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日本語教育におけるコンピューターの使用の一実践例

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日本語教育におけるコンピューターの使用の一実践例
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
日本語教育におけるコンピューターの使用の一実践例
蟻末
淳 ( ARISUE Jun)
Université Michel de Montaigne Bordeau III
本発表では、発表者が実際に行っているコンピューターを使用した授業及び教材の
作成を通じて、日本語教育におけるコンピューターの実際的な使用方法について考え
てみたい。発表者は現在、初学者に対して直接法を中心とした授業を行っており、コ
ンピューターの使用もその授業での活動に基いていることを断っておく。
ます、初めに、フランス日本語教師会会員に協力してもらったアンケートについて
少し触れておきたい。コンピューターの知識と利用方法はほぼ重なり、インターネッ
ト・メール・オフィススイートの使用が大多数だった。また、活用したいが知識がな
い、という意見がほぼ半数あることを考え合わせると、知識さえあれば積極的に授業
にも利用したいと考えていることが窺える。一方、活用したいが設備がない、という
意見も半数を越えている。授業時にプレゼンテーションなどを使用している人も
25%あり、また、作文の授業で学生にワープロとして使用させるという興味深い例
もあった。いずれも、コンピューターの使用には効果を認めていた。
日本語教育におけるコンピューターの使用法は、事務的な用途を除くと、大きくわ
けて次の 3 通りが考えられるだろう。
1)プリント・テスト・教科書等の教材の作成
2)ビデオプロジェクターを始めとする、授業内での使用
3)自習用を含めた、アプリケーションの使用・作成
これらは、それぞれ、時間、空間の違いをともなっており、1)授業前の準備段階で
の使用、2)授業内での使用、3)授業外での使用と分類することができる(ここで言
う授業とは、ラボなどの教師が各学生の学習の補助的役割を担う教室活動ではなくイ
ンタラクションの有無にかかわらず、教師が学生に知識を与える「伝統的な授業」で
ある)。ここで、教師・学生の側での、コンピューター活動の重要性を考えてみよう。
1)では、コンピューターは道具としての位置付けであり、コンピューターは主に
ペン、ワープロなどの代替として使用されており、学生はプリントなどのコンピュー
ターの使用の「結果」を受け取ることになり、直接的にコンピューターの恩恵を受け
るわけではない。無論、作成の際の効率、及び結果としてのプリント、テストの品質
の上で、コンピューターの使用が教師、学生双方に大きな影響を与えることは否めな
いが、内容の上で、教育の本質を担っているわけではない。
こういったコンピューターの使用法は、その道具としての位置付け上、従来の授業形
態を大きく変更する必要性がないため、最も導入しやすく、基礎的であると考えられ
るだろう。アンケートの結果もそれを裏付けている。
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ここで、使用アプリケーションについて一言述べたいが、発表者はワープロ・表計
算 ・ プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン に は OpenOffice.org(http://www.openoffice.org/)
(MacOSX では NeoOffice http://www.neoofiice.org/)を使用している。これらの
アプリケーションはオープンソースで開発されており、機能的にも、デファクトスタ
ンダードとされるマイクロソフト・オフィススイートとほぼ同等で Windows、
MacOSX、Linux 等のプラットフォームで使用できる。また、画像編集・描画ソフ
トの Gimp(http://www.gimp.org/)、Inkscape(http://www.inkscape.org/)もマルチプ
ラットフォームであり、無料で使用することができるので興味があれば試されたい。
さて、2)に挙げた教室内での使用では、1)とは違い、授業の段取り、構成そのも
のの変更もしばしば必要である。但し、当然ながら、教室内での使用法でも、コンピ
ューターの活用度には幅があり、「黒板」の代替としての利用方法から、コンピュー
