Comments
Transcript
無分葉型全前脳胞症の 1 例 A CaseReportofalobarholoprosencephaly
Kobe University Repository : Kernel Title 無分葉型全前脳胞症の1例(A Case Report of alobar holoprosencephaly) Author(s) 藤岡, 一路 / 中岡, 総子 / 山内, 淳 / 豊嶋, 大作 / 西山, 敦史 / 湊川, 誠 / 神岡, 一郎 / 伊東, 利幸 / 住永, 亮 / 村瀬, 真紀 / 石田, 明人 / 潤井, 誠司郎 Citation 加古川市民病院誌,8:1-4 Issue date 2008-01 Resource Type Journal Article / 学術雑誌論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90001610 Create Date: 2017-03-30 <症例報告> 無分葉型全前脳胞症の 1 例 AC a s eR e p o r to fa l o b a rh o l o p r o s e n c e p h a l y 小児科藤岡一路中岡総子山内淳豊嶋大作西山敦史 湊川誠神岡一郎伊東利幸住永亮村瀬真紀 石田明人 脳神経外科潤井誠司郎 Key Words:a l o b a rh o l o p r o s e n c e p h a l y,f a c i a lanomaly,chromosome,h y p o t e l o r 匂 m, 46, XX, t ( 4 ; 5 ) ( p1 5 . 2 ; p1 5 . 1 ) 要旨 全前脳胞症は前脳の分割不全により生じ、 a l o b a r 、s e m i l o b a r 、l o b a rの3型に分類されるが、通常脳奇形 ,t ( 4 ; 5 ) ( p 1 5 . 2 ; p 1 5 .1)を伴った の重症度に一致した顔面正中部の低形成を伴う。我々は、染色体異常 46,XX a l o b a r 型の 1 f J 1 J を経験した。症例は在胎 37週 3日 、 3032g 、 AS8 / 9の院外出生児であり、眼間狭小、先天性 水頭症にて当院紹介となった。精査の結果、最重症の無分葉型全前脳胞症の診断となったが、顔面正中奇形 は軽度であり、顔面と脳所見の不一致が興味深いと思われた。 はじめに 娠経過中には明らかな異常は指摘されていなかった。 全前脳胞症 (HPE:H o l o p r o s e n c e p h a l y )は、前脳の 既往帝切のため、予定帝王切開で仮死なく出生。出生 分化障害に起因する大脳半球形成障害で、脳奇形の重 後 、 oddl o o k i n gf a c eを認め、頭部エコーにて水頭症 症度に対応した顔面正中部の形成不良を伴う。分葉の を認めたため、当院搬送となる。 入院時現症は、体重3032g ( + 0. 47SD)、身長48.0cm 程度により分葉型、半分葉型、無分葉型と分類される が、最重症の無分葉型 ( a l o b a rh o l o p r o s e n c e p h a l y ) ( + 0. 48SD)、胸囲 31 .0cm (+O.82SD) と週数相当で は、完全な単脳室で、左右の視床や線状体の癒合を伴 あったが、頭囲 38.5cm ( +4.10SD) と著明な頭囲拡 つ 。 大を認め、大泉門膨隆を認めた。顔貌は oddl o o k i n g 今回我々は、比較的軽度の顔面奇形にもかかわらず、 f a c eであり、眼高間距離 15mm (<17mm:日本人小 最重症の無分葉型全前脳胞症を呈した 1例を経験した 児正常値1))と眼間狭小を認めていたが、象鼻・口唇 ため報告する。 裂を認めず、一見して明らかな顔面正中部の形成異常 は指摘できなかった。後日、精査により粘膜下口蓋裂 症例 症例は、在胎 37週 3日、出生体重 3032g (AFD)、 を認めた。酸素投与下に呼吸状態は安定し、その他明 らかな内臓奇形・外表奇形は認めなかった。 ApgarS c o r e8 / 9にて出生の女児。 妊娠分娩歴は、母体年齢 32歳 、 3経妊 2経産(人工 入院時検査所見 流産1回)であった。母体感染症はなし。