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消化管におけるモノカルボン酸輸送体 (SMCTとMCT) の発現様式 学位

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消化管におけるモノカルボン酸輸送体 (SMCTとMCT) の発現様式 学位
博士 (医学)
武 部久美子
学 位 論 文 題 名
消化管におけるモノカルボン酸輸送体(
S
I
¥
/
.
IC
T
とI
VI
C
T
)
の発現様式
学位 論文内容の要旨
【背景 と目的】 小腸で 吸収さ れなか った植物由来の食物繊維と難消化性糖質は、大腸内の腸
内細菌 による発 酵の結 果分解 され、 短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を産生する。
短鎖脂 肪酸は、 乳酸、 ケトン 体とと もにモノカルボン酸に分類される有機酸である。これら
の短鎖 脂肪酸は 腸上皮 を介し て吸収 され、エネルギーとして利用される。最近になり、モノ
カルボ ン酸に特 異的な トラン スポー ターが同定され、消化管での短鎖脂肪酸の取り込みや生
体での モノカル ボン酸 の動態 がある 程度説明できるようになった。本研究の目的は、消化管
を中 心 に 2つ の タイ プの モノカ ルボン 酸輸送 体を発現 する細 胞の分 布と細 胞内局 在を明 ら
かにす ることで ある。 最初に 同定さ れたmonocarboxylatetran
sport
er(M
CT)はけとの共輸
送体で 、これま でに10種を超え るサブ タイプ の存在 が示唆 されて いる。 その後 、大腸がん
抑制遺 伝子の探 索から Na+依存 性の輸送 体が同 定され 、SMCTと呼ぱれるようにたった。SMCT
には2つ のサプ タイプが ある。
【材料 と方法】 マウス の消化 管、腎 臓など を使い 、形態 学的解析はinsi
tuhy
bridi
zatio
n
法と免 疫組織化 学によ り行っ た。ア ンチセ ンス合 成オリ ゴヌクレオチドを33P
で標識したも
のをプ ローブに 用い、 insituhybridization法を行 った。 S
MCTについてはSMC
T1とSM
CT2、
MCTに 関 し て は主 要 な MCTl-MCT4の ほ か MCT8に つい て 解 析 した 。 In situhybridization
法の 結 果 を 補う た めに りアル タイム PCR法も実 行した 。免疫 組織化学 は、SMCT1、SMCT2お
よび MCT1に 対 す る抗 体を用 い、螢 光抗体 法、ABC法 、電顕 レベル の金コ ロイド 銀増感 法を
行った 。
【結果 】Na十シ ンポー ターであ るSMCT1は 回腸の 末端部 から直腸にかけて発現し、とくに遠
位結腸 から直腸 での発 現が強 かった 。この 発現パ ターン はりアルタイムPCRによる定量結果
と一致 していた 。免疫 組織化 学では 、陰窩上皮の管腔側が特異的に染まり、電顕レベルで線
条縁( 刷子縁) に相当 してい た。一 方、SMCT2の発現は 空腸で最も強く、近位回腸で弱い発
現が見 られた以 外は、 十二指 腸や大 腸での発現は見られなかった。この発現パターンもりア
ルタ イ ム PCRの所 見 と完全 に一致 した。 SMCTの腸管 全域で の発現 は、SMCT1とSMCT2が相 補
的な位 置関係を 示した ことに なる。
MCTファミ リーの 中では 、MCT1が消 化管で 十分を 強さの 発現を示した。ほかのメンバーの
中では MCT2のみが 胃体部 粘膜で 強く発現していたに過ぎない。MCT1
は大腸での発現が強く、
とくに 盲腸と遠 位結腸 で最大 値を示 したが、近位結腸ではやや弱い発現であった。胃や小腸
でも 弱 い が コン ス タン トを発 現が見 られた。 なお、 この発 現パタ ーンも りアル タイム PCR
で確認 された。 免疫組 織化学 では、 大腸を 通じて 表面上 皮と陰 窩上皮の 側基底 面の細胞膜
basolateralmembraneに 特異的 に陽性 反応が 観察さ れた。陰 窩の底 部では 杯細胞 が占める
