外貨 準備を保有すべきであると言われるようになった。そのため、アジア通貨危機後はアジア の途上国を中心に外貨準備を潤沢に保有したいと考える国が増え、現在では満期 1 年未満 の短期債務の 2~3 倍の保有を目標とする国が増えている。 2-5-1 分析結果から導く仮説 では、日本はどれほどの外貨資産を保有すればいいのか。先述のようにアジアの途上国 は豊富な外貨準備を保有する傾向にあるが、日本は先進国である。よって、前述の管理フ ロート制度によるとしても、基本的には変動相場制度に任せておくという姿勢であれば、 巨額の外貨準備は必要ない。現在の日本の外貨準備は輸入の 15 カ月分、外国人の対日債券 投資額の 1.7 倍にものぼる。仮に、途上国の例から余裕を持たせて考えても、現在の外貨準 備の約 3 分の 1 は余剰である。また、2003 年 10 月から 2004 年 3 月にかけて、日本は巨額 の介入を行った。この介入の直前の外貨準備額は 4700 億ドル(約 56 兆 4000 億円)であ り、これは現在政府が保有する外貨資産の 4 割にも満たないが、外貨準備が不足している という議論は全くされなかった。その後、外貨準備は急増しているが、巨額介入以前の状 25 況で良いと考えれば、現在の外貨準備の半分は余剰となる40。これを仮説として、以下科学 的に検証する。 2-5-2 バッファーストックモデル(buffer stock model) バッファーストックモデルは Heller[1966]により導かれ、Frankle and Jovanovic[1981] によって発展した外貨準備の最適な保有高を求めるモデルである。経済危機が発生した場 合、経常収支を黒字にするために緊縮財政政策を行い、国の歳出を減少させる必要がある ので経済調整コストがかかるが、外貨準備を保有することそのコストを削減することがで きる41。そこで、Heller はこの経済調整コストと外貨準備を保有する際に発生する機会費用 の和を最小限にする、最適な外貨準備の保有高を理論的に導いた42。Frankle and Jovanovic[1981]は、外貨準備の変化が GDP といった各国の経済規模等を反映したトレン ドに基づいて変動しない場合には、最適な外貨準備保有高は、最適な外貨準備保有高、危 機発生時の経済調整コスト、外貨準備保有高の標準偏差、外貨準備を保有する際を変数と して用いた数量モデルから導くことができるとする。当モデルから、外貨準備の変化や経 済調整コストが大きくなるにつれて最適な外貨準備保有高は上昇し、機会費用が高まれば 高まるほど最適な外貨準備保有高は低下することが分かる。なお、このモデルは過去に Frankle and Jovanovic[1981]や Flood and Marion[2002]がその説得力を検証しており、資 本移動の有無にかかわらず、妥当性があると結論づけられている43。 Aizenman and Marion[2002]は、1997 年のアジア通貨危機以来、東アジア諸国が理想的 な外貨準備よりも非常に多くの外貨準備を保有していると述べた。そして、彼らは最適な 外貨準備保有高を算出するために、先述の Frankle and Jovanovic[1981]のモデルを応用し、 独自のモデルを導いた。まず、その国の経済規模や、その国の経済がいかに開かれたもの であるかを示す、外貨準備保有高、米国の GDP デフレータ、人口、一人当たり GDP、輸 出額のボラティリティ、輸入額の GDP に占める割合、名目為替レートのボラティリティを 用いる。開かれた市場であればあるほど、海外の経済危機発生に影響を受けやすく、経済 状況の変化に対する為替レートの変動が大きくなればなるほど、為替レートの変動に経済 40 41 42 43 伊藤[2007] p.28 Frenkel, Jacob, A., and Boyan Jovanovic[1981]pp. 507-514. Heller, Robert, H[1966]pp.296-311 R. Flood and N. Marion[2002] pp.2-10 26 状況の変化が吸収されやすくなるため、リスクが低くなるといったことも考慮されている44。 次に、豊島[2007]にならい、前述のモデルをさらに発展させた数量モデルを用いて外貨準 備保有高の最適規模を算出する。まず、先ほどのモデルの名目実効為替レートのボラティ リティに代わり、ドルに対する名目為替レートのボラティリティを用い、ドルが重要であ る日本にとっての理想的な外貨準備をより説得的な数字をもって算出しようとしている。 また、日本のリスク回避的な姿勢を表すためアジア通貨危機後の各国の通貨当局の姿勢の 変化をダミー変数として組み入れた。最終的に、豊島[2007]は上記の式に、1990 年から 2007 年のデータを代入して、2007 年時点に実際に保有する外貨準備と推定される理想的な保有 高と比較し、日本は 2438 億 9300 万ドルの外貨準備を余剰に保有しているということを示 した45。 小括 本章では外貨準備と為替介入の問題点について述べた。外貨準備は資産であるが、為替 介入に伴い増加する外貨準備は民間金融機関から借り入れた資金が元手になっている。小 原[2009]によると現役の財務省官僚らの取材から、「日本の場合、新興国とは違い、外貨準 備は純粋な国の資産とはいえない。円売りドル買い介入をする際、政府短期証券を発行し て民間金融機関から円を借り入れてドルを買っているので借金して外貨準備を持つことに なる」との声が聞かれたという46。また、日本政府の外貨準備保有は実質的に円キャリート レードであり、リスクヘッジが行われていないため、政府は為替リスク・金利リスクを負 っている。事実、2012 年 3 月時点で為替差損が 35 兆円を上回ったことが分かっている。 したがって、為替介入に効果がなければ、人工的な介入を控えることが望ましい。 次に、為替介入が為替レートに与える影響について考察した。理論的に、金融政策の変 更を伴わない不胎化介入はポートフォリオ・バランス効果もしくはシグナル効果を通じて 為替相場を変動させることができるが、前者は国内資産と外貨資産の期待収益率とリスク が異なるという一定の条件の下でのみ影響を持ち、後者は日銀の政府からの独立性が高ま るにつれて大きな影響を持たなくなると予想される。実証検証からも、不胎化介入の与え 44 Aizenman and Marion[2002]pp.61-72 45 豊島正浩、伊関之雄、磯貝茂樹、小田紘子、佐藤友香、中野真奈美、長尾慎也、山下 千 尋[2008]pp.11-13 46 小原[2009]p.212 27 る影響は持続性がなく、非常に小さいものであることが分かった。そこで、今後為替介入 を行う必要性は小さく、いざという時に必要な外貨準備を保有すれば良い。 本章では最後に、実際どれほどの外貨準備を保有するのが良いかについて、バッファー ストックモデルを用いて検証した。そして、2007 年時点で日本は 2438 億 9300 万ドルの外 貨準備を余剰に保有しているということを示した。 次章では、外貨準備を多く保有する他国がどのように運用しているのかについて考察す る。 28 第3章 運用の国際比較 本章では、日本と同様に多額の外貨準備を保有し、様々な異なる方法でその運用を行っ ている国に焦点を当て、比較する。 図表 3-1 日本・スイス・中国・シンガポールの外貨準備高推移 出所:世界銀行[2015]47より筆者作成 3-1 スイス まず、日本と同じく先進国でありながら、中国・日本・サウジアラビアに続き世界で 4 番 目に多くの外貨準備を保有しているスイスに焦点を当てる。スイスは 2014 年末時点で約 5460 億ドル(約 65 兆 5200 億円)、2015 年 7 月時点では 5630 億ドル(約 67 兆 5600 億 円)を保有しており、2009 年以降外貨準備を着実に増加させている。2015 年 9 月末時点 47 The World Bank[2015] http://data.worldbank.org/indicator/FI.RES.TOTL.CD 29 でスイスは外貨資産の 42%をユーロ、33%を US ドルで保有しており、その多くは国債で ある。2014 年には外貨により+7.8%の利益を出している48。スイスの保有する外国国債の 85%が AA にランク付けされていることから、慎重な投資をしていることが分かる。 図表 3-2 スイスの外貨準備における外貨資産の割合 0% 1% 1% 7% 91% 外貨資産 IMFリザーブポジション international payment instruments 出所:スイス中央銀行[2015]49より筆者作成 Schweizerische National Bank[2015] http://www.snb.ch/en/iabout/assets/id/assets_perform 48 49 Schweizerische National Bank [2015] pp.150-153 30 金 その他 図表 3-3 スイスの外貨投資内訳 0% 18% 11% 71% 銀行投資 国債 その他の債権 株式 出所:スイス中央銀行[2015]50より筆者作成 図表 3-4 スイスの外貨資産通貨別内訳 3% 7% 8% 33% 7% 42% USドル ユーロ 日本円 UKポンド カナダドル 出所:スイス中央銀行[2015]51より筆者作成 50 同上 51 Schweizerische National Bank[2015] 31 その他 2004 年に施行された国立銀行法(NBA) はスイス中央銀行の責任を定義し、資産管理に 関する責務について詳しく説明している。銀行理事会(Bank Council)は投資リスクの全 体的なコントロールを担当し、プロセスの原則の評価・それらの遵守を監視している。銀 行理事会のメンバーのうちの 3 人で構成されるリスク委員会(Risk Committee)は、銀行 理事会の業務をサポートし、特にリスクマネジメントがなされているか監査している。外 貨準備やその他の資産の構成の決定は組織運営委員会(Governing Board)が行う。委員会 はまた、1 年に 1 度投資戦略を決定する役割も担っている。スイス中央銀行内部の投資委員 会(Internal Investment Committee)は市場環境の変化に合わせて、運用レベルでの戦術 的な割り当てを決定している。個々のポートフォリオの管理はポートフォリオ管理部門 (Portfolio Management)が行い、投資の大部分は銀行内部のポートフォリオ管理部門が、 特定の投資カテゴリや内部のポートフォリオ管理部門との効能比較は外部のアセットマネ ジャー(external asset manager)が担当している。 3-2 シンガポール シンガポールは 2014 年時点で世界第 11 位となる 2610 億ドル(約 31 兆 3200 億円)の 外貨準備を保有している。1981 年には、シンガポールの会社法に基づいて、政府の 100% 出 資 に よ り 外 貨 準 備 を 原 資 に 政 府 の 保 有 す る 資 産 を 預 か る 形 で 政 府 投 資 会 社 GIC (Government Investment Corporation)を立ち上げた。この点で、運用対象の外貨を出 資という形で引き受けている中国の政府系ファンドである CIC(China Investment Corporation)と異なっている。GIC の設立当時、膨大な外貨準備はシンガポール通貨庁が 運用を行っていた。しかし、当時のシンガポールには資産運用のノウハウを持った人材が 不足しており、外貨準備の運用においてはポンドの運用に失敗し、差損を出してしまって いた。この状況に問題意識を持った当時のシンガポール首相であったリー・クアンユー氏 が、海外の人材や専門機関の力を借りながら、政府の運用能力を高めて、国の預かる資産 を増やし、シンガポール国内に金融に精通した人材を育成することを目的に政府系ファン ド GIC は設立された。なお、設立当初の預託資産は中央積立基金(社会安定性を維持する ために、雇用者と労働者の両者が月給から一定額を拠出し積み立てる仕組み)に絞られて いたため、純粋な外貨準備を財源とした政府系ファンドではなく、年金資金を財源とした http://www.snb.ch/en/iabout/assets/id/assets_reserves 32 政府系ファンドであった。