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3 2変数関数に対するテーラーの定理

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3 2変数関数に対するテーラーの定理
2 変数関数に対するテーラーの定理
3
まず,1 変数関数に対するテイラーの定理を復習する.y = g(x) を区間 I = (α, β) 上の何回
でも微分可能な関数とする.a, x ∈ I に対して,
g(x) =g(a) + g ′ (a)(x − a) +
+
1 ′′
1
g (a)(x − a)2 + · · · +
g (n−1) (a)(x − a)n−1
2!
(n − 1)!
1 (n)
g (c)(x − a)n
n!
をみたす c が a と x の間に存在する,という主張がテーラーの定理である.
g(x) =g(a) + g ′ (a)(x − a) +
+
1 ′′
1
g (a)(x − a)2 + · · · +
g (n−1) (a)(x − a)n−1
2!
(n − 1)!
1 (n)
g (a + θ(x − a))(x − a)n
n!
をみたす θ ∈ (0, 1) が存在するとも言える.
または,x = a + h と書くと,
g(a + h) =g(a) + g ′ (a)h +
+
1 ′′
1
g (a)h2 + · · · +
g (n−1) (a)hn−1
2!
(n − 1)!
1 (n)
g (a + θh)hn
n!
をみたす θ ∈ (0, 1) が存在するといっても同じである.
2 変数関数 f (x, y) に対しても,これを近似する多項式が存在することを示すのがテイラーの
定理であり,極値問題を解くときに本質的な役割を果たす.
定理 3.1 f (x, y) を何回でも偏微分可能な関数であるとする.このとき,次が成り立つ θ ∈ (0, 1)
が存在する:
f (a + h, b + k) =f (a, b) + {fx (a, b)h + fy (a, b)k} +
1
{fxx (a, b)h2 + 2fxy (a, b)hk + fyy (a, b)k 2 }
2!
1
{fxxx (a, b)h3 + 3fxxy (a, b)h2 k + 3fxyy (a, b)hk 2 + fyyy (a, b)k 3 } + · · ·
3!
n−1
∑
1
∂ n−1 f
+
(a, b)hj k n−1−j
C
n−1 j
(n − 1)! j=0
∂xj ∂y n−j
+
1 ∑
∂nf
+
(a + θh, b + θk)hj k n−j .
C
n j
n! j=0
∂xj ∂y n−j
n
注意 3.2 前節で fxy = fyx を示したように,高階偏微分はその順序に依らない.例えば,fxxy =
∂3
fxyx = fyxx が成り立つ.これらを 2 と書き,纏めると二項係数が現れる 1 .
∂x ∂y
1
2
2
2
3
3
2
2
3
n
(u + v) = u + 2uv + v , (u + v) = u + 3u v + 3uv + v , (u + v) =
n
∑
j=0
1
j n−j
.
n Cj u v
1 次について,x についての偏微分に h を掛けたものと y についての偏微分に k を掛けたもの
の和を考える作用という意味で
( ∂
∂ )
fx (a, b)h + fy (a, b)k
を
h
+k
f (a, b)
∂x
∂y
と書き,2 次の項についてはこれを繰り返すという意味で
( ∂
∂ )2
2
2
fxx (a, b)h + 2fxy (a, b)hk + fyy (a, b)k
を
h
+k
f (a, b)
∂x
∂y
と書くことがある.一般には,
k
∑
j=0
k Cj
( ∂
∂kf
∂ )k
j n−j
(a,
b)h
k
=
h
+
k
2f (a, b),
∂xj ∂y k−j
∂x
∂y
k = 1, 2, ...
となる.
講義,演習では,2 階の項までしか扱わないので,この表記は用いないこととする.
テーラー展開の証明.n = 3 の場合を証明する.
g(t) = f (a + ht, b + kt) とおいて,t ∈ R の関数 g(t) に対してテーラーの定理を用いる:
g(t) = g(0) + g ′ (0)t +
1 ′′
1
1
1
g (0)t2 + g ′′′ (0)t3 + · · · +
g (n−1) (0)tn−1 + g (n) (c)tn
2!
