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Ⅰ 評価の基本的な考え方
Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については、知識や技能だけでなく、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力な どの資質や能力などを含めて基礎・基本ととらえ、その基礎・基本の確実な定着を前提 に、自ら学び、自ら考える力などの「生きる力」がはぐくまれているかどうかを含めて 学力ととらえる必要があります。これは、従前の学習指導要領が示した学力のとらえ方 を一層深め、学力の質の向上を図ることをねらいとしています。 各学校においては、自校の児童生徒の実態を踏まえ、はぐくむべき学力を明らかにす ることが第一に必要です。 2 学習の評価の目的や意義 平成12年12月の教育課程審議会答申には次のように示されています。(抜粋) 学習の評価は、教育がその目標に照らしてどのように行われ、児童生徒がその目標 に向けてどのように変容しているかを明らかにし、また、どのような点でつまずき、 それを改善するためにはどのように支援していけばよいかを明らかにしようとする、 言わば教育改善の方法と言うべきものであり、学習の評価を適切に行うことは公の教 育機関である学校の基本的な責務である。 また、児童生徒にとって評価は、自らの学習状況に気付き、自分を見つめ直すきっ かけとなり、その後の学習や発達を促すという意義がある。 ポイント ○学習の評価は、教育改善の方法です。 ○学習の評価を行うことは、学校の基本的な責務です。 ○児童生徒にとって、評価は自分を見つめ直すきっかけであり、その後の学習や発 達を促すものです。 3 学習の評価のとらえ方 「関心・意欲・態度」 「思考・判断」「技能・表現」 「知識・理解」の4観点による観点別 学習状況の評価を基本とし、目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)を一層重視する とともに、生徒一人一人のよい点や可能性、進歩の状況などを評価するため、個人内評 価を工夫することが大切です。すなわち、目標に準拠した評価は、知識や技能の実現状 況ばかりでなく、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などの資質や能力を含めて学 習の実現状況を適切に評価していくことになります。 そして、その評価を指導に生かすことが大切です。すなわち、指導と評価は別物では なく、評価の結果によって後の指導を改善し、さらに新しい指導の成果を再度評価する という、指導に生かす評価を充実させることが重要です。そのためには評価は学習の結 果に対して行うだけでなく、学習指導の過程における評価の工夫を一層進めることが大 切です。また、評価活動を、評価のための評価に終わらせることなく、指導の改善に生 かすことによって、指導の質を高めることも一層重要となります。 4 目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)の重視 目標に準拠した評価とは、目標をいくつかの観点から分析し、その観点ごとの評価規 準を作成し、その実現状況をみる評価のことです。すべての子どもが学習指導要領に示 されている内容を確実に習得することを目指していることから、目標に準拠して、それ が実現しているかどうかを一人一人に即して評価することを大切にするために重視され ています。 5 評価規準 小学校教育課程一般指導資料「新しい学力観に立つ教育課程の創造と展開」(平成5年 9月)には、①「 『評価規準』という用語については、新しい学力観に立って子どもたち が自ら獲得し身に付けた資質や能力の質的な面、すなわち、学習指導要領の目標に基づ く幅のある資質や能力の育成の実現状況の評価を目指すという意味から用いたもので す。」また、②「新しい指導要録(平成3年)では、観点別学習状況の評価が効果的に行 われるようにするために、『各観点ごとに学年ごとの評価規準を設定するなどの工夫を 行うこと』と示されています。」と述べられています。 したがって各学校においては、これまで作成していた各教科の評価規準を見直し、新 学習指導要領の目標や内容に沿ったものを作成する必要があります。 また、評価規準については、「おおむね満足できる」状況(B)について設定し、設定 した評価規準に照らして、まず、「おおむね満足できる」状況(B)か、 「努力を要する」 状況(C)かを判断した上で、さらに「おおむね満足できる」状況(B)と判断される もののうち、児童生徒の学習の実現の程度について質的な高まりや深まりをもっている と判断されるものを「十分満足できる」状況(A)とすることが適当です。 ≪評価規準の作成に当たっては、国立教育政策研究所教育課程センターのホームペー ジを参考にしてください。 (http://www.nier.go.jp/kaihatsu/index.htm)≫ 6 評価方法等の工夫 評価に当たっては、評価方法、評価の場面や時期などについて適切な方法を工夫し、 それらの積み重ねによって児童生徒の成長の状況を総合的に評価することが重要であり、 評価方法を工夫することによって、指導の改善を図っていくことが必要です。具体的に 示すと以下のようになります。 評価の種類 ……評価を学習や指導の改善に生かす観点から、総括的な評価のみ でなく、分析的な評価、記述的な評価を工夫すること 評価を行う場面 ……学習後だけにまとめて評価するのでなく、学習前や学習の過程 における評価を工夫すること 評価の時期 ……学期末や学年末だけでなく、目的に応じて単元ごと、時間ごと などにおける評価を工夫すること 具体的な評価方法……ペーパーテストのほか、観察、面接、質問紙、作品、ノート、 レポート等を用い、その選択・組合せを工夫すること また、自己評価については、自ら学ぶ意欲などを見る上で有効であるばかりでなく、 児童生徒が自分自身を評価する力や他人からの評価を受け止める力を身に付け、自分の 能力や適性などを自分で確認し、将来の生き方や進路を探求できるようにするためにも 大切です。 7 総括的な評価 各教科の「評定」が典型的な例です。全体的な達成状況を簡潔に表すために適した評 価法であるといえます。また、児童生徒の特徴を総合的にとらえる所見も一種の総括的 な評価と考えることができます。 単元ごとや、単位時間ごとならば、単