現在は、中央積立基金の運用は GIC の担当ではないとされてい る。シンガポールの経常収支が安定的に黒字化した 1987 年前後に、シンガポール通貨庁か ら GIC に対して外貨準備の一部が預託され、それ以降 GIC は外貨準備を財源とした政府系 ファンドとして成長している。 運用資産は設立当初、数十億ドルとされていたが、2016 年 6 月時点で 3440 億ドル(約 41 兆 2800 億円)に及んでいる52。GIC は、設立以来外国株式や不動産への比較的ハイリス ク・ハイリターンの投資を行っている。より詳しく見ると、GIC の運用方針は株式や債券 といった資産種別だけでなく、投資地域についても分散を行っており、不動産やベンチャ ー投資などの流動性の低い資産を 20%近く組み込んでいる。谷山・福田・古賀[2008]は、 これは、シンガポール経済が長期に渡って比較的安定しており、外貨準備の枯渇が考えに くく、流動性の低い資産に対しても過剰にならない範囲で投資できる自信を持てたためだ という53。ちなみに、GIC は株式や債券などの伝統的資産から、不動産やヘッジファンド、 プライベート・エクイティ・ファンド等へのオルタナティブ資産まで幅広い投資を行って いることを明らかにしている。GIC[2014b]が発表した年次報告書によると、2014 年 3 月末 の投資資産のポートフォリオは 48%を株式、36%を債券と現金、7%を不動産、9%をプライ ベート・エクイティ投資に振り分けていると推測される。 SWFI[2015]”SWFI League Table of Largest Public Funds” http://www.swfinstitute.org/fund-rankings/ 53 谷山・福田・古賀[2008]p.13 52 33 図表 3-5 GIC の投資資産ポートフォリオ(資産別) 9% 7% 48% 36% 株式 債券・現金 不動産 プライベート・エクイティ 出所:GIC[2014b]54より筆者作成 また、GIC は資産の地域分散の割合についても年次報告書にて改めて明らかにしている。 これによると、地域分散はラテンアメリカを含む南北アメリカが 42%で減少傾向、ヨーロ ッパが 29%、アジアが 27%(うち日本が 10%)で、オセアニアが 2%となっている55。実際 に GIC が投資を行った国は、これまでに 40 か国を超えている。そして、この GIC の国際 分散投資を支えているのは、シンガポール以外にも北京・ロンドン・ニューヨーク・サン フランシスコ・ソウル・上海・東京といった世界の主要な金融センターに設けられた拠点 と 900 人を超える従業員の内、40%を超える外国籍の人々である。 54 55 GIC[2014b]p.14 同上 34 図表 3-6 GIC の投資資産ポートフォリオ(地域別) 2% 27% 42% アメリカ ヨーロッパ アジア オセアニア 29% 出所:GIC[2014b]56より筆者作成 昨今、日本への投資も増えつつあり、ウェスティンホテル東京や福岡ソフトバンクホー クスの本拠地であるヤフードームを買収している。また、GIC[2014ab]は 3 月期末の年次報 告書の中で、世界のインフレ率調整後 20 年間の同社の実質投資利益率が年率 4.1%になっ たと公表した57。ちなみに、名目投資利益率は直近 5 年間で 12.4%、10 年間で 7.0%、20 年間で 6.5%となっている58。 シンガポールは日本のような変動為替レート制ではなく、管理フロート制度を採用して いる。管理フロート制度の下では、自国通貨であるシンガポール・ドルを主要貿易相手国 の通貨からなる通貨バスケットにリンクさせる。この制度の下で、シンガポール政府は、 シンガポール・ドルを通貨バスケットに対して一定のバンドの範囲内で変動させ、その上 でバンドの水準及びバンドの幅は裁量的に変更するというという政策をとっている。シン ガポール・ドルの推移をみると、1981 年の同制度採用以降、アジア金融危機直前まで通貨 56 同上 57 GIC[2014a] “Overview by Group President and Group Chief Investment Officer” http://www.gic.com.sg/report/report-2013-2014/overview.html 58 GIC[2014b]p.2 35 バスケットに対してシンガポール・ドルは増価している。その後、アジア通貨危機の際に 大幅に減価した後は、ほぼ一定の水準に留まっている(2015 年 8 月は 1 シンガポール・ド ル=0.71 米ドル)。シンガポールの管理フロート制は、国内物価水準の安定を目標に為替 レートの水準が決定されるという特徴がある。2000 年から 2006 年の平均で、財・サービ スの輸出は GDP の 2.2 倍、輸入は 1.9 倍にのぼっており、シンガポールは非常にオープン な経済であるといえる。そのような国においては、為替レート水準が物価水準の動向を左 右する重要な要素である。通貨が割安になれば、輸入物価が上昇し、それは国内物価上昇 につながる。つまり、日本や欧米の先進国では、短期金利の目標水準を上げ下げすること によって、金融政策が運営されているが、シンガポールでは為替レートが先進国の金融政 策における金利の働きをしているということである。為替レート水準の操作は物価安定を 実現する金融政策の重要な手段なのだ59。このような為替レート政策の下で、シンガポール のインフレ率は、1981 年から 2006 年の年平均で 1.4%となっており、物価を安定させ国の 経済を活発化させることに成功した。こうした政策運営をしているシンガポールの場合、 物価安定を目標として設定している為替レートのバンド水準が維持できなくなる恐れがあ るため、これまでの為替介入で蓄積している外貨準備を売却ことはできず、シンガポール は高水準になった外貨準備の一部を、より高い利回りの期待できる外貨資産に投資してい る。実際、外貨準備の運用機関である GIC が、外貨資産を売却して、シンガポール=ドル の資産で運用することは禁止されている60。 3-3 3-3-1 中国 外貨準備保有状況と為替介入 中国は現在世界第 1 位の外貨準備を保有しており、中国人民銀行[2015]によるとその額は 2015 年 8 月末時点で、3 兆 5570 億ドル(約 426 兆 8400 億円)に及んでいる61。これほど までに外貨準備が増加した背景には莫大な貿易収入に加え、中国人民銀行が人民元急伸を 防ごうとして行った人民元売り・米ドル買いの為替介入がある。中国は 2004 年以降経常収 支、とりわけそのおよそ 8 割を占める貿易収支を著しく増大させている。これは、製品の 59 60 61 McCallum Bennett T.[2006]pp.76-80 谷内[2008]pp.197-205 中国人民銀行[2015] 36 輸出入において輸出が超過し、大きな黒字を生み出してきたためである。しかし、このよ うに外貨で行われる貿易活動が大きな割合を占めることによって、外貨が過剰に流入して しまい、自国通貨高を引き起こすことになり得る。中国政府は、弱い国内輸出企業を保護 するため、大幅な元高の阻止を積極的に行っており、ドル買い介入によってこれまで非常 に緩やかな元高しか容認してこなかった。外貨準備は中央銀行である中国人民銀行が保有 しており、前述のように中国人民銀行が市場でドル買い・人民元売り介入を行うことによ り、銀行部門の準備預金保有高が増加する。準備預金が増加すると、マネーサプライも増 加し、経済を過熱させるので、中国人民銀行は中銀債券を発行して積極的に不胎化を行っ ている。しかし、為替介入の額が巨額になっているため、不胎化は十分には行われておら ず、銀行部門は蓄積していく中銀債券を保有するのと同時に、必要以上の準備預金を抱え てしまっている。中銀債券と準備預金はどちらも中国人民銀行の債務であるため、ドル買 い介入を行うと、中国人民銀行の資産が増加し、その分だけ中国人民銀行の債務が増加す る。中国では、為替介入のオペレーションと外貨準備保有は中国人民銀行が行っているが、 為替レート水準に関する決定、つまりどの程度介入するかについての決定は、中国政府が 行っている。為替介入、外貨準備に関しては、中国政府と中国人民銀行は一体として考え られるため、日本の外貨準備と同様、中国の外貨準備も、政府が国内から借金をして外貨 で運用しているものだといえる。仮に累積した外貨準備を売却すれば、現在行っているド ル買い介入の効果を無にしてしまうことになるので、中国政府は外貨準備を売却すること はできない。なお、資本取引を自由化している日本などの先進国と異なり、中国の場合は、 資本取引に制限があるため、為替介入は為替レートに大きな影響を及ぼす。また、中国で は日本と異なり、政府がさまざまな国営事業を行っている。社会主義経済から市場経済に 移行したとはいえ、国営企業が経済に占める度合は相変わらず大きい。事実、現在でも工 業生産のおよそ 3 割は国有企業によるものであり、加えて銀行、証券会社など金融機関の ほとんどは国有である。このような体制の中国においては、政府が外貨準備の運用積極化 という資産運用ビジネスを行うことは、自然なことである62。 3-3-2 CIC による外貨準備の運用 そこで、これまで国の外貨準備のほとんどがドル建ての米国国債等の安全資産で運用さ れてきたが、2007 年 9 月に、中国政府は国有の投資会社である中国投資有限責任公司 CIC 62 谷内[2008]pp.197-205 37 (China Investment Corporation)を政府の 100%出資により設立し、ここに外貨準備の 内のおよそ 2000 億ドル(約 24 兆円)を移管して運用の多様化・積極化を図る方針を発表 した。CIC は全国人民代議員大会における審議を通じて設立され、日本の内閣に相当する 国務院に直属する国務院副書長(日本における内閣官房副長官)が会長に就任している会 社である。資本金の 2000 億ドルは中国における財務省である中国国務院財政部が総額 1 兆 5000 億元(約 30 兆円。1 元=20 円で換算。以下同様に計算する)の特別国債を発行し、 この国債発行により集められた人民元を対価に中国で日本銀行と同様の役割を担う中国人 民銀行から 2000 億ドルの外貨準備を買い取ることで、賄われている。そもそも外貨準備は、 ①通貨当局が為替介入に使用する資金、②通貨危機等により他国に対して外貨建債務の返 済等が困難になった場合に使用する準備資産と定義される63。そのため、すべての外貨準備 を積極的に運用するわけにはいかない。これは、中国においても当然言えることである。 夏[2007]は、 中国が必要としている合理的な外貨準備は①輸入決済のための 3600 億ドル (約 43 兆 2000 億円)、②対外債務の返済のためのおよそ 3000 億ドル(約 36 兆円)、③緊急時 用のおよそ 800 億ドル(約 9 兆 6000 億円)の、合計 7000 億ドル(約 84 兆円)以上 7400 億ドル(約 88 兆 8000 億円)以下であるとしている64。 原資が外貨準備のため、運用においては、高すぎるリスクを負うことができず、過大な 損失が許されない。そのため、流動性と高収益の間でバランスを取らなければならない。 すなわち、国の外貨資産の運用により、許容されるリスクの範囲内で収益の最大化の実現 に努める必要がある。それでは、CIC はどれほどの収益を出せば良いのであろうか。まず、 第一期の特別国債 6000 億元(約 1 兆 2000 億円)は、期間 10 年、金利 4.3%で発行されて いる。そして、年々上昇する人民元の上昇率を 3%前後と仮定して加算した場合、CIC の運 用では少なくとも 7.3%以上の利回りを出す必要がある。実際はどうなのか見てみると、設 立から 2012 年末までの間、CIC の年平均収益率は 5.02%である。中国の外貨準備は主に米 国債で運用されており、米国債は相対的にハイリターンが望めないため、CIC の投資収益 率は中国の外貨準備の投資収益率をやや上回っている。CIC は 2014 年 8 月に、2013 年の 純利益が 11.8%の増益となったと発表した。CIC の 2013 年度の純利益は 869 億ドル(約 10 兆 4280 億円)で、2012 年の 777 億ドル(約 9 兆 3240 万円)から増益となっている。 