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電子カルテ導入に合わせて開発した 「NST輸液監査システム」について
医療の質向上と薬剤業務 電子カルテ導入に合わせて開発した 「NST輸液監査システム」について ∼宮崎県立延岡病院の事例∼ 宮崎県北部地域中核病院として地域医療の整備・充実をはかっている宮崎県立延岡病院。昨年、 宮崎県病院局の主導で県立3病院をネットワークで結んだ電子カルテを導入しました。導入に 合わせて、以前から稼働しているNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)で 活用する「NST輸液監査システム」を開発しました。そこで、 「NST輸液監査システム」を開 発され、運用に携わっておられる薬剤部の薬剤長・ 恭子先生、鳥取部和弘先生、NSTメン バーで薬剤部主幹の小畑寛幸先生と栄養管理科の佐藤加代子さんにお集まりいただき、電子 カルテと「NST輸液監査システム」の概要や運用方法などを伺いました。 宮崎情報ハイウェイ21を構築していますが、利用 Ⅰ 3病院を結ぶ電子カルテ 者ごと、目的ごとに独立したネットワークも可能に なっています。この電子カルテもその一環として県 宮崎情報ハイウエイに 電子カルテネットワークを構築 病院局がネットワーク化したもので、セキュリティレ ベルが高い点が特徴です。もし、災害等で当院のサ 電子カルテを導入された経緯を教えてください。 ーバーに障害が発生しても、他の県立病院にある 平成14年に、 これまで使用していたオーダ サーバーでカルテの参照ができようになっています。 リングシステムの更新時期が来たため、宮崎県病 県病院局で医薬品を共同購入、 総合在庫管理 院局(当時県立病院課)主導のもと、県立4病院に おいて、オーダリングの更新をするか、又は、新たに 電子カルテを導入するかについて検討しました。 その結果、4病院とも同一の電子カルテを導入す 入したメリットをあげてください。 ることになりました。まず、平成18年1月に県立宮 同じ方式を採用しましたので、開発コスト面 崎病院、続いて同年5月、当院と県立日南病院で稼 で大きなメリットがありました。県病院局では、県立 動しました。なお、もう一つの精神科単科病院であ 病院事業の経営の健全化を図るため、財務情報や る県立富養園は、県立宮崎病 経営情報などを一元管理しており、3つの病院の診 院に併 設されるた め、導 入し 療科ごとの費用対効果を比較することもできます。 ておりません。 薬剤関係でいえば、医薬品の共同購入を行い、3病 3つの県立病院で同じ電 院の採用薬マスターを総合管理しています。医薬 子カルテが稼働しているわけ 品の採用については、各病院の薬事委員会で決定 ですね。 しておりますが、見積りや入札に関しては、県病院 鳥取部 そうです。加えて、3 局が一括して行うなど、業務の効率化を図ってい つの病院の電子カルテは宮崎 ます。 県が構築した光ファイバー・ネ 恭子 先生 (薬剤部 薬剤長) 3 その他に、3つの病院で同じ電子カルテを導 電子カルテで使用する各種のソフトも3病院 ットワークで結ばれています。 で共用しているのですか? 宮崎県は全国で初めて県と全 鳥取部 薬剤部のDI情報、薬剤管理指導業務のソ 市町村を光ファイバーで結ぶ フトも3病院同じもので、電子カルテ画面から立ち 上げて使用しています。今回、電子カルテに組み込 佐藤 それまで栄養成分など んだ「NST輸液監査システム」は当院でカスタマ をNSTメンバーが計算してい イズを行いましたが、3病院共通のソフトになって ました 。薬 剤 部からこのよう います。 な自動計算システムの提案を いただき、 NSTメンバーと細 「NST輸液監査システム」 Ⅱ の概要 必要エネルギー量とオーダした 輸液の詳細を一画面で表示 NSTについてお伺いします。いつから稼働さ 部を詰めました。 