3!
(n − 1)!
n!
をみたす c が 0 と t の間に存在する.
g(1) = f (a + h, b + k), g(0) = f (a, b) であるから,g ′ (0), g ′′ (0), .. を計算して,t = 1 として上
のテイラーの定理を用いればよい.
連鎖律 (定理??) より,
g ′ (t) = fx (a + ht, b + kt)(a + ht)′ + fy (a + ht, b + kt)(b + kt)′
= hfx (a + ht, b + kt) + kfy (a + ht, b + kt),
g ′′ (t) = h{(fx )x (a + ht, b + kt)(a + ht)′ + (fx )y (a + ht, b + kt)(b + kt)′ }
+ k{(fy )x (a + ht, b + kt)(a + ht)′ + (fy )y (a + ht, b + kt)(b + kt)′ }
= h2 fxx (a + ht, b + kt) + 2hkfxy (a + ht, b + kt) + k 2 fyy (a + ht, b + kt)
となる.ここで,fxy = fyx を用いた.同様に,
g ′′′ (t) = h2 {(fxx )x (a + ht, b + kt)h + (fxx )y (a + ht, b + kt)k}
+ 2hk{(fxy )x (a + ht, b + kt)h + (fxy )y (a + ht, b + kt)k}
+ k 2 {(fyy )x (a + ht, b + kt)h + (fyy )y (a + ht, b + kt)k}
= h3 fxxx (a + ht, b + kt) + 3h2 kfxxy (a + ht, b + kt)
+ 3hk 2 fxyy (a + ht, b + kt) + k 3 fyyy (a + ht, b + kt)
となり,t = 0 を代入すると
g ′ (0) = hfx (a, b) + kfy (a, b),
g ′′ (0) = h2 fxx (a, b) + 2hkfxy (a, b) + k 2 fyy (a, b)
2
となる.
したがって,g(t) に対してテーラーの定理を用いると,
f (a + h, b + k) = g(1)
= f (a, b) + {hfx (a, b) + kfy (a, b)} · 1 +
+
1 2
{h fxx (a, b) + 2hkfxy (a, b) + k 2 fyy (a, b)} · 12
2!
1 ′′′
g (c)13
3!
をみたす c ∈ (0, 1) が存在する.よって,
g ′′′ (c) = h3 fxxx (a + ht, b + kt) + 3h2 kfxxy (a + ht, b + kt)
+ 3hk 2 fxyy (a + ht, b + kt) + k 3 fyyy (a + ht, b + kt)
=
3
∑
3 Cj
j=0
∂ 3f
(a, b)hj k 3−j
∂xj ∂y 3−j
□
に注意すれば定理の結論 (n = 3 のとき) を得る.
定理 3.3 (テイラー展開) すべての x, y に対して
1 ∑
∂ nf
C
(x, y)hj k n−j → 0
n j
n! j=0
∂xj ∂y n−j
n
(n → ∞)
が成り立つならば,
f (a + h, b + k) = f (a, b) + fx (a, b)h + fy (a, b)k +
1
{fxx (a, b)h2 + 2fxy (a, b)hk + fyy (a, b)k 2 }
2!
∂ nf
1 ∑
(a, b)hj k n−j + · · ·
+ ··· +
n Cj
j
n−j
n! j=0
∂x ∂y
n
が成り立つ.つまり,右辺の無限級数が収束して f (a + h, b + k) に一致する.
上の無限級数を f (x, y) の (x, y) = (a, b) のまわりのテイラー展開という.a + h = x, b + k = y
と書くと
f (x, y) = f (a, b) + fx (a, b)(x − a) + fy (a, b)(y − b)
1
+ {fxx (a, b)(x − a)2 + 2fxy (a, b)(x − a)(y − b) + fyy (a, b)(y − b)2 } + · · ·
2!
n
1 ∑
∂nf
+
(a, b)(a − b)j (y − b)n−j + · · ·
C
n j
n! j=0
∂xj ∂y n−j
となる.
