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守ろうよ、みんなを! ~なくそう!高齢者の消費者被害~ 民生委員として

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守ろうよ、みんなを! ~なくそう!高齢者の消費者被害~ 民生委員として
2010年度 第26回 ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」
入選
守ろうよ、みんなを! ~なくそう!高齢者の消費者被害~
民生委員として私にできること、できたことから考える
民生・児童委員(東京都世田谷区在住)
浅見 豊美
1 民生委員としての事例
私は世田谷区に住んでいます。民生委員にならないかと声をかけられたのは 9 年前のことでした。民生
委員の仕事について深く考えず、子育てを終え余裕ができた時間を使って、誰かの役にたてるのはありが
たいことだと、そんな気持ちで引き受けることにしました。民生委員委嘱式の翌日、電話が入りました。先
輩の民生委員からで「あなたの担当地区のAさんの様子がおかしいと、ご近所の B さんCさんが心配して
いるからちょっと様子を見て来てくださいね」というものでした。
民生委員とはこういう仕事をするのだと張り切った私は、急いでAさんのお宅に伺いました。チャイムを
押すと、「はーい」とAさんはすぐにでてこられました。「どなた?」「民生委員の浅見です」「あら、民生委員
さん、ご苦労様です」にこにこと愛想のいい70歳になられたばかりのご婦人です。「何かご心配なことがあ
れば、いつでも相談に乗ります」と、私は言いました。「心配なこと?おかげさまで何もないですよ。それよ
り私はあなたのお手伝いを何かしてあげたいわ。私にできることはあるかしら?」すてきな言葉に私は感
激しました。心配なことは何もないと思いました。それでも、Bさん、Cさんのお宅も訪ねてみました。
Aさんは裕福な方です。さらに一年程前のある日、Bさん、Cさんのお宅にAさんから電話がかかってき
たそうです。「午後、うちで、パーティをやるから来てください」というものでした。若い男性がAさんの家に
来て、「会場としてダイニングキッチンを提供してほしい、そうすればご近所の人に無料でおいしいごちそう
をたくさん僕が作ります。パーティをしましょう」といわれたということで、パーティにぜひ来てくださいという
話でした。Bさん、Cさんは、おかしな話だと思い、断りなさいとそれぞれにAさんにアドバイスをして、電話
を切られたそうです。
BさんもCさんもそのあとどうなったか心配でしたが、パーティは断ったのだろうとも思っていました。しば
らくしたある日、事情がわかりました。パーティの時刻には、近所の人は誰も来ませんでした。パーティは
できないという A さんに、若い男性は、Aさんひとりのためにパーティをしましょう、と言いました。たくさんの
ご馳走を、材料も持ち込み、持参の鍋を使って、次から次と作ったそうです。そして最後に、鍋を買いませ
んかと言いました。Aさんは断ることができず、何十万という高価な鍋セットを買いました。一人暮らしの彼
女には、必要のないものでした。
その後、次々とAさんのお宅をいろんな業者が訪問しているというのです。BさんCさんが様子を見てい
ると、数日前、屈強な男が何人も入って行くのを見た、家や土地を狙われているのではないか、それぞれ
のお宅で、同じご心配の話を聞くことになりました。少しAさんの判断力などが落ちてきているという話もあ
りました。ご家族に連絡したいけれど、それには民生委員さんからがいいのではないか、ひょっとしたらA
さんの命を狙われたりしないかと心配にもなって、知り合いの民生委員に相談したということなのでした。
びっくりした私はすぐに家に帰り、Aさんの連絡先を調べました。前任から引き継いだ資料で、弟さんの
電話番号がわかりました。弟さんはすぐに対応され、間に弁護士が入って多額の費用がかかったそうです
が、すでに結んでいた不動産の売買契約は解除できました。
そうこうするうちに、私は、Aさんのお宅でこういうことを目撃したというDさんの話を聞くことができました。
ピンポーン。Aさんが「はーい」とドアを開けると、すかさず玄関に入った男が「羽毛布団を買いませんか」と
言いました。いらない、いやー、いい布団だから買って下さいと押し問答をしているところに、またピンポー
ン。Aさんがドアを開けると、今度は若い男です。その男もすかさず中に入りました。若い男は、前の男に
「お前は誰だ」と聞きました。「布団の販売をやっている。お前こそ誰だ」すると若い男は「俺は、この家の
息子だ」と名乗り、「布団はいらない。帰れ!」と言ったそうです。業者は黙って外に出ました。Aさんは大
感激です。すると若い男は「いやーあいつは、札付きの悪い男なんです。よかった、よかった、あいつから
布団を買うと、とんだことになるところだった。ところで、私の布団は大丈夫です。ぜひうちの布団をお買い
求めください」と、言ったのだそうです。偶然、布団業者が続けて訪ねてくることなど、おかしいと誰でも思
