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蛋白質核酸酵素:志賀毒素の細胞内輸送異常を誘導するペプチド

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蛋白質核酸酵素:志賀毒素の細胞内輸送異常を誘導するペプチド
S h o r
i e w
t R e v
志賀毒素の細胞内輸送異常を
誘導するペプチ ド
A novel
Shiga
toxin
inhibitor
that
induces
aberrant
cellular
transport
of the toxin
西川喜代 孝
腸 管 出血 性大腸 菌 が産生 する志賀 毒 素 は,標 的 細胞膜 上 に存 在 する中性 糖脂 質Gb3を 受容体 と して細胞 に結 合す
る.こ の とき,最 大 で15分 子のGb3と 結合 する ことによ り,き わめて 高い結 合親 和性 を示 し,こ の現 象 はクラス
ター効 果 とよばれている.結 合 した志賀 毒素 はエン ドサイ トーシス によ り細胞 内小胞 に取 り込 まれ,ゴ ル ジ体,さ
らに,小 胞体 へと逆行 輸送 される.筆 者 らは,ク ラスター効果 をもつペ プチ ドライ ブラ リーを開 発 し,志 賀毒 素の
Gb3認 識部位 に特異 的に結合 するペ プチ ドの モチーフを同定 した.こ のモチ ーフをもつ新 規化合 物 は,志 賀毒 素 に
結合 したのち ゴル ジ体か ら小胞 体へ の輸送 を特異 的に阻害 し,そ の結果,強 力 な毒 性阻害 活性 を示す ことが明 らか
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とな った.
Key words
●志 賀毒素
●ク ラスター 効果
●Gb3
●ペ プチ ドライ ブラ リー
●逆行輸 送
染 症 の 有 効 な 治 療 薬 に な る もの と期 待 さ れ る.
は じめ に
志 賀 毒 素 は 標 的 細 胞 膜 上 に 存 在 し て い る 中 性 糖 脂 質Gb3
わ が 国 に お け るO157:H7に
菌(enterohemorrhagic 代 表 され る腸 管 出血 性 大 腸
E.coli;EHEC,あ
toxin-producing E.coli;STEC,志
の感 染 者 数 は,1996年
るいは,Shiga
賀 毒 素 産 生 大 腸 菌)
の 大 流 行 以 降 も年 間約3000∼4000
(globotriaosylceramide,グ
ロ ボ ト リ ア オ シ ル セ ラ ミ ド,
Galα(1-4)-Galβ(1-4)-Glcβ1-Ceramide)を
受 容 体 と し,そ
の 糖 鎖 部(グ ロ ボ3糖,Galα(1-4)-Galβ(1-4)-Glcβ1)を
異 的 に 認 識 す る.こ
の 点 に 着 目 し,グ
ロ ボ3糖
特
を高 密 度 に
人 で推 移 して お り,現 在 に い た る ま で減 少 の傾 向 を ま った
集 積 させ た種 々 の化 合 物 が志 賀 毒 素 阻 害 薬 と して合 成 され
くみせ てい な い.腸 管 出血 性 大 腸 菌 の 感 染 は,下 痢 や 出 血
て い る.本
性 大 腸 炎 な ど消 化 管 障 害 を ひ き起 こす 一 方 で,感 染 者 の3
∼10%に 溶 血 性 尿 毒 症 症 候 群 や 脳 症 を併 発 させ ,む しろ,
で あ る そ の 糖 鎖 認 識 の 機 構,な
現 状 と そ の 問 題 点 を概 説 す る と と も に,最
これ らの合 併 症 が 患者 を死 に い た ら しめ る大 き な原 因 と な
発 し た,グ
っ て い る.こ れ ら種 々の 病 態 を ひ き起 こす 主 要 な病 原 因 子
ッ トの 開 発 戦 略,さ
の ひ とつ が,腸 管 出血 性 大 腸 菌 の産 生 す る志 賀 毒 素(Shiga
阻 害 薬 の効 果 な らび にそ の ユ ニ ー ク な作 用 メ カニ ズ ム につ
toxin;Stx)で
い て 紹 介 す る.
あ る.と
くに,血 中 に侵 入 した志 賀毒 素 に
稿 で は,志
ロ ボ3糖
賀 毒 素 阻 害 薬 開 発 の 基 本 コ ンセ プ ト
ら び に,こ
れ ま での 開 発 の
近,筆
者 らが 開
に代 わ る ペ プ チ ド性 志 賀 毒 素 結 合 ユ ニ
ら に,こ
の 結 合 ユ ニ ッ トを 用 い た 新 規
よる腎 臓 や脳 の微 小 血 管 内 皮 細 胞 の障 害 が,重 篤 な合 併 症
の 原 因 だ と考 え られ てい る.し たが って,腸 管 内 で 大 量 に
産 生 され た志 賀 毒 素 を強力 に 吸 着 して血 中へ の侵 入 を阻 害
I 志賀毒素の構造 と
Gb3の 糖鎖認識機構
す る薬 剤 や,す で に血 中 に侵 入 した ご く微 量 の志 賀毒 素 に
結 合 して そ の作 用 を阻 害 す る薬 剤 は,腸 管 出血性 大 腸 菌 感
志 賀 毒 素 はStx1フ
ァ ミ リ ー,Stx2フ
ァ ミ リ ー か ら構 成 さ れ,Stx1フ
ァ ミ リ ー の2つ
ァ ミ リー には 赤痢 菌 が産 生
す る 毒 素 と ま っ た く同 じ構 造 を も つStx1と
Kiyotaka Nishikawa
が,Stx2フ
同 志 社 大 学 生 命 医 科 学 部 設 置 準 備 室
Stx2と
E-mail:[email protected]
ァ ミ リ ー に はStx1と
そ の バ リ ア ン トが,存
のフ
約60%の
在 す る.こ
そ の バ リア ン ト
相 同 性 を もつ
の う ち,Stx2が
重
篤 な 合 併 症 の 発 症 と密 接 な か か わ り を も つ こ と が 疫 学 的 な
44
蛋白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
S h o r t R e
らび に 実 験 的 に 指 摘 さ れ て お り1,2),Stx2阻
i e w
v
害 薬 の 開発 が急
務 で あ る.
