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栄養教育における課題:
第 第1章 1章 第 1 章 栄養教育における課題:序論 栄養教育における課題: 序論 Issues in Nutrition Education: An Introduction 本章の概要 栄養教育分野の歴史や目的を紹介する。また,本書で用いる栄養教育の定義と本書の概要を説明する。 本章のねらい 読み終えた時に,以下ができること。 なぜ栄養教育を行うことが重要であり,また難しいのかを述べる。 栄養教育は有効かどうかを述べる。 栄養教育の目的や視野に関する異なった見解を理解する。 栄養教育を定義する。 栄養教育者の役割を述べる。 シナリオ まず初めに考えてみるべきことがある。それは,大量の栄養・食情報がメディアで公開されている 中で,皆さんが栄養教育をどう思っているか,「なぜ」栄養教育が求められるのかということであ る。栄養教育を定義してみよう。栄養教育のゴールはどのようなものであろうか。栄養教育の内容と しては,どのようなものが適切であろうか。経験や予想をもとに,短い文章を書いてみよう。この本 を読み終えてから,もしくは学期末に読み返し,考え方がどう変わったかを確認しよう。 1 第 1 章 栄養教育における課題:序論 はじめに ing Institute, 2004)。「栄養」が商品を売るためのバズワード(分野内の通用語)であることを認識してい る食品企業や飲食店も,活気を得ている。こうした食品企業や飲食店は,無脂肪の焼菓子や低脂肪のヨーグ ルトを開発し,そのような健康的な食品を愛してやまない人が満足するような商品をつくる。また,別の要 栄養教育分野が盛り上がる時が訪れた。誰もが食物(food)に興味がある様子である。毎週のように,食 望に応えるために低炭水化物食品をつくる。通常の高塩分食品の隣には減塩食品が置かれている。スーパー 物に関する欄を設ける新聞も多い。レストランガイドは劇的に増加し,シェフは今や有名人である。テレビ マーケットでは,野菜や果物のコーナーを 2~3 倍に広げたところも多い。ファストフードチェーンでは, でも料理番組が人気であり,地域によっては食物の専用チャンネルまである。書店の料理本と食物関連コー 揚げる代わりに焼いた商品や,サラダなどの「健康的な」商品が提供されている。 ナーは拡大され,ダイエット本が溢れている。また,食物は重要な話題でもある。あなたが栄養関係者であ ることがわかるやいなや,質問してくる人に出会ったことがあろう。また,食物は単に必要なだけではな く,人生の喜びのひとつであることも間違いない。約 200 年前,Brillat-Savarin が著書で,味の生理機能に B 栄養教育は必要か ついて次のように指摘した。「食べることは喜びである…… 少なくとも 1 日 1 回は必然的に起こり,時間 をあけて 2, 3 回,不便なく繰り返される…… この喜びは,どんな喜びとも組み合わせられるし,ほかの 喜びの不足を補うことさえできる」(Brillat-Savarin, 1825) 。 同時に,アメリカなどの先進諸国では,近年の食事パターンと,10 大死因のうち心疾患,各部のがん, 上手に食べることは,以前よりも簡単になったはずである。ニュースで情報が提供され,食料品店には健 康的な食物がたくさん置いてある状況で,栄養教育は必要であろうか。答えは「必要」である。これには複 数の理由がある。 脳 卒 中,2 型 糖 尿 病 の 4 死 因 と の 関 連 が み ら れ る(Frazão, 1999; National Center for Health Statistics この理由を知る前に,栄養教育(nutrition education)という言葉についてはっきりさせておこう。栄養 [NCHS],2003)。食事因子は,高齢者における骨折の主な原因である骨粗鬆症にも関係している(Frazão, (nutrition)という言葉は,食物が人々の栄養を良くしていく道のりを説明する際に使われる。良い栄養 1996)。肥満は増加し続け,様々な慢性疾患のリスクを増加させている。1970 年代後半から 1990 年代ま は,すでに述べたように,子どもの成長・発育や,あらゆる年代の健康やウェルビーイング(p. 22 参照) で,多くの年齢階級において過体重が 2 倍に増加した。現在では,6~17 歳の若者の 10~15% が過体重 に必要であり,栄養と健康の関係には,様々な食関連要素が存在する。つまり,栄養教育は栄養についての であると考えられている。