一方、海外投資の収益率は、2012 年の 10.6%から 2013 年は 9.3%に低下した。 63 64 日本銀行[2015] 夏斌・陳道富[2007]p.39 38 CIC に出資された 2000 億ドル(約 24 兆円)の資金のうち、海外運用に 50%超を、残り を後で述べる中央匯金公司を通じた国内金融機関への投資に充てている。もし将来自国の 外貨準備が減少することがあっても資金は一部を使っていることから残りの資金を優先的 に換金して政策的に対応できる体制をとることを重視しているのだろう。CIC の目標は設 立当初から、海外の運用会社や外国人の専門知識を活用して、高い運用能力を身に着ける こととしている。すなわち、外貨準備の運用能力を高めることにより、資産を減少させる ことなく元高ドル安を回避することを目的とした政策である。CIC は現在、規模が大きく、 リスクが分散できる企業に長期的な投資をしており、投資戦略としてインデックス商品や 投資信託を中心に分散投資を行うという考えを表明している。基本的な考え方としては流 動性の確保を重視しているようで伝統的資産への投資においても、オルタナティブ投資へ の投資についても、国際的に流通している金融商品への投資を中心に行うとしている。し かし、先に述べた通り、CIC の投資資本金である人民元建ての特別国債の 5%の年利、上昇 する人民元に対する外貨建て資産の評価損などに対応する必要があることから、高い運用 利回りを実現しなければならない。そのため、伝統的資産のみならず、プライベート・エ クイティ・ファンド、コモディティ、不動産・インフラの実物投資、ヘッジファンドの活 用といった、流動性が乏しく、比較的リスクの高い資産への投資も一部行う必要がある。 過去にはイギリスのヒースロー空港の運営会社に 4 億 500 万ポンド(約 907 億 8000 万円) 投資して保有比率 10%の大株主となった。米国のプライベート・エクイティ・ファンド大 手のブラックストーンや投資銀行大手のモルガン・スタンレー等の株式の引き受け、プラ イベート・エクイティ・ファンドの JC フラワーズが設立するファンドへの参加等、CIC が 制約なしに運用に充てられるおよそ 700 億ドル(約 8 兆 4000 億円)のうち、2 割近い 100 億ドル(約 1 兆 2000 億円)が市場を通さず、流動性の乏しい特定企業やファンドに投資さ れている。 CIC の国内投資は主に中央匯金公司を通じて行われる。中央匯金公司は国有金融機関の 持ち株会社の役割を果たしてきたが、CIC 設立以降は中国の重点国有金融機関に出資する 役割を担っている CIC の子会社である。2007 年 9 月に、財政部が特別国債を発行し、中国 人民銀行から中央匯金公司の全株式を購入した上、およそ 670 億ドル(約 8 兆 4000 億円) の株式を CIC への出資の一部として CIC に注入した。そして、CIC の 2000 億ドル(約 24 兆円)の資本金のうち、900 億ドル(約 1 兆 800 億円)が中央匯金公司を通じて国内金融 機関に移転されている。より詳しく見ると、2003 年 12 月に中国建設銀行・中国銀行に外 39 貨準備からそれぞれ 225 億ドル(約 2 兆 7000 億円)が中央匯金公司を通じて注入されてい る。その後、2005 年 4 月に、中央匯金公司を通じ外貨準備から 150 億ドル(約 1 兆 8000 億円)が中国工商銀行に対し融資されている。中央匯金公司から出資を受けた各銀行は、 相次いで中国と香港の証券市場に上場した。CIC は国内投資と海外投資業務を厳格に区分 しているものの、中央匯金公司が株主として支配する中国の大型金融機関はすでに多くの 海外投資を行っており、拠点の設立や海外銀行の買収などの形態で海外市場に進出してい る。加えて、こうした大型金融機関も、国内の海外進出を行う企業と緊密に協力すること を通じ、海外の他の業種に間接的に参入している65。そのため、中央匯金公司は本稿で焦点 を当てる日本の国際協力銀行(JBIC)と融資対象も異なり到底同じとは言えないものの、 政府系金融機関であり、一部外貨準備を利用して国内企業・機関に対する出融資を行って いるという点で、似た役割を果たしている。 図表 3-7 CIC の資金投資先別投資方針 〈投資先〉 〈投資方針〉 中央匯金投資への投資 原則として経営に深く関与しない 中国農業銀行,国家開発銀行への投資 経営の建て直しを図る 分散投資 伝統的資産投資(当面はインデックスや投 資信託を中心に、運営会社を使って株式・ 債権、先進国、新興国の分散投資を行う。 また、将来の実物資産への投資の選択肢は 否定していない) オルタナティブ資産投資(プライベート・ エクイティ・ファンドへの投資は行うが、 実物資産への投資は当面控える。また、将 来の実物資産への投資の選択肢は否定して いない) 出所:谷山・福田・古賀 [2008]66より筆者作成 65 潘・張[2014]p.46 66 同上 40 小括 本章では、日本と同様に多額の外貨準備を保有しているスイス・シンガポール・中国に 焦点を当て、各国の外貨準備の構成や運用方法、投資先を比較した。 スイスは 2015 年 7 月時点で 5630 億ドル(約 67 兆 5600 億円)の外貨準備を保有してお り、前年と比較しても 170 億ドル(約 2 兆 400 億円)増加と、2008 年以降着実に外貨準備 を増加させている。そして、その外貨準備はスイス中央銀行によって運用されている。ス イス中央銀行によると、70%以上の外貨資産は国債で保有されており、2015 年 9 月末時点 でスイスは外貨資産の 42%をユーロ、33%を US ドルで保有している。それにより、2014 年には外貨により+7.8%の利益を出している。日本は外貨資産のおよそ 80%を国債で保有 し、その内 25%ほどを米国債で保有していることが推測されるため、この点でスイスと日 本の外貨準備運用方法は類似している。 シンガポールは 2014 年時点で世界第 11 位となる 2610 億ドル(約 31 兆 3200 億円)の 外貨準備を保有している。1981 年に、政府の 100%出資により外貨準備を原資に政府投資 会社 GIC を立ち上げており、それ以来外国株式や不動産への比較的ハイリスク・ハイリタ ーンの投資を行っている。株式や債券・オルタナティブ投資といった資産種別だけでなく、 投資地域についても分散を行っているという点、そして、不動産やベンチャー投資といっ た流動性の低い資産を 20%近くも組み込んでいるという点が特徴として挙げられる。GIC は 2014 年度年次報告書の中で、世界のインフレ率調整後 20 年間の同社の実質投資利益率 が年率 4.1%になったと公表している。ちなみに、シンガポールは日本のような変動為替レ ート制ではなく、管理フロート制度を採用しているため、物価安定を目標として設定して いる為替レートのバンド水準が維持できなくなる恐れがあり、これまでの為替介入で蓄積 している外貨準備を売却ことはできない。そこで、シンガポールは多額の外貨準備の一部 を、外貨資産に投資し、高い利回りを追求している。 中国の外貨準備高は世界一多く、2015 年 8 月末時点で 3 兆 5570 億ドル(約 426 兆 8400 億円)である。外貨準備が巨額である点や為替介入によって外貨準備が累積してきた点、 外貨準備発行の仕組みは日本と類似しているものの、資本取引が制限されていることや国 の経済に占める国営企業の度合いが大きいことが日本と異なっている。2007 年には政府に よる 100%出資で CIC の設立を発表し、それまでの米国債等の安全資産中心の運用から外 貨準備の内およそ 2000 億ドル(約 24 兆円)を移管した積極的・多角的な運用へと方針を 41 変更している。CIC は現在、規模が大きく、リスクが分散できる企業に長期的な投資をし ており、投資戦略としてインデックス商品や投資信託を中心に分散投資を行うという考え を表明している。CIC の 2013 年度の純利益は 869 億ドル(10 兆 4280 億円)で、2012 年 の 777 億ドル(9 兆 3240 万円)から増益となっている。一方、海外投資の収益率は、2012 年の 10.6%から 2013 年は 9.3%に低下した。次章では、本章にも登場した政府系ファンド 等、外貨準備の運用方法を比較する。 42 第4章 外貨準備の運用方法 先に述べたように、日本の外貨準備は平成 27 年 4 月末時点で 1 兆 2500 億 7300 万ドル (約 150 兆 87 億 6000 万円)にものぼっており67、現在そのほとんどは米国債で運用され ている。変動相場制の国では、為替介入、新興国では、貿易決済・債務返済などの目的で 外貨準備が保有される。いずれにしても流動性が非常に重要になっている。現在では、流 動性は運用資産全体で考えられる。資産配分は、流動性しか考えないのか、加えて収益性 も考慮するのかで決まる。しかし、財務省のように 1 兆ドルもの資産を米国ドル建ての債 券中心に運用することだけが、流動性確保の手段ではなく、国際金融危機を経験すれば、 通貨・市場・資産の分散がなされていないこともリスク要因であることが分かる68。そして 近年になり、巨額の外貨準備をどのように運用するかという議論が活発化している。議論 は、運用を積極化して収益を高めるべきだとの意見と外貨準備を大量に売却するべきだと の意見に大きく分かれる。積極運用を支持する者の中では、特に政府系ファンドの設立に よる運用が注目を集めている。以下では、今後の外貨準備の運用に関して、特に大量売却 と政府系ファンド、一般会計への繰り入れ、国際協力銀行を除く政府系金融機関による運 用について見ていく。 4-1 大量売却 外貨準備を大量に売却すべきだと唱える谷内[2007]の主張は以下の通りである。外貨準 備が巨額になればなるほど政府が負う為替リスク・金利リスクは大きくなることから、外 貨準備は過剰に保有するべきではない。日本はこれまで他の先進諸国と比べ、頻繁に巨額 の介入を行っており、金額だけでなく為替市場の規模・GDP で比較しても、日本の為替介 入とそれに伴う外貨準備は格段に過剰であるということが分かる。比較的多くの外貨準備 を保有しているユーロ圏と比べても、GDP 比で 10 倍も異なる。一方、日本を除く先進国 諸国を見てみると、日本と比較して極めて少ない外貨準備しか保有していないにもかかわ らず、特段の問題は生じていない。以上を踏まえ谷内は、リスクを負い外貨準備運用を積 極化し高収益を目指すのではなく、他の先進国を基準にして著しく高い水準の外貨準備を 財務省[2015a] 「外貨準備等の状況(平成 27 年 4 月末現在)」 http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/2704.htm 68 小原[2009]pp.211-212 67 43 大幅に引き下げていくべきだと述べる。具体的には、他の先進国の状況を踏まえ、外貨準 備の 8 割程度を数年かけて市場で売却し、現在の約 5 分の 1 にすることを提案する。この 程度の売却を行った場合でも、他の先進国よりも高い水準の外貨準備を保有することにな る69。 し か し 、米国債の大量売却に対しては、その後の米国国債価格の下落、米国長期金利の 上昇に伴う米国金融市場の混乱と急激な円高の懸念があり、外貨準備の運用手段としてふ さわしくないだろう。外貨準備を売却すれば、ドル売り・円買い介入をした場合と同様の 効果が見られるから、円高の恐れがあることは否めない。また、前述のように米国や国際 通貨基金は各国の人工的な為替介入に否定的であり、為替操作は控えるべきだ。 4-2 政府系ファンドの設立 近年、シンガポールやアブダビといった一部の国が、政府が国有財産を株式投資等で運 用する投資基金である政府系ファンドを設立し、注目されている。そこで、日本も保有す る巨額な外貨準備の一部を、政府系ファンドを設立して運用し、現在の米国国債以外の投 資先で運用するべきとの主張がなされている。政府系ファンドの設立により海外株式など への投資を積極的に行えば、より高い運用益が確保でき、財政健全化や、増大する社会保 障費に充当できると期待されている。この他にも、中長期的な株式の保有による市場の安 定化、投資を多角化することによる経済変動の影響の軽減、国際金融のプロが多く登用さ れることによる市場の活性化等の効果が見込まれる。 