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食や食成分によるがんの予防

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食や食成分によるがんの予防
食や食成分によるがんの予防
現状と展望
【Key words】
がんの化学予防 Chemoprevention
植物性食因子 Food phytochemical
スーパーオキシド Superoxide
一酸化窒素 Nitric oxide
抗炎症 Anti-inflammation
大東 肇
京都大学大学院農学研究科
はじめに
02
I イニシエーションの抑制
21 世紀に入り、日本や欧米など先進国では
「健康で長寿」
が
イニシエーションは、いわゆる発がん物質が遺伝子に損傷を与
一大標語になっている。先般報告されたわが国の人口組成では、
える過程である。したがって、発がん剤の生体内での動態を理解
65 歳以上のお年寄りが占める割合は全体の 20%を超え、世界
することが重要である。一般に、発がん物質の多くは、遺伝子を
一となっている。概ね長寿の指標となるこのデータは、一面では
損傷する活性は弱い前駆体として存在することが知られている。
誇れるものではあるが、肥大化する医療保険や寝たきり老人、さ
しかしながら、図 -1に示すように、発がん物質をはじめとする生
らには医療介護など多くの問題を抱えていることも事実である。
体異物は代謝・排泄過程で極めて反応性の高い物質
(究極発がん
このような時代に、まず考えられる社会的対処法は、高齢化に
物質)
に変化する場合がある。予防的観点からは、究極発がん物
伴って増加するいわゆる生活習慣病に対するそれであろう。厚生
質が生まれないようこの代謝過程を制御することが重要と考えら
労働省のデータによると、わが国の疾病による死因のトップは、
れる。食素材に広く含まれているフラボノイド類はこのような作
1970 年代後半までは脳血管疾患であったが、その後現在まで、
用様式で発がんを防ぐと考えられている代表的化合物群である。
それに代わってがんがトップとなっている。しかも、その増加割
また、究極をも含む発がん物質と遺伝子 DNA との反応を阻止す
合は、他の2大疾患
(能血管疾患および心疾患)
が比較的安定して
るような物質を利用することも考えられる。一方、生体には、究
いるのに比べ、右肩あがりとなっている。これは社会の高齢化が
極発がん物質など生体異物を速やかに体外へ排泄しようとする機
進むなかで仕方のないことかもしれないが、増加傾向を少しでも
能も備わっている。この過程を支配する酵素群は薬物代謝第2相
抑える施策や提言は必要とされよう。このような背景下、筆者ら
酵素と呼ばれ
(図 -1)
、
抱合化酵素
(グルタチオン - S -トランスフェ
は、ここ 20 年ほど、食や食成分によってがんが予防できないか
ラーゼ
(GST)
など)
がその代表である。そこで、最近、この酵素
を探ってきた。本稿では、筆者らの研究をも紹介しつつ、本分野
群を誘導・活性化する食成分ががんの予防に繋がるものと注目を
の最近の動向と将来展望について、私見をも交えまとめてみたい。
浴びている。2)ブロッコリーやキャベツなどアブラナ科植物に存
在する含硫成分
(イソチオシアネート類など)
などはこのような機
構で働く予防成分である。
01 I がんの予防戦略
データは少し古くなるが、Doll と Peto 1)の見積もりによれば、
ヒトがんの主たる要因は環境中の化学物質
(化学発がん)
であると
されている。なかでも、食事・栄養と喫煙は2大要因で、それぞ
れ全体の約 35%および 30%を占めている。喫煙はともかく、食
事・栄養がこのような高位置を占める事実は、食生活を工夫・改
善すればがんになる危険が下がるかもしれないことを示していよ
う。食事中の悪い成分を排除し、さらに言えば、良い成分
(予防
的成分)
を積極的に摂ることにより、がんが予防できるのではな
いかとの考えである。事実、1975 年来、特に野菜や果物などの
植物性食素材の摂取が多彩ながんに予防的であるとの疫学結果が
次々と示されてきた。このような成果を踏まえ、1980 年代中盤
には、がんを克服するために、それまでの
“がんの治癒”
に加え
“が
んの予防”
が脚光を浴び始めた。
「予防に優る治療なし」
が意識さ
図 -1 発がんにおけるイニシエーション過程とその抑制
れ始めた時代である。なかでも、食や食成分によるがんの予防が