3
2 変数関数の極値問題
4
まず,1 変数関数の極値問題を復習する.
x の関数 y = g(x) が,x = a のとき,(i)g ′ (a) = 0 かつ (ii)g ′′ (a) > 0 をみたせば,x ≒ a のとき
1
g(x) ≒ g(a) + g ′′ (a)(x − a)2
2
より,x = a において極小値をとる.同様に,(i)g ′ (a) = 0 かつ (ii)g ′′ (a) < 0 をみたせば極大値
をとる.
定義 4.1 平面内の開集合上で定義された 2 2 変数関数 z = f (x, y) が (x, y) = (a, b) において極
大値をとるとは,(a, b) の近傍 U が存在して
f (x, y) < f (a, b) (x, y) ∈ U, (x, y) ̸= (a, b)
が成り立つことである.不等号を > に置き換えて不等式が成り立つ,f は (a, b) で極小値をと
るという.極大値,極小値を合わせて極値という.
z = f (x, y) が (x, y) = (a, b) において極値をとるなら,x の関数 f (x, b) は x = a において極
値をとり,y の関数 f (y, a) は y = b において極値をとるので,
fx (a, b) =
∂f
(a, b) = 0,
∂x
fy (a, b) =
∂f
(a, b) = 0
∂y
が成り立つ.また,このとき,(a, b) における接平面は xy 平面に平行である.
上に述べた 1 変数関数の極値問題においては,g ′′ (a) の符号によって極値の判定ができる.
2 変数関数の場合もテイラー展開の 2 次の項を見れば判定ができる点は同じである.つまり,
fx (a, b) = fy (a, b) = 0 であれば,(a, b) のまわりのテイラー展開は
}
1{
2
2
f (x, y) = f (a, b) +
fxx (a, b)(x − a) + 2fxy (a, b)(x − a)(y − b) + fyy (a, b)(y − b) + · · ·
2
となるから,極大,極小の判定が次のようにできる.
定理 4.1 z = f (x, y) が fx (a, b) = fy (a, b) = 0 をみたすとし,A = fxx (a, b), B = fxy (a, b), C =
fyy (a, b) とおく.
(1) 絶対値が十分小さい h, k ∈ R に対して
Ah2 + 2Bhk + Ck 2 > 0
が成り立つならば,z = f (x, y) は (x, y) = (a, b) において極小値をとる.
(2) 絶対値が十分小さい h, k ∈ R に対して
Ah2 + 2Bhk + Ck 2 < 0
が成り立つならば,z = f (x, y) は (x, y) = (a, b) において極大値をとる.
(3) 絶対値が十分小さい h, k ∈ R に対して,Ah2 + 2Bhk + Ck 2 が正にも負にもなり得るなら
ば z = f (x, y) が (x, y) = (a, b) において極値はとらない.
2
定義域の境界上における極値を考えないようにするため,定義域は開集合としている.
4
どちらの場合も,Ah2 + 2Bhk + Ck 2 の符号だけが問題であるから,すべての h, k に対して
正または負,といっても同じことである.つまり,
「絶対値が十分小さい h, k ∈ R に対して」と
いう条件は気にする必要はない.
注意 4.2 定理の (3) は 1 変数関数を考える場合とは異なる状況である.例えば,f (x, y) = x2 −y 2
を考えると,fx = 2x, fy = 2y だから (x, y) = (0, 0) において fx = fy = 0 となる.しかし,x の
関数 f (x, 0) = x2 は x = 0 において極小であり,y の関数 f (0, y) = −y 2 は y = 0 において極大
となるので,(x, y) = (0, 0) では極値にはなり得ないのである.このような点を鞍点という.
