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大成建設技術センター ZEB実証棟 - Green Building Japan
建築物環境性能評価と省エネルギー性能 特集 〔2.認証取得・評価建物事例紹介〕 大成建設技術センター ZEB実証棟 ZEB Demonstration Building, TAISEI CORPORATION 熊 谷 智 夫 梶 山 隆 史 山 口 亮 (大成建設㈱ 設計本部 部長) (大成建設㈱ 設計本部 室長) (大成建設㈱ 設計本部 シニア・エンジニア) TOMOO KUMAGAI TAKAFUMI KAJIYAMA AKIRA YAMAGUCHI 田 中 拓 也 吉 田 三 香 (大成建設㈱ 技術センター 主任) (大成建設㈱ 設計本部) TAKUYA TANAKA プロジェクト概要 建物名称 大成建設㈱技術センター ZEB実証棟 所 在 地 神奈川県横浜市戸塚区名瀬町344- 1 建 築 主 大成建設㈱ 設計・監理 大成建設㈱一級建築士事務所 施 工 大成建設㈱横浜支店 LEEDコンサルタント ㈱ヴォンエルフ 敷地面積 34,821.92m2 建築面積 427.57m2 延床面積 1,277.32m2 構 造 鉄筋コンクリート造(一部PC造) 階 数 地上 3 階,塔屋 1 階 工 期 2013年 8 月~2014年 5 月 ■電気設備概要 電力引込み 6.6kV 1 回線(既存棟より) 受変電設備 屋外キュービクル形 油入200kVA(灯動兼用変圧器) 発電設備 燃料電池 4.2kW (CGS) 小型ガスエンジン 5.0kW 蓄電池設備 リチウムイオン蓄電池22kWh MIKA YOSHIDA 会議室他:空冷ヒートポンプパッケージ ■衛生設備概要 給排水設備 直圧給水 ガス設備 都市ガス そ の 他 節水型衛生器具,雨水利用設備 □認証取得 2014年 LEED-NC v3 Platinum取得 2014年 CASBEE 新築 Sランク(自己評価) 2014年 BELS ★★★★★取得 はじめに 近年,欧米諸国をはじめとした世界各地でZEB(net Zero Energy Building)を目指したプロジェクトが増え てきており,国内でもZEBの実現に向けた取組みが本格 化してきている。そこで我々は,国内でのZEBの実現・ 普及を目的とした「都市型ZEB」(都市部のオフィスビ ルをターゲットとしたZEB)をコンセプトとし,その第 一号として大成建設㈱技術センター ZEB実証棟(以降, ZEB実証棟)を建設した(写真- 1 ,写真- 2 )。 本建物は,基本構想段階から環境建築としての性能を 照明器具 大成オリジナルLED照明 有機ELタスクライト 照明制御 次世代人検知センサー(人感・昼光利用) 中央監視設備 T-Green BEMS(自社開発BEMS) 太陽光発電設備 単結晶タイプ,有機薄膜タイプ 入退室管理設備 非接触ICカード そ の 他 スマートコンセント,太陽光採光装置 ■空調設備概要 熱源設備 発電機排熱,蓄熱槽,吸着式冷凍機 空調方式 アンビエント空調:躯体放射冷暖房 タスク空調:外気処理兼用パーソナル床吹出空調 54 建築設備士・2015・5 写真- 1 建物外観 写真- 2 建物全景 図- 3 年間 1 次エネルギー収支 図- 1 基準階( 2 F)平面図 図- 4 空調システム概念図 1 階には会議室と展示スペースを備え, 2 , 3 階を研 究員の事務室として使用している。建築的特徴のひとつ に,バルコニーを備えたオフィスビルであることが挙げ られる。日射制御,自然換気,自然採光などの省エネ機 能を持たせた上で,屋外ワークスペースとして知的生産 性向上を図る狙いもある(図- 1 ,図- 2 )。 2.設備概要 2.1 基本コンセプト 設備分野の基本方針は,①タスク&アンビエント思想 に基づくパーソナル化による超省エネと②建物全体を利 用した創エネ設備計画である。 ZEB実証棟では年間 1 次エネルギー収支で 0 (ゼロ) を実現するため,一般ビル比で▲75%の超省エネルギー を目標とし,残りの25%の消費エネルギーを太陽光発電 による創エネルギーで相殺する計画である(図- 3 )。 