志 賀 毒 素 は,毒
子 と,標
素 活 性 を担 うAサ
的 細 胞 へ の 結 合 を 担 うBサ
ブ ユ ニ ッ ト(32K)1分
ブ ユ ニ ッ ト(8K)5分
か ら構 成 さ れ る.Aサ
ブ ユ ニ ッ トはN-グ
リ コシ ダー ゼ 活性
を も ち,28SrRNAの5'末
端 か ら4324番
目 の ア デ ノ シ ン塩
基 のN-グ
リ コ シ ド結 合 を加 水 分 解 す る こ と に よ っ て リ ボ ソ
ー ム60Sサ
ブ ユ ニ ッ トを 失 活 させ
,蛋
白 質 合 成 を 阻 害 す る.
志 賀 毒 素 は 標 的 細 胞 表 面 に 存 在 す るGb3を
細 胞 内 に 侵 入 す る.Bサ
ボ3糖
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子
を 介 して,い
受 容 体 として
ブ ユ ニ ッ ト5量 体 は,Gb3の
ち ど に 複 数 のGb3分
子 と結 合 す る.こ
れ まで に,Stx1のBサ
ブ ユ ニ ッ ト1分 子 に は,サ
イ ト2,サ
の グ ロ ボ3糖
イ ト3の3つ
グロ
イ ト1,サ
結 合 部 位 が存 在 す る こ
と,し
た が っ て,Bサ
ボ3糖
が 結 合 し う る こ とが 結 晶 構造 解 析 か ら示 さ れ て い る3)
(図1).Stx2に
ブ ユ ニ ッ ト5量 体 で は 計15個
つ い て は,現
在 ま で にBサ
の グロ
ブ ユ ニ ッ トと グ
図1
Stx1Bサ
ブ ユ ニ ッ ト5量 体 と グ ロボ3糖
グロ ボ3糖 結 合 部 位 が 存 在 す る.白
色 の空 間 充填 モ デル は,グ
ロ ボ3糖
との 共 結 晶 化 構 造 は 得 ら れ て い な い が,最
告 さ れ たStx2の
結 晶 構 造 解 析 か ら,Stx1と
せ て お り,こ
実,遊
の多価 型 の
の 結 合 親 和 性 を 著 し く亢 進 さ
の 現 象 は ク ラ ス タ ー 効 果 と よ ば れ て い る.事
離 の グ ロ ボ3糖 のBサ
定 数 は10-3M程
ブユ ニ ッ ト5量 体 に対 す る解 離
度 に と ど ま る が,標
的 細 胞 あ る い はGb3を
含 有 す る 脂 質 膜 に 対 す る 志 賀 毒 素 ま た はBサ
量 体 の 解 離 定 数 は10-9Mに
ロボ3糖 の,セ
ガ ラク トー ス,末 端 の ガ ラ ク トー ス,を
ブ ユ ニ ッ ト5
も達 す る.
格 と し,ス
TWIGを
筆 者 ら は,末 端 に グ ロ ボ3糖
を6個
(図2)が
高 い 親 和 性 でStx1お
胞 毒 性 を 数 μg/mlと
ち ど に 複 数 の グ ロ ボ3糖
を認
の 結 合 親 和 性 を 著 し く亢 進 させ て
ロ ボ3糖
を 高密 度 に集 積 させ た 構 造 を も
つ 化 合 物 は,Bサ
ブ ユ ニ ッ トに 強 く結 合 し志 賀 毒 素 の 標 的
は,大
よ びStx2に
活1生 を 阻 害 す る.し
vitro
対 し低 濃 度 で そ の 細 胞 障 害
マ ウ ス 皮 下 に 同 時 投 与 し たStx1の
る も の の,Stx2に
が 結 合 し た 化 合 物,
のSTARFISHは,in か し な が ら,そ
の の ち,STARFISHは
致 死 性 を効 率 よ く阻害 す
対 し て は ま っ た く効 果 を 示 さ な い こ とが
明 らか と な っ た6).ま
た,松
して,
TWIG(1)6
結 合 し,そ
の細
ら に,
致 死 性 を完 全 に 阻 害 す る こ と
岡 ら は,ケ
イ素 原 子 を分 岐 点
に もつ 樹 枝 状 化 合 物(カ ル ボ シ ラ ン デ ン ド リ マ ー)を 基 本 骨
を高 発 現 させ た組 換
られ た 菌 体 は,in vitroに お い て
ら に,マ
ウ ス を用 い た
腸 管 出血 性 大 腸 菌 感 染 モ デ ル にお いて も経 口 投 与 で の有 効
性 が 示 さ れ た.ま
た,筆
者 ら は,ポ
に ス ペ ー サ ー を 介 し て グ ロ ボ3糖
リ マ ー を 開 発 し た10).興
に お い て,Stx1お
よ びStx2に
志 賀 毒 素 を 強 力 に 吸 着 す る こ と,さ
ー サ ー を もつGb3ポ
ル コー ス を核 と して そ の5つ の 水 酸 基 す べ て
開 発 した5).こ
もつSUPER の 糖 鎖 末 端 に グ ロ ボ3糖
Kitovら
STARFISHを
合 成 し た7).そ
腸 菌 の菌 体 表 面 をお お っ て い る リポ多 糖
細 胞 へ の 侵 入 を 阻 止 す る 阻 害 薬 に な る も の と 期 待 さ れ る.