ため 、 反 応 は微 弱 とな る。SMCT1と MCT1の二 重染色 では、陰 窩の中 央部で は両者 が共存 す
るが、 表面上皮 や陰窩 下部で はMCT1の 反応だけ が認め られた 。大腸 の電顕 レベル の観察で
は、タ イト結合 より下 の細胞 側面か ら次第に強くなる反応が側面下部から基底部にかけて広
がって いた。細 胞質で の反応 は認め られな かった 。
小腸の 免疫組 織化学 により、 MCT1の陽 性反応 が陰窩 から絨毛の基部I
ごかけて上皮の側基
底面basolateralmembraneに見 られた。Brd
Uとの二重染色により、B
rdU陽性の未分化細胞が
染まる ことを確 認でき た。分 裂中の 細胞も MCTIを発現 し、分 裂して いなぃ 細胞よ りも細胞
膜が厚 く染まっ ていた 。また 基底膜 にむけて伸ぴる「茎」のような部分も強く染色された。
電顕下 では、分 裂期の 細胞で は細胞 膜にヒダや突起(微絨毛)があるために、細胞の輪郭が
― 21―
陽性反応により 厚く見えることが判明した 。
胃 で は 、 腺 胃 の 胃 小 窩 の 底 部 か ら 腺 頚 部 に か け て の 増 殖 帯 と よ ば れ る 領 域 が MCT1に 陽 性
を 示 した 。こ こで もや はり 細胞 の側 基底 面、 とく に基 底面 が 強く 染ま って いた 。
【 考察】 短鎖脂肪酸などモノカルボン 酸の動態を追うことは難し いが、特異的な輸送体の発
現 を 調 べ る こ と で 、 お お よ そ の 動 き や 利 用 組 織 を 判 定 す る こ と が で き る 。 本 研 究 で は 、 2種
類 のモノ カルボン酸輸送体、とくに細 胞レベルで出し入れを担当 する輸送体を同時に解析す
ることに意義が あると思われる。
SMCT1は 細 胞 内 外 の Na+i 度 勾 配 を 利 用 し て 、 細 胞 内 に モ ノ カ ル ボ ン 酸 を 取 り 込 む 輸 送 体
で ある。 消化管では上皮の管腔側に局 在し、短鎖脂肪酸が産生さ れる大腸で強く発現するこ
と は 目 的 に か な っ て い る 。 SMCT1は 起 電 性 の 輸 送 を 行 う の で 、 基 質 と と も に 水 が 移 動 す る 。
従 って、 大腸では短鎖脂肪酸の吸収は 水分の吸収による糞便の固 形化にも寄与すると思われ
る 。 SMCT1の 回 腸 末 端 部 で の 強 い 発 現 の 意 義 は 不 明 で あ る 。 こ こ で 産 生 さ れ た 短 鎖 脂 肪 酸
もしくは盲腸か ら逆流した短鎖脂肪酸の吸 収に与るのであろう。
SMCT2は SMCT1と 基 質 は 共 通 し て い る が 、 親 和 性 が 低 い こ と カ § 特 徴 で あ る 。 消 化 管 で は
空 腸 に SMCT2が 発 現 す る が 、 こ こ で は 腸 内 発 酵 は ほ と ん ど 行 わ れ な ぃ の で 、 食 事 由 来 の モ
ノ カルボ ン酸一ヒトの例を示すと、酢 、発酵食品や乳製品に含ま れる乳酸の吸収に関与して
い る 可 能 性 が あ る 。 SMCT1と SMCT2の 配 置 は 腎 臓 で 考 え る と 理 解 し や す い 。 腎 臓 で は 糸 球
体 に 続 く 近 位 尿 細 管 の 起 始 部 (S1分 節 ) に は SMCT2が 、 そ れ よ り 遠 位 の S2お よ ぴ S3分 節 で
は SMCT1が 発 現 し て お り 、 SMCI2に よ り 原 尿 中 の 乳 酸 濃 度 が 低 下 す る と 、 SMCT1が 働 く 仕
掛 けにな っていると思われる。小腸で は、食事由来のモノカルボ ン酸の濃度は非常に高いは
ずである。
最 初 に MCT1を 同 定 し た 研 究 は MCT1が 大 腸 に 強 く 発 現 し 、 上 皮 細 胞 の 側 基 底 面 に 局 在 す
る こ と を 報 告 し た が 、 そ の 後 の 研 究 で は MCT1が 小 腸 に 強 く 発 現 す る こ と や 細 胞 の 管 腔 側 に