日本でも、2007 年に前金融担当大臣の山本有二衆議院議員が会長となり、公的年金資産 や外貨準備を運用する政府系ファンドを設立すべく議員連盟が発足した。当議員連盟はシ ンガポールの政府系ファンドである GIC を手本に、外貨準備を多角的に運用し、収益の拡 大を目指している。 伊藤[2007]も政府系ファンドの設立を提唱するひとりだ。現在は、円金利がドル金利を下 回っているため、外貨準備に生じる利子を円に換えた金額が為替の利子を大幅に上回って いる。実際、利子受け取りから利子支払いと諸経費を差し引いた運用益は近年では年 3 兆 円以上となっている。しかし、日米の金利はいつ変動するか分からず、もし完全に逆転す れば毎年多額の金利支払い超過を補てんしなくてはならない。したがって、保有する外貨 資産の利回りを高める必要がある。世界には米国債よりも少しリスクが高いが、高い収益 69 谷内[2007] p.30 44 が期待できる証券が多く存在する。例えば、世界の主要な株式市場での株式指数連動の上 場投資信託などへ投資すれば、中長期的に見れば債券利回りを上回る利回りであることが 多い。また、投資先を多様化することで、リスクを分散することができる。そこで伊藤は、 外貨資産の純利子受け取り分を外貨建てのまま、本来必要な外貨準備を大幅に上回る余剰 部分は債務付きの両建てで、外貨準備とは別の正味資産からなる政府系ファンドに積み立 て、運用は民間金融機関に委託し、長期・平均的により高い利回りを追求するべきだと主 張する。年間およそ 300 億ドル(約 3 兆 6000 億円)の外貨準備の運用益を政府系ファンド に組み入れれば、約 3 年半で 1000 億ドル(約 12 兆円)規模になることが予想される。こ の場合、原則として資産運用を民間に委託し、運用先となる民間金融機関の選定、運用支 持の策定、運用委託割合の決定、事後評価による運用委託割合の変更等を、当政府系ファ ンドが民間と同水準の待遇で雇用する専門家に委ねる。また、市場性のある証券に限り投 資し、過大なリスクは回避する。加えて、外貨準備に損失が生じた場合と国家危急の場合 は、政府投資資金は取り崩されるが、それ以外の目的には使用しないこととする70。 政府系ファンドの是非については、イギリスは原則歓迎を示すものの、大陸欧州は保守 的、日本は防衛的、アメリカは総論賛成各論反対といった立場である。というのも政府系 ファンドには、投資規模があまりにも巨大なため金融市場をかく乱する懸念するや投資方 針や運用実績等の不透明性といった問題点がある。現在、政府系ファンドは実態が不透明 で情報開示が不十分であり、国民はその実態を把握することができずにいる。また、政府 系ファンドの投資行動は被投資国だけでなく、国際機関の懸念も呼んでいる。例えば、IMF は政府系ファンドが経済的理由よりも政治的理由により投資スタンスを変更しうるため、 市場の変動性が増大すると懸念を表明している。このため、2006 年 10 月に開かれたG7(先 進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)の共同声明では、政府系ファンドの透明性を高める 重要性が提起された。EU でも同様の問題意識から、政府系ファンドの透明性を確保するた めの「行動規範」を策定するよう加盟国に提案している71。また、2008 年の先進 7 カ国 蔵相中央銀行総裁会議では政府系ファンドの透明性向上を提唱して、IMF、IBRD、OECD に具体的な行動規範の指針作りを依頼している。さらに、政府系ファンドには、国際関係 など政治的意図を含んだ投資への懸念があるほか、日本の外貨準備は国の借金が原資にな っているため、運用に失敗した場合は、実質的に債務が増えて国民負担に直結しかねず、 70 71 伊藤[2008]p.28 公明新聞[2008]p.29 45 国民から強い批判を招く恐れがある。 ち な み に 、前 述 の 議 員 連 盟 が 発 足 し た 2007 年 当 時 首 相 で あ っ た 福田康夫氏は、 政府系ファンドの設立に関して、「検討するなら慎重に」と述べており、額賀福志郎財務 相も「高いリスクを伴うことになるので、国民にどう説明していくのか十分議論しなけれ ばならない」と、慎重な姿勢を取っている。 4-3 一般会計への繰り入れ 外貨準備資産を運用して生じた運用益は、先に述べたようにその一部を円に換えて一般 会計に組み入れている72。近年では、毎年度利益の半分近くが一般会計に繰り入れられてお り、一般会計において外貨資産は重要な役割を果たしている。また、外為特会からの繰入 金が財政再建に役立つのではないかと期待されている73。しかし、運用益は円金利がドル金 利を上回った場合やドルが暴落した場合に、大きく減少してしまうため、外貨資産の繰入 を当てにして予算を組むことは危険である。 4-4 国際協力銀行以外の政府系金融機関による運用 外貨準備の活用を考える際、日本政策投資銀行(1999 年に日本開発銀行と北海道東北開 発公庫を統合し、発足した政府系総合政策金融機関。一般の金融機関が行なう金融などを 補完・奨励し、長期資金の供給などを行ない、日本の経済社会政策に金融上で寄与してい くことを目的としている)や日本政策金融金庫(公的金融縮小を最大の目的として 2008 年 に設立。国の政策に基づいて、個人・中小企業・農林水産業者への融資、国内産業の国際 競争力向上や海外での資源開発促進のための金融など、一般の金融機関を補完する業務を 行う。政府による 100%出資で株式会社の形態を取る)といった国際協力銀行以外の政府系 金融機関が運用することも考えられる。しかし、国際協力銀行に対し融資を実行すれば、 ドル建てのまま運用することが可能であるという大きなメリットがある。一方、他の政府 系金融機関に円建てで資金供給する場合には、大規模なドル売り円買い介入を行わなけれ ばならず、円高を招く危険性があるというデメリットがある。 小括 72 73 藤井[2014]p.10 伊藤[2007]p.28 46 本章では、外貨準備の運用方法に関して、特に大量売却と近年注目されている政府系フ ァンドの設立について考察した。 大量売却は、リスクを負い外 貨 準 備 運 用 を 積 極 化 し 高 収 益 を 目 指 す の で は な く 、 他の先進国を基準にして著しく高い水準の外貨準備を大幅に引き下げていくべきという考 えだ。しかし、売却はドル売り円買い介入と同様の効果を持つため円高の懸念があり、最 良の運用方法とは言えない。 政府系ファンドの設立に関しては、海外株式などへの投資を積極的に行うことでより高 い運用益が確保できると期待されている。現在の米国債一辺倒の投資では、いつ変動する か分からない日米金利のリスクがあるため、運用を多角化するのは良い考えだ。しかし、 投資方針や運用実績が不透明である、政治的理由により投資スタンスを変更しうるため、 市場の変動性が増大する、国の債務を元手とする外貨準備の運用で失敗した場合に、実質 的に債務が増えて国民負担に直結しかねず、国民から強い批判を招く恐れがある等の不安 が残る。 一般会計への繰り入れは、金利リスクや為替リスクの点から不安視されている。 他の政府系金融機関による運用は、大規模なドル売り円買い介入が円高を引き起こす可 能性があり、危険である。 以上を踏まえ、本論文は国際協力銀行(JBIC)が外貨準備をより積極的に運用すべきだ と提言する。次章では、具体的な国際協力銀行の役割や運用方法を考察する。 47 第5章 国際協力銀行の外貨準備運用 前章までで述べたような外貨準備運用の問題点や、昨今の世界における日本のプレゼン スの低下を鑑みて、本章では外為特会の資金の一部を国際協力銀行(以下、JBIC という) に融資し、JBIC がその運用を行うことを提言する。 5-1 国際協力銀行の業務 JBIC は、正式名称を株式会社金融公庫国際協力銀行といい、日本輸出入銀行と海外経済 協力基金を統合し、新たな政府金融機関として発足した。日本輸出入銀行は戦後復興の時 代において、政府が日本企業の海外活動を支援する目的で、長期で低利の融資を行う機関 として 1950 年に設立された。もう一方の海外経済協力基金は、日本輸出入銀行と同じく長 期で低利の融資を行う機関であるが、貸出先を途上国および関連機関とする援助機関であ った。両者は元をたどれば一つの機関であったが一度分離され、その後再度統合されたと いうことである74。再統合後の 2008 年には JBIC の海外経済協力業務が独立し、独立行政 法人国際協力機構(JICA)となっている。JBIC は、日本および国際経済社会の健全な発 展に貢献するべく、「日本にとって重要な資源の海外における開発及び取得の促進」、「日 本の産業の国際競争力の維持及び向上」、「地球温暖化の防止等の地球環境の保全を目的 とする海外における事業の促進」、「国際金融秩序の混乱の防止またはその被害への対処」 の 4 つの分野において、さまざまな金融手法を通じた支援を行っている。2013 年度の出融 資・保証承諾額は 2 兆 2061 億円で、その内、「日本にとって重要な資源の海外における開 発及び取得の促進」が 6598 億円(30%)、「日本の産業の国際競争力の維持及び向上」が 1 兆 4770 億円(67%)、「地球温暖化の防止等の地球環境の保全を目的とする海外におけ る事業の促進」が 692 億円(3%)となっている。 資金調達実績を見てみると、近年では、外為特会からの借入金の占める割合が大きくな っている。2011 年度は全体のおよそ 20%にあたる 2304 億円であったが、2012 年度は 1 兆 7449 億円、2013 年度には 1 兆 5813 億円と、全体の 65%近くを占めている75。 74 75 草野[2006] pp.47-48 株式会社国際協力銀行[2015a]pp.2-4 48 図表 5-1 JBIC の資金調達方法 2011 年度 2012 年度 2013 年度 2000 億円 690 億円 ― 財政融資資金借入金 2010 億円 4000 億円 5551 億円 外国為替資金借入金 2304 億円 1 兆 7449 億円 1 兆 5813 億円 政府保証外債76 4232 億円 2053 億円 6586 億円 財投機関債77 500 億円 ― ― 回収金等による そ ▲69 億円 1806 億円 ▲3459 億円 1 兆 0976 億円 2 兆 5998 億円 2 兆 4490 億円 財政投融資資金特別 会計投資勘定出資金 の他自己資金等 合計 出所:株式会社国際協力銀行[2015c]78より筆者作成 5-2 国際協力銀行による外貨準備活用の歴史 JBIC は、これまでドル建ての融資のために必要な米ドルについて、財政融資資金から調 達した円を転換する際に、民間金融機関との取引によっていた。しかし、2008 年に財務省 は JBIC の外貨調達手段を多様化し効率的な外貨調達に資する目的で、これと並行して外為 特会との間の円と米ドルの交換を可能とすることを発表した79。 2011 年、1 月 28 日、財務省は外為特会から JBIC に対して貸し付けを行うことを発表し た。財務省[2011]によると、「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を踏まえ、同 月 26 日、財務省より、外貨調達環境が依然として厳しい状況にある中、JBIC がインフラ や資源関連その他の戦略的海外投融資を機動的に行うことができるよう、必要に応じ外為 特会が JBIC に対し、当面 1.5 兆円を目途に融資により外貨資金を供与し得る体制を整備す るということだ。貸付は 39 億ドル(約 4680 億円)で貸付期間は 5 年(戦略的海外投融資の 融資期間〈長期のものは 10~20 年程度〉を踏まえ、必要に応じロールオーバー)、貸付金 76 債券の金額は額面ベース 同上 78 株式会社国際協力銀行[2015c]pp.110-112 79 財務省[2008] 「国際協力銀行と外国為替資金特別会計との間の外貨交換について」 http://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_fund_spe cial_account/jbic_houdou200513.htm 77 49 利は JBIC の外貨調達市場における調達状況を踏まえた金利、1 月 28 日の貸し付けに関し ては米ドル 6 か月 LIBOR+0.31%とした80。 