例 4.3 R2 上で定義された関数 f (x, y) = x3 + y 3 − 3xy の極値を求める 3 .1 階導関数は,
fx (x, y) = 3x2 − 3y = 3(x2 − y),
fy (x, y) = 3y 2 − 3x = 3(y 2 − x)
である.fx (x, y) = fy (x, y) = 0 となる (x, y) を求めるために,fx = 0 より得られる y = x2 を
y 2 − x = 0 に代入する.すると,(x2 )2 − x = x(x3 − 1) = 0 となるから,fx = fy = 0 となるの
は (x, y) = (0, 0) および (1, 1) である.また,2 階導関数は,
fxx (x, y) = 6x, fxy (x, y) = −3, fyy (x, y) = 6y.
(i) (x, y) = (0, 0) において,fxx = 0, fxy = −3, fyy = 0 だからテイラー展開の 2 次の項は,
h = x, k = y として
)
1(
fxx (0, 0)h2 + 2fxy (0, 0)hk + fyy (0, 0)k 2 = −3hk
2
で与えられ,これは正にも負にもなり得るので (0, 0) において極値ではとらない.
(ii) (x, y) = (1, 1) において,fxx = 6, fxy = −3, fyy = 6 だからテイラー展開の 2 次の項は,
h = x − 1, k = y − 1 として
)
(
1(
1 )2 9 2
2
2
2
3
fxx (1, 1)h + 2fxy (1, 1)hk + fyy (1, 1)k = 3h − 3hk + 3k = 3 h − k + k
2
2
4
であり,これは (h, k) ̸= (0, 0) であれば正である.したがって,f (1, 1) = −1 より,z = f (x, y)
は (x, y) = (1, 1) において極小値 −1 をとる.
2 変数関数 z = f (x, y) の極値を求めるには,
(1) fx = fy = 0 となる点 (a, b) を求める.
∂2
∂2
∂2
(a,
b),
B
=
(a,
b),
C
=
(a, b) の値を求めて,
(2) A =
∂x2
∂x∂y
∂y 2
(3) Ah2 + 2Bhk + Ck 2 の正負の判定をする:
(i) すべての h, k ((h, k) ̸= (0, 0)) に対して Ah2 + 2Bhk + Ck 2 > 0 であれば,f は (x, y) = (a, b)
において極小となる.
(ii) すべての h, k (h, k) ̸= (0, 0) に対して Ah2 + 2Bhk + Ck 2 < 0 であれば,f は (x, y) = (a, b)
において極大となる.
(iii) Ah2 + 2Bhk + Ck 2 > 0 をみたす (h, k) も,Ah2 + 2Bhk + Ck 2 < 0 をみたす (h, k) もとも
3
極値を求めるとは,極値を取る点を求め,極大,極小の判定を行い,極値の値を求めることを意味する.
5
に存在するならば,f は (x, y) = (a, b) において極値をとらない.
(iv) これら以外の場合は,テーラー展開の高階の部分まで考慮して考察する 4 .
正負の判定について付け加える.判定のカギは,A ̸= 0 であれば,
B )2 AC − B 2 2
Ah + 2Bhk + Ck = A h + k +
k
A
A
2
2
(
と変形できる (平方完成) ことで,
(i) A > 0 かつ AC − B 2 > 0 であれば,Ah2 + 2Bhk + Ck 2 > 0 ((h, k) ̸= (0, 0)) となり,
(ii) A < 0 かつ AC − B 2 > 0 であれば,Ah2 + 2Bhk + Ck 2 < 0 ((h, k) ̸= (0, 0)) となる.
A = 0 または AC − B 2 ≦ 0 の場合はさらに考察が必要ということである.
平方完成の計算を行うだけであるので,A, B, C の値を求めたら,例 4.3 のように
Ah2 + 2Bhk + Ck 2 の符号の判定をその都度行うのがよい.
