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日本人カーリング選手における膝関節障害の実態とその
2011年度 修士論文 日本人カーリング選手における 膝関節障害の実態とその運動学的要因 Knee injury and risk factors in curling 早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 身体運動科学研究領域 5 0 1 0 A0 6 6 - 1 橋本 祥太朗 S h o t ar o H A S H I M O T O 指導教員: 矢内 利政 教授 <目次> 第 1 章 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1- 1 序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1- 2 オーバーユースの定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 1- 3 本研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第 2 章 カ ー リ ン グ に お け る 膝 関 節 障 害 と 練 習 時 間 ,練 習 日 数 の 関 連 ・・ 6 2- 1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2- 2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2- 3 2- 2- 1 調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2- 2- 2 対象者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2- 2- 3 調査項目・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2- 2- 4 デ ー タ 分 析 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11 2- 2- 5 統 計 処 理 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 12 2- 3- 1 カ ー リ ン グ に お け る 障 害 発 生 数 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ 12 2- 3- 2 カ ー リ ン グ に お け る 膝 関 節 障 害 発 生 数 ・・・・・・・・・・・ 13 2- 3- 3 膝 関 節 障 害 に お け る 障 害 側 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14 2- 3- 4 非 利 き 手 側 に お け る 膝 関 節 障 害 詳 細 部 位 ・・・・・・・・・・ 15 2- 3- 5 膝 関 節 障 害 と 練 習 の 関 連 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 16 2- 3- 6 膝 関 節 障 害 の 有 無 に お け る 競 技 経 験 年 数 の 違 い ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18 2- 3- 7 膝 関 節 障 害 の 有 無 に お け る 年 齢 の 違 い ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 19 2- 4 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 20 2- 5 ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 23 第 3 章 カ ー リ ン グ に お け る デ リ バ リ ー 動 作 中 の 3 次 元 膝 関 節 角 度 ・・・ 2 4 3- 1 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 24 3- 2 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25 3- 2- 1 対 象 者 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25 3- 2- 2 測 定 環 境 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25 3- 2- 3 測 定 試 技 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25 3- 2- 4 デ ー タ 収 集 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 26 3- 2- 5 デ ー タ 処 理 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28 3- 2- 6 デ ー タ 分 析 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 31 3- 2- 7 統 計 処 理 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 32 3- 3 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 33 3- 4 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 35 3- 5 ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 39 第 4 章 総 括 論 議 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 40 第 5 章 結 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 42 付録 男 子 カ ー リ ン グ 選 手 と 一 版 成 人 男 性 の 膝 関 節 可 動 域 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ 43 参 考 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47 謝 辞 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 51 第 1 章 緒言 1- 1 序 カ ー リ ン グ と は , 氷 上 に 描 か れ た 的 (ハ ウ ス )の 中 に , 1 チ ー ム 4 人 で 1 人 2 投 ず つ , 相 手 チ ー ム と 交 互 に 円 形 の 花 崗 岩 (ス ト ー ン )を 投 げ 入 れ て 点 数 を 競 い 合 う 競 技 で あ る . 本 邦 で は 1998 年 長 野 オ リ ン ピ ッ ク で 正 式 種 目 に 採 用 さ れ て 以来,徐々に競技者が増加し,広く知られるようになってきた.また,競技レ ベ ル も 徐 々 に 向 上 し , 特 に 女 子 日 本 代 表 は 1998 年 長 野 オ リ ン ピ ッ ク に 出 場 し て以来 3 大会連続でオリンピック出場を果たしており,その活躍が注目されて いる.しかし,本邦において,実業団やプロ選手として活動する者は極めて少 なく,大多数がアマチュア選手として活動している.そのため,医療スタッフ やトレーナー等を帯同せず,選手個人で情報を得て,独自に障害予防やコンデ ィショニング,トレーニングを実施しているのが現状である.障害予防などを 実施する際,医科学的知見を考慮することで効果的に実施できると考えられる が,カーリングに関する医科学的知見を報告したものは非常に少ない. Reeser & Berg(2004)は 全 米 選 手 権 に 出 場 し た カ ー リ ン グ 選 手 76 名 を 対 象 に アンケート調査を実施し,膝関節に障害を抱える選手が多かったと報告してい る .し か し ,こ の 調 査 は 競 技 レ ベ ル の 高 い 少 人 数 の 選 手 を 対 象 に 行 わ れ て お り , スポーツとしてカーリングを行う母集団における障害の実態は明らかになって いない.本邦においてはカーリング選 手における膝半月板損傷,膝蓋大腿関 節障害,鵞足炎,腸脛靭帯炎の症例が 報 告 さ れ て い る の み で ( 高 橋 2 0 11 ) , 本 図 1 邦におけるカーリングに起因する膝関 -1- カーリングで用いられる動作 節障害の実態は明らかではない. カーリングは氷上にストーンを投げるデリバリーと呼ばれる動作と,投じら れ た ス ト ー ン の 挙 動 を 調 整 す る ス イ ー プ と 呼 ば れ る 動 作 で 行 わ れ ( 図 1 ) ,1 試 合 約 3 時間の間,選手はこの 2 つの動作のみを繰り返し行っている.つまり,カ ーリングは同一動作を繰り返す競技であるといえる.同一動作を繰り返す競技 において生じる障害に関して,多くの報告がされており,バレーボール選手は ジャンプ動作を繰り返すために,ジャンパー膝と呼ばれる障害が多く生じると い わ れ て い る ( 林 ら 1 9 9 9 ,佐 藤 ら 2 0 0 5 ) .水 泳 に お い て ,一 流 競 泳 選 手 の 約 8 0 % が 何 ら か の 障 害 を 経 験 し て い る と 報 告 さ れ て お り (片 山 ら 2000), ま た , 金 岡 ら (2004)は 40 歳 以 上 の 一 般 選 手 に 対 し て 障 害 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 い , その結果,半数以上の選手が既往または障害を有していたと報告している.バ レ ー ボ ー ル や 水 泳 だ け で な く ,テ ニ ス で は テ ニ ス 肘 ,野 球 で は 野 球 肘 や 野 球 肩 , ランニングではランナー膝など,ある同一動作を繰り返し行う競技では,オー バ ー ユ ー ス 障 害 が 多 く 生 じ る と い わ れ て い る ( 武 藤 1 9 9 2 ,大 久 保 ら 1 9 9 1 ,J a m e s e t a l 1 9 7 8 , R e n s t r o m & J o h n s o n 1 9 8 5 , Wi l d e r e t a l 2 0 0 4 ) . カーリングはハウスの中心に相手 よりも多くのストーンを投げ入れる ことで得点を得ることが出来るため, 狙うべきところに正確に投げる技術 (投 球 正 確 度 率 )が 高 い チ ー ム ほ ど 試 合 に 勝 利 す る 可 能 性 が 高 い (増 山 ら 1993) . そ の た め , 選 手 は ス ト ー ン を投じる技術であるデリバリー動作 の練習に多くの時間を費やしている ( 小 川 2 0 0 6 ) .