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4章:事例研究(1):マルセイユ 35

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4章:事例研究(1):マルセイユ 35
IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 38-41
A-10
IT 技 術 を 活 用 し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 法 の 地 域 医 療 連 携 へ の 忚 用 可 能 性
- 地 域 医 療 のためのコミュニケーションプラットフォーム「クリニカルジョイント
鈴 木 雅 隆 * ( * * ), 永 松 康 能 * * , 三 村 孝 仁 * * *
*
**
テルモ株式会社
営業統轄部
テルモ株式会社
MEセンター
***
テルモ株式会社
TM
」の創 出 -
他
地域医療推進チーム
取締役
システムITチーム
常務執行役員
要約:我が国の医療提供体制は、患者が医療を受ける際に、その疾病の段階に忚じて
最もふさわしい医療が受けられる医療機関という観点に立ち、医療機関の機能の分
化・重点化する方向に進められてきた。地域で完結しうる医療提供体制に向けて、す
なわち、円滑な医療連携に向けてさまざまな試みが行われている。双方の医療機関の
信頼感が醸成されていく課程においては、設備、お得意診療領域などのデータベース
と共に相互理解のためのコミュニケーションは欠かせないものであり、また、そこに
多くの労力が当てられている。
そこで、医療従事者のみが参加しうるセキュアな親近感のあるコミュニケーション
プ ラ ッ ト フ ォ ー ム「 ク リ ニ カ ル ジ ョ イ ン ト T M 」を 創 出 し た 。特 長 と し て 、地 図 と 医 療 機
関データベースとSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を融合したものと
なっている。今回はこのプラットフォームを2008年初より限定地域で試験運用を
したので報告する。
<図1>
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IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 38-41
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1.はじめに
IT を活用した医療機関同士の診療データなどの
効率良い活用を目指して、データ連携は各地で実
用、普及に向けて取り組まれている。だが、セキ
ュアな環境、個人認証など、解決するべき課題は
多い。同時に欠かせないものは双方の信頼感の醸
成いわゆる円滑な“顔の見えるコミュニケーショ
ン”と考える。各医療機関で独自に創意工夫をし
ている例も多く紹介されているが、そのシステム
を自前で調達するのはコスト的にも相当な負荷
となる。電話、FAX、印刷物、郵送に掛けるコ
ストも相当なものである。コミュニケーション機
能だけを一般用のシステムで転用することを余
儀なくされている場合もある。
今回、医療従事者間の地域医療連携に必要なコ
ミュニケーションに絞って「セキュアな・信頼感
のある・気さくな・発展性」をキーワードにイン
ターネット上でサイトを創出し運営を試みた。
参加する医業系メーカーにとっては定期訪問先
の医療機関以外にも、患者紹介された際の適正使
用情報の伝達という責務を果せることが期待で
きる。特に、診療効率を向上させる医療機器も多
く開発され、その使用方法など医療安全の観点か
らも伝達することが出来、医療従事者にとっても
患者にとっても有益なプラットフォームとなる
ことを期待している。
・ 地域の基幹病院とは一定の関係性を維持して
いたい。知り合いと気さくに意見交換がした
い。
→双方向性
・ 郵送される機関誌などが電子ファイルなら保
存性も良い。
→資料閲覧保存性
・ ID、パスワードを使用するログインは期間
経過と共に忘却する場合が多く面倒である。
→簡便性
2.システムの概要
<図3>システムの概要
① コミュニケーション機能
メーリングリストも多用されているが、IT技術
を使用した進化中の手法である「SNS」の機能
を主に搭載した。顔見知りの医療従事者が同一の
目的に向かってコミュニティを形成することが