母体合併症 表1に示すとおり、多血傾向、逸脱酵素の上昇を認 として肥満を認めるも、糖尿病は認めなかった。喫煙 めたが、炎症反応は陰性であった。肝腎機能に異常な 歴あり。家族歴に特記事項なし。 く、電解質・血糖・凝固能異常を認めなかった。 IgM 自然妊娠成立後、前医にてフォローされていた。妊 の上昇を認めず、 TORCH 症候群の抗体価も陰性であっ -1- 18000 / μ l Na 1 3 9 mEq/1 PH RBC 622万 / μ l K 5. 8 mEq / 1 PC02 4 6 . 8 mm 頭圏 Hb 22. 8 g / d l C I 1 0 8 mEq/1 HC03 2 0 . 2 ( c耳 噌 「 正午4 Ht 67. 2 % Ca 9. 7 mg / d l 26. 1万 / μ l P 5 . 3 mg / d l IgG 1 1 2 2 m g / d l mg / d l I g恥4 1 0 mg ! d l 7 . 2 9 2 a v l t i d a v 3 0d a v 5 0 ー ) 『 目一「ミルク開始 r . 42 / L I 4. 9 mmol 40 [生化学] CRP BE v 事噂 WBC t PI 日 -図 3 入院後経過 [静脈血液ガ ス] [CBC] ( 噂 -表 1 入院時検査所見 0. 08 TP 6. 2 g ! d l Alb 4. 1 g ! d l AST 47 IU/ I PT% 71 .9 % ALT 1 4 UlI I APTT 5 5. 6 S e c LDH 514 IU/ I F i b 1 4 2 mg / d l CPK 29¥ 0 I U / I FDP 3 . 0 μ g / m l 1 4 IgA 36 34 32 m g / d l 6 1 .8 μg / ml CRE mg / d l AT- 4 9 . 8 % Glu 75 mg / d l PT% .9 71 % 人工自民気 __. 高Na血症 0 . 6 1 mg / d l D-dimer ーー ー与玉三ミこ三-;.;..品ミニエニニニニ二二二エ::-~ミミζニニユ~・Rミζー L 痘輩創園田・. . . p 娃固系] BUN 一 一 38 d 筋緊彊克進 ・ DDAVP PBMDZ L idocaine _ に説明した上で、家族の希望にて日齢 9にVP-shunt 術 を施行した。以降、痘筆・頭囲拡大は軽快を認めたが、 た。後日判明した染色体検査 G -banding!こて、染色体 術直後より中枢性尿崩症を発症し、日齢 1 6に経鼻デ ( 4 ; 5 ) ( p 1 5 . 2 ; p 1 5 .1)が確認された 。 異常 46,XX,t スモプレシンの投与を開始した。以降順調に経過し、 胸腹部レントゲン、心エコー、腹部エコーでは、明 図4 )、日齢 108 C図 5 ) に施行した頭部画像 日齢 48 C らかな異常を認めなかった。頭部エコーにて、水頭症 検査では水頭症の改善を認めた 。 その後、筋緊張の克 の所見を認めたため、入院後頭部 CT.MRI 検査を施 進は認めるものの痘撃はフェノバルビタール内服のみ 行した。頭部 CTでは、頭蓋内の大半を占める貯留液 にてコントロール可能となり、経鼻酸素投与、経口摂 を認め、頭蓋底部には脳実質と考えられる軟部影を認 取+経鼻胃管栄養の併用にて、日齢 1 7 2 !こ退院となる 。 めた。脳外科コンサル卜の上、頭部 MRI!こて、大脳 半球の左右分離を認めず、大脳鎌が存在しないことか ら、無分葉型全前脳胞症と診断した(図l.2 )。 図4 頭部 CT 図1 頭部MRI( T1W1冠状断) 図2 頭部MRI( T1W1矢状断) (冠状断:日齢48) 図5 頭部MRI(T1W1矢状断 日齢 1 0 8) 考察 全前脳胞症 C H o l o p r o s e n c e p h a l y :HPE) は、最も 入院後経過 頻度の高い脳奇形であり、発育途上の胎芽の 1 1 2 5 0、 入院後経過を図 3 !こ示す。入院後、輸液、酸素投与、 出生児の 1116000に生じるとされており、発生学的に フェノパルビタール坐薬投与にて加療を開始した 。