デ リ バ リ ー 動 作 は 非 利 図 2 -2- デ リ バ リ ー 動 作 (石 を 投 げ る 動 作 ) き手側の股関節と膝関節を大きく屈曲し,利き手側の股関節と膝関節を伸展さ せ,利き手でストーンを把持し,その姿勢を維持したまま数秒間氷上を滑り, ス ト ー ン を 投 じ る 動 作 で あ る (図 2). デ リ バ リ ー 動 作 で は , つ ま 先 を 外 に 向 け る こ と が 推 奨 さ れ て お り (小 川 2006), こ の と き , 股 関 節 は 屈 曲 ・ 外 転 ・ 外 旋 , 膝関節は屈曲・内反・外旋しているように観察される.一般に,膝関節屈曲を 伴 う 過 度 な 回 旋 や 内 外 反 は 膝 関 節 障 害 の 発 生 要 因 だ と 言 わ れ て い る (板 倉 2008, Krivickas1997, Noehren2007)こ と か ら , デ リ バ リ ー 動 作 は 膝 関 節 障 害 の 発 生 要因となる膝関節屈曲を伴う過度な回旋や内外反を含み,そのようなデリバリ ー動作を練習で長時間,高頻度繰り返すことで膝関節にオーバーユース障害を 生じさせると考えられる. そこで本研究では,カーリングにおける膝関節障害の実態を明らかにし,そ の要因を検討することを目的とした. 1- 2 オーバーユース障害の定義 ジャンプ動作や走動作を繰り返す際は膝関節を繰り返し使用し,クロールな どの泳動作や投球動作では肩関節を使用することから,ある同一動作を繰り返 すということは,その動作で用いる部位を繰り返し使用することといえる.そ のため,同一動作を繰り返すような競技では,動作で用いる部位を繰り返し使 用することで,その部位に疲労が蓄積する,あるいは,筋や腱,靭帯などに軽 微な損傷が生じる.この疲労や軽微な損傷の回復には,トレーニング間で少な く と も 1 日 間 の イ ン タ ー バ ル が 必 要 で あ る と 言 わ れ て お り ( B i s h o p e t a l 2 0 11 , B a e c h l e & E a r l e 2 0 0 2 ) ,ト レ ー ニ ン グ を 少 な く と も 1 日 間 以 上 の イ ン タ ー バ ル を空けずに行い,疲労や軽微な損傷が回復しないうちに,更にその部位を繰り 返し使用することで筋や腱,靭帯などが損傷し,オーバーユース障害は引き起 こ さ れ る (林 ら 1999,佐 藤 ら 2005,片 山 ら 2000,金 岡 ら 2004,武 藤 1992,大 -3- 久 保 ら 1 9 9 1 ,J a m e s e t a l 1 9 7 8 ,R e n s t r o m & J o h n s o n 1 9 8 5 ,W i l d e r e t a l 2 0 0 4 ) . つまり,オーバーユース障害を引き起こす主な要因は動作を繰り返す時間と頻 度 で あ る と 言 え る (J a m e s e t a l 1 9 7 8 , R e n s t r o m & J o h n s o n 1 9 8 5 , Wi l d e r e t a l 2 0 0 4 ) . O ' To o l e e t a l ( 1 9 8 9 ) は 一 流 ト ラ イ ア ス ロ ン 選 手 男 女 9 5 名 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い , 91%の 選 手 が オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 の 既 往 を 持 ち , 1 回 平 均 3.45 時 間 の 練 習 を 平 均 週 6 日 行 っ て い た と 報 告 し . 笠 次 ら (2002)は ト ラ イ ア ス ロ ン 愛 好 者 男 女 64 名 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い , 52% の 選 手 が オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 の 既往を持ち,1 回約 2 時間の練習を週 5 日行っていたと報告し,また,石井ら ( 1 9 9 7 ) は ト ラ イ ア ス ロ ン 選 手 男 女 2 4 2 3 名 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い ,6 1 % の 選 手 が オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 の 既 往 を 持 ち , 練 習 を 週 4~ 5 日 行 っ て い た と 報 告 し て い る .ま た ,辻 ら (1989)は 高 校 陸 上 選 手 61 名 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い ,1 人 あ た り 1.01 件 の 割 合 で オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 が 発 生 し , 2~ 3 時 間 の 練 習 を 週 6 日 行 っ て い た と 報 告 し て い る .金 岡 ら ( 2 0 0 4 ) は 平 均 5 4 . 6 歳 の 水 泳 選 手 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い ,52 % の 選 手 が オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 の 既 往 を 持 ち ,1 回 平 均 1 .16 時 間 の 練 習 を 1 週 平 均 3.6 回 行 っ て い た と 報 告 し て い る . こ れ ら の こ と か ら , 少 な く と も 1 回 2 時 間 以 上 の 練 習 を 週 4 日 以 上 行 う と ,オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 が 生じる可能性が高いと考えられる.これは,疲労や軽微な損傷の回復に必要と される 1 日間以上のインターバルがとられておらず,オーバーユース障害を引 き起こす要因と一致する.そこで,本研究で我々は,1 回 2 時間以上の練習を 週 4 日以上継続的に行う選手に生じる障害をオーバーユース障害と定義した. -4- 1- 3 本研究の概要 本研究の目的はカーリングにおける膝関節障害の実態を明らかにし,その要因 を検討することである.そのために,第 2 章では膝関節障害の実態を調査し, 膝関節障害を引き起こす要因はオーバーユースであるか否かを検討し,第 3 章 では膝関節障害を引き起こす運動学的要因を検討した.各章の概要を以下に示 す. (1)カ ー リ ン グ に お け る 膝 関 節 障 害 と 練 習 時 間 , 練 習 日 数 の 関 連 (第 2 章 ) カーリングにおける膝関節障害発生数を明らかにするために,本邦のカーリ ング選手を対象に障害調査を行い,得られた回答から膝関節障害発生数を算出 し,膝関節障害の有無における練習時間,練習日数の違いをχ 2 検定で検討し た. (2)カ ー リ ン グ に お け る デ リ バ リ ー 動 作 中 の 3 次 元 膝 関 節 角 度 (第 3 章 ) デリバリー動作中の膝関節角度を明らかにするために,カーリング選手を対 象にデリバリー動作を行わせ,その時の膝関節角度を計測した.得られた膝関 節角度から,膝関節障害となり得るような過度な回旋や内外反が含まれるかを 検討した. -5- 第 2 章 カーリングにおける膝関節障害と練習時間,練習日数の関連 2- 1 目的 Reeser & Berg(2004)は カ ー リ ン グ に は 膝 関 節 障 害 が 多 い と 報 告 し て い る が , この報告は競技レベルの高い少人数の選手を対象に行われたものであり,スポ ーツとしてカーリングを行う母集団における膝関節障害の実態を明らかにして いない.また,本邦においても膝関節障害が多く発生しているか,その実態も 明らかではない. カ ー リ ン グ は 狙 う べ き と こ ろ に 正 確 に 投 げ る 技 術 (投 球 正 確 度 率 )が 高 い チ ー ム ほ ど 試 合 に 勝 利 す る 可 能 性 が 高 い と 報 告 さ れ て い る た め ( 増 山 ら 1 9 9 3 ) ,デ リ バリー動作と呼ばれる,非利き手側の膝関節を大きく屈曲し,その姿勢を維持 し た ま ま 数 秒 間 氷 上 を 滑 り , ス ト ー ン を 投 じ る 動 作 (図 2)の 練 習 に 多 く の 時 間 を 費 や す (小 川 2006). 同 一 動 作 を 繰 り 返 し 行 う 競 技 で は , そ の 動 作 で 用 い る 部 位を繰り返し使用することでその部位が疲労し,その疲労が回復しないうちに 更にその部位を繰り返し使用することで靭帯や腱などが損傷するオーバーユー ス 障 害 が 多 く 生 じ る と い わ れ て い る (武 藤 1992, 大 久 保 ら 1991, James et al 1978 , Rens trom & Johns on 1985, Wi lder et al 2004). こ の こ と か ら , カ ー リングでは,デリバリー動作を長時間,高頻度で練習することで,膝関節にオ ーバーユース障害が多く発生する可能性が考えられる. そこで本章では,カーリングにおける膝関節障害発生数を明らかにし,膝関 節 障 害 の 有 無 に お け る 練 習 時 間 ,練 習 日 数 の 違 い を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た . -6- 2- 2 方法 2- 2- 1 調査方法 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 に 質 問 紙 を 記 載 し , 対 象 者 に 質 問 紙 (図 3)が 記 載 さ れ て い るインターネットサイトへアクセスしてもらい,回答を得た.なお,障害が複 数 生 じ て い た 場 合 は , 障 害 の 数 だ け 複 数 回 回 答 さ せ た . 