出来、画像データの閲覧、共有も容易に扱え、適
したシステムであると考えた。
本サイトは地域医療連携のためのコミュニケ
ーションで多用されるので、実名登録である。あ
えてニックネームを使用する必要は無い。メール
アドレスの開示無しで、掲載されている「顔」を
見ながらメッセージをやり取りできる気さくさ
を備える。また、インターネット上の通信はSS
L方式を用い、暗号化しセキュリティに配慮した。
個人認証のログインに際しては、
・専用のフェリカICカードを読み取らせること
により、自動的にログインし「マイページ」まで
たどり着く。読み取り機がパソコンに標準で搭載
されている場合が多くなり、今後の普及に期待し
たい。パソコンに、読み取り機が内蔵されていな
い場合は、USB接続型の読み取り機で対忚する。
このフェリカは、職員証、勤怠出勤管理、入退
出管理、売店でのプリペイドカードなど別の観点
からも発展忚用が考えられる。
クリニカルジョイント TM の活用イメージ
<図2>
サイト構築前に病院の地域連携室、医師会や、都
内クリニック、地方クリニック合わせて100軒
程度に赴きインタビューを行い、さまざまな意見
を頂戴した。特に次の要件を満たすことを考慮し
た。
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・自分が関与する内容に対して、新たな書き込み
があると「新着のお知らせ」メールが発信され、
そのリンクをクリックしてログインすること
も出来る。
・「ID、パスワードを入力する」
以上の3方式から随時選択できる。
② 地域医療機関診療情報データベース機能
医療機関の診療情報、お得意診療領域、設備など
を知るために、郵送アンケートを施行されている
ことがあるが、各医療機関の「マイページ」に雛
形としてアンケート様式を備え、各人でチェック
更新することにより、常に最新の検索データベー
スを構築できる。
尚かつ、自分で承認した相手にしか、それが開示
できない仕様とした。このページを介してメッセ
ージの送受信が出来る。いわゆる医療従事者だけ
が閲覧する「双方向のホームページ」である。ま
た、該当の医療機関が掲載されている「地図」も
印刷出来、今後患者紹介に有効活用されることを
期待している。
運用していて、わかったことだが地域医療連携
には、医師以外の職種の関与が多く、多忙な医師
に代わってコミュニケーションの中心となって
いる場合も多く散見された。多職種の「人そのも
の」が地域医療連携のデータベースとして価値が
あり重要な根幹を成していると思われる。
3.参加募集及び問題点
①参加募集
招待メール機能:お互いの身元を知る医療従事者
同士の紹介、招待により参加が出来る。その際、
勤務先や職場所在地を前述の検索地図上で地点
登録することになっており、架空の人物が登録さ
れることは、近隣で周知している以上考えにくい。
地域ぐるみの参加:地域医療連携の要件から地域
の病院同士では「地域連携協議会」が立ち上がり
定期ミーティングなど情報交換をしている場合
が多い。通例的にメーリングリストなどを使用さ
れている場合が多く、そのまま、本クリニカルジ
ョイント TM に移行していただくと比較的容易に地
区で活用できる。
③全国医療機関検索地図
医業系メーカーの多くは、製品納入後のトレーサ
ビリティのためにも共同でメンテナンスしてい
る医療機関のデータベースを(注1)有しているが、
併せて、全診療科で使用されるといっても過言で
はない注射器、体温計などの医療基盤製品を扱う
メーカーの強みを活かして「医療機関看板情報」
と共に、その所在地を全国地図に地点プロットし
た全国医療機関検索地図を備えた。それには、定
期的に地図ベンダーが地図更新を行うことはも
ちろん、クリニカルジョイント TM 事務局にて新規
開業医療機関も看板情報とあわせ、おおむね 1 ヶ
月以内に掲載する更新作業を行っている。この機
能は、地域情報として喜ばれている。
基幹病院では連携登録医のみ掲載されている地
図を独自作成している場合もあるが、リストによ
る事前登録により、その基幹病院の登録医が地図
上で識別できる機能も備えた。元となる全国地図
を共同利用する発想で、独自データを積み上げる
ことにより経済的負担が尐なく、精度良い連携マ
ップを作成できることになる。
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<図4>地域連携イメージ
クリニックの参加:多くの病院では従前から連携
医、登録医なる医療機関と親密な関係性を維持し