ターを一種のアシスタントとして活用する方法、アンケートにあったように、学生が
作文を書く道具としてのペンの代替としての利用に至るまで様々である。ここでは、
コンピューターの画面をビデオプロジェクターによって投影し、どのように授業の運
営に役立てるかを考えてみたい。使用アプリケーションは Microsoft Power Point、
Openoffice.org Impress に代表されるプレゼンテーションソフトとし、授業の方法
も発表者が実践する直接法的な授業に限定する。
まず、最も基本的な利用法と考えられる「黒板としての使用法」だが、教師にとっ
ては書く時間、体力を浪費せず、学生にとっては読みやすい、というメリットは小さ
くはない。色などを利用し、整理することも容易である。また、事前に準備をするこ
とができるため、手順等の間違いを減らすことができることもメリットの一つになる
だろう。また、ここで紹介する Y.Ozfont(http://yozvox.web.infoseek.co.jp/)などの
手書きに似たフォントを利用することもできる。デメリットとしては、その場での質
問に対応し、書き順等を示す必要があることなどから、黒板(ホワイトボード)に完
全に代わるものとして利用することは難しいことが挙げられるだろう。ただし、書き
順に関しては書き順を紹介するインターネットサイトやアプリケーションを利用する
ことも有効である。
そして、「黒板」のみならず、「教科書」「プリント」の代替としての使用もできる。
勿論、教科書、プリントを完全に廃止することはできないし、無意味であろう。しか
し、学生が教科書やプリントを追うことに集中して、下を向いてしまうと、教師と学
生のインタラクティブな関係がそこで一時的にでも途切れてしまう。また、教師は、
学生の顔が見えなくなってしまうため、理解ができているのかも見えなくなってしま
う。しかし、教科書の練習問題をする際なども、ビデオプロジェクターで問題を投影
することにより、学生の顔は常に前を向くことになり、教師としても学生の理解度を
把握しやすくなる。アンケートでも、同様に使用されている方の意見にこういった効
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果が見られたとあった。また、同時に、教室の雰囲気もより活発になる効果もあるだ
ろう。
次に直接法でよく使われるイラストシートなどの代替としての使用法が挙げられよ
う。直接法では、大量の写真、イラスト、レアリアが必要になる。それらを順序よく
効果的に手際よく提出することは、教師の能力の一つだと言っても過言ではないわけ
だが、ビデオプロジェクター+パソコンの利用によって、準備及び授業の負担が軽減
するだろう。イラストや写真のスキャニングや、コンピューター上でのイラストの作
成、デジタルカメラでの写真撮影などが、事前の準備としては必要であるが、それを
プレゼンテーションソフトに挿入してしまえば、再利用も可能である。更に、文字や
矢印を入れれば、用途も広がる。
イラストシートの使用はその物理的な制約から、小さくて遠くから見えない、管理
が煩雑であるという問題があった。ビデオプロジェクター+パソコンを使用すると、
学生は小さいイラストを目を凝らして見る必要がなくなるわけだし、学生数が増えて
も対処できる(他の問題はあろうが)。更に写真の引き伸ばしやカラーコピー、印刷
や、レアリアの用意などに比べれば、負担が少ないだろう。勿論、レアリアの利用は
授業運営上、不可欠なこともあるだろうし、学生の注意を引き付ける上でも極めて有
効なことは言うまでもない。
日本語のみを基本的に使用する直接法の授業では、大学での、時には 100 人を超え
る学生数は大きな障害になっている。実際、以前、私も 40 人程度の学生に直接法で
の文法導入の授業を行っていたが、プレゼンテーションソフトを使用し、ビデオプロ
ジェクターで大きく映し出すことによって、ノートをとっている時を除いて、学生の
顔は常に上がった状態になり、授業によく集中でき、教師も学生が理解しているかを
よく判断できた。コンピューター、ビデオプロジェクターの利用により、比較的困難
である大人数での直接法(もしくはそれに準ずる)での授業を運営することが可能に
なると考えられる。
次に、今まで述べた利用法の応用となるが、文法導入、会話練習などにより進んだ
形でコンピューターを利用することが可能である。まず、活用等をアニメーションを
加えて見せることにより、視覚的により理解することができるように思われる。また、
単語を次々に見せることにより、練習にも役立てられるだろう。
また、今までのコンピューターの利用は主に、黒板、教科書、イラスト、レアリア、
