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4章:事例研究(1):マルセイユ 35

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4章:事例研究(1):マルセイユ 35
IT ヘルスケア
第 4 巻 1 号,May 24, 2009 : 70-73
B-6
SaaS型カルテの今後の展望
山口典枝
メディカルアイ株式会社所属
要約
地 域 連 携 や 医 療 連 携 、在 宅 医 療 の 発 展 に お い て 、医 療 情 報 を 共 有 し 有 効 活 用 し て い く こ と が 重
要 で あ る 。情 報 共 有 実 現 の た め に は 、医 療 機 関 の ガ バ ナ ン ス 強 化 と と も に 医 療 情 報 シ ス テ ム を
活 用 し て い く こ と が 必 要 で あ る が 、現 状 で は 医 療 情 報 シ ス テ ム 導 入 は す す ん で お ら ず 、e-Japan
計 画 の 達 成 目 標 と は 乖 離 し た 結 果 に な っ て い る 。特 に 診 療 所 の 電 子 カ ル テ 導 入 率 は 低 く 、わ ず
か 約 10% 1 ) と な っ て い る 。 そ の 原 因 と し て は 、 電 子 カ ル テ 導 入 に よ る 効 果 を 実 感 で き な い 、 高
価 で あ る 、導 入 に 時 間 が か か る な ど が 挙 げ ら れ る 。そ の よ う な 中 、2008 年 に 災 害 等 の 対 応 策 の
た め に 民 間 事 業 者 に よ る 医 療 情 報 の 外 部 保 存 が 可 能 に な り 、2009 年 4 月 に 出 さ れ た「 医 療 情 報
シ ス テ ム の 安 全 管 理 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン 第 4 版 」で は 、外 部 保 存 を 受 託 す る 機 関 が 民 間 事 業
者 で あ る 場 合 の ガ イ ド ラ イ ン が 明 確 に 記 述 さ れ 、特 に 情 報 化 の た め の 人 材 確 保 が 難 し い 診 療 所
に と っ て 有 用 な SaaS 型 の 電 子 カ ル テ が 、 近 い 将 来 選 択 肢 と し て 加 わ る 見 込 み で あ る 。 こ の よ
うな背景を機に、医療情報活用のスキーム変革が期待されている。
本 報 告 は 、 診 療 所 向 け SaaS 型 カ ル テ の 利 活 用 を 医 療 の 抱 え る 課 題 解 決 の 一 助 と す べ く 、 医 療
情報活用のスキームについて示唆する。
1.はじめに
た、将来的には、携帯電話によるデータアクセスもセ
2009年4月に出された「医療情報システムの安全管
キュリティを確保しながら許可するしくみとすること
理に関するガイドライン第4 版」では、医療情報の外
を予定しており、医療従事者間のみならず、介護従事
部保存を受託する機関が民間事業者である場合のガイ
者等との情報共有にも貢献するシステム構築をめざし
ドラインが明確に記述されている。それにより、医療
ている。
機関が医療情報の安全管理に費やす労力・コストを削
これまで医療情報を院内に保管してきた診療所に
減するようなSaaS型の医療情報管理サービスの提供が
とって、高度に機微な情報を外部保管することは、非
近い将来可能となる見込みである。特に安全管理のた
常に大きな意思決定である。そのため、セキュリティ
めの人材確保や投資の負担感が大きい診療所にとって、
に対しては、サービスがコスト高になり過ぎないよう
SaaS型電子カルテ活用の意義は大きいと考えられる。
に工夫しつつも、最大限に考慮した。具体的には、図
弊社では、診療所に特化したSaaS型カルテサービス
2のとおり、データセンター、サーバールーム、ラッ
の提供を現在準備中であり、その概要は図1のとおり
クの物理的3階層でセキュリティ対策を施すとともに、
である。診療所とVPNで結んだデータセンター内に、電
システム管理者が情報を覗き見することがないように、
子カルテアプリケーションと診療情報、医事会計アプ
すべてのアクセスログを残す仕組みとした。
リケーションとレセプト情報を預かる。データへのア
クセスは、診療所内VPNを経由すれば、院外からも可能
2.方法
であり、特に訪問診療や医師が自宅で急遽カルテを確
医療情報利活用のモデルとして、本報告では2つを
認したい場合などに有用なシステムとなっている。ま
例としてとりあげる。
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1つめは、これまで紙で提供していた情報をセンタ