発 現 す る と い う 報 告 が 続 い た た め 、 混 乱 が 生 じ た 。 本 研 究 は 、 MCT1が 消 化 管 の 主 要 な MCT
で あ り 、 大 腸 に 強 く 発 現 す る こ と 、 細 胞 の 側 基 底 面 に限 局 した 発現 を 示す こと を 確実 にし た 。
ほ か の サ ブ タ イ プ で は 、 MCI2が 胃 の 壁 細 胞 領 域 に 発 現 し て い た に 過 ぎ な い 。
MCT1が 小 腸 や 胃 の 細 胞 増 殖 帯 に 集 中 し て 発 現 し 、 と く に 分 裂 中 の 細 胞 が 強 く 標 識 さ れ た
こ と は 注 目 に 値 する 。こ こ 以外 にも 骨髄 の 造血 細胞 や皮 膚の 増 殖部 位の 細胞 が共 通 して
MCT1を 強 く 発 現 し て い た 。 低 酸 素 状 態 が 細 胞 の 分 裂 ・ 増 殖 を 刺 激 す る が 、 こ の と き 解 糖 系
の 亢進が みられるという。総合的に考 えると、細胞の分化増殖に はグルコースよりもモノカ
ルポン酸が栄養 素として重要であることが 示唆される。
【 結 論 】 本 研 究 で は 、 MCTと SMCTの 消 化 管 で の 発 現 を 組 織 化 学 的 に 解 析 し た 。 モ ノ カ ル ボ
ン 酸に特 異的な輸送体の発現を調べる ことで、消化管でのモノカ ルポン酸の産生、吸収、栄
養素としての生 物学的意義を明らかにでき た。
― 22 -
学 位論文審査の要旨
主査
副査
副査
教授
教授
教授
渡邉 雅 彦
神谷 温 之
岩永 敏 彦
学 位 論 文 題 名
消化 管にお けるモノ カルボン 酸輸送 体(S
IV
ICT
とI
VI
CT
)
の発現 様式
小腸で吸収されなかった植物由来の食物繊維と難消化性糖質は、大腸内の腸内細菌によ
る発酵の結果分解され、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を産生する。短鎖脂肪
酸は、乳酸、ケトン体とともにモノカルポン酸に分類される有機酸である。これらの短鎖
脂肪酸は腸上皮を介して吸収され、エネルギーとして利用される。最近になり、モノカル
ポン酸に特異的なトランスポーターが同定され、消化管での短鎖脂肪酸の取り込みや生体
でのモノカルボン酸の動態がある程度説明できるようになった。本研究の目的は、消化管
を中心に2
つのタイプのモ ノカルボン酸輸送体を発現する細胞の分布と細胞内局在を明ら
かにすることであった。最初に同定されたm
on
o
c
ar
b
oX
y
l
at
e
tr
a
D
sp
o
r
te
r
(M
C
Dはォとの共輸
送体 で、これまでに10
種を超えるサブタイ プの存在が示唆されている。その後、大腸が
ん抑 制遺伝子の探索からNr
依存性の輸送体 が同定され、S
MC
Tと呼ぱれるようになった。
S
MC
Tには2
つのサブタイプ がある。
本研究では、マウスの消化管、腎臓などを使い、形 態学的解析は血sぬh
yb
d
di
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ヰi
o
n法
と免疫組織化学によった。In
sm
h・y
br
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i
o
n法の結果を補うためにりアルタイムP
C
R法
も実行した。
S
MC
Tl
は回腸の末端部か ら直腸にかけて発現し、とくに遠位結腸から直腸での発現が強
かった。免疫組織化学では、陰窩上皮の管腔側が特異的に染まり、電顕レベルで刷子縁に
相当していた。一方、S
MC聡の発現は空腸で最も強く、近位回腸で弱い発現が見られた以
外は 、十 二指 腸や 大腸 での 発現 は見られなかった。SM
CT
の腸管全域で の発現は、S
MC
T1
とS
M〔:T
2が相補的な位置関係を示したことになる。
MCT
フ ァミ リー の中 で は、 M
CTl
が消化管 で十分な強さの発現を示した。ほかのメンバ
ーの 中で は、 M
CT2のみ が胃 体部 粘膜 で強 く発 現し て いた に過ぎない。MC
T1
は大腸での
発現が強く、とくに盲腸と遠位結腸で最大値を示した。胃や小腸でも弱いがコンスタント