いますが、A さんは、しつこく感じの悪い業者を追い払ってくれた、しかも、息子だと言ってくれた、それだけ
でこの若い男を信用したのでした。Aさんは、Dさんの制止を振り切って、若い男から、羽毛布団を買いま
した。Dさんが2階に上がると、部屋は羽毛布団で埋まっていたというのです。
その話を受けて、私はまた弟さんに電話をしました。「いやー、そうなんですよ。でもまあ、姉はお金があ
るし、布団ならいいでしょう・・・」私はびっくりしました。なんとかしなければならない。お金があるとか、ない
とかの話ではない、と思いました。
気をつけているとAさんの家にはいろんな業者が出入りしていました。ひと月の間に 3 回も植木業者が、
すでに剪定の終わった木々を形ばかりいじっているのも見ました。
こういう経験のある民生委員は少なくありません。問題はそれが悪質商法の被害に遭っていると気づく
ことができるかどうかです。また、それが悪質な商法にだまされていると気づいたら、適切な対処に結んで
いけるかどうかです。民生委員の仲間にAさんの話をするうちに、民生委員という人たちは、昔ながらの義
理人情に厚い人柄の人が多く、その人柄ゆえに、自分自身がだまされたという経験が多いことがわかって
きました。無償で地域住民の相談にのり、時には住民に付き添って役所や病院に通うこともある、家族の
ない、あるいは家族に見放された住民の世話をするなど大変な困難を背負うこともある、そんな仕事をす
る民生委員を引き受けるということは、何か頼まれたら断りにくい性格だともいえます。トラブルを避けたい、
みんなと仲良くしたいという心情の人が多いため、悪質業者がだますには好都合の人も多いのです。また、
経済的には比較的恵まれた人も多いため、だまされたと知っても、内緒にして誰にも相談せず、いい人生
勉強だったとあきらめて終わることが多いこともわかってきました。これでは、悪質業者の思う壺です。人
がいい民生委員の中には、悪質業者と対峙するには不向きな人も多いということです。
2 消費者問題の専門家としての解決
さて私はこうした出来事の中で、区の広報を読み、世田谷区の消費生活課が、消費者カレッジという連
続講座を開催していることを知り、早速通いました。また、消費生活アドバイザーの試験対策講座にも参
加しました。そこで、消費者を狙う悪質業者の手口の勉強をしました。わかったことは、Aさんは悪質業者
の仲間で流通する「かもリスト」に載っていて、次々販売という悪質商法の被害にあっている、かもになっ
ている、ということでした。また、A さんのような訪問販売は、実は「クーリング・オフ」という制度を使えば、8
日以内なら無条件で解約できたということでした。羽毛布団は、たとえ使ってよごしていても期間内なら解
約できたのです。鍋もそうできたのです。お金は内金も含めて全額が戻り、商品の引取りも業者の負担で
できました。
知った時には時間が経っており、対応するには遅すぎましたが、Aさんについて、弟さんと何度も話し合
って対策を講じました。布団くらいは、植木の剪定くらいは、といううちに家や土地を狙われたのではありま
せんかと説得しました。弟さんは、遠方から毎日通ってこられ、業者がきてもドアを開かず追い返されまし
た。電話も弟さんが出るようになり、消費生活センターに通報するというと次からは来ないようになりました。
訪問販売お断りと書かれたシールを玄関に貼ってもらいました。あれから 9 年、Aさんはまだ、お一人暮ら
しですが、近所の方や、ヘルパーさんなどの見守りも功を奏し今は被害に遭われることはありません。
さて、私は世田谷区の消費者カレッジを卒業し、消費生活課の区民講師になり、試験に合格し、消費生
活アドバイザーにもなりました。さらに、消費生活コンサルタントという資格もとりました。悪質商法を撲滅
する活動の前線に立つ人になったのです。
3 高齢者の消費者教育
現在、私は、世田谷区消費生活課の区民講師、また、世田谷区消費者あんしんサポーターとして、消
費者問題の啓発活動をしています。前者は世田谷区から依頼があると、組織された会のメンバーの中か
ら 3 人前後でチームを組み、区内の高齢者のサークルや自治会、また、学校などで悪質商法撃退の講座
をする講師です、後者は高齢者に特化して、高齢者の集まり、地域包括支援センターが主催する健康体
操や社会福祉協議会が後援する高齢者のサロンなどに出向き、短い時間にやはり悪質商法の手口を紹
介し、消費生活センターでの相談につなげる役目の講師です。どちらもボランティア活動という位置づけで
す。
高齢者向けの講座については工夫が必要です。長時間の退屈な講義形式では高齢者は、体力・気力
が持続しません。10 分から 15 分単位の短い時間でまとまった話をして、いくつかの話を組み合わせます。
1.契約の基本を考える、2.悪質商法の手口を紹介する、3.特定商取引法におけるクーリング・オフ制
度について説明する、4.消費生活センターを紹介する、などが基本です。それに、だまされる心理や、だ
まされやすい日本人の特性などの話を織り込みながら、クイズや寸劇、時には替え歌を交えて、講座を進
行します。こうした参加型といわれる形式が高齢者には、有効です。契約の基本は、欠かせません。クー