に ス ペ ー サ ー を 介 し て グ ロ ボ3糖
ん中の
を結 合 さ
い う低 濃 度 で 抑 制 す る こ と,さ
マ ウ ス に 静 脈 投 与 したStx2の
に 注 目 し,そ
い る こ と か ら,グ
は,グ
ラ ミ ド側 の グル コー ス,真
ペ ー サ ー を 介 して そ の 末 端 に グ ロ ボ3糖
え 大 腸 菌 を 作 製 した9).得
識 す る こ と に よ りGb3と
の
を 見 い だ した8).
II グロボ3糖 を集積 させた阻害薬
ブ ユ ニ ッ ト5量 体 は,い
イ ト3の,3つ
レンジ 色 な らび に 緑
それ ぞ れ示 す.
せ た 一 連 の 化 合 物,SUPER Patonら
Bサ
色 の棒 状 モデ ル,オ
同 様 の3つ の グ
ロ ボ3糖 結 合 部 位 の存 在 が 予 想 さ れ て い る4).こ
相 互 作 用 が 志 賀 毒 素 とGb3と
近,報
との 結 合 様 式
Bサ ブユ ニ ッ ト1分 子(点 線)に は,サ イ ト1,サ イ ト2,サ
リ ア ク リ ル ア ミ ド骨 格
を 集 積 した 化 合 物,Gb3ポ
味 深 い こ と に,長
リマ ー は
,Stx1お
鎖 アル キル ス ペ
よ びStx2の
両方 に
対 し 高 い 親 和 性 で 結 合 しそ の 細 胞 毒 性 を 強 力 に 阻 害 す る の
に対 し,短
Stx1に
鎖 ア ル キ ル ス ペ ー サ ー を もつGb3ポ
リマ ー で は,
対 す る 高 い 親 和 性 結 合 は 保 持 さ れ る もの の,Stx2に
対 す る 結 合 活 性 は 著 し く低 下 す る こ と が 明 ら か と な っ た11).
こ の 知 見 は,Stx2は
ポ リ マ ー 骨 格 と グ ロ ボ3糖
をつ な ぐス
ペ ー サ ー の 長 さ を 厳 密 に 認 識 して い る こ と を 示 唆 して い る .
こ の 長 鎖 ア ル キ ル ス ペ ー サ ー を もつGb3ポ
リ マ ー は,感
染
実 験 に お い て 経 口 投 与 で 有 効 性 が 確 認 さ れ た は じめ て の 合
蛋白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
45
図2
SUPER TWIG(1)6の
構造
(1)∼(4)の
番号は,志 賀毒素 との高
親和性結合に要求される構造条件
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を示す.
成 化 合 物 で あ っ た.
合 物 で 構 成 され る.こ のペ プチ ドラ イ ブ ラ リー を標 的 蛋 白
質 が 充填 され た ア フ ィニ テ ィー カラム に結 合 させ,洗 浄 後,
III グロボ3糖 に代わる結合ユニッ トを
もつ阻害薬
特 異 的 に結 合 した画 分 を分 取 して ア ミノ酸 配 列 決 定 を行 な
う.そ の 結 果,お
のお の のXの 位 置 につ い て,ど の ア ミノ
酸 残 基 が どれ ほ ど強 く選 択 され た か を決 定 す る こ とが で き
こ こ まで述 べ て きた志 賀 毒 素 阻害 薬 は,例 外 な くグロ ボ
る.そ
して,そ れ ぞ れ の位 置 で もっ と も強 く選 択 され た ア
3糖 を志 賀毒 素 結合 ユ ニ ッ トと して使 用 して い る.し か しな
ミノ酸 残 基 を並 べ た配 列 が,ベ
ス トの 結 合 モ チ ー フ をあ た
が ら,こ れ らの 阻 害 薬 を臨 床 応 用 す る に はい くつ か の 問題
える もの と期 待 で きる(図3).筆
者 らは,こ の方 法 を用 い
点 が あ る.最 大 の 問題 は,グ
て,T細
ロボ3糖 の 化 学 合 成 は非 常 に
困 難 で あ りコ ス トが か か る こ と,そ して,ク
ラス ター を形
成 させ る ま えの グ ロボ3糖 単 量 体 の志 賀 毒 素 に対 す る解 離
定 数 は10-3M程
チ ロ シ ンキナ ー ゼZAP70に
対 し,基 質 モ チ ー フ とは ま った
く異 な る 配 列 を もつ 活性 阻 害 ペ プチ ドを 同定 してい る12).
で あ る.し た が
筆 者 らは,こ の ペ プチ ドラ イブ ラ リー法 を用 い て志 賀毒
っ て,臨 床 応 用 が 可 能 な治 療 薬 の開 発 に は,グ ロ ボ3糖 よ
り も結 合 親 和 性 にす ぐれ,か つ,合 成 の 容 易 な,新 た な志
素Bサ ブ ユ ニ ッ トの グ ロ ボ3糖 結 合 部 位 に対 す る結 合 モ チ
ー フ を取 得 す る こ とを試 み た が ,ま った く得 る こ とが で き
賀 毒 素 結 合 ユ ニ ッ トの開 発 が必 須 で あ る.最 近,筆 者 らは,
なか った.そ
多 価 型 ペ プチ ドラ イブ ラ リー法 とい う独 自の技 術 を開発 し,
単 量 体 であ るた め ク ラス ター効 果 が発 揮 で きず,結 果 的 に,
グ ロ ボ3糖 に代 わ る新 規 のペ プチ ド性 志 賀 毒 素 結 合 ユ ニ ッ
志 賀 毒 素 に対 す る結 合 が 著 し く低 下 して い る た めで あ ろ う
トを 開発 す る こ とに成功 した.
と考 え られ た.そ
1.