調 査 期 間 は 2 0 11 年 8 月 3 日 か ら 2 0 11 年 9 月 3 日 の 1 ヶ 月 間 と し た . 対 象 者 に は イ ン タ ー ネ ッ ト 上 に記載された調査説明文書を熟読するよう指示し,調査に回答することで本調 査への同意を得たものとした.本調査を行なうに際し,早稲田大学人を対象と する研究に関する倫理審査委員会の承認を得た. 2- 2- 1 対象者 質 問 紙 が 記 載 さ れ た イ ン タ ー ネ ッ ト サ イ ト の URL が 記 載 さ れ た 葉 書 を 日 本 カ ー リ ン グ 協 会 に 選 手 登 録 を 行 っ て い る 16 歳 以 上 の 選 手 全 員 (2299 名 )に 送 付 す る こ と で 調 査 へ の 回 答 を 依 頼 し , 回 答 の 得 ら れ た 416 名 (回 答 率 18.1% , 男 性 325 名 , 女 性 91 名 , 年 齢 40.0±13.0 歳 , 競 技 経 験 年 数 10.2±8.0 年 )を 対 象 者とした. 2- 2- 3 (1) 調査項目 2010 年 シ ー ズ ン 中 に 生 じ た 障 害 部 位 (現 在 の 障 害 ) 2010 年 シ ー ズ ン 中 に 練 習 や 試 合 に 影 響 を 及 ぼ す ほ ど の 痛 み (障 害 )が あ っ た 部位を選択させた.選択肢は首・頚部,背中,腰部,肩,肘,手首,股関節, 膝,足首,その他とした. -7- (2) 現在の障害部位の詳細 2010 年 シ ー ズ ン 中 に 練 習 や 試 合 に 影 響 を 及 ぼ す ほ ど の 痛 み (障 害 )が あ っ た 部 位 に 関 し て ,障 害 側 や 障 害 が 生 じ て い た 部 位 の 具 体 的 な 場 所 ( 回 答 例 : 膝 の 左 の 内 側 ,膝 の 左 の 膝 蓋 骨 の 少 し 上 )と ,診 断 が つ い た 場 合 ,診 断 名 を 対 象 者 に 自 由に記述させた. (3) 過 去 に 生 じ た 障 害 部 位 (過 去 の 障 害 ) 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 練 習 や 試 合 に 影 響 を 及 ぼ す ほ ど の 痛 み (障 害 )が あ っ た部位を選択させた.選択肢は,首・頚部,背中,腰部,肩,肘,手首,股関 節,膝,足首,その他とした. (4) 過去の障害部位の詳細 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 練 習 や 試 合 に 影 響 を 及 ぼ す ほ ど の 痛 み (障 害 )が あ っ た 部 位 に 関 し て ,障 害 側 や 障 害 が 生 じ て い た 部 位 の 具 体 的 な 場 所 ( 回 答 例 : 膝 の 左 の 内 側 ,膝 の 左 の 膝 蓋 骨 の 少 し 上 )と ,診 断 が つ い た 場 合 ,診 断 名 を 対 象 者 に 自由に記述させた. (5) シーズン中の 1 回あたりの平均練習時間 シーズン中における,1 回あたりの平均練習時間を選択させた.選択肢は, 30 分 未 満 ,30 分 以 上 1 時 間 未 満 ,1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 ,2 時 間 以 上 3 時 間 未 満,3 時間以上とした. -8- (6) シ ー ズ ン 中 の 1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 シーズン中における,1 週間あたりの練習日数を選択させた.選択肢は,週 0 日,週 1 日,週 2 日,週 3 日,週 4 日,週 5 日,週 6 日,週 7 日とした. (7) 過去の障害が生じていた際の 1 回あたりの平均練習時間 過去の障害が生じていた際の,1 回あたりの平均練習時間を選択させた.選 択 肢 は ,30 分 未 満 ,30 分 以 上 1 時 間 未 満 ,1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 ,2 時 間 以 上 3 時間未満,3 時間以上とした. (8) 過去の障害が生じていた際の 1 週間あたりの練習日数 過去の障害が生じていた際の,1 週間あたりの練習日数を選択させた.選択 肢は,週 0 日,週 1 日,週 2 日,週 3 日,週 4 日,週 5 日,週 6 日,週 7 日と した. -9- 図 3 質問紙 - 10 - 2- 2- 4 (1) データ分析 1 人あたりの障害発生数・膝関節障害発生数 現在の障害数と過去の障害数を集計した.1 人あたりの障害発生数は,現在 の 障 害 数 と 過 去 の 障 害 数 を 合 計 し , 対 象 者 416 名 で 除 し て 算 出 し た . 1 人 当 た りの膝関節障害発生数も同様に算出した. (現在の障害数+過去の障害数) 1人あたりの障害発生数 = 対象者数 (2) 膝関節障害における障害側 障 害 の 具 体 的 な 場 所 を 問 う 項 目 に お い て ,2 0 1 0 年 シ ー ズ ン 中 あ る い は そ れ 以 前に膝関節に障害を生じていた者が自由に記述した回答を,利き手側・非利き 手側に分類し,集計した. (3) 膝関節障害詳細部位 障 害 の 具 体 的 な 場 所 を 問 う 項 目 に お い て , 2010 年シーズン中あるいはそれ以前に膝関節に障害を有 していた者が自由に記述した回答を,膝蓋骨近位端 よ り 頭 部 側 ( 上 部 ) ,膝 蓋 骨 尖 よ り 足 部 側 ( 下 部 ) ,膝 蓋 骨 内 側 端 よ り 内 側 (内 側 ),膝 蓋 骨 外 側 端 よ り 外 側 (外 側 ), 膝 蓋 骨 中 央 付 近 (中 央 ), 膝 裏 の 計 6 ヶ 所 に 分 類 (図 4)し , 集 計 し た . 図 4 2- 2- 5 左膝関節を正面から見た図 統計処理 膝関節障害の有無における 1 回あたりの練習時間,1 週間あたりの練習日数 の違いを,χ 2 検定を用いて検討した.また,膝関節障害の有無における競技 経験年数,年齢の違いを対応のない t 検定を用いて検討した.検定における有 - 11 - 意水準は,第 1 種 の 過 誤 が 生 じ る 確 率 を 小 さ く す る た め に 先 行 研 究 (金 岡 ら 2004)に な ら い , 1%と し た . 統 計 処 理 に は , 統 計 解 析 ソ フ ト (SPSS 12.0J for Wi n d o w s ) を 用 い た . 2- 3 結果 2- 3- 1 カーリングにおける障害発生数 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 障 害 の 既 往 を 有 し た 選 手 は 157 名 (37.7% )で あ り , 2 0 1 0 年 シ ー ズ ン に 障 害 を 有 し て い た 選 手 は 11 0 名 ( 2 6 . 4 % ) で あ っ た ( 表 1 ) . そ の う ち , 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 障 害 の 既 往 が あ り , か つ 2010 年 シ ー ズ ン に 障 害 を 有 し て い た 選 手 は 65 名 (16.5% )で あ り , 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 障 害 の 既 往 が あ る が , 2010 年 シ ー ズ ン に 障 害 が な か っ た 選 手 は 92 名 (22.1% ), 2010 年 シ ー ズ ン 以 前 に 障 害 の 既 往 は な い が ,2 0 1 0 年 シ ー ズ ン に 障 害 を 有 し て い た 選 手 は 4 5 名 ( 1 0 . 8 % ) ,2 0 1 0 年 シ ー ズ ン 以 前 に 障 害 の 既 往 も 2 0 1 0 年 シ ー ズ ン に も 障 害 が な か っ た 選 手 は 214 名 (51.4% )で あ っ た . 1 人 あ た り の 障 害 発 生 数 は 0.64 件であった. 表 1 現在と過去の障害発生数 現在の障害と過去の障害 両 方 有 し て い る 者 は 65 名 . - 12 - 2- 3- 2 カーリングにおける膝関節障害発生数 2010 年 シ ー ズ ン の 膝 関 節 障 害 発 生 数 は 40 件 で あ り , 過 去 の 膝 関 節 障 害 発 生 数 は 68 件 で あ り , 計 108 件 で あ っ た . 1 人 あ た り の 膝 関 節 障 害 発 生 数 は 0.26 件 で あ っ た . 膝 関 節 障 害 発 生 数 は 障 害 発 生 数 の 40.4%を 占 め , 他 部 位 に 比 べ て 最 も 高 い 割 合 で あ っ た (図 5). また,膝関節障害において,診断名がついた ものは半月板損傷 6 件,膝関節炎 9 件,内側側副靱帯損傷 1 件であった. 図 5 障害部位別内訳 - 13 - 2- 3- 3 膝関節障害における障害側 膝 関 節 に 障 害 を 生 じ た 108 件 の う ち , 72 件 (66.7%)が 非 利 き 手 側 で あ り , 25 件 ( 2 3 . 1 % ) が 利 き 手 側 で あ っ た ( 図 6 ) .1 1 件 は 対 象 者 が 障 害 側 を 記 述 し て い な か ったため,分類することができなかった. 図 6 膝関節障害における障害側 - 14 - 2- 3- 4 非利き手側における膝関節障害詳細部位 非 利 き 手 側 に 膝 関 節 障 害 を 生 じ た 72 件 の う ち , 内 側 36 件 (50.0%), 下 部 6 件 ( 8 . 3 % ) ,中 央 4 件 ( 5 . 6 % ) ,外 側 3 件 ( 4 . 2 % ) ,上 部 2 件 ( 2 . 8 % ) ,膝 裏 2 件 ( 2 . 8 % ) で あ っ た (図 7). 18 件 は 対 象 者 が 詳 細 部 位 を 記 述 し て い な か っ た た め , 分 類 す ることができなかった. 図 7 非利き手側における膝関節障害詳細部位 - 15 - 2- 3- 5 (1) 膝関節障害と練習の関連 1 回あたりの練習時間 回 答 の 得 ら れ た 416 名 の 1 回 あ た り の 練 習 時 間 は , 30 分 未 満 25 件 (6.0%), 30 分 以 上 1 時 間 未 満 36 件 (8.7%), 1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 199 件 (47.8%), 2 時 間 以 上 3 時 間 未 満 138 件 (33.2%), 3 時 間 以 上 18 件 (4.3%)で あ り , 練 習 を 1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 行 っ て い る 選 手 が 最 も 多 か っ た .