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プラトン「国家」第七巻

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プラトン「国家」第七巻
2009/08/29
『国家(下)』(プラトン著、藤沢令夫訳、岩波文庫)
プラトン「国家」第七巻
立命館大学文学部3回生
古川みずき
■洞窟の比喩:教育と無教育(1,2)
・「教育と無教育ということに関して、われわれ人間の本性を、次のような状態に似てい
るものと考えてくれたまえ」
――地下の洞窟の中の人間たちは鎖で縛られ動けず、顔も壁ばかり見るようにされている。
この囚人の後ろには火が燃えている。その火と囚人の間に道があり、そこを人や物が
通る。囚人たちは、その影だけを真実のものと思い込む。
彼らに急に真実を見せても、理解できずに影のほうが真実性があると考えてしまう
ので、徐々に目を慣らしていく必要がある。そうして最後に太陽それ自体〈イデア
のたとえ〉を見る。彼はもはやかつての洞窟に帰ることは望まないし、仮に帰って
も囚人たちは彼を受け入れない。
・「それならば教育とは、まさにその器官を転向させることがどうすればいちばんやさし
く、いちばん効果的に達成させるかを考える、向け変えの技術にほかならないということ
になるだろう。それは、その器官のなかに視力を外から植えつける技術ではなくて、視力
をはじめからもっているけれども、ただその向きが正しくなくて、見なければならぬ方向
を見ていないから、その点を直すように工夫する技術なのだ」
――教育というのは、知識がない魂に知識を外から教師が入れるというものではない。(4)
人間には真理を知るための機能とそれによって学び知るところの器官がはじめから
魂の中に内在している。それを魂の全体と一緒に、実在および実在のうち最も光り
輝くもの(=〈善〉
)を観ることに耐えうるようになるまで導いていかなければなら
ない。
・「そこで、われわれ新国家を建設しようとする者のなすべきことは、次のことだ。すな
わちまず、最もすぐれた素質をもつ者たちをして、ぜひとも、われわれが先に最大の学問
と呼んだところのものまで到達せしめるように、つまり、先述のような上昇の道を登りつ
めて〈善〉を見るように、強制を課するということ。そしてつぎに、彼らがそのようにし
て〈善〉をじゅうぶんに見たのちは、彼らに対して、現在許されているようなことをけっ
して許さないということ。つまり、そのまま上方にとどまることだ」
・「友よ、法というものの関心事は、国のなかの一部の種族だけが特別に幸福になるとい
うことではないのであって、国全体のうちにあまねく幸福を行きわたらせることこそ、法
は工夫するものだということを、また忘れたね?」
・「されば君たちは、各人が順番に下に降りて来て、他の人たちといっしょに住まなけれ
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ばならぬ。そして暗闇のなかの事物を見ることに、慣れてもらわねばならぬ。けだし、慣
れさえすれば、君たちの目は、そこに居つづけの者たちよりも、何千倍もよく見えること
だろう。」
・「もし君が、支配者となるべき人たちのために、支配者であることよりももっと善い生
活を見つけてやることができるならば、善い政治の行なわれる国家は、君にとって実現可
能となる。これに反して、自分自身の善きものを欠いている飢えて貧しい人々が、善きも
のを公の場から引ったくってこなければならぬという下心のもとに公共の仕事に赴くなら
ば、善い政治の行なわれる国家は実現丌可能となる。そこで君は、政治的支配を見下すこ
とのできるような生活として、真の哲学者以外に、何かほかの生活を挙げることができる
かね? しかるに、支配者の位置につく者は、けっして支配権力を恋いこがれるような者
であってはならないのだ。」
――教育とは、その器官の転向を最も効果的に行う方法を考える向け変えの技術。
(6)
この向け変えいかんによって魂のあり方はよくもなるし悪くもなる。
教育を積むだけで実践に参加しない者は国の統治は出来ない。最も優れた素質を
もつ者たちを〈善〉の実相を見ることが出来るように強制し、つぎにそのまま上方
にとどまらせずに、もう一度前の囚人仲間のところに降りて来させ、彼らとともに
その苦労と名誉を分かち合わせる。
■「魂の向け変え」と「真実在への上昇」のための教育
真実在への上昇を可能とするまことの哲学とはどんな学問か…全ての技術・思考・知識
が共有しなければならないも学問。=哲学。
・「哲学」とは、「魂」を真実の昼へと向け変えること。そのためには、数と計算、幾何
学、天文学。そして最後の総仕上げとしての「哲学的問答法」が必要。
…数と計算(8)
・感覚だけでは充分に把握できない問題→魂は思惟(計算能力)と知性に訴えて解決
―それ自体としてそもそも何であるかを問わざるをえないこの性格は、真実在へと導く
もの。
…幾何。平面と立体(10)
、、
・幾何が知ろうとすることは、つねにあるものであって、時によって生滅するものでは
ない。
それゆえ、それは魂を真理へ引っ張っていく力がある。
…4番目は、天文学。
(11)天空を飾る星々は、目に見えぬ実在を目指して学ぶための模型
目が天文学と密接な関係において形作られているのと同様に、音階の調和をなす運動と
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の密接な関係のもとに耳は形作られているので、音階の調和も同じように扱う。
(12)
・諸学科相互間の内的な結びつきと同族的な関係を総合的な見地から勘考する。それは哲
学的な対話・問答―哲学的問答法によって行う。(13、14)
*第六巻の心の状態の線分:〔CB〕を〈知性〉のはたらき、〔AC〕を〈思わく〉の
状態と呼ぶ。
〈思わく〉は生成に関わり、〈知性〉は実在に関わる。
〈実在〉:
〈生成〉=〈知性〉
:〈思わく〉=〈知識〉:
〈確信〉
・諸学科の配分(16)…哲学的問答法を学ぶために必ず前もって履修する予備教育に属す
る事柄は、少年時代に課す。学習は強制ではなく、むしろ自由に遊ばせる形で行う。そ
のうち、選ばれた者に対して、二十歳となったら雑然と学習したことを総合して、相互
化の、また実在の本性との内部的な結びつきを総観するところまでいかせる。さらに選
ばれた者についてはその後哲学的な訓練を課す。(18)そして50歳まで公務の訓練をつ
んだ最も優れた者が50歳以後交代で統治に当たる。後継者を育てたら、彼らは〈幸福
者の島〉へと去る。国家は彼らを讃え、記念する。
・誰に哲学を学ばせるか?
