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シンクロマット
分科会K1 シンクロマット -タブレット端末を活用した児童の主体性を育む授業実践- 京都市立梅小路小学校 教諭 吉井優太郎 キーワード:小学校体育,体育科,協働学習,タブレット端末,ジャストスマイル き、技のイメージをもつことができるような環境づく りも行った。 1.はじめに 分科会K1 本校は生き方探究教育研究に取り組み始めて4年目 を迎える。今年度、研究の重点の1つに子どもの主体 的な学びを支える探究型の授業を進めることが挙げら れている。それを推進していくためにも児童一人一人 に系統的に情報活用能力を育てている。本年度は10 月にJAET京都大会の授業校として、全ての学年で タブレット端末を用いた授業を行った。 昨年度より、タブレット端末を活用して体育科の学 習を行ってきている。そこで、今年度、6年生になり 「マット運動」の学習をする際、苦手意識をもってい る児童が少しでも意欲的に活動できるよう指導の工夫 を行った。本来個人種目であるマット運動を集団化す ることにより、チームで協力し合い一つの演技を創り 上げる「シンクロマット」と呼ばれるものに取り組ん だ。 練習の成果が表れ、チームとしての課題を達成した ときには、その喜びをみんなで共有し合うことができ、 仲間とのかかわりが豊かになる。本校で研究し、子ど もに育てたい基礎的汎用的能力をつける取組になると 考えた。そこに、タブレット端末を活用することで、 自分たちの行動を客観的に見て考察をすることができ、 主体的に取り組むことにつなげていった実践である。 (2)タブレット端末を用いる 個人練習の時間には様々な練習の場を用意した。そ のうちの一つに、動画撮影の場を設けた。運動をして いる時に自分の姿は見ることはできない。友達に「さ っきできていなかったよ。」と言われてもどの部分の ことか通じにくいということがあると考えられる。 そこで、タブレット端末の動画撮影機能を用いるこ とにした。さらに今回は、ジャストスマイルの「くら べる」機能を使った。この機能は、できている人の演 技(動画)と自分の演技(動画)を重ね合わせたり、 並べて表示したりすることができる。 前からと横からの二箇所(決まった場所)にタブレ ット端末を設置しておき、自分たちで撮影し、比べて 違いを見つけ改善していく場とした。 本学級には体操を習っていてマット運動が得意な児 童がいたため、様々な技を撮影しておき、比べる元と することができた。 この機能を使えば、すぐに自分の動きが確認できる だけでなく、できている人と自分の飛び込んだときの 腰の位置のちがいや背中の丸み、足の動かし方などが よく分かったようだった。 2.実践内容 (1)導入の工夫 本学級の27名のうち、20名がマット運動に苦手 意識をもっていた。そこで、学習の動機付けが何より 大切だと思った。まず、男子新体操の映像(演技)を 子どもたちに見せることから始めた。映像を見ながら 「動きがすごくそろっている。」「動きと動きのつな ぎがなめらかだな。」「(人を飛び越えたり、交差し たりする演技を見て)えぇ~!?どうしてこんなこと ができるの!?」と多くのことをつぶやいていた。終 わった後には自然と拍手が起こるほどだった。結果と して、とても興味をもつことができた。 ここまでの演技を要求するわけではないが、自分たち で動きをそろえたり、逆にタイミングをずらしたり、 技や構成を含めて自分たちで考え発表することを学習 課題として見通しをもった。子どもたちはどのような 学習になるか楽しみな様子だった。 導入の他にも映像資料を用いた。京都市では体育研 究会が作成した映像資料集がある。マット運動では、 演技を正面と側面から撮影したものやスローモーショ ン、技の気をつけるポイントなどを見ることができる。 教室のパソコンで休み時間にでも自由に見ることがで 写真1 「くらべる」機能のスタート位置を そろえるときの画面 (3)よりよくするための協働学習 集団練習の時間にはタブレット端末の動画撮影機能 を利用して自分たちの演技を見ることにした。撮影は 指導者がし、演技終了後にグループのみんなで見て、 より良くしていくためにはどうすればよいのかを話し 合った。その時には見る視点を決めておいた。「メリ ハリ」・「強弱」・「空間を広く使う」・「技の完成 度」である。その視点に沿って話し合いより良い演技 を目指した。また、動画だと集団全体はもちろん、個 人の技の完成度もよく分かる。これによって自分たち − 130 − JAPET&CEC成果発表会 のグループの演技をより良くするためにメンバーの技 の練習もいっしょにしようという流れができた。 写真4・5 自分たちの演技を確認 4.今後に向けて 3.成果 「シンクロマット」に取り組む前には「マット運動」 に苦手意識をもっている児童が多かったのだが、今回 の学習を終えて「マット運動」が少し好きになった児 童がたくさんいた。 「マット運動」といえば、運動神経が良い子、体操 を習っている子など活躍する児童がずっと決まってい る。中学年の頃から活躍する児童が決まってしまって いたことが児童の様子からうかがわれる。 しかし、今回はタイミングを合わせる、マットを広 く使う、構成を考えるといった別の要素も入ってくる ため、昨年度のマット運動の時とは違った児童が活躍 する姿がいくつものグループで見られた。 子どもたち一人一人が、自己有用感をもちながら活 動に主体的に取り組んだ授業実践ではあるが、次のよ うな課題も見られた。 ①集団演技として、タイミングを意識するあまり技 が雑になる。 ②グループで相談する時間が必要となり、実際に技 の練習時間が少なくなった。 上記の課題については、今後体育科の学習に臨む際に は、具体的なめあてを事前に話し合いもったうえで参 加する、話し合いの時間を意識できるようにするなど 工夫することで、より良い取組にしていきたい。 − 131 − 分科会K1 写真2・3 演技中の動画のキャプチャ画像 中には、自分たちにできる技が少ないことで演技の 幅が広がらないことに気付き、困っているグループが あった。「倒立前転できる?」「できない。けれど倒 立を支えてもらえばできるかもしれない。」こういっ たやり取りの中で、演技の中でサポートしてできる技 を増やすということを考えたグループもあった。これ は、集団で演技をするからこそできることであり、良 さであると感じた。 他にも、回転することに恐れを抱き、なかなか一歩 が踏み出せない児童がいた。指導者がいくら声をかけ ても挑戦することができなかったが、今回の学習でで きるようになった。これは、友達との関わり、そして 集団の一員としての責任感によってできるようになっ たのだと感じている。 こういったグループで起こった小さなでき事が積み 重なって、「マット運動」への苦手意識が和らいだの ではないか。 グループの中で一人一人が思いをもち、主体的に意見 を出し合って、自分たちの演技をすることができた点 は非常に良かったと。みんなで試行錯誤しながら演技 を作っていき発表することで、今まで以上に児童自身 がマット運動の楽しさやチームで活動することの意義 を感じられた。 技の難易度だけでなくアイデアを出し合ったり話し 合ったりするという自分に合った活躍する場があると いうことは、主体性を高めることになった。しかし、 それだけでなく、発表が終わった後の表情から「照れ くさい。けど、やり切った!」という感情が読み取れ た。また、発表を見ていたグループは演技終了後、頑 張りを拍手で称えていた。そういった姿から子ども同 士の絆も深まったと感じた。 つまり、達成感や成就感と共に一人一人の責任や使 命感も育てる取り組みであったとも言える。