身の作業負荷が大きく、少しでも作業負荷を減らした
ーに蓄積した情報への直接アクセスを外部事業者に許
いという医師の声は切実である。
可することにより、外部事業者の業務効率化を促し、
・情報の活用のみの成果ではなくプロセス標準化と
ひいてはSaaS型電子カルテを利用する診療所へその効
合わせることにより実現しているが、税務サポートの
率化のメリットが返る、つまり外部サービス利用コス
コストを既存サービスコストの約6割程度に抑えて提
トが低減されることをめざすものである。そのイメー
供可能であると判断して、サービス価格を確定した。
ジを図3に示す。具体的には、センターに預けたレセ
・地域医療連携モデルでは、既に電子カルテ導入が
プト情報を匿名化したものを外部事業者が参照して、
終わっている中核病院との連携を考えなくてはならな
レセプトチェックを行うものと、同じくセンターに預
いため、本モデルを推進するには、中核病院のカルテ
けたレセプトの集計情報を外部事業者が参照して、そ
とのインタフェースの開発が必要となる点が、推進上
の他物理的に直接クリニックから取得した情報(領収
の課題となっている。
書や通帳のコピーなど)とあわせて税務サービスを提
供する事業の2つのモデル構築に現在取り組んでいる。
4.考察
2つめは、図4のイメージのように、SaaS型カルテ
SaaS型カルテサービスの低価格、ブラウザのみで使
サービスの低価格という利点を生かして、地域医療連
える、院内コストも削減できる、という利点により、
携のインフラとして採用する場合である。地域全体で
狙い通り診療所に電子カルテが浸透すれば、これまで
医療情報の連携に取り組む際に、将来的にはマルチベ
医療情報共有のボトルネックとなっていた診療所にお
ンダのさまざまなカルテ間で情報連携が行えることが
ける医療情報の電子化の遅れが解消されることとなる。
望ましいが、過渡的措置として連携クリニックの共通
その結果として、地域医療連携や在宅医療におけるチ
カルテとして本SaaS型カルテを採用、中核病院の電子
ーム医療の推進が期待される。また、診療所にとって
カルテと接続する。
の電子化のインセンティブとして、事業モデル1であ
げたような診療所の経営支援等と組み合わせることが
3.結果(現時点)
できれば、診療所の医療情報電子化のさらなる加速が
現時点ではまだ、ASPやSaaS型電子カルテが解禁にな
期待される。
っていないため、実際にSaaS型カルテを用いた医療情
報活用のスキームについて実証検証することはできな
参考文献
い。本報告では事業モデル構築の中で得たポイントを
1)「2008年版 電子カルテの市場動向調査」 株式
述べるにとどめる。
会社シード・プランニング
・現時点で本サービスに対する興味を示した医師は
新しいモデルに対する抵抗感が少ない先生方であるた
め一般的な傾向とは言えないが、診療所内の情報管理
負荷およびシステム管理負荷を減らすという点からの
SsaS型モデルへの期待は大きい。また、新規開業の際
には、コストが特に魅力的とのコメントが多数あった。
・医療情報の外部保存に対する不安感は、当初想定
したほどには示されなかった。
・事業モデルについては、レセプトチェックサービ
スに対する期待が大きい。医事専門家を置ける病院と
は異なり、診療所の場合医事担当はいるものの医師自
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図1 SaaS型カルテサービスの概要
図2 SaaS型カルテサービスのセキュリティ対策
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診療所
データセンタ
医事会計業務アウトソーサ
医事請求情報
クリニックA
請求
レセプト情報
レセプト
情報に基づき
処理
請求
各種
レポート
クリニックB
請求
レセプト情報
レセプト
税務会計
クリニックN
税務会計
レセプト情報
情報に基づき
処理
レセプト
税務会計
各種
レポート
税務会計情報
税務会計アウトソーサ
図3 医療情報の利活用例:診療所へのアウトソーシングサービスの提供
中核病院向け電子カルテのサポート範囲*
医歩ippoのサポート範囲
診療所
データセンター
ネットワーク内お知らせなどの情報共有
クリニック支援
ポータル
中核病院
ネットワーク内お知らせなどの情報共有
クリニックA
診療情報入力
クリニックA
診療DB
中核病院
診療DB
診療情報入力
診療情報入力
クリニックB
診療情報入力
診療情報交換
クリニックB
診療DB
必要なビューを設定
診療
トランザクション
DB
診療情報交換
匿名化
統合診療
DB
研究・治験など
への活用
個別SI範囲
図4 医療情報の利活用例:地域医療連携イメージ
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