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Japan Railway
Japan Railway
2011/12/13
東日本旅客鉄道
早稲田大学商学部 4 年広田真一ゼミナール 中田 祐一郎
株式コード:9020
投資推奨:BUY
価格(2011/10/6 現在):4,780 円
目標株価:5,921 円
ハイライト
・投資判断:現在株価 4,780 円は、エンタプライズ・ディスカウント・キャッシュフロー法(以下 DCF 法)
による東日本旅客鉄道(以下、JR 東日本)の目標株価 5921 円に対し、約 23.9%の割安水準にあるため’’BUY’’
を推奨する。*東京圏を主な収入源とする同社の運輸業が、人口の堅調な推移を背景に安定的な収益を確保。
電子 IC カード Suica を始めとした FA 化の影響もあり人件費が大幅に減少。以上2点より駅・駅周辺の開
発と在来線の強化に向けた莫大な設備投資が可能となる。またこの投資により駅利用者が増加し、更に鉄
道利用者を取り込めると予想した。こうした一連の好循環により、今後も豊富なキャッシュを捻出出来る
とし、現在の株価は割安水準にあると判断した。
・事業戦略:運輸業(2011/3 売上高比率 68%)の安定した収益を背景に、東京圏を中心とした、駅中・
駅周辺の再開発に着手。その影響もあり駅・スペース活用事業やショッピング・オフィス事業は、ここ 10
年好調を維持してきた。一方運輸業収入は 2011 年 3 月に発生した東日本大震災の影響を受け、一時前年度
比 32.5%減まで落ち込んだ。しかし、同社の特徴である豊富な資金力と日々の安全への取り組み、震災後
の早急な対応により 2011 年 10 月期の運輸業収入は前年度比を上回った。(Exhibit:4 参照)今後も安定した
鉄道収入を軸に、駅内外の再開発、ローカル線利用のための観光創出、そして海外進出・拡大を目指す。
・業界動向:全国的な人口減少の影響から、地方の鉄道利用は近年減少傾向が続いている。特に JR 九州
や JR 四国は、アジア系観光客の減少や高速道路料金値下げの影響が大きい。一方で東京圏を主軸とする
同社や私鉄は、都市部の人口集中の恩恵を受け鉄道利用者を確保。1980~1990 年代は、各社路線拡充によ
り顧客の奪い合いや運賃の値下げ競争が盛んに行われていた。しかし 2000 年代に入ると、鉄道網の充実に
より路線の拡充が困難になった。それに伴い、最近では各社*相互直通運転による利用者増加を図っている。
2010 年以降、業界全体が格安航空機導入や国策による高速道路の一部料金値下げの影響を被る可能性があ
る。
財務状況と業績見通し:鉄道事業の安定した収益と Suica を中心とした相次ぐ*FA 化による人員削減によ
って、営業利益率が順調に向上。潤沢な設備投資により駅・駅周辺開発が今後も行われることで、駅利用
者の増加が見込まれる。以上から今後も長期的に収益が安定化すると予想される。
*東京圏:東京・神奈川・千葉・埼玉の一都三県を指す。*相互直通運転:都心や副都心への旅客輸送需要に応えるため,
複数の鉄道会社間で相互に相手の路線に電車を直通運転すること。
*FA 化:Factory Automation。工場やシステム管理の自動化のこと。
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Figure:1
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日時株価推移
事業内容
株式会社 JR 東日本は、日本国有鉄道(国鉄)から鉄道事業を引き継いだ旅客鉄道会社の一つである。東
北地方全域、関東、甲信越地方の大部分、静岡県の一部地域を営業区域とし、JR グループの中で最も企業
規模が大きい。同社は、山手線や東海道線など東京圏を中心に広範囲な鉄道ネットワークを保持している。
また他事業である駅・スペース活用事業やショッピング・オフィス事業など、魅力的な商業空間を生み出
すことで、駅の価値最大化を図っている。2000 年 11 月からは電子 IC カードの Suica を導入。現在ではカ
ード発行数 3500 万枚を突破し、今なお多くの鉄道利用者に使用されている。現在ではその用途は多様なも
のとなり、同社の業務の簡素化や人件費削減にも影響を与えている。
運輸業:鉄道事業とモノレール鉄道業、バス事業を展開している。中でも鉄道事業は、東京圏を含む本州
の東半分を営業エリアとし、東京から 5 方面の地方都市を結ぶ新幹線輸送、関東圏輸送、都市間・地域輸