膝 関 節 障 害 を 生 じ た 1 0 8 名 の 1 回 あ た り の 練 習 時 間 の 割 合 は ,3 0 分 未 満 1 4 . 8 % ,3 0 分 以 上 1 時 間 未 満 1 2 . 0 % , 1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 37.0%, 2 時 間 以 上 3 時 間 未 満 29.6%, 3 時 間 以 上 6.5% で あ り , 膝 関 節 障 害 を 生 じ て い な い 214 名 の 1 回 あ た り の 練 習 時 間 の 割 合 は , 30 分 未 満 7.0%, 30 分 以 上 1 時 間 未 満 7.5%, 1 時 間 以 上 2 時 間 未 満 46.7%, 2 時 間 以 上 3 時 間 未 満 33.6%, 3 時 間 以 上 5.1%で あ っ た (図 8). 膝 関 節 障 害 の 有 無による 1 回あたりの練習時間の違いを検討したところ,有意な差は認められ なかった. 図 8 1 回あたりの練習時間 - 16 - (2) 1 週間あたりの練習日数 回 答 の 得 ら れ た 416 名 の 1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 は , 0 日 74 件 (17.8%), 1 日 194 件 (46.6%),2 日 97 件 (23.3%),3 日 28 件 (6.7%),4 日 5 件 (1.2%),5 日 10 件 (2.4%). 6 日 3 件 (0.7%), 7 日 5 件 (1.2%)で あ り , 練 習 を 週 1 日 行 っ て い る 選 手 が 最 も 多 か っ た .膝 関 節 障 害 を 生 じ た 1 0 8 名 の 1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 の 割 合 は , 0 日 25.0%, 1 日 42.6%, 2 日 15.7%, 3 日 5.6%, 4 日 1.9%, 5 日 4.6%. 6 日 0.9%, 7 日 3.7%で あ り , 膝 関 節 障 害 を 生 じ て い な い 214 名 の 1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 の 割 合 は ,0 日 1 7 . 6 % ,1 日 4 7 . 2 % ,2 日 2 8 . 0 % ,3 日 3 . 3 % , 4 日 0.9%,5 日 1.4%.6 日 0.5%,7 日 0.9%で あ っ た (図 9).膝 関 節 障 害 の 有 無 による 1 週間当たりの練習日数の違いを検討したところ,有意な差は認められ なかった. 図 9 1 週間あたりの練習日数 - 17 - 2- 3- 6 膝関節障害の有無における競技経験年数の違い 膝関節障害の有無における競技経験年数の違いを t 検定で検討したところ, 両 者 に 有 意 な 差 が 認 め ら れ ,膝 関 節 障 害 が 生 じ て い た 者 は ,生 じ て い な い 者 に 比 べ て 競 技 経 験 年 数 が 長 い こ と が 示 さ れ た ( 表 2 ) .図 1 0 は 競 技 経 験 年 数 別 における膝関節障害発生率を示す. 表 2 60 障害の有無における競技経験年数の違い (%) 50 40 30 20 10 0 ~5 6~10 図 10 11~15 16~20 21~25 競技経験年数別膝関節障害発生率 - 18 - 26~ (年) 2- 3- 7 膝関節障害の有無における年齢の違い 膝 関 節 障 害 の 有 無 に お け る 年 齢 の 違 い を t 検 定 で 検 討 し た と こ ろ ,両 者 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た ( 表 3 ) .図 11 は 年 齢 別 に お け る 膝 関 節 障 害 発 生 率を示す. 表 3 60 障害の有無における年齢の違い (%) 50 40 30 20 10 0 10代 20代 図 11 30代 40代 50代 年齢別膝関節障害発生率 - 19 - 60代 70代 2- 4 考察 本 調 査 で は ,4 1 6 名 の 回 答 か ら ,カ ー リ ン グ で は 1 人 あ た り 0 . 6 4 件 の 割 合 で 何らかの障害が発生していることが明らかになった.また,カーリングにおけ る 障 害 の う ち 40.4%が 膝 関 節 に 生 じ て お り , 他 部 位 に 比 べ 最 も 多 く , 1 人 あ た り 0 . 2 6 件 の 割 合 で 発 生 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た .こ の こ と か ら ,本 邦 の カーリングにおける障害も,米国と同様に膝関節に最も多く発生していること が示された.カーリングに関する障害調査は非常に少なく,唯一実施された調 査は高い競技レベルの少数の選手を対象に行われたもので,本章で得られた結 果は,スポーツとしてカーリングを行う母集団における大多数の選手を対象に したことにより,カーリングにおける障害の実態を把握する重要な知見である といえる. 本 研 究 の 結 果 と Reeser & Berg(2004)が 報 告 し た 結 果 が 一 致 し て い る こ と か ら,カーリングには膝関節障害が多く発生するといえる.しかし,本調査で明 ら か に な っ た 1 人 あ た り の 膝 関 節 障 害 発 生 数 は 米 国 の 約 半 数 で あ っ た .R ees e r & Berg(2004)の 対 象 者 の 平 均 競 技 経 験 年 数 は 20.4 年 で あ る の に 対 し て , 本 章 の 対 象 者 の 平 均 競 技 経 験 年 数 は 1 0 . 2 年 で あ っ た .本 章 に お い て ,膝 関 節 障 害 の 有無による競技経験年数と年齢の違いを検討したところ,競技経験年数におい て膝関節障害の有無による有意な差が認められ,一方,年齢において膝関節障 害の有無による有意な差が認められなかった.つまり,膝関節障害が生じてい る選手は,生じていない選手に比べて競技経験年数が長いことが特徴の 1 つで あ る と 考 え ら れ る . ま た , Reeser & Berg(2004)は 全 米 選 手 権 に 出 場 し た 競 技 レベルの高い選手を対象としているのに対して,本章では本邦の日本カーリン グ 協 会 に 所 属 す る カ ー リ ン グ 選 手 全 員 に 回 答 の 依 頼 を し て い る . 岩 本 ら ( 2 0 11 ) は大学・高校テニス選手を対象に障害調査を行い,競技レベルの高い選手は低 い選手に比べ,障害を抱える選手が多いと報告している.これらのことから, - 20 - 本 調 査 と 先 行 研 究 (Reeser & Berg 2004)の 間 に お け る 1 人 あ た り の 膝 関 節 障 害 発生数の違いは,対象者の競技経験年数の違いに加え,競技レベルの違いも要 因の 1 つだと考えられる. 膝関節障害を生じていた選手と障害を生じていない選手の間に 1 回あたりの 練習時間,1 週間あたりの練習日数の違いは認められず,カーリング選手の 1 回 あ た り の 練 習 時 間 は 1 ~ 2 時 間 で あ り ,1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 は 1 日 で あ っ た .辻 ら ( 1 9 8 9 ) は 高 校 陸 上 競 技 選 手 8 8 名 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 い ,そ の 結 果 , 1 回 あ た り の 練 習 時 間 は 2~ 3 時 間 ,1 週 間 あ た り の 練 習 日 数 は 6 日 ,膝 関 節 障 害 発 生 数 は 1 人 あ た り 0.24 件 で あ っ た と 報 告 し て い る . 本 章 の 結 果 と 比 べ る と,1 回あたりの練習時間,1 週間あたりの練習日数は高校生陸上競技選手よ り本研究の対象者の方が少ないにも関わらず,膝関節障害発生数は同程度であ った.腱・靭帯などの生体軟組織のオーバーユース障害は,同一動作を長時間 繰り返し行うことで,その動作で用いる部位が軽微な損傷あるいは疲労し,そ の軽微な損傷や疲労が回復しないうちに更にその部位を繰り返し使用すること で 靭 帯 や 腱 な ど が 損 傷 す る こ と で 発 生 す る (武 藤 1992, 大 久 保 ら 1991, James e t a l 1 9 7 8 , R e n s t r o m & J o h n s o n 1 9 8 5 , Wi l d e r e t a l 2 0 0 4 ) た め , 本 章 で 我 々 は ,オ ー バ ー ユ ー ス 障 害 を 1 回 2 時 間 以 上 の 練 習 を 週 4 日 以 上 行 う 選 手 に 生 じ る 障 害 と 定 義 し た が ,1 回 あ た り の 練 習 時 間 が 1~ 2 時 間 で ,1 週 間 あ た り の 練 習日数が 1 日であったという結果は基準を越えるものではなく,また,軽微な 損傷や疲労からの十分な回復をみこめるインターバルがある.そのため,カー リング選手に多く生じる膝関節障害はオーバーユース障害であるとは考えにく い. カーリングにおける膝関節障害は非利き手側の内側に最も多く生じており, これはカーリングの膝関節障害の大きな特徴であるといえる.膝関節内側には 内側側副靱帯,内側半月板,縫工筋・薄筋・半腱様筋によって形成される鵞足 - 21 - 腱などが存在することから,カーリングにおける膝関節障害はこれらの構造物 の損傷が疑われる.内側側副靭帯は三角形をした扁平な靭帯であり,大腿骨内 側上顆と脛骨を結合する.膝関節を伸展,外反,内旋させると緊張するため, 大 き く 外 反 す る こ と で 損 傷 し , 損 傷 す る と 内 側 に 痛 み が 現 れ る (鳥 巣 &国 分 2005). 内 側 半 月 板 は 大 腿 骨 内 側 顆 と 脛 骨 内 側 上 顆 の 間 に 存 在 す る 円 板 状 の 線 維性軟骨であり,脛骨大腿関節間にかかる圧力を減少させる機能を持つ.