度 にす ぎない こ と,の2点
胞 の活 性 化 にお いて 中 心 的 な役 割 を はた して い る
の 原 因 と して,こ の ペ プ チ ドラ イ ブ ラ リー は
こで,ペ
プチ ドラ イ ブ ラ リー 自体 に ク ラ
ス ター 効 果 を発 揮 させ る ため,ラ
多 価 型 ペ プ チ ドラ イ ブ ラ リー法 の 開 発
イ ブ ラ リー部 分 を多 価 に
す る とい う新 た な概 念 に もとつ い たペ プチ ドラ イブ ラ リー を
筆 者 らは これ まで に,キ ナー ゼ な ど酵 素 の触 媒 部 位 に対
し特 異 的 に結 合 す るペ プチ ドモ チ ー フ,す な わ ち,活 性 阻
作 製 す る こ と に した.
まず,ペ
プチ ドラ イブ ラ リー を集 積 させ る核 構 造 の 最 適
害 ペ プチ ドを同 定 す る ペ プチ ドラ イ ブ ラ リー 法 を開 発 して
化 に つ い て 検 討 を行 な っ た.先 述 したSUPER い る12).以 下,簡 単 に この方 法 の原 理 を説 明 す る.
その核 構造 や末 端 の グ ロボ3糖 の数 を容 易 に変 化 させ る こ と
筆 者 らの作 製 したペ プチ ドライ ブラ リー は,図3に
造 を してお り,Xは
示す構
シス テ イ ン残 基 以 外 の19種 類 の ア ミノ
酸 残 基 の混 合 物 で あ る.し たが って,Xが4個
の場 合,こ
のペ プチ ドラ イブ ラ リー は理 論 的 に194種 類 のペ プチ ドの混
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蛋白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
が で きる とい う特 徴 を もつ.そ
こで,種
に グロ ボ3糖 数 を もつ 一 連 のSUPER TWIGは,
々の 核 構造 な らび
TWIGを
合 成 し,志
賀毒 素 に対 す る結 合 親和 性 を指 標 と してSUPER TWIGに
要 求 され る最 適 構 造 を決 定 した13).そ の結 果,以
下 に示 す
S h
o
r
t R
e
i
v
e
厳 密 な構造 要 求 性 が存 在 す る こ とが 明 らか と なっ た.(1)分
子 全 体 と して は疎 水 的 な核 構 造 の外 側 に グ ロ ボ3糖 が 集 積
した構 造 を もつ こ と,(2)分岐 点 とな る両 末端 のSi原 子 の あ
いだ の距 離 は10A以
上 離 れ てい る こと,(3)一 方,末 端Si原
子 とグ ロボ3糖 のあ い だの 距 離 は糖 鎖 密 度 を保 つ た め10A
以 内 で なけれ ば な らない こ と,(4)グ ロボ3糖 数 は4個 以 上 が
必 要 で あ る こ と,で あ る(図2).そ
こで,こ れ らす べ て の条
件 を備 え た核 構造 をデザ イ ンす る こ とと し,最 終 的 に,図4
に示 す よ うに,リ
ジ ン残 基 が3個 つ な が っ た構 造 を核 と し
て,ス ペ ーサ ー を介 して4個 の ライブ ラ リー を もつ 多 価 型 ペ
プチ ドラ イブ ラ リー を作 製 した.
2.
Stx2結
合 モチ ーフの同定
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標 的 と し て は,重
篤 な 合 併 症 の 発 症 と関 連 の 深 いStx2を
用 い る こ と に し た14).筆
者 ら は こ れ ま で に,グ
合 部 位 に 変 異 を も つ 種 々 のStx2Bサ
製 し,SUPER TWIG(1)6は
こ と を 見 い だ し て い た13).こ
ロ ボ3糖
ブ ユ ニ ッ ト変 異 体 を作
サ イ ト3に 特 異 的 に 結 合 す る
の こ と は,こ
の サ イ ト3が す
ぐれ た 創 薬 の 標 的 と な り う る こ と を 意 味 し て い る.そ
野 生 型 のStx2Bサ
結
ブ ユ ニ ッ トに は 結 合 す る が,サ
こ で,
イ ト3に
図3
ペ プチ ドライブラ リー法 の概要
XはCys以
びC末
外 の19種
目 のTrpをAlaに
置 換)
端 のMet-Ala(MA)お
Dは,そ
よ
ミ ノ酸 塩 基 配 列 決 定 が サ イ クル こ と に確 実 に行
な わ れ て い る こ と を確 認 す るた め に導 入 して い る.C末
(KKK)は,ラ
変 異 を もつ 変 異 体(W33A,33番
の アミ ノ酸 残 基 の混 合 物.N末
端 側 のAla(A)は,ア
端 のLys-Lys-Lys
イブラ リ一 自体 の水 溶性 を高 める ため に導 入 してい る.A,B,C,
れぞ れ の位 置 で も っとも 強 く選 択 され た ア ミ ノ酸 残 基 を示 して いる .
図4
多価型ペ プチ ドライ ブラ リー法
上 段 に,多 価 型 ペ プチ ドライ ブラ リー の 構 造 を示 す.リ ジ ン残
基 が3個 つ なが った 構 造 を核 と し,ア ミ ノヘキ サ ン 酸(U)を
ペ ー サー と して4個 の ペ プチ ドライ ブ ラ リーを も つ.ス
ス
ク リー
ニ ン グ によ り決 定 され た7つ の アミ ノ 酸 残基 か らな る4種 類 の
ペ プ チ ドモ チー フは .そ れぞ れ の配 列 の 最 初 の3つ の ア ミ ノ酸
残 基 に よ り命 名 して いる.こ
に導 入 し,4価
れ らの ペ プチ ドモ チー フ を核 構 造
ペ プ チ ド性 化 合 物 を合 成 した
下 段 に,PPPペ
プ チ ドを用 い て作 製 した4価 ペ プチ ド性 化合 物PPP-tetの
構造
を 示 す.
