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高齢者における 情報通信技術の利用現状
生活知識情報 高齢者における 情報通信技術の利用現状 第 11回 近藤 則子 少 子 高 齢 化 が 進 む 日 本。 その現状と私たちや社会 ができる対策を考えます。 Kondou Noriko 老人を助けるテクノロジー(老テク)研究会事務局長。 2011年より総務省情報通信審議会委員を務める。 『情報通信白書 平成25年版』によると、情報 高齢になれば、個人差はありますが誰にも心 通信機器の普及状況は「携帯電話・PHS」が 身の「老化」はやってきます。疾病率も急増し 94.5%で、このうち49.5%を「スマートフォン」 ます。老化による能力の低下には 「見えにくい」 「聞こえにくい」 「覚えにくい」などがあります (以下、スマホ)が占めています。これからも が、とりわけ「聞こえにくい」と、電話での不 スマホの普及率は増えるという予想もあります。 便が生じるため、高齢者本人だけではなく、家 族や知人も大変困ります。特に災害時に電話連 高齢者と I CT 絡が取れないことは、時に生死を分けることも ある切実な問題です。 インターネットなどの情報通信技術(ICT*1) 一方、高齢者が I CTを利用するメリットは、 を利用する人が増えていますが、こうした動向 から取り残されている高齢者がいることを忘れ 「病気や介護が必要な状態などで移動や外出が てはなりません。現在、国内のインターネット人 困難な場合でも自宅から情報が入手できる」 「離 口普及率は約8割ですが、使っていない人の多 れていても家族や友人たちとコミュニケーショ くは高齢者です(普及率は65 ~ 69歳で62.7%、 ンがとれる」 「加齢による障がいを I CTが補って 70 ~ 79歳で48.7%) (同白書より) 。 くれる」 「新しい趣味や生きがいを発見できる」 などです。 I CTを利用することには、情報を収 高齢者が I CTを利用しない理由として、 「パソ コンや携帯電話の操作が難しくて使い方が分か 集するだけでなく発信する楽しさもあります。 らない」「インターネットを使えなくても何も 家族とメールができたり、気の合う仲間と趣味 困らない、必要性を感じない」ことが考えられ を楽しんだり起業したり、地域活動に参加した ます*2。 りと社会貢献に取り組むこともできます。 「インターネットを使えなくても何も困らな い、必要性を感じない」ということは、逆説的 I CTの問題点 に「メリットを知らない」高齢者が多いととら えることもできます。しかし、紙の切符が I C では次に、 I CTを利用している高齢者が困っ カード乗車券に変わったように、これからは企 ている点をみてみましょう。 業や行政からの情報は「紙」から「デジタル」 老人を助けるテクノロジー(老テク)研究会 に移行していくでしょう。高齢者がデジタル情 では、 「高齢者はICTの何に困っているの?」と 報にアクセスしないことによる情報格差がます いう調査を行いました*3。 ます広がるのではないかと危惧されます。 これによると、主な理由として「新しい機器 2013.11 国民 生 活 22 生活知識情報 の操作」や、「音声が聞こえにくい」などに関す 報道されるので、インターネット社会は犯罪の ることでした。 温床のごとく「危険」と思われてしまっている さらに、「情報機器が使いにくい理由」には、 ことも理由の1つではないでしょうか。 「情報機器の説明書の意味が分からない」こと 老テク研究会では病気や災害時にメールを使 が挙げられました。説明書の文字が小さくて老 えるようにと、ボランティアで高齢者を対象と 眼では読みにくいのも理由の1つでしょう。ま したパソコン教室や携帯電話教室を高齢者団体 た、自分の知りたいことがどこに書いてあるの や企業や行政と協力して開催してきました。高 か分からないうえ、 読んでも意味が分からない。 齢者向けのパソコンや携帯電話教室の運営方法 なぜなら説明書には、英語やカタカナ、専門用 のヒントやテキストなどはインターネットで公 語などが多く並んでいるからです。訪問サポー 開していますので活用してください*4。 トや電話サポートもありますが、企業の訪問サ *1 Information&Communication Technologyの略 *2 「シニアとインターネットサービスに関するネットアンケート調 査結果」(ICS研究会 2006) ポートは1回5,000円以上などと値段も高く、そ う度々は使えません。電話の声が聞き取りにく *3 総務省情報通信審議会情報通信政策部会研究開発戦略委員会 (第 5回)資料 い高齢者にとっては、電話サポートを受けるこ *4 携帯電話教室支援サイト モバイルシニアネット「楽しいケータ イ活用講座」「テキストダウンロード」 http://mcis.communitylink.jp/about/ とも難しいのです。 また、 I CTの影の部分がテレビや新聞で度々 「シニアネット」の活動 ポート活動がそのきっかけを作ってくれます」と 「シニアネット」とは、 「高齢者による高齢者の 言います。 ためのパソコンサポート」のことです。もともと はアメリカで始まり、ボランティアで高齢者のパ また、日本のシニアネットの草分けである仙台 ソコン情報学習を支援しています。20年前に老テ 市のNPO法人「仙台シニアネットクラブ」の初 ク研究会が始めて、今では日本各地に誕生し、行 代会長、 井桁章さん(80歳代)は「パソコンの“い 政から「 I T講習会」を請け負っている団体もあり ろは”を子どもたちに教えることが年寄りの新し ます。 い役目」と言います。青少年の「ネットトラブル」 あ び い けた こ 千葉県我孫子市にあるNPO法人「あびこ・シニ などが深刻な問題になっている昨今、パソコンス ア・ライフ・ネット」 (通称アシラネ)は、退職し キルやインターネット社会のルールを高齢者が子 たエンジニア5人が始めたシニアネット団体で どもたちに教えることが大事なのです。 す。誠実な活動が地域の高齢者の信頼を得て、現 在では「シニアの便利屋」として、パソコン講座 をはじめ、庭仕事や病院への送迎、買い物や家事 支援までさまざまなサービスを有償で提供してい ます。 写真はアシラネ会員の I さん(60歳代)と利用会 員Mさん(70歳代)です。病気の後遺症で転倒が怖 くて外出ができなかったMさんは、買い物の手伝 いをお願いしました。アシラネの理事長、佐々木 敏夫さん(70歳代)は「高齢者は、誰かが家に来て 「5年ぶりに買い物ができました。自分が選んだお魚や果物を食 べられて本当にうれしい」とMさん。(筆者撮影) くれることを喜んでくれます。パソコンの訪問サ 2013.11 国民 生 活 23