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ベルリン自由大学日本学科, OJAE研究者チーム
第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 OJAE(Oral Japanese Assessment Europe) —CEFR 準拠日本語スピーキングテスト及び評価法 1 — 山田ボヒネック頼子(ベルリン自由大学日本学科、ドイツ) 萩原幸司(フランス国立社会科学高等研究院博士課程) 高木三知子(ICHEC ブリュッセル商科大学、ベルギー) 梅津由美子(カニジウス高校/フンボルト大学、ドイツ) * OJAE 全 10 名チーム他6名: 酒井康子(ライプチヒ大学東アジア研究所日本学科、ドイツ) 宝田紗希子(ベルリン自由大学、ドイツ/宝田学園明成幼稚園,日本) 田中井渉(ベルリン工科大学言語文化センター、ドイツ) Berthold Frommann(ベルリン自由大学日本学科/英語学科大学院,ドイツ) ラウシェンバッハ本間千尋(ベルリン日独センター、ドイツ) Dr. 渡部淳子(ケルン大学東アジア研究所日本学科、ドイツ) OJAE とは、“Oral Japanese“「日本語口頭産出能力」 “Assessment Europe“「欧州圏評価法」 を意味する頭字語であり、ヨーロッパ口頭表現テストに関する先行研究 2(ALTE 欧州言 語試験者協会、COE 欧州評議会 言語政策部門 CEFR、国際交流基金 JF スタンダード、 Cambridge-ESOL[英]、DELF-DALF[仏]、Profile Deutsch (2005)、MÜNDLICH (2008) [独]等 )を基に OJAE 研究チーム 10 名が開発した日本語口頭産出能力テスト・評価法 である。OJAE は、CEFR を非印欧語である日本語に「特化」し、且つ口頭テスト法の確 立を意図する点において、該当領域のパイオニア的研究であるということができる。つま り OJAE 口頭テストは、表現産出力を言語発達・構築上普遍的な CEFR 準拠尺度に照合す ることにより、受験者にとっては日本語習得の進捗状況の自主モニターを可能とし、試験 者(授業者)にとっては、その状況把握から「次の学習項目は?」という授業構築・日本 語習得上必然的な質問に対し、指針的な答えを与えることができるわけである。その意味 で OJAE テストは、口頭産出力を測るための自己完結的なテストであると同時に、テスト 結果を通常の授業に還元していくことで「テストがよい授業を構築する」という好循環を も齎すことができるのである。 本稿では、先ず OJAE テスト形式の特徴を6点にまとめ(1. OJAE の6特徴点)、次に テスト実例 A2 を使って具体的に呈示し(2.テスト実例「A2」)、さらに OJAE のテステ ィング評価法について詳述(3. OJAE 評価法)した後、このパイオニア的 OJAE が持つ日 本語教育界への貢献の可能性(4. OJAE の可能性・近未来の活動)について論じ結論とす る。 1. OJAE の6特徴点 OJAE の主な特徴は下記の6点にまとめられる。 ① 受験者の自己申告レベル(CEFR 表 2:共通参照レベル:自己評定表-6 段階: A1-A2; B1B2; C1-C2)をテストする。OJAE は、CEFR 日本語特化に当たり、「CEFR スタンダード 表1:Can-do Statements 能力記述文(以下 CDS)」の一般的な言語能力階層性の表示を基に、 「試験基準を明確にするための尺度化」を、さらに表3「話し言葉の質的側面」では、各 レベルの「階層性明示化」を図った。その成果として「OJAE 基準表」を作成したが、表 2「自己評価表」だけは、他言語との等質性を保持するため、変更せずにおいた 3。 ②「2-2」テスト形態:試験者 2 名(面接者兼判定者及び判定者)と受験者 2 名。 80 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 ③ テスト実施:「OJAE 設計図」4 を基に作成された「タスク」課題及び試験者指示を含 む「テストスクリプト」通りに実施し、テスト場面での逸脱を回避する。試験者側の 発話はタスク発問に限定し、A:10 分、B:15 分、C:20 分間で言語産出能力を測る。 ④ 被験者発話は 3 種:⑴「独話」(1 人で続けて話す)、⑵インタビューに応えての 「独話」、⑶「交話」(被験者間 2 人で話す)。 ⑤「レベル判定・合否評価」は、CDS 採択「OJAE レベル判定基準表」及び「CEFR 準 拠:OJAE 口頭表現能力5領域 CDS に拠る 5。