送を行っている。営業キロ 7512.6km、営業収益 1 兆 7219 億円は国内最大である(2010)。 これらを中心
として、羽田空港へアクセスするモノレール鉄道業や各駅からの路線バスや高速バス、貸切バスのバス事
業を行っている。
駅スペース活用事業:上記の鉄道利用以外にも顧客の多様なニーズに対して、駅構内や駅周辺・列車内に
おいて、駅の売店「KIOSK」やコンビニエンスストア「NEWDAYS」、車内販売をはじめ、小売・飲食な
どの様々な店舗を展開している。近年では「Ecute」や「Dila」のような、いわゆる「エキナカ」ビジネス
を促進。駅構内に商業空間を生み出すことで、利用者の利便性を追求している。
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ショッピング・オフィス事業:駅や駅周辺用地といった好立地な経営資源を活用するため、ファッション
や生鮮食品、日用品を主体とした生活密着型のショッピングセンターを開発している。駅スペース活用事
業と差別化することで、改札外であるが駅からすぐ購買が可能な「エキソト」ビジネスを確立した。その
品揃えや利便性により 2001 年以降、10 期連続増収増益と好調を維持している。(Exhibit:5 参照)今後も JR
南新宿ビルや桜木町駅開発など、好立地な場所での大型投資案件が控えており収益増が見込まれる。
(Exhibit:6 参照)
業績ドライバーの選定
同社は長期経営計画において、今後も駅再開発を中心とした非運輸業と在来線対策の設備投資を増加さ
せていくと明言している。
同社の設備投資額は 2010 年度 4347 億円であり、
これは同業他社(JR 西日本 1639
億円/東急電鉄 454 億円:2010 年度)に比べ非常に多額となっている。
この莫大な設備投資を可能にするのが、
1 兆 5000 億円を超える安定した運輸業収入である。よってこの運輸業収入の確保が今後の JR 東日本の成
長の行方を決めると判断。さらに運輸業の中でも新幹線収入は過去 10 年間路線の延伸や開通があったもの
の、収益に大きな変化は見られなかった。一方、運輸業収入全体の約 7 割を占める在来線収入が今後どの
ように増減するかが重要であるため、この在来線収入を同社の業績ドライバーとして予測を行う。
業界見通しと競争上の位置づけ
同社が注力する在来線収入は、新型感染病による出控えや高速道路の料金値下げによりここ数年は減少
傾向にあるものの、東京圏を中心に堅調に推移してきた。(Exhibit:7 参照)特に通勤・通学による定期収入
の影響もあり、JR 他社に比べ収益構造も安定している。また収益源である東京圏は鉄道網が非常に発達し
ており、自動車利用に比べその利便性・スピードを武器に集客力が高い。私鉄各線に対しても路線位置に
よる差別化が図られており、また相互直通運転による共同策により顧客の奪い合いは今後さらに減少する
と考えられる。ただ国内の鉄道市場全体で見ると、日本の全体的な人口減少の影響もあり成長は徐々に止
まると予想される。
SWOT 分析
総評:有利
同社は山手線や東海道線など、収益性の高い路線多く保持している。また、こうした路線
の中で特に乗り換えが多い駅や不特定多数の乗客が行き来するターミナル駅に LUMINE や Ecute といっ
た商業空間を創出。鉄道利用者の快適性を促進すると同時に駅での購買活動を盛んに行わせる狙いが功を
奏しており、他社に比べ圧倒的な利用者を確保している。以上より有利と判断した。(Exhibit:9 参照)
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内部要因
強み
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・運輸業の安定した収益
・好立地な駅を利用した幅広いビジネス展開
・鉄道と商業空間利用のシナジー
外部要因
弱み
・赤字ローカル線の維持
機会
・人口の都市部集中化
脅威
・他輸送機関の料金値下げ
・海外進出による業績の変動
強み(Strengths)
運輸業の安定した収益:同社は毎年 1 兆 5000 億円を超える運輸業収入を生み出す。多くのビジネスマン
や通学者が集う東京圏に多数路線を確保していることが収益の一番の理由である。この安定した収入によ
り、他事業への投資が何千億という単位で可能となる。
好立地な駅を利用した幅広いビジネス展開:JR 東日本の駅では、一日に 50 万人以上乗降する駅が幾つも
ある。その顧客力を武器に、単なる鉄道利用のみならず駅スペースを活用することで、鉄道利用者に購買
活動を促すことが可能である。駅を利用するだけで生活雑貨や飲食物を購入出来ることは、利用者にとっ
