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学 位 論 文 口学校数学における

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学 位 論 文 口学校数学における
平成15年度
学位論文 .
中学校数学における
文字式の概念形成に関する研究
_文字式のrプロセプト的見方』を中心にして_
科ス慶
究一
育
研コ泰
教系中
校然
M O2 1 79E
学自田
兵庫教育大学大学院
教科・領域教育専攻
【目次】
1 中学校数学の文字式学習の困難点 一一一一一…一一一一一一一一…一一一一…
2 本研究の目的 一一一………一一一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一
113
第1章 本研究の目的 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一一…曹
第2章 本研究にかかわる先行研究 …一一一一一…一一一一…一…一一一一一一…
第1節 中学校数学の文字式学習に関する研究 一一一一一……一一一一一・一一一一一
1.三輪辰郎の研究 一一一…一一一…一一一一一一…・一一一一一一一一…一一…
2.杜威の研究 一一一一一…一一一一一…一一一一一一一一一一……一一___
(1) 学校数学における文字の役割 一一一一一一……一一一一一一一一一一…・
(2) 中学校数学の文字式学習に見られる生徒の誤り 一一一…一・一一一一一一
第2節 数学的概念の二面性(duality)に関する研究 …一一…………一一一一……12
1.S伽d.Aの研究 一一一一一一…一…一一一一一………一一一一一一一一…一一12
(1)数学的概念の構造的な見方と操作的な見方 一一一一一…一一…一一一12
(2) 操作的な見方から構造的な見方への移行過程 一一………一一一一一一一16
2.Gray。E&Ta11.Dの理論 ……一一一………一…一…一一一一一一一一…一…21
(1)数学の記号におけるプロセプト ー一一一一一一…一一一一一一一…一一…21
(2)プロセプト的見方 一…一一一一……一一一一一一……一一一一一…一一21
(3) 中学校数学の文字式領域における「プロセプト的見方」の例 一一一一23
第3章 中学校数学の文字式領域における「プロセプト的見方」の調査
一一一一一一一一一一27
第1節
調査の概要 一…一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一…一一一…一一…27
1.
調査目的 一一一……一一一一一一……一_____一一_一___一一_.27
2。
調査問題 一一一一一一一一一一一一………一…一一一一一一……一一一…28
3.
調査方法 一一一一一一…一…一一一一一一一一一一一一一一一一…一…一一31
第2節
結果と分析 一一・一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一一一一一一一一一一・32
1.
全体的な傾向の把握 一一一…一一一一一一一一””一…四”一”””一””一’32
2,
各問題における生徒の考え方 一…一一一一一一…一一一一…一…一……35
3.
「プロセプト的見方」の分析 一一一一一一一一一一一一一一一一一…”””””47
4.
「プロセプト的見方」と計算問題・文章題との関連 一一一一一一一…一”’48
第4章 中学校数学の文字式領域の指導への示唆 一一一……一一…一一………一53
第1節 文字式が答えを表すことの指導 一一一一一一…一一一一一一一・一一一一…一…53
第2節 式の一部分をひとまとまりとして見ることの指導 …一一…一一一……一一58
第3節 文章題から方程式を立式することの指導 一一一一一一一…一一一一一一一…61
おわりに 一一一一一…一一一一一一一一一一一一一一一一一一一・一一一一一一一一一一一一一…65
引用・参考文献 一一一一…一一一一一一一一一一一一一一一…一一一一…一一一一一一一一一67
参考資料
第1章本研究の目的
1.中学校数学の文字式学習の困難点
小学校算数では,数の式が中心で,式自体が具体的な意味を持っていたのに対して,中
学校数学での式の学習は,文字式に対する操作が中心となる。生徒にとって,文字の意味
が理解でき,文字式の形式的処理がスムーズに行えることが,後の数学の学習にとって重
要であるといえる。
三輪(2001)は,中学校数学の文字式学習に関して,次のように述べている。
《生徒の文字式の理解は算術の理解に基礎をおくのであるから,文字式の教授が小学校
算術のそれに基礎をおくことは明らかである。》 (三輪,2001,p.32)
また,「新版 数学教育の理論と実際」(2001)は,文字の導入において大切な点を,次
のように述べている。
《大切なことは,数の世界を内部に含んだ文字式の世界を構成していくことであり,こ
のことは文宇式の計算が数の場合と同じ計算規則で行えることを示す上でも重要な視点
である。》 (「新版 数学教育の理論と実際」,2001,p.103)
文字式には,数の式にない独自のきまりがあり,乗法記号の省略は,その中でも代表的
なものである。このような文字式独自のきまりが,生徒の文字式に対する理解の困難性を
高める原因になっていると思われる。
例1.3a一肝3
a
=
23
23
例2.
十
a
例3.5x+7y;12xy
一1一
例1は,3aの意味の理解不足や減法の意味の取り違えなどからくる誤答例である。3a
を,3X aと理解できていれば,このような間違いをすることはないと思われる。
3aの3は,aの前にただくっついているかのように捉えたものと考えられる。さらに,
減法の意味を,ただ同じ文字同士を消し去ればよいという考えで捉えているために起こっ
た間違いとも捉えることができる。
例2は,帯分数の考えによる誤答例である。小学校算数では,帯分数を次のように捉え
ている。
1 1
1皇と一 ¢の和を、1一 ¢と書いて、・… 。
3 3
(学校図書,小学校算数4年下,p.58)
2 2 2
このような帯分数の考え方をもとに,一aを一×aでなく一+aと考えたものと思
3 3
3
われる。
小学校算数では,等号の左辺は計算過程を表し,右辺はその結果を表している。例3は,
文字式においても,式の一部に演算記号が残っていればまだ計算ができると考え,何とか
一っの数にしようとし,その結果12xyとした誤答例である。
ここで取り上げた誤答例は,中学校数学の文字式学習に見られるごく一部のものである
が,このように,小学校算数での学習事項が,中学校数学の文字式学習に大きく影響して
いることが分かる。
一2一
2.本研究の目的
中学校数学の文字式の学習は,それ以降の数学学習にとって,基礎となるものであり,
大変重要な学習である。中学校数学の文字式が理解できなければ,等式の変形もできず,
方程式も解けず,因数分解もできない。さらには,一次関数や二次関数といった数量関係
も分からないことになる。そういう意味でも,中学校数学の文字式学習において,生徒の
理解力を高めることが大切になってくると思われる。
そこで,本研究の目的は以下のこととする。
(1) 先行研究を概観し,中学校数学の文字式領域における生徒の学習上の困難点を探る。
(2) 調査を通して,中学校数学の文字式領域における生徒の実態を明らかにする。
(3) 上記(1),
(2)で得られた示唆を踏まえて,中学校数学の文字式学習への示唆を提案
する。
一3一
第2章 本研究に関わる先行研究
第1節 中学校数学の文字式学習に関する研究
1.三輪辰郎の研究
三輪(1996)は,文字式を「数学における主要な思考方法」(三輪,1996)として位置づけ
ている。そして,その利用の図式として,次の図を挙げている。
文字式
−や.
象見
発
、
レ 事
し察
新洞
︵
塑
変形する
麺
文字式’
図1.文字式使用の図式
この図式は,3っの状態(事象,文字式,文字式’)と,3つの過程(表す,変形,読
む)から成る。事象は,出発点・到達点となるもので,問題,あるいは,パターン等,そ
の場の状況によって様々な形をとる。3つの過程を一回りすることで,新しい発見や洞察
が得られることが期待され,それが到達点と考えられる。文字式と文字式’を区別するの
は,後者が前者を変形という過程を経たことを示すためである。
一4一
3つの過程について,三輪は,次のように説明している。
《「表す」は,事象から記号の方向へ向かうことで,一般化,抽象化の過程であると言
える。
o o ● o ● ■ ● ● ■ o ■ ● ● ● ●
「読む」は,記号から事象の方向へ向かうことで,特殊化,具体化の過程であると言
える。
● ● ● ■ ■ ● ● 9 ● ● ■ ● ■ ● ●
r変形」は,ある文字式を別の形に変えることである。》
(1996,p.4.アンダーラインは筆者)
中学校数学の文字式学習において,生徒がまず困難を感じる過程が,「表す」過程であ
ると考えられる。三輪は,ここでの指導の問題点を,次のように指摘している。
《算術的な見方への固執
数を使った式,例えば,3+5=8は,3に5を加える過程あるいは活動が,8という
所産あるいは結果を生んだと見られることがある。この算術的な見方に固執するとき,
文字式a+bが過程と所産の両方を表すことに強い抵抗を感ずる。実際は,算術におい
ても,3+5が過程と所産の両方を表していることは,式の表し方を学習する際に教え
られているのであるけれども。そして,いわゆる1ack of closure(式が閉じていないま
まになっていること,L O C)の不安から,a+b=cのように,無理やりに閉じた形に
しようとする傾向がある。》 (三輪,1996,p。5)
三輪がいうlack ofclosureが影響した生徒の誤りには,次のようなものがある。
4x+7+5x+8ニ4x+5x+7+8
=(4+5〉x+(7+8)
=9x+15
r!軍/−/』膨/−/β!「
、ニ(9十15)x 、 lackofclosureの
亀 h一一
ペ ヤ
1ニ24x l 不安による誤り
』−/』Irノ』7/』r/』▽−iノ』7』
一5一
具体的な数量を文字式に「表す」ことができるようになると,次に困難性を感じるのが
「変形」の過程である。
r変形」にっいて,三輪は,2つの注意点を挙げている。
《ア.変形するとき,「不変」なものが必ずある。
変形が許されるのは,その変形において何か不変なものが存在するからであるのは
明らかある。そうしたものが全くないのであれば,変形することは無意味だからであ
る。
イ.目的に応じた変形が基本である。
これは,式を変形する人の「… をしたい」という意思が決定的であることをい
っている。》(三輪,1996,p.10)
三輪は,r変形」の過程における生徒の誤りの例を,Matzの「Towards a process model fbr
high school algebra enDrs」(1979,Unpublished working paper No.181,M.1.T.)の中から挙げて
いる。
《・線形性
価百=甑+侮
(A+B)2=A2十B2
A A A
=一十一
B+C B C
l l 1
一=一
3 x 7
・一
化
・表記法
・同等性
から 3=x+7
1
A+{Aの逆元}=0 から A×一=O
A
x=6のとき 4x=46 とする
5 5
一+一 =4 カ・ら 5(2+x)+5(2−x)=4 》
2−x 2+x
(三輪,1996,P.11)
一6一
2.杜威の研究
(1)学校数学における文字の役割
小学校算数での□や△を使った式での□や△は,数の位置を示すプレースホルダーの役
割を果たしていただけである。中学校数学以後での文字の意味について,杜威は次のよう
に述べている。
《文字の意味は一般的に未知数,定数及び変数とその他のものとされている。文字式に
含まれている文字は,場合によっては,未知数を表したり,定数を表したり,変数を表
したりするのである。》(p.143)
杜威の挙げる文字の意味を整理すると,次のようになる。
未知数… ある数量関係によって決められているが,まだ知られていない数
量を表す文字。
例えば,「方程式2x−3=5を解け」というときのxや,「不等式x−3<6
を解け」というときのxのことである。
定数・… ある計算法則ないし計算公式を一般的に表している文宇。
.b±冊
例えば,二次方程式ax2+bx+c=0の解は,x= と
2a
いうときのa,b,cのことである。
変数・… ある関数関係の中での変化している数量を表している文字。
例えば,関数y−3x+2というときのx,yのことである。
その他のもの… 上の3つ以外の文字。
例えば,円周率のπのようなものである。
一7一
(2)中学校数学の文字式学習に見られる生徒の誤り
(ア)7a+2b=9abとする生徒の誤り
杜威も,次の例を挙げ,三輪のいう1ack ofclosureによる誤りを指摘している。
3a+2b+4a−3a+4a+2b
=・(3+4)a+2b
−7a+2b
r/8−ーノ’/』7/−/盈/−!σノ置!置/竜
ヌ ペ
1 一(7+2)ab l
ヤ ペ
l l
、 一9ab 、
l l
ヤ ヤ
1』7ノ』7/』7/』r/編7/』7−i/』r/』■r/』r/』r貞
《7a+2bをさらに簡単にしようとするのは,生徒にとって,7a+2bにある記号+が表す
計算を最後まで行いたいことのあらわれである》(杜威,1991,p.86)
三輪の1ackofclosureは,文字式7a+2bの中に残っている演算記号+を無理矢理計算し,
閉じた形にしようとした結果,9abなどとする傾向のことを言ったが,杜威の指摘は,文
字式7a+2bの中に残っている演算記号+が表すたし算という計算を行ってから答えようと