5領域とは、⑴言語表現使用幅(H)、 ⑵正確さ(S)、⑶流暢性(R)、⑷結束性(K)、⑸交話(I)を指す。評価者は、 「5領域+総合評定」に立脚して 9 段階(上述 6 段階+「3+レベル:A2+, B1+, B2+」) で「レベル判定 Calibration」をし、最終的にテスト・レベルの「合・否の評価 Assessment」をする。 ⑥ OJAE テスティングの各レベルは妥当性・信頼性の統計学的検証を経て確立される 6。 2. OJAE テストの実際 —「テスト形式 及び被験者応答」の具体例 2.1 テスト形式:「独話・交話」を含む3〜4部構成 OJAE テスト実践を「A2 レベル:4部 構成 」 (テスト時間要 10 分)を例として以下に具体 的に記述する。 第1部:独話「自己紹介」(3分:1分=「言 プロンプト」に挙げられた項目「名前、年齢、 出生地、身分、その選択理由、居住地、家族、 ペット、好き嫌いなど」を通して各自準備の後、 各1分ずつ自己紹介) 本件を含む OJAE 基準ビデオは、 『OJAE 報告書+DVD』 第2部:試験者インタビュー/応答独話(2 2010、又は OJAE の HP「基準ビデオ」ページ参照 分:各1分 x2「①試験当日の自宅から試験場 までの来方、②通常の週末の過ごし方」) 第3部:タスク質問について独話で答える(2分:各1分 x2「①試験地/町、②好きな国 」) 第4部:被験者間交話 (3分:各 1.5 分 x2「①喫茶店で3名が談笑中、②海岸で2名 が散歩中」)。「視覚(写真)プロンプト」 を見ながらの交話。被写体のうち1名は受 験者1自身であると交話課題設定後、受験者2に「被写体」に可能な限りたくさん質問す るよう指示。前者は答える。 2.2 課題明示化及び発話促進のための言語・視覚提示資料「プロンプト」 OJAE テストに使用するプロンプトには、これまでのところ「言語資料」(例:上記 「自己紹介」準備用など)と「視覚資料」(例:上記「交話用」など)があるが、今後課 題に拠っては「実物」(例えば通過儀礼の発話抽出資料としての「祝儀袋」など)も用意 される予定である。視覚資料は総て OJAE 研究チーム作成・撮影によるオリジナルであり、 著作権はチームに帰属する。 81 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 また、言語資料の場合には、レベル相応の言語位相が選択されることは言を待たない (例えば、上述例「自己紹介」に於ける各項目は「年齢>何歳;出生地>生まれたところ /町;身分>仕事/学生?;なぜその仕事?勉強?」など。また、冒頭には“Preparation: 1 Minute Self- Introduction[for example]“の英語タイトルを置き、総ての漢字にはひらがなと ローマ字書きでの読み方をつけ、プロンプトそのものが「読み」のテストにならないよう に留意する、など)。 2.3 被験者応答例: 「A2 第2部」実践例 以下は、「A2 テスト 第2部:試験者インタビュー/応答独話 ①試験当日の自宅から 試験場までの来方」の テスト中、試験者と受験者2名それぞれとのやり取りである。こ の実践例をここで呈示する理由は、一つには、言うまでもなく「具体例」を挙げてテスト 過程を明示するためである。もう一つには、本例が OJAE のテスト作成過程に於ける「テ スト作成/改訂・更新 ⇄ 実施」の試行錯誤的作業の往還を如実に示す好例であるからであ る。つまり、作成したテストを実践してみると、 「予期せぬ返答」が出来することがあり、 その出題法を改訂・更新して更に再度実施し、テスト課題を「精錬」していくという労多 し作業過程の端的な実例である。 1 試 じゃ、(受験者 1)さん、今日はここで、OJAEのスピーキング・テストですが、こ こへ何で来ましたか? 2 受1 何、わかんない。 3 受1 えーっと、əәm、こ、この、試験↑?をぉ受けるのためにぃ。 4 受 1 5 試 6 受2 そして・・・私の日本語ぉは、いい・・・か、わかりたいんだからです。なんかこう、 来ました。 じゃ、(受験者 2)さんは?。 はぁ・・・実はぁ僕の日本語の先生はぁ来たほうがいいといいましたから、でもぉ、僕 もぉ僕日本語はいいか悪いと、わかりたいです。 このタスクは「A2 CDS: 2.日常場面や身の回りの状況についての質問に、簡単に答えた り、短く説明したりすることができる(インタビュー応答)」という産出能力の抽出を意 図したものである。