最も実現可能な戦略として注目されたことは言うまでもない。
一方、プロモーションは、イニシエーションほど単純ではなく、
現在、化学発がんは、周知のようにイニシエーション-プロ
細胞増殖にかかわる多彩な事象が複雑に絡み合った結果もたらさ
モーション-プログレッションの三段階に分けて考えられてい
れる過程である。これまで知られている発がん抑制物質の多くは
る。したがって、予防戦略としては、これら三段階のいずれか
この範疇に入る化合物と考えられる
(化合物によっては、イニシ
を阻害してやればいいことになる。特に化学的にこの抑制を
エーションとプロモーションの両期に同時に作用するものもある)
。
なしとげようとする戦略
(現在のところ、主としてイニシエー
筆者らもこれまで、主としてプロモーションの抑制を念頭に置
ションまたはプロモーションの抑制)
はがんの化学予防
(cancer
いて、食素材のスクリーニングから、候補成分の単離・同定、動
chemoprevention または単に chemoprevention)
と呼ばれている。
物実験、さらには作用機序の解析に至るまでの研究を展開してき
た。以下、次 0 3で、筆者らの研究について概要を記してみる。
Nestlé Nutrition Council, Japan
Nutrition Review
October, 2006
03 I プロモーションの抑制に関する筆者らの研究
表 - 2 がん予防が期待される主要な植物性食成分
a)スクリーニング
上記したように、プロモーション過程は、その生化学的イベン
トが一つに収束されるわけではなく、多彩な事象が複雑に絡み
合って成立する過程である。がんの予防的観点からは、長期でし
かも可逆的である本過程の抑制が実際的であると考えられてい
る。筆者らは、このような観点から、抗プロモーション性食素材
の検索や活性成分の単離・同定などを行ってきた。その際、簡便
に活性を追跡する手段として、代表的発がんプロモーターである
TPA の作用を打ち消す細胞レベルでのアッセイ系
(Epstein-Barr
ウイルス
(EBV)
)活性化抑制試験3)やラジカル
(スーパーオキシ
ド:O 、一酸化窒素:NO)
産生抑制試験4,5)などを用いて実施
2
してきた。
これまで 500 種以上のアジア産の野菜や果物について総合的
にスクリーニングした結果6-9)、①
(亜)
熱帯産食用植物は温帯産
筆者らも、EBV 活性化抑制試験などにて、これまで 50 種以
のそれより強い抗プロモーション作用を示す種が多いと期待され
上の食成分をがん予防候補成分として明らかにしてきている。し
ること、②ショウガ科、ミカン科、シソ科、セリ科、アブラナ科
かしながら、そのうち、動物実験などその後の研究にもちこめた
など、どちらかと言えば調味、薬味、香辛用など非栄養的に摂取
成分は、現在のところ、図 -2に示す4種である。すなわち、
(亜)
される植物科には強い活性を示す種が頻度高く認められること、
熱帯産ショウガ科由来の1’
- アセトキシカビコールアセテート
さらには、③注目すべき種の多くがアメリカで 1990 年に立ち上
(ACA : ナンキョウ)
とゼルンボン
(ZER : ハナショウガ)
、さらに
げられたデザイナーフーズ計画10)で評価された種と重なること、
は種々のミカン科植物に含まれるオーラプテン
(AUR)
とノビレ
などが指摘できた。
チン
(NOB)
である。これらはいずれも、合成的に、あるいは天
ここで、イニシエーション・プロモーションの抑制を問わず、
然素材からの大量調整が可能であり、その特性が動物実験や作用
現今下がん予防に効果があると期待できる食素材を表 -1に示し
機序の解析などに利したことになる。
ておく。11)
表 -1 がん予防に期待される代表的植物性食素材
図 - 2 ショウガ科ならびにミカン科植物由来の注目すべきがん予防成分
( )内は起源植物
c)動物実験成績
表 -3に、上記4種の化合物についてこれまで得られている動
b)がん予防に期待される食成分
物実験成績をまとめた。いずれも、発がん物質による発がんを抑
素材と同様に、予防性成分についても多くの報告がある。各種
制するか否かを求めたものである。個々の実験の詳細は総説7-9)
in vitro 試験レベルでその可能性が示唆されている種は数百に昇
およびそのなかで示されている原著に譲ることとするが、ACA
るが、種々の理由
(特に量)
から動物実験系でその効果が確認され
では、これまで実施したすべての系で抑制的であった。AUR も