JBIC は、財務省が 2011 年に発表した「円高対応緊急パッケージ」の中で「円高対応緊 急ファシリティ」の創設が示されたことを受けて、円高の進行に対応し、日本企業による 海外企業の買収(M&A)や資源・エネルギーの確保等をより一層促進していくと述べてい る。 円高対応緊急ファシリティでは、外為特会のドル資金を、JBIC を通じて日本企業に よる海外企業の買収や資源・エネルギーの確保などの促進に活用することが想定されてい る。本ファシリティの設置当初は、外為特会から JBIC への融資枠は最大 1,000 億ドル(約 8 兆円)とされていたが、2011 年 10 月に 10 兆円規模に拡大することが日本政府により決 定された。また、本来 2012 年 9 月末を期限とする措置として導入されたが、日本企業の ニーズの高まりや為替動向等も踏まえ、その期限を 2013 年 3 月末まで延長することが発表 された。この取り組みの中で JBIC は環境分野やアジア向け案件へのリスクマネー供給等 、 M&A 案件等への投資促進を行ってきた81。 2013 年 4 月には、 上記の円高対応緊急ファシリティは 「海外展開支援融資ファシリティ」 と名前を変え、緊急事業ではなく恒常的な事業となった。引き続き、日本企業による海外 M&A やインフラ、資源分野などへの出融資を通じ、中堅・中小企業を含む日本企業の海外 展開を積極的に支援している。帝人、ニコフ、LIXIL、横浜ゴム、デンソー、三井海洋開発 などがこの制度を使っている。ソフトバンクもこの制度を使い、米スプリント社の買収資 金として 2200 億円の融資を受けている。 80 財務省[2011] 「外国為替資金特別会計(外為特会)から株式会社日本政策金融公庫国際 協力銀行(JBIC)に対し貸付を行います」 https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_fund_sp ecial_account/jbic_gaitame_houdou_230128.htm 81 株式会社国際協力銀行[2012a] p.68 50 図表 5-2 海外展開支援出資ファシリティ対象案件実績(2013 年) 契約調印年 国・地域名 出資先 出資先(案件)概要 月 2013 年 3 月 JBIC 出資コミ ット額 ASEAN 地域 Mizuho ASEAN 地域の現地 ASEAN 企業(日系合弁企業 Investment LP を含む)に投資する 25 百万米ドル ファンド 2013 年 3 月 インド Core インドのインフラ事 Infrastructure 業に投資するファン India Fund Pte. ド 22 百万米ドル Ltd. 2013 年 3 月 2013 年 8 月 インド 米国 Delhi Mumbai デリー・ムンバイ産 260 百万 Industrial 業大動脈構想の対象 インドルピー Corridor 地域におけるインフ Development Co. ラ開発の支援等を行 Ltd. う法人 Gavilon 米国の大手穀物・肥 Agriculture 料会社 600 億円 Holdings, Co. 2013 年 10 月 グローバル Energy エネルギー関連セク 50 百万 50 百万 Opportunity ターへ投資するファ 米ドル米ドル Fund, L.P ンドに投資するファ ンドオブファンズ 出所:株式会社国際協力銀行[2015b]82より筆者作成 82 株式会社国際協力銀行[2015b] 「海外展開支援出資ファシリティの実績について」 https://www.jbic.go.jp/ja/efforts/result-facility 51 図表 5-3 海外展開支援出資ファシリティ対象案件実績(2014 年・2015 年) 2014 年 3 月 アジア地域 CVC Capital 主にアジアで事業活 Partners Asia 動を行う企業に投資 Pacific IV (J) するファンド 50 百万米ドル L.P. 2014 年 3 月 デンマーク MHI Holding 三菱重工業(株)と Denmark ApS デンマーク王国法人 132 百万ユーロ Vestas Wind Systems A/S による 洋上風車合弁事業 2014 年 6 月 インド Takshasila セコム医療システ 630 百万 Hospitals ム、豊田通商及びイ インドルピー Operating ンド法人 VSK Private Limited Holdings による私 立総合病院運営事業 2014 年 6 月 アラブ首長 Takshasila アラブ首長国連邦ド 国連邦 Hospitals バイ首長国を拠点と Operating する総合水事業会社 92 百万米ドル Private Limited 2014 年 11 月 2015 年 1 月 米国 ミャンマー JX Nippon Oil 米国テキサス州にて 約 91 百万米ド Exploration 行われる ル (EOR) Limited CO2-EOR 事業 Project ミャンマーにおける Promoting 民間プロジェクトを Vehicle 初期段階から支援す ― ることを目的とした 会社 2015 年 5 月 中国 CMH Growth 中国の成長企業等に Fund, L.P. 投資するファンド 52 20 百万米ドル 2015 年 9 月 台湾 KH Neochem U.K. Ltd KH ネオケム(株)、 50 百万米ドル 台湾法人 CPC Corporation 及び台 湾法人兆豊国際商業 銀行による石油化学 合弁事業 出所:株式会社国際協力銀行[2015b]83より筆者作成 また、「特別会計に関する法律等の一部を改正する等の法律」が国会で成立したため、 2014 年 4 月から外貨資産の外部への運用委託を行うことが可能となった。これまでは、財 務大臣が管理する政府の特別会計である外為特会が、政府による外国為替などの売買およ びこれに伴う取引を円滑に行うことを目的として、外貨資産を保有していた。しかし、上 記の法律制定により、現在は運用の外部委託が可能となり、特別会計に関する法律第 76 条 第 6 項により、運用できるのは信託会社若しくは金融機関の信託業務の兼営等に関する法 律第 1 条第 1 項の認可を受けた金融機関、または金融商品取引法第 2 条第 9 項に規定する 金融商品取引業者(同法第 28 条第 4 項に規定する投資運用業を行う者に限る。)とされて いる84。外部委託が可能となっても「安全性及び流動性に最大限留意した運用を行うことと し、この制約の範囲内で可能な限り収益性を追求するものとする。」との運用方針の下で 運用を行っていき、この運用方針に反するリスクの高い運用を目指すものではないという。 法改正によりお金に縁のない役員だけでなく民間が運用できるようになるため、さらなる 運用益が出ると期待されている。しかし、外部委託をする際には手数料以上の利益を出さ なければならないから、高い収益性を確保すべくリスクを取る危険性が指摘されている。 先日、財務省は 2016 年度に JBIC に 330 億円ほど出資する方針を打ち出した。質の高い インフラ投資を促す政府の取り組みに沿って、JBIC に新設する「インフラ投資勘定」の資 本に充てるという。「インフラ投資勘定」とは、途上国向けの投資の拡大をすべく、JBIC 83 株式会社国際協力銀行[2015b] 「海外展開支援出資ファシリティの実績について」 https://www.jbic.go.jp/ja/efforts/result-facility 84 財務省[2014b] 「外国為替資金特別会計が保有する外貨資産の外部委託にかかる登録に ついて」 https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_fund_sp ecial_account/gaitame_emanager.htm 53 がリスクマネー供給を拡充する目的で 2016 年度に 2000 億円規模で儲けられる新しい勘定 である。この新勘定では、途上国のインフラ等といった高リスクの投融資も視野に入れて おり、そのため財務省は安定した財務基盤が必要だと判断した。そこで、政府からの出資 金およそ 330 億円と JBIC が出資する 1500 億円程度が新勘定の資本となる。これは中国を 中心に設立されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)が影響力を拡大させていくことを懸念 して行われている動きである85。AIIB が勢力を拡大させていくにつれ、この傾向は見られ ると考えられ、JBIC と政府が協力してこうした動きをすることが今後ますます予想される。 5-3 国際協力銀行の今後の外貨準備活用 5-3-1 今後の役割 前述のように外貨準備活用政策の一つとして、財務省は日本政策金融公庫の国際部門で ある JBIC に対し外貨準備からドル資金を貸し付けることを発表した。昨今、好業績を上げ ている企業の多くは海外ビジネスを原動力としているが、世界的な金融不安により資金調 達コストが上昇しているため、日本企業もドル資金の調達が難しくなっている。異なる通 貨同士の金利差をやりとりするデリバティブ取引であるベーシススワップにおけるドル調 達コストは 2015 年に入って上昇し、特に 8 月以降、2012 年の欧州債務危機でドル調達が 著しく困難になって以来の水準に達している。 そこで、外貨を外貨のまま融資することができる JBIC が資金面で企業を支援する。日本 企業の国際競争力の低下が叫ばれる昨今において、JBIC が果たす役割は大きいだろう。 JBIC が日本企業による海外へのインフラ輸出などの事業に対して融資を行うとき、外貨準 備として国が保有する米ドルを活用できるようにする。JBIC が金融市場からドルを調達し きれないような大型案件の場合、外貨準備を外為特会から JBIC に対して融資する。このよ うに外為特会による JBIC への融資は以前より活発化している上、JBIC の先進国向け事業 への融資を拡大することが決まり、従来の原子力発電所と高速鉄道に加えて上下水道や再 生可能エネルギーによる発電、情報通信ネットワーク整備の分野が新たに融資対象となっ た。そこで、今後ますます外貨準備を利用した JBIC による融資を分野、額ともに拡大させ ていくことが望ましい。具体的には、巨額な外貨準備の一部を活用し、資金面・技術面で の支援を通じて海外におけるレアアース、シェールオイル等の天然資源の権益獲得を進め 85 日本経済新聞[2015]p.3 54 ることが有用である。日本は資源に乏しくエネルギー輸入大国であるから、資源を有して はいるものの未だに開発の進んでいない国の支援をすることは両国にとって利益となる。 そして、損失を被るおそれもあるが、成功すれば大きなリターンが期待できる上、円高時 のリスクヘッジにもなる86。 5-3-2 運用額 以下、外為特会から JBIC への融資をどのくらい拡大するべきか考える。 まず、現在の日本の外貨準備高は 1 兆 2500 億 7300 万ドル(約 150 兆 87 億 6000 万円) である。前述のように、日本では、政府短期証券は 3~6 ヵ月の返済期限が来ると再度借り 換えが行われている。例えば、米国債も 5 年であれば 5 年の償還期が来たら、円に交換す ることなく、利子分を含めて米国債を買い換える。つまり、国の借金をロールオーバーし ながら、米国債を買い続けているのである。しかし、過剰な外貨準備を保有すれば為替リ スク・金利リスクの危険がある。そこで、ロールオーバーを行わずに外債の償却を待ちド ル資産を徐々に減らしていくのが良いだろう。含み損が十分に解消されているこのタイミ ングでこそ外貨準備高の縮小を図るべきである。 それでは、なぜ政府は米国債の利子で円に交換せず、持ち続けているのだろうか。それ は利子であったとしても、ドルを円に転換するという行為が、政府による円買いドル売介 入となり、円高を招く懸念があると考えられているからである。しかし、本来、政府によ る為替介入は為替レートが一時的に行き過ぎた水準にあるとき、市場に影響を与える緊急 手段であるから、市場が安定した際には資金を回収するのが良い。すなわち、現在ある外 貨準備は、放っておけば保有する米国債の約7割が5年以内に償還期を迎える。国債の償還 期が来たら、円に換え政府の債務を返済すれば良いということだ。