アメリカではさらに,成人の約半数は過体重,または肥満と考えられている 教育なのである。ただし,人が食べるのは栄養素ではなく食物であるため,いわゆる「栄養教育」は栄養に (Flegal, et al., 2002; Hill, et al., 2003; Hedley, et al., 2004) 。すべての州で肥満者率が跳ね上がった。1990 ついての教育であると同時に,食物についての教育である場合が多い。 年には肥満者率が 14.0% を下回る州が多かったが,今や,ほとんどの州で肥満者率が 20.0% 以上となっ ている。このことから,人々の関心事は栄養素欠乏から,食事における複数の食物の摂取過剰とアンバラン a 望ましいとはいえない食事パターン ス に 取 っ て 代 わ っ た(U.S. Department of Health and Human Service[DHHS] , 1988; Food and Nutrition 食品と加工食品が豊富にあっても,望ましい食事摂取状況の人が多いとは限らない。長年にわたる統計に board, 1989; DHHS, 2000)。 よると,アメリカ人 1 人あたりの各種食品・加工食品の平均摂取状況は,改善された面もあれば,他方で 今日,健康状態は少なくとも部分的に,人々の行動の影響を受けるところが大きく,生活習慣に関連する は未だにそれほど健康的ではないという動向が示されている。例えば,今日のアメリカ人は 100 年前より ことが明らかになっている(DHHS, 2001)。実際に食事と,例えば喫煙,座業の多い生活習慣,飲酒,事 も生の果物の摂取量が少なく,特にオレンジジュースのように加工された果物を多く摂取している。野菜摂 故などの社会的・行動的要因がアメリカにおける全死因の約半数を占めると予測されているのである(Insti- 取量については,過去 25 年間で増えているものの,自家製野菜が主な供給源だった 100 年前とほぼ同量 tute of Medicine[IOM],2000)。 である。さらに,その野菜摂取量の 50% はじゃがいもが占め,そのうち,大部分がフライドポテトやポテ 慢性疾患の多くが,多かれ少なかれ個人的・社会的行動パタンの結果であるという事実(DHHS, 1988; トチップスである。牛乳の平均摂取量が過去 50 年間で減少しているのに対し,炭酸飲料は同期間で 10 ガ Food and Nutrition Board, 1989; IOM 2000; DHHS, 2000)は,個人の食行動,生活する地域の条件,社会 ロン(38 L)から 55 ガロン(208 L)に増えている。脂質ならびに糖質と同様,肉の摂取量も多い。最後 構造,食関連政策が,疾病リスクの低減につながる可能性を示唆している。予防することが可能になってき に,Healthy Eating Index(Center for Nutrition Policy and Promotion[CNPP],2004)を 用 い て 食 事 パ タ ている。加えて,疾病予防だけではなく,健康改善への関心も高まってきている。より良い健康により,生 ンに対する評価を行ったところ,アメリカ人の約 74% が「改善の必要あり」,16% が「不良(問題あり)」 活の質が改善し,活動が活発になることから,一度限りの人生において可能なことが増える。健康に影響を であることが示された。子どもについては,幼いうちは,3 分の 1 が「良い」食事パターンと評価されてい 及ぼす修正可能な行動的・社会環境的要因をコントロールすることにより,人はより健康的に,そして長く るが,9 歳までにはわずか 12% となり,ほぼ成人のデータに匹敵する。 生きることができる。このことから,健康を改善し疾病リスクを低減させる国家戦略を実施するという提言 がなされている(DHHS, 2000; IOM, 2000)。 こうした食べ方は,アメリカ政府の食事ガイドラインであるマイピラミッド*と比較することが可能であ る。マイピラミッドは,科学的根拠に基づき,健康的な食べ方を絵で示したものである。 図 1-1 に示すよ 食・健康に関する課題への興味は,消費者の間でも高まっている。スーパーマーケットの買物客への年次 うに,この図は基本となるいくつかの食品群から摂取すべき平均的な量を示している。図中の各群の幅の広 調査では,栄養が購入決定の要素としてますます重視されるようになったことを示している(Food Market- さは,個人が各食品群からどれくらいの量を食べる必要があるかを示している。