ている成分には限りがある。参考までに、現在予防効果が期待さ
また、コリン欠乏アミノ酸
(CDAA)
食による肝発がん誘導実験系
れている食成分を、基本的には植物二次代謝物の生合成径路に
において促進気味であったほかは、ACA と同様、顕著な抑制効
11)
則って分類し、
その起源植物とともに表 -2にまとめてみた。
果が確認されている。一方、AUR の肝発がん試験においては、
12)
DEN 誘発肝がん系で調べると効果ありとの結果も得られている。
これらの結果は、AUR は対肝臓への応用には十分な注意が必要
であることを示しているものと考えられる。NOB や ZER では
限られた試験系での結果であり、現在さらに多様な実験系で調べ
つつある。
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Nutrition Review
October, 2006
表 -3 ACA, AUR, NOB および ZER の化学発がん動物実験成績
一方、増強される生理活性として、GST などの薬物代謝第2
相酵素の誘導活性が一部の成分に確認された。ACA や AUR で
は、口腔や大腸発がん抑制動物実験において発がん物質と同時の
投与
(イニシエーション期)
で、プロモーション期と同様に、抑制
効果が認められおり、これらの結果は、薬物代謝第2相酵素の誘
導活性で一部説明できるかもしれない。
いずれにしろ、現在筆者らが注目している食成分は、炎症が関
与するがんには予防効果が期待できそうである。
04 I Chemoprevention において
重要な作用機序
前項 03 では、筆者らの研究を種々紹介してきたが、ここで、
再度一般的な事項に立ち返ってみる。
現在、がんの化学予防における重要な作用機序として、抗酸化
d)作用機序
性、抗炎症性、免疫活性の増強、ホルモン活性の修飾、代謝酵素
表 -4は、上記4種の化合物について、発がんと関連深い種々
活性の修飾、血管新生の阻害、アポトーシスの誘導、細胞分化の
の生理活性を検討した結果である
(詳細は動物試験成績と同様総
誘導、細胞増殖の阻害などが指摘されている。11)例えば、カテ
7- 9)
説・原著論文
などを参照のこと)
。興味あることに、細胞レベ
キンやフラボノイドなどのポリフェノール類では、抗酸化作用を
ルの試験においてラジカル産生系を抑制する活性が4種の化合物
はじめとして抗炎症、免疫活性の増強、代謝酵素活性の修飾、ア
に共通して認められた。すなわち、TPA で刺激した炎症性白血
球細胞からの O - 産生や、LPS あるいは INF-γ
(または両者同
ポトーシスの誘導や細胞増殖の抑制など多くの生理作用が重複し
時の投与)
で刺激したマクロファージ由来の NO の産生を強く抑
いては確たる答えはない。02 においても記したように、化学発
制する活性が認められた。これらの事実は、03 , a)で示したよ
がんの進行過程
(特にプロモーション過程)
は種々の要因が複雑に
うに、筆者らががん予防性食素材や候補成分の追跡にラジカル産
絡み合った結果生じるものであり、その抑制にも多彩な作用機序
生抑制試験を取り入れた根拠になっている。前者では、NADPH
が存在して当然である。もっとも、抗酸化性、抗炎症性さらには
系への何らかの阻害的作用と考えられ、また、後者では、誘導性
アポトーシスの誘導作用などは、前項でも言及したとおり互いに
NO 合成酵素
(iNOS)
の誘導阻害であることが明らかになってい
連携した作用とも考えられるので、必ずしも多彩とは言えないか
る。炎症性細胞によってもたらされる酸化ストレスを軽減させる
もしれない。あえて大きくまとめてみると、
(酸化)
ストレス抑制
効果はマウス皮膚炎症実験
(二段階炎症実験13))においても確
作用、免疫活性の調節作用、薬物代謝酵素の調節作用などが予防
証されている。さらに、4種には、マウスマクロファージ
性因子の重要な特性かもしれない。
RAW264.7 細胞を用いた系において、LPS で誘導される炎症関
本稿の読者には、免疫に関与する腸内細菌とがん予防について
連マーカー(PGE2 、TNF -α、COX-2 など)
の産生や放出の抑
興味をおもちの方が多いかもしれない。ご承知のように、最近、
制作用が確認できた。なかでも、ZER の活性は他に比して強い
腸内細菌叢は健康の維持・増進に重要な役割を担っていることが
傾向がうかがえた。最近、COX -2の過剰産生が、特に、大腸発