(
)
A B
B C
注意 4.4 (i), (ii) の条件は次のように言い換えることもできる.2 次行列 G =
を考
えると,R2 の内積を用いて
( )
( )
( h
h )
Ah2 + 2Bhk + Ck 2 =
,G
k
k
と書くことができて,上の (i) は G の固有値がともに正であることと,(ii) は G の固有値がと
もに負であることと同値である.
演習問題 4.1 次の関数の極値を取る点と極値を求めよ.ただし,0 < b < a とする.
(1) f (x, y) = x3 −12xy+8y 3
(2) f (x, y) = x3 −3axy+y 3
(3) f (x, y) = e−x
2 −y 2
(ax2 +by 2 )
(解答) (1) (x, y) = (2, 1) において極小 (2) (x, y) = (a, a) において極小.
(3) は,(0, 0) において極小値,(±1, 0) において極大値をとる,となるが,詳しく与える.1 階
導関数は,
{
} 2 2
2
2
2
2
fx (x, y) = 2axe−x −y − 2x(ax2 + by 2 )e−x −y = 2x a − (ax2 + by 2 ) e−x −y
{
} 2 2
−x2 −y 2
2
2 −x2 −y 2
2
2
fy (x, y) = 2bye
− 2y(ax + by )e
= 2y b − (ax + by ) e−x −y .
(i) x = 0 とすると fx (x, y) = 0 となる.このとき,fy = 0 となるのは y = 0, ±1 のときである.
(ii) x ̸= 0 のとき,fx = 0 となるのは a−(ax2 +by 2 ) = 0 のときであり,このとき b−(ax2 +by 2 ̸= 0
だから fy = 0 となるには y = 0 でないといけない.x ̸= 0, y = 0 のとき fx = 0 となるのは
x = ±1 のときである.
以上まとめると,fx (x, y) = fy (x, y) = 0 となるのは,(0, 0), (±1, 0), (0, ±1) の 5 つの場合で
ある.
4
1 変数関数の場合の,y = x3 , x4 などの x = 0 における挙動を思い出して欲しい
6
2 階偏導関数を計算しておく:
{(
)
(
)} 2 2
fxx = 2 a − (ax2 + by 2 ) − 2ax2 − 2x2 a − (ax2 + by 2 ) e−x −y ,
{
(
)} 2 2
{
(
)} 2 2
2
2
−x −y
2
2
fxy = 2x −2by − 2y a − (ax + by ) e
= −4xy b + a − (ax + by ) e−x −y
{(
)
(
)} 2 2
fyy = 2 b − (ax2 + by 2 ) − 2by 2 − 2y 2 b − (ax2 + by 2 ) e−x −y .
(1) (x, y) = (0, 0) のとき.fxx (0, 0) = 2a, fxy (0, 0) = 0, fyy (0, 0) = 2b だから,
fxx (0, 0)h2 + 2fxy (0, 0)hk + fyy (0, 0)k 2 = 2ah2 + 2bk 2 > 0 (h2 + k 2 ̸= 0)
となるから,(0, 0) において極小値 0 をとる.
(2) (x, y) = (±1, 0) のとき (以下,複合同順).fxx (±1, 0) = −4ae−1 , fxy (±1, 0) = 0, fyy (±1, 0) =
−2(a − b)e−1 だから,
fxx (±1, 0)h2 + 2fxy (±1, 0)hk + fyy (±1, 0)k 2 = −2e−1 (2ah2 + (b − a)k 2 ) < 0 (h2 + k 2 ̸= 0)
となるから,(±1, 0) において極大値 0 をとる.
(3) (x, y) = (0, ±1) のとき.fxx (0, ±1) = 2(a − b)e−1 , fxy (0, ±1) = 0, fyy (0, ±1) = −4be−1 だ
から,
fxx (0, ±1)h2 + 2fxy (0, ±1)hk + fyy (0, ±1)k 2 = 2e−1 ((a − b)h2 − 2bk 2 )
となるから,(0, ±1) は鞍点である.