鳥取部 昨年7月末から電子 カルテにの せ 、翌 8 月に院 内 のチーム医療セミナーで説明 して 実 質 的に運 用を 始 めま 鳥取部 和弘 先生 (薬剤部) した。 れたのですか? 小畑 平成15年の12月に立ち上げて、平成17年 「NST輸液監査システム」の運用手順 11月に日本静脈経腸栄養学会、平成18年9月に 栄養療法推進協議会からNST稼働施設として認定 「NST輸液監査システム」の具体的な運用手 されました。NSTによる病棟回診は毎週1回、症例 順を教えてください。 検討会は2週間に1回行っています。 佐藤 まず、入院患者さんを対象に表1の「栄養管 今回、開発された「NST輸液監査システム」と は、 どのようなものですか? 理計画書」を作成し、栄養状態を評価してスクリー ニングを行います。主治医が栄養摂取方法やNST 静脈栄養管理を行っている入院患者さんの に栄養管理を依頼するかを決めますが、静脈栄養 栄養管理上の治療効果を向上させる目的で開発し 管理が必要と判断された患者さんに「NST輸液監 たものです。電子カルテの導入を機会に、 これまで 査システム」を使用することになります。 紙ベースでエネルギー量などを計算していたもの 表1 栄養管理計画書 を電子カルテ上で自動計算するようにしました。医 師が注射オーダを入力すると、患者さんに必要な エネルギー量が表示されます。オーダした輸液の 総カロリーと主要成分がわかるように、一つの画面 で表示されます。また、 NSTメンバーは、医師がオ ーダした輸液の詳細を電子カルテでみることがで きます。 「NST輸液監査システム」を開発するにあた って留意された点を教えてください。 鳥取部 薬剤部で監査する場合、 注射せんを出力後、 セット払出時に監査し、必要時に疑義照会を行うこ とになりますが、タイムラグが生じます。医師がオ ーダ入力する時点で、必要な情報をみることがで きれば、医師自身が監査してオーダ修正できると考 え、入力時チェックが簡単にできるようにしました。 カロリーや輸液成分が基準値から外れている場合 には、当該輸液成分の分析欄の背景色が黄色(注 意値)または赤色(警告値)に表示されるようにし ました。その結果、薬剤部における監査時の疑義照 会が減少しました。 提供:宮崎県立延岡病院栄養管理科 4 表2 「注射カレンダーによるオーダ画面」 小畑 静脈栄養管理が必要な入院 患者さんの輸液オーダを医師が行 う時、電子カルテの注射カレンダー 2 「輸液成分チェック」 をクリック で入力を行います。表2の「注射カ レンダーによるオーダ画面」において、 注射する薬品名を入力しますが、入 1 チェックする日をクリック 力の途中でも輸液成分の確認が可 能です。①チェックする日をクリック 提供:宮崎県立延岡病院薬剤部 表3 「輸液成分チェック画面」 身長 体重 し、②「 輸液成分チェック」をクリッ クすると、表3の「輸液成分チェック 測定日 画面」が出ますので、この画面で確 認を行います。 「NST輸液監査シス テム」で最も工夫を凝らした画面で す。そこで、右下の ③「計算」ボタン を押すと、表4の通り「 必要エネル ギー量画面」が別ウインドウで表示 されます。 鳥取部 必要エネルギー量だけは、 を押す 3 「計算」 7 「必要エネルギー」表示 活動係数とストレス係数を決めない と算出できませんので、別ウインドウ 画面で表示するようにしました。そ こで、④「活動係数」と⑤「ストレス 係数」を入力して、⑥「確定」ボタン を押すと、 別ウインドウ画面が消えて、 「輸液成分チェック画面(表3)」の右 提供:宮崎県立延岡病院薬剤部 下の ⑦「必要エネルギー」欄にカロ リー が表 示されることになる手 順 表4 「必要エネルギー量画面」 です。 「 輸液成分チェック画面 」を開 けた時に、オーダした輸液の主要成 分量が表示されるのですね。 4 「活動係数」を入力 小畑 そうです。