知られている。これら細菌は、
食物として体内に取り込まれた種々
がんと関連していると示唆されている。ZER の大腸がん予防効
の成分を代謝するが、この際、腸内の悪玉菌
(腐敗菌)
は、その名
果が大いに期待されるところである。なお、炎症に関連した種々
のとおり、発がん物質など悪い成分を生み出す可能性がある。一
の作用は、ラジカル産生とも連携していると考えられるので、当
方、乳酸菌やビフィズス菌などいわゆる善玉菌は、それ自身の免
然の結果かもしれない。
疫増強作用に加え、これら悪玉菌の生育を阻止する役割を担って
2
て認められている。いずれが最も核心をついた作用であるかにつ
いる。無菌マウスに腸内細菌を一種ずつ加え発がんが起こるか否
表 -4 ACA, AUR, NOB および ZERの各種生理活性
かを調べると、いずれががんに善玉
(または悪玉)
であるのかが求
まる。このような方法で、腸内細菌が発がんにも重要であること
が確認されている。 14)
また、食物繊維の摂取が薦められている
その根拠は、善玉菌優位の環境を作り、また、発がん性物質の吸
14)
着・排泄に機能する点にある。
生体のホメオスターシスの中心
的役割を担っている腸内細菌叢は、発がんにも重要な視点である
ことは言うまでもない。
Nestlé Nutrition Council, Japan
Nutrition Review
October, 2006
05 I がん予防科学の現状と展望
謝辞
ここまで、がん予防における食への期待と学術的現状について
筆者らの研究は多くの共同研究者によってなされたものであ
記してきた。特に、食素材やその成分、さらには作用機序などに
る。研究全般にわたってご指導ご鞭撻をいただいた小清水弘一教
ついては、十分熟してきている。このような段階で、現在、がん
授
(京都大学・農学部および近畿大学・生物理工学部)
、村上 明
の予防分野で問われている最も重要な課題は、これら素材や成分
博士
(近畿大学・生物理工学部、現京都大学・農学研究科)
、中村
が真に
“ヒトがん”
に有効かどうかである。ヒトでの効果が実際に
宜督博士
(現岡山大学・農学部)
たち、動物実験にて共同研究して
実証された例は極めて限られている。かつて、その当時としては
いただいた森 秀樹教授
(岐阜大・医学部)
、田中卓二教授
(金沢
最も期待の大きかったβ-カロテンで大規模な介入試験が種々実
医大)
、小西陽一教授および中江 大博士
(奈良県医大)
、西川秋
施されたことがある。結果は、一例は効果あり15)であったが、
佳および広瀬雅雄両博士
(国立衛試)
たち、さらには作用特性解析
16)
他方では逆の評価
(または効果なし) が多く認められ、その後
につきご指導・ご教示をいただいた若林敬二博士
(国立がんセン
カロテノイドの介入試験はすべて中止された経緯がある。このよ
ター研)
らに厚く御礼申しあげます。
うな結果は、一方では関連研究者に大きな失望を与えたが、他方
で chemoprevention 全般を見直す上で貴重な機会ともなった。
すなわち、各種の予防性食因子を、どのような群にどのような量
参考文献
で与えるべきかを十分検討する必要があることを知らしめた機会
1)Doll R. and Peto R.: The Causes of Cancer. Oxfrod
となった。
Univ. Press, New York, 1981
最近、西野と神野らは、カロテノイドについて、C 型肝炎ウイ
2)内田浩二:Phase II 解毒酵素誘導によるがん予防 .「がん予防
ルス由来肝硬変患者の肝細胞がん移行への抑制効果を5年間にわ
食品―フードファクターの予防医学への応用」
(大澤俊彦ら編)
、
たって調べた。その結果、プラセボ群に比し、投与群では 50%
シーエムシー、pp. 86-94、1999
以上の抑制効果が認められるとの画期的な成果を報告した。17)
3)Ohigashi, H., Murakami, A. and Koshimizu, K.: Antitumor
この試験で重要であったと考えられる点は、対象を肝細胞がんの
promoters from edible plants. In: Food Phytochemicals for
危険群に絞ったことと、用いたカロテノイドがリコペンを主に
Cancer Prevention II, Teas, Spices, and Herbs(C.T. Ho
α- および β-カロテン
(酸化を防ぐため、ビタミン E を配合)
を
et al eds.)