内側 半 月 板 は 1)荷 重 し た 状 態 で 屈 曲 し た 膝 関 節 に 過 度 な 回 旋 が 加 わ る こ と (鳥 巣 & 国 分 2005), 2)内 旋 ・ 内 反 に よ っ て 内 側 半 月 板 後 方 の 圧 力 が 大 き く な る こ と , 3) 外 旋・内 反 に よ っ て 内 側 半 月 板 全 体 の 圧 力 が 大 き く な る こ と (E s c ami l l a 2 001 , 中 嶋 ら 2006)で 損 傷 す る . そ の 結 果 と し て , 膝 関 節 内 側 に 痛 み が 現 れ る . 鵞 足 腱は脛骨上部内側面に付着している.鵞足腱は膝関節が外旋,外反すると伸張 されるため,過度な外旋や外反が起こると損傷する.カーリングは相手選手と の接触がなく,また,プレー中に自重以上の荷重が瞬時に膝関節に加わってい るような動作を伴わないことから,膝関節に大きな力が急激に加わることによ ってこれらの組織を損傷するとは考えにくく,膝関節障害が特徴的に非利き手 側に生じる要因とも考えにくい.選手はデリバリー動作中,非利き手側の膝関 節 を 大 き く 屈 曲 し た 姿 勢 を 維 持 し た ま ま , 氷 上 を 約 20m 滑 り 続 け る . こ の 時 , つ ま 先 を 外 に 向 け る こ と が 推 奨 さ れ て お り (小 川 2006), 膝 関 節 は 外 旋 , 内 反 し て い る よ う に 観 察 さ れ ,一 方 ,利 き 手 側 の 膝 関 節 は 軽 度 屈 曲 位 ,内 外 旋 中 間 位 , 内外反中間位となっているように観察される.このデリバリー動作中の非利き 手側の膝関節屈曲,外旋,内反の動きは内側半月板を損傷させる動きに近く, 本章の結果でも半月板損傷が 6 件みられた.半月板には血管が非常に少ないた め代謝が低く,微細な損傷からの回復も遅いことから,週 1 日程度の練習でも 半月板損傷が生じると考えられる.また,障害を有していた選手は障害を有し ていない選手より競技経験年数が長い.これらのことから,カーリングにおい - 22 - て非利き手側の内側に多く生じる膝関節障害は,デリバリー動作を長年にわた り繰り返し行うことに起因する内側半月板損傷である可能性が考えられる. 2- 5 まとめ 本章ではカーリングにおける膝関節障害発生数を明らかにし,膝関節障害の 有無における練習時間,練習日数の違いを検討することを目的に,日本カーリ ン グ 協 会 に 所 属 す る 16 歳 以 上 の 選 手 全 員 を 対 象 に 障 害 調 査 を 行 っ た . そ の 結 果 , カ ー リ ン グ に お い て 生 じ る 膝 関 節 障 害 は 全 体 の 40.4%を 占 め , 1 人 あ た り 0.26 件 の 割 合 で 発 生 し ,特 に ,非 利 き 手 側 の 内 側 に 多 く 発 生 し て い る こ と が 明 らかになった.また,膝関節障害の有無における練習時間,練習日数に違いは な く , カ ー リ ン グ 選 手 は 1 回 あ た り 1~ 2 時 間 の 練 習 を 週 1 日 行 っ て い る こ と が明らかになり,カーリング選手に発生する膝関節障害は靭帯や腱などの軟部 組織の微細な損傷が蓄積したオーバーユース障害とは考えにくいことが示され た. - 23 - 第3章 カーリングにおけるデリバリー動作中の 3 次元膝関節角度 3- 1 目的 Reeser & Berg(2004)は カ ー リ ン グ に は 膝 関 節 障 害 が 多 い と 報 告 し て い る . また,第 2 章において,カーリングには非利き手側の内側に膝関節障害が多く 発生し,この膝関節障害は練習を長時間,高頻度繰り返すことによって生じる 靭帯や腱などの軟部組織の微細な損傷が蓄積したオーバーユース障害とは考え にくいことが示された.しかし,カーリングにおける膝関節障害を生じさせる 要因は明らかにされていない. 障害を引き起こす要因の 1 つとして,各競技における動作の技術的問題が挙 げ ら れ て い る (Renstrom and Johnson 1985, 近 ら 2005, Huang et al 2010). カーリングにおけるデリバリー動作は,非利き手側の膝関節を大きく屈曲し, つ ま 先 を 外 に 向 け る こ と が 推 奨 さ れ て お り ( 小 川 2 0 0 6 ) ,こ の と き 非 利 き 手 側 の 膝関節は外旋,内反しているように観察される.大腿骨内側顆と脛骨内側上顆 の 間 に 存 在 す る 内 側 半 月 板 は , 1)荷 重 し た 状 態 で 屈 曲 し た 膝 関 節 に 過 度 な 回 旋 が 加 わ る こ と (鳥 巣 &国 分 2005), 2)外 旋 ・ 内 反 に よ っ て 内 側 半 月 板 の 圧 力 が 大 き く な る こ と (Escamilla 2001, 中 嶋 ら 2006)で 損 傷 し , 膝 関 節 内 側 に 痛 み が 現 れる.また,第 2 章において障害を有していた選手は障害を有していない選手 より競技経験年数が長いことが明らかになった.これらのことから,カーリン グにおいて非利き手側の内側に膝関節障害が多く生じる要因は,デリバリー動 作を長年にわたり繰り返し行うことであると考えられる.しかし,デリバリー 動作中の膝関節の動きを計測した報告はされておらず,デリバリー動作中の膝 関節の動きが膝関節障害を引き起こす要因の 1 つであるかは明らかではない. そこで本章では,デリバリー動作中における非利き手側の膝関節角度を明らか - 24 - にし,膝関節障害となり得る要因を検討することを目的とした. 3- 2 方法 3- 2- 1 対象者 対象者は,日本カーリング協会に登録をしている,競技経験年数 3 年以上の 男 子 カ ー リ ン グ 選 手 13 名 (年 齢 24.4±4.5 歳 , 競 技 経 験 年 数 8.9±4.1 年 , 身 長 1.70±0.1m, 体 重 65.0±8.3kg)と し た . 対 象 者 の 利 き 手 は 右 側 12 名 , 左 側 1 名であった.対象者には本研究の目的と内容について十分に説明を行い,参加 の同意を書面にて得た.本研究を行なうに際し,早稲田大学人を対象とする研 究に関する倫理審査委員会の承認を得た. 3- 2- 2 測定環境 測定は対象者が普段の練習で使用しているカーリン グ 場 (図 12)で 行 っ た . カ ー リ ン グ 場 内 の 床 面 は 氷 張 り で あ り ,シ ー ト と 呼 ば れ る 長 さ 44.5m,幅 4.75m の エ リアに分かれている.測定はそのうちの 1 シートを使 用した. 3- 2- 3 図 12 測定試技 カーリング場 対象者には十分なウォーミングアップを行わせた後,氷上に描かれたハウス の 中 心 に ス ト ー ン を 止 め る よ う に デ リ バ リ ー 動 作 (ド ロ ー シ ョ ッ ト )す る よ う 指 示した.また,対象者には試技毎に,ドローショットの成功失敗に関わらず, 自身の納得のいくデリバリー動作をできた場合を 5 点満点として自己評価をさ せた.分析対象は対象者の自己評価が高い試技 3 本とした.分析対象の 3 本分 を得るために要した平均試行数は 9 試技であった. - 25 - 3- 2- 4 データ収集 デリバリー動作中の非利き手側の大腿・下腿の 3 次元的な方位を電磁ゴニオ メ ー タ ー ( L I B E R T Y, P O L H E M U S 社 製 ) を 用 い て , サ ン プ リ ン グ 周 波 数 2 4 0 H z で計測した.電磁ゴニオメーターはコント ロールユニットと磁場を発生させるトラン スミッタ,位置と方位を計測するセンサ, 先端の位置をデジタイズするスタイラスで 構 成 さ れ て い る (図 13) . 基 準 座 標 系 Rg(xg,yg,zg) は ト ラ ン ス ミ ッ タ 内 に 定 義 さ れており,計測される全てのセンサの位置 図 13 電磁ゴニオメーター と方位は基準座標系について記録される. 電磁ゴニオメーターのセンサは有線であ り , ま た , ト ラ ン ス ミ ッ タ か ら 半 径 約 100 cm の 磁 場 内 に セ ン サ が 存 在 す る 時 に セ ン サの位置と方位を正確に計測できるため, 対象者がデリバリー動作で氷上を滑るのに 合わせて,コントロールユニットとトラン スミッタを移動させなければならない.そ こで,本研究ではコントロールユニットと トランスミッタを木製のソリに固定し,対 象者の移動に合わせて,トランスミッタが 図 14 実験セッティング 出 来 る 限 り 対 象 者 の 近 く に あ る よ う 留 意 し な が ら ソ リ を 移 動 さ せ た (図 14). 本章では左右大腿セグメントと左右下腿セグメントからなる 4 セグメントモ デルとして定義し,大腿セグメントと下腿セグメントの 3 次元的な方位を計測 するためにセンサを左右大腿外側遠位,左右下腿内側の計 4 箇所に両面テープ - 26 - で 貼 付 し た (図 15). 左 右 大 腿 外 側 遠 位 で は 腸 脛 靭 帯上の外側広筋の膨隆がない部位に貼付し,左右 下腿内側では脛骨内側面の平坦部に貼付した.さ らに,皮膚上でのセンサの動きを抑えるためにテ ーピングテープで固定した. デリバリー動作中における大腿セグメントと下 腿セグメントの解剖学的座標系をそれぞれ定義す るために,対象者にデリバリー動作中の姿勢をと らせ,左右大腿セグメントでは大腿骨内側上顆 ( M E ) ,大 腿 骨 外 側 上 顆 ( L E ) の 各 2 点 ,左 右 下 腿 セ グ メ ン ト で は ,脛 骨 内 側 顆 ( M C ) ,脛 骨 外 側 顆 ( L C ) , 脛 骨 内 果 (MM), 腓 骨 外 果 (LM)の 各 4 点 , 計 12 図 15 センサ貼付位置 箇 所 を ス タ イ ラ ス を 用 い て デ ジ タ イ ズ し (図 16), 大腿セグメントと下腿セグメントに固定されたセンサに対する 3 次元座標値と し て 記 録 し た . ま た 左 右 股 関 節 中 心 (HC)は ,下 肢 下 垂 位 か ら 股 関 節 を 中 心 と し て前後左右に十字を描くような運動を行なっている際の瞬時らせん軸を算出し, そ の Pivot point と し て 推 定 し た . 図 16 デジタイズポイント - 27 - 3- 2- 5 データ処理 デジタイズによって得られた解剖学的ランドマークの座標値から各セグメン ト に 固 定 さ れ た 解 剖 学 的 座 標 系 を 定 義 し た . 