2008 年10 月2 日、民 主党の当時金融対策チーム座長であった大塚耕平は、財務省の視察後に記者会見を行い、 外貨準備の規模が大きすぎるとした上で、現状での国内総生産比(以下、GDPという)で 約20%に達する1兆ドル以上に上る外貨準備の規模を、約10年間で10%程度まで半減を目指 すべきとの考えを示している。日本をはじめ、主要先進諸国の外貨準備高と、外貨準備の GDP比をより詳しく見ると、IMF[2015]の発表によれば2015年7月末時点の日本の外貨準備 高は約1兆2610億ドル(約151兆3200億円)で対GDP比は27.4%である。同時点の米国は4340 億ドル(約52兆800億円)で同2%、英国が1008億ドル(約12兆960億円)で同3.7%、カナ 86 藤田[2013] pp.89-106 55 ダが約750億ドル(約9兆円)で4%となっている87。 87 International Monetary Fund[2015] http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/01/ 56 図表5-4 主要先進国のGDPに対する外貨準備の比率(単位:%) 2000 2003 2006 2009 2012 日本 7.4 15.4 20.0 19.8 20.4 アメリカ 0.3 0.4 0.3 0.4 0.3 ユーロ圏(同 0.6 0.4 0.4 0.4 0.4 イギリス 3.1 2.8 2.5 2.0 2.4 カナダ 4.0 3.6 2.6 3.2 3.0 上) 出所:IMF [2015]88より筆者作成 一方で、極端な円安になった場合に備えて、ある程度の外貨準備を持っておく必要はあ る。実際、1998 年に日本が金融危機に陥り、1 ドル=147 円台の大幅な円安に至ったとき にはドル売り介入を行った。そのときの為替介入で政府は当時の外貨準備の 10 分の 1 を使 用している。 事実、為替介入にも効果が一切ないわけではない。先に述べた通り、ポートフォリオ効 果やシグナル効果を通して、為替介入が市場に何らかの影響を与えられた場合は効果が認 められる。したがって、いざというときの外貨準備は変動相場制の場合であっても保有し ておくべきである。もっとも前述のように、為替介入はその効果が持続するのが長くても 1 週間程度のものが多く、長期的な効果は見込めないケースがほとんどである。 では、日本はどれほどの外貨を保有すれば良いのであろうか。先に考察した外貨準備の 適正規模の科学的検証から、2007 年時点で 2438 億 9300 万ドル(約 29 兆 2672 億円)の 外貨準備を余剰に保有しているということが分かった。そこで 2015 年の外貨準備高で考え ると、少なくとも 5312 億 8000 万ドル(約 63 兆 7536 億円)の外貨準備を過剰に保有して いることになるから、この水準に至るまでは政府はロールオーバーせずに、国債の償還期 が来たら、円に換え政府の債務を返済すれば良い。この債務の返済が終わると、日本の外 貨準備はおよそ 7187 億 9300 万ドル(約 86 兆 2552 億円)となる。 次に、外為特会から JBIC への融資額を考える。本論の提言は、主に米金利が円金利を上 回ることにより生じる利息分のみの運用である。そこで、財務省[2013]発表の賃借対照表を 88 同上 57 見ると、外為特会の負担において発行される政府短期証券の残高は約 117 兆 4433 億円であ ることが分かる89。よって、現在の外貨準備から政府短期証券の残高を除した約 32 兆 5655 億円が現在の利息分となる。前述のように、本提言は利息分のみの運用であり、国の負債 である政府短期証券発行による元本を運用するわけではないから、リスクをとることには ならない。したがって、外貨準備運用のリスクは問題とならず、現在の 10 兆円規模の JBIC に対する融資枠を 30 兆円規模に拡大することを提言する。この場合、残りの約 56 兆円は これまで同様、ローリスク・ローリターンの安全資産で運用すれば良い。 5-4 国際協力銀行が外貨準備を運用する利点 以下では、先に述べた外貨準備資産の運用方法と比較し、JBIC による運用にはどのよう な利点があるのか考察する。 5-4-1 国際社会における日本のプレゼンスを維持・向上させることができる 90 年代と比較し、昨今の日本のプレゼンスは低迷している。IMD が毎年発表する国際競 争力ランキングは 90 年代前半に 1 位を記録していたものの、2010 年以降 20 位にも及ばな い状況となっている。では、JBIC が中心となり日本の国際競争力の維持・向上を実現する ことはできないのだろうか。 89 財務省[2013]p.3 58 図表 5-5 日本の国際競争力ランキング推移 0 5 10 15 20 25 2015 2012 2013 2014 2009 2010 2011 2007 2008 2004 2005 2006 2001 2002 2003 1999 2000 1996 1997 1998 1993 1994 1995 1991 1992 1990 30 出所:IMD(国際経営開発研究所)[2015]90より筆者作成 前述のように JBIC は、2013 年 2 月に日本企業の海外展開の支援を目的に「海外展開支 援出資ファシリティ」を、同年 4 月には「海外展開支援融資ファシリティ」を創設した。 これらの日本企業による海外 M&A やインフラ、資源分野などへの出融資を通じ、中堅・中 小企業を含む日本企業の海外展開を積極的に支援している。このように、JBIC が積極的に リスクマネーを供給し、日本企業の海外進出・海外展開を支援することにより、日本企業 は海外における経済活動を拡大することができる91。外貨準備の運用が米国債一辺倒投資で あれば、通常の経常黒字の分しか GDP は増大しないが、JBIC がその一部を運用すれば、 輸出融資によって日本企業の財・サービスの輸出が加速してさらに経常黒字が増加するた め、その分 GDP も増大する。国際社会における日本企業のプレゼンス低下が叫ばれる中、 政府と一体の法人であり日本で唯一の国際金融に特化した金融機関である JBIC が外為特 会から借り入れを行うことは、日本企業の国際競争力を高める上で有用だろう。このよう な役割から、JBIC は日本版政府系ファンドであると言われることがある。しかし、業務の 目的は利益と公益の両立であり、利益のみを追求することではない点が通常の政府系ファ 90 91 IMD[2015]p.1 株式会社国際協力銀行[2015a]p.16 59 ンドとは大きく異なる。 5-4-2 様々な通貨ニーズに対応することができる 昨今、金融危機に伴い一部の民間企業が外貨を調達することが困難になっており、今後 ますます外貨不足が起きることも予想される。そこで、外為特会の外貨準備を JBIC に貸し 付け、それを民間企業に融資することが望ましい。 1990 年代後半のアジア通貨危機からアジア諸国が立ち直った後、形成された国際的な生 産・流通ネットワークを生かしながら世界経済が拡大する中で、日本企業はますますの済 成長を遂げてきた。こうした中、以下の二つの分野において、欧米の先進国通貨だけでな く、発展途上国通貨を含む現地通貨資金へのニーズが高まっている。一つは、国際的な生 産・流通ネットワークの中で生産拠点が進出先の国における事業拡大を進めるにつれて、 資材や部品などを日本からの輸入に限らず、現地企業から調達する割合が増加しているこ とに伴う資金ニーズの拡大である。経済産業省[2007]の発表によれば、日系製造業企業のア ジア進出先拠点の調達動向は、日本からの調達比率が低下する一方、現地調達比率が上昇 しており、特に中国とインドネシア・マレーシア・フィリピン・タイの ASEAN4 の国々に おいて上昇傾向が顕著である92。もう一つは、現地販売金融である。急速に経済成長が進ん だ結果、近年では中間層の拡大を伴う所得水準の全般的な向上が続いている。そのため、 日系企業にとって欧米先進国だけでなく、東アジア・東南アジアを中心としたアジア諸国 が生産拠点供給をするのみならず、生産販売市場としての魅力を高めている。JBIC が発表 した「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2014 年度海外直接投資アンケ ート結果」によれば海外進出を検討する日本企業が有望事業展開先を有望だと考える理由 として重視する要素は、安価な労働力等の低コストに関する項目が減少する方、現地市場 に関連した項目が増加しており、日本企業の認識が変化しつつあるということを示してい る93。また、経済産業省[2007]によると、海外進出している現地法人においては「進出先現 地で販売維持拡大を図るため」を進出動機と答えた企業数が最も多くなっている94。為替リ スク回避のためにも現地通貨建てによる資金調達ニーズが高まっているが、近年では特に 製造販売金融の分野でこの志向が顕著である。いずれにせよ、欧米先進国通貨だけでなく、 92 93 94 経済産業省[2007]pp.149-151 株式会社国際協力銀行[2014c]pp.34-38 経済産業省[2007]pp.118-123 60 開発途上国を含む現地通貨建てによる資金調達のニーズは確実に高まりつつあり、今後も 上昇するだろう95。 事実、JBIC の出融資通貨はこれまで、円・米ドル・ユーロ・ポンドといった主要先進国 通貨が中心であった。しかし、近年は、先ほどの述べたように日本企業の現地市場でのビ ジネス拡大に伴い高まりつつある、開発途上国通貨を含む現地通貨によるファイナンスの ニーズに応じ、JBIC は現地通貨建てによる幅広い出融資を行っている。当該通貨建ての直 接融資が可能で、2014 年 6 月時点で、タイ・バーツ、インドネシア・ルピア、メキシコ・ ペソ、 南アフリカ・ランドなど計 1 1 通貨で融資実績がある。 95 小川[2009]pp.88-91 61 図表 5-6 タイ・バーツ JBIC による現地通貨建て融資実績 件数 主要案件概要 承諾時期 承諾額 9件 圧造パーツ製 2014 年 1 月 THB42mil 2013 年 12 月 THB50mil 2013 年 9 月 IDR5bil 2013 年 7 月 IDR22bil 2013 年 10 月 ― 2012 年 7 月 CAD477mil 2012 年 8 月 CAD650mil 2013 年 7 月 AUD400mil 炭鉱開発事業 2013 年 3 月 AUD1540mil 造・販売事業 自動車部品製 造・販売事業 インドネシア・ 4件 ルピア 自動車部品製 造・販売事業 自動車部品製 造・販売事業 南ア・ランド 5件 自動車販売金融 事業 カナダ・ドル 3件 再生可能エネル ギー発電事業 シェールガス鉱 区権益取得開発 事業 豪・ドル 7件 鉄鉱山権益取得 事業 英・ポンド 14 件 高速鉄道事業 2014 年 4 月 GBP860mil 中国・人民元 2件 精密樹脂製品の 2014 年 1 月 RNB33mil 製造・販売事業 出所:株式会社国際協力銀行[2014]96より筆者作成 5-4-3 運用のプロがいる JBIC[2015]によると 2014 年 3 月末時点における累積出融資金額はアジア・太平洋が 24 兆 6011 億円、ヨーロッパ・中東・アフリカが 18 兆 6730 億円、北米・中南米が 16 兆 8753 96 株式会社国際協力銀行[2014b]p.16 62 億円で、累積出融資承諾件数はそれぞれ、11957 件、6896 件、7033 件にものぼる。 また、JBIC[2015]の発表した損益計算書によると 2013 年度の経常収益は 2172 億 9100 万円、2014 年度では 2261 億円であり、その内資金運用収益が 1679 億 4700 万円(2013 年度)、1811 億 4300 万円(2014 年度)となっている97。以上より、JBIC はこれまで世界 中で巨額の運用を行い、多くの運用収益をあげてきたことが分かる。この実績は外為特会 から外貨準備資産を融資されるにふさわしいと言えるだろう。 5-4-4 運用の透明性が確保されている 先述のように、シンガポールの GIC 等、現在他国で設立されている政府系ファンドは実 態が不透明で情報開示が不十分であるとの指摘がある。役職員や委員の選出プロセス・運 用方法等が明らかにされていないことが多い98。