するものである。
(イ)3a−3ニaとする生徒の誤り
杜威は,計算記号×における生徒の誤った読みとり方を,次のように説明している。
《計算記号×は,文字式の中でよく「・」で代用されたり省略されるから,それを最後
まで終えようとすることがあまり見られない。そして,累乗の場合では,a nはaがn
個掛けている意味を表すものであることはよく知っているようだが,かけ算の記号×を
省略されると,つまり,記号×が見えないときに,よく混乱が生じる。例えば,子ども
は,3aが3X aより,むしろ3+a,あるいは”3とa”と読みとっていることはよく見
られる。その結果,3a−aを3にしたり,3a−3をaにしたりする。言い換えれば,子ども
一8一
にとって,式3aは,3にaを掛ける,つまり,3Xaなのではなく,あたかも数3に物
を吊り下げているように文字aを掛けているのである。このような場合では,記号×の
数学における意味はまったくなくなっていると考えられる。》(杜威,1991,p.88)
3aの3とaの間に計算記号×が省略されていることは,次のようなきまりとして中学
1年生の文字式学習の初めに学ぶ。
「積歯蓑し方
‘
』 轍、
lo文字式砿乗法の記号×をはぶし囎く・
塵
② 数と文字の積では,数を先に,文字を後に書く。
監
・「
一鞍繍義一一垂
螺 ” 奏
図1.文字式での積の表し方(学校図書,p56)
それにもかかわらず,3aを,「3+a」や「3とa」と読みとってしまう生徒が多いのは,
小学校の算数での経験が影響しているのではないかと思う。三輪は,中学校数学の文字式
と小学校算数の数の式との関係を,次のように述べている。
《文字式の文字は数や数量を表し,演算の印しと規則は算術のそれと同じである。
しかしながら,算術の数の式と文字式の間には違いがある。例えば,算術では,
数字の連結は普通23=20+3,2・1/3=2+1/3のように加法を表すのに対して,文字式の
それは,2a=2x a,ab−a x bのように乗法を表す。》(三輪,2001,p.32)
このように,小学校算数での学習内容の理解が中学校数学の文字式学習において,多くの
生徒のミスコンセプションや誤解を引き起こしていると考えられる。3a−3−aという誤りも,
このようなことが原因であると思われる。
(ウ)2a+3a=5a2とする生徒の誤り
累乗を伴う文字式において,次のような誤りをよく見かける。
2a+3a−5a2
一9一
杜威は,このような誤りは生徒が,次のように考えて生じたと述べている。
《もとの計算はたし算であるが,2に3をたすと5になる。しかし,文字aが2つある
から,そのどっちも捨てられないので,a2にしてしまったというような解釈はその
1つである。
また,もとの計算はたし算であるが,単項式2aと3aにかけ算が隠されている。つま
り,2aは2X aであり,3aは3Xaであるから,その隠されているかけ算に基づいて,
2つのaをかけてa2にしてしまったというような解釈もある。
前者の場合では,子どもはa2をaの累乗としているのではなく,それを単に2つの
aがあることを表す記号として使っていることであり,後者の場合では,単項式のたし
算を処理するときに起きた混乱によるものと考えられる。》(杜威,1991,p.88)
2a+3a−5a2とするときのa2の解釈には2通りの解釈があると,杜威は述べている。
1つ目の解釈は,文字aが2つあるからa2にしたという解釈である。すなわち,aが
2つあることを表す記号として使っているのである。2つ目の解釈は,2aは2X aで,3a
は3Xaなので,「X a」と「×a」を2つのaをかけるという意味で取り間違え,a2として
しまったという解釈である。
(エ)(a+3)+(a−3)=3a+(一3a)とする生徒の誤り
《括弧は,三項以上の演算の場合,それぞれの計算記号に関わっているのがどれとどれ
であるかを表すために使われるものである。しかし,実際,式の変形や計算などをする
とき,必ずしも括弧が示している計算の順序で処理しなくてもよい。しかも,多くの場
合では,その計算の順序を変えなければ,計算はうまくできなくなることもある。
例えば,(a+3)+(a−3)の場合では,式の中間にある記号+に関わっているのがa+3とa−3
ではあるが,もし,どうしても,a+3とa−3にある計算を先に行うとすれば,(a+3)+(a−3)
をそれ以上簡単にすることはできなくなるのである。しかし,実際,生徒は,式(a+3)+
(a−3)にある括弧が示している計算の順序をまもりながら,それを強引に簡単にしよう
とする。》(杜威,1991,p.89)
小学校算数の数の式計算においては,式の中に括弧がある場合,通常,括弧から先に計
算する。しかし,括弧の中のa+3やa−3はもうこれ以上簡単にできない文字式である。そ
一10一
れでも,この式の括弧の中の計算を先にしようとすれば,a+3−3a,a−3=一3aなどと強引に
簡単にして計算することになる。このような間違いをする生徒にとって,括弧は常に先に
計算しなければならないものとなっている。
(オ)2a+5a=2+5=7aとする等式の表記上での生徒の誤り
《等号=は,2つの等しい数を表すものである。それが,計算法則,式の変形,計算の
結果などを表すときに使われるが,何れの場合の等号も,等号に関する公理,つまり,
i.a=aである。
廿,a=bであれば,b=aである。
血.a;b,かつ,b=cであれば,α二cである。
を満たさなければならない。しかし,より多くの場合,子どもは,これらの公理iと血
が表していることに注意をよく払うが,公理廿が表していることを無視しがちである。
その結果,子どもにとって,等号は単なる操作の流れを表すものだけとなってしまう
のである。このような生徒について,等号の右側はその左側の式を操作した結果を表し
ていて,その操作は逆に戻すことができるか否かを考えない。あるいは,操作の行き先
のみしか念頭に置いていないと考えられる。ここでの操作というのは,式の変形,計算
のステップなどの式を取り扱うことの総称である。
例えば,ある子どもは2a+5a=2+5=7aのように計算をした。この子どもにとって,
2a+5a−2+5にある等号は,単にこのステップが文字の係数を合わせることだけを表して
いて,2+5は計算2a+5aの結果であるか否かということを表していない。そして,その
計算の結果である7aは,ステップ2+5=7aである等号二で表されていると考えられる。》
(杜威,1991,P.90)
このことは,等号の左辺と右辺の大きさが変わらないということを,生徒はよく忘れる
ということを意味していると考えられる。すなわち,等号が計算の順序と結果を表すだけ
の記号という解釈が常に生徒の中にあるのではないかということだと考えられる。その結
果,2a+5a−2+5ニ7aのような計算をしても矛盾を感じないのだと思う。
一11一
第2節 数学的概念の二面性(duality)に関する研究
1.Sfard.Aの研究
(1)数学的概念の構造的な見方と操作的な見方
Sfard.Aは,いろいろな数学的定義や表現を分析すると,数や関数のような抽象的考え
は,2っの基本的に異なった見方で捉えられると述べている。
《 対象として数学的な実体を見ることは,あたかも空問や時間のどこかに存在してい
る実物かのような静的な構造のように,それを参照することができるようになること
を意味します。さらに,それはまた詳細に立ち入らずに,’一目で”その考えを認識す
ることができるようになること,そして全体としてそれを操作できるようになること
を意味します。・・・… 対照的に,プロセスとして概念を解釈することは,それ
を実際の実体というよりはむしろ潜在的実態と見なすことであり,そしてそれは,あ
る一連の活動の中で必要に応じて生起する。)(Sfard.A,1991,p.4)
S飴rd、Aは,対象として構造的に捉えるような見方を,「構造的な見方(structural
conceptions)」と呼び,過程として操作的に捉えるような見方を,r操作的な見方(operational
conceptions)」と呼んでいる。
Sfard.Aは,数学の例を表1のように挙げて,操作的な見方と構造的な見方を説明して
いる。(表1参照)
一12一
表1.数学的な概念の構造的な見方と操作的な見方
構造的な見方
操作的な見方
計算の処理または
関 数
順序づけられた対の集合
っの体系から別の体系を得る明瞭な
法 (Skemp,1971)
対 称
自然数
幾何学的な形の特性
幾何学的な形の変換
集合の特性または
0または他の自然数に1を加えること
じ有限の濃度を持つ全ての集合の類
よって得られる数
数えることの結果)
有理数
整数の分割の結果
整数の対
対の特別に定義された集合の一部)
円
既定の点から等距離な全ての点の位置 固定されている点の周りにコンパスを
転させることによって得られた曲線
(Sfar(i.A,1991,p.5)
関数は,操作的には計算のプロセスとして捉えられる。
例えば,y=2xで表される関数は,ある入力(例えば3)から出力(6)を得るための
計算の方法を示しているものとして捉えられる。
関数y;2xの式に,x=3を代入すると,y=2x3=6が得られる。
これが,操作的見方である。
そして次第に計算の影が薄れていくと,入カー出力のみが意識されるようになる。最終
的にy−2xで表される関数は,(1,2),(2,4),(3,6),(4,8)といった順序対を一度に表す,コン
パクトな集合として捉えられるようになる。
y=2x
(7,14)
(1,2) (4,8)
(5,10) (2,4)
(3,6)
(6,12)
一13一
これが,構造的見方である。
自然数は,構造的には左下の図のように1,2,3,4,・… のような無限の集合
として捉えられる。操作的には右下の図のように,0または他の自然数に1を加えること
によって得られる数,すなわち数えることによる結果として得られる数として捉えられる。
自然数の操作的見方
自然数の構造的見方
2
13
1十1=
14
94
01
6
O
2十1=
1
5
8
3十1=
4十1=
7
11
5十1=
3
:
:
=
:
一14一
自然数
0十1=
12
0123456”:::、
自然数
表2は,S魚rd.Aが,操作的な見方と構造的な見方の役割と特徴についてまとめたもの
である。
表2,操作的な見方と構造的な見方(まとめ)
構造的な見方
操作的な見方
一般的な特徴
数学的な実体は,あるプロセスの
数学的な実体は,静止の構造一あ
の結果と見なされるか,あるいは
たかもそれが現実的な対象である
そのプロセス自体と同一視される。
かのように見なされる。
内面的な表象 言葉の表現によって支持される。
視覚的なイメージによって支持さ
れる。
概念発達にお
概念形成の初期の段階で発展する。 操作的概念作用から発展する。
ける位置
認知過程にお
有効な問題解決と学習のために必
認識的プロセス(学習、問題解決)
ける役割
要であるが,十分でない。
をすべて促進させる。
(S応ard.A,1991,p,33)
表2によると,生徒が数学的な概念を形成する際,まず操作的な見方が発達し,その操
作的な見方を続けているうちに構造的な見方が発達してくることが分かる。
操作的な見方は,問題解決や数学の学習にとって必要ではあるが十分ではない。問題を
解くときに計算をしたり,数を数えたり,図を描いたりすることは必要なことだが,数え
たものをまとめて考えたり,計算した結果をひとまとまりとして見たりすることがないと,
問題解決に至らない場合が多い。
一15一
(2)操作的な見方から構造的な見方への移行過程
Sf乞rd.A(1991)は,操作的な見方から構造的見方に至るまでの3っの段階を設定し,説
明している。その3つの段階を,彼女は,内面化(∫n‘e7’07’zα∫’oη),凝縮化(co編en3誠o乃),
塁象幽_と呼んでいる。
彼女は,この3つの段階を次のように説明している。
①内面化(’n∫87io71zα∫∫on)
《学習者が,新しい概念を結局生じさせるプロセスに精通する段階である。
これらのプロセスは,より低いレベルの数学的な対象に実行された操作である。そして,
徐々に,学習者はこれらのプロセスの実行で理解するようになる。》(S£ard.A,1991,p.18)
②凝縮化(oon4θn3α∫’on)
《操作の長い系列を,より扱いやすい単位にr詰め込む」期間である。》
(Sfard.A,1991,p.19)
③具象化(7θ昴oα⑳n)
《具象化の段階は,(問題にしている対象に対して実行されたプロセスから起こる)より
高いレベルの概念の内面化が始まるポイントである。》(S餅d.A,1991,p.20)
彼女のいう3つの段階を,佐々木(1994)は,次のように言い換えている。
《① 内面化の段階とは,なじみ深い対象(具体例や既知の構造)にそって新たに学習
する内容(ことば,記号,表現など)の意味づけを行う段階のことである。
② 凝縮化の段階とは,新たに学習した内容の使用方法に,練習を通して熟達する段
階のことである。
③具象化の段階とは,上記の①で学習した内容を②を通してなじみ深い対象とし,
よくわかるようになる段階のことである。なじみ深くなった対象は,具象化の段階
に達すると同時に新たな学習内容を導くための素材として使用可能なものとなる。》
(P.20)
上で述べた3っの段階を,中学校数学の文字式学習を例に説明してみる。
一16一
①内面化の段階
小学校算数で学習した内容を使って,新しく学習する文字式の意味づけを行う段階であ
る。
薩茸べ
ジの式①のドにいろいろ渡轍をあてはめ益惹,王1三方形
の数が何・碍であっても,フレームの本数幾求めることが妥きますゆ
嬢【学では,
一≦の代わりに文字を優って爽し談す・
たとえば,正方形壷灘僚っくゐと窓のフレームα)本数は.
