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若年女性の脳梗塞 - 奄美徳洲会グループ
若年女性の脳梗塞 徳之島徳洲会病院 初期研修医 2年次 中川 知 【症例】25歳 女性 【患者プロフィール】 職業は小学校の先生. 島に勤めて3年目. 特に既往のない生来健康な女性. 【現病歴】 来院2週間前に嘔吐と目の奥の痛みがあったが経過 観察していた. 来院当日, 授業中に児童の前で右側に倒れ, 意識が 戻らず救急要請. 児童たちに粗大な痙攣は目撃されていない. 搬入時, 食物残渣用の吐物あり. 痙攣なし. 【嗜好歴】 タバコ never 飲酒 機会飲酒 【既往歴】 特記事項なし 【内服歴】 低用量ピル(詳細不明) 【来院時現症】 <バイタルサイン>血圧 120/90 mmHg, 脈拍 70 回/ 分 整, 体温 37.5 ℃, SpO2 99 %(room) <全身状態>不良, 明らかな外傷なし <意識>JCSⅢ-300 <頭頸部>項部硬直なし <胸部>呼吸音清, 心雑音なし <末梢>冷感なし <神経>瞳孔 R=L 4.0mm 対光反射あり(迅速) 【検査所見】 <血液検査> WBC 4730 /μl LDH 196 U/l HBs Ag (-) <AVG> room air 145 U/l HBs Ab (-) pH RBC 446 万/μl ALP Hb 14.0 g/dl γ-GTP 18 U/ml HCV Ab (-) pO2 75.7 mmHg Plt 24.1 万/μl AMY 64 U/ml RPR (-) pCO2 36.7 mmHg BUN 9.9 mg/dl TP 6.9 g/dl HCO3 21.3 mmHg Cre 0.5 mg/dl Alb 4.3 g/dl Na 140.7 mEq/l K 3.6 mEq/l Cl 107.0 mEq/l Ca 8.8 mEq/l BS 99 mg/dl CPK 109 U/l GOT 18 U/l GPT 12 U/l T-Bil 0.3 mg/dl CRP 0.02 mg/dl PT-INR 1.13 APTT 24.1 sec ESR 30min 1.0 mm/h ESR 60min 2.9 mm/h ESR 120min 17 mm/h TPHA (-) 7.381 AG=12.4 抗カルジオリピン 5 u/ml 抗リン脂質抗体 3.6 sec <心電図>洞調律 <胸写>明らかな浸潤 影なし、縦隔拡大なし 【頭部CT】 頭蓋内に出血, 占拠性病変を認めず 【頭部MRI】 MRI: DWIで左前頭葉,側頭葉,頭頂葉皮質に高信号域. T2, FLAIRでは明らかな所見なし. 【頭部MRA】 MRA: 左内頸動脈全体の描出不良, 特にC2-1にかけて狭窄著明. 左A1狭窄著明. 左中大脳動脈の末梢も血流はpoor. 頸部内頸動脈は明らかな狭窄ないがややflow弱い 【搬入後経過】 頭部CTでは明らかな異常を認めず, 頭部MRI/MRA 施行. 前頭葉, 側頭葉, 頭頂葉に脳梗塞の所見を認めたた め脳神経外科Dr.にコンサルト. 緊急脳血管撮影施行. 【脳血管撮影】 左内頸動脈; C1に著明な狭窄 【脳血管撮影】 左内頸動脈にカテーテル挿入し, ニカルジピン塩酸塩, ファスジル塩酸塩水和物(エリル®)を希 釈, 動注. C1狭窄部の明らかな開存は無かったが IC系全体の血流は上昇した. 【治療後のMRI】 DWIでの高信号域消失. MRAのflowも改善傾向. 【problem list】 #1 意識障害(due to seizure s/o) #2 脳梗塞 【Plan】 脳血管の攣縮を認めているため、SAH後のspasmに 準じた治療を行う。 【入院7日目のMRI/MRA】 DWI左前頭葉~側頭葉~頭頂葉にかけて高信号域。 MRAで左内頸動脈描出不良 【若年の脳梗塞の鑑別】 心房細動 → 心電図は正常 奇異性脳塞栓症 → 卵円孔は調べてません 抗リン脂質抗体症候群 → 抗体陰性 CADASIL → 遺伝病、調べていません もやもや病 → もやもや血管なし、両側性 脳血管の解離 → 狭窄部位が限局していない 改善後の再狭窄という病歴から, 可逆性脳血管攣縮症候群 → ??? 可逆性脳血管攣縮症候群 (Reversible Cerebral Vasocontriction syndrome: RCVS) 1988年, Callらにより初めて報告された. その後, Call-Fleming syndrome, 産褥血管症, 良性の中枢神 経系の血管症, 可逆性攣縮を伴った雷鳴頭痛, 片頭痛性動脈 炎, 薬剤性脳血管炎などとも呼ばれる一連の症候群 原因は不明. 血管緊張のコントロールの異常. 20-50歳で発症. 男女比は1:2-3. 脳の血管に限局し, 頸部血管の攣縮は起こらない 症状; 94%で突然の強い頭痛を伴う 52%で片頭痛の既往, 40%で嘔吐, 24%で羞明 攣縮を起こした脳動脈の灌流域に見合う症状 可逆性脳血管攣縮症候群 (Reversible Cerebral Vasocontriction syndrome: RCVS) 診断基準:Calabreseらが提唱 多数の脳動脈の部分的攣縮が血管撮影で認められる 脳動脈瘤によるクモ膜下出血ではない 髄液所見が(ほぼ)正常である 急性の強い頭痛がある 発症から12週以内に血管撮影上の異常が消える(可逆 性で正常化する) 起こしやすい状態: 妊娠, 産褥, 薬剤の投与(ブロモクリプチン, エルゴタミ ン, エフェドリンなど多数), 高Ca血症, 頭部外傷, 頸動 脈内膜剥離術, 脳神経外科手術, 未破裂動脈瘤など 可逆性脳血管攣縮症候群 (Reversible Cerebral Vasocontriction syndrome: RCVS) 治療法:確立された治療方法はない. 症状が強い場合は 以下を考慮. カルシウム拮抗薬(nimodipine, verapamil, など) ステロイド 硫酸マグネシウム 脳血管障害の続発:報告に差異 ブラジル;神経学的症状 48%, TIA 4%, 脳梗塞 44% フランス;SAH 22%, ICH 6%, TIA 16%, 脳梗塞 4% →疾患群としていくつかの異なるメカニズムが混在する 事, 人種差が影響? 【結語】 本症例はMRA, angioで多数の可逆性脳血管攣縮を認め, 若年女性の脳梗塞の原因としてRCVSが疑われた. 一度は攣縮改善し脳梗塞が軽快したが, 入院中に再度 DWIで高信号域出現し脳梗塞となってしまったと思われる. 誘因としては個人的な素因の他に, 経口避妊薬の内服で 妊娠中のホルモン状態が作られていた事が疑われる. RCVSは珍しい疾患ではない事が報告されてきており, 若 年性の脳梗塞を見たときに鑑別として挙げておかなけれ ばならない事を学んだ症例であった.