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石の文化、木の文化 - 週刊ホテルレストラン HOTERES WEB
大成建設 山内隆司の 世界の風に吹かれて⑫ 石の文化、木の文化 イスタンブールにあるアヤソフィア寺院の巨大ドームは、数度の破壊や崩落 の度に再建され現在に至っている。バルセロナのサグラダファミリアは、百 数十年をかけて今なお建設中。 建築に対するヨーロッパの人たちの執念を感 じざるを得ないと、山内氏は語る。 ・イスタンブールにあるアヤソフ トルコ ィア寺院は、キリスト教文化とイスラ 着工から百数十年。サグラダファミリアは今も建設中 蘆山内隆司 (やまうち・たかし) 氏プロフィール 1946年6月12日、岡山県・邑久町 (現瀬戸内市) に 生まれる。府立天王寺高、東京大学工学部建築学 科を経て、69年6月大成建設㈱入社。建築畑を歩 き、ヒルトン東京ホテル、そごう川口店、センシティ タワーなどを手掛ける。99年6月執行役員関東支 店長、2002年4月常務役員建築本部長、05年6 月取締役専務役員建築本部長、06年4月取締役専 務役員社長室長などを経て、07年4月代表取締役 社長、現在に至る。 ‐2011.8.26‐ ム教文化が共存する、多文化都市イスタ ンブールを代表する建築です。東ローマ 帝国時代にキリスト教の大聖堂として建 てられたもので、天井のモザイク画など 芸術的な価値もさることながら、建築に 携わる者として興味深いのは大きなドー ム天井です。そこで、今回は建築の話題 へと少し話を進めてみたいと思います。 ドームの天井は床からの高さが50m以 上。直径が約30m。歴史的建築のドーム としては世界屈指の大きさです。ドームは 完成するととても堅固な構造ですが、建 設途中は非常に不安定なのです。古典的 なドーム建設は、最初にドームの荷重を 支える支保工と呼ばれる架台を木組みで つくります。その上に順番に石を積み上 げていき、最後にドームの頂上部分に “か んぬき石”を打ち込んで“ぎゅっと”石を 締め上げます。しかし、ドームづくりが成 功するかどうかは、支保工を撤去してみ るまで分かりません。ドームの設計に計 算ミスがあったり、石積みが不完全であ ったりすると、せっかく苦労してつくったド ームが崩れ落ちてしまうからです。支保 工の撤去もドームの荷重が偏らないよう に順番に慎重に行ないます。実際、アヤ ソフィアでは、支保工の解体途中にドー ムが轟音とともに崩壊する事故が7回も続 いたという話です。怒り心頭に発した皇 帝は「今度失敗したら技術者たち全員の 首をはねる」と宣告。命がけの工事は8回 目にしてようやく成功し、文字通り技術者 の首がつながったと言われています。 スペイン・バルセロナにあるサグラダフ ァミリア教会が工事を始めてから100年以 上たった今でも建設途中なのはご存じの 65 通り。建設費のすべてを寄付金に頼って いるためで、財政難で工事がストップし たことがこれまで何度かあったそうです。 私は去年、20年ぶりにここを訪れました が、驚いたことに現在制作中の彫刻のタ ッチが当時見たものとかなり違うのです。 もともとの設計者、アントニオ・ガウディが 詳細な設計図を残していなかったため、 時代ごとに建築家や彫刻家がガウディの スタイルを踏襲しながら建設が進められ ているのだそうです。 これらの荘厳な宗教建築を見るにつ けて、ヨーロッパの人たちの建築に対す る強い執念を感じざるをえません。木と 紙でつくられた家に住んできた私たち日 本人には彼らの「こだわり」はなかなか理 解できないでしょう。 「石造り」と言えば、ヨーロッパの大先輩 にあたるのが古代エジプトです。カイロ 近郊のギザにあるクフ王のピラミッドは、 現在高さ約139m。底辺の長さ約230m。 平均2.5tの石材を約270万個も積み上げ て建造されています。完成したのは、紀 元前2540年ごろ。4辺が正確に東西南北 を向いており、測量技術もさることなが ら、動力で動く重機もない時代に、あれ だけ巨大な建造物をつくってしまう技術 の高さは計り知れません。当時の彼らの 技術を知れば知るほど、現代の建築技術 もそれほど威張れるものではないなとつ くづく感じます。ピラミッドの中腹にある 入り口から中に入ると、奥に石棺を納め た玄室があります。ピラミッドパワーがも らえるというので、験担ぎが嫌いでない 私は、石棺の中に横たわってきました。 その霊験はともかく、玄室へ向かう通路 は大人一人がかがんでようやく通れる高 さと幅しかなく、ピラミッドが完成してから では石棺を運び入れることはできませ ん。現代ほど技術が発達してない当時に、 これほど緻密な計算のうえでつくられた ピラミッドに感心しきりでした。 古代エジプト人は、魂の不滅を信じて いました。時間がたっても朽ちない石造 りの建築は、そうした永遠性の象徴として 考えられていたのではないでしょうか。 いずれにしても、彼らの執念の強さは、 お茶漬けをさらさらと食べる日本人も見 習うべき特質であると感じてしまいます。