騒
1+3x娯末う②
文字を僅った式
と嚢し庫す。
瞬曹惚警蜘〔工工〕一〔コ
③の貧のように、文字逢健って褒した試轡文宇式とい雛ます。
る正甥夢の数がS㈱ 、、_.、.、 . ノ
O数量を表す式
〃)とき、フレ帰、1辮 蕉フ畢磯が躍
文章で繁された敬撮登レ業誰式を使って蓑してみ蕊しょう血
取轟るでしホうか.
まず,1つ硝文字棄痩います。
局婆喪さのフレームを使って証方澱をつく雛ます。疋方簿の数
趣》(β1000円持っていて・
が何鰯鰯つて軌フレー締藤数鯨めることがで蓮櫛艶,
〆一11)001↓1一一協
露露僅iったときの銭盈 ・騨 曳 、
次のホうに暫識ました。
’へ・」岬讐!− 一鱗躯
1n(沁一者dび路
勒形が懸の籍・〔⊃ 冠絹(本1
疋聯が2徽書・〔工〕 ・÷3x2(雛)
1鰯 嘩 i輔X轡)
③長さ.瓢切デーブを, ∼語Cm
4等分したと蓮の1本
糞三方凱織き・瓢灘!手axこ体}
分グ)畏さ
_
1 牽 』l x コ1本)①
蓮… 懇、
.ス.繋題
跡勲離
一一ぼm一一朧、
工刊(m)
螂遜麹
灘武鰍,答えを東麟麺酬’算の式・メこ厭甑
i{過倉一椀zl円)が,その塞ま笹えの数量を妥藁すこともあ畦重弓㌔
図2、文字式の導入(学校図書,数学1,p.52,p,53)
図2の問題において,正方形の数が何個であっても,フレームの本数を求めることがで
きる式を考える際,正方形の数が1個の場合から順々に図を描きながら,どのような仕組
みになっているのかを探っていく。そして,その仕組みを探り当てたら,そのことを「こ
とばの式」で表す。さらに,分からないものを□を使って式にする。ここまでは,小学校
算数での学習内容である。中学校数学では,□の代わりに文字を使っていろいろな数量関
係を式に表すことを学習することになる。そのことが,図2で述べられている。生徒は,
「ことばの式」にいろいろな数を代入するというなじみ深い操作を行うことで,新たに学
習する文宇「a」の意味づけを行ったと考えられる。
一17一
②凝縮化の段階
文字式を書くときのきまりに従って,1次式の計算など文字式を自由に操作することが
できるようになる段階である。
この段階の内容をどのように生徒に学ばせているのかを見るために,教科書を見てみる。
塵(1)(一のxα12擁x(一1)1314x(一み)
畠司α 騙叩 豊麟(一1)xみ
醤文字式を書くとぎの吉まり
譜(一三)肋×西
=一勧
⑳齢式を,駕×やか7こ壱嚇いて灘なさい.
ql(
文字式ぞ蝕,3紹も轟3
3)x置 121(一〇〉勘
も,乗嶽の記響xを1謡ぶいて枷と轡き漆穿。
齢如鎚, 誘聴籐て書きなさい。
文字式での桜の棄し方には.栗碍ようなき潔りがあ攣ます。
ω一勧 で215,じ一2∼’ 儲)一《(α一ゆ)
一顕
1
一 !傭魚乗法の紀号 ぶ K・ i
おいじヨろ しすう
一
o累乗と揖数
灘に書<1 蘇」
鍵で朧盤
⑳{η5々匠5鯉 ㈲麻1卜欝4
御占x2、3−3.鮎 ㈲’7×犀扁雌
「4の3乗塞と読みますロまた,‘訊♂のようなもの壱凄とめて
樹 〔,遊1千溜K2篇2(■十グ) 毎} 〃×3÷δx2斎3rえ車助
琶の票乗といい,ボの2やθ3の3を累墾¢)擢数といいます。
1x記や誠1尉σとな膿笠が,確雛誤肥碇繋毒護瓶
欝{1,講κx3繍鮒 {2}一豚邑憾餅μ一一2〆
喬》く窪のように文字が2種難1乳ヒぬ覆で緯暑ふつう,アルフプペ
ット蝦にしてσゐと書きます廿
趣嚢次賦を,欝薙廓譲,指数を使つて謙な毒い。
ω鯵醸5:勉 121一熊μプ
(璽豆二)次の蚊鷺,看詠弓褒しプ至のきまりにしたがって:轡毒なさい㌔
〔【》 12ンこ茎! (2≧ 煤争ご8 〔3} 2.諺翼.r
蓬羅蜜】次の数黛嶺,認鍛Nをはぶいた式で轡挙な鍬㌔
紺必×ぱ 樹{峰舶)x3 (61置x5一欝せ
1姶 1遷4㎝韮の振方形の周りの長さ
ωα×o.1 {瞬」訪旬Xc㈲ウx瞬6
麟 1辺5㎝⑳立方鉢融蝸膏
麹0,函粥,O、なと書か塾こO.隷と灘毒ポ¢。
③緬円三K婆1*富伽翻鱒ホを買索と鋤おつリ
図3,文字式の表記規則(学校図書,数学1,p.56,p.57)
一18一
O商の表し方
? 月求で躍kmの距雌を.ロケットがS時
團1次式の計算
概かかジニ飛行しました。1一γ7・ソトの速
0数と1次式の乗除
きは時遮阿km
?縦2.ど11,,横5mの
こしようかヨ
長方形の太陽電池 2αm
文字式での1細演し方には,次のような継りがあ臓凱
〃)面穣を,式で衷
、圃
う
しなさい。
文字式では。除法の昆号÷を α
‘2÷わ=一
籠わないで,分数の形に回く。
趣》G〕2〃κ5 (216耐〔一4)
=2×σ×5 α 3 .棄+う
題④(t障÷4㌃‘213÷y王131({勲)÷トヤー
3
=loだ =一百3『
額‘7鵬暦蹴鵜か・)・世疑騰誤
同じ主弧乎は静+砒も罰}き鋲
調(1屠f一一3)織 {麺》次の計算をしな些も㌔
ω6群2 1213μx←・4) 131』ム‘∼×6
ワ
3
・8,r÷2 (61(
12以一勇)÷ヱーi暑
14)0,一‘,τ×5 ㈲
癒翻一雪 一嘉
纒)次の式堂,棚,傷5に偉ら
_ 6認・
rI
=2x5×μ
一皇5.じ)・:一←・1め
分配泌則を使って,式のかっこをはずすことができ訳すq
、晶ω.め+㏄ (、撫、□+口
」て欝芭鐘い・
① ② ① ②
m誕÷6 〔211÷み
13巨、ご一の÷3 鱒〃÷(一2)
⑳稀察を・そ脚講瑚吏って区漸醐
趣〉麺藁を漸の勧ソ鋤蔀二淫したが顧繋鱒い・
lU 疑さσ⊆揖σ)磯テーノ書5等分したときの1本のの長ご
、、でー’[
{璽}右1二の図で,「=1にあて傑詠る蚊を入れな≧さい、
鋤 隅じかんづめ3個の重さがr晋のとさの1倒の重盗
図4.文字式の表記規則(学校図書,数学1,p,58) 図5.文字式の計算規則(学校図書,数学1,p.65〉
図3,図4で示された文字式を書くときのきまりや図5のような文字式の計算のきまり
を学習することで,文字式の仕組みが理解できるようになる。そして,文字式を巧みに扱
う技能を練習によって身に付けることができると考えられる。
③具象化の段階
文字式をひとまとまりのものとして捉えることができる段階である。
この段階の学習内容を,教科書から見てみる。
一19一
目文字式を秘用した説明
嶺》韓象覧7,8ゆよう1千漣繍る
6+7+8二L _、1
3つの整数の和縁,どんな数にな
10十1i十12獄L」
るでしようカ㌔
23+2達+25判二二1
趣}連続する3つの整数の和は,3の借数になります。このこ
と巻,文字を使って説明しなさい。
考え方 遠続する3つの整数のうち,もっとも小さい整数を1∼とする
と,連続する3つの整数はπ,惣+1,躍+2と襲される。
したがって,それらの琴日は,次のようになる。
諾欝ゆ+匝・)i繍翫轟
ゴ3債+5〉 なつ轡 饗
解+1は整数だから,3(ノ∼嗣)は3の倍数である.
硬)例碕,灘膵る3つの整数の械の数を1比おいて・次の
ように説畷しました。ll.コにあてはまる式を入れなさい。
説明 中央の整数蓉πとすると,連続する3つの整数は,
…Fπp「一零
と表言れる。それらの和は,
}
一『
1柚罐.』
r1
トにi『t二i
πは整数だがら,r二『二』1捻3の俸数である。
図6.文字式をひとまとまりとして考える問題(学校図書,数学2,p.23)
この問題では,ある整数をnとしたとき,n+1がその整数より1大きい整数を,n+2が
さらに1大きい整数を意味していることを理解し,n,n+1,n+2が,連続する3っの整数
として捉えられる必要がある。
一20一
2,Gray.E&TaILDの理論
(1)数学の記号におけるプロセプト
Gray.E&Tall.Dは,数学の記号における二面性について述べている。彼らは,あるプロ
セス,あるいはそのプロセスの所産のいずれかを喚起する記号をプロセプト(700顔)と
呼んでいる。
プロセプトは,ある数学的記号を学習者がどう捉えるかということに着目した考え方で
あり,彼らは,次のような例を挙げている。
《・r3+2」は,数え上げなどによる3と2のたし算というプロセス,あるいは3+2
は5であるという和の概念の両方を表している。
3 3
・「一」は,4による3の分割というプロセス,あるいは分数一 の概念の
4 4
両方を表している。
・「+2」は,右へ2単位移動のプロセス,あるいは有符号数+2の概念の両方を
表している。》(Gray.E&Ta11.D,1993,p.6)
(2)プロセプト的見方
Gray.E&Tall.Dは,文字式でのプロセプトについて,次のように述べている。
《・「3a+4b」のような代数の式は,「3倍したaを4倍したbに加える」過程,ある
いは1つの対象として精神的に操られることができる代数式の両方を表すプロセ
プトである。》(Gray。E&Tall.D,1993,p,9)
一21一
問.次の式の同類項をまとめ,簡単にしなさい。
一3a+2b+2a+3b
(角峯) 一3a+2b+2a+3b罵一3a+2a+2b+3b
=(一3+2)a+(2+3)b
=一a+5b・ 。 。 … 。①
=(一1+5)ab
=4ab・・・・… D②
①の式は同類項がないので,もうこれ以上簡単にはできない。1ack of closureの不安に
よる誤りは,一a+5bを無理矢理1っにしようとし,一aと5bを加えて4abとしてしまうとい
うものであった。しかし,一a+5bをプロセスとして捉えると,一aと5bの間に演算記号+
が残っているために,この式をまだ計算の過程にある式と考えて,その結果を求めようと
するために②の形まで計算してしまうという誤りが起こる。ここで大事になるのが,①の
式のように同類項がなく,もうこれ以上簡単にできない文字式は,いくらその中に演算記
号が残っていても,その式は計算の過程ではなく,計算の結果であるという見方ができる
ことである。そういう見方ができることが,今後①のような形の文字式を計算の対象とし
て扱えるようになることにつながると考えられる。
式を対象(結果)として扱う見方は,数の式にはなかったことである。文字式学習では,
演算記号の入った式でも,もうこれ以上計算できないものを,「対象」として扱うことが
必要となる。そこで,演算記号の入った文字式を「計算過程」と「計算対象」の両方で捉
える見方を,本研究では,rプロセプト的見方」と呼ぶことにする。
rプロセプト的見方」ができないと,計算問題だけでなく,次のような文章問題を考え
る際の立式にも,支障をきたすと考えられる。
一22一
も鹸》
月擬のA基地藁こはアルミ資材を窟÷2(本)妻
B墓地毒こはβ一2(本〉期慧します。
アルミ資材の1穐は,侮本になり蕊すか。
また,A基地のアル芝資材は,Bl塞地より
何塞多いでしょうか綴
図7。プロセプト的見方が必要な文章問題(学校図書,数学1,p.66)
この問題において,A基地とB基地のアルミ資材の本数a+2(本)とa−2(本)を計算過程
としてしか見ることができないと,a+2とa−2の計算結果を求めようとして無理矢理2aや
一2aのような全く別の文字式に変形したり,a+2とa−2の計算結果が何を表しているのか
分からなかったりして,そのために立式できないことになる。
(3)中学校数学の文字式領域におけるプロセプト的見方の例
(ア)「数量を表す式」におけるプロセプト的見方
問 1本50円の鉛筆をa本と,
1冊100円のノートをb冊買ったときの
代金の合計はいくらですか。
(学校図書,数学1,p.54)
(解)50x a+100X b−50a+100b
(答え)50a+100b(円)
一23一
この問いの答えは,50a+100b(円)であるが,この式を50x aと100×bを加える計算
過程と見てしまうと,その結果(答え)を求めようとするために,150abと無理矢理1っ
にまとめてしまうlackofclosureによる誤りが生じることになる。この問いでは,まだ「+」
を含む式50a+100bが,代金の合計を表しているという「プロセプト的見方」が要求され
ている。
(イ)「1次式の加法・減法」における「プロセプト的見方」
問.月面のA基地にはアルミ資材をa+2(本),B基地にはa−2(本)用意
します。アルミ資材の和は,何本になりますか。また,A基地のアル
ミ資材は,B基地より何本多いでしょうか。
(学校図書,数学1,p.66)
(解) A基地のアルミ資材の本数はa+2(本)でl
B基地のアルミ資材の本数はa−2(本)なので,
その和は,
(a+2)+(a−2)一a+a+2−2
−2a(本)
また,A基地とB基地のアルミ資材の差は,
(a+2)一(a−2)一a−a+2+2
−4(本)
(答え)和は2a(本),差は4(本)
この問いの立式のポイントは,A基地のアルミ資材の本数a+2(本)とB基地のアルミ資