ても非常に魅力的であると言える。
鉄道利用と商業空間利用のシナジー:上記二つの強みにより、鉄道利用者による購買活動と購買活動のた
めの鉄道利用の二つの側面から更なる集客を可能とする。乗り換えが多い駅や都市玄関口など、人が多く
集う駅に大きな商業空間を創出することで、駅を中心に一つの街を形成している。
弱み(Weakness)
赤字ローカル線の保持:同社の一つの特徴は、東京圏の強力な高収益路線の収益により赤字ローカル路線
を補填するという構図にある。近年、地方を中心とした過疎化の影響によりローカル線の赤字幅が悪化。
今後は地方の観光需要の促進に取り組む一方、鉄道維持が極めて困難な場合は路線を廃止し同社グループ
を事業主体とするバスの導入など、財務体質の健全化を図る。
機会(Opportunity)
人口の都市部集中化:全国的に人口減少の傾向は今後も継続するが、それに伴い東京圏への人口流入が増
加する可能性がある。もし現在の推移を超えて流入が加速した場合、在来線収入とそれに並行して非運輸
事業の収益拡大が予測される。
脅威(Threats)
他輸送機関の料金値下げ:同社の長期経営計画によると、今後 5 年間は運賃値上げを行わないと明言して
いる。しかし LCC(格安航空会社)や高速道路料金値下げなど、他輸送機関の影響により利用客が減少す
る可能性が考えられる。
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海外進出による業績の変動:海外進出の可能性を視野に入れており、2011 年 11 月に海外向けコンサルテ
ィング会社を設立するなど、海外高速鉄道の受注に向けた動きは加速すると予想される。これらの施策に
より業績が左右される可能性が挙げられる。
5forces 分析
事業内容で述べた通り、同社の業績ドライバーは在来線運輸収入である。そこで在来線運輸収入の業界
内の立ち位置、及び競争優位性を考察する。
新規参入の脅威
業界内競争
代替品の脅威
弱い ・鉄道建設に掛かる設備投資が非常に高い
弱い ・路線位置による差別化が図られている
強い ・格安航空会社や高速道路料金値下げの存在
買い手の交渉力
弱い ・安全性・スピード・正確さにより、通勤通学を中心として今後も安定的に利用者を確保
売り手の交渉力
弱い ・自社でも車両・システムの開発を行っている
総評:有利
鉄道事業は巨額な設備投資が掛かり、どの地域でも路線の拡充が困難なため新規参入は非常に難しい。
また、同社は好立地な土地に多くの路線を保有しているため、季節・時期に関わらず安定的に利用客が多
い。鉄道市場全体では人口減少の影響を受けるが、東京圏では近年の人口流入と今後 10 年間の人口動向予
想により(Exhibit:8 参照)同社収益も安定的な推移を見せると予想。利用者層は今後高齢者が増える見通し
であるが、高齢者向けの対策も多数行っている同社にとって、十分な競争優位性を発揮できていると判断
した。
新規参入の脅威
「弱い」:鉄道を敷設するコストが非常に高く、2008 年開業の東京メトロ副都心が「都内最後の地下鉄」
と言われるように、新路線の開拓は非常に困難である。地方での参入は費用対効果により厳しく、お台場
りんかん線のように埋立地に商業施設を生み出し、交通手段を創出することも考えられるが、同社にとっ
て脅威にはなりえないと判断。
業界内競争
「弱い」
:上記でも述べたが、各社共に路線を確立しており、東京圏は路線飽和状態にあるため既に棲み分
けが出来ている。各鉄道会社共に限られた路線の中で、混雑率の減少・魅力的な駅への変貌・他社との相
互直通運転により集客を図っている。今後も 2000 年代以前の顧客を奪い合う競合から、各社共同への流れ
が加速すると考えられる。
代替品の脅威
「強い」
:高速道路の料金値下げや格安航空会社の参入は、同社の鉄道利用者減にかなりの影響を与えるだ
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ろう。一見長距離輸送である新幹線のみに限定的な影響があると考えられるが、在来線は新幹線利用の前
後にも使われることが多く、波及的な影響を受ける可能性が強い。
買い手の交渉力
「弱い」
:東京圏を移動する際に安全性・スピード・正確さとどの観点から見ても鉄道は必要不可欠である
ため、鉄道業界は強い競争力を持つと考えられる。特に同社は大学や企業が集まる地域に路線を構えてい
ることから、多くの通勤・通学者にとって魅力的な交通手段となる。また競合他社と比較しても、やはり
乗降人数の多い駅を数多く保有しており(Exhibit:9 参照)、さらにそうした駅に商業空間を作り出すことで、
利用者の確保が出来ている。
売り手の交渉力
