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アジアからのラブコール

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アジアからのラブコール
1P
なぜサムスンばかりが話題になる?
2010・10・04 697号
アジアからのラブコール
財部誠一 今週のひとりごと
先日、中国政府中枢の事情に精通した人物と話す機会がありました。中
国政府は9月26日の突然の中国人船長釈放に度肝を抜かれたそうです。
日本は法治国家なので、一度拘留延長を決めた以上、船長釈放は最短で
も29日。そして60%の確率で船長は起訴されるというのが中国側の読み
だったそうです。ところが、あにはからんや、まったく法的根拠なしに26日
に処分未定のまま釈放! 「日本政府というのはガバナンスがなさすぎだ」
と、外交部や国家安全部の幹部たちがあきれ返っていたといいます。今回、
海上保安庁に逮捕された中国人船長は「教育は小学校だけ、酒びたりで、
キレやすい性格」だそうです。
知れば知るほど、嫌中感情よりも民主党外交のお粗末ぶりにへこんでし
まいます。詳細は、来週の「HARVEYROAD WEEKLY」で!
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
今年はビジネス誌や総合月刊誌などが韓国のサムスンを
数多く特集しました。切り口や評価の仕方等々、それぞれに
工夫されていましたが、いずれにしてもサムスンが気になっ
てしかたがないと雑誌メディアは痛感していたことに違いは
ありません。かくいう私自身も、月刊『VOICE』6月号でサム
スンをテーマに寄稿しています。また月刊『文藝春秋』7月
号ではパナソニック大坪文雄社長が「わが打倒サムスンの
秘策」を寄稿。インドで先行するサムスン、LGを凌駕するた
めの企業戦略を具体的な目標数字まで掲げてみせるという
異例のものでした。また『日経ビジネス』9月27日号は「次
のサムスンはここだ~知られざる韓国急成長企業~」と題し
た韓国特集企画。これがまたなかなか興味深い特集でした。
なぜこれほどまでにサムスン、あるいはLGを含めた韓国
のエレクトロニクス企業への関心が高まったのでしょうか。
理由は2つあると思います。
第1は日韓エレクトロニクス企業の収益格差の異常な拡
大です。
リーマンショックのあった08年度、日本の主要エレクトロニ
クスメーカーの経常利益は2000億~3000億円超の大幅
赤字を計上していますが、サムスンは4620億円の利益を
たたき出しています。翌09年度には日本メーカーの多くが
黒字転換したものの、日立の635億円が最高というありさ
まです。それに対してサムスンの経常利益はじつに8540
億円まで拡大しました。
しかしこれほどの業績差が日韓エレクトロニクスメーカー
の収益力をそのまま投影されたものというわけにはいきま
せん。これほどの業績格差を生んだ背景には日韓の極端な
為替変動がありました。08年のリーマンショックから韓国ウ
ォンは最大45%も安くなりました。一方、日本の円は対照
的に40%以上の円高に。為替変動だけで日韓の収益は
80%もの格差がついてしまったのです。ただでさえ優位で
あった韓国勢は何の努力もなしに45%も輸出額増加し、か
たや日本はただでさえ厳しい価格競争にさらされていたとこ
ろに40%以上の円高で収益が激減。さらに法人税やFTA
等々、韓国勢と日本勢とでは公平な勝負をする前提があり
◆日韓エレクトロニクスメーカー
業績比較(2009年度)
《売上》
サムスン
パナソニック
9 兆 7930 億円
7 兆 4179 億円
ソニー
日立
東芝
7 兆 2139 億円
8 兆 9685 億円
6 兆 3815 億円
《経常》
サムスン
パナソニック
ソニー
日立
東芝
8540 億円
- 293 億円
269 億円
635 億円
249 億円
《純利益》
サムスン
パナソニック
- 1034 億円
6860 億円
ソニー
日立
東芝
- 408 億円
- 1069 億円
- 197 億円
※サムスンの業績は円換算(1w=0.07円)
◆サムスンの看板
※インドネシアの空港に設置されたテレビ
モニター
2P
ません。しかし世の中、そうは見てくれません。勝
ち組韓国、負け組日本の構図は客観的な業績比
較として認めざるを得ないこともまた事実です。
第2は先進国から新興国中心へのグローバル
経済の構造変化に対する韓国勢の圧倒的な優
位性です。為替等々の外部環境優位だけではな
く、世界経済の成長エンジンとなってきた新興国
市場への食い込み方をみても、サムスン、LGは
日本勢を圧倒しています。ブラジルのサンパウロ
に行っても、インドやインドネシアに行っても、国
際空港に到着して真っ先に飛び込んでくる巨大
な電子看板はことごとく“サムスン”です。海外出
張を経験している日本人ビジネスマンの多くが
「昔は世界中どこにいっても日本企業の広告ば
かりだったのに」という悔しい思いをしています。
いまやサムスンは日本の脅威ではなく、もはや手
の届かぬ存在にまでなってしまったかのようです。
『日経ビジネス』は、9月8日に日本で正式デビ
ューした直後から人気沸騰、不調の日本音楽市
場でデビューシングルが10万枚を超えるという
離れ技をやってのけたグループ“少女時代”につ
いても、そこには韓国企業共通のグローバル戦
略があったと分析しています。
「少女時代のパフォーマンスは徹底した準備と努
力に基づいて完成され、単純なアイドルとは違う