従って、ここでの疑問詞「何で」は、A2 レベル質問として「どうい う交通手段を使って」を訊くものであったが、受験者1も同2も B1 レベルのタスクであ る理由を問う「何故に」と受け取ったため、課題自体が作成者側の意図していなかった 「一段難しい問題になってしまった」のであった(最も最初に答えた受験者1に「つられ て」 、受験者2も質問をそのように理解したのかもしれないが) 。OJAE チームはこの結果 に学び、 「何で」の前に「家からここまで」を挿入した。つまり「タスク出題意図が確実 に伝わるような語彙表現」に改めたのである。この事例が示すように、テスト作成上の 「明示化」とは、提出課題の「透明性」を求めることである。そしてこの作成原則は、 「評価」領域においても具現化されなければならないわけである。 上記 A2 のテスト結果具体例は、それではどのように「客観的で透明度高く」評価され 得るだろうか。次章では、上述の受験者同士のやりとりを含む例に沿って OJAE の評価法 を呈示し、冒頭に述べたように OJAE が「自己完結的なテストである」と同時に、授業 者・学習者にとって「よりよい授業/学習法への足掛かり」となるという論点を詳述す る。 82 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 3. OJAE テスト評価法:「透明性」を求めて 3.1 Calibration キャリブレーション=レベル判定 CEFR の記述基本原則は「主観性排除・客観性向上」であり、授業者・学習者双方にと って「透明性・公平性・自己モニター法呈示」が CDS の根本理念である。OJAE もその理 念に基づく口頭テスト法として、 「透明性」を具現するべく尽力してきた。日本語特化へ の過程で、CEFR 表1及び表3に観察しうる「基準」の曖昧さを削除し、一般言語能力記 述から、 「テスト基準用階層性」を持たせた「尺度」とした。また、テスト言語も前章で 詳述したようにできるだけ明瞭なものに変えた。しかし、そのような試行錯誤的実践を重 ねた後にそれなりの透明性が保証できるテストは制作できても、そこから先の「評価」に おいての透明性が実現化できなければ、テストは相変わらず主観性、不透明性からは脱却 できない。だが、そもそも口頭産出能力の顕化した「言語パフォーマンス」を「客観的に、 透明に、公平に」判断することは可能なのだろうか? ソシュールの記号学用語を使うなら、言語体系とはもともと「恣意性」 、謂わば「社会 構成員の間で取り決められた契約」で成り立っている記号世界の話である。言語能力をメ タ言語能力で「測定」することは、相手が相手の脳から紡ぎ出して来たものを、受け手が さらにまた自分の(主観的)恣意的な物差しで測るのであるから、そこには「主観性の二 乗」はあっても、 「透明性」そのものは自動的には存在し得ない 。OJAE 研究者チームは その「無理難題」を解くのは「各自の無意識界に潜在する『自己中的思い込み』の『判定 基準』を白昼の下に引きずり出し、他者のそれと『擦り合わせ、是正し合う』こと」と同 意義であることを認識した。テストを「客観的に、透明に、公平に」評価するためには、 先ずは自己内の判定物差しの目盛りと他者のそれとの「ずれ」を自覚しなければならない。 しかし、その「ずれ」とは、何から「ずれて」いるのか?そして、辺りを見回して気づく のである。CEFR 準拠として口頭産出力の「階層的基準尺度」は未だ 日本語教育界そのも のにも、まして、欧州圏内にも存在しないのである、と。OJAE 各メンバーの「基準」の 探究、究極的には、「Calibration=レベル判定」に辿り着く「スタンダード」希求が開始さ れることになった 。 「キャリブレーション=標準化」とは、比喩を使うなら、人が自分の持っている時計を グリニッチ標準時計の、またはセシウム原子時計の基準「協定世界時」に合わせようと時 計を見て「ああ、何分進んでいる/後れている」と気づき、必要ならば調整する、つまり 「摺り合わせる」という行為である。しかし、前人未踏領域に開拓の斧を振り下ろす OJAE にとっては、協定世界時でのグリニッチ時計に当たるものが存在しなかった。 CEFR 準拠日本語口頭テストのデータもゼロ、経験値もゼロの世界で、ネジを一つずつ集 め、先ずは標準時計を組み立てることから始めなければならなかったのである。鶏が先 か?卵が先か?原子時計ができ上がるのが先か?キャリブレーションが先か?階層基準尺 度が先か?協定世界時を測るための標準時計のネジの一つ一つは、今回 OJAE が可能な範 囲での検証作業を終え、世界に向かって「これが『一応』の基準ビデオです!」として DVD に搭載したものに相当する。OJAE の営為が「パイオニア」だという理由がここにあ る。「循環論法ではないか?」という自問もないわけではなかった。