「弱い」
:自動列車制御装置における開発や米国に対する高速鉄道の売り込み時、川崎重工や日立製作所の
車両メーカーと協力関係を築いてきた。ただ同社は 2011 年 10 月に東急車両製造株式会社を買収し、自社
での車両製造に注力する姿勢を示していることから、車両メーカーの存在感は軽薄化する可能性が強い。
投資サマリー
投資判断とその根拠:現在株価 4.780 円は、DCF 法による目標株価 5,921 円に対し約 23.9%の割安水準に
あるため’’BUY’’を推奨する。東京圏の人口流入による在来線収入の安定的な収益と、FA 化や高年齢社員の
退職による人件費の削減により、駅・駅周辺再開発などの非運輸業と在来線強化に対する設備投資額を確
保。更なる鉄道利用者が増加することを勘案し、現在の株価は割安だと判断した。
鉄道事業の安定した収益の維持:同社は山手線や東海道線など、東京圏の収益性が高い路線を数多く保持
し、安定的な収益を確保している。今後も東京圏の人口流入に伴い鉄道利用者の減少に歯止めがかかり、
在来線は安定的に推移すると判断。
鉄道と駅・駅周辺ビジネスによるシナジー:通勤・通学や乗り換えの間の「すきま時間」を狙うことで、
鉄道利用者に向けた購買活動を促進させている。具体的には、不特定多数の乗降客が行き来するターミナ
ル駅や大型乗り換え駅に商業空間を展開することで、鉄道利用者による購買活動と購買活動のための鉄道
利用という 2 つの側面を生み出している。
人件費削減による財務体質の健全化:1987 年の同社発足以来、過剰な従業員数は最重要課題の 1 つであっ
た。しかし、2001 年の電子 IC カード Suica の導入や自動列車制御装置の高度化により、人員に頼らずサ
ービスの質を上げるマネージメントが可能となった。また社員年齢構成割合(Exhibit10 参照)を見ても分か
るように、2007 年時点で 49 歳以上の社員数が圧倒的に多く、今後も社員数の減少により人件費は減少局
面を迎え、健全な財務体質を確保できると判断。
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バリュエーション
企業価値算定にあたって同社にとってインパクトの大きい「売上高」「人件費」「設備投資額」の予測を中
心に行った。2011 年度以降 10 年間の営業利益予測から算出した営業 FCF と 10 年後時点での継続価値を
加重平均資本コスト(以下 WACC:3.77%)で割引、理論株価を算出した。結果同社の目標株価は 5921 円と
算出された。
*DCF 法による目標株価算出:DCF 法を用いて目標株価を算出するにあたり、以下のステップを踏んだ。
まず、各事業の売上高予測から全社予測を行う。次に販間費及び一般管理費の予測から、人件費の将来予
測を特に精緻に行った。続いて同社の軸である設備投資額を過去の変動を元に予測。そこから営業フリー
キャッシュフロー(以下、営業 FCF)を算出した。最後に WACC で割引き、同社の目標株価を算出した。
(Exhibit:11 参照)
設備投資額について:同社の今後の成長の鍵を握るのは、在来線運輸収入から得られる約 4000 億円もの
設備投資額である。これにより同社の成長事業への投資が可能となり、持続的な収益を獲得することが出
来る。震災後の経営計画では 2012 年度の設備投資額が前年度比 14%減と、下方修正される見込みだが、
翌年以降も在来線・非運輸事業を中心に設備投資額を増加させると明言している。運輸業の安定的な収益
により投資額も確保出来ると判断。そのため過去 5 年間の平均設備投資額前年度比と、過去 10 年間の平均
設備投資額前年度比を平均したものを 2013 年度以降毎年採用している。(Exhibit:12 参照)
財務諸表分析
利益分析:同社は運輸業を中心に常に豊富なキャッシュを保持してきた。(Exhibit:13 参照)新型インフル
エンザや高速道路一部無料化の影響で、運輸業収益が悪化した際も、他事業の伸びでカバーしてきたため、
過去 10 年間見ても売上・利益に大きな変化は見られない。確かに、2011 年 3 月に発生した東日本大震災
の影響を受け、収益性・キャッシュフローは一時悪化する見込みである。しかし震災から 7 か月経った 10
月の運輸収入は、前年度比の水準を超えるなど高い回復力を見せている。2013 年度以降も在来線収入の堅
調な伸びや、高い利益率を誇るショッピング・オフィス事業の展開から利益率が回復・向上すると判断。
収益性及び効率性:同社は、山手線や東海道線といった他社路線に比べ好立地な路線を多く保有し、鉄道