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
47
w
に は 結 合 し な い こ と を指 標 に,上
記 の 多 価 型 ペ プチ ドラ イ
イ ブ ラ リ ー 部 分 に4個
のXが
存 在 す る1次
ラ リ ー を 用 い て ス ク リ ー ニ ン グ を 行 な っ た.こ
確 な 結 合 モ チ ー フ を得 る に は い た ら な い が,ア
ラ イブ
ブユ ニ ッ トに対 す る解 離 定数 は0.13∼0.35μ
Mで あ り,非 常 に高 い結 合 親和 性 を もつ こ とが示 され た15).
の段 階 で は明
さ ら に,SUPER ル ギ ニ ン残 基
これ らの化 合 物 が グロボ3糖 と競 合 す るか たち で,特 異 的 に
TWIG(1)6を
用 い た結 合 阻 害 実 験 か ら,
や ア ス パ ラ ギ ン残 基 な どが 比 較 的 強 く選 択 さ れ る こ とが 明 ら
サ イ ト3と 結 合 して い る こ とが 明 らか に なっ た.得
か と な っ た.そ
種 類 の ペ プチ ドモ チ ー フ の うち の ひ とつ,PPPペ
こ で,こ
れ らの ア ミ ノ 酸 残 基 を ラ イ ブ ラ リー
部 分 の 中 心 に 固 定 した3種 類 の 多 価 型2次
ラ イ ブ ラ リー(ラ
(PPPRRRR)とStx2Bサ
られ た4
プチ ド
ブユ ニ ッ トとの結 合 様 式 を分子 ダ
イ ブ ラ リ ー 部 分 は,-XXX-R-XXX-,-XXX-N-XXX,-XX-
イナ ミクス法 で解 析 した結 果,PPPペ
R-X-N-XX-)を
作 製 し,同
ニ ン残 基す べ てがBサ ブユ ニ ッ ト上 に存 在す る酸 性 ア ミノ酸
そ の 結 果,7つ
の ア ミ ノ 酸 残 基 か ら な る4種 類 の ペ プ チ ドモ
様 の ス ク リー ニ ン グ を 行 な っ た.
チ ー フ を決 定 す る こ とが で きた15)(図4).そ
フ を 単 量 体 ペ プ チ ド と し て 合 成 し,Bサ
対 す る 結 合 を遊 離 グ ロ ボ3糖
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の4価 ペ プチ ド性 化 合 物 を作 製 した.こ れ ら化 合
物 のStx2Bサ
ブ ラ リ ー の ス ク リ ー ニ ン グ を 行 な っ た.
ま ず,ラ
とで,4種
れぞ れの モチ ー
ブユ ニ ッ ト5量 体 に
と比 較 した と こ ろ,い
ずれ のペ
プチ ドの4つ の ア ルギ
残 基 と静 電 的 に相 互 作 用 して い る こ と,こ の と き,隣
りあ
うBサ ブユ ニ ッ トの2つ のサ イ ト3が 占有 さ れ てい る こ と,
を示 す モ デ ルが得 られた(図5).こ
こ とが示 され たPPPペ
のモ デル で相 互作 用す る
プチ ドとBサ ブユ ニ ッ トの そ れぞ れ
プ チ ド も 強 い 結 合 親 和 性 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た.こ
の ア ミノ酸 残 基 をア ラ ニ ン残 基 に置 換 し両 者 の 結 合 に及 ぼ
の こ と は,グ
す 影響 を検 討 した ところ(PPPペ
ロ ボ3糖
に比 べ合 成 が きわめ て容易 かつ結 合 親
プチ ドは4価 ペ プチ ド性 化
和 性 に す ぐれ た 新 規 の 志 賀 毒 素 結 合 ユ ニ ッ トが 開 発 で き た
合 物 と した),い ず れ の場 合 に も顕 著 な結 合 親 和性 の減 少 が
こ と を 意 味 す る.
観 察 さ れ た15).こ の こ とは,こ のモ デ ルが 実 際 の4価 ペ プ
チ ド性 化 合 物 とStx2Bサ
新規 のペプチ ド性阻害薬
3.
ブユ ニ ッ トとの結 合 様 式 を反 映 し
てい る こ とを示 して い る.
得 られ た モチ ー フ を志 賀毒 素 結 合 ユ ニ ッ トと して,多 価
4.
ペ プ チ ド性 阻 害 薬 の 作 用 メ カ ニ ズ ム
型 ペ プ チ ドライブ ラ リー とまっ た く同 じ核 構造 に組 み込 む こ
Vero細
胞 を用 い てStx2の
細 胞 毒 性 に対 す る これ ら4価
ペ プチ ド性 化 合 物 の 阻害 効 果 を検 討 した と ころ,い ず れ も
非 常 に効 率 よ くそ の毒 性 を 阻 害 す る こ とが 示 され た.し か
しなが ら,こ れ ら4価 ペ プチ ド性 化 合 物 はStx2のVero細
胞 へ の 結 合 を ま った く阻 害 しなか った15).一 方,SUPER
TWIG(1)6を
含 め,こ れ まで に開 発 され て きた グロ ボ3糖
含 有 型 の 阻 害 薬 は,志 賀 毒 素 に結 合 して その 標 的 細 胞 へ の
結 合 を 阻 害 す る こ とに よ り作 用 を発 揮 す る.こ
の こ とは,
これ ら4価 ペ プチ ド性 化 合 物 のStx2阻 害 メ カニ ズ ム は,従
来 の 阻 害 薬 とは ま った く異 な って い る こ とを示 唆 して い る.
この点 を明 らか にす る 目的 で,PPPペ
ペ プチ ド性 化 合 物(PPP-tet,図4)を
らび に,Stx2を
プチ ドを4個 もつ4価
蛍 光 標 識 した もの,な
蛍光 標 識 した もの を作 製 し,両 者 の細 胞 内
にお け る挙 動 を経 時 的 に検 討 した.