プロらしさを目指している。日本語・英語・中国語
など外国語に堪能な人材で構成し、世界各国で
現地化できるよう結成当時からグローバル市場
を狙っている。これは世界的な企業である三星
(サムスン)電子や現代(ヒョンデ)自動車の戦略
と相通ずる」(日経ビジネス)
我が国のグローバルセンスをなさが脳裏をかす
め、ついつい、ため息も出てしまいますが、アジ
ア、中東、アフリカなどの新興市場を詳細にみて
いくと、意外な一面がみえてきます。韓国勢に圧
倒されているばかりではありません。日本がアジ
アともに積み重ねてきた歴史がいま、大きな追い
風となりつつあります。韓国勢を寄せ付けないマ
レーシアの家電市場などは、日本企業にとってア
ジア市場のポテンシャリティの大きさを実感させ
ます。
マレーシアでは圧勝
「パナソニックは長年苦労して蓄積した半世紀
にわたる資産があります。資産とは人材であり、
ものづくりの文化であり、現地のディーラーであり、
そして何よりもパナソニックのファンがいます。韓
国勢はせいぜいこの10年ですよ」
パナソニックのアジア戦略に詳しい幹部の一人
は、マレーシアの家電市場ではパナソニックが断
トツ優位を続け、韓国勢をまったく寄せ付けてい
ないと話していました。
「極端なことを言えば、マレーシアではLGのエア
コンなどほとんど売れませんよ。マレーシアのエ
アコン市場ではダントツトップシェアを20年、30
年続けているんです」
このパナソニック幹部に顔見知りのLGマレーシ
アの幹部が言ったそうです。
「じつは先日、個別訪問をしながら市場調査をや
った。ところが会う人会うひと、みな『うちはパナソ
ニックのファンだ』という。なぜだと尋ねると『品質
がいい。もう10年使っているが問題ない。韓国製
品の値段が3割安くてもうちは買わないよ』と、あ
ちこちで言われた。もう諦めましたよ」
本当にマレーシア市場を諦めたとは思えないが、
古くからのパナソニックの牙城に容易に入り込め
ないLGの苦戦ぶりだけは間違いない。私は非常
に興味をそそられました。早くから松下幸之助自
身が開拓し、現地生産までして切り開いたはずの
インド、インドネシアはいまや韓国勢に圧倒され、
その背後から中国企業が乱入してきています。
同じアジアのなかでなぜマレーシアだけが、他を
寄せ付けぬ強さを維持できているのか。パナソニ
ックの幹部が真っ先に指摘したのは「マハティー
ルさんのルックイースト政策」でした。ルックイー
スト政策それ自体は戦後の復興で大成功した日
本、韓国を手本にしようというもので、日本だけ
に焦点が当てられたものではありませんが、マ
ハティール氏の親日ぶりは誰もが知るところであ
り、マレーシアの英雄がジャパンブランドを大い
に後押ししてくれたことは間違いありません。
「反日教育の中国、親日教育のマレーシア。日
本人はそれを忘れた」
そう語るパナソニック幹部ですが、少なくともパ
ナソニックにおいてはマレーシアの親日感情と寄
り添いながらやってきたことが、強さの原点だと
指摘しています。
「1960年台から当時の松下はマレーシアやシ
ンガポールに進出しました。他社が見向きもしな
かった頃です。そこでものづくりを始め、その技
術、文化を根付かせ、ここから輸出を始めたんで
す。シンガポールなんて極端でしたよ。シンガポ
ールで生産した製品はその約9割を輸出しなけ
ればいけないという義務まできた。外貨獲得に
おおいに貢献してきたということです」
ところがこの歴史をパナソニック自身が忘却し
たことがアジア全体での劣勢を招く要因になりま
した。
「我々自身がアジア市場を忘れすぎていた。じつ
は今年、3年ぶりにディーラーのコンベンションを
開催した。その時、アジア諸国のディーラーから
『パナソニックはやっと眠りから覚めたね』と言わ
れましたよ。今振り返れば、アジアを忘れるきっ
かけは98年のアジア危機だった」
98年のアジア。日本企業が凄まじい勢いでア
ジアから撤退し、中国一辺倒に戦略転換したき
っかけです。日本企業がアジアを留守にしたこ
の10年、その後にスルリと入り込んでいたのが
韓国勢だったのです。アジア市場のポテンシャリ
ティの高さに、もう一度、目を向けたいものです。
(財部誠一)
◆サムスンの看板
※インドネシアの高速道路脇に設置された
携帯電話の巨大看板
◆少女時代の概要
韓国で大人気の女性アイドルグルー
プ。 07 年デビュー。 9 人メンバーの
うち 2 人は韓国系アメリカ人。 それ
ぞれ英語、 日本語、 中国語を話す
ことができる。 海外市場を視野に入
れ、 衣装も専門家の意見を取り入れ
る。 09 年、 韓国の CD 販売ランキ
ング 9 週連続 1 位の新記録を樹立。
台湾、 タイでも 1 位を獲得、 中国ツ
アーを行うなどアジア全域で活躍。 9
月に日本デビューを果たし、 オリコン
ランキング 4 位。 海外女性歌手のデ
ビュー作で最高を記録した。
◆マハティール・ビン・モハマド氏
1925 年生まれ。 9 人兄弟の末っ子。
開業医から政治家に転身。 マレー
シア第 4 代首相に就任、 過去最長
の 22 年務めた。 個人主義的な欧
米諸国ではなく、 集団利益優先の
日本の経済成長を見習おうという
ルックイースト政策をはじめ、 強力
なリーダーシップで国力を飛躍的に
伸ばした。 自身の子供は日本へ留
学させ、 日本に関する本を執筆する
な親日家。 政治家引退後は日本人
と共同でベーカリーを経営。
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