2.2 空調設備概要 図- 2 断面図 高める要素を積極的に取り入れ,国内のみならず国際的 な情報発信を意図して,CASBEEはもとよりLEEDや BELSといった環境建築に関する評価制度を積極的に活 用した事例である。 1.建物概要 建物は大成建設㈱技術センターの敷地内のほぼ中央に 位置し,研究員の事務所棟および新規開発技術の実用化 に向けた実証実験棟の役割を併せ持つ。 空調計画として,自然換気の積極的利用と内部発熱の 減少による空調負荷の削減を見込んだ上で,コージェネ によるアンビエント空調の高効率化を図っている。また, パーソナル空調の設計においては,人検知センサーを利 用した自動化をベースに個人に自己選択性(調節機能) を付加することで必要なところに適正量のサービスを提 供し,満足度の最大化を図る計画としている(図- 4 )。 2.3 照明設備概要 照明計画では,自然光採光システムを導入し,人検知 センサー・明るさセンサーのセンシング技術を用いた最 適照明制御による低照度アンビエント照明とした。また, 有機ELタスクライトの採用により,十分な明るさ感を確 2015・5・建築設備士 55 図- 6 LEED-NC「Platinum」認証書 雨水 図- 5 照明システム概念図 雨樋 保しながら照明エネルギーを最小化する計画である(図 - 5 )。 2.4 創エネ設備概要 建物全体を有効利用した太陽電池計画として,屋上に は発電量重視の単結晶型太陽電池パネルを設置,壁面部 分には将来の発電技術として有望な「有機薄膜太陽電 池」を外壁ユニットに組み込んで設置した。 3.環境建築認証制度の活用 雨水コレクター(簡易ろ過装置) ろ過水 図- 7 雨水の中水利用 3.1 LEEDに関する取組み ZEB実証棟は,2014年10月にLEED-NC v3において, 国内初の「Platinum」認証を取得した。スコアは87/110 点であり,水資源やエネルギーの効率利用の項目で高い 評価を得た(図- 6 ) 。 認証取得後数ヵ月が経過したが,社内外から予想以上 の反響があり,LEEDに対する期待度・注目度の高さを 実感している。以降,各項目別にその内容を紹介する。 1 )Sustainable Site 敷地の選定に関して設計段階では与条件となるが,代 替交通手段に関する項目は国内都市部に位置する敷地で 場合には,適切なモデル化とその根拠資料・説明が求め られ,申請・評価に時間を要するため,認証工程に余裕 を見込んでおく必要がある。 サイト内の再生可能エネルギーに関する項目では,年 間の太陽光発電量を算出・申請し,満点( 7 / 7 点)評 価であった。グリーン電力を購入する際,国内の証書で 申請可能であるが,グリーン電力証書単価としては米国 の方が安価であるため,費用と調達日数により判断する のがよい。 また,本プロジェクトは,第三者機関による全体を通 したエンハンスドコミッショニングを実施することで加 点評価を受けている。 あれば満足している場合が多い。 本件では,鉄道駅からは少し距離があるが,路線バス や専用シャトルバスの利用が評価された。 また,駐輪スペースの確保にはシャワー設備の付属が 4 )Materials and Resources 既存ビルの再利用等が評価項目に含まれており,通常 プロジェクトの場合には対応が難しい。 また,再生製品の利用やFCS認証木材等に関して,現 求められるなどの点も配慮が必要であった。 2 )Water Efficiency 時点で国内製品での対応は難しい。本項目に対しては, 今後,国内のLEED対応建材リストの整備など業界を挙 日本よりも水資源が貴重な国の基準であるため,節水 型衛生器具の採用はほぼ必須事項である。 今回は,更に雨水の中水利用による水資源の節約が評 価され,満点を獲得している(図- 7 ) 。 げての対応に期待したい。 5 )Indoor Environmental Quality 他の項目にも同様に言えることだがLEEDの認証取得 にあたっては,設計段階だけでなく,施工・運用段階の 3 )Energy and Atmosphere 本建物の最大の評価ポイントであるエネルギーの項目 対応も評価の対象となるため,施工業者,メーカーを含 めた協力体制が不可欠である。