図5
Stx2Bサ
分 子 ダ イ ナ ミ クス 法 に よ るPPPペ
ニ ッ トとの 結 合 モ デ ル
ブユ ニ ッ トは 白色 の 空 間充 填 モ デル で,PPPペ
か ら7番 目のArgま
で,表
プ チ ドとStx2Bサ
示 した.酸
隣 りあ うBサ
別 した.PPPペ
で を,P3,R4,R5,R6,R7と
素 原 子 と 窒 素 原子 は,赤
プチ ド(3番 目のPro
して表 示)は 棒 状 モ デ ル
色 と 青色 とで そ れ ぞ れ表 示 した.
ブユ ニ ッ トそれ ぞれ の アミ ノ酸 残 基 は,aあ
プチ ドの4つ のArgす
べて が,Stx2Bサ
る いはbを つ けて 区
ブ ユニ ッ トに存 在 す
る酸 性 ア ミ ノ酸 と静 電 的 に相 互 作 用 して い る こと が示 さ れた.
48
蛋 白質 核 酸 酵素
Vol.53 ブユ
No.1 (2008)
これ まで に,志 賀 毒 素 は標 的細 胞 のGb3に
結 合 したの ち,
フ ァゴサ イ トー シス に よ って 細 胞 内 に取 り込 まれ,小 胞 輸
送 に よっ て ゴ ル ジ体 に運 ばれ て,そ
と運 ば れ る こ と,小 胞 体 でAサ
こか ら さ らに小 胞 体 へ
ブユ ニ ッ トの み が細 胞 質へ
と放 出 され蛋 白 質合 成 を阻 害 す る こ とが 示 され て い る.こ
の輸 送 形 態 は,通 常 の 分泌 蛋 白質 の輸 送 とは逆 方 向 で あ る
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S h
図6
PPP-tetはStx2の
(a)PPP-tet非
Stx2とPPP-tetと
(b)PPP-tet非
o
r t
R
e
v
i
e
細胞 内輸送異 常を誘導 する
存 在 下 で は,Vero細
胞 表 面 に結 合 した蛍 光 標 識Stx2(緑
色)は,60分
の 細胞 内 局 在 性 は非 常 によ く一 致 す る(中 段) .一 方,PPP-tetは,単
存 在 下 で は,蛍 光 標 識Stx2(緑
色)は,60分
以 内 に ゴル ジ体 に集 積 す る(上 段) .蛍 光 標 識PPP-tet(赤
色)存 在 下 で は ,
独 で は 細胞 質 内 に分 散 して 存在 する(下 段).
後 に 小胞 体 マ ー カー で あ るHsp47(赤
色)と 共 局在 す る.一 方 ,PPP-tet存
在 下 で は,Stx2の
小 胞体
へ の 移行 が完 全 に 阻害 され てい る.
(c)放 射 能 標 識Stx2を
添 加 後,培
養 液 中 に 放 出 され る 低分 子 分 解産 物 の 産 生 量 を経 時的 に測 定 した.PPP-tet存
在 下 で はStx2の
分 解 が著 しく亢進 され て お り ,
この 分解 は,リ ソ ソー ムの 阻 害 剤 であ る ク ロロキ ンの前 処 理 に よ って抑 制 さ れる.
こ と か ら 逆 行 輸 送 と よ ば れ て お り,志
必 須 で あ る こ と が 示 さ れ て い る.蛍
の 結 果,PPP-tetとStx2は
合 し,そ
の の ち,ゴ
た(図6a).興
を も つ が,こ
光 標 識 体 を用 い た検 討
複 合 体 を つ く っ た ま ま細 胞 に 結
ル ジ 体 ま で 運 ば れ て い る こ とが 示 さ れ
味 深 い こ と に,PPP-tetは
の 場 合,ゴ
単 独 で も膜 透 過 性
ル ジ体 に 集 積 す る こ と は な く,細
胞 質 内 に 分 散 し て存 在 す る(図6a).つ
小 胞 体 へ の 移 行 を,小
賀 毒 素 の毒 性 発 現 に
ぎ に,ゴ
ル ジ体 か ら
胞 体 マ ー カ ー で あ るHsp47と
在 を指 標 に 検 討 し た と こ ろ,PPP-tetの
の共局
存 在 下 で はStx2の
ゴ ル ジ体 か ら小 胞 体 へ の 移 行 が 完 全 に 阻 害 さ れ て い る こ と
が 示 さ れ た(図6b).さ
ら に,PPP-tet存
細 胞 内 代 謝 を 調 べ た と こ ろ,そ
る こ とが 明 ら か と な っ た.こ
在 下 で のStx2の
の 分 解 が 著 し く亢 進 し て い
のStx2の
分解 は リソ ソー ム 阻
害 剤 で あ る ク ロ ロ キ ンの 前 処 理 に よ っ て 抑 制 さ れ る こ と か
ら,リ
ソ ソ ー ム で 起 こ っ て い る こ と が 示 さ れ た(図6c).以
上 の こ とか ら,PPP-tetはStx2と
ち,Stx2の
複 合 体 を 形 成 し,そ
のの
細 胞 内輸 送 異 常 を誘 導 す る こ とに よっ て毒 性阻
害 作 用 を 発 揮 して い る こ とが 明 ら か と な っ た15).