利用だけでなく商業空間を駅内外に創出することで営業利益率を実現してきた。(Exhibit:14 参照)今後、
これに FA 化によるコスト削減が加わることで、さらに高い利益率を獲得出来ると予想される。一方で効
率性の指標に関しては、類似企業に対して優位性は確認できない。(Exhibit:14 参照)つまり同社が運輸業
を中心とした高い収益力を保持し、また人件費などのコスト対策により利益率が高いと判断出来る。
*DCF 法による目標株価算出について(各項目予測方法)
β:2011/11/11 付けの Bloomberg より取得
リスクプレミアム:データ取得期間である 1972~2010 年までの配当込み TOPIX の年次収益率から 10 年物国債利回り
を控除し、算出された値を対象期間で平均し算出した。
永久成長率:収益軸である東京圏の在来線収入は安定的に推移するものの、人口減少による鉄道市場全体の縮小により
成長は鈍化すると判断。よって、同社の永久成長率として 0%を採用。
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安全性:同社は、ここ数年設備投資が増加傾向にあるのに対し、長期負債(鉄道施設購入長期未払い金)が徐々
に減少している。D/E レシオも基準となる1倍を上回っているものの、長期負債の減少に伴い徐々に下が
ってきている。(Exhibit:15・16 参照)今後も安定的な収益を軸に長期負債を減少させていく方針であり、
D/E レシオは 1 倍を下回ることが予想される。
キャッシュフロー分析:同社は東日本大震災後の経営計画において、今後も「在来線」と「非運輸事業」
の成長事業に投資を行うことを明言している。これまで在来線強化・駅再開発など多くの設備投資を行っ
てきたが、常に安定的なキャッシュ獲得を実現してきた。今後も好立地な駅を中心に効率的な投資を行え
るかが鍵となるだろう。
資金調達と設備投資:同社は旧国鉄から発足する際、過剰な従業員数と莫大な長期負債を抱えての船出で
あった。従業員数に関しては上述した通りであるが、長期負債に関しては、発足以来順調に返済し続けて
きた。(Exhibit:16)今後も少しずつ減少していくと予想される。
業績見通し
売上高予測
売上高の予測は事業毎に分けて行い、また運輸業に関しては在来線収入と新幹線収入に分けて分析した。
特に業績ドライバーである在来線運輸収入をメインに分析した。同社は 2010 年度経営計画において、18
年度 3 月期には売上高 31,000 億円
営業利益 6,700 億円を達成すると掲げていた。しかし、高速道路の料
金値下げや景気後退による出控え、そして今回の東日本大震災が影響し経営計画の見直しを迫られた。震
災の影響が今後どれほどインパクトを与えるかが鍵とされているが、日々の安全面への投資が功を奏し、
上記で述べた通り 2011 年度の運輸業収入は、既に前年度水準に達している。よって今後は、非運輸事業の
成長分野への投資と在来線の強化により、2013 年度以降も堅調に売上・利益共に増加することが期待され
る。売上割合を見ても、やや非運輸事業の比率が高くなるものの、引き続き在来線運輸業収入が牽引して
いくだろう(Figure:2 参照)
Figure:2 全社売上高予測
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【在来線運輸収入】
在来線運輸収入の中でも、在来線運輸定期収入と在来線運輸定期外収入で分けて予測した。通勤・通学者
の定期的な収入と、それ以外の収入で安定性や利用年齢層の差異があるからである。
在来線定期収入:東京圏の過去の人口推移と過去の在来線定期収入が非常に高い相関関係(95.5%)が見られ
たため、この将来推移を反映させて売上を算出した。(Exhibit:17 参照)同社の在来線収入の 65%がこの東
京圏内のものであり、今後も人口流入により東京圏の収益が主軸となる同社にとって、この人口推移を反
映させるのは妥当であると考える。
在来線定期外収入:東京圏の過去の老年人口(65 歳以上)の推移と非常に高い相関関係(88.12%)が見られた
ため、この将来推移を反映させて売上を算出した。(Exhibit:18 参照)定期収入は、生産年齢人口(15~64 歳)
による通学や通勤時の定期利用によるものである。また、休日どこかに出かける際もなるべく定期内の路
線を利用する方が費用を軽減出来るので、定期を利用すると考えられる。一方定年を迎えた老年の方は、
定期を使用しているケースが非常に少なく、必要な時に乗車券を購入する。よって、定期外収入がお年寄
りの増減によって変動することは妥当であるため、この推移を使用した。また業績ドライバー以外の売り