年齢と身長、体重 は 電 子 カ ル テ から 自 動 的 に 表 示 されますので、成分分析は体重換算 5 「ストレス係数」を入力 で 基 準 値を 示しています。全 液 量 (mL) 、 糖質(%) 、 ビタミンB1の有無、 NPC/N比、 NPC (kcal)、アミノ酸 総量(g)、窒素量(g)、カリウム濃度 (mEq/L) 、ナトリウム濃度(mEq/L) 6 「確定」を押す の各量がわかるようになっています。 ビタミンB1の投与は重要ですから、 3番目に表示しています。PPN(Peripheral Parenteral Nutrition 提供:宮崎県立延岡病院薬剤部 5 =末梢静脈栄養)管理でも必要ですが、 TPN(Tot- 佐藤 院内の職員を対象とし al Parenteral Nutrition=中心静脈栄養)管理 た栄養知識啓発のために勉強 では不可欠ですから、投与されてない場合は背景 会を月に2回開催しています。 色が赤色になって警告します。なおNST回診をす 当院は地域支援病院と ると、経口摂取されている患者さんでも、ビタミン して地域の医療機関と連携を B1不足による食欲不振が起こる患者さんが少なく はかっています の で 、院 内で ないことがわかります。 開催するチーム医療セミナー を開放しています。NST勉強 Ⅲ「NST輸液監査システム」 の評価 栄養管理方法を評価・検討するために有用 会もその一つで、他の施設の 栄養士さんや看護師さん、検 査技師の方々が参加されてい ます。 佐藤 加代子さん (栄養管理科、 NSTメンバー) NSTにおける薬剤師の役割についてお聞か 「NST輸液監査システム」に対する評判はい せください。 かがですか? 佐藤 軽度と中度の栄養不良患者さんは食事で対 鳥取部 昨年8月に実施した本システムの院内説 応できる場合もありますが、高度の栄養不良患者 明会の後でアンケート調査を行っ さんや静脈栄養管理が必要な患者 たところ、理解していただき、全般 さんには、薬剤師さんのアドバイス 的に高い評価を得ることができま が不可欠です。 「NST輸液監査シ した。 ステム」にしても薬剤師さんだから 小畑 NST対象患者さん の 回診 こそ企画できたものだと思います。 時やNST症例検討会で有効に活用 小畑 NSTが介入することによっ しています。病棟で患者さん の 状 て患者さんの状態が良くなっている 態をチェックしながら、電子カルテ ことは明らかであり、薬剤師にとっ 上で「輸液成分チェック画面」がみ てもやりがいのある仕事といえます。 られるた め、そ の 場で栄養管理を 薬剤部内の業務量が増える 評価・検討できます。 佐藤 「輸液成分チェック画面」に 一方で、人的資源には限りがありま 小畑 寛幸 先生 (薬剤部 主幹、 NSTメンバー) すが、薬剤師がチーム医療に積極的 体重(kg)当たりの基準値、 「必要エネルギー量画面」 に参加することは重要です。 「NST輸液監査シス では基礎エネルギー算出式が表示されていますの テム」のように、薬剤師業務の効率化をはかりなが で分かりやすいと思います。 らNSTに貢献できる方法もあります。今後は、県立 何よりもNSTメンバーは職種を問わず誰で 病院が電子カルテのネットワークを結んでいる点 も電子カルテを通して、情報を共有できることが大 を活かして、病院間でNST活動や薬剤関連業務の きな効果です。それが、電子カルテを導入した目的 見直しなど、改善をはかっていくように努めたいと の一つでもあります。医療の質と安全性の向上に 思っています。 つながるのではないでしょうか。 鳥取部 県立宮崎病院、県立日南病院でも「NST 輸液監査システム」の稼働に向けて準備している ということです。 宮崎県立延岡病院の概要 所在地:〒882‐0835 宮崎県延岡市新小路2‐1‐10 開 設:昭和23年9月 病床数:一般病床456床、 NSTに薬剤師の関与は重要 感染症病床4床 診療科目:20科 薬剤師数:10名 その他のNST活動についてお聞かせください。 6