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4章:事例研究(1):マルセイユ 35

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4章:事例研究(1):マルセイユ 35
IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 63-65
B-4
医療機関 CIO 育成のための
電子カルテ等教育システムの開発と評価
長谷川高志、外山比南子、開原成允
国際医療福祉大学大学院
要約
本 学 大 学 院 で は 2005 年 春 よ り 医 療 機 関 CIO 育 成 講 座 を 大 学 院 生 ・ 外 部 受 講 者 向 け に 半 期 1 コ ー ス と し
て 、 年 2 回 開 講 し て い る 。そ の 中 で 医 療 情 報 の 概 況 、 電 子 カ ル テ 導 入 の 実 態 、 デ ー タ ウ ェ ア ハ ウ ス 、電
子 カ ル テ に よ る 病 院 経 営 分 析 、原 価 計 算 、模 擬 経 営 演 習 の 各 講 義 を 行 っ て い る 。本 講 座 は 実 習 中 心 の リ
ア ル な も の で 、 次 の 設 備 を 装 備 し た 教 室 を 使 用 し て い る 。 電 子 カ ル テ シ ス テ ム ( 模 擬 病 院 デ ー タ 込 )、
統 計 解 析 シ ス テ ム ( SPSS)、 デ ー タ ベ ー ス ( Oracle、 DPC デ ー タ 込 み )、 原 価 計 算 実 習 用 教 育 ツ ー ル と 、
病 院 経 営 状 況 シ ミ ュ レ ー タ ( Excel) な ど で あ る 。 実 習 主 体 の 実 際 的 な 講 義 を 特 徴 と し て お り 、 こ う し
た シ ス テ ム を 各 期 の 受 講 者 が 体 験 し な が ら 、医 療 機 関 の IT 活 用 の 中 心 と な る 人 材 の 育 成 を 行 っ て い る 。
2008 年 後 期 ( 第 9 期 ) ま で に 140 名 が 修 了 し た 。 各 期 末 に 受 講 者 ア ン ケ ー ト を 行 い 、 こ れ ま で に 91 名
より回答を得た。その結果、7割の受講者が満足し、2割が普通と答えて、満足度が非常に高かった。
単 な る IT 教 育 で は な く 、 リ ア ル な 演 習 が 多 い こ と が 大 き な 理 由 と 考 え ら れ る 。
1.はじめに
り、そのために情報システムの導入、リアルなデー
本学大学院では 2005 年春より医療機関 CIO 育成講座
タベースの構築、そのデータベースを用いたデータ
(半期コース、年間 2 回)を大学院生・外部受講者
ウェアハウスの構築、病院経営教材の開発である。
向けに実施している。この講座は経済産業省サービ
また模擬経営演習実的なもののみ残る。これを病院
ス産業人材育成事業の一環として始まった医療情報
経営状況シミュレータ(ソフト)に掛けて、経営の
管理者育成向け社会人高等教育コースである。ここ
結果が得られ、その施策の良否が判定される。多く
では、データウェアハウス、電子カルテを活用した
の施策提案が経営好転に寄与しない、厳しくリアル
病院経営の手法の実学教育として、下記の各講義を
な演習である。
行っている。

医療ITや病院経営の概況
2.目的

電子カルテ導入の実態
リアルなデータの整備や教育プログラムの作成が困

データウェアハウス(演習)
難な電子カルテを利用すること。病院経営を定量的

電子カルテによる病院経営分析(演習)
に演習することなど、意欲的な講座を開発したので、

原価計算(演習)
受講者から受けた評価を分析して、この講座の教育

模擬経営演習(少人数グループ討議実習)
内容の開発の成果を評価する。
この講義の最大の特徴は、電子カルテやデータウェ
3.方法
アハウスを用いて、受講者に実習を行わせることあ
(1)リアルな電子カルテとデータウェアハウスの
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開発
ら、
そのシナリオを精査して、
場合によっては批判、
電子カルテとしては(株)ソフトウェアサービスの製
反対する。この関門を通過できなかったシナリオは
品を用いた。最大の工夫は、実際の病院で用いたマ
却下される。教員向けの役割マニュアルも整備し、
スターデータ(部署、物品他)および統計データな
また元々の専門として各役割に近い教員をアサイン
ど、事実上の実データを匿名化して導入したこと、
した。
電子カルテから抽出した経営データによりデータウ
これらの開発は、2005 年当初から、一気に完成した
ェアハウスを構築したことである。そのためのデー
ものではなく、3 年がかりで順々に整備した。
タベース管理システムは、
Oracle を用い、
更に MySQL
も追加した。
4.結果
(2)支援環境の整備
上記の開発過程を経て、教室、教材が整備され、講
統計解析が本講座の土台として重要であり、統計分
座の講義を実施した。図1に教室と電子カルテシス
析システム“SPSS”を受講者が一人ずつ使うことで
テムを示す。図2に開発した教材、病院経営状況を
きるように導入した。また原価計算実習用教育ツー
示す。
ルや模擬経営の結果を評価する病院経営状況シミュ
レータ(Excel にて開発)して、受講者に開放した。
(3)教材の開発
実データがベースである電子カルテから経営データ
を取得して演習シナリオを開発した。経営分析、原
価計算、経営実習も、共通のデータとシナリオに基
づいており、全コースが一貫したデータとシナリオ
で進めることを実現した。その中では、診療科別単
価や原価、施設基準変更(例:7 対 1 看護)対応な
ど、時期毎にタイムリーなデータを盛り込んだ。科
別単価や日当点の高い診療科を重視するシナリオな
どが可能になった。
(4)講師陣の整備
教材だけでなく、模擬経営演習での講師陣の整備も
工夫点だった。この演習では、リアルな病院の損益
計算書をベースとして、病院経営シナリオを受講者
図1 CIO教室(医療情報演習室)
に考案させるが、そのシナリオは各ステークホルダ
ーによる交渉を経たもののみ、
採択することとした。
図2 病院家家シミュレーション
例えば経営改善のために、医師増員するシナリオを
立てても、採用できるだけの給与と待遇を準備でき
上記講座を開講して、各期末に受講者の満足度アン
なければ、医師を採用できず、経営が改善できない
ケートを行ったので結果を表1に示す。9期140名
などのリアルな学習となる。そこで医師派遣の交渉
が受講した。その中で91名が回答した。
相手(大学医局など)
、融資者(銀行)
、採用やリス
トラ(職員代表)
、コスト圧縮(各業者)
、IT導入
“満足”
、“ほぼ満足”を合わせると、70%を越えた。
(ITベンダー)などの各役割を負った教員を割り
多くの受講者が講義内容に満足していたことを示し
当てた。これら教員が利害の対立、競合する立場か
ている。また“期待はずれ”と答えた回答者でも、
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受講料(5万円/人)を安い、あるいは適当と答えて
ステムであったことなど、好条件を整えることに
いる。
成功した。
ほぼ
普
期待
満足
満足
通
外れ
1
その他
会社支払
内容に対
して安い
適当
総計
回
答
こうした実際的なコースを学内(大学院講義)や、
総
外部受講者向けに開講する事例も少ない。そのた
計
め、自ずと意識も高く意欲的な受講者が集まり、
2
活気ある講義となったことが、満足度にもつなが
17
ったと考えられる。
1
10
6
1
4
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2
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21
9
4
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えば医療情報システム開発に主眼を置いた受講
3
1
4
者などである。本講座はITを中心と言いつつも、
1
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導入後の活用に力点を置いているために、システ
1
91
ム開発に関する講義内容が少ないことが一因と
高すぎる
未回答
未
大変
3
5
3
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38
18
8
不満な受講者も散見されるが、その原因として、
受講目的が本講座を合わない場合が多かった。例
考えられる。受講目的と講座内容の方向付けが合
表1 満足度調査(2005~2009)
致した受講者の満足度は高い。
5.考察
電子カルテを教材に用いた教育は、医療情報関係
6.結論
者の多くが一度は思いつくが、中々実行に移せな
本講座は当初の狙いが成功して、受講者の満足度
いテーマではないかと考える。それは下記の理由
が高い講義となった。しかし開講後3年が過ぎ、
による。
世の中の医療ITも進展し、新規性が薄れてきて
・データが揃わない。
いる。新たな内容を加えて、今後の受講者の期待
・ベンダーの協力が得られにくい。
(コスト大)
に応えることが課題である。
・病院経営者出身の教員が少ない。
この三条件が整ったことが、本講座の開発につな
7.参考文献
がった。本学はDPC(診断群分類別包括支払制
[1]長谷川高志他、医療機関CIO育成教育コースの満
度)に関する研究活動を積極的に進めており、そ
足度評価、医療情報学連合大会論文集、2008
の結果として、協力関係にある病院があったこと、 [2]長谷川高志他、医療機関 CIO 育成教育プログラム
の実習教材の開発手法、
医療情報学連合大会論文集、
(株)ソフトウェアサービスの電子カルテがカス
2006
トマイズ部分が少なく、マスターデータが得やす
かったこと、またベンダーサポート負担が軽いシ
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