右 大 腿 座 標 系 RRt(xRt, yRt, zRt) は ,R M E と R L E の 中 点 か ら R H C に 向 か う ベ ク ト ル を z R t と し ,R M E か ら R L E へ 向 か う ベ ク ト ル と zRt の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を yRt, zRt と yRt の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を xRt と 定 義 し た . 左 大 腿 座 標 系 RLt(xLt, yLt, zLt)は , LME と LLE の 中 点 か ら LHC に 向 か う ベ ク ト ル を zLt と し , LLE か ら L M E へ 向 か う ベ ク ト ル と z L t の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を y L t ,z L t と y L t の外積によって得られるベクトルを xLt と 定 義 し た ( 図 17) . 右 下 腿 座 標 系 RRs(xRs, yRs, zRs)は RMM と RLM の 中 点 か ら RMC と RLC の 中 点 へ 向 か う ベ ク ト ル を zRs と し , RMM か ら RLM へ 向 か う ベ ク ト ル と zRs の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を yRs, zRs と yRs の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を xRs と 定 義 し た . 左 下 腿 座 標 系 RLs(xLs, yLs, zLs)は LMM と LLM の 中 点 か ら LMC と LLC の 中 点 へ 向 か う ベ ク ト ル を zLs と し , LLM か ら LMM へ 向 か う ベ ク ト ル と の zLs 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を yLs と し , zLs と yLs の 外 積 に よ っ て 得 ら れ る ベ ク ト ル を xLs と 定 義 し た (図 18). 図 17 大腿における解剖学的ランドマークと大腿座標系 - 28 - 図 18 下腿における解剖学的ランドマークと下腿座標系 膝関節角度は,大腿座標系から下腿座標系への変換を,任意に定めた順序で 連続して行う 3 回の回転角として定義した.はじめに大腿座標系と一致する移 動 座 標 系 Rs0(xs0,ys0,zs0)を xs0 軸 周 り に θ 回 転 さ せ , 次 に 1 回 目 の 回 転 で 得 ら れ た 座 標 系 Rs1(xs1,ys1,zs1)を ys1 軸 周りにφ回転させ,最後に 2 回目の 回 転 で 得 ら Rs2(xs2,ys2,zs2) を れ た 座 標 系 zs2 軸 周 り に ψ 回 転 さ せ た . そ し て , Rs3(xs3,ys3,zs3) を 算 出 し ,3 つ の 回 転 の 角 度 ( θ ,φ , ψ ) を そ れ ぞ れ 膝 関 節 屈 曲・伸 展 角 度 , 膝関節内反・外反角度,膝関節回旋 図 19 角 度 と し た (図 19). 膝関節角度方向定義 以 下 の 回 転 行 列 を 用 い て , 座 標 系 Rs0 に 対 す る Rs3 の 回 転 行 列 A(Rs3/Rs0)を 求 め た . 尚 , A(Rs1/Rs0)は Rs0 に 対 す る Rs1 の 回 転 行 列 を , A(Rs2/Rs1)は Rs1 に 対 す - 29 - る Rs2 の 回 転 行 列 を , A(Rs3/Rs2)は Rs2 に 対 す る Rs3 の 回 転 行 列 と そ れ ぞ れ 定 義 する. A( Rs1 / Rs 0 ) 0 1 = 0 cos θ 0 sin θ 0 − sin θ cos θ A( Rs 2 / Rs1) cos φ = 0 − sin θ 0 sin φ 1 0 0 cos φ A( Rs 3 / Rs 2 ) cos ϕ = sin ϕ 0 − sin ϕ 0 cos ϕ 0 0 1 A( Rs 3 / Rs 0 ) = A( RS 1 / Rs 0 ) A( Rs 2 / Rs1) A( Rs 3 / Rs 2 ) A( Rs 3 / Rs 0 ) cos φ cosψ = sin θ sin φ cosψ + cos θ sinψ − cos θ sin φ cosψ + sin θ sinψ − cos φ sinψ sin φ − sin θ cos φ cos θ cos φ − sin θ sin φ sinψ + cos θ cosψ cos θ sin φ sinψ + sin θ cosψ ・・・(式 1- 1) 大 腿 座 標 系 に 対 す る 下 腿 座 標 系 の 方 位 と Rt0 に 対 す る Rt3 の 方 位 が 一 致 す る こ と か ら ,大 腿 座 標 系 に 対 す る 下 腿 座 標 系 の 方 位 は 次 の よ う に も 表 せ る .な お , A(Rt/Rg)は 基 準 座 標 系 Rg に 対 す る 大 腿 座 標 系 Rt の 回 転 行 列 を 示 し , A(Rs/Rg) は 基 準 座 標 系 Rg に 対 す る 下 腿 座 標 系 Rs の 回 転 行 列 を 示 す . −1 A( Rs 3 / Rs 0) = A( Rs / Rt ) = A( Rt / Rg ) A( Rs / Rg ) = A( Rt / Rg ) A( Rs / Rg ) - 30 - T A( Rs 3 / Rs 0 ) a11 a12 = a21 a22 a31 a32 a13 a23 a33 ・・・(式 1- 2) 式 1- 1 と 式 1- 2 か ら 以 下 の よ う に θ , φ , ψ を 算 出 し た . θ = tan −1 ( − a 23 / a33 ) φ = tan −1 (a13 / a112 + a12 2 ) ψ = tan −1 ( − a12 / a11 ) こ の 時 ,右 側 の φ ( 内 反 ・ 外 反 角 度 ) と 左 側 の φ ( 内 反 ・ 外 反 角 度 ) ,右 側 の ψ ( 回 旋 角 度 )と 左 側 の ψ (回 旋 角 度 )の 正 負 が 逆 転 す る た め , 左 側 の 値 に - 1 を か け , 正負が一致するよう計算した. 3- 2- 6 データ分析 デリバリー動作は,ハックと呼ばれる蹴り台を利き手側の下肢を伸展させて 蹴ることで開始される.そのため,利き手側の膝関節伸展角度が最大になった 瞬 間 を デ リ バ リ ー 姿 勢 の 開 始 と し た (図 20). 図 20 デリバリー姿勢開始の定義 - 31 - デリバリー姿勢中の非利き手側の膝関節角度は,デリバリー姿勢開始後,波 形 が 安 定 し た 所 か ら 1.5 秒 間 の 平 均 値 と し た (図 21). 各 被 験 者 の 代 表 値 は 分 析 対象 3 試技の平均値とした. 図 21 デリバリー姿勢中における膝関節角度の算出方法 各 角 度 方 向 の 定 義 を 図 22 に 示 す . 図 22 3- 2- 7 膝関節角度定義 統計処理 膝 関 節 伸 展 角 度 ,内 反 角 度 ,内 旋 角 度 の 各 角 度 に お い て ,検 定 値 を 0 と し た 1 サ ン プ ル t 検 定 を 使 用 し た . 検 定 に お け る 有 意 水 準 は 5%と し た . 統 計 処 理 に は , 統 計 解 析 ソ フ ト ( SP S S 1 2 .0 J fo r Wi n d o ws )を 用 い た . - 32 - 3- 3 結果 自己評価の高かった 3 試技分におけるデリバリー姿勢中の非利き手側膝関節 角 度 は , 伸 展 - 124±12 度 , 内 反 12±9 度 , 内 旋 - 6±14 度 で あ り (図 23), 全 試 技 を 対 象 と し た 9 5 % 信 頼 区 間 は , 伸 展 - 11 9 度 か ら - 1 3 2 度 , 内 反 8 度 か ら 18 度 ,内 旋 2 度 か ら - 13 度 で あ っ た .1 サ ン プ ル t 検 定 の 結 果 ,屈 曲 ・ 伸 展 角 度 は 0 で は な い こ と が 示 さ れ (p=0.00), 内 反 ・ 外 反 角 度 で も 0 で は な い こ と が 示 さ れ た (p=0.001).一 方 ,内 旋 ・ 外 旋 角 度 に つ い て は ,有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た ( p = 0 . 1 3 ) .ま た ,対 象 者 の 中 に は 膝 関 節 障 害 の 既 往 歴 が あ る 者 ( 5 名 ) が お り,既往歴がある者の自己評価の高かった 3 試技分におけるデリバリー姿勢中 の 非 利 き 手 側 膝 関 節 角 度 は , 伸 展 - 1 2 3 ± 11 度 , 内 反 1 6 ± 9 度 , 内 旋 - 1 0 ± 1 0 度 で あ っ た .一 方 ,膝 関 節 障 害 の 既 往 歴 が な い 者 ( 8 名 ) の 自 己 評 価 の 高 か っ た 3 試 技 分 に お け る デ リ バ リ ー 姿 勢 中 の 非 利 き 手 側 膝 関 節 角 度 は , 伸 展 - 124±13 度 , 内 反 9±8 度 , 内 旋 - 4±16 度 で あ っ た . 各 対 象 者 の 自 己 評 価 の 高 か っ た 3 試 技 分 に お け る 平 均 角 度 と , そ の う ち の 最 大 値 と 最 小 値 を 以 下 に 示 す (表 4). 図 23 デリバリー姿勢中の非利き手側膝関節角度 - 33 - 表 4 全 対 象 者 の デ リ バ リ ー 姿 勢 中 の 平 均 角 度 と 最 大 ・最 小 値 - 34 - 3- 4 考察 本研究はデリバリー動作中の非利き手側膝関節の角度を明らかにすることを 目的として,男子カーリング選手を対象にデリバリー姿勢を保持した状態の非 利き手側膝関節角度の計測を行った.その結果,非利き手側膝関節角度の平均 値 は 屈 曲 124 度 ,内 反 12 度 ,外 旋 6 度 で あ っ た .ま た ,1 サ ン プ ル t 検 定 の 結 果より,デリバリー動作中の非利き手側の膝関節は屈曲,内反しているが,内 旋・外旋では一貫した傾向が見られないことが示された. 