上げ予測は(Exhibit:19 参照)に掲載している。
営業費用の予測
人件費:同社の今後の財務体質に大きく影響を与えるのが、この人件費である。JR 東日本発足以来、過剰
な従業員数は同社の抱える悩みの種であった。また Suica を代表とする FA 化の動きにより人件費は減少
傾向にあるものの、2011 年時点で JR 東海の 4.1 倍である 73,000 人の従業員を抱えている。しかし、社員
構成割合(Exhibit:10 参照)を見ても分かるように、今後退職者数が増えることで、人件費は大幅に減少す
ると判断。具体的には、社員数や退職給付債務の減少により 2008~2011 年の 3 年間で人件費が 550 億円減
少しており、また社員数の減少だけで 140 億円減少している。2018 年まではこの 3 年間とほぼ同様の退職
者数が予想されるので、3 年おきに 140 億円減少させている。さらに、2019 年以降は、退職者数が 1.52
倍になるため、3 年おきに 213 億円減少させ、予測した。また自動無人運転や工場の夜間無人作業にも注
力している同社は、2008 年以降採用数をほぼ一定とする方針を立てている。(Exhibit:22 参照)
その他関連事項
(other headings relevant to Company)
東日本大震災の影響について:東日本大震災は、2011 年度 3 月 11 日宮城県牡鹿半島の東南東沖 130km の
海底を震源として発生した。東北新幹線や在来線、津波を受けた 7 線区の総被害個所数は約 7,280 箇所に
上り、同社も甚大な被害を受けた。しかし、震災直後からの早急な対応や JR 東海や JR 西日本を始めとす
る JR 各社の協力の下、1 ヶ月後の 4 月 4 日時点での復旧進捗率は 80%を超えた。それ以降も順次復旧作
業が行われ、直近の状況は既に上述した通りである。今回の震災による訪日外国人の減少、点検見合わせ
中の収入減は確かに大きく業績を悪化させた。しかし同社にとって、この影響は東北地域の復旧度を見る
限り限定的なものである。むしろ震災後の東北地域における訪問者数増加により、新幹線などの長距離輸
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送収入は短期的には増加している。今後、新たな地方活性化に向けた取り組みを進めていく方針である。
海外進出の可能性:新興国のインフラ需要、特に近年の高速鉄道の普及により、同社も海外に対するシス
テム・技術提供の検討を進めている。2011 年 4 月には各国鉄道発展への貢献として、同社を中心に海外鉄
道コンサルティング会社を設立している。過去にもベトナム鉄道基本設計に同社社員を動員。海外展開を
促進出来る人材を養成するなど、海外案件の獲得に向けた動きを行っているが現時点での成果は未だ出て
いない。しかし今後この動きが加速する場合、国内の設備投資額や施策にも影響を与える可能性がある。
地方ローカル線の取り組みについて:保有する東京圏の路線は乗客人員も多く、同社の売上を支える一方、
地方のローカル線では近年加速する過疎化の影響を受け、赤字路線が数多く存在している。ただ同社の方
針としては地元住民の声を大切にしており、赤字路線を廃止にする予定はない。むしろ観光需要の創出に
よる地方ローカル線黒字化に向けた、積極的な取り組みを行っている。またどうしても路線の維持が困難
な場合でも、同社グループのバス会社により交通手段の確保を行う。以上から、いかに地方路線を一つで
も多く黒字化出来るかが鍵となる。
リスク要因
他輸送機関の影響:同社は 2009 年以降、高速道路料金値下げの影響を受け続けてきた。この施策は 2011
年 6 月に一旦終了を迎えたため、収入の回復が見込まれる。しかし、政府による東北地方の高速道路全面
無料化という政策が現在検討されている。この政策が実施された場合、半期で 100 億円程度の減収につな
がるため、業績を下げる要因になり得る。
天災リスク:2011 年 3 月に起きた、東日本大震災などの大型な地震や台風が起こった際、同社の運輸収入
に大きな影響を与える。また 2009 年に流行した新型インフルエンザのように、感染病が発生した場合も出
控えや公共輸送機関の利用減により打撃を受ける可能性が考えられる。
運転事故による信頼低下:2005 年に起きた JR 西日本福知山線脱線事故や JR 東日本羽越本線列車事故な
どの脱線・衝突事故により、同社輸送機器の信頼低下が起こる恐れがある。またそれに伴い、他輸送機関・
他社路線の利用増を促す可能性がある。
景気リスク:通勤・通学などの安定的な定期収入に対する影響は軽微だが、定期外収入の減少や新幹線利