材の本数a−2(本)をそれぞれ1つの計算対象として見ることができるかという点である。
a+2(本)やa−2(本)の中に演算記号r+」やr一」が残っているために,計算過程とし
てしか見ることができない生徒は,a+2やa−2の結果を求めようとして,その答えがわか
らなくなり,和や差を求める式が立式できなかったり,a+2やa−2を無理矢理結果を求め
ようとして2aや一2aとして計算したりする。
このような問題では,演算記号が残っている文字式でも,それ以上計算できないものは,
それ自体が結果を表しているということを理解することが大事になってくる。
一24一
(ウ)「1次方程式の利用」における「プロセプト的見方」
問.画用紙を何人かの生徒に分けるのに,1人に3枚ずっ分けると5枚足り
ません。また,1人に2枚ずつ分けると10枚余ります。生徒の人数と
画用紙の枚数を求めなさい。
(学校図書,数学1,p.83)
(解)生徒の人数をx人とすると,
3x6−2x+■0
3x−2x−10+5
x−15
画用紙の枚数は,3×15−5−45−5
−40
したがって,生徒の人数は15人で,画用紙の枚数は40枚
算数の学習においても,このような問題を取り扱う場合があるが,そのときは未知数x
を使わず計算から答えを導き出している。算数での解法の多くは「計算→答え」という順
序が一般的である。それに対し,1次方程式の利用においては,生徒の人数(答え)をx
で表し,それを用いて問題の数量関係を表す式を立式することになる。つまり,「答え→
式」という順序が,ここでの解法の重要な点である。
3x−5や2x+10をそれぞれ計算過程として見ると,方程式3x−5;2x+10を立式できなくな
る。方程式を立式する際には,左辺も右辺も1つの対象(ここでは画用紙の枚数)を表し
ているという見方ができることが大切である。
一25一
(エ)「因数分解」における「プロセプト的見方」
問.次の式を因数分解せよ。
(x+y)2−3(x+y)+2
(学研「受かる!数検3級」,p.20)
この問いは,以下に示す2通りの解き方が考えられる。
(答え)
解L x+yをAとおくと,
A2−3A+2=(A−2)(A−1)
=(x+y−2)(x+y−1)
解2.(x+y)2−3(x+y)+2−x2+2xy+y2−3x−3y+2
認x2+2yx−3x+y2−3y+2
−x2+(2y−3)x+(y−2)(y−1)
=(x+y−2)(x+y−1)
解1は,x+yを計算対象として見ている解法である。
X+yを計算対象として見ることができれば,X+yをひとまとまりとして計算することがで
きる。その結果,解法が容易になり,計算にかかる時間も短くなる。このような解法が,
「プロセプト的見方」の解法である。
解2は,xとyのそれぞれを計算対象としてみているが,x+yを計算対象として見てい
ない解法である。式を展開したり,Xの2次式と見て整理し直すなど,計算処理が,解1
に比べてかなり複雑になっている。
一26一
第3章 中学校数学の文字式領域における「プロセプト的見方』の
調査
第1節 調査の概要
1.調査目的
第1章と第2章で,中学生の文字式における典型的な間違いの例をいくつか紹介した。
その中で,演算記号の残っている文宇式を,計算過程と計算対象の両方として捉えること,
すなわち,文字式の「プロセプト的見方」が,中学校数学の文字式領域の学習内容におい
て,大変重要であることを述べた。
そこで,中学校数学の文字式領域における「プロセプト的見方」の調査を,以下の2点
について実施した。
(1)中学校数学の「文字式」領域において,「プロセプト的見方jが中学生にとってどの
程度可能なのかを調べる。
(2) 「プロセプト的見方」ができる生徒とできない生徒では,文字式の計算や文章題の解
法にどのような違いがあるのかを調べる。
一27一
2.調査問題
調査問題は澗題国一問題回の5題で構成されている。(表3)
表3.調査問題一覧表
問 題 の 内 容
大問
問 題 の 意 図
(1) (a+b)(a−b)
国
回
・式の展開問題において,式のある部分を
(2)(x+100+2)(x+100−2)
(3)(x+y+3)(x+y−3)
ひとまとまりとして扱うことができるか
(1) (x+2)(x+3)
を見る問題である。
(2) (x+1+2)(x+1+3)
(3) (a+b+2)(a+b+3)
6a+b−2aと等しくなるものを選べ。
・この問題はプロセプトとは直接関係はな
ア. 4+b オ. 4X a X b
国
イ. 4+a+b カ. 4X a+b
いが,文字式の計算規則が理解できてい
ウ. a X4+b キ. a X a X a X a+b
るかを見る問題である。
エ. a+a+a+a+b
月面のA基地にはアルミ資材がa
+2(本),B基地にはa−2(本)あり
ます。次の(1),(2)の問に答えてく
ださい。
(1)A基地とB基地とのアルミ資材
の合計は何本になりますか。次の① ・a+2,a−2を計算過程としてでなく,
∼③の中からあなたの考えに当ては
計算対象として立式し,計算することが
まるものの番号をOで囲み,その理
できるかを見る問題である。
由を書いて下さい。
①何本になるか分かる。
回
②式は分かるが,何本になるか分か
らない。
③A基地もB基地も何本か分からな
いので,合計は分からない。
一28一
(2)A基地のアルミ資材はB基地の
アルミ資材より何本多いですか。次
の①∼③の中からあなたの考えに当
てはまるものの番号をOで囲み,そ
国
の理由を書いて下さい。
①何本になるか分かる。
②式は分かるが,何本になるか分か
らない。
③A基地もB基地も何本か分からな
いので,何本多いかは分からない。
マッチ棒で正方形をn個作ったとき
のマッチ棒の本数(3n+1)本を参
考に,マッチ棒で家の形をn個作
ったときのマッチ棒の本数を求めな
さい。
r/−/一『/一/ーノ』一/−/鐸/−/−!置/−1
回
・与えられた正方形n個に必要なマッチ棒
11コニトー・1二I l
の本数(3n+1)本を1つのまとまりとし
l l
・ 1 2 一一一一一 n(個) ・
l l
て捉え,家の形n個の問題に活かすこと
』』7/』7/編r/−/』7/窟/−/』r−−/』7/』r/』r』
ができるか。
ヘ ヘ
謬
1 2 一一…一n(個)
問題国と問題回は,それぞれ(1)の公式を利用して(2)(3)を解く問題である。その
際,それぞれの括弧の中の式にある共通な部分をひとまとまりとして見ることができるの
か。もしできれば,すぐに(1)の公式を利用して解くことができるだろうし,できなけれ
ば,1つ1つ展開して括弧を外すことになるだろう。
例えば問題国(2)では,次のような角峯答が期待できる。
一29一
(x+100+2)(x+100−2)篇(A+2)(A−2)
=A2.22
=(x+100)2−4
=x2+200x+10000−4
=x2+200x+9996
x+100をひとまとまりとして見ることができるということは,x+100をxと100を加え
るという計算過程としてではなく,x+100を計算対象として見ることができるということ
である。すなわち,「プロセプト的見方jができるということになると考える。
問題回は,文字式の基本的な計算規則力弐理解できているかを見る問題である・さら1こ・
複数の文字式の類似性を判断する際,式の形ではなく,演算の仕組みで判断することがで
きるかを見る問題でもある。
問題囚は,文章中に与えられたa+2糊を計算過程としてではなく,計算対象とし
て見ることができるかを見る問題である。問題文中にあるA基地やB基地のアルミ資材の
本数a+2やa−2を,まだ演算記号「+」や「一」が残っているので計算過程として見てし
まうと,a+2やa−2の計算をしようとしてその結果が分からずに立式できなかったり,a+2
やa−2を2aや一2aと無理矢理閉じた形にしてしまって誤った式を立ててしまったりするこ
とに成りかねない。このような生徒は,選択肢の③「A基地もB基地も何本か分からない
ので、合計は分からない。(何本多いかは分からない。)」を選ぶと考えられる。
問題国は澗題解決場面で与えられた解答や文字式を・次の問題解決に利用できるか
を見る問題である。具体的には,与えられた正方形n個に必要なマッチ棒の本数(3n+1)
本を1つのまとまりとして捉え,家の形n個に必要なマッチ棒の本数を求める解法に活か
すことができるかという問題である。
問題国と問題回は式の中にある一部分をひとまとまりとして扱うことができるかを
見る問題で励一方澗題回は問題解決場面において・先に与えられた解答や文宇式
をひとまとまりとして扱うことができるかを見る問題である。
この問題を,枠内に与えられた正方形n個のマッチ棒の本数(3n+1)本をひとまとまり
として考えることができれば,問いに与えられた問題解決場面(マッチ棒で家の形をn個
一30一
作るときのマッチ棒の本数を求めなさい。)の解法に生かせると思われる。その解答の例
を次に挙げる。
r/』ワ/億/−/億/−/ーノ』7/』7/一/−/躍1躍ノ窟/蛋/窟/鐸ノーノ御−−、
ヘ ヤ
1 亀
i/〉〉\一・/\i奪驚加わ旋
ヤ ヘ
l l
、』■7ノ』暉r/』■『−』■r/一/』■rノ』■7−ーノ』■「/』■『ノ』■7ノ」■7ノ』■7ノ』■7ノ』■『ノ』■7ノ』■7ノ』■7ノ』■7ノ』■7卜
r/∬/−/−/−/一『/−/一/−/置/−/』7/iノーノー/−/−/−/躍/一、
ヤ ペ
ヤ ペ
1 唾
、』■Fノ』■『/−/』■「/』■『/』■r/−/』■7!』■7/』■7/』■7!」■「/』■r/』■7/』■r/置/』■7/』■7/』■7/』■『、㌧
求めるマッチ棒の本数=与えられた部分+新たに加わった部分
=(3n+■)+2n
=3n+1+2n
=5n+1
3.調査方法
調査時期は,2003年5月中旬である。調査対象は,鹿児島県公立中学校3年生179名
と,鹿児島県公立高等学校1年生78名である。調査時間は,30分である。
一31一
第2節 結果と分析
1.全体的な傾向の把握
表4澗題国回国国における正答者と誤答者の割合(人数)
高校1年生
中学3年生
大問 小問
正答者
誤答者
71.0(127)
無答者
無答者
正答者
26.8(48)
2.2(4)
98.7(77)
L3(1)
0.0(0)
26.3(47)
68.7(123)
5.0(9)
79.5(62)
20.5(16)
0.0(0)
38.0(68〉
59,2(106)
2。8(5)
9LO(71)
72.6(130)
26。8(48)
0.6(1)
45.2(81)
49.2(89)
5.6(10〉
84,6(66)
15。4(12)
0.0(0)
40.7(73)
52,0(93)
7.3(13)
87.2(68)
12.8(10)
0.0(0)
10.3(8)
0.0(0)
誤答者
︵1︶
︵2︶
︵3︶
□
︵1︶
︵3︶
回
0.0(0)
0,0(0)
0.0(0)
︵2︶
国
100,0(78)
9.0(7)
ア
87.1(156)
8.4(15)
4.5(8)
89。7(70)
イ
86.0(154〉
9.0(16)
5.0(9)
100.0(78)
0,0(0〉
0.O(0)
ウ
82.1(147)
14.0(25)
3.9(7)
100.0(78)
0.0(0)
0.0(0)
工
74。3(133)
2L8(39)
3.9(7)
97.4(76)
2.6(2)
0.0(0)
オ
86.0(154)
9.5(17)
4.5(8)
98.7(77)
0.0(0)
1.3(1)
カ
85.4(153)
10.1(18)
4.5(8)
98.7(77)
0.0(0)
L3(1)
キ
83.8(150)
11.2(20)
5.0(9)
94.8(74)
2.6(2)
2.6(2)
67,6(121)
212(38)
5
H.2(20)
10.3(8)
85.9(67)
3.8(3)
表5澗題国における生徒の選んだ選択肢の割合(人数)
高 校 1 年 生
中 学 3 年 生
大問
①
無答者
①
②
③
27.4(49)
4L9(75)
10.0(18)
20.7(37)
15.4(12)
52.0(93)
4,4(8)
10.6(19)
33.0(59)
79.5(62)
③
無答者
75.7(59)
5.1(4)
3.8(3)
10.2(8)
1.3(1)
9.0(7)
②
︵1︶
4
小問
︵2︶
一32一
図7と図8は澗題国回の正答率を学年別に表したグラフである。
100
go
80
70
60
50
40
30
20
10
1
・一i
1ヨ
■”
ジ自
』■
婦り
」F
嫡蕊
評
レ茎
『
冨
γ’蒔乱
■ゴ 』7
P吊ヲ
書憾 二出』櫛
『
i トリ
∼.