施工関係者がある程度定 では,eQUESTによるエネルギーシミュレーションを行 い,満点(19/19点)の評価を得た。新規開発技術の導 入や汎用機器であっても複雑な制御により省エネを図る まった段階で関係者への説明会や必要提出書類の整理を 行うことが重要で,このタイミングで認証スコアを見通 し,再度評価ランクを確認する必要がある。 56 建築設備士・2015・5 写真- 2 LEED-NC「Platinum」プラーク 本項目の場合,事前に施工中の室内空気質管理計画書 を作成し,具体的な対策方法を明記,その確認として写 真等で記録することで遵守を徹底し,申請書類として提 出した。 また,VOC対策では,接着剤等のVOC放出量に配慮 が必要であるが,現時点では国内材料の情報整備が十分 でない。 一方,居室としての室内環境評価では,タスク&アン ビエント思想によるパーソナル化として,照明や空調に 調節機能を設けている点が評価された。 最後に,LEED認証取得後の現在は,プラーク(写真 - 2 )の購入・掲示,見学者への説明などによるグリ ーンビルディングの普及活動に努めると共に,竣工後10 ヵ月を目途に運用段階のコミッショニングを行う予定で ある。 3.2 BELSに関する取組み ZEB実証棟は,2014年 4 月より新しく始まった「建築 物 省 エ ネ ル ギ ー 性 能 表 示 制 度(Building Energyefficiency Labeling System:略称“BELS”)」において, 「★★★★★」の評価を受けた。評価指標である「BEI (Building Energy Index) は0.14で, 照 明, 空 調 に お ける超省エネと太陽光発電による創エネにより達成した。 BELS最高ランク「★★★★★」の評価を受けた建築物 は本件が第一号である。評価は平成11年基準からの読み 替え法によるBEIERRにより行った(図- 8 )。BEIERRは 旧省エネ法のCECの数値に基づいて算出するBEIであり, 省エネ法の届出が2014年 4 月 1 日以降にされた建築物を 除き適用可能な指標である。 BELS申請に必要な図書等は省エネ法に基づく届出に 必要な図書と同一である。したがって省エネ法で用いら れる計算プログラムで評価できない設備システムを採用 した場合,別設備に読み替えて計算するなど,工夫が必 要となる。 図- 8 BELS「★★★★★」認証 から吸着式冷凍機で冷水を製造し,冬期は燃料電池の排 熱温水を直接利用するシステムを採用しているが,計算 プログラムに入力できないため,夏期はガス焚冷温水発 生機,冬期はガス焚ボイラーと読み替え,ガス消費量を 加算した。この読み替えが妥当であるかが評価機関の審 査のポイントとなった。審査においては(一財)住宅性 能評価・表示協会や,省エネ計算プログラムを所管する IBEC((一財)建築環境・省エネルギー機構)の意見も 参 考 に し, 最 終 的 に は 安 全 側 の 読 み 替 え を採用し, BEIERRを算出した。 また,売電を行う太陽光発電はBELSの評価対象とす ることができないが,ZEB実証棟では発電した電力を建 物内で利用するほか,余った電力は敷地内の他の建物に 供給可能とし,外部へは売電されないシステムとなって いる。これにより,太陽光発電による創エネの全量が評 価され,消費エネルギーから差し引くことができた。 おわりに 本プロジェクトは「都市型ZEB」のモデルプロジェク トである。「ZEB実証棟」を第三者機関により客観的に 評価していただくことを目的にLEEDやBELSの環境建 築認証制度を活用した。いずれもCASBEE(建築環境 総合性能評価システム)とともに今後普及が期待される 認証システムであり,環境建築を正当に評価し,世の中 に発信できる制度として成熟していくと考えられる。今 後もこれらの評価制度を活用し,環境配慮ビルの提案に 積極的に取り組んで行きたい。 (2015年 1 月27日 原稿受理) ZEB実証棟では熱源として夏期は燃料電池の排熱温水 2015・5・建築設備士 57 LEED NC v3 PLATINUM Scorecard 58 建築設備士・2015・5