用の抑制が促される。またお年寄りの利用が多いグリーン車などの特急券にもマイナスの影響が考えられ
る。
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対応図表一覧
Exhibit 1 貸借対照表
Exhibit 2 損益計算表
Exhibit 3 キャッシュフロー計算書
Exhibit 4 東日本大震災後運輸収入
Exhibit 5 ショッピング・オフィス事業
Exhibit 6 今後の主な投資案件
Exhibit 7 在来線収入売上高
Exhibit 8 東京圏の人口推移
Exhibit 9 乗降人数の多い駅数
Exhibit 10 社員構成割合
Exhibit 11 DCF 法
Exhibit 12 設備投資額推移
Exhibit 13 FCF 推移
Exhibit 14 営業利益率,ROA,ROE
Exhibit 15 D/E レシオ
Exhibit 16 長期負債の推移
Exhibit 17 在来線定期収入予測
Exhibit 18 在来線定期外収入予測
Exhibit 19 その他売上予測
Exhibit 20 駅・スペース事業と在来線売上の相関
Exhibit 21 ショッピング事業と在来線定期収入の相関
Exhibit 22 人件費予測
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Japan Railway
Exhibit:1 貸借対照表
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Japan Railway
Exhibit:2 損益計算書
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2011/12/13
Japan Railway
Exhibit:3 CF 計算書
14
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Exhibit:4 東日本大震災後運輸収入
(%)
10
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
震災前後の鉄道収入
(前年度比売上高)
*同社HPより
Exhibit:5 ショッピング・オフィス事業売上高・営業利益
(10億)
ショッピング・オフィス事業
250
200
150
100
売上高
営業利益
50
0
15
*同社HPより
Japan Railway
Exhibit:6 今後の投資案件
Exhibit:7 在来線収入売上高
16
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Japan Railway
Exhibit:8 東京圏の人口推移
Exhibit:9 乗降人数の多い駅数
17
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Japan Railway
Exhibit:10 社員構成割合
Exhibit:11 DCF 法
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Japan Railway
Exhibit:12 設備投資額推移
Exhibit:13 FCF 推移
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Japan Railway
2011/12/13
Exhibit:14 ROE,営業利益率,ROA
営業利益率
20%
16%
12%
8%
4%
0%
2005
2006
2007
JR東日本
ROA 比較
7%
6%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
2005
2006
2007
JR東日本
20
2008
2009
他社平均
2010
2011
2008
2009
他社平均
2010
2011
Japan Railway
2011/12/13
Exhibit:15 D/E レシオ
D/Eレシオ
2.00
1.60
1.20
0.80
0.40
0.00
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
Exhibit:16 長期負債推移
長期負債推移 (鉄道施設購入長期未払金)
(10億)
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
1996
21
1999
2002
2005
2008
2011
Japan Railway