演習問題 4.2 体積が一定 (a3 とする) の直方体の中で,表面積が最小になるのはどのような直
a3
方体か.(Hint: 結論は予想できるであろう.2 辺の長さを x, y とすると残りの辺の長さは xy
で
あるから,f (x, y) = xy +
小の判定を行えばよい.)
a3
x
+
a3
y
に対する極値問題を考えて,x, y > 0 であることを用いて最
演習問題 4.3 周の長さが一定 (2s とする) の三角形の中で,面積が最小の三角形はどのような三
√
角形か.ヘロンの公式,2 辺の長さを x, y とすると三角形の面積は s(s − x)(s − y)(x + y − s),
を用いて答えよ.
演習問題 4.4 f (x, y) = −x log x − y log y − (1 − x − y) log(1 − x − y),
極値を求め,さらに最小値を求めよ.
x, y ≧ 0, x + y ≦ 1, の
(解答)
fx = 0, fy = 0 となるのは, (x, y) = ( 31 , 13 ) のみである.さらに,(x, y) = ( 13 , 13 ) において極小
値 log 3 をとることは,これまでと同様に分かる.(良い練習問題.各自で確認すること.)
最小であることは,x log x → 0 (x → +0) だから x, y ≧ 0, x + y ≦ 1, で定まる領域で,f は
連続な関数と x 考えてよい.極小値は1つであり,鞍点もないので,そこで最小である.
7
5
極座標に関する微分
定義 5.1 R2 の領域上の関数 z = f (x, y) に対して,
( ∂f ∂f )
,
を f の勾配とよび,∇f または
∂x ∂y
∂ 2f ∂ 2f
+
を f のラプラシアンと呼び ∆f と書く.これらのように,関
∂x2 ∂y 2
数に対して別の関数を対応させる対応を作用素と呼び,特に導関数を含むときに微分作用素と
呼ぶ.
grad(f ) と書く.また,
数学,物理学で原点からの距離のみに依存する関数が重要であり,これらの解析を行う際に
∇f, ∆f を極座標で表示することが必要となる.
極座標について (x, y) ∈ R2 を,
{
x = r cos θ,
y = r sin θ
r ≧ 0, 0 ≦ θ < 2π
によって (r, θ) で表すことを極座標表示,(r, θ) を極座標という.
例 5.1 z = f (x, y) = x2 + y 2 であれば,z = g(r, θ) = r2 となる.このように,z = f (x, y) が
√
r = x2 + y 2 のみに依存する場合は,z = g(r, θ) は r のみの 1 変数関数となる.
関数 z = f (x, y) = f (r cos θ, r sin θ) を z = g(r, θ) と書くとき,極座標 r, θ についての偏導関
∂z ∂z
∂z ∂z
∂ 2z ∂ 2z
数
,
と x, y に関する偏導関数
,
との関係が必要となり,さらに ∆z = 2 + 2 を
∂r ∂θ
∂x ∂y
∂ x ∂ y
r, θ を用いて表示することが必要となる.これらを与えるのが本節の目的である.
まず,前節に述べた連鎖律の一般化を与える.証明は全く同じであるから省略する.
定理 5.2 (連鎖律) f (x, y) を xy 平面上の関数,u(s, t), v(s, t) を st 平面上の関数とするとき,合
成関数 (st 平面上の関数)f (u(s, t), v(s, t)) の s, t に関する偏導関数は,
∂
∂u
∂v
f (u(s, t), v(s, t)) = fx (u(s, t), v(s, t)) (s, t) + fy (u(s, t), v(s, t)) (s, t),
∂s
∂s
∂s
∂
∂u
∂v
f (u(s, t), v(s, t)) = fx (u(s, t), v(s, t)) (s, t) + fy (u(s, t), v(s, t)) (s, t)
∂t
∂t
∂t
によって与えられる.これらを次のように略記する:
∂f
∂u
∂v
= fx
+ fy ,
∂s
∂s
∂s
∂f
∂u
∂v
= fx
+ fy .