本 研 究 で 用 い ら れ た 計 測 方 法 の 精 度 は 1)皮 膚 の 動 き に よ っ て セ ン サ と デ ジ タ イ ズ ポ イ ン ト の 相 対 的 な 位 置 が ず れ て し ま う こ と , 2)大 腿 座 標 系 , 下 腿 座 標 系を定義する時に用いるデジタイズポイントの触診の誤差による影響を受ける. 皮膚の動きによるセンサとデジタイズポイントの相対的な位置のずれは,デリ バリー動作中の姿勢でデジタイズを行うことにより,デリバリー動作中であれ ばセンサとデジタイズポイントの相対的な位置のずれが生じないように配慮し たが,デジタイズポイントのずれによる誤差を含む可能性は排除できない.そ こで,健常成人男性 4 名を対象に各 3 回ずつデジタイズを行い,デジタイズの 誤差が膝関節角度にどの程度現れるのかを検証した.その結果,各対象の 3 回 のデジタイズにおける標準偏差の平均値はそれぞれ,屈曲・伸展 2 度,内・外 反 4 度,内外旋 5 度であった.デリバリー姿勢中に計測された膝関節角度は, 屈 曲 124 度 , 内 反 12 度 , 外 旋 6 度 で あ っ た が , こ れ ら の 値 は デ ジ タ イ ズ の 誤 差である屈曲・伸展 2 度,内・外反 4 度,内外旋 5 度よりも大きいため,本研 究により得られた結果は再現性のあるものであると考えられる.カーリングで 行 わ れ る 動 作 を 計 測 し た 報 告 は 極 め て 少 な く , 柳 ら ( 2 0 11 ) が ス イ ー プ 動 作 中 の 床反力と心拍数を報告したものに限られており,本章で得られた結果は,デリ バリー動作を計測した貴重な知見となり得る. L a f o r t u n e e t a l ( 1 9 9 2 ) は 歩 行 中 の 膝 関 節 内 反 ,外 旋 角 度 を 計 測 し ,そ の 結 果 , - 35 - 外 反 1 度 , 外 旋 2 ~ 3 度 で あ っ た と 報 告 し て い る . ま た , M y e r s e t a l ( 2 0 11 ) は 成 人 男 性 6 名 に 40 cm の 高 さ か ら 両 脚 着 地 さ せ ,そ の 時 の 膝 関 節 角 度 は 外 反 最 大 2 .3 度 ,外 旋 最 大 18 .9 度 で あ っ た と 報 告 し て お り ,根 地 嶋 ら (2 008 ) は 高 校 女 子 バ ス ケ ッ ト ボ ー ル 選 手 13 名 を 対 象 に 30 cm の 高 さ か ら 片 脚 着 地 さ せ , そ の 時 の 膝 関 節 角 度 は 内 反 1 度 で あ る と 報 告 し て い る . Pantano et al (2005)は 男 女 1 0 名 を 対 象 に ,ビ デ オ カ メ ラ を 用 い て 膝 関 節 屈 曲 4 5 度 ま で の 片 脚 ス ク ワ ッ ト 時 の 膝 関 節 の 動 き を 撮 影 し , 最 大 外 反 角 度 は 約 10 度 で あ っ た と 報 告 し , ま た ,下 戸 ら (2010)は 男 性 2 名 を 対 象 に ,CT(Computed tomography)を 用 い て ス ク ワ ッ ト 動 作 時 の 膝 関 節 の 動 き を 撮 影 し ,そ の 結 果 ,屈 曲 1 3 6 度 ,外 反 約 5 度 , 内 旋 10 度 で あ っ た と 報 告 し て い る . こ れ ら の こ と か ら , 膝 関 節 屈 曲 位 と な る ような動作の時,膝関節は外反することが多いと考えられる.本章で明らかに な っ た 膝 関 節 は 屈 曲 124 度 で あ り , 下 戸 ら (2010)が 報 告 し た 膝 関 節 屈 曲 角 度 の 結果に近い角度であるために,内外反の動きもこれに近い角度を示すことが予 想される.しかし,下戸らは外反を示しているのに対して,デリバリー動作時 では内反している.このことから,デリバリー動作は通常とは異なる動きをし ていると考えられ,これはデリバリー動作の特徴の 1 つであるといえる. 膝 関 節 の 内 反 可 動 域 は 屈 曲 角 度 に よ っ て 異 な る と 言 わ れ て い る (Zatsiorsky 1 9 9 8 ) .そ こ で デ リ バ リ ー 動 作 中 の 屈 曲 角 度 ( 1 2 4 度 ) に お け る 膝 関 節 内 反 可 動 域 を 特 定 す る た め に , 男 子 カ ー リ ン グ 選 手 (4 名 )と 一 般 成 人 男 性 (6 名 )の 膝 関 節 内 反 可 動 域 を 測 定 し た (付 録 参 照 ). そ の 結 果 , 男 子 カ ー リ ン グ 選 手 は 屈 曲 124 度 の 時 , 最 大 内 反 20 度 の 可 動 域 を 有 し , デ リ バ リ ー 動 作 中 の 膝 関 節 角 度 と 比 べ る と , 内 反 は 8 度 大 き い (表 5). デ ジ タ イ ズ の 再 現 性 に よ る 誤 差 は 内 反 4 度 で あり,男子カーリング選手の内反可動域とデリバリー動作中の膝関節内反角度 の差は誤差範囲以上であることから,デリバリー動作中の膝関節内反角度は男 子カーリング選手の内反可動域を超えていないと言える.また,男子カーリン - 36 - グ選手の膝関節内反可動域を もとにデリバリー姿勢中の膝 関節内反角度の z 値を求め, デリバリー動作中の膝関節内 反角度が膝関節内反可動域を 超 え る 確 率 を 求 め た と こ ろ , 表 5 膝関節可動域と デ リ バ リ ー 動 作 中 の 膝 関 節 角 度 (deg) 12%で あ り , 動 作 中 の 内 反 角 度 が 膝 関 節 内 反 可 動 域 を 超 え る 可 能 性 は 低 い .ま た ,本 章 の 被 験 者 A は 付 録 の 被 験 者 1 と 同 一 人 物 で あ り ,本 章 の 被 験 者 H は 付 録 の 被 験 者 2 と 同 一 人 物 で あ る . 被 験 者 A の 膝 関 節 内 反 可 動 域 は 11 度 ,デ リ バ リ ー 動 作 中 の 膝 関 節 内 反 角 度 は 7 度 で あ り ,動 作 中 の 膝 関 節 内 反 角 度 が 内 反 可 動 域 を 超 え る 確 率 は 0 . 1 % 未 満 で あ っ た . 被 験 者 H の 膝 関 節 内 反 可 動 域 は 24 度 , デ リ バ リ ー 動 作 中 の 膝 関 節 内 反 角 度 は 2 度 で あ り ,動 作 中 の 膝 関 節 内 反 角 度 が 内 反 可 動 域 を 超 え る 確 率 は 0 . 1 % 未満であった.これらのことから,デリバリー動作中の膝関節は男子カーリン グ選手の内反可動域を超えないような内反角度で行われている可能性が高いと 言 え る . し か し , 一 般 成 人 男 性 は 屈 曲 124 度 の 時 , 最 大 内 反 9 度 で あ り , カ ー リ ン グ 選 手 の 値 と 比 べ て 小 さ な 可 動 域 を 持 つ 傾 向 が み ら れ た (表 5). デ リ バ リ ー動作中の膝関節内反角度は一般成人男性の膝関節内反可動域よりも 3 度大き い.また,デリバリー姿勢中の膝関節内反角度が一般成人男性の内反可動域を 超 え る 確 率 は 84%で あ っ た . こ れ ら の こ と か ら , デ リ バ リ ー 姿 勢 中 の 膝 関 節 内 反角度は一般成人男性の内反可動域の限界に近い角度である可能性が示唆され た.また,男子カーリング選手の内反可動域と一般成人男性の内反可動域を比 べると,男子カーリング選手の内反可動域の方が大きい.カーリングの試合で は , デ リ バ リ ー 動 作 を 約 20 秒 間 , 1 試 合 約 20 回 行 う の で , 延 べ 約 400 秒 間 , 一般成人男性の内反可動域の限界に近い膝関節内反角度を維持していることに - 37 - な る . Bandy & Irion (1994)は 1 日 1 回 30 秒 間 の ス ト レ ッ チ ン グ は 関 節 可 動 域 を 向 上 さ せ る と 報 告 し て お り ,1 0 秒 間 の ス ト レ ッ チ ン グ を 6 回 繰 り 返 し て 計 1 分 間 行 な う 場 合 と ,3 0 秒 間 を 2 回 繰 り 返 し て 計 1 分 間 行 な う 場 合 と で は 効 果 に 差 が な い と 報 告 さ れ て い る ( C i p r i a n i 2 0 0 3 ) .ま た ,ス ト レ ッ チ ン グ の 強 度 は , 張りが感じられるが痛みのない程度の低強度でも効果があるといわれている (Baechle & Earle 2001, Alter 2010, Apostolopoulos 2001). デ リ バ リ ー 動 作 中の膝関節内反角度は男子カーリング選手の膝関節内反可動域を超えない姿勢 で あ る も の の , 延 べ 400 秒 間 そ の 姿 勢 を 保 持 す る こ と か ら , デ リ バ リ ー 動 作 は カーリング選手の内反可動域を大きくする可能性が考えられる.実際に,一般 成人男性と男子カーリング選手の内反可動域を比較すると,男子カーリング選 手の方が大きかった.内反可動域が大きいということは,膝関節の内反動揺性 が大きくなり,膝関節が不安定な状態であるといえる.関節の動揺性が増大し た不安定な状態で運動することで通常とは異なる動きが生じ,関節周囲の組織 を損傷させる危険性があるといわれている.これらのことから,カーリングに おける膝関節障害を生じさせる 1 つの要因は,一般成人の内反可動域の限界に 近い内反角度でデリバリー動作を行うことで,膝関節内反可動域が増大し,そ の結果,デリバリー動作中の膝関節の動揺性が大きくなった状態になることだ と考えられる. - 38 - 3- 5 まとめ 本章ではデリバリー動作中の非利き手側の膝関節角度を明らかにし,膝関節 障害となり得るリスクを検討することを目的に,男子カーリング選手を対象に デリバリー姿勢中の非利き手側の膝関節角度を計測した.その結果,デリバリ ー 姿 勢 中 の 非 利 き 手 側 の 膝 関 節 は 屈 曲 124 度 , 内 反 12 度 , 外 旋 6 度 で あ り , 動作中,非利き手側の膝関節は屈曲,内反しているが,内外旋では一貫した傾 向がみられなかった.この時の膝関節内反角度は男子カーリング選手の内反可 動域内であったが,一般成人男性の膝関節内反可動域を超えるような角度であ り,カーリング選手は一般成人男性の内反可動域の限界に近い内反角度でのデ リバリー動作を行うことで膝関節内反可動域が大きくなると考えられる.