這
∫」…』局 一 ■ ’
ウ i’一Pレ’乱
■.葺議}・F
1(1〉 1(2)
1
’ r
望
、 腕 』 『−,雲 ・ 「卿 ’
三’匪 』洗暮一
1(3)
_ 潔
一
信 一尻F
1一 ■ 曹 隔冨’
i一礁丁
暢rマ
..蘇 i
弓 ㌧・手
γ
﹁o君、“ヲ ・汽AJ −日呪
詮5
ヒ
縛偏凱二万 遭1!
一‘
﹄へ撃
雪
曇
溜
濫﹁ ﹄rl⋮﹃
0
100
…
封.惑遣、・諺
・ノ“、N.、門謡vハ﹂
90
80
70
60
50
40
30
20
10
2(1〉 2く2) 2(3)
図7,中学3年生
図8,高校1年生
問題国回は澗題の難易度が中学3年生にとっては高く,高校・牲にとっては低
い問題であった澗題国では沖学3牲も高校・牲も,(2)の正答率が他の問題と
比べて低かった。
図9と図1・は澗題回の正答率を学年別1こ表したグラフである。
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
図9。中学3年生
図10,高校1年生
この問題は,文字式の基本的な計算規則がどのくらい理解できているのかを確認する問
題である。上の2つのグラフからも分かるように,中学3年生も高校1年生も全ての問題
で70%を超えている。特に,高校1年生は,全ての問題で約9割以上の正答率を挙げて
いる。中学3年生は,エの問題の正答率が少し低いものの,それを除く他の問題で80%
以上であった。
一33一
図11と図12は澗題国でどの選択肢を選んだかを学年別に表したグラフである・
08
07
06
05
04
03
02
01
00
09
引.
03
07
06
05
04
03
02
01
00
09
「
サ
ノ1一
1⋮Ii,
『1 『
k
し
}
7
.冠
攣ヒ.、↓
舞
滋著
r』
伽脈
‘−
f、y
僻■
.Ψ
‘
巽’,馨闘旺
ヒlE
、!
if弍・ど吊︶
晃説d秘覧
卜
r
吃
腰
繍1 5罰1塵窪
’箔
浦
i
i
1北 i
…
…
1
1
訓1門
翫礁
一ll,一ll 扁固風…
(1)① (1)② (D⑳ω無答(2)⑪ (2)② (2)⑳〔2)無答
(1)① (1)⑳ O)⑳q)無筈12)㊦ (2)鐙 (2)⑳(2)無答
図1L中学3年生
図12,高校1年生
これらによると,高校1年生は(1)では選択肢の②を,(2)では①を選ぶ割合が中学3年生
よりも高いことが分かる。一方,中学3年生は(1)も(2)も選択肢の③を選ぶ割合が高校1
年生よりも高くなっている。
図13は澗題国の学年別の正答
100
率を表したグラフである。
90
80
高校1年生の正答率が85%を超え
70
ているのに対して,中学3年生の正
60
答率は68%である。
50
40
30
20
10
図13澗題回の正答率
一34一
2.各問題における生徒の考え方
高校1年生はほとんどの問題で正解しているので,誤答の多い中学3年生にっいてのみ
を分析してみることにした。
(ア燗題□と問題回の解答に見られる中学生の考え方
問題□,回のそれぞれの(2)(3)の計算問題1こおいて,式の一部分をひとまと
まりとして見ることができているのかを見るために,生徒が書いた解答の第1式のみを取
り上げ,分析することにした。第1式を分析してみると,以下に示す6つのタイプに分け
ることができた。(表6参照)
表6澗題巨]回における(2)(3)の生徒の書いた第・式のタイプ
タイプ
容
内
ひとまとまりとする部分の文字式をそのままの形で(1)の公式に代入す
る方法
Pl
(x+100+2)(x+100−2)= (x+100)2−22
=x2+200x+10000−4
=x2+200x+9996
ひとまとまりとする部分の文字式を別の文字に置き換えて(1)の公式に
代入する方法
(x+100+2)(x+100−2); (M+2)(M−2)
P2
=M2、22
=(x+100)2−4
=x2+200x+10000−4
=x2+200x+9996
一35一
(x+100)2−22の展開間違い(P1と同じかもしれないが、真意不明。)
①
(x+100+2)(x+100−2)=(x+100)2−22
=x2+10000.4
NPl
第1項同士,第2項同士,第3項同士の積の和というような展開方法の誤
②
① ② ③
(x+100+2)(x+100−2)=x X x+100×100+2X(一2)
=x2+10000.4
1っ1つ展開する方法である。
NP2
(x+100+2)(x+100−2)= x2+100x−2x+100x+10000−200+2x+200−4
=x2+100x+100x−2x+2x+10000−200+200−4
=x2+200x+9996
数の計算を先に行ってから展開する方法
NP3
(x+100+2)(x+100−2)= (x+102)(x+98)
=x2+(102+98)x+102×98
=x2+200x+9996
2つの括弧をはずして,全ての和を求める方法
NP4
(x+100+2)(x+100−2)= x+100+2+x+100−2
=2x+200
※口で囲ってある式が,生徒の書いた第1式。
この6つのタイプのうちで,P1とP2は式の一部分をひとまとまりとして見ることによ
って計算することができる方法なので,このタイプを「プロセプト的見方」のタイプと言
うことができる。
表6でNP1に分類した第1式「x2+10000−4」については,①「(x+100)2−22の展開間違
い」カ、,②r(x繍2)とする分配法貝1』の間違い」カ、の2通りの計算過程が考え
られる。①はPlと同じ計算方法なので,もし生徒がこのように計算したとすれば,「プ
ロセプト的見方」ができていると判断できる。しかしながら,もう一つの計算過程②は,
式の一部分をひとまとまりとして処理する計算方法ではなく,この方法で計算したのであ
れば,「プロセプト的見方」ができているとは判断し難い。したがって,第1式「x2+10000−4」
の解答を,「プロセプト的見方」ができていないものに分類することにした。
一36一
次に示す表7一表1・は澗題国と問題回の(2)(3)の第・式をどのように書
いているのかを,中学3年生の解答から取り上げ,上に示した6つのタイプに分けたもの
である。これらの表を分析することによって,中学3年生が計算問題において,式の一部
分をひとまとまりとしてどの程度扱うことができるかが分かると思われる。
表7澗題国(2)の第・式の分析
第 1 式
正答者
誤答者
タイプ
割合(人数)
①(x+100)2−22
P1
8.4(15)
20.0(3)
80.0(12)
②x+100=Mとおく。
P2
2.8(5)
40.0(2)
60.0(3)
50.7(37)
49.3(36)
③x2+100x−2x+100x+10000−200+2x+200−4
NP2
40.8(73)
④x2+10000−4
NPl
12,9(23)
⑤(x+102)(x+98)
NP3
12.3(22)
⑥x+100+2+x+100−2
NP4
0.0(0) 100.0(23)
22.7(5)
77.3(17)
6。7(12)
0.0(0)
100.0(12)
⑦x2+200
2.2(4)
0.0(0)
100.0(4)
⑧(x+100・2)2
茎.7(3)
0,0(0)
100.0(3)
⑨x2+10000
1.1(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑩(x+100)(x+100)
1.1(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑪その他
5.0(9)
0.0(0)
100.0(9)
⑫無答
5.0(9)
0。0(0)
100.0(9)
合 計
100.0(179〉
26.3(47)
73.7(132)
この問題で,x+100をひとまとまりとして見ることができた中学3年生は,全体の約1
1%で,そのうち正答者は25%であった。
一37一
表8澗題□(3)の第・式の分析
第 1 式
タイプ
①(x+y)2−32
PI
②x+y=Mとおく。
P2
割合(人数)
10.6(19)
3.4(6)
正答者
誤答者
52.6(10)
47.4(9)
50.0(3)
50。0(3)
70.5(55)
29.5(23)
③x2+xy−3x+xy+y2−3y+3x+3y−9
NP2
43.6(78)
④X2+y2−9
NPl
17.9(32)
0.0(0)
100.0(32)
⑤x+y+3+x+y−3
NP4
L7(3)
0.0(0)
100.0(3)
⑥2x+2y
3.9(7)
0。0(0)
100.0(7)
⑦X2+y2
2.8(5)
0.0(0)
100.0(5)
⑧(x+y−3)2
2.2(4)
0.0(0)
100.0(4)
⑨x2+y2+3
Ll(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑩xy
L1(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑪x2+(y+y)+3x(一3)
1.1(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑫その他
7.8(14)
0.0(0)
100.0(14)
⑬無答
2.8(5)
0.0(0)
100,0(5)
合 計
100.0(179)
38.0(68)
62.0(132)
⑥ははっきりしないが,1つの考え方としてはNP4と同じように頭の中で考えて解い
たと思われる。
この問題で,x+yをひとまとまりとして見ることができた中学3年生は,全体の約14
%で,そのうち正答者は52%であった。
一38一
表9澗題回(2)の第・式の分析
第 1 式
タイプ
割合(人数)
①(x+1)2+(2+3)(x+1)+2×3
Pl
1.7(3)
②x+1=Mとおく。
P2
3.3(6)
正答者
0.0(0)
誤答者
100.0(3)
50.0(3)
50.0(3)
25.9(21)
③x2+x+3x+x+1+3+2x+2+6
NP2
45,2(81)
74。1(60)
④(x+3)(x+4)
NP3
10.6(19)
94.7(18)
⑤x2+1+6
NPl
9.5(17)
0.0(0) 100.0(17)
⑥x+1+2+x+1+3
NP4
5.6(10)
0.0(0)
⑦x2+(1+2+1+3)x+1×2×1×3
3.9(7)
0.0(0) 100.0(7)
⑧x2+2x+6
2.8(5)
0.0(0)
⑨3x+4x+x2+7x+11
L7(3)
0.0(0) 100.0(3)
⑩x2+5x+6
Ll(2)
0.0(0) 100.0(2)
⑪x2+7x+11
0.6(1)
0.0(0)
⑫x2+7x+9
0.6(1)
0。0(0) 100、0(1)
⑬x+1+2X x+1+3
0,6(1)
0.0(0)
100.0(1)
⑭その他
7.2(13)
0.0(0)
100.0(13)
⑮無答
5.6(10)
0.O(0) 100.0(10)
合 計
100.0(179)
45.3(81)
5.3(1)
100.0(10)
100.0(5)
100.0(1)
54.7(98)
⑦は,公式(x+a)(x+b)=x2+(a+b)+aXbに代入して解いたと思われる。
④は,数の計算を先に行ってから展開する方法を使っているが,この問題の場合,x+1
をひとまとまりとして扱うより,この方法の方が簡単に計算できることから,この方法を
選択したすべての生徒が,x+1をひとまとまりとして見ることができない生徒であるとは
言えない。しかし,④を選択した生徒のうち,どの程度の生徒がx+1をひとまとまりと
して見ることができるかは分からないので,ここでは,x+1をひとまとまりとして見るこ
とができた生徒の中には入れないことにする。
この問題で,x+1をひとまとまりとして見ることができた中学3年生は,全体の5%で,
そのうち正答者は約33%であった。
一39一
表1・澗題回(3)の第・式の分析
第 1 式
タイプ
割合(人数)
①(a+b)2+(2+3)(a+b〉+2x3
Pl
2.2(4)
②a+b二Mとおく。
P2
3.9(7)
正答者
0。0(0)
誤答者
100,0(4)
71.4(5)
28.6(2)
70,8(68)
29,2(28)
③a2+ab+3a+ab+b2+3b+2a+2b+6
NP2
④a2+b2+6
NPl
7.8(14)
0。0(0)
100。0(14)
⑤a+b+2+a+b+3
NP4
4.5(8)
0.0(0)
100.0(8)
⑥a2+b2+5
3.4(6)
0.0(0)
100,0(6)
⑦2ab+3ab
2.2(4)
0.0(0)
100.0(4)
⑧a2+ab2+6
Ll(2)
0,0(0〉
100,0(2)
⑨a2+b2+5ab+6
L1(2)
0.0(0)
100。0(2)
⑩a2+2ab+6
1.1(2)
0。0(0)
100,0(2)
⑪a2+ {(b+2)+(b+3)} x a+(b+2)X(b+3)
1.1(2)
0.0(0)
100.0(2)
⑫2abX3ab
0.6(1)
0.0(0)
100,0(1)
0.0(0)
100,0(18)
0.0(0)
100、0(13)
⑬その他
53.7(96)
10.0(18)
⑭無答