例えば,穀類や野菜類は, 2 3 第1章 A 第 1 章 栄養教育における課題:序論 はじめに ing Institute, 2004)。「栄養」が商品を売るためのバズワード(分野内の通用語)であることを認識してい る食品企業や飲食店も,活気を得ている。こうした食品企業や飲食店は,無脂肪の焼菓子や低脂肪のヨーグ ルトを開発し,そのような健康的な食品を愛してやまない人が満足するような商品をつくる。また,別の要 栄養教育分野が盛り上がる時が訪れた。誰もが食物(food)に興味がある様子である。毎週のように,食 望に応えるために低炭水化物食品をつくる。通常の高塩分食品の隣には減塩食品が置かれている。スーパー 物に関する欄を設ける新聞も多い。レストランガイドは劇的に増加し,シェフは今や有名人である。テレビ マーケットでは,野菜や果物のコーナーを 2~3 倍に広げたところも多い。ファストフードチェーンでは, でも料理番組が人気であり,地域によっては食物の専用チャンネルまである。書店の料理本と食物関連コー 揚げる代わりに焼いた商品や,サラダなどの「健康的な」商品が提供されている。 ナーは拡大され,ダイエット本が溢れている。また,食物は重要な話題でもある。あなたが栄養関係者であ ることがわかるやいなや,質問してくる人に出会ったことがあろう。また,食物は単に必要なだけではな く,人生の喜びのひとつであることも間違いない。約 200 年前,Brillat-Savarin が著書で,味の生理機能に B 栄養教育は必要か ついて次のように指摘した。「食べることは喜びである…… 少なくとも 1 日 1 回は必然的に起こり,時間 をあけて 2, 3 回,不便なく繰り返される…… この喜びは,どんな喜びとも組み合わせられるし,ほかの 喜びの不足を補うことさえできる」(Brillat-Savarin, 1825) 。 同時に,アメリカなどの先進諸国では,近年の食事パターンと,10 大死因のうち心疾患,各部のがん, 上手に食べることは,以前よりも簡単になったはずである。ニュースで情報が提供され,食料品店には健 康的な食物がたくさん置いてある状況で,栄養教育は必要であろうか。答えは「必要」である。これには複 数の理由がある。 脳 卒 中,2 型 糖 尿 病 の 4 死 因 と の 関 連 が み ら れ る(Frazão, 1999; National Center for Health Statistics この理由を知る前に,栄養教育(nutrition education)という言葉についてはっきりさせておこう。栄養 [NCHS],2003)。食事因子は,高齢者における骨折の主な原因である骨粗鬆症にも関係している(Frazão, (nutrition)という言葉は,食物が人々の栄養を良くしていく道のりを説明する際に使われる。良い栄養 1996)。肥満は増加し続け,様々な慢性疾患のリスクを増加させている。1970 年代後半から 1990 年代ま は,すでに述べたように,子どもの成長・発育や,あらゆる年代の健康やウェルビーイング(p. 22 参照) で,多くの年齢階級において過体重が 2 倍に増加した。現在では,6~17 歳の若者の 10~15% が過体重 に必要であり,栄養と健康の関係には,様々な食関連要素が存在する。つまり,栄養教育は栄養についての であると考えられている。アメリカではさらに,成人の約半数は過体重,または肥満と考えられている 教育なのである。ただし,人が食べるのは栄養素ではなく食物であるため,いわゆる「栄養教育」は栄養に (Flegal, et al., 2002; Hill, et al., 2003; Hedley, et al., 2004) 。すべての州で肥満者率が跳ね上がった。1990 ついての教育であると同時に,食物についての教育である場合が多い。 年には肥満者率が 14.0% を下回る州が多かったが,今や,ほとんどの州で肥満者率が 20.0% 以上となっ ている。このことから,人々の関心事は栄養素欠乏から,食事における複数の食物の摂取過剰とアンバラン a 望ましいとはいえない食事パターン ス に 取 っ て 代 わ っ た(U.S. Department of Health and Human Service[DHHS] , 1988; Food and Nutrition 食品と加工食品が豊富にあっても,望ましい食事摂取状況の人が多いとは限らない。長年にわたる統計に board, 1989; DHHS, 2000)。 