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打倒サムスン パナソニックのストリートファイト①

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打倒サムスン パナソニックのストリートファイト①
1P
マレーシア取材の必然
◆マレーシア
2010・11・15 703号
打倒サムスン パナソニックのストリートファイト①
財部誠一 今週のひとりごと
TPP論議における農業保護の主張ほど馬鹿げたものはありません。
産業競争力を犠牲にしてでも守らなければならない日本の農業とは、具
体的に何をさすのでしょうか。有能な生産者は、有能な経営者となって競
争力のある農業法人に変貌しています。大多数の生産者は兼業農家で
地方の工場勤務者がどれほどいるか。TPPでも出遅れ、工場の海外移
転を招けば、そのダメージは大多数の兼業農家を直撃します。農業の生
産現場ではじつは産業と農業の利害は一致しているのです。農業の既
得権にしがみついている連中は政治家であり、全農であり、ヤル気のな
い農協です。
先日、福井で大規模な畑作をしている生産者の方に会いました。福井
では依然として農地が手に入らない。地元でのこれ以上の作付け拡大
に見切りをつけた彼は、北海道で広大な農地を借りることにしたそうです。
種まきも収穫も福井と北海道は時期が異なります。福井と北海道の畑を、
農機具を積んだフェリーで往復しながら、大量生産を実現するそうです。
農業やらずにヤル気のある生産者に貸与もしない悪質な農家がいかに
おおいことか。
「守るべき農業」の中身を明らかにしたTPP論議をすべきです。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
マレーシア取材は驚きに満ちたものになりました。取材
の目的はパナソニック・マレーシアの独走ぶりを自分の
目で確認し、その要因分析をすることでした。
ご存知の通り、いまや世界の家電市場はサムスン、
LGの韓国勢に圧倒されています。事にサムスンはテレ
ビ、液晶パネル、半導体では世界1位。昨年12月期連
結決算では売上高は10兆円を突破し、営業利益は
8736億円。もはや日本勢が束になってもかなわぬ高み
に登ってしまいました。
そんな数字を象徴するかのように、欧米のホテルでテ
レビのスイッチを入れればサムスンのCMが溢れでてく
るし、街中ではサムスンの広告看板が次々と目に飛び
込んできます。それどころかアジア全域、さらには中近東、
そしてアフリカと新興国市場でもサムスンの先行ぶりが
もはや動かぬ事実となっています。リーマンショック以降
は、サムスンとの格差がさらに拡大、2010年、新聞、雑
誌メディアではサムスン礼賛記事があふれました。
しかし日韓エレクトロニクスメーカーの優勝劣敗は単純
な商品別の市場シェアや決算数字だけで説明のつく問
題ではありません。
たとえば為替レートや税制、あるいは日韓政府の関与
の度合いといった経営環境格差の甚大ぶりは看過でき
ません。リーマンショック後の日韓通貨の対ドルレートの
変動をみると、韓国は40%以上のウォン安、一方日本
は40%以上の円高。これでは勝負になりませんが、さら
に着目すべきは税制です。朝日新聞の紙面でシャープ
の町田勝彦社長は「シャープの実質的な法人税率は
36.4%、韓国サムスンは10.5%。それだけで年間
1600億円の差がつく」と語っていました。ウォン安でぼ
ろ儲けのサムスンは10%強の法人税しか納めず、
40%もの円高で瀕死の日本メーカーはさらに36%強の
法人税をとられる。さらにサムスンの場合は韓国独特の
国家資本主義で、政府が財閥企業の世界市場制覇に全
力でバックアップもしています。サムスン礼賛、日本メー
カー卑下という短絡的思考はあまりにもリアリティを欠き
ます。
【正式国名】
マレーシア(Malaysia)
【面積】
約33万km2(日本の約0.9倍)
【首都】