7.3(13)
合 計
100.0(179)
40.8(73)
59.2(106)
この問題で,a+bをひとまとまりとして見ることができた中学生は,全体の約6%で,
そのうち正答者は約45%であった。
一40一
(イ)文字式の計算規則を見る問題に見られる中学生の考え方一問題国一
次の表llは,正答数ごとに生徒を分け,ア∼キのどの問題で間違えているかをまとめ
たものである。
表11澗題回の正答数ごとで各問題を間違えた割合
正答問題数
割合(人数)
7問(全問正解)
65.9(118)
ア
0.0(0)
イ
0.0(0)
6問(1問諮)
9.5(17)
5問(2騒答)
3.9(7)
0.0(0)
0.0(0)
4問(3騒答)
5.6(10)
3.3(1)
6.7(2)
3問(4離答)
7.8(14)
10.7(6)
2問(5騒答)
0.6(1)
20.0(1)
1問(6問誤答)
Ll(2)
16.7(2)
16.7(2)
0問(全問誤答)
L7(3)
14.3(3)
14.3(3)
無 答 者
3.9(7)
合 計
17.6(3)
11.8(2)
14、3(8)
0.0(0)
ウ
0.0(0)
工
0.0(0)
オ
カ
5.9(1)
4Ll(7)
7.1(1)
42.9(6)
0.0(0)
26.7(8)
33.3(10)
3。3(1)
16.1(9)
19.6(II)
20.0(1)
8.3(1)
14.3(3)
0.0(0)
0.0(0)
lL8(2)
キ
0.0(0)
0.0(0)
lL8(2)
7,1(1)
42.9(6)
20.0(6)
6,7(2)
16.1(9)
10.7(6)
12.5(7)
20.0(1)
20,0(1)
20.0(1)
16.7(2)
16.7(2)
16.7(2)
14.3(3)
14,3(3)
14,3(3)
0,0(0)
8.3(1)
14.3(3)
100(179)
( )は、延べ人数
上の表から,全体の34.1%の中学3年生が1問以上の問違いをした。
1問だけ誤答した生徒17名のうち7名がエの問題を間違えた。2問間違えた生徒は,エ
とキの問題を多く間違えていた。3問間違えた生徒は,1番多く間違えた問題はエで,次
いでウ,カとなっている。したがって,間違いの少ない(3問誤答まで)生徒たちは,ま
ずエで間違い,次にキを間違う。そして,ウあるいはカを間違える。4問以上誤答のある
生徒たちは,前述したような傾向はなく,いろんな問題で間違えていた。
エを間違えた理由は,a+a+a+a+b瓢a4+bと計算したために4a+bとは異なると判断したも
のがほとんどを占めていた。キを間違えた理由は,a×a X a X a+bニ4a+bと計算したためで
ある。
一41一
(ウ)問題□に見られる中学生の考え方
この問題は,文章問題中にa+2やa−2が与えられているが,それらをそれぞれ加法や減
法の計算過程ではなく,A基地とB基地のアルミ資材の本数という計算対象として見るこ
とができるかを調べる問題である。表12,表13は,(1)(2)それぞれの選択肢①∼③
に対して,中学生が挙げた理由を人数の多い順に整理したものである。
表12澗題囚(・)で①一③を選択した理由
理 由
①
②
割合(人数)
(a+2)+(a−2)=2 a
63.4%(31)
(a+2)(a−2)=a2−4
16。4%(8)
(a+2)(a−2)一a2
4.1%(2)
(a+2)+(a−2)=0
4.1%(2)
(a+2)+(a−2)=a2
2.0%(1)
a+2=3,a−2;1で、3+1=4
2.0%(1)
a+2=2a,a−2一一2aで、2a+(一2a)一一4a
2.0%(1)
a=0として、2+(一2)=0
2.0%(1)
a+2=a−2を解く
2.0%(1)
a+2=3a,a−2=aで、3a+1a=4a
2。0%(1)
(a+2)+(a−2)篇2aになるが、aが分からないので答えがわからない。
72.0%(54)
(a+2)(a−2)=a2−4になるが、aが分からないので答えがわからない。
10.7%(8)
(a+2)+(a−2)=a2になるが、aが分からないので答えがわからない。
5.4%(4)
(a+2)+(a−2)=aになるが、aが分からないので答えがわからない。
2.7%(2)
式は(a+2)+(a−2)になるが、計算の方法が分からない。
2.7%(2)・
a+2,a−2の値が分からないから、答えもわからない。
L3%(1)
(a+2)+(a−2)=a2−4になるが、全体が何本かはわからない。
1.3%(1)
(a+2)+(a−2)=2 a+(一2 a)=2 a−2 a
1.3%(1)
(a+2)(a−2)=2a+4になるが、本数はわからない。
L3%(1)
式で答えを出しても、いまいちよくわからない。
1.3%(1)
一42一
③
aの値が分からないから、合計が出ない
55.5%(10)
求め方が分からない(式が立てられない)
33.3%(6)
(a+2)+(a−2)=a+2+a−2=a
5.6%(1)
計算しても、答えがバラバラになる
5.6%(1)
表13澗題国(2)で①一③を選択した理由
理 由
30,0%(28)
(a+2)一(a−2)=4
aを基準にし、A基地はaより2本多く、B基地はaより2本少ないのでA基地が4本多い。
①
②
③
割合(人数)
25.8%(24)
aは同じ数なので、+2と一2だけで考えると、+2一(一2〉=4
22.6%(21〉
aに数字を代入して計算すると、A基地が4本多い。
12。9%(12)
A基地がB基地より2本多い(A… +2,B・・一2だから)
3.2%(3)
(a+2)一(a−2);(a+2)+(一a+2)=一a 2+4
1.1%(1)
(a+2)一(a−2);a+4
Ll%(1)
(a+2)一(a−2)=a+2+a+2=2 a+4
1。1%(1)
a+2=3a,a−2篇1aだから、3a−l a=2a
1.1%(1)
A基地はa+2なので2本多く、B基地はa−2なので2本足りないから
Ll%(1)
(a+2)一(a−2)だが、aの値が分からないので、本数は分からない。
87.5%(7)
a+2はa−2より(a+4)本多い。
12.5%(1)
A基地もB基地も何本か分からないから
63.1%(12)
式の作り方が分からない
15.8%(3)
(1)の問題が分からないと、式ができないから
10.5%(2)
aの値が分からないから
5.3%(1)
計算しても答えが出るか分からない
5.3%(1)
③を選択した生徒は,その理由として書いている内容から,a+2,a−2を計算対象とし
て見ていない,すなわち,「プロセプト的見方」ができていないと考えられる。
一43一
1つの文字式が計算過程と計算対象の両方を意味することは,中学校数学の教科書にも
下記のように説明されている。
O数量を表す式
文章で表された数量を,文字式を使って蓑してみましょう。
まず,1つの文字を使います。
⑳(1} 1000円持っていて,
ノ〆i&ol)円…一.實
調働たと細搬 誘
lOOO一薩(門)
(211辺の鍵がわcmの Zク\
正慧角形の周りの畏さ 醜m 魔m
/ \
わx3(cm〉 !
(3)畏むlnのテーブを, \みcm/
4等分したときの1本
〆…記m一_
分の畏さ
郎÷4(m)
文字戎では,答えを求めるための計算の式,たとえば,
1000−4(円〉が,そのま談答えの数量を衷すこともあります。
図14.教科書の説明(学校図書「中学校数学1」 p.53)
それにもかかわらず,③「A基地もB基地も何本か分からないので,計算できない。」を
選択した中学生が全体の約1割もいたことは,このことが十分理解されていないと考えら
れる。
一44一
(*) f.
:r iLiJ5 o:) "
*;
-t・-*..
t-・._'
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"( h + 1)
ll6,
-
"
5 -
B
(
)
(1 *,
)
「解法A」は,例で示された正方形n個に必要なマッチ棒の本数3n+1を使って,それ
にマッチ棒2本でできた屋根の部分2nを加える方法である。この解法は,例で示された
正方形n個に必要なマッチ棒の本数3n+1をひとまとまりとして捉えることによって,家
の形n個に必要なマッチ棒の本数を求める問題に生かすものである。
「解法B」は,例で示された正方形n個のマッチ棒の本数を求める考え方のみを参考に
して,新たなマッチ棒5本のまとまりを作って解く方法である。
また,表14は,中学3年生の解答における「解法A」,「解法B」,「その他」のそれぞ
れの正答率をまとめたものである。
表14.生徒の解答における解法Aと解法Bの割合(人数)
解 法
解法A
解法B
その他
答えのみ
無 答
合 計
正答誤答の割合
選択した割合
10.6( 19)
53,6( 96)
正 答
63.2(12)
誤 答
36.8( 7)
正 答
94.8(91)
誤 答
5.2( 5)
正 答
0.0(.0)
9.5( 17)
15.1( 27)
誤 答
1 0 0. 0 (1 7)
正 答
66.7(18)
誤 答
33.3( 9)
11。2( 20)
1 00. 0 (1 79)
正方形n個に必要なマッチ棒の本数3n+1をひとまとまりとして見て,家の形の問題に
生かす解法Aを使って解いた生徒は,全体の約1割いた。そのうち,約60%の生徒が正
解であった。
一方,正方形n個に必要なマッチ棒の本数の求め方を参考にして家の形の問題を解いた
解法Bを使って解いた生徒は,全体の約5割いた。そのうちの約95%の生徒が正解であ
った。
一46一
4.「プロセプト的見方」と計算問題・文章題との関連
ここでは澗題国でrプ・セプト的見方」力書できている生徒が,計算問題や文章題の
解法に,どのような関連をもっているのかを分析してみる。
まず・アルミ鮒の問題(問題国〉におv・て,生徒がアルミ資材の本数(a+2や灸2)
を計算対象として捉えているのか,あるいは計算過程としてしか捉えていないのかを調べ
ることにする。
最初に,(1)(2)の選択肢の選び方で,「プロセプト的見方」ができているのか,できて
いないのかの判定を行った。(2)の問題で③を選んでいるものを,rプロセプト的見方が
できない(×)」と判定した。確かに,アルミ資材の本数を表す数の中にaという文字が
含まれているのでA基地もB基地も何本か分からないという見方はできるかもしれない
が,aの値にかかわらず本数の差は4本になるので,差が分からないという理由は当ては
まらない。したがって,③を選んだ生徒は,アルミ資材の本数a+2やa−2が何本か分から
ないので,その差も分からないとしているわけで,a+2やa−2を計算対象として見ること
ができていないと言える。
また,これとは逆に,「プロセプト的見方ができる(○)」生徒とは,(1)も(2)も①「何
本になるか分かる」を選んだ生徒,あるいは(1)で②,(2)で①を選んだ生徒である。(1)
も(2)も①を選んだ生徒は,a+2やa−2を計算対象として見ることができ,また答えにaが
入っていても対象として見ることができるため,その結果の2aや4を和と差の本数であ
ると判断できた生徒である。(1)で②,(2)で①を選んだ生徒は,(1)は答えが2aとなり,
未知数のaを含む文字式になるために,②「式は分かるが答えが何本になるか分からない」
を選んだと思われる。
それ以外の選択肢のパターン(①と②,②と②,③と①)は,はっきりとした判断ができ
なかったので,「プロセプト的見方ができるともできないとも言えない(△)」とした。
一48一
表15.「プロセプト的見方」と計算問題・文章題との関連表
ロト
︵1︶
セ的方
ププ見
選択番号
(2)
強
O
△
×
1
1 41
2
1 54
1
2
95
3
1 10
1
3 14
2 3 17 49
3 18
小 計
168人
無 答
11人
ム・
計
計算問題の平均正答数
マッチ棒の正答率
3.37
78.9%
3.29
87.5%
※11.3%
2
2 2 12 24
3
弱
人数
中学3年生
※0.0%
2.27
※2.1%
*9人
*6人
51.0%
*4人
179人
「プロセプト的見方ができる(O)」生徒,「プロセプト的見方ができるともできないと
も言えない(△)」生徒,「プロセプト的見方ができない(×)」生徒別に,計算問題(問題
□と問題回)と文章題(問題国)の正答数(正答率)を比較してみることにした。
表15は,その分析表である。なお,表中の※は,計算過程において「プロセプト的見方」
を行った生徒の割合を示し,*は,解答の中で3n+1をひとまとまりとして利用した生徒
の人数を表している。
この表15によると,「プロセプト的見方」ができる生徒は,計算問題の平均正答数は6
問中3.37問であるが,「プロセプト的見方」ができない生徒の平均正答数は2.27問しかな
いことが分かる。
次に,計算過程において,「プロセプト的見方」を利用した解法を行った生徒の割合を
調べてみた。
図18は澗題国(2)において,角翠法の中でrプ・セプト的見方」を利用した生徒の解
一49一
答である。()内のx+100をひとまとまりとして見ることによって,和と差の公式が利
用でき,計算が簡単に行われていることが分かる。
《x十100十2》(x十100−2》
』xヤヘリo皇厭とε《。.