よると,アメリカ人 1 人あたりの各種食品・加工食品の平均摂取状況は,改善された面もあれば,他方で 今日,健康状態は少なくとも部分的に,人々の行動の影響を受けるところが大きく,生活習慣に関連する は未だにそれほど健康的ではないという動向が示されている。例えば,今日のアメリカ人は 100 年前より ことが明らかになっている(DHHS, 2001)。実際に食事と,例えば喫煙,座業の多い生活習慣,飲酒,事 も生の果物の摂取量が少なく,特にオレンジジュースのように加工された果物を多く摂取している。野菜摂 故などの社会的・行動的要因がアメリカにおける全死因の約半数を占めると予測されているのである(Insti- 取量については,過去 25 年間で増えているものの,自家製野菜が主な供給源だった 100 年前とほぼ同量 tute of Medicine[IOM],2000)。 である。さらに,その野菜摂取量の 50% はじゃがいもが占め,そのうち,大部分がフライドポテトやポテ 慢性疾患の多くが,多かれ少なかれ個人的・社会的行動パタンの結果であるという事実(DHHS, 1988; トチップスである。牛乳の平均摂取量が過去 50 年間で減少しているのに対し,炭酸飲料は同期間で 10 ガ Food and Nutrition Board, 1989; IOM 2000; DHHS, 2000)は,個人の食行動,生活する地域の条件,社会 ロン(38 L)から 55 ガロン(208 L)に増えている。脂質ならびに糖質と同様,肉の摂取量も多い。最後 構造,食関連政策が,疾病リスクの低減につながる可能性を示唆している。予防することが可能になってき に,Healthy Eating Index(Center for Nutrition Policy and Promotion[CNPP],2004)を 用 い て 食 事 パ タ ている。加えて,疾病予防だけではなく,健康改善への関心も高まってきている。より良い健康により,生 ンに対する評価を行ったところ,アメリカ人の約 74% が「改善の必要あり」,16% が「不良(問題あり)」 活の質が改善し,活動が活発になることから,一度限りの人生において可能なことが増える。健康に影響を であることが示された。子どもについては,幼いうちは,3 分の 1 が「良い」食事パターンと評価されてい 及ぼす修正可能な行動的・社会環境的要因をコントロールすることにより,人はより健康的に,そして長く るが,9 歳までにはわずか 12% となり,ほぼ成人のデータに匹敵する。 生きることができる。このことから,健康を改善し疾病リスクを低減させる国家戦略を実施するという提言 がなされている(DHHS, 2000; IOM, 2000)。 こうした食べ方は,アメリカ政府の食事ガイドラインであるマイピラミッド*と比較することが可能であ る。マイピラミッドは,科学的根拠に基づき,健康的な食べ方を絵で示したものである。 図 1-1 に示すよ 食・健康に関する課題への興味は,消費者の間でも高まっている。スーパーマーケットの買物客への年次 うに,この図は基本となるいくつかの食品群から摂取すべき平均的な量を示している。図中の各群の幅の広 調査では,栄養が購入決定の要素としてますます重視されるようになったことを示している(Food Market- さは,個人が各食品群からどれくらいの量を食べる必要があるかを示している。例えば,穀類や野菜類は, 2 3 第1章 A 第 1 章 栄養教育における課題:序論 図 1-2 食品摂取量ピラミッド:マイピラミッド推奨量に対するアメリカ人の 第1章 図 1-1 マイピラミッド(MyPyramid) 平均サービング摂取量 高脂肪, 低繊維食品の選択 平均 42.9% 低脂肪, 高繊維食品の選択 6.8% 資料)http://www.choosemyplate.gov/food-groups/downloads/MiniPoster.pdf 乳製品や肉類よりも多く食べる必要がある。また,ピラミッドの形状により,各食品群内で図の下位に示さ れている低脂肪食品あるいは高繊維食品を比較的多く食べ,表示されていないがピラミッドの上位にあた る,加工度が高い高脂肪食品あるいは低繊維食品を控えるという概念を表現している。 推奨量 3.1% 1.5% 1.5% 4.7% 穀類および 野菜 果物 油脂 乳製品 肉類 そのほかの食品: 2∼4 2∼4 3 5∼7 任意のエネルギー パン類 6∼11オンス カップ カップ カップ オンス 注)数値は,1 日あたりのエネルギーに占める割合。 資料)Community Nutrition Research Group, Agriculture Research Service. 