クアラルンプール
【人口】
2,827万人(2010年7月時点、世界44位)
【民族構成】
マレー系(66%)、中国系(26%)、インド系(8%)
※マレー系には中国、インド系を除く他民族を含む
【言語】
マレーシア語、中国語、タミール語、英語
※国語、公用語はマレーシア語
【宗教】
イスラム教 60.4%、仏教 19.2%、
キリスト教 9.1%、ヒンズー教6.3%
【通貨】
リンギット(MYR)
1リンギット=26.59円(11/11時点)
【主要産業】
製造業(電気機器)、農林業(天然ゴム、
パーム油、木材)、鉱業(錫、原油、LNG)
【実質GDP成長率】
2009年 -1.7%
2007年 6.2%
2005年 5.3%
【名目GDP、一人当たり名目GDP】
2009年 1,914億ドル 6,897ドル
2007年 1,861億ドル 6,942ドル
2005年 1,380億ドル 5,319ドル
【消費者物価上昇率】
2009年 0.6%
2007年 2.0%
2005年 3.1%
【貿易相手国・地域】
輸出 輸入
1位 シンガポール(14.4%) 中国(13.9%)
2位 中国(12.6%) 日本(12.5%)
3位 米国(11.3%) 米国(11.2%)
2P
そんななか私がいまもっとも注目しているのがパ
ナソニックのアジア戦略です。地道に行儀よく振る
舞ってきた大坪パナソニックがサムスン相手にス
トリートファイトを仕掛けたからです。殴られた二倍
殴り返すぐらいの勢いでパナソニックが打倒サム
スンに本気になりました。最大の目標はインドです。
平均年齢が25歳以下と若い人口11億人のインド
は、人口規模においても、経済規模においても、
中国を追い越す可能性を秘めた人口大国です。
「大坪(文雄)社長のテーマはいかにしてサムス
ン、LGを凌駕するかに尽きています。それをどの
市場で具体化するのか。究極の回答がインドだっ
た。それを象徴するのがあの文芸春秋の原稿で
すよ」
あるパナソニック幹部がいう「原稿」とは、文藝春
秋7月号に大坪社長自身が寄稿した「わが『打倒
サムスン』の秘策」です。これを狼煙として、パナソ
ニックは全社をあげてインド市場を奪還にいくとい
う前代未聞の経営行動にでました。インド市場のト
ップはLGで売上高2400億円、第2位のサムスン
が1800億円、対するパナソニックはわずか400
億円。大坪社長は3年で売上を現在の5倍でる
2000億円に引きあげ、その次のフェーズで韓国
2社を追い越すという壮大な社長プロジェクトを打
ち出しました。その直後の6月に、私もインド取材
に行き、「HARVEYROAD WEEKLY」でもその
様子を記しましたが、それから4カ月、まるでサム
スンかと見間違えるほどの集中豪雨的投資で、パ
ナソニック・インディアは結果をだしているようです。
それについては後日、取材のうえ、あらためてレ
ポートしますが、じつはインドでの大攻勢のなかで、
私には大きな疑問が残りました。打倒韓国勢の後
に具現化されるパナソニック・インディアはいった
いどのような現地企業になるのか。具体的なイメ
ージが描き切れなかったのです。今回のマレーシ
ア訪問はまさにその答えを探すため取材旅行だっ
たのです。
K・MATSUSHITAの奇跡
マレーシアは人口わずか2800万人にすぎませ
ん。人口2億3000万人のインドネシアの10分の
1です。またマレーシアも平均年齢の若い国です
が、平均年齢が20代半ばのベトナムほど若いわ
けでもありません。またマレーシアの首都、クアラ
ルンプールはツインタワーとしては世界最高の高
さを誇り、白銀に輝くその姿が夜空に突き出す美
しさはASEANのイメージではありません。マレー
シアびいきの日本人をして「シンガポールよりよ
ほどお洒落」と言わしめるほど洗練された一面を
持ってもいます。しかしアジアの金融センターは
議論の余地なくシンガポールであり、外資系企業
の多くがアジアのヘッドクォーターを置いているの
はシンガポールです。要するにマレーシアは