そうして至った透明 性のある「拠り所=基準」が、階層枠組「CEFR-OJAE9レベル『話し言葉の質的側面』」 である。上述の A2 例の該当階層枠組は、下記に引用するように、 「 「基礎段階の言語使用 者 CDS:A1,A2, A2+」に相当することになる。 83 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 使用幅 H A2 能力の優秀版。予 測可能で日常的な出 来事に対処できるだ けの基礎的な表現の レパートリーがあ る。しかし発言意図 を言葉にする際に言 葉さがしや妥協を強 いられることが多い。 正確さ S A2 に同じ 流暢さ R 表現・構文探しはあ るが、自分の身近な テーマについての短 い文章なら、言い淀 みながらでもひとま とまりの発話ができ る。 結束性 K 最も頻繁に出 る接続手段が 使える。短い 文章をつなげ てストーリー を語ったり、 ものごとを簡 単に数え上げ て説明したり することがで きる。 覚えた言い回しや、 語句を使って、日常 の単純な情報を伝え ることができる。現 在形(〜ル) 、過去形 (〜タ)、アスペクト (動作の継続:〜テイ ル)などを使って、基 礎的な構文ができ る。 アクセント・ イント ネーションに母語の 影響が少し残るが、 内容伝達は妨げずに 話せる。基礎的な構文 上いくつかの間違い はあるものの、単純 な文法構造なら正し く用いることができ る。 プロソディー(リズ ム・メロディー)に 母語の影響が残った り、言い直し、つっ かえ、やり直しが明 らかに多いものの、 フィラーなどを多用 し、言いたいことを 伝えることができる。 簡単な接続表 現(「〜ガ、 デ モ 、 ~ (ダ)カラ」 など)を使っ て短文を結び つけることが できる。 ごく身近なことが らに関して、 日常 場面の初歩的で具 体的な語彙や表現 A を使うことができ 1 る。現在形の構文 ができ、敬体(〜 デス・〜マス)で言 うことができる。 限られた文法構造 や文形式で、暗記 している範囲の文 なら使える。 「ことば化」のた めの休止や言いよ どみが多くある が、単発的な、暗 記した表現ならす らすら言えること もある。 ごく簡単な 接続表現 (「 ソ シ テ」など) を使うこと ができる。 A 2 + A 2 交話 I 直接的やりとりで、簡単 で限定された会話なら、 自分から始めて、続け、 終えることができる。関 心のあること、余暇、過 去の活動などの話題に対 し質問し、また答えるこ とができる。相手が助け 船を出しくれれば、予測 可能な状況でのみで比較 的楽に自分を理解させる ことができる。 自分や家族、休暇、仕事 など、自分がよく知って いることについてならや り取りすることができる。 理解していることを示す ことができる。 繰り返し、言い換え、 修正が多くても、簡単 な会話でやりとりがで きる。相手に自分が理 解していることを示す ことができる。 3.2 レベル判定 A2 実例 OJAE テスト採録ビデオは総て、研究チームの一人 Berthold Frommann の設定した Web Platform のフォーラムにアップロードされた。OJAE 各メンバーは、先ずは「 『暫定的』基 準表」を手に、各レベル総計 80 本以上のビデオ・クリップを延々と秒単位で前後再生さ せ、嫌というほど繰り返し観た後、レベル判定をしてみる。また該当プラットフォームの 動画に直接コメント、判定理由該当部分の書き込みもする。それら切磋琢磨のレベル判定 尽力を通して、片やそれまで不可視であった「体内物差し」を白昼下に取り出し、その目 盛りを他者と照合し、外れていれば是正していく。また、基準表そのものの書き直し、調 整が必要なこともあった。そうした「脳内判定物差しの擦り合わせ訓練」及び「基準表確 立」がかなり進んだところで、10 名の OJAE メンバーは、各自それぞれ独自にオンライ ンで「9 段階:レベル判定」をした。なお、各ビデオの「書き起こし」6 は研究者内部の 担当者が行なった。しかし文字化は通常の場面臨場性をロゴ中心に偏重させやすいので、 レベル判定の際にはできるだけ書き起こし分は見ずに、 「コミュニケーション場面『準』 臨場者」として、視覚・聴覚を頼りにビデオを観た。判定に当たっては、OJAE 基準表掲 載のレベル特徴が現象として顕化している箇所を指摘し、それを「論拠」に当該言語パフ ォーマンスの「判定」を「論証」した。 上述 A2 のレベル判定「チー:受験者2」例を代表的なものとして下記に引用する 7。 