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
49
w
PPP-tetのStx2阻
的 で,Stx2Bサ
害 メ カニ ズ ム を さ らに 明 らか にす る 目
ブ ユ ニ ッ トの グ ロ ボ3糖 結 合 部 位 の う ち サ
必 要 で あ る こ とが 示 さ れ て い る.し
異 体 は 単 独 で は ま っ た くVero細
イ ト1と サ イ ト2の 両 方 が 変 異 し て い る 二 重 変 異 体(W29A
い.こ
G61A)を
異 体 はVero細
作 製 し,Vero細
在 性 に 対 す るPPP-tetの
胞 へ の 結 合,お
よ び,細
効 果 を 検 討 した.こ
胞 内局
れ ま で に,志
賀 毒 素 の 細 胞 へ の 結 合 に は す べ て の グ ロ ボ3糖
結合 部位が
れ に 対 し,PPP-tet存
は,こ
た が っ て,こ
の二重変
胞 に 結 合 す る こ とが で き な
在 下 で はW29A G61A二
重変
胞 内 に 取 り込 ま れ る こ と が 示 さ れ た.こ
れ
の 二 重 変 異 体 で は サ イ ト3が 野 生 型 と 同 じ に 保 た れ
て い る た め そ こ にPPP-tetが
結 合 し,そ
の の ち,PPP-tetの
膜 透 過 性 に よ り こ の 複 合 体 が 細 胞 内 に 取 り込 ま れ た も の と
考 え られ た.し
て 存 在 し,ゴ
か し な が ら,こ
の複 合 体 は細 胞 内 に分 散 し
ル ジ 体 あ る い は 小 胞 体 に は 集 積 し な か っ た.
以 上 の こ とか ら,Stx2とPPP-tetと
ま で 輸 送 さ れ る の は,複
合 体 形 成 の の ち も,サ
い は サ イ ト2を 介 してGb3と
G61A二
の 複 合 体 が ゴ ル ジ体
結 合 で き る か らで あ り,W29A
重 変 異 体 とPPP-tetと
の複 合 体 で は この結 合 が 形
成 さ れ な い た め細 胞 内 に 分 散 して 存 在 す る,と
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一方
,サ
イ ト3とGb3と
の 結 合 はStx2の
体 へ の 輸 送 に 必 須 で あ り,PPP-tetは
阻 害 す る こ と に よ っ てStx2の
イ ト1あ る
考 え られ た.
ゴ ル ジ体 か ら小 胞
この結 合 を特 異 的 に
細 胞 内輸 送 異 常 を誘 導 す る も
の と考 え られ た15)(図7).
こ れ ら の 知 見 は,Stx2の
の グ ロ ボ3糖
細 胞 内 輸 送 に お い て,そ
結 合 部 位 が 異 な っ た役 割 をは た して い る可 能
性 を 示 唆 し て お り,今
後,そ
の 詳 細 な機 構 を分 子 レベ ルで
明 らか に して い く う え で,PPP-tetは
図7
PPP-tetに
左 側 はPPP-tetが
してStx2と
よ るStx2阻
な い とき,右
害のメカニズム
合 が 形 成 され て いな い ため,こ
イ ト3を 介
膜透 過 性 によ って細 胞
膜 に結 合 す る.そ の の ち,サ イ ト1お よ びサイ ト2を 介 してGb3が
合 体 を ゴル ジ体 ま で輸 送 す る
有 効 なプ ロー ブ にな る
もの と期 待 さ れ る.
側 に 示 す よ うに,PPP-tetは,サ
複 合 体 を形 成 し,こ の 複 合 体 はPPP-tetの
れ ぞれ
結 合 し,複
しか しな が ら,サ イ ト3を 介 したGb3と
の結
5.
ペ プ チ ド性 阻 害 薬 のO157:H7感
染実 験 に
お ける効果
の複 合 体 はゴル ジ 体 か ら小 胞 体 に輸 送 さ れず,
つ ぎ に,得
リソ ソー ムへ と運 ばれ て分 解 され て しま う.
られ た4種 の4価 ペ プチ ド性 化 合 物 の うち
図8
4価 ペ プチ ド性 化 合物
はO157:H7感
染実験
にお いて顕著 な 治癒 効
果を示す
マ ウ ス にO157:H7を
2日 目か ら1日2回,4日
経 口 感 染 後,
間,そ れ
ぞ れの 用 量 の4価 ペ プ チ ド性化 合 物
を 治療 的 に経 口投 与 したと きの,マ
ウス個 体 の生 存 日数.
(a)PPP-tetお
投 与.顕
よ びPPR-tetの
(b)PPP-tetのN末
蛋 白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
端 アセチル化
体,Ac-PPP-tetの
経 口 投 与.
PPP-tetの
らに約30倍
効 果 を,さ
に亢 進 した.
50
経口
著 な 治癒 効 果 を示 した.
S h
PPP-tetとPPR-tet(PPRRNRRを4個
化 合 物)を 用 い て,マ
ウ ス を 用 い たO157:H7感
い て そ の 効 果 を 検 討 した.菌
き る2日
目 か ら,こ
4日 間,225μg/g体
もつ4価
体 感 染 後,感
e
そ れ の グ ロ ボ3糖 結 合 部 位 に特 異 的 な結 合 モ チ ー フ を決 定
染 実 験 にお
す る こ とが 可 能 で あ り,今 後,こ
染 成 立 が確 認 で
の方 法 を用 い た特 異 的 な
毒 性 発 現 機構 の解 明 にむ け た取 り組 みが 期 待 され る.