, American Chemical Society, Washington DC.,
混ぜた複合体であったことであろう。がんをも含む生活習慣病全
1994, pp. 252-261
般の予防として、現在、一次から三次予防までが設定されている。
4) Murakami, A., Ohura, S., Nakamura, Y., et al.:
一般的には、一次予防は健常な人達に対する予防を、二次予防は
1’-A c e t o x y c h a v i c o l a c e t a t e , a s u p e r o x i d e a n i o n
早期発見・早期治療であり、三次予防とは病気になった人達がそ
generation inhibitor, potently inhibits tumor promotion by
れ以上悪くならないよう、また生活の質が低下しないよう、適切
12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate in ICR mouse skin.
な治療をすること、と理解していいであろう。理想である一次予
Oncology, 53, 386-391, 1996
防がどの程度具体化されるかは、その評価がいかになされるかな
5)Kim, O.K., Murakami, A., Nakamura, Y., et al: Screening
ど、難しい課題である。したがって、現状では、危険群
(一次予
of edible Japanese plants for nitric acid generation
防の範疇ではあるが、前がん病変保持者など危険度の高い群)
へ
inhibitory activities in RAW264.7 cells. Cancer Lett., 125,
の有効性を確証してゆくことがまずは取られるべき道であると考
199-207, 1998,
えられる。また、単独成分の過剰投与の弊害が細胞レベルや動物
6)大東 肇:がん予防に期待される
(亜)
熱帯東南アジアの食材
実験レベルで明らかにされつつある昨今、複合カロテンを用いて
とその活性成分 . 日本農芸化学会誌、76、460-462、2002
良好な結果を得た点は、今後の応用を考えるうえで大きな示唆を
7)大東 肇、村上 明:熱帯産ショウガ科植物成分の生理機能
与えたものと思われる。すなわち、単独成分の過剰摂取による副
的特性 . FOOD Style 21、5、54-57、2001
作用を、複合系によって抑える戦略である。現在、このようなト
8)大東 肇、中村宜督、村上 明:熱帯アジアの食材の発がん
ライアルが広く検討され始めている。
抑制効果と活性成分 . FOOD Style 21、2、31- 35、1998
もう一点、単独成分の過剰摂取による副作用の問題について、
9)村上 明、大東 肇:亜熱帯産野菜類:発がん予防物質の
抗酸化成分の例を紹介しておく。最近、食に求められる機能とし
新しい検索対象−東南アジア産野菜類
(1’
- acetoxychavicol
て抗酸化性が注目され、一部の業界やマスメディアではその効能
acetate を例として)
、
「成人病予防食品の開発」
(二木鋭雄ら編)
、
を必要以上に煽っている感がなきにしもあらずである。先述した
シーエムシー、pp. 142 -148、1998
β-カロテンの逆結果もそうであるし、緑茶カテキン・EGCG な
10)大澤俊彦 :「ファンクショナルフーズ」
研究の課題と将来の展
どでも動物実験レベルでがんを促進するとの報告18)もある。川
望 . FFI ジャーナル、205、21-25、2002
西らは、ある種の抗酸化成分が条件によってはプロオキシダント
11)大澤俊彦監修:
「がん予防食品開発の新展開-予防医学にお
にもなることを明らかにしている。19)先にも示したように、予防
けるバイオマーカーの評価システム-」
、シーエムシー、pp. 1
的観点からは、単独成分を過度に摂取することは薦められること
-354、2005
ではない。研究サイドからは、科学的根拠に基づいて、それぞれ
12)Sakata K., Hara A., Hirose Y., et al: Dietary supplementation
の成分の限界を細やかに提示してゆくべきであろう。また、単独
of the citrus antioxidant auraptene inhibits N,N -
成分の毒性を複合系で緩和する方策として、食そのものの重要性
diethylnitrosoamine-induced rat hapatocarcinogenesis.