へ ん ぱ
「まず第一に、哲学に手をそめようとするものは、苦労好きという点で偏頗であってはな
らない――半分だけ苦労好きで、あとの半分は苦労を避けようとするのではね。」また、
「故意でない偽りはしごく寛容に受け入れ、自分の無知がさらけ出されても苛立ちもせず、
豚のように、無知の泥にまみれて汚れていてもいっこうに平気な魂をもたねばならない」
・「ソロンは老年になっても多くのことを学ぶことができるといったけれども、それを信
じてはいけないのであって、学ぶことは走ることよりも、もっとだめだろうからね。むし
ろ大きな苦労、たくさんの苦労はすべて、若者たちにふさわしいのだ」
・「けっして学習を強制するようなやり方をしてはいけない。自由な人間たるべき者は、
およそいかなる学科を学ぶにあたっても、奴隷状態において学ぶというようなことは、あ
ってはならないからだ。むしろ自由に遊ばせるかたちをとらなければならない」
――プラトンの学習計画では、20 代の若者は、諸学を総合する力を学ぶ。そして30 代に
なって、さらに選抜された者たちが、哲学的問答法を学ぶ。50 歳になって、最も優秀であ
った人に、国家の支配を任せる。
・哲学=権威を疑う力
「わわれは子供のときから、何が正しいことであり美しいことであるかということについ
て、きまった考えをもたされていると思う。われわれは、ちょうど親のもとで育てられる
ようにして、それらの考え方のなかで育てられてきているのだ。その権威に服し、それを
尊重しながらね。そしてまた、これと相反する生き方が別にあって、これには快楽が伴い、
われわれの魂に甘い言葉で追従して、自分のほうへ引き寄せようとする。しかし、少しで
も節度ある人ならば、そのような甘言には乗せられないで、むしろ先の父祖の教えのほう
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を尊重し、その権威に服するだろう。」
「それならどうだろう。このような状態にある人がやがて問いを受けることになって、〈美
しいこと〉とは何であるかと問いかけられ、法を定めた人から聞いたとおりを答えたとこ
ろ、言葉の吟味にかけられて論駁されたとする。そして何度も何度もいろいろのし方で論
駁されたあげく、自分が教えられてきたことはなにも美しいことではなく、醜いことなの
かもしれないと考えざるをえないようになり、さらに〈正しいこと〉や〈善いこと〉や、
これまで最も尊敬してきたさまざまな事柄についても同じことを経験したとする。このよ
うな場合、そうした教えに対する尊重やその権威への服従という点に関して、その人の態
度はそれから以後どのようになると思うかね?」「それはどうしても、もはや前と同じよ
うには尊敬もしないし、服従もしないことになるでしょう。」
・哲学王への期待
――「真正の哲学者が、一人でも二人以上でも、国家における実権をもつようになって、
現在名誉とされているものについては……これを軽蔑し、そして正義こそは最も重要な、
最も強制力をもつべきものとみなして、これに仕えこれを大きく育てようと、自分の国を
徹底的に再編するようになるときのことだ。」
■参考文献
・プラトン『国家(上)』
『同(下)
』藤沢令夫訳、岩波書店、1979 年。
・サイモン・ブラックバーン『プラトンの「国家」
』木田元訳、ポプラ社、2007 年。
・ラインハルト・マキラー『プラトンの政治哲学―政治的倫理学に関する歴史的・体系的
考察―』風行社、2005 年。
・水崎博明「プラトン『国家』内容梗概(第七巻)
」福岡大学人文論叢第三十六巻第四号、
2005 年、pp.1233-1271。
・
「プラトンの洞窟」http://www9.plala.or.jp/bsnagano/platoscave/index.htm(最終閲覧日:2009/08/27)
・「シムダンス『四次元脳』―プラトンのイデアの世界―」
http://www.c-player.com/ad00178/thread/1100069770883(最終閲覧日:2009/08/27)
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