また,多 価 型 ペ プ チ ドラ イブ ラ リー法 は,一 対 一 の 相 互
療 的 に 経 口 投 与 し た と こ ろ,非
作 用 で は非 常 に結 合 親和 性 が低 いが,多 対 多 の多 価 型 の 結
常 に 高 い 治 癒 率 を 示 す こ と が 明 らか とな っ た15)(図8a).一
合 をす る こ と に よ って 著 し く結 合 親 和 性 が 亢 進 す る現 象,
般 に,ペ
い わ ゆ る,ク ラス ター効 果 を示 す 分 子 に対 して 容 易 に応 用
プ チ ドを 経 口 投 与 した 場 合,消
化 管 で蛋 白質 分解
酵 素 に よ る 分 解 を 受 け る も の と 考 え られ る.そ
tetを 用 い て,消
こ で,PPP-
が 可 能 で あ る.こ の ク ラス ター効 果 は志 賀 毒 素 にか ぎらず,
化 管 での 安 定性 を増す た め の種 々 の化 学 修
飾 の 効 果 を検 討 した.そ
の 結 果,末
端 の4つ
の メチ オ ニ ン残
コ レラ毒 素 や 炭疽 菌毒 素 な どの細 菌 毒 素,イ
ウ イ ルス のHA蛋
ンフ ルエ ンザ
白 質,癌 細 胞 の転 移 ・白 血 球 の 遊 走 に 関
基 の ア ミ ノ 基 す べ て を ア セ チ ル化 した も の(Ac-PPP-tet)は,
与 してい るセ レクチ ンな ど,き わ め て多 くの 疾 患 関連 分 子
O157:H7感
に幅 広 く観 察 され る.こ の方 法 を用 い て これ らに対 す る 阻
染 実 験 で の 効 果 が 約30倍
い だ し た15)(図8b).75%の
経 口 投 与 用 量 は,70kgの
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r t R e v i
ペ プ チ ド性
れ ら4価 ペ プ チ ド性 化 合 物 を,1日2回,
重,治
o
gと な る.こ
も増 加 す る こ と を 見
治 癒 効 果 を 示 すAc-PPP-tetの
害 薬 を 開発 す る こ とに よ り,関 連 疾 患 の 治 療 に役 だ て る こ
ヒ トに換 算 す る と1回 わ ず か0.5
の こ と は,Ac-PPP-tetが
とが可 能 に な る もの と期 待 され る.
腸 管 出 血性 大 腸 菌 感
染 に 対 す る 強 力 な 経 口 治 療 薬 と な る可 能 性 を 示 し て い る.
お わ りに
文
非 常 に類 似 した高 次 構 造 を も
1) Ostroff, S. M. et al.:J. Infect. Dis., 160, 994-998 (1989)
胞 へ の 結 合 に関 して互 い に競 合 しあ う.ま た,
2) Tesh, V. L. et al.: Infect. Immun., 61, 3392-3402 (1993)
志 賀 毒 素,Stx1とStx2は
ち,Vero細
献
Vero細 胞 に対 す る細 胞毒 性 は ほぼ 同等 で あ る.し か しなが
3) Ling, H. et al.: Biochemistry, 37, 1777-1788 (1998)
4) Fraser, M. E. et al.:J. Biol. Chem., 279, 27511-27517 (2004)
ら,マ ウ ス に対 す る半 数 致 死 量 で比 較 す る とStx2の ほ うが
5) Kitov, P. I. et al.:Nature, 403, 669-672 (2000)
Stx1に 比 べ 数 百 倍 も毒 性 が 強 く,か つ,臨 床 的 に もStx2
6) Mulvey, G. L. et al.: J. Infect. Dis., 187, 640-649 (2003)
の ほ うが症 状 の 重 篤 化 と密 接 なか か わ りを もっ て い る こ と
7) Matsuoka, K. et al.: Tetrahedron Lett., 40, 7839-7842 (1999)
が知 られ て い る.両 者 の作 用 がin vitroとin vivoで ま った
く異 なって い る メ カニ ズ ムの詳 細 につ いて は現 在 にい た る ま
で明 らか に され て い ない が,最 近,そ れ ぞ れがGb3に
す る際,使
結合
用 さ れ る グ ロボ3糖 結 合 部 位 に違 いが あ る とい
う知 見 が 蓄 積 されつ つ あ る4,13).具体 的 に は,Stx1の
サイ
8) Nishikawa, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 7669-7674
(2002)
9) Paton, A. W. et al.: Nature Med., 6, 265-270 (2000)
10) Watanabe, M. et al.:J. Infect. Dis., 189, 360-368 (2004)
11) Watanabe, M. et al: Infect. Immun., 74, 1984-1988 (2006)
12) Nishikawa, K. et al.: Mot Cell, 6, 969-974 (2000)
ト2は 標 的細 胞 へ の高 親 和 性 結 合 に必 須 であ る が,Stx2で
13) Nishikawa, K. et al.: J. Infect. Dis., 191, 2097-2105 (2005)
14) Jackson, M. P. et al.: FEMS Microbiol. Lett ., 44, 109-114 (1987)
はそ の重 要 性 は低 いか 機 能 して い ない可 能性 が高 い.本 稿
15) Nishikawa, K. et al.: FASEB J., 20, 2597-2599(2006)
で示 した よ うに,Stx2の
グロボ3糖 結 合 部 位(サ イ ト1あ る
い は サ イ ト3)が 異 な った役 割 をは た して い るの と同 様 に ,
Stx1の グ ロボ3糖 結 合 部 位 につ い て も,高 親和 性 結 合 な ら
び に の ち の細 胞 内 輸 送 に関 し役 割 が異 な っ てい る こ とが 考
え られ る.こ の 相 違 が,Stx1とStx2の
的細 胞 の選 別,体
生 体 内 で の真 の標
内動 態 に影響 を及 ぼ し,Stx2の
強 力 な毒
性 発 現 機構 に関 与 してい る可 能 性 が 考 え られ る.本 稿 で紹
介 した 多価 型 ペ プチ ドライ ブ ラ リー法 は,Stx1とStx2そ
西 川喜 代 孝
略 歴:1989年
東 京大 学 大学 院薬学 系研 究 科博 士 課程 修 了,同
年 慶應 義塾 大学 医学 部 薬理 学教 室 助 手,1995年
米 国Harvard
大学 ポ ス ドク,1998年
国立 国際医療 セ ンター研 究所 臨床 薬理研
究部 室長 を経 て,2007年
教 授.2002∼2006年
同志社 大学 生命 医 科学 部 設 置準 備室
科学技 術振 興機 構 さきが け研 究 員 兼 務.
れ
蛋白質 核酸 酵素
Vol.53 No.1 (2008)
51
w
Fly UP