∂t
∂t
∂t
極座標に関しては,次のようになる.まず,1 階微分 (勾配) から述べる.
命題 5.3 z = f (x, y) = f (r cos θ, r sin θ), r ≧ 0, 0 ≦ θ < 2π に対して,
zx ≡
∂z sin θ ∂z
∂z
= cos θ
−
,
∂x
∂r
r ∂θ
zy ≡
8
∂z
∂z cos θ ∂z
= sin θ
+
.
∂y
∂r
r ∂θ
証明.連鎖律により,u(r, θ) = r cos θ, v(r, θ) = r sin θ とおくと
∂z
∂u
∂v
= zx
+ zy
= cos θ zx + sin θ zy ,
∂r
∂r
∂r
∂z
∂u
∂v
= zx
+ zy
= −r sin θ zx + r cos θ zy .
∂θ
∂θ
∂θ
となる.これを zx , zy に関して解くと,
∂z
∂z
− sin θ
= (r cos2 θ + r sin2 θ)zx = rzx ,
∂r
∂θ
∂z
∂z
r sin θ
+ cos θ
= (r sin2 θ + r cos2 θ)zy = rzy
∂r
∂θ
r cos θ
□
となり,両辺を r で割れば結論を得る.
演習問題 5.1 (1) z = f (x, y) が xzy − yzx = 0 をみたせば,z は r だけの,つまり θ に依らない
関数であることを示せ.
(2) z = f (x, y) が xzy + yzx = 0 をみたせば,z は θ だけの,つまり r に依らない関数であるこ
とを示せ.
定理 5.4 z = f (x, y) = f (r cos θ, r sin θ), r ≧ 0, 0 ≦ θ < 2π に対して,次が成り立つ:
(
∂ 2 z ∂ 2 z ) ∂ 2 z 1 ∂z
1 ∂ 2z
∆z = zxx + zyy =
+
=
+
+
.
∂x2 ∂y 2
∂r2 r ∂r r2 ∂θ2
証明.r, θ が独立変数で
∂
∂r
cos θ =
∂
∂r
sin θ = 0 であることに注意して連鎖律を 2 回用いると,
∂zx sin θ ∂zx
zxx = (zx )x = cos θ
−
∂r
r ∂θ
∂(
∂z sin θ ∂z ) sin θ ∂ (
∂z sin θ ∂z )
= cos θ
cos θ
−
−
cos θ
−
∂r
∂r
r ∂θ
r ∂θ
∂r
r ∂θ
( 1 ) ∂z cos θ sin θ ∂ 2 z
2
∂
∂
z
= cos2 θ
− cos θ sin θ
−
∂r2
∂r r ∂θ
r
∂θ∂r
sin θ [
∂z
∂ 2z
cos θ ∂z sin θ ∂ 2 z ]
−
− sin θ
+ cos θ
−
−
r
∂r
∂r∂θ
r ∂θ
r ∂θ2
2
2
2
2
sin θ ∂ 2 z 2 sin θ cos θ ∂z
∂ z sin θ ∂z 2 sin θ cos θ ∂ z
+
−
+
+
= cos2 θ
∂r2
r ∂r
r
∂θ∂r
r2 ∂θ2
r2
∂θ
となる.
同様に (是非,各自で確認して欲しい!),
zyy = sin2 θ
∂ 2 z cos2 θ ∂z 2 sin θ cos θ ∂ 2 z
cos2 θ ∂ 2 z 2 sin θ cos θ ∂z
+
+
+
−
∂r2
r
∂r
r
∂θ∂r
r2 ∂θ2
r2
∂θ
□
となるので,これらを合わせて結論を得る.