これは国民の借金からなる外貨準備を財源 としているのにもかかわらず、運用に失敗した際の責任を曖昧にしてしまうものであるの と同時に、投資を受ける国や企業が実態の分からない政府系ファンドからの投資に警戒心 を抱いてしまう要因となりうる。 それに対し、JBIC は政府の 100%出資により運営される政府と一体の金融機関である一 方で、株式会社であるため、毎年度に公表される年次報告書により財務状況や運用実績を 誰でも確認することができる。よって、政府系ファンドと比較して、透明性が多く、国民 の外貨準備を運用するにはよりふさわしいと言えるだろう。 5-5 国際協力銀行による外貨準備の運用における反論とそれに対する反駁 ここまで本論文で提言する政府系金融機関である JBIC による外貨準備活用の拡大の持 つ利点を中心に述べてきたが、本提言においては、様々な問題点が指摘されることが考え られる。そこで、本節では予想される反論とこれらの反論に対する反駁を行う。 5-5-1 国際協力銀行の規模は小さすぎるのではないか JBIC による外貨準備運用について考える際に問題となるのが、JBIC の規模の小ささと それに伴い融資可能額が限られることによるインパクトの小ささである。先に述べたよう に、外為特会から JBIC への融資枠は最大 1,000 億ドル(およそ 8 億 3000 万円)とされてい 97 98 株式会社国際協力銀行[2015a]p.107 みずほ総合研究所[2008]p.275 63 たが、 2011 年 10 月に 10 兆円規模に拡大することが日本政府により決定された。 とはいえ、 現在の日本の外貨準備高が 1 兆 2500 億ドル以上あるのと比較すると、1000 億ドルは外貨 準備の 8%にも満たないことになる。 図表 5-7 JBIC・DBJ・JFC の組織概要 DBJ(日本政策投資 JFC(日本政策金融 銀行) 公庫) 1 兆 3910 億円(日本 1 兆 4 億 2400 万円 3 兆 8601 億円 政府 100%出資) (日本政府 100%出 JBIC 資本金 資) 出融資残高 14 兆 6930 億円 13 兆 4090 億円 20 兆 683 億円 従業員数 533 人 1184 人 7364 人 出所:株式会社国際協力銀行 [2015]99・株式会社日本政策投資銀行[2015]100・株式会社日 本政策金融公庫[2015]101より筆者作成 上記の図表は日本の政府系金融機関であるJBIC・DBJ・JFCの資本金や従業員数といった 組織概要を示している。この図表から分かる通り、JBICは巨額な外貨準備を運用するには 規模の小さな組織である。そのため、JBICにより外貨準備の運用が促進されても、そのイ ンパクトは小さく、JBICにとっては負担も大きいので、いくつかの外貨資産運用の施策の1 つとしてJBICを活用していくのが現実的である。ちなみに、金融対策チームの大久保勉事 務局長は記者会見で、外為特会について「100兆円を超える資金をわずか18人で運用してい る。大手金融機関のディーリングルームに比べて(財務省の)設備は貧弱だ」として、リ スク管理体制の問題を指摘している。 この場合、JBIC に対する融資枠を前述の提言のように 30 兆円とすると、現在の外貨準 備に占める割合はおよそ 20%、前に示した水準までロールオーバーすることなく換円する とおよそ 25%となり、施策の一つとしてのインパクトは小さくない。 株式会社国際協力銀行 [2015d] https://www.jbic.go.jp/ja/about/organization 100 株式会社日本政策投資銀行[2015] http://www.dbj.jp/co/info/outline.html 101 株式会社日本政策金融公庫[2015] https://www.jfc.go.jp/n/company/profile.html 99 64 5-5-2 政府系金融機関が民業を圧迫してしまうのではないか 政府系金融機関である JBIC が巨額な外貨準備を運用する際の問題点として、政府系金融 機関は低利で資金供給できるため、民間金融機関を圧迫してしまうおそれがあるのではな いかという指摘がある。この問題は「民業圧迫論」と言われ、政府系金融機関の役割が大 きくなればなるほど問題とされる。政府金融活動の肥大化とは一般的に、民間金融機関が 資金供給を担うべきと考えられる分野・領域にまで、政府系金融機関の資金が流出すると いうものだ。先に述べたように、政府系金融機関は低利で政府系金融機関は低利で資金調 達・出資が可能なことに加え、補給金・法人税等の免除も適用されるため、これをもとに した低金利かつ長期資金の供給が可能となるのである。一方、資金の供給を望む企業側も 低利かつ長期の資金調達を求めるため民間よりも政府系金融機関からの資金調達を好む傾 向にある。そのため政府系金融による資金供給は肥大化しやすい。これは民間でも十分対 応できる優良な貸出先について、官民で奪い合う状態が発生することにもなり、民間の収 益機会を奪ってしまうことになりかねない。これは、新 JBIC 法第 1 条「一般の金融機関が 行う金融を補完することを旨としつつ」と定めており、政策金融の第一の意義・目的が民 業の補完であることを考慮してもふさわしくないだろう。 しかし、JBIC が外貨準備を活用し出融資を行う際に民業圧迫論はさほど問題にならない だろう。というのも、JBIC はシンジケートローンの形態をとり、業務を行っているためで ある。シンジケートローンは、「協調融資」とも呼ばれ、大型の資金調達ニーズに対して、 複数の金融機関が協調してシンジケート団なるものを結成し、一つの融資契約書に基づき 同一条件で融資を行うことである。これは、取りまとめ役(アレンジャー)となる金融機 関(主幹事)が、資金の調達側(企業等)と調整して利率や期間などを設定し、複数の金 融機関と分担して融資する方式となっている。一般的にシンジケートローンでは、金融機 関側は貸し倒れのリスクを分散できる一方、調達側はまとめて多額の資金を調達すること が可能となるというメリットがあるために利用されている。JBIC はこのシンジケートロー ンという方法を使い、民間金融機関と共同して融資を行う方針をとっている。そのため、 JBIC が外貨準備を活用し、出融資の規模・機会を増大させるということは、民業を圧迫す るというよりも、むしろ民間金融機関の活躍機会を増やすことにつながるのである。した がってこの場合、民業圧迫論は問題にならないだろう。 実際、シンジケートローンはどれほど行われているのだろうか。下記の表は、JBIC と民 間金融機関がどれほどの割合で協調融資を行っているのかを示している。2001 年に「特殊 65 法人等整理合理化計画」において決定された「民間にできることはできるだけ民間に委ね る」という原則を踏まえ、協調融資の割合といった融資条件の見直しが行われてきている。 図表 5-8 JBIC と民間金融機関との共同融資の割合 2012 年 金融種類 輸出金融 国内貸 業務廃止 直接借款 5割 国内貸 6割 直接借款 7割 投資金融(国 国内貸 原則業務廃止 際競争力) 直接借款 6割 事業開発等 直接借款 6割 資源金融 金融 出所:株式会社国際協力銀行[2012c]102より筆者作成 例えば、ダイキン工業株式会社は、2012 年 8 月に米大手空調機メーカーの Goodman 社 を総額 37 億ドル(約 4440 億円)で買収することを発表し、その際の買収資金については、 手元資金の一部と、政策金融、普通社債、銀行借入によりまかない、JBIC が実施している 円高対応緊急ファシリティを株式会社三井住友銀行、株式会社三菱東京 UFJ 銀行、株式会 社みずほコーポレート銀行の民間銀行 3 行を通して活用することとし、買収総額 37 億ドル のうち JBIC より 15 億ドル(約 1800 億円)の借入、民間銀行 3 行より 10 億ドル(約 1200 億円)相当の円による借入、合計 25 億ドル(約 3000 億円)相当の融資を受けると発表し ている。 また、民業圧迫論に対する措置として、JBIC と民間の人事交流の強化が考えられる。民 間企業と国という行動原理の異なる組織間の人事交流を通じて、民間と国との相互理解を 深め、双方の組織の活性化と人材の育成を図ることができるだろう。 小括 102 株式会社国際協力銀行[2012c]p.12 66 本章では、JBIC による外貨準備の運用について考察した。2008 年より、外為特会と JBIC との間で円とドルの交換が可能となり、効率的な外貨の調達が可能となった。2011 年には、 財務省が「円高対応緊急パッケージ」の中で「円高対応緊急ファシリティ」の示し、時限 措置として外為特会が JBIC に融資を行い、JBIC は外貨準備を活用してインフラや資源・ エネルギーに投資をすることが可能になった。2013 年には、「海外展開支援融資ファシリ ティ」と名前を変え、恒常的な事業となり、ソフトバンクや三井海洋開発がすでに融資を 受けている。その後、2014 年には外貨準備の外部への運用委託を行うことが可能となった が、運用の際には、安全性及び流動性に最大限留意した運用を行うこととしている。 本論の提言は、主に米金利が円金利を上回ることにより生じる利息分のみの運用である。 そこで具体的には、外貨準備から外為特会の負担において発行される政府短期証券の残高 約 117 兆 4433 億円を除した利息分約 32 兆 5655 億円が現在の利息分となるため、現在の 10 兆円規模の JBIC に対する融資枠を 30 兆円規模に拡大することを提言した。 外為特会から JBIC に外貨資産を融資する利点としては、JBIC は国際社会における日本 のプレゼンスを維持・向上させることができる、様々な通貨ニーズに対応することができ る、運用のプロがいる、運用の透明性が確保されている点があげられた。 世界的な金融不安により調達が厳しい状況が続く中、外貨準備を活用した JBIC による企 業への融資が重要な役割を果たすことが期待される。今後、外貨準備を利用した JBIC によ る融資を分野、額ともに拡大させ、特に資源に乏しい日本は資源・エネルギーの権益獲得 を積極的に進めていくのが望ましいだろう。 67 結論 日本は現在、世界最高水準の外貨準備を保有している。その額は 1 兆 2500 億ドル(約 150 兆 87 億円)を上回っており、GDP のおよそ 27%に当たる。これは一見、政府が潤沢 な資産を保有しているように思えるが、実際は政府短期証券の発行と引き換えに外貨準備 が増加している。そのため、外貨準備が巨額化するということはそれと同時に国の借金も 増大しているということなのである。 これほどまでに外貨準備が巨額化した主な原因は政府による円売り・ドル買いの為替介 入である。そこで、為替介入が為替レートに与える影響について検証したところ、人工的 な為替介入によって中長期的な効果をあげることはできず、多大なコストで為替介入を行 う必要性は小さいということが分かった。 現在、外貨準備の運用は外為特会を中心に行われており、そこにはいくつかの問題点が ある。まず第一に、為替リスクと金利リスクの存在が上げられる。日本政府は先物取引等 でリスクヘッジを行っておらず、財務省の発表によると、2012 年 3 月時点の総資産は 111 兆円で、為替差損は 35 兆円を上回ったと発表された。これまでのところは、日米の金利差 は日本の方が低金利であったため、円高ドル安の際に生じる損失を補うことができたが、 現在の日米金利差は短期金利、長期金利ともにほとんど同じであり、今後は円高時の損失 を補てんすることは難しくなる可能性がある。第二に、米国債への一辺倒投資が上げられ る。現在、外貨証券の内およそ 4 分の 1 に当たる 56 兆円を米国債で保有していることが予 想され、これでは仮にドル金利が円金利を下回った場合や円が急伸しドルが暴落した場合 に、大きな損失を被ることになりかねない。第三の問題点として、外貨準備運用の不透明 性が上げられる。外貨準備資産のおよそ 76%を占める外国国債については、どの国の国債 がどれほどの割合で保有されているのかが明らかにされていない。こうした外貨準備の問 題点を改善していく必要がある。 また、近年好業績を上げている企業の多くは海外ビジネスを原動力としているが、世界 的な金融不安により資金調達コストが上昇しており、日本企業はドル資金の調達が難しく なっている。これでは、日本企業の海外における経済活動が停滞してしまい、今後ますす 国際社会における日本のプレゼンスの低下が懸念される。 