が科学的に議論される時代に入ったかもしれない。
Oncology, 66, 244-252, 2004
「がん予防の科学」
分野は未だ発展途上である。その成就のため
13)Nakamura Y., Murakami A., Ohto Y., et al: Suppression
に、最近では、運動や各種のストレス緩和など、総合的視野の重
of tumor prompter-induced oxidative stress and inflammatory
要性が指摘されている。その一環として、食科学分野からのさら
responses in mouse skin by a superoxide generation
なる発信を願っている。
inhibitor 1’
- acetoxychavicol acetate. Cancer Res., 58,
Nestlé Nutrition Council, Japan
Nutrition Review
October, 2006
4832 - 4839, 1998
14)小林 博:がんの予防 . 岩波新書、pp. 1- 214、2005
15)Blot W.J., Li J.Y., Yu Y., et al: Nutrition intervention
trials in Linxian, China: Supplementation with specific
vitamins/mineral combinations, cancer incidence, and
disease-specific mortality in the general population. J. Natl.
Cancer Inst., 85, 1483 -1492, 1993
16) The Alpha-Tocopherol Beta Carotene Cancer
Prevention Study Group: The alpha-tocopherol, betacarotene lung cancer prevention study: design, methods,
participant characteristics, and compliance. New Engl. J.
Med., 330, 1029 -1035, 1993
17)西野輔翼、神野健二:食によるがん予防の現状と展望 .「食
と生活習慣病―予防医学に向けた最新の展開」
(菅原 努監修)
、
昭和堂、pp. 26 -36、2003
18) Hirose M., Yamaguchi T., Mizoguchi Y., et al:
Lack of inhibitory effects of green tea catechins in
1,2-dimethylhydrazine-induced rat intestinal carcinogenesis
model: comparison of the different formulations,
administration routes and doses. Cancer Lett., 188,
163 -170, 2001
19)及川伸二、川西正祐:抗酸化物質のプロオキシダント作用
と DNA 損傷性を指標にした安全性評価 .「食と生活習慣病―
予防医学に向けた最新の展開」
(菅原 努監修)
、昭和堂、pp.
168 -177、2003
Nestlé Nutrition Council, Japan
Nutrition Review
October, 2006
Cancer Chemoprevention by food
phytochemicals- Present status
and perspective
【Key words】
Chemoprevention
Food phytochemical
Superoxide
Nitric oxide
Anti-inflammation
Hajime Ohigashi
Graduate School of Agriculture,Kyoto University
Chemoprevention is currently regarded as one of the
most promising avenues for cancer control. To search for
chemopreventive phytochemicals, the author has explored
anti-tumor promoting phytochemicals from vegetables and
fruits in Asian countries.
Inhibition of tumor promoter-induced Epstein-Barr virus
(EBV)
activation and radical
(superoxide and nitric oxide)
generation was tested. Extensive in vitro screening studies
found several dietary plants from subtropical zones to have
high potentials. In particular, the plants in the families
of Zingiberaceae, Rutaceae, Cruciferae, Labiatae and
Umbelliferae, which are commonly ingested for purposes
other than their nutritive values
( i.e. flavors, condiments, and
occasionally traditional medicines)
, were shown to contain
potent anti-tumor promoters at high rates.
Of more than 50 in vitro anti-tumor promoters identified
thus far, cancer preventive properties of 4 compounds from
zingiberaceous
(1’
- acetoxychavicol acetate and zerumbone)
and rutaceous
(auraptene and nobiletin)
plants have further
been studied. The results in animal model experiments as
well as the modes of action including anti-inflammation
associated activities are then described. Present status and
perspective of chemoprevention with food phytochemicals
are also discussed.
Nestlé Nutrition Council, Japan
Nutrition Review
October, 2006
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