2000, October. Pyramid servings intakes by U.S. children and adults 1994-1996, 1998. Beltsville, MD: U.S. Department of Agriculture. *マイピラミッド:2011 年に「マイプレート」と呼ばれる,ピラミッド型ではなくプレート型 のフードガイドに改定されている。 1980 年代になると,典型的なスーパーマーケットの供給可能な食品は 6 万品目存在し,このうち約 1 万 全国規模の調査により,アメリカ人はこのピラミッドで推奨されているような食べ方を実践していないこ 2,000 品目の食品が仕入れられていた(Molitor, 1980)。ここ 20 年の間には,食品企業が複雑な技術を とが示されている(CNPP, 2004; Cook & Friday, 2004) 。穀類の平均摂取量は 6.8 サービング(うち全粒穀 使って数々の加工食品を開発していくにつれ,さらに劇的な増加が見られた。今では,市場に供給可能な食 物が 0.8 サービング),野菜・果物は推奨量 5~9 サービングに対して,4.5 サービングである。約 50% の 品は 32 万品目存在し,このうち,様々なブランド名のついた約 5 万種類の加工食品がスーパーマーケット アメリカ人が穀類の推奨量である 6~11 サービング(オンス)を満たしているが,エネルギー摂取量を考 の陳列棚に並んでいる(Lipton, et al., 1998; Gallo, 1998)。さらに,かつては家族のメンバーで行っていた 慮した場合では,推奨量を満たす人は,わずか 34% である。同様に,野菜・果物では,エネルギー摂取量 食事づくりが,今は見知らぬ人の手によって行われることが多くなっている。これは,摂取される食物全体 に対し 1 日あたり 5 サービング以上という推奨量を満たす人は 4 分の 1 程度である。基本となる食品群の の 40% が,家庭外で食べるものであることからもわかる。家庭で食べる場合でも,その食物が別の場所で 推奨量をすべて満たしているアメリカ人は,実に,わずか 10 人に 1 人である。摂取量のデータを, つくられ,購入され,持ちこまれた場合も多い。消費者は,こうした選択肢から食べるものを選ばなければ 図 1-2 に示す。この図が示すように,アメリカ人の食事パターンはピラミッドを反転したように,底部が ならないのである。 狭くなっており,上部が広くなっている。私たちは各食品群から,低脂肪食品や高繊維食品よりも,加工度 食物選択の基準も拡大してきている。多くの消費者は,健康面だけでなく,環境面での関心事も踏まえて が高い,高脂肪食品や低繊維食品を多く食べている。同時に,国全体として,1 日あたりのエネルギーの約 選択を行う。例えば,多くの食品は厳重に包装され,長距離輸送される。多くの消費者や専門家は,食物が 43% が「そのほかの食品」に由来している。 栽培,加工,包装,分配,消費される方法が,フードシステムの持続可能性にとって深刻な結果を引き起こ していることを知っている。また,食物選択の際に,こうしたフードシステムの状況を考えることは重要と b 複雑な食物選択環境 思っている(Gussow & Clancy, 1986; Gussow, 1999; Clancy, 1999; Gussow, 2006)。さらに,社会的公正 食物選択に支援が必要なもう 1 つの理由として,食環境が次第に複雑になってきている点があげられる。 性に興味があり,公平な労働力を使って生産された食物を選びたいと思う人もいる。このような理由から, 前世紀の人々は数百種類の食物を食べて生きていて,その食品のほとんどが住んでいる地域でつくられたも 個人や地域の食物選択はとても複雑になっているのである。 のであった。1928 年には,アメリカの大規模スーパーマーケットは 900 品目の商品を仕入れていた。 4 5 第 1 章 栄養教育における課題:序論 図 1-2 食品摂取量ピラミッド:マイピラミッド推奨量に対するアメリカ人の 第1章 図 1-1 マイピラミッド(MyPyramid) 平均サービング摂取量 高脂肪, 低繊維食品の選択 平均 42.9% 低脂肪, 高繊維食品の選択 6.8% 資料)http://www.choosemyplate.gov/food-groups/downloads/MiniPoster.pdf 乳製品や肉類よりも多く食べる必要がある。