そこで、本論文では外貨準備運用の健全化と日本の国際競争力の向上を実現すべく、外 為特会の資金の一部を JBIC に融資し、JBIC がその運用を行うことを提言した。本論の提 68 言は、主に米金利が円金利を上回ることにより生じる利息分のみの運用である。そこで具 体的には、外貨準備から外為特会の負担において発行される政府短期証券の残高約 117 兆 4433 億円を除した利息分約 32 兆 5655 億円が現在の利息分となるため、現在の 10 兆円規 模の JBIC に対する融資枠を 30 兆円規模に拡大することを提言した。外為特会から JBIC に資金提供を行うことには①国際社会における日本のプレゼンスを維持・向上させること ができる、②様々な通貨ニーズに対応することができる、③運用のプロがいる、④運用の 透明性が確保されているといったメリットがある。JBIC の規模の小ささといった問題はあ るものの、国債をロールオーバーせず償却を待ち外貨準備高を低水準にした上で行う一つ の施策として実施する価値は大いにあるだろう。 69 参考文献 Aizenman and Marion[2002] “International Reserve Holdings with Sovereign Risk and Costly Tax Collection,” NBER Working Paper, National Bureau of Economic Research Frenkel, Jacob, A and Boyan Jovanovic[1981] “Optimal International Reserves: A StochasticFramework,” The Economic Journal, 91 GIC[2014a] “Overview by Group President and Group Chief Investment Officer” GIC ホ ームページ http://www.gic.com.sg/report/report-2013-2014/overview.html ―[2014b] “REPORT ON THE MANAGEMENT OF THE GOVERNMENT’S PORTFOLIO Heller, Robert, H[1966] “Optimal International Reserve,” The Economic Journal, 76 IMD[2015] “THE 2015 IMD WORLD COMPETITIVENESS SCOREBOARD” IMD International Monetary Fund[2015] ”World Economic Outlook Datebase” IMF ホーム ページ http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/01/ McCallum, Bennett T[2006] “Is Singapore the Model for China’s New Exchange rate Policy?” Tepper School of Business of Carnegie Mellon University R. Flood and N. Marion[2002] “Holding International Reserves in an Era of High Capital Mobility” International Monetary Fund, Working Paper, Research Department, Washington, DC. Schwarts. A .J[2000] “The rise and fall of foreign exchange market intervention” NEVER Working Paper Series No.7551 Schweizerische National Bank[2015] “10th Annual Report Swiss National Bank” スイ ス中央銀行 ―――――――――――――― [2015] “Foreign currency investments and Swiss franc bond investments (end of Q3 2015) ” スイス中央銀行ホームページ http://www.snb.ch/en/iabout/assets/id/assets_reserves SWFI[2015]”SWFI League Table of Largest Public Funds” 70 SWFI ホームページ http://www.swfinstitute.org/fund-rankings/ The World Bank[2015] “Total reserves (includes gold, current US$) ” 世界銀行ホー ムページ http://data.worldbank.org/indicator/FI.RES.TOTL.CD 伊藤隆俊[2007]『外貨準備を考える(上):受取利息分は積極運用を』日本経済新聞 2007 年 10 月 4 日朝刊 『経済教室』欄 小川栄治[2009]『アジア・ボンドの経済学』東洋経済新報社 小原篤次[2009]『政府系ファンド 巨大マネーの真実』日本経済新聞出版社 夏斌・陳道富[2007]『外貨準備急増への対応 李刊中国資本市場研究』財団法人東京国際研 究クラブ 株式会社国際協力銀行[2012a]『株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012』国際協力銀行 ――――――――――[2012b]『財政制度等審議会 財政投融資分科会 参考資料』国際協力銀行 ――――――――――[2014a]『株式会社国際協力銀行 年次報告書 2014』国際協力銀行 ――――――――――[2014b]『日本企業の海外事業支援に係る国際協力銀行の取り組み』国際協 力銀行 産業ファイナンス部門 産業投資・貿易部 ――――――――――[2014c]『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2014 年度 海外直接投資アンケート結果』国際協力銀行 業務企画室・調査課 ――――――――――[2015a]『JBIC PROFILE 国際協力銀行の役割と機能』国際協力銀 行 ――――――――――[2015b]『海外展開支援出資ファシリティの実績について』国際協力 銀行ホームページ https://www.jbic.go.jp/ja/efforts/result-facility ――――――――――[2015c]『株式会社国際協力銀行 年次報告書 2015』国際協力銀行 ―――――――――― [2015d]『組織概要』国際協力銀行ホームページ https://www.jbic.go.jp/ja/about/organization 株式会社日本政策金融公庫[2015]『プロフィール』日本政策金融公庫ホームページ https://www.jfc.go.jp/n/company/profile.html 株式会社日本政策投資銀行[2015]『会社概要・沿革』日本政策投資銀行ホームページ http://www.dbj.jp/co/info/outline.html 草野厚[2006]『解体-国際協力銀行の政治学-』東洋経済新報社 熊倉正修[2012]『日本の通貨政策とその問題点』大阪市立大学大学院経済学研究科ディスカ ッションペーパーシリーズ No.72 経済産業省[2005]『通商白書 2005 年度版』経済産業省 71 経済産業省[2007]『通商白書 2007 年度版』経済産業省 財務省[2008]『国際協力銀行と外国為替資金特別会計との間の外貨交換について』財務省ホ ームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_f und_special_account/jbic_houdou200513.htm ―――[2010]『外国為替資金特別会計の剰余金の一般会計繰入ルールについて』財務省ホ ームページ https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_ fund_special_account/gaitame_kuriire.htm ―――[2011]『外国為替資金特別会計(外為特会)から株式会社日本政策金融公庫国際協力 銀行(JBIC)に対し貸付を行います』財務省ホームページ https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_ fund_special_account/jbic_gaitame_houdou_230128.htm ―――[2013]『外国為替資金特別会計財務書類』財務省 ―――[2014a]『国債統計年報』財務省 ―――[2014b]『外国為替資金特別会計が保有する外貨資産の外部委託にかかる登録につ いて』財務省ホームページ https://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_ fund_special_account/gaitame_emanager.htm ―――[2014c]『外国為替資金特別会計の外貨建資産の内訳および運用収入の内訳等』 財務省 ―――[2015a]『外貨準備等の状況』財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/270 4.htm ―――[2015b]『外国為替平衡操作の実施状況(月次ベース)』財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/monthly/index.h tm ―――[2015c]『統計表一覧 過去の介入実績全データ』財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/feio/data.htm ―――[2015d]『統計表一覧 外貨準備等の状況』財務省ホームページ http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/official_reserve_assets/dat a.htm ―――[2015e]『平成 26 年度 外国為替資金特別会計の外貨建資産の内訳および運用収入 の内訳等』財務省 谷内満[2007]『外貨準備を考える(下):大量売却でリスク軽減を』日本経済新聞 2007 年 10 月 5 日朝刊『経済教室』欄 ―――[2008]『グローバル不均衡とアジア経済』晃洋書房 72 谷山智彦・福田隆之・古賀千尋[2008]『政府系ファンド入門』日経 BP 社 豊島正浩・伊関之雄・磯貝茂樹・小田紘子・佐藤友香・中野真奈美・長尾慎也・山下千尋 [2008]『外貨準備の有効活用~東アジアの発展に向けて~』岩本ゼミナール機関誌 日本銀行[2015]『外貨準備とは何ですか?』日本銀行 https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/intl/g08.htm/ 日本銀行国際収支統計研究会[2000]『入門 国際収支』東洋経済新報社 日本経済新聞[2015]2015 年 12 月 21 日朝刊 潘圓圓・張明[2014]『中国政府系ファンド(SWF)の投資戦略の転換及びその要因』SWF 研究所 藤井亮二[2014]『外国為替資金特別会計剰余金の発生と一般会計操入』参議院「経済 のプリズム」第 129 号 2014 年 9 月 藤田勉[2013]『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』ダイヤモンド社 藤田誠一・岩壷健太郎[2010]『グローバル・インバランスの経済分析』 みずほ総合研究所[2008]『迷走するグローバルマネーと SWF 国際金融危機の深層』東洋 経済新聞社 大和証券投資信託委託株式会社[2013]『word’s worth -言葉に価値を- No.15』大和証券投資 信託委託株式会社 公明新聞記事[2008] 2008 年 3 月 10 日朝刊 渡瀬義男[2006]『外国為替資金特別会計の現状と会計-日米比較の視点から-』国立国会図 書館調査及び立法考査局レファレンス 73