ASEANのなかでも素晴らしく良く出来た国であり
ながら、格別に日本から注目される存在ではなく
なっていました。少なくとも私の問題意識の中か
らはマレーシアは完全に脱落していたのです。
これが大きな間違いでした。
日本の経済成長と雇用に絶大な影響を与える
エレクトロニクスメーカーが新興市場でこれ以上
韓国勢との競争格差を広げられることは国益に
関わる重大事です。ASEANの先には中東があ
り、さらにその向こうにはアフリカという巨大な成
長市場が動き始めているのです。ASEANで劣勢
を取り返し、サムスンを打倒しなければ、日本の
エレクトロニクス産業は絶望的な時代を迎えざる
をえません。しかもテレビから炊飯器までフルレン
ジの品揃えでサムスン、LGに真っ向勝負を挑む
日本メーカーはパナソニックだけになってしまいま
した。
大坪社長が『文藝春秋』でインドの売上を「5年
間で400億円から2000億円」にすると公言した
ことは大企業のトップとして異例中の異例であり、
そのコミットメントに対する覚悟のほどが容易に知
れます。またトップの強い意志を受けたアジア大
洋州本部の宮本郁夫本部長(常務役員)は、中
期計画の中で同本部の売上高を現状の3000
億円から1兆3000億円まで引き上げることを決
断。インド、インドネシアを中心に1兆円の純増
を実現するというのです。これほど意欲的に、こ
れほど激しく、韓国2社を追い上げることを組織
として誓ったパナソニックに、正直私自身も久し
ぶりに興奮しています。
しかしインドでサムスン、LGをキャッチアップし
た先に、パナソニックはどのような企業像をイメ
ージしているのか。インド取材をした直後も、私
にはその具体的なイメージを結ぶことができま
せんでした。ところがインド-インドネシア-シン
ガポールと「パナソニックVSサムスン」の取材を
進めていくにしたがって、ようやくひとつの可能
性が見えてきました。パナソニック・インディアが
目指す将来像は、もしかしたら「パナソニック・マ
レーシア」なのではないか。
その仮説が的外れでないことを、今回のマレー
シア取材で私は確信しました。マレーシアの家
電市場はパナソニックの独壇場です。液晶テレ
ビではサムスンに猛追されてはいるものの、ほと
んどの電気製品で市場シェアトップを独占してい
るのです。マレーシア全土に張り巡らされたパナ
ソニック・ショップの販売網やそれを支える強靭
なディーラー網等々、成功要因は多々あります。
しかしそのなかでも取り分け大きなものは「K・M
ATSUSHITA(松下幸之助)」のphilosophy(理
念)だったのです。本社社員、ディーラー、パナシ
ョップ、さらには修理や倉庫の業務に携わる関
連会社の社員までが「K・MATSUSHITA」の
philosophyの重要性を私に語りかけてくるので
す。ストリートファイトの覇道ではなく、ひたすら
企業理念を深化させ王道を歩いてきたパナソニ
ック・マレーシアが韓国勢を圧倒している現実。
興味津津でした。(続く) (財部誠一)
◆マレーシア
製品別家電販売シェア
【家電全体】
1位 パナソニック
2位 ソニー
3位 サムスン
4位 LG
5位 シャープ、東芝
23%
13%
12%
8%
6%
【エアコン】
1位 パナソニック
2位 ヨーク
3位 日立
4位 LG
5位 シャープ
42%
18%
6%
5%
4%
【薄型テレビ】
1位 パナソニック
2位 サムスン
3位 LG
4位 ソニー
5位 シャープ、東芝
26%
19%
13%
12%
9%
【冷蔵庫】
1位 パナソニック
2位 東芝
3位 シャープ
4位 サムスン
5位 LG
23%
19%
16%
11%
10%
【洗濯機】
1位 パナソニック
2位 東芝
3位 サムスン
4位 LG
5位 シャープ
23%
18%
14%
12%
6%
※09年12月時点
※出典:JETRO
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