の「代替」としての利用法、言語で言えば「単語 mot」「文 phrase」の「代替」、も
しくは、文法を練習する際の利用法であったが、実際に文が使用される「状況」を提
示する際にもコンピューターはより役立ちうる。翻訳法とは対照的に、直接法におい
て、大事なことは「翻訳可能な」
「文 phrase」を提出することではなく、状況から生
ま れ 、 状 況 を 内 に 含 ん だ 文 を 、 そ の 「 言 表 行 為 及 び 言 表 状 況 énonciation と
situation d'énonciation」と共に提出することである。つまり、統語的にどのように
文が構成されるかも勿論であるが、それ以上にいかなる状況でその文が使用されるの
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か、を提出し、理解させることが重要になる。その際に、状況を映像として、時には
動きや音を交えて提出できるコンピューターを使用することは授業の運営に大きく貢
献し、恐らく、その進行方法をも左右する重要性を占めるだろう。
昨年の学習者に対するアンケートの例を見てみると、その前年に、コンピューター
を使わない直接法で同形態の文法の授業と比べると、
1)どんな状況で単語や文法が使われているかがわかりやすい
2)概念の把握が楽になり覚えやすい
3)イラストや絵カードより見やすい
4)インタラクティブ・ダイナミック・遊び感覚・実用的
という意見が多数を占め、完全に否定的な意見は一つもなかった。これらのアンケー
トの結果は上記した私の意図と重なるものであると言えるだろう。
否定的意見としては
1)設置に時間がかかる・動かないことがある
2)授業ではよいが、テストでの使用はしばしば出題の意図が読みにくい
3)似た状況の絵があると、どの文法を使うべきか迷う。
などの意見が少数ではあるが、あった。
まず 1)の問題であるが、純粋に物理的な問題によるところも多く、また、板書の時
間の節約なども含めコンピューター使用時の進行のスムーズさを考えると、寧ろ、実
際にはスピーディーに進行していると思われる。
そして、2) 3)の問題であるが、ある意味では、寧ろイラストの方が同様の問題が起
こりやすく、コンピューターの使用による優位点を更に改善する必要があることを述
べていると解釈できよう。これに関しては、イラスト、アニメーションによって、情
報を整理して提出するなど、効率的な素材をより研究する必要があるだろう。具体的
には、例えば、状況のミニマル・ペアをいかに抽出し、それを効果的に画像化、映像
化するか、などの課題が考えられる。
また、この指摘は、文法から考える翻訳法とは違い、状況から判断して適切な文法、
言い方を提出することを主眼とする直接法の根幹の問題にも関わることは言うまでも
ないだろう。ここでは、勿論、直接法と翻訳法の比較、功罪について検討する余地は
ないが、特に文法の習得を計るテストなどでは、学生が不利にならないように時には
取り混ぜながら提出する必要もあるのではないか、と感じている。しかし、従来の教
科書等のテクストによる勉強方法に対して、マルチメディアであるコンピューターの
使用の有利な点が、特に直接法的な学習方法で発揮されることは否定し得ないであろ
う。
最後に、授業「外」の使用にあたる、自習用等に使われるコンピューター教材
(アプリケーション)にも触れたい。まず、技術面について一つ指摘をしておきたい
が、Windows 等の特定のプラットフォーム(OS)に依存するバイナリーアプリケーシ
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ョンを製作することは、最新の技術やプラットフォームに強く依存した技術を使い、
かつ、商業的な目的がある場合を除き、より多くの利益に公平に供する必要がある教
育の目的には適さないだろう。恐らく少数ながら、未だにプラットフォームを限定し、
ドライバー等のインストールを必要とする旧来のソフトがあることは教育という公共
性を考えれば残念である。少なくとも、JAVA などのマルチプラットフォームの環境、
可能ならば、ネットワーク環境上での使用を前提としてアプリケーションの開発が必
要であろう。Flash などの動きやインタラクションを伴なったウェブページがマルチ
プラットフォームで使用できる今、語学教育などの目的には環境的に既に十分整って
いると言えよう。言い換えれば、専門家がしばしば言うようにウェブ自体をプラット
フォームとして考えアプリケーションを製作する必要があるだろう。
さて、私も今年度始めから、ウェブサイトを公開し、利用してきた。授業外の使用