リング・オフの話をするとどんな買い物でもクーリング・オフできると考える人がいますので、普段の買い物
も契約行為であり、一般には、双方が合意した契約を一方的に解約できないことについて念をおします。
また、高齢者はテレビや折り込チラシなどの通信販売を利用することが多いので、返品制度の話をします
が、その理解のためにも契約の基本は押さえる必要があります。
また、当然ですが、大きな声でゆっくり話す。レジュメは大きな活字で組み、行間をたっぷりとる。耳の遠
い高齢者も多いため、目に訴える資料を多くし、できるだけ大きくして提示する。さらに、飽きることがない
よう、工夫も必須です。体操を兼ねたクイズや、大きな声で歌う替え歌は好評ですが、悪質商法の手口を
紹介する寸劇も高齢者自身に、あるいは、利用する施設の職員に演じていただくと親近感が増します。ク
ーリング・オフの葉書も、時には実際に書いてもらうことで理解を定着させていきます。
高齢者は、学校教育の中でいわゆる消費者教育を受けていません。口頭でも契約が成立し、日常の買
い物も契約だということも初めて知ったといわれます。まして、消費者の権利と義務についてなどは、考え
たこともないというのが実情です。高齢者については、特に啓発の機会を設けるべきで、出前講座に出向
くことができる人だけを対象にしたのでは不十分です。
また、民生委員や町会役員など、地域で高齢者と接する機会の多い住民には、悪質商法に関する法律
の基礎知識や、手口の紹介、解決の方法を繰り返し、伝える必要があります。
一般には、自治会活動や高齢者サロン、また健康体操や生涯学習などに参加される高齢者は理解力
が高く、社会参加の意欲が強いため相談相手も多く、トラブルに巻き込まれたとしても解決につながりや
すいといえます。また介護サービスを利用している、いわば少し弱った高齢者は、ヘルパーやケアマネー
ジャーの見守りの対象になっています。そうした施設で高齢者向けに講座が実施される機会は増えてきて
います。また、ヘルパーやケアマネ向けの啓発講座も行われていることが多く、施設や介護サービスの利
用者は、被害を未然に防ぐことも可能な人たちです。
問題はそのどちらにも属さない、啓発講座が届かない人たちです。近所に SF 商法の会場があることを、
振り込め詐欺などの被害がでていることを、悪質な業者が門などに印をつけて連絡を取り合い、一人暮ら
しや高齢者だけで暮らすだましやすい世帯を狙っていることをどうやって知らせたらいいのでしょうか。視
力・聴力も低下してきている高齢者は新聞を読んだり、テレビを観ることも少なくなっています。自治体の
広報は比較的読まれると思われるところから、重要な役割を担っていますが、大切なのは、近所の人がそ
れとなく孤立しがちな高齢者の話し相手になり、情報を提供できる体制を作ることです。それには、民生委
員の活用も大切で、そのためにも民生委員には繰り返し、悪質商法に関する講座を実施すべきです。争
いごとを避けがちな民生委員に悪質業者と闘うことを学んでもらうのは、とても重要なことです。
4 地域のネットワークが被害を防ぐ
今日、民生委員の地域への影響力は低下しています。行政が積極的に地域のネットワークを構築し、
悪質業者が入り込めない地域づくりをする必要があると考えます。個人情報保護は大きな壁でもあります
が、高齢者の被害を防ぐのは、ひとつは、系統的な幅広い層に対する消費者教育、もうひとつが、見守り
のための地域のネットワークの構築にあると実体験から考えております。最初に事例として挙げた A さん
は、地域の人たちに見守られていたから、早い段階で気づけた、といってもすでに床下換気扇はいくつも
ついている状態でしたが、それでももっと大きな被害に遭う前に気づくことができたのは、地域の人たちと
常日ごろかなり密接な交流があったからです。
地域活動に参加しない、介護サービスをまだ受けてないなど、消費者啓発の行政サービスから漏れる
高齢者を、地域で見守ることが、高齢者を悪質商法から守る本当の対策です。また、悪質業者の入り込め
ない地域づくりが必要です。孤立しがちな高齢者に、地域の人々がうまく連携して声をかけ、何か変ったこ
とがないか、見張るのではなく見守る体制を作る必要があります。システムとしてそれが構築されている
地域には、悪質業者は近づきにくいということはいくつかの団地の自治会で講師活動をする中で気づきま
した。全戸に訪問販売お断りのシールを貼っているだけでも効果はあるようです。地域が団結・結集してい
ることが一目でわかるからです。
提言
高齢者を悪質商法の被害から守るのは次のようなことです。
1. 消費者教育を学校教育で受けていない年齢層に対して、消費者問題に関する知識を浸透させるため
にボランティアを活用する
2. 民生委員など高齢者と接する機会の多い人に重点的に消費者問題の啓発を行う
3. 高齢者には楽しくわかりやすい、工夫した啓発講座を届ける
4. 地域の見守りのネットワークの構築が高齢者の消費者被害を防ぐことから、遠回りでも 地域の再生に
取り組む
以上
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