ぬ発現が見られた。免疫組織化学では、胃腸を通じて上皮の側基底面の細胞膜ba
S
0
1a
t
er
m
m
em
br
an
eに特異的に陽性反応が観察された。
小腸の免疫組織化学により、MC
Tl
の陽性反応が陰窩から絨毛の基部にかけて上皮の側基
底面に見られた。分裂中の細胞もMC
T1
を発現し、分裂していをい細胞よりも細胞膜が厚く
染まっていた。胃では、胃小窩の底部から腺頚部にかけての増殖帯とよぱれる領域がM
CT
1
に陽性を示した。
― 23 -
モ ノ カル ボ ン 酸 の動 態 を 追 うこ と は 難 しい が 、 特 異的 な輸 送体の 発現を 調べる ことで 、そ
の 動 き や 利 用 組 織 を 判 定 で き る こ と を 示 し た 研 究 で あ る 。 本 研 究 で は 、 2種 類 の モ ノ カ ル ボ
ン 酸 輸 送 体、 と く に 細胞 レ ベ ル で出 し 入 れ を担 当 す る 輸送 体を同 時に解 析した ことに 意義が
あ る と 思 わ れ る 。 SMCT1は 細 胞 内 外 の Na+濃 度 勾 配 を 利 用 し て 、 細 胞 内 に モ ノ カ ル ボ ン 酸 を
取 り 込 む 輸送 体 で あ る。 消 化 管 では 上 皮 の 管腔 側 に 局 在し 、短鎖 脂肪酸 が産生 される 大腸で
強 く 発 現 す る こ と は 目 的 に か な っ て い る 。 SMCT2は SMCT1と 基 質 は 共 通 し て い る が 、 親 和
性 が 低 い こ と が 特 徴 で あ る 。 消 化 管 で は 空 腸 に SMCT2が 発 現 し 、 食 事 由 来 の モ ノ カ ル ポ ン
酸 ( 酢 、 発酵 食 品 や 乳製 品 に 含 まれ る 乳 酸 )の 吸 収 に 関与 してい る可能 性が示 された 。つい
で 、 本 研 究 は 、 MCT1が 消 化 管 の 主 要 な MCTで あ り 、 大 腸 に 強 く 発 現 す る こ と 、 細 胞 の 側 基
底 面 に 限 局 し た 発 現 を 示 す こ と を 確 実 に し た 。 MCT1が 小 腸 や 胃 の 細 胞 増 殖 帯 に 集 中 し て 発
現 し 、 と くに 分 裂 中 の細 胞 が 強 く標 識 さ れ たこ と は 注 目に 値する 。細胞 の分化 増殖に はグル
コ ー ス よ り も モ ノ カ ル ポ ン 酸 が 栄 養 素 と し て 重 要 で あ る こ とを 示 し たと い え る。
発 表 後 の 質 疑 応 答 で は 、 ◎ 共 輸 送 さ れ る 基 質 が 違 う こ と の 意 味 づ け 、 ◎ SMCTと MCTの 輸
送 カ の 強 さ の 違 い 、 ◎ モ ノ カ ル ボ ン 酸 と 細 胞 増 殖 と の 関 係 を 確 実 に す る た め の 方 策 、 @ KO
マ ウ ス で の 表 現 方 、 ◎ 管 腔 側 と 側 基 底 側 ヘ ト ラ ン ス ポ ー タ ー を 振 り 分 け る 機 序 、 ◎ SMCT
と MCTが 共 存 し な い 場 合 の 輸 送 機 構 の 解 釈 、 な ど に つ い て 活 発 な 質 疑 応 答 が あ っ た 。 申 請
者 は 文 献 上 の 情 報 を 紹 介 し つ つ 、 こ れ ら の 質 問 に 的 確 に 応 答 し て い た 。
こ の 論文 は 、 モ ノカ ル ポ ン 酸に 特 異 的 な輸 送 体 の 発現 を調 べるこ とで、 消化管 でのモ ノカ
ル ポ ン 酸 の産 生 、 吸 収、 栄 養 素 とし て の 生 物学 的 意 義 を明 らかに した点 で高く 評価さ れ、栄
養 素 の 取 り込 み と 利 用機 構 の 全 貌解 明 が 今 後期 待 さ れ る。
審 査 員 一 同 は 、 こ れら の 成 果 を高 く 評 価 し、 申 請 者 が博 士 ( 医 学) の 学 位 を受 け る の に
充 分 な 資 格を 有 す る もの と 判 定 した 。
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