ではあるが、授業前、授業そのもの、授業後に対応する使い方をしている。すなわち、
1)予習 単語
2)授業に対応するプリントの配布
3)復習 テスト
という授業の前後にコンピューターの使用をおくリズムである。
予習に関しては、基本的には各課の語彙の導入ということになろう。直接的にコン
ピューターであることの恩恵を受けることはないが、後に述べるように語彙の検索等
が比較的楽であることは予習時の手助けにもなるだろう。また、音声を聞くことがで
きることも利点の一つであろう。
授業中に使用するプリントに関しては、長文読解を除いては実際は授業では殆ど
見ていない。語彙があるので、語彙を確認しながら授業を進められること、また、イ
ラスト、文法、例文、などが授業のものと重なる(ほぼ同じ)ため、学生は授業中、
プリントを一瞥することで授業の進行の確認、及び、記憶の定着に役立つことを目的
として作成している。当然、イラストはノートにとることが難しいことも考慮に入れ
て、のことである。ビデオプロジェクターの使用では、プリントは基本的には予復習
の際に使われることが望ましいと考えている。
復習のテストについては、現在は選択式の極めて簡単なものではあるが、学習事項
の確認を容易にする目的で作成した。今後はここでもイラスト等を使用し、より幅広
い設問形式に対応したい。
また、予習、復習に関わらず、コンピューターの利点を生かせるように幾つかのコ
ンテンツを用意した。まずは検索機能である。一つは Perl/CGI を利用して独自に作
成した語彙検索で自作のため細かな変更も可能である。ここでは登録されている語彙
(授業で導入する語彙+α で 1000 以上)を検索可能で、存在しないリクエストがあ
ればできるだけ手動で追加するようにしている。もう一つは Google を利用している
が、サイト内検索とサイト外検索が可能である。
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第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
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そして、元々は入学前の学生のためにここから始めたのであるが、ひらがな・かた
かなの自習教材がある。文字の学習は繰り返しが必要であるのでコンピューターの使
用が最適だと考えられる。書き順・音声を確認することができ、同じシステムで漢字
の学習も作成することができるので、コンピューターの利用価値が最も高いものの一
つと言えるだろう。
また、自習教材としても使える FLASH アニメによる教材を用意した。今のところ
は作成途中なのだが、一つのコンピューター自習教材の可能性を示すものではないか、
と感じている。また、授業で使用するプレゼンテーションの簡易版(フォーマットと
しては FLASH と同じ)も用意した。これは内容的には不完全なのだが、授業を受
けた学生の復習教材としては有用であると思われる。
今後の展開としては、まずは、上でも紹介した FLASH による教材を充実させたい。
更に授業とは独立した自習教材、漢字の習得等に有効だと思われるゲーム等娯楽的要
素を含んだコンテンツなどの作成が考えられるだろう。また、教師の側での直接介在
とは別に、SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)などのネット上で学生が自
立したコミュニティーを作ることなども、語学学習の大きな手助けになることは間違
いない。管理に負担がなければ、教師の側でのウェブサイトでも掲示板などを作成し
てもいいだろう。
以上、教室内外での日本語学習での発表者自らのコンピューターの利用法を紹介
した。発表者個人としても課題はまだまだ山積しているが、現在、コンピューターの
利用が教師、学習者双方に大きな役割を果たしていることは否めない。特に授業外で
の学習者の自発的な学習の機会を与える意味で、ウェブサイト、アプリケーションの
開発は今後ますます大事になっていくと思われる。教師自身で教材を製作するときの
みならず、製作を技術者に委託するときにも、教師がコンピューターの可能性を熟知
することは、必要になるだろう。また、授業内での利用法もここに挙げた方法は一つ
の例でしかなく、学生数、レベルなどに応じて様々であるだろうことも、一言、最後
に添えておきたい。
発表者のウェブサイト http://www.nihongo.fr/
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