この こ と か ら ,カ ー リ ン グ に お け る 膝 関 節 障 害 を 生 じ さ せ る 要 因 は ,膝 関 節 を 屈 曲 , 内反するデリバリー動作を一般成人男性の内反可動域の限界に近い,またはそ れを超える肢位で繰り返し行うことによって膝関節内反可動域が増大し関節動 揺性が増すこと,および,動揺性の増大した膝関節でデリバリー動作を行うこ と,ではないかと推察される. - 39 - 第 4 章 総括論議 本研究は,カーリングにおける膝関節障害の実態を明らかにし,その要因を 検討することを目的に,カーリング選手を対象に障害調査と,デリバリー姿勢 中における膝関節角度の計測を行った.第 2 章の障害調査の結果,カーリング では非利き手側の膝関節の内側に最も多く障害が生じることが明らかになった. 第 2 章 に お い て ,1 回 あ た り 1 ~ 2 時 間 の 練 習 を 週 1 日 の み 行 う 選 手 が 最 も 多 いことが明らかになった.本研究では,膝関節障害を引き起こす要因の 1 つと して,練習を長時間,高頻度繰り返す,オーバーユースによるものだと仮説を たてたが,第 2 章の結果は本研究でオーバーユース障害と定義した「1 回 2 時 間以上の練習を週 4 日以上継続的に行った結果生じる障害」という基準を満た すものではなく,また,靭帯や腱などの微細な損傷や疲労からの回復の為に練 習 間 で 少 な く と も 1 日 間 の イ ン タ ー バ ル が 必 要 で あ る と 言 わ れ て お り (Bishop e t a l 2 0 11 , B a e c h l e & E a r l e 2 0 0 2 ) , カ ー リ ン グ 選 手 の 練 習 間 は 1 日 間 以 上 の インターバルが空いていることから,カーリングにおける膝関節障害はオーバ ーユース障害とは考えにくい. 第 3 章において,デリバリー動作中の非利き手側の膝関節は屈曲,内反して いることが示されたが,この膝関節屈曲,内反の動きは内側半月板を損傷させ る リ ス ク の 動 き の 1 つ で あ る と い わ れ て い る (Escamilla 2001, 中 嶋 ら 2006). デリバリー動作中の内反の動きは一般成人の持つ内反可動域の限界に近い角度 で行われている可能性があり,非利き手側で全体重を支持しながらデリバリー 姿勢を維持している.また,内反可動域は一般成人よりもカーリング選手の方 が大きく,障害を有する選手は有さない選手よりも有意に競技経験年数が長か っ た . Reid et al (1987)は ト ゥ ア ウ ト と 呼 ば れ る 股 関 節 を 外 旋 さ せ る 姿 勢 を 維 - 40 - 持するクラシックバレエダンサーの股関節外旋可動域は未経験者の股関節外旋 可動域よりも有意に大きく,また,経験年数が長いダンサーは経験年数が短い ダンサーよりも股関節外旋可動域が大きいと報告をしている.これらのことか ら,カーリング選手は正常な内反可動域の限界に近い内反角度でのデリバリー 動作を長年行うことで膝関節内反可動域が大きくなると考えられる.膝関節内 反可動域が大きくなることで正常な可動域を超える内反角度でデリバリー動作 を行い得るようになり,内側半月板を損傷させてしまうような内反角度に達す る可能性が考えられる.実際に,膝関節障害の既往歴のない選手のデリバリー 動作中の内反角度は 9 度であるのに対して,膝関節障害の既往歴を持つ選手の デ リ バ リ ー 動 作 中 の 内 反 角 度 は 16 度 で あ り , 既 往 歴 を 持 つ 選 手 の 方 が デ リ バ リー動作中の内反角度が大きい傾向がみられた.また,選手は氷上でデリバリ ー姿勢を維持するが,接地面の摩擦が小さいために,内反可動域が大きくなり 内反動揺性が増大した膝関節は揺らぐと推察される.膝関節が揺らぐことで通 常 と は 異 な る 動 き が 生 じ ,膝 関 節 周 囲 の 組 織 を 損 傷 さ せ る 危 険 性 が 考 え ら れ る . 結果として,非利き手側の内側に障害を抱える選手がカーリングには多くなっ たのではないかと考えられる. 以上のことから,カーリング選手は,膝関節を屈曲,内反するデリバリー動 作を一般成人男性の内反可動域の限界に近いような角度で長年行うことによっ て膝関節内反可動域が大きくなり,正常な可動域を超えるような内反角度でデ リバリー動作を行うことで,腱や靭帯以外の組織を損傷させてしまう可能性が 考えられる. - 41 - 第 5 章 結論 本研究は,カーリングにおける膝関節障害の実態を明らかにし,その要因を 検討することを目的に,障害調査とデリバリー姿勢中の非利き手側膝関節角度 の 計 測 を 行 っ た .そ の 結 果 ,カ ー リ ン グ に お い て 生 じ る 障 害 の う ち 40.4% が 膝 関 節 障 害 で あ り 他 部 位 に 比 べ て 最 も 多 く ,特 に 非 利 き 手 側 の 内 側 に 多 く 発 生 し , 膝 関 節 障 害 の 有 無 に お け る 練 習 時 間 ,練 習 日 数 に 違 い は な く ,1 回 1 ~ 2 時 間 の 練習を週 1 日のみ行う選手が最も多いことが明らかになった.また,デリバリ ー 姿 勢 中 の 非 利 き 手 側 の 膝 関 節 は 屈 曲 124 度 , 内 反 12 度 , 外 旋 6 度 で あ り , 非利き手側の膝関節は屈曲,内反するが,内外旋では一貫した傾向がみられな いことが示され,非利き手側の膝関節を屈曲,内反するデリバリー動作はカー リング選手の膝関節可動域を大きくさせる可能性が示された. これらのことから,カーリングにおける膝関節障害を生じさせる要因は,膝 関節を屈曲,内反するデリバリー動作を一般成人男性の内反可動域の限界に近 い,またはそれを超える肢位で繰り返し行うことによって膝関節内反可動域が 増大し関節動揺性が増すこと,および,動揺性の増大した膝関節でデリバリー 動作を行うこと,ではないかと推察される. - 42 - 付録 男子カーリング選手と一般成人男性の膝関節可動域 1 目的 デリバリー動作中の屈曲角度における膝関節内反・外旋可動域を明らかにす ることとした. 2 方法 2- 1 対象者 対 象 者 は 男 子 カ ー リ ン グ 選 手 4 名 (年 齢 24±2.7 歳 , 競 技 経 験 年 数 5.3±2.6 年 ,身 長 1 . 7 1 ± 0 . 0 6 m ,体 重 6 4 . 5 ± 1 5 . 0 k g ) と 一 般 成 人 男 性 6 名 ( 年 齢 2 3 . 3 ± 1 . 6 歳 , 身 長 1.70±0.04m, 体 重 64.8±12.8kg)と し , 測 定 側 は 非 利 き 手 側 と し た . 測定は 3 回行い,デリバリー動作時の膝関節屈曲角度における膝関節内反・外 旋角度が最大の時の試技を分析対象とした. 2- 2 データ収集 対象者を仰臥位にさせ,脱力するよう に指示し,対象者の踵をつかみ,膝関節 の上に手を置き,膝関節を徒手で内側に 最大限に押し最大内反させ,同時に最大 外旋した.最大内反と最大外旋を維持し た ま ま ,ゆ っ く り 膝 関 節 を 屈 曲 さ せ た ( 図 2 4 ) .こ の 時 の 大 腿 ・ 下 腿 の 3 次 元 的 な 方 位 を 電 磁 ゴ ニ オ メ ー タ ー ( L I B E R T Y, P O L H E M U S 社 製 ) を 用 い て , - 43 - 図 24 膝関節可動域測定方法 サ ン プ リ ン グ 周 波 数 2 4 0 H z で 計 測 し た .膝 関 節 を 他 動 的 に 動 か す 際 ,セ ン サ が 皮膚の動きの影響を受けないよう留意しながら行った.センサ貼付位置,セグ メント定義,デジタイズポイントは第3章と同様とした. 2- 3 データ処理 大腿セグメントと下腿セグメントの解剖学的座標定義,膝関節角度算出方法 は第3章で用いた処理方法と同様とした. 2- 3 データ分析 膝 関 節 可 動 域 は ,測 定 し た デ ー タ 中 に お け る ,デ リ バ リ ー 動 作 中 膝 関 節 屈 曲 角 度 の 95%信 頼 区 間 に あ た る 間 の 平 均 角 度 と し た (図 25). 図 25 膝関節可動域の算出方法 - 44 - 3 結果 以 下 の 結 果 は , 膝 関 節 屈 曲 124 度 の 時 の , 同 時 に 内 反 と 外 旋 を 最 大 ま で 動 か した時のそれぞれの角度を示している.つまり,男子カーリング選手の膝関節 屈 曲 124 度 時 の 膝 関 節 最 大 可 動 域 は , 内 反 20 度 , 外 旋 22 度 で あ り , 一 方 , 一 般 成 人 男 性 の 膝 関 節 屈 曲 125 度 時 の 膝 関 節 最 大 可 動 域 は , 内 反 9 度 , 外 旋 15 度 で あ っ た (図 26).表 6 に は 全 対 象 者 の 膝 関 節 屈 曲 124 度 の 時 の 最 大 内 反 ,最 大内旋可動域を示す. 図 26 膝 関 節 屈 曲 124 度 時 の 膝 関 節 最 大 可 動 域 - 45 - 表 6 全 対 象 者 の 膝 関 節 124 度 時 の 膝 関 節 最 大 可 動 域 (deg) - 46 - 参考文献 1. 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Zatsiorsky Vladimir M.: Kinematics of human motion. 1998. - 50 - 謝辞 本研究は指導教員である矢内利政教授の御指導の下に行われました.研究に 関する専門知識や力学の知識に乏しい私にでも分かりやすい,かつ熱心な御指 導を賜り,また,論文指導や学会発表準備の際には,深夜まで御指導を賜りま した矢内教授に心より感謝の意を表します. 本論文の審査において,川上泰雄教授,金岡恒治准教授には快く副査を引き 受けていただきました.バイオメカニクス研究室の皆様にはミーティングなど の場で貴重な助言を頂き,データ収集時にご協力を頂き,時には相談にも乗っ ていただきました.特に近田彰治先生には研究プロトコルの作成やデータの解 釈,論文の添削など研究を行っていく上で多くのアドバイスを頂きました.心 より感謝申し上げます.また,同期の橋本幸代さんと谷中拓哉君,杉本圭君に はデータ収集にご協力を頂くことが多く,ご迷惑をお掛けしてしまいました. 共に学べて本当に幸せでした. 研究を実施するにあたり,障害調査では日本カーリング協会の皆様には多大 なる御協力を頂き,また,選手の皆様には実験の被験者を快く引き受けていた だきました.心より御礼申し上げます.日本カーリング界のさらなるご発展を 心よりお祈りいたします. 最後に,大学だけでなく,大学院への進学を快く応援していただき,常に温 か く 見 守 り 支 え て く れ た 両 親 を は じ め ,家 族 の 皆 様 に 心 よ り 感 謝 申 し 上 げ ま す . 本当にありがとうございました. 2012 年 2 月 23 日 橋本 - 51 - 祥太朗