2011/12/13
Exhibit:17 在来線定期収入と東京圏の人口相関
456
454
y = 0.0228x - 347.07
R² = 0.9553
452
450
448
446
444
442
440
438
34400
34500
34600
34700
在来線定期収入
34800
34900
35000
35100
35200
線形 (在来線定期収入)
Exhibit:18 在来線定期外収入と東京圏の老年人口相関
710
y = 0.0298x + 484.85
R² = 0.8812
700
690
680
670
660
650
640
5000
5500
6000
在来線定期外収入
22
6500
7000
線形 (在来線定期外収入)
7500
Japan Railway
2011/12/13
Exhibit:19 その他売上予測
新幹線(定期)
・新幹線の定期を使用する年齢層は、在来線同様通勤・通学や定期
的な出張など、主に生産年齢人口(15~64 歳)である。しかし、2005
年から 2010 年にかけて生産年齢人口が東日本エリアで毎年 3%減少
しているにも関わらず、過去 5 年間の売上はほぼ横ばい。さらに遡
り、新幹線が開業した年や延伸した年を見ても売上に変化はなかっ
た。そのため 2012 年度のみ震災の影響で売り上げが減少するも、
2013 年度以降は一定とした。
新幹線(定期外)
・観光客の利用が大部分を占めている。2002 年に盛岡-八戸間の開
通を行うも、売上に影響はなかった。ただ最近では「大人の休日倶
楽部」や「デスティネーション・キャンペーン」など東北地方の観
光需要の喚起が行われている。全線 1 日 1 万円で乗り放題の「JR
東日本パス」を発行するなど、新幹線利用の促進に注力している。
東日本大震災の影響で 2012 年度は苦しい状態が続くが、早期復興
の目処が立っており 2013 年度以降は徐々に回復すると判断。阪神
淡路大震災の際、JR 西日本の新幹線定期外収入が 1 年で 167 億円
減少したことから、それを元に 2012 年度の売上を予測した。その
後は高齢者人口増に伴い、同社が強化する 50 歳以上の会員制倶楽
部などの高齢者商品が順調にシェアを伸ばし新幹線利用に結び付く
と判断した。
駅・スペース活用事業
駅・スペース活用事業は、在来線全体の売上高と強い相関関係
(89.16%)にある(Exhibit:20 参照) よって、今後も在来線売上高の推
移を反映させる。同事業は「エキナカビジネス」と呼び名があるよ
うに、コンビニエンスストア「Kiosk」や「Newdays」といった改
札内のスペースを活用したビジネスである。つまり、鉄道利用者が
乗降する際に利用する傾向が強いため在来線売上に反映させて推移
させるのは妥当であると考えた。
ショッピング・オフィス事業
同事業は、大宮・新宿・横浜・仙台など乗り継ぎの多い駅や不特定
多数の人が集まるターミナル駅に隣接する形で、ショッピングビル
を建設し、運営するいわゆる「エキソトビジネス」である。人が集
う駅に構えていることから、通勤通学のついでに利用する顧客が非
常に多い。実際在来線の定期収入の売上推移と相関(82.98%)がある
ことが判明。(Exhibit:21 参照)よって 2012 年度以降も在来線定期収
入の伸びを反映させた。
23
Japan Railway
Exhibit:20
2011/12/13
駅・スペース活用事業と在来線合計売上の相関
1160
1150
y = 1.1365x + 683.94
R² = 0.8916
1140
1130
1120
1110
1100
360
370
380
390
駅スペース活用事業売上
Exhibit:21
400
410
線形 (駅スペース活用事業売上)
ショッピング・オフィス事業と在来線定期収入の相関
230
220
210
200
190
180
170
160
150
y = 3.1434x - 1207.2
R² = 0.8298
438
440
442
444
446
448
450
452
ショッピング・オフィス活用事業売上"
線形 (ショッピング・オフィス活用事業売上")
24
420
454
456
Japan Railway
Exhibit:22
2011/12/13
人件費推移
(100万)
人件費推移
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
2002
25
2005
2008
2011
2014
2017
2020
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