84 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 同様の「各レベル判定」は、総ての階層基準表と対応各 9 レベル判定例は OJAE ホームペ ージに掲載してあるので、 具体例としての基準ビデオと併せてご参照戴きたい www.ojae.org/kijun-video。なお、「コメント」欄の記述は、あくまでも実践研究段階のレベ ル判定論拠/論法を明確にするための記述であり、将来的には受験者に渡すべき「コメン ト付き成績表」の基盤になるものである。成績通知方法は、OJAE の今後の課題の一つと して残されている。 A 被験者名 出身国: 媒介語 時間配分 (チーム 10 名各自それ ぞれに独自 判定後集 計) コメント 全体 チー Chi ドイツ: ドイツ語 A2 テスト全体時間 11.08 分 ドイツ:ドイツ語 11.08 分 動画時間 実施テスト レベル判 定 B (ダヴィッド David) 全体評価 (OJAE 版):A2 自己申告レベル:A2 使用幅 H B1 A2+ A2 A1 1 1 8 正確さ S 3 6 1 流暢さ R 結束性 K 1 6 3 4 5 1 交話 I 3 7 ✓ 日常よく使われる文や表現を理解し、基礎的な構文ができる。 ✓ 自己紹介ができ、それに対し、理由付けもできる。 ✓ 自分や家族、休暇など、自分がよく知っていることについてならやり取りすることができ る。 ✓ 言い直し、つっかえ、表現・構文探しはあるが、自分の身近なテーマについてなら、言い淀 みながらでもまとめて述べることができる。 ✓ 基礎的な構文に間違いはあるものの、単純な文法構造なら正しく用いることができる。 言い淀みが多いが、自分の身近なテーマについては、臆せずに話せていることが、票に影響し ている。しばしば常体と敬体を混ぜてしまう。しかし、短い発話の中でも、使用頻度の高い接続 詞を使い、内容的関連を明らかにすることができている。 ① 使用幅 ② 正確さ 1.「日本んー・・・の、əәː と、きょうか、きょうか↑?文化、文化、興味がありますから、それ を、フフフ(笑)勉強しています。 」 →言い慣れない言葉を混同してしまう。しかし、 「間違っている」という意識はあり、訂正を他 者に求めつつ、自分で正しい表現に辿り着き、喜ぶ。 2.「こ、この、試験↑?を受けるのためにー。そして・・・私の日本語は、いい・・・か、わか りたいんだからです。なんかこう、来ました。 」 →自分の知っている文法を駆使し、言いたいことを伝えようとしている。 (...) 4.「こ、この、試験↑?を受けるのためにー。そして・・・私の日本語は、いい・・・か、わか りたいんだからです。なんかこう、来ました。 」 →複文構造が不完全である。 5.「私の家族には、と、お母さんと、お父さんと、18歳のお####いさん{お兄さん?}がいま す。 」 「さん先週の土曜日は、お母さんとぉ、おん####さん{お兄さん?}とぉショピン{ショピン グ}行きました。 」 →発音の不備からお兄さんなのか、お姉さんなのか判別しかねる。 (…) 85 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 ③ 流暢性 9. 「ん、そう、いっぱい泳ぎました、と、泳ぐことはー、好きですから、いっぱい、した。」 「何、食べましたか、えっと、よくは mːわからない、たっくさん食べましたから。いろいろな こと。魚とか、はい。」 →自分の身近なテーマについてなら、言い淀みながらもひとまとまりの発話をすることが 出来る。 10.「えーっと、その写真で何飲みます、何を飲みますか?」 「えーっと。えーm、いつ、そのカフェに行きましたか?」 →日本語のフィラー「えーっと」が使えるが、ドイツ語のフィラーも出る。 ④ 結束性 ⑤ 交話 11. 「日本ん、の、えーっと、きょうか、きょうか↑?文化、文化、興味がありますから、そ れを、フフフ(笑)勉強しています。 」 →語彙選びをしながらも、理由付けをして文を終わらせている。 12. 「例えば、家にいて、本とか、読む、こと、す、それ əәmːあーっとー、例えば、どい、 əәm、さん先週の土曜日は、お母さんと、おん####いさん{お兄さん?}とショピン{ショピ ング}行きました。 」 「それから、い、たくさん高いビル↑?があって、ちょっとびっくりした。 」 →よく使われる「例えば」 「テ形」 「それから」を使い、内容的関連を明らかにし、自分の 言いたいことが伝えられる。 13. 「はい、えっとー(笑) 、əәːダーヴィッドさんはだれといっしょにそのカフェーに行きまし た 。 」 「えーっと。えーm、いつ、そのカフェに行きましたか?。 」 「そのカフェーはどこですか?」 →よく使われる疑問詞を使うことができる。 → 疑 問 文 を 次 々 に 出 し て 質 問 す る こ と が で き る 。 14. 「 あ 、 そ う で す ・ ・ ・ え ー っ と 、 そ の 写 真 で 何 飲 み ま す 、 何 を 飲 み ま か ? 」 →相槌には終助詞が欠けるが、相手の答えを理解していると示すことができる。 補記 以下の複文構造の表層化は不首尾に終わっている。 OJAE 実践 例① ダーヴィッド:5「僕も、僕日本語はいいか悪いと、わかりたいです」 者の根本 例② チー:3: 「私の日本語は、いい・・・か、わかりたいんだからです」 的な言語 教育の理 しかし、これらは A2から B1 への発達段階を示すいい例である。学習者は複文構造を習い、 念/哲学 運用練習をし、正しい構造を使えるようになるが、本誤用例は、話者が習得完了への途上段 について 階にいることを実証している。OJAE は、これを単に「間違い」と評価するのではなく、この 一言 ような「間違い」にこそ、日本語教育への還元化の宝がたくさん詰まっていると考える。つ まり、同様の「誤用例」を「未完全/中途熟成過程」と判断し、学習者の達成度がどこまで であるか、どこが未完全かを明示することで個別指導・自己モニターへ次なるステップを提 案できる。効果的な日本語教育への還元ができるわけである。 4. OJAE の可能性・近未来の活動―OJAE 確立・普及へむけて OJAE 口頭産出テストは、「評価がよりよい授業を構築する」という理念を具現化する 一つの方策であり、下記のように多角的に活用することができる。 ⑴ 受験者は自己の日本語習得進捗状況をモニターし、「自律学習」の一環とする; ⑵ CEFR に準拠し、欧州他言語先行研究を基盤としたため、欧州内言語教育評価における比 肩化が可能に; ⑶ 欧州全域に本テスト法の普及を図ることにより、日本語教師間の「統 一基準での成績評価」の呈示が可能に; ⑷ 欧州各地域・言語の「日本語使用者」として のそれぞれの特徴・問題点が浮き彫りにでき、ひいては各クラス現場へのより的確な還元 86 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 が可能に; ⑸ 第二言語としての日本語習得研究者は、「OJAE コーパス」構築により、 獲得発達の階層性を明示できる。 OJAE 研究者チームは、CEFR の持つ現行言語文化教育界における世界的意義を深く認 識している。この世界的意義は、片や国際交流基金の JF スタンダード Web 化 http://jfstandard.jp/ に 、 片 や 中 国 語 能 力 試 験 ( HSK ) の CEFR 6 段 階 対 応 http://www.chinesetesting.cn/index.do による中国語教育の国際化等に顕著である。OJAE チー ムはこのような世界的潮流の中にあって、今後本テスト法の確立のための「信頼性検証デ ータ収集」を図ると同時に、日欧日本語教育界でのネットワーキングを精力的に展開し、 日本語口頭能力評価法の確立・普及、ひいては CEFR の言語文化理念である「複言語・複 文化主義」の具現化にますます尽力する予定でいる。 注 1 OJAE 研究者チームは東京財団より研究助成支援を受け、2010 年 10 月末にその助成プロジェクトを完遂し た。以下本稿に記述の詳細は、OJAE ホームページを参照:www.ojae.org/. なお、同チーム第 1 期班としては 2007 年 8 月末、欧州日本語 OPI 研究会の有志 12 名が、複言語・複文化主義を謳う CEFR の土壌で日本語教 育を実践する者として欧州他言語と比肩化可能な「CEFR 準拠日本語口頭能力評価法」の研究班を立ち上げ、 現行第 2 期研究班に後続している。 2 以下、本論文全註及び文献に記される Web アクセス最終日は 2010.10.15. 先行研究群については以下を参 照:(1) ALTE: OJAE は 2008.2 より ALTE 賛助グループ会員 The Association of Language Testers in Europe. www.alte.org/; 。