また,ピラミッドの形状により,各食品群内で図の下位に示さ れている低脂肪食品あるいは高繊維食品を比較的多く食べ,表示されていないがピラミッドの上位にあた る,加工度が高い高脂肪食品あるいは低繊維食品を控えるという概念を表現している。 推奨量 3.1% 1.5% 1.5% 4.7% 穀類および 野菜 果物 油脂 乳製品 肉類 そのほかの食品: 2∼4 2∼4 3 5∼7 任意のエネルギー パン類 6∼11オンス カップ カップ カップ オンス 注)数値は,1 日あたりのエネルギーに占める割合。 資料)Community Nutrition Research Group, Agriculture Research Service. 2000, October. Pyramid servings intakes by U.S. children and adults 1994-1996, 1998. Beltsville, MD: U.S. Department of Agriculture. *マイピラミッド:2011 年に「マイプレート」と呼ばれる,ピラミッド型ではなくプレート型 のフードガイドに改定されている。 1980 年代になると,典型的なスーパーマーケットの供給可能な食品は 6 万品目存在し,このうち約 1 万 全国規模の調査により,アメリカ人はこのピラミッドで推奨されているような食べ方を実践していないこ 2,000 品目の食品が仕入れられていた(Molitor, 1980)。ここ 20 年の間には,食品企業が複雑な技術を とが示されている(CNPP, 2004; Cook & Friday, 2004) 。穀類の平均摂取量は 6.8 サービング(うち全粒穀 使って数々の加工食品を開発していくにつれ,さらに劇的な増加が見られた。今では,市場に供給可能な食 物が 0.8 サービング),野菜・果物は推奨量 5~9 サービングに対して,4.5 サービングである。約 50% の 品は 32 万品目存在し,このうち,様々なブランド名のついた約 5 万種類の加工食品がスーパーマーケット アメリカ人が穀類の推奨量である 6~11 サービング(オンス)を満たしているが,エネルギー摂取量を考 の陳列棚に並んでいる(Lipton, et al., 1998; Gallo, 1998)。さらに,かつては家族のメンバーで行っていた 慮した場合では,推奨量を満たす人は,わずか 34% である。同様に,野菜・果物では,エネルギー摂取量 食事づくりが,今は見知らぬ人の手によって行われることが多くなっている。これは,摂取される食物全体 に対し 1 日あたり 5 サービング以上という推奨量を満たす人は 4 分の 1 程度である。基本となる食品群の の 40% が,家庭外で食べるものであることからもわかる。家庭で食べる場合でも,その食物が別の場所で 推奨量をすべて満たしているアメリカ人は,実に,わずか 10 人に 1 人である。摂取量のデータを, つくられ,購入され,持ちこまれた場合も多い。消費者は,こうした選択肢から食べるものを選ばなければ 図 1-2 に示す。この図が示すように,アメリカ人の食事パターンはピラミッドを反転したように,底部が ならないのである。 狭くなっており,上部が広くなっている。私たちは各食品群から,低脂肪食品や高繊維食品よりも,加工度 食物選択の基準も拡大してきている。多くの消費者は,健康面だけでなく,環境面での関心事も踏まえて が高い,高脂肪食品や低繊維食品を多く食べている。同時に,国全体として,1 日あたりのエネルギーの約 選択を行う。例えば,多くの食品は厳重に包装され,長距離輸送される。多くの消費者や専門家は,食物が 43% が「そのほかの食品」に由来している。 栽培,加工,包装,分配,消費される方法が,フードシステムの持続可能性にとって深刻な結果を引き起こ していることを知っている。また,食物選択の際に,こうしたフードシステムの状況を考えることは重要と b 複雑な食物選択環境 思っている(Gussow & Clancy, 1986; Gussow, 1999; Clancy, 1999; Gussow, 2006)。さらに,社会的公正 食物選択に支援が必要なもう 1 つの理由として,食環境が次第に複雑になってきている点があげられる。 性に興味があり,公平な労働力を使って生産された食物を選びたいと思う人もいる。このような理由から, 前世紀の人々は数百種類の食物を食べて生きていて,その食品のほとんどが住んでいる地域でつくられたも 個人や地域の食物選択はとても複雑になっているのである。 のであった。1928 年には,アメリカの大規模スーパーマーケットは 900 品目の商品を仕入れていた。 4 5