=魎+z)(Mつ)
_ 2. z
セ
_ M』一つ
ミ)(+2bO瓦+qqg6
こ猷■,キ
即:x夫《。QなΦτ♪
(x+、oO)礼4一
=》く2+20q天+⑩GQO_奪
図18.「プロセプト的見方」を利用した解答
(x十100十2》(x十100−2)
縦、100X一ユx柵OX{(0000−200紐笈つqo4
二X㍉IOOX穫100X一ユ畑X410000−200やOO一%
こ
瑛aOGX†鱈96
図19.rプロセプト的見方」を利用しない解答
図19は,同問題において,解法の中で「プロセプト的見方」を利用しなかった生徒の解
答である。括弧を外すために,一っずつ展開していることが分かる。この問題を間違えた
生徒の多くは,図19のような解法を利用しており,その複雑な計算過程の途中でのミス
が目立った。計算過程の中で「プロセプト的見方」を行った生徒は,前者が11.3%である
のに対して,後者は2.1%しかなく,「プロセプト的見方」ができる生徒の方ができない生
徒より解答の中で「プロセプト的見方」を利用した解法を使っていることが分かった。
次に澗題国(以下マッチ棒の問題と呼ぶ)の解答より,文章題とrプ・セプト的見
方」との関連を調べてみた。この問題の正答率を見ると,「プロセプト的見方jができる
生徒は78.4%で,rプロセプト的見方」ができない生徒は52.1%であった。
一50一
さて,生徒は実際にどのような解答を行っているのか,実際の解答を見てみる。(図20,
図21)
正翻多玄脳麟儲に砿、
(巧財1)斧泌卿ぞ矯.
そ撒{撮ρ麻伽㊨赫勧叡
勧o承で、(巧瞬D《’㌧
勧ぺ協足鍵、(励れり齢煙.・
図20,3n+1をひとまとまりとしてみた解答
一へ、\ノー一∼一一ノ
h査国
2w嚇耀γ幟脇ご“べ麟汽(毒)
ろ勲マ1左嬬・1嬉相緬ぞ(琴h相卸憶。
図2L新たなパターンを作って解いた解答
図20は,解答の中で,正方形n個のマッチ棒の本数3n+1(本)をひとまとまりとして利
用した生徒の解答である。図21は,正方形n個のマッチ棒の本数を求める方法を参考に
して,新たにパターンを作って解いた生徒の解答である。解答の中で,正方形n個のマッ
チ棒の本数3n+1(本)をひとまとまりとして見て利用することができた生徒は,「プロセプ
ト的見方」ができる生徒が95人中9人,rプロセプト的見方」ができない生徒は49人
中4人であった。
一51一
以上澗題国において,rプ・セプト的見方」ができる生徒とrプ・セプト的見方」
ができない生徒では,計算問題と文章題において,どのような違いがあるかを分析してき
たが,その結果をまとめると,次のようになる。
「プロセプト的見方」ができる生徒は,「プロセプト的見方」ができない生徒
よりも,
① 計算問題の正答率が高い。
② 文章題の正答率が高い。
③ 計算問題の計算過程において,式の一部分をひとまとまりとして処理する
割合が高い。
④ 問題解決場面で与えられた文字式を,次の問題解決に利用する割合が高い。
一52一
第4章 中学校数学の文字式領域の指導への示唆
文字式の計算問題と文章題において,文字式の「プロセプト的見方」が重要な役割を果
たしていることが前章から分かった。そこで,文字式の「プロセプト的見方」を伸ばすた
めには,どのような指導を行ったらよいのかを考察する。
第1節.文字式が答えを表すことの指導
文字式の計算問題では,次の問題のように「+」や「一」の演算記号が残っている式が
答えになる場合がある。
7a+5−a−8−7a−a+5−8
一(7−1)a+(5−8)
一6a−3…・…國
現在の教科書では,このことをどのように扱っているのかを調べてみた。6a−3のよう
な文字式が,rこれ以上簡単にできないこと」,または,r計算の結果を表していること」
を明記している教科書は6社中4社であり,その内容は図22に示すようなものであった。
式5必+7−3記の中の5エと一3必のように,文字の部分が同じ
項は,それらをまとめて簡単にすることができる。
@④5計7−3∫1
5」じ 十7−3¢
二=5必一3記十7
叉まとめるノ
・=2必十7
歯2記と7は,これ以上まとめることはできない。
(啓林館,数学!年,p.66)
一53一
O数量を表す式
文章で表された数量を,文字式を使って表してみましょう。
まず,1つの文字を使います。
趣》(1) 1000円持っていて,
α円優ったときの残金
1000一α(円〉
(2》1辺の畏さがδcmの
正三角形の周りの長さ
δcm
δcm
わx3(cm)
(31畏さJrmのテープを,
δcm
4等分したときの1本
分の長さ
認÷4(由)
文字式では,答えを求めるための計算の式,たとえば,
玉000一α(円).が,そのまま答えの数量を表すこともあります。
(学校図書,数学1,p.53)
ii
國
右の図のように,ご石を正三
文字を使った式のよさ
噂} 一
この式は,全体の個数を求める翫算
/●● ●
ぜ∼x3−3(掴)
㌔・.
㌧ ●
●, ●
●●
● ◆
℃
ば次の式で表すことができます。
/’づ●
飼とす’ると,全体の慨数は1たとえ
姻−麓●.
§﹂も“盛貞
角形状に並べます。1辺の飼数をα
”
のしかたを表すとともに,計算した結果である「全体の個
数」をも表していますo
(大目本図書,数学1,p.53)
一54一
Q前べ一ジの[nのように考えると,正方形が梱.2個,3個
のときは,マッチ棒の本数を求める式はどうなるでしょうか。
正方形の圃数
マッチ榛の本数を求める式
I l
2 1
1
3 1
上の◎で滑えたように,マッチ棒の本数は,いっでも
1+3×(正方形の個数)
という式で衷せる。
正方形の個数は,玉,2,3,……といろいろな数になるが,そ
れを文字灘で表せぱ,マッチ捧の本数は
(1+3×必)本
と表せる。
..〔亙)この並べ方で正方形を30個つくるとき,マッチ捧は阿本必要
ですか。また,正方形を50個つくるときはどうですか。
マッチ棒の本数は,つくる正ブ∫形の数によって変わるが,文字
コじを・使った式は,そのすべての場合をまとめて淡している。
1十3X lτという式は,マッチ棒の本数の求め方を豪している
が,求めた結果を衷していると考えることもできる。
(東京書籍,楽しい数学1,P.48)
図22。+や一が残っている文字式の教科書での取り扱い
図22に示したとおり,現在の中学校で使用されている教科書6社のうち3社が,文字
式の導入の場面において,演算記号「+」や「一」が残っている文字式が求めた結果を表
しているということを扱っている。しかし,生徒は,このような具体的状況における数量
関係を文字式を使って表す場面では,先に述べたような問違いはしない。例えば,「1000
円持っていて,a円使ったときの残金」を文宇式を使って表す場合,素直に「1000−a(円)」
と,「一1000a(円)」などとすることは,ほとんどないのである。文字式の計算において生
徒の誤りが発生するのは,啓林館の教科書が扱っているような多項式の計算場面である。
一55一
ただし,「2x+7において2xと7は,これ以上まとめることはできない。」とだけ注意書き
して終わるのでは,どの式ならば計算することができ,どの式だと「まとめること」がで
きないのかが,生徒に理解されにくい可能性がある。
そこで,1次式の計算規則を学習した後で,次のような指導を行ってみてはどうであろ
うか。
まず初めに,次のような指導内容で,演算記号「+」や「一」が残っている文字式をま
とめることができる式と,できない式の区別の仕方を説明する。
《簡単にできる式とできない式》
指導内容
次の計算をせよ。
5x+3x+1
・5x+3x+1は文字が2つあり,5xと3xは同類項なので1つにまとめ
ることができる。このように,文字の部分が同じ項同士の和は,
1つの項にまとめて簡単にできる。
5x+3x+1一(5+3)x+1
−8x+1
・5x+3y+1は文字が2つあるが,5xと3yは同類項でないので,これ
以上まとめることはできない。このように,文字の部分が違う項同
士の和は,1つの項にまとめて簡単にできない。
5x+3y+1−8xy+1 と計算してはならない。
一56一
次に,この指導内容を参考にして,練習問題を解かせ,演算記号r+」やr一」が残っ
ている文字式をまとめることができる式と,できない式の区別の仕方を理解させる。
問.次のア∼オの文字式の中で,まだ簡単にできる式を選びなさい。
ア.5+2x
イ.4a+1+2a
ウ.6x+一3
エ.7a−5b
オ,8x−4+x
一57一
第2節.式の中の一部分をひとまとまりとして見ることの指導
前章の調査問題の中にあったアルミ資材の問題では,a+2やa−2を1っの対象として計
算するような見方が問題になってくる。それが端的に現れているところが,括弧を含む式
計算のところである。
教科書の中から,括弧を含む計算問題を取り上げ,どのような指導が現在行われている
のかを調べてみることにする。
かっこのある文字の式は,数の計鐘と同じように考え,次の法
則を使ってかっこをはずし,簡単にすればよい。
α十(わ十c)畿¢一トゐ十ご 4一(δ+の罵でた6一ぐ
@⑤3謬+(5謬一2) 3灘一(5置一2)
鵠3ヱ+5即一2 鶏3』ご一5潔一(一2)
謬8必一2 訟3』τ一5−十2
=一2τ→一2
前ぺ一ジの例5から,次のように考えて,かっこをはずしても
よいことカ{わかる。
かっこの前が一のときは,
かっこの前が十のときは,
ふごう
かっこの中の各項の符号を
そのまま,かっこを省き,
変えたものの和として表す。
各項の和として表す。
3置 ÷(5必一2}
3ユ, 一(5コロー2)
↓
1
講3ヱ騨5必馨2
−3苫億5強2
図23.括弧を付けた1次式の計算における括弧の外し方(啓林館,数学1年,p.67)
括弧を付けた1次式の加法や減法では,図23のように,後ろの1次式の括弧の外し方
が学習の中心になっているように思われる。他社の教科書でも,この箇所での指導事例で
は,すべて後ろの括弧の外し方になっている。ここでの指導の中心は,括弧を外して,同
類項をまとめるという手順であり,括弧を含む文字式の計算方法のはじめの扱いとしては
一58一
妥当なものである。しかし,括弧を含む文字式の指導がこれだけで終わるならば,単に,
「括弧を外して同類項をまとめる」という手順が習得されるのみで,式中の括弧の部分を
ひとまとまりのもの,1つの計算対象として見る考え方が,生徒の中に生じてくるとは思
われない。
x+2やx−2のような式自体が,それ自体で意味を持っているような例を与えて,それら
を計算対象として立式するような練習場面が必要になってくる。
現在行われている括弧を外す学習の後で,括弧の部分をひとまとまりとして見る学習を
行う必要があると思う。そこで,次のような学習内容を提案する。
《括弧の中が同じ場合の計算方法》
・次のような式の場合,同類項でまとめて計算する。
X+X+y+X+y+y+X
=X+X+X+X+y+y+y
−4x+3y
・次の式のように,括弧の中の式が同じ場合には,括弧を外さずに計算
することができる。
(x+1)+(y+2)+(x+1)+(y+2)+(x+1)
一3(x+1)+2(y+2)
一3x+3+2y+4
−3x+2y+7
次の計算の方法を参考にして,後の計算をしなさい。
r/』7/−/5/耳/一!−!一/一/』”/−/』『/−/躍/』7/一/厚ノ』7/”/』”/置/躍/一/’/−/鐸1奄
ヤ ヤ
1 (x+1)+(a+2)+(x+1)+(a+2)+(x+■) 1
ヘ ヘ
l l
i=3(x+1)+2(a+2) 1
ペ ヤ
1−3x+3+2a+4 1
l l
ヘ ヌ
、一3x+2a+7 ・
1 隔
へ ぺ
』』7/』7■』7/』r/』r!顯,r!』7/」r/』r/』r/』7■潤r■』7/』7!』■r−』▽ノ』7/』7/』7/』7!』7ノ』■r/』7/』rノ』7/』.r声
(1) (x+3)+(y−2)+(x+3)+(y−2)+(y−2)
(2) (a−1)+(b−2)+(b−2)+(b−2)
一59一
このような問題では,x+1やa+2のような式中の同じ部分をひとまとまりとして見るこ
とによって,すべての括弧を外す手間を省くことができ,計算が簡単になる。と同時に,
その同じ部分の文字式をあたかも1っの文字のごとく考えて,並び替えたり,整理する処
理を通して,演算記号を含む文字式を計算対象として見ることができるようになると考え
られる。
一60一
第3節.文章題から方程式を立式することの指導
1次方程式を利用して解く文章題の解法は,求める量をxとし,述べられている数量関
係から方程式を作り,それを解いて,問題の意味と照らし合わせて答えを出すという流れ
である。中学生にとって,この過程の中で難しいとされるのは,「方程式を作る」段階で
ある。
お菓子が入った袋がいくつかある。
お菓子が入った袋がいくっかある。
今,袋3っの重さと袋1つと100gの
今,お菓子屋さんのおばさんが,1袋に
おもり1っをあわせた重さがつり合っ
付き5gのお菓子をおまけで入れてくれ
ている。.