(2) CEFR:「中、日、韓語」を含み既に 32 ケ国語に翻訳されている www.coe.int/t/dg4/linguistic/cadre_en.asp; (3)JF スタンダード www.jpf.go.jp/j/urawa/j_rsorcs/standard/; (4) ESOL (English for Speakers of Other Languages: www.cambridgeesol.org/index.html) , または Cambridge ESOL:ケンブリッジ大学英 語試験部門が欧州 CEFR、Assett Languages (英国政府委託のケンブリッジ評価基準採択の日本語も含む全 27 言語評価サービス:www.assetlanguages.org.uk/)との連動体制で実施しているテスティング・評価法; (5) DELFDALF は 教育研究国際センター(CIEP、Centre international d'études pédagogiques)が実施する「外国語として のフランス語」試験 www.ciep.fr/delfdalf/ ; (6) Profile Deutsch ドイツ語 CEFR 参照本 Glaboniat 他著(2005); (7) Mündlich([口頭試験]Bolton 他著[2008] 前述「英語・仏語」口頭試験に相当する「独語版」。 3 OJAE の「基準表」群 OT1〜6 については、『OJAE 報告書』2010, P20 及び P52-68 参照。 4 「OJAE 設計図」は、CEFR 共通参照枠「表1:全体的な尺度」、OJAE テスト設計図(Prof.Dr. Barry O´SULLIVAN, Roehampton University, London, Applied Linguistics に 2010.4.25 に「東京財団助成支援」により口 頭能力試験に関する指導を受ける)、言語行為論、コミュニケーション場面モデル(JAKOBSON, Roman, 1960, “Closing Statement: Linguistics & Poetics” )、 「ポライトネス理論」(宇佐美 20006b)などの先行研究を 基盤に OJAE チームが独自に開発したテスト制作上の青写真。 5 CEFR 共通参照枠「表3:話し言葉の質的側面」は、OJAE チームにより新規翻訳された後、”Section A1: Salient Characteristics of CEFR Levels Chapter 1”, in North, 2009,(OJAE チーム日本語訳)も参照にして作成され た。 6 OJAE の書き起こし法は宇佐美(2007)「「改訂版:基本的な文字化の原則(Basic Transcription System for Japanese: BTSJ)2007 年 3 月 31 日改訂版」『談話研究と日本語教育の有機的統合のための基礎的研究とマルチメディ ア教材の試作』に準じる。しかし OJAE では L2 学習者発話の書き起こしをする関係上、例えばドイツ語話 者のフィラー(例えば「əәm」、「əәː」など)や発音・プロソディー上の「間違い」の表記などに関する 「OJAE 適応化」が必要となっている。 7 OJAE『報告書』2010, P28-29. 同「レベル判定」記述は、「CEFR 参照枠レベル例示:日本語『発話・交話』 —『CEFR 準拠口頭産出テストと評価法』の確立へ向けて」という副題を持つ『報告書』の真髄を成す部分 である。 文献(抜粋) Bolton. S. et al. (2008) Mündlich: Mündliche Produktion und Interaktion Deutsch: Illustration der Niveustufen des Germinsamen europäischen Referenzrahmens. München: Langenscheidt. Council of Europe (2001) Common European Framework of References for Languages: Learning, Teaching and Assessment. 87 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 Cambridge: Cambridge U. P. 日本語訳:吉島茂・大橋理枝(2004) 『外国語教育 II-外国語の学習、教授、評価 のためのヨーロッパ共通参照枠』朝日出版社. 独訳(2001) Geminsamer europäischer Refenrenzrahmen für Sprachen: lernen, leren, beurteilen. Berlin: Langendscheidt. Glaboniat, M. et al. (2005). Profile Deutsch. Berlin: Langenscheidt. Jakoboson, R. (1960), “Closing Statement: Linguistics and Poetics“ in Sebeok, T. A. (ed.), Style in Language. Bloomington: U. of Inidana P., 350-377. Kishitani, S. (1969), „Die Honorativkategorien des Japanischen im verbalen Bereich – ein kritischer Versuch.