経 は、脳の発生途上の第 3脳胞期から第 5脳胞期に移行 過とともに、頭囲は拡大傾向を示し、痘筆頻度の増加 する時期の前脳の発達に障害がある奇形の総称であり、 を認めたため、ミダゾラムを使用したが痘筆コントロー 前脳分割不全の程度により a l o b a rt y p eC 無分葉型)、 ルは不良であり、日齢 4よりリドカインを開始するこ s e m i l o b a rt y p eC 半分葉型)、 l o b a rt y p eC 分葉型) とでコントロール可能となった。しかし、頭囲拡大傾 に分類される。病因としては、母体の糖尿病、アルコー 向は続き、日齢 8 'こ中枢性無呼吸による呼吸停止を来 ル摂取、染色体異常、遺伝子変異などが報告されてお たしたため挿管となった。 当該疾患の予後につき十分 り、画像所見では、前頭葉皮質の正中部における非分 -2- 離が認められ、無分葉型においては大脳半球の左右分 り、顔面と脳所見の不一致が認められる点が特異であ 離がほとんどなく、単脳室であり、大脳鎌・脳梁の欠 り、本症例の経過が無分葉型にもかかわらず比較的良 損が特徴的である。合併症として、頭蓋顔面奇形、電 好であったことも含めて興味深いと思われた。 Gruss, 解質異常、難治性痘輩、体温調節障害などがあり、予 o l o p r o s e n c e p h a l yを 坂井らは、正常顔貌を呈するが h 後は脳奇形の重症度を反映し、無分葉型では不良とさ 伴う症例や、逆に顔面正中部の形成不全を呈するがh れている 2)3)。 o l o p r o s e n c e p h a l yを伴わない症例も存在することを報 HPEは前脳が左右の大脳半球に分離する過程の障 l f r e d o,有津らは h y p e r t e l o r i 告している 8) 9)。また、 A 害であり、この過程は中旺葉の正中・吻側部が顔面正 sm(両眼隔離症)を伴う全前脳胞症の症例を報告して 中部に分化する過程と相互に影響を及ぼしながら進行 おり 10)1k 顔面奇形と脳奇形の関係が必ずしも DeMy するため、通常、顔面正中部の低形成を伴うとされて e r・熊谷の分類に一致しないこともあると認識するべ いる 4)。 きであろう。 Demyerらは rThef a c ep r e d i c t st h eb r a i n J と銘 また細胞遺伝学的に町型を、正常染色体像を示す p 打ち、顔面奇形の程度により HPEを5型に分類し、顔 henotype1と、染色体像が D-trisomyを示す phenoty 面奇形が高度なものほど脳奇形は重症であり、生命予 p e l lに分類した報告もあり、前者では脳と顔面以外 後が不良であると報告した 5)。また、熊谷は正常顔貌 に他の奇形を合併することは少ないが、後者では多指 を示すが、 HPEおよび眼寓間距離の短縮を認めるも または合指症、小眼球症、心臓および他の臓器奇形な のを日型として追加した1)6)。 どを合併するとされている 12)。 顔面奇形の程度に関しては症例毎の差異が大きいた HPEの発生原因として、多数の病因が知られてい め、単眼症や象鼻といった明らかな顔面奇形がない場 るが、中では染色体異常や単一遺伝子変異など遺伝因 合も、眼寓間距離の測定により h y p o t e l o r i s m(眼の異 子の比重が大きいといわれている。 HPEは 、 1 3トリ 常な接近)を証明することが全前脳症の診断を行うう ソミ一、 1 8トリソミー、 SmithLemliO p i t z 症候群な えで重要であるといわれている 7)。 どの疾患に合併することが知られているが、同時に遺 上記分類を表 2 に示す。一般に顔面奇形の高度な 2 ) 伝子病としての家族性 HPEの存在も知られており、 I-N型においては、無分葉型全前脳胞症を示し予後 0以上が報告され その遺伝子座位としてこれまでに 1 不良とされている。また、顔貌がほぼ正常である V I型 ている 13)。しかし、本症例で認めた染色体異常 46, XX, においては、分葉型 t ( 4 ; 5 ) ( p 1 5 . 2 ; p 1 5 .I)を有する HPEの報告は、我々が検 半分葉型全前脳胞症を示し、予 索しえた限りでは認めなかった。 後は比較的良好とされている。 -表2 全前脳胞症の分類 (DeMyer・熊谷の分類の改 1)熊谷公明:基礎的研究無嘆脳症の発育と病理 変:胎児・新生児の神経学より) 艮 目 単眼症 単眼 無鼻 H型 象鼻を伴つ 極端な 無鼻 E t h m o c e p h a l y た猿頭症 眼問狭小 象鼻 猿頭症 限問狭小 象鼻様 正中裂 l 正中暦裂 眼問狭小 平坦な鼻 正中裂 眼問狭小 平坦な鼻 I型 C y c l o p i a E型 唇 附 無分葉 WI 由m e d i a n p h i1 t r u mp r e m a x i l l a 人中、前上顎 a n l a g e 原基残存 V I型 正常 眼問狭小 2 6 3 3, 1969 無分葉 2) 家 島 厚 , 栗 政 明 弘 : 中 枢 神 経 系 奇 形 の 分 類 お 無分葉 1993 よび遺伝.胎児・新生児の神経学:306324, 正中裂 無分葉 3) 松 尾 雅 文 : 分 子 遺 伝 学 か ら み た 新 生 児 疾 患 全 人中、前上顎 半分葉 原基残存 分葉 正常 半分葉 ・ c l e 抗l i p V型 正常:日本人小児眼寓間距離.日本小児科学 会雑誌 73 巻6 号 象鼻 C e b o c e p h a l y N型 w i t hm e d i a n 組 織 学 的 研 究 第 1編 無 嘆 脳 症 の 臨 床 月 歯 顔貌 鼻 【文献】 N e o n a t a lCarelO巻2号 :7 4 7 7, 1997 前脳症 . 4)水口 雅:脳形成異常の発生機序と予防.日本未 6 巻1 号 :9 1 7, 2004 熟児新生児学会雑誌 1 分葉 5) DeMyerW,ZemanW,Palmer C :The f a c e 本症例は、最重症の無分葉型全前脳胞症であるが、 p r e d i c t st h eb r a i n ;d i a g n o s t i cs i g n i f i c a n c eo f median f a c i a l anomalies f o r 顔面奇形は眼高間距離の短縮を認めるのみの羽型であ -3- h o l o p r o s e n c e p h a l y ( a r h i n e n c e p h a l y ) :P e d i a t 34:256・263, 1964 r i c s, 6) 熊 谷 公 明 :Holoprosencephalyの臨床的重要性. 脳と発達 3 巻5 号 :2842, 1971 ・ 7)春木篤,青山美加,菊地紫津子:染色体異 常を認めた全前脳症の 1 例.日産婦神奈川会誌 36 巻 1 号 :4 3 4 7, 1999 8) Gruss ,J . S,Matthews,D.N:Median c e r e b r o f a c i a ld y s g e n e s i s;The syndromeo f medianf a c i a ld e f e c t swithh y p o t e l o r i s m .C l e f t P a l a t eJ,15:365368, 1978 ・ 9) 坂 井 靖 男 , 大 原 義 雄 , 井 上 裕 史 : 顔 面 正 中 部 1巻 : 形成不全を呈する唇裂について.日形会誌 1 1 9 9・208, 1991 1 0 ) Al f r e d o CR,J.Roman CR,Lucina B M:Holo p r o s e n c e p h a l y, Hypertelorism, and E c t r o d a c t y l y i naBoyWithanApparentlyBalancedD Novot ( 2 ; 4 ) ( q 1 4 . 2 ; q 3 5 ) .Ame r i c a nJournalo f 2000 MedicalG e n e t i c s,90:423426, ・ 1 1 ) 有 津 正 義 , 林 子 耕 , 中 山 雅 弘 :Hypertelo・ rismを伴った Holoprosencephalyの1例.産婦人科 治療 6 2巻 3 号 :359 ・3 63, 1991 1 2 )荻 野 晶 弘 , 大 西 清 , 稲 見 文 彦 : 全 前 脳 胞 症 を伴う正中唇裂の 1 例.日形会誌 22巻 :579582, 2 ・ 002 1 3 ) 水口 雅:脳の形成異常をきたす遺伝子.脳の科 学 24 巻 :7 61・768, 2002 -4-