9
6
R2 上の写像のヤコビアン
定義 6.1 x, y が s, t の関数を用いて,
x = u(s, t),
y = v(s, t)
(
)
∂(x, y)
us ut
と書けているとき,行列
をヤコビ行列,その行列式をヤコビアンと呼び
と
∂(s, t)
vs vt
書く:
∂(x, y)
= us vt − ut vs .
∂(s, t)
例 6.1 (極座標) x = r cos θ, y = r sin θ (r ≧ 0, 0 ≦ θ < 2π) のとき,ヤコビ行列は
(
) (
)
∂x/∂r ∂x/∂θ
cos θ −r sin θ
=
∂y/∂r ∂y/∂θ
sin θ r cos θ
である.したがって,ヤコビアンは
(
)
∂(x, y)
cos θ −r sin θ
= det
= cos θ × r cos θ − (−r sin θ) × sin θ = r
∂(r, θ)
sin θ r cos θ
となる.ただし,det A は行列 A の行列式を表す.
(
)
a b
ヤコビアンの意味を述べるために,一次変換の場合を考える:行列 A =
に対して
c d
( )
( )
x
s
=A
.
y
t
この場合,x = u(s, t) = as + bt, y = v(s, t) = cs + dt であり,ヤコビ行列は
)
(
) (
xs xt
a b
=A
=
ys yt
c d
であり,ヤコビアンは A の行列式 (
det(A)
bc である.
) = ad(−)
0
h
, e2 =
を 2 辺とする長方形の A による像の面積を
h, k > 0 とし,st 平面上の e1 =
0
k
考える.像は Ae1 , Ae2 を隣り合った 2 辺とする平行四辺形である:
( )
( )
a
b
Ae1 = h
,
Ae2 = k
.
c
d
これらのベクトルのなす角を α とすると,
cos α =
⟨Ae1 , Ae2 ⟩
ab + cd
√
=√
2
∥Ae1 ∥ · ∥Ae2 ∥
a + c2 b2 + d2
10
となるから (⟨ , ⟩ は内積),
(ab + cd)2
(a2 + c2 )(b2 + d2 ) − (a2 b2 + 2abcd + c2 d2 )
=
(a2 + c2 )(b2 + d2 )
(a2 + c2 )(b2 + d2 )
(ad − bc)2
= 2
(a + c2 )(b2 + d2 )
sin2 α = 1 −
が成り立つ.
よって,求める平行四辺形の面積は
∥Ae1 ∥ · ∥Ae2 ∥ · | sin α| = hk| det(A)|
となる.
本節の冒頭に戻って,x, y が s, t の関数として
x = u(s, t),
y = v(s, t)
と書けているとする.st 平面の微少な領域 [s, s + h] × [t, t + k] の x = u(s, t), y = v(s, t) による
像はほぼ,
(u(s, t), v(s, t)) と (u(s + h, t), v(s + h, t)) を結ぶベクトル
と
(u(s, t), v(s, t)) と (u(s, t + k), v(s, t + k)) を結ぶベクトル
を隣り合う 2 辺とする平行四辺形であり,
(
) (
) (
) (
)
(
)
u(s + h, t)
u(s, t)
u(s + h, t) − u(s, t)
us (s, t)h
us (s, t)
−
=
≒
=h
,
v(s + h, t)
v(s, t)
v(s + h, t) − v(s, t)
vs (s, t)h
vs (s, t)
) (
) (
) (
)
(
)
(
u(s, t)
u(s, t + k) − u(s, t)
ut (s, t)k
ut (s, t)
u(s, t + k)
−
=
≒
=k
v(s, t)
v(s, t + k) − v(s, t)
vt (s, t)k
vt (s, t)
v(s, t + k)
よりこの平行四辺形の面積は
(
) ∂(x, y) u
(s,
t)
u
(s,
t)
s
t
hk det
= hk
vs (s, t) vt (s, t) ∂(s, t) となる.
これがヤコビアンの幾何学的な意味であり,多くの場面で用いられる.この講義でも,重積
分における変数変換において用いる.
11
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