“ In: Bruno Lewin (ed.). 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Provided by Prof. O´Sullivan upon the visit by the Representative OJAE at his University Roehampton for a consultacy session on April 25, 2010. 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(1987)『非言語(ノンバーバル)コミュニケーション』石丸正(翻訳)新潮選書. 山内博之著(2005) 『OPI の考え方に基づいた日本語教授法—話す能力を高めるために-』ひつじ書房. 山内博之編著・金庭久美子・田尻由美子・橋本直幸著(2008) 『日本語教育スタンダード試案 語彙』ひつじ書 房. 山岡政紀・牧原功・小野正樹(2010)『コミュニケーションと配慮表現 日本語誤用論入門』明示書院. 山梨正明(2009)『認知構文論 文法のゲシュタルト性』大修館. ヨーロッパ日本語教師会・国際交流基金(2005) 『日本語教育国別事情調査ヨーロッパにおける日本語教育と Common European Framework of Reference for Languages』国際交流基金. 89 第 11 回フランス日本語教育シンポジウム 2010 年フランス・リヨン 11ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2010 OJAE (Oral Japanese Assessment Europe) — test d’aptitude orale de japonais et méthode d’évaluation basés sur le CECR — Équipe de recherche OJAE (10 membres représentés par Dr. Yoriko Yamada-Bochynek, Japanologie der Freien Universitaet Berlin) OJAE (Oral Japanese Assessment Europe) est à la fois un test et une méthode d’évaluation d’aptitude orale en japonais, basé sur le Cadre européen commun de référence pour les langues (CECR). L’équipe de recherche a développé tout le système OJAE en se référant à des modèles d’examen pour d’autres langues, tels que le Cambridge-ESOL, le DELF-DALF, le MUNDLICH. Le rapport contient une description du déroulement et des caractéristiques de l’examen OJAE, faite en six parties et suivie par des exemples pratiques. Ensuite vient une explication du système d’évaluation. Enfin, il y’a une exposition des futures possibilités du OJAE qui n’est pas limité à de seules évaluations comme des examens mais qui peut aussi avoir d’autres applications comme celui de méthode pour l’enseignement du japonais. Notre objectif est d’intégrer à OJAE trois activités : apprendre, enseigner, évaluer. 236