た。そしたら,袋3つの重さと袋1っと
お菓子の袋1つ分の重さを求めなさい。
100gのおもり1つをあわせた重さがつり
合った。はじめのお菓子の袋1つ分の重
さを求めなさい。
3(x+5)一(x+5)+100
3x=x十100
例2.計算対象がx+5の問題
例1.計算対象がxの問題
例1の方程式は,求めるお菓子の袋1っ分の重さをxとし,そのxを計算対象として立
式している。一方,例2の方程式は,はじめのお菓子の袋1つ分の重さをxとし,5gの
おまけを入れた後の袋の重さ(x+5)gを計算対象として立式している。
中学生の中には,例1はできても,例2ができない生徒がかなりいる。それは,x+5の
ような文字式を計算対象として見る,すなわち,「プロセプト的見方」ができていないこ
とが,その原因であると考えられる。そこで,例2のような問題を教科書では,どのよう
に扱っているのかを探ってみることにする。
中学1年生の方程式の単元で,立式した方程式の中で括弧が現れている問題を調べてみた。
一61一
表16.教科書で扱われている括弧の付いた1次方程式の例題
単 元 名
問 題
方 程 式
兄は2900円,弟は1800円持っていたが
方程式の利用
同じボールを兄は2箱,弟は1箱買った
ので,兄の残金は弟の残金より100円少
(導入間題)
2900−2x=(1800−x)一100
なくなった。ボール1箱の代金はいくら
か。
ある遊園地の子ども1人の入園料は大人
方程式の利用
1人の入園料より900円安く,大人2人
と子ども3人で9800円である。大人1人,
(例題1)
2x+3(x.900)=9800
子ども1人の入園料をそれぞれ求めてみ
よう。
姉が500m離れた駅に向かって家を出て
から6分後に,弟が同じ道を自転車で追
方程式の利用
(例題3)
いかけた。姉の歩く速さを分速50m,弟
50(6+x)一200x
の自転車の速さを分速200mとすると,
弟は家を出てから何分後に姉に追いつく
かQ
現在,私は13歳で,父は46歳である。
方程式の利用
(例題5)
父の年齢が私の年齢の4倍になるのはい
46+x=4(B+x)
っか。
(教育出版,中学数学1,p.88∼p.98)
表16のように,教科書の中でも括弧が付いた方程式を立式することを数多く取り扱っ
ている。このことから,「プロセプト的見方」が必要な問題は教科書にもあることが分か
る。
表16の文章題はどれも,中学1年生にとって難しいとされるものである。方程式のか
たちを見ても分かるように,未知数xとある数値を組み合わせた数量(括弧の部分)を,
ひとまとまりとして扱うことで,方程式が立式される問題構造になっている。すなわち,
これらの文章題では,「プロセプト的見方」ができなければ,表16のような方程式の立式
が困難となるのである。
確かに,「プロセプト的見方」を要求する文章題が教科書で扱われているのであるが,
その取り扱い時期は,「方程式」の単元末,「方程式の利用」においてである。それまで
一62一
に,生徒が学習してきた方程式は,未知数xだけを計算対象とすればよい(「プロセプト
的見方」を必要としない)ものばかりで,その数量関係も,ごく単純なものであった。と
ころが,単元末の「方程式の利用」において,表16のような立式過程に「プロセプト的
見方」を要求し,かつ,その数量関係もそれまでの学習内容に比べて格段に複雑となって
いる文章題に,いきなり生徒は取り組むことになる。
「プロセプト的見方」と数量関係の複雑さという二重の難しさが,生徒に課せられてい
る点が,ここでの学習指導上の問題点である。まず,それまでに生徒が学習してきた単純
な数量関係での方程式を扱う中で,「プロセプト的見方」を要求する立式過程に習熟させ,
その後で,表16のような複雑な問題へと発展させていくような,きめの細かい指導が必
要と思われる。
そこで,次のような学習内容を提案する。
《文字式を計算対象として方程式を立式する文章題》
指導内容
①
計算対象がxだけの方程式を立てる。
お菓子が入った袋がいくつかある。
今,袋3つの重さと袋1っと100gのおもり1つをあわせた重さが
つり合っている。
お菓子の袋1つ分の重さを求めなさい。
3x−x+100
②
上の問題を参考にして,計算対象が文字式である方程式を立てる。
お菓子が入った袋がいくつかある。
今 お 子屋さんのおばさんが 1袋に付き5のお 子をおまけ
で入れてくれた
そしたら,袋3っの重さと袋1つと100gのおもり1っをあわせた
重さがっり合った。
はじめのお菓子の袋1っ分の重さを求めなさい。
3(x+5)一(x+5)+100
一63一
・②の問題は,①の問題に下線部分が加わっただけの問題である。
したがって,②の問題での1袋の重さは,はじめの袋の重さをx gと
すると,(x+5)gになる。
だから,①の問題の方程式のxの部分を,(x+5)に置き換えればよい。
②の問題は,同じ文脈と構造を持っ①の文章題と対比させることによって,簡単に立式
できると考えられる。②のような構造の易しい問題を,①の問題と表16のような問題の
「中問的な問題」として扱うことが,現在教科書で扱っている表16のような問題をいき
なり解かせるより,生徒にとって理解しやすいのではないかと考えられる。
一64一
おわりに
中学生の文字式の計算過程や文章題の解答を見たときに,次のような間違いをよく目に
する。
3x+4y+2x=3x+2x+4y
;5x+4y
=9xy
何故,生徒はこのような間違いをするのだろうか。どうして,5x+4yを9xyのような演算
記号のない形まで無理矢理計算してしまうのだろうか。このような問いから,本研究が始
まった。
まず,中学校数学の文字式の概念形成に関して,生徒の文字式領域に見られる困難点を
挙げながら,先行研究などを基に考察した。その際,Gray,E&TallDの「プロセプト」と
いう考え方を参考にした。「プロセプト」とは,プロセスと概念のいずれかあるいはそれ
ら両方を喚起する記号のことである。そして,5x+4yのような演算記号の入った文字式を
r計算過程(プロセス)」とr計算対象(概念)」の両方でとらえる見方を,本研究では
rプロセプト的見方」と呼んだ。
次に,中学生が,中学校数学の文字式領域の学習内容において,この「プロセプト的見
方」がどの程度可能のかを調査した。その結果,「プロセプト的見方」ができない生徒が,
約1割いることが分かった。
さらに,「プロセプト的見方」が,計算問題や文章題とどのような関連があるかを分析
した。その結果,「プロセプト的見方」ができる生徒は,「プロセプト的見方」ができな
い生徒よりも,計算問題や文章題の正答率がよく,計算問題の計算過程において,式の一
部分をひとまとまりとしてみたり,問題解決場面で与えられた文字式を,次の問題解決に
利用したりする割合が高いことが分かった。
これらの調査結果と分析をもとに,文字式の「プロセプト的見方」を伸ばすための指導
を,どのように行ったらよいかを考察し,3つの指導内容を提案した。
【文字式のrプロセプト的見方」を伸ばすための指導内容】
①文字式が答えを表すことの指導
「5x+3y刊=8xy+1と計算してはならない」
一65一
②式の一部分をひとまとまりとして見ることの指導
「(x+1)+(y+2)+(x+1)+(y+2)+(x+1)=3(x+1)+2(y+1)」
③文章題から方程式を立式することの指導
「生徒がそれまでに学習してきた単純な数量関係での方程式
を扱い,その中で,「プロセプト的見方」を要求する立式過程
に習熟させる」
この3つの指導内容を,現在行われている文字式の学習内容に加えることで,現在中学
校で見られるような生徒の文字式に対する間違いを,少しでも減らせることができるので
はないかと考えられる。
今後の課題は,学校現場において,この指導内容をどのように実践し,このような学習
内容が,文字式の「プロセプト的見方」に対する有効な内容なのかを確かめていくことで
ある。
最後になりましたが,本論文を作成するにあたり,懇切丁寧なご指導をいただきました,
國岡高宏先生,ならびに細部に渡って適切な指導をご示唆下さいました崎谷眞也先生に心
から感謝の意を表し,厚く御礼申し上げます。また,研究を進めるにあたり,貴重なご助
言をいただきました加藤久恵先生をはじめ,数学教室の先生方に御礼を申し上げます。
そして,兵庫教育大学大学院における貴重な研究の機会を与えてくださいました鹿児島
県教育委員会,鹿児島市教育委員会,ならびに鹿児島市立桜丘中学校の校長先生をはじめ,
教職員の方々に深く感謝申し上げます。
2003年12月22目
一66一
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一67一
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一68一
調査問題表紙(注意事項)一一..一一__一一_._一_
調査問題1一_一一____、一__一__一.__一雪_一
調査問題2一_____一.一_一...一_一_......_._.
調査問題3.一_一_..一._、.一._.__....._一..一..._.
調査問題4_.._一.._.、.._.__..一...._._.._.
調査問題5一_一_一__、一____.____一
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)
国次の計算をしなさい.
(1) (a十b) (a−b)
(2) (x十100十2)(x十100−2)
(3) (x十y十3) (x十y−3)
一2一
回次の計算をしなさい.
(1) (x十2)(x十3〉
(2) (x十1十2)(x十1十3)
(3) (a十b十2)(a十b十3)
一3一
回次のアーキの中で,6a+b−2aと等しくなるものには(
違うものには×を付けて,その理由を書いてください。
ア.4十b… (
)
(理由)
イ.4十a十b… (
)
(理由)
ウ.a×4十b… (
)
(理由)
a聞
a︵
+理
工.
十
a
十
a
十
b
オ.4×a×b… (
(
)
)
(理由)
カ,4×a十b・・9(
)
(理由)
キ.
a×a×a×a十b… (
)
(理由)
一4一
)の中に○,
国月面のA基地にはアノレミ資材がa+2(本),B基地にはa−2(本)あり就
次の(1),(2)の問に答えて下さい。
(1)A基地とB基地とのアルミ資材の合計は何本になりますか。次の①∼③の中から
あなたの考えに当てはまるものの番号を○で囲み,その理由を書いて下さい。
①何本になるか分かる。
②式は分かるが,何本になるかは分からない。
③A基地もB基地も何本か分からないので,合計は分からない。
(理由)
(2)A基地のアルミ資材はB基地のアルミ資材より何本多いですか。次の①∼③の中か
らあなたの考えに当てはまるものの番号をOで囲み,その理由を書いて下さい。
① 何本になるか分かる。
②式は分かるが,何本になるかは分からない。
③A基地もB基地も何本か分からないので,何本多いかは分からない。
(理由)
一5一
回枠内を読んでから,下の問に答えて下さい。
rノー/2/躍/−/−/躍!−/−!』『/i!−/−!窟/−/−/−/−/鐸/−/窟/−/−/8/岬!−/β/−/−/「
下の図のようにマッチ棒で正方形をn個作ります。
1一コー一日
1 2 3 一一一一一一一 n (個)
このときのマッチ棒の本数は,次のような方法で求められます。
禽 曾 會 曾 ’欝
1本 3本 3本 3本 一一…一一…一 3本
n個
マッチ棒3本で作られたコの字形がn個で3n(本)。
それに,左端の1本を加えるので,(3n+1)本になります。
』」r/』7/』r/』r/』匿/耀/』r/一r/』騨!』r/」駆!一/』r/置ノ8γ』F/』r/』匿/網r!』r/』7ノ』r/』r/』r/」曜/−/』7/』r/』7/』塵
(問)次のようにマッチ棒で家の形をn個作りたい。マッチ棒は何本必要ですか。
求め方と答えを書いて下さい。
1
一
2 3
”甲一”’””
(求め方)
(答え)
一6一
(個)
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