ている。そのリストに基づき一括招待メールを発
信する。地域において各病院がそれらの医療機関
を参加募集し、地域で多くの病院が同時にそれを
行えば、容易に地区の有効なデータベースが出来
上がる。
医療のコミュニケーションに、これらインターネ
ットシステムを用い、情報伝達を行うのは、ある
種「慣れと日常性」が必要と思われる。地区医師
会の幹事会などでの説明会実施、事前から病院機
関誌で告知案内を十分に行うことにより多くの
参加が見られる。ここで、多くの医療機関から賛
同を得られるようにコミュニケーション方法の
効率化の提案を自院の言葉で如何に話せるかが
ポイントであった。
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②日常の運営
クリニカルジョイント TM 事務局から、使用方法に
関するものが多いが、一般的なトピックスを最小
限に掲載している。如何に参加者の使用頻度が高
まるかが、今時点では重要なポイントである。
それぞれの参加者からは、元来、地区の顔見知り
が参加する医療機関同士のコミュニケーション
プラットフォームであるので、普段のFAXや機
関誌で告知している内容を気さくに記載すれば
良い。ホームページへの閲覧誘導効果もある。
加えて、双方向で情報交換が簡便に出来る。
コミュニケーションは地域連携室が多くの役
割を担っている場合が多かった。このようなシス
テムを使ったコミュニケーション術に対する認
知が、院内でさらに浸透してくれば、全診療科で
分野別に発展してくるものと思われる。
患者心理とすれば、連携医療機関同士のコミュ
ニケーションが進み、双方で事情がわかっていて
くれるほど、信頼感向上につながることが期待で
きる。
セキュリティ面に配慮した要件の整備を行い、現
状の方法から前進するということを念頭に、両者
納得の上で運用を試みたい。
また、本クリニカルジョイント TM のデータベー
ス機能を活かし、連携業務に関係する管理機能な
どを搭載していきたい。
メーカーの提供する適正使用情報も医療従事者
のための有用情報として、弊社のみにこだわらず
複数社で提供することを思考している。
5、まとめ
日本の医療を支える医療従事者のために、効率良
く安心して使用でき、全国を網羅した、より良い
コミュニケーションプラットフォームを創出し
たい。多職種間コミュニケーションがより活発に
なることにより、円滑な地域医療連携のために寄
与できると期待している。
本システムの構築にあたり、多くのアイデア、ご
意見を下さった多くの方、各地区の連携協議会の
方々に深く感謝する。
地域での講演会の告知、参加募集にはホームペー
ジや掲示板への掲載、印刷物、FAXなど多用さ
れている。このクリニカルジョイント TM を利用し、
目的別に集団化しているコミュニティに対して
告知すれば、双方向性をもって出席者、人数が開
催前に把握できる。事前に質問も受け付けられ、
配布物も事前に電子ファイルで届けることが出
来る。その後の参加者のフォローも出来る。
また、共有する情報を「オープン」にするのか、
主催者が承認を与えた人だけの「クローズド」に
するのかを選択できる。
効率の良い運営が出来ることを期待している。
③使い勝手の向上
普段使いのコミュニケーションツールとして活
用されるには、必須要件である。
セキュリティ面と使い勝手は相反するものと思
われるが、このことは、注意をもって磨き続けて
いきたい。現在参加いただいている方々から、情
報を入手し、定期的にバージョンアップを図って
いく必要性を痛感している。
<参考>クリニカルジョイント TM ログイン画面
注1:株式会社日本アルトマークデータベース事業部
http://www.ultmarc.co.jp/contents/database.html
参考文献:
武藤正樹、東京都連携実務者協議会、
よくわかる医療連携Q&A、じほう社、2007 年
「治療」、2008 年 3 月増刊号 Vol.90、
特集 地域医療連携 実践ガイドブック、
南山堂、2008 年
武藤正樹、東京都連携実務者協議会、
一歩進んだ医療連携実践Q&Aじほう社、2009
年
4、今後の展開
地域医療連携が進むにつれ、効率の良いコミュニ
ケーションと併せて、さらに各種帳票類の送受信
機能が求められている。機能の向上に伴い、シス
テム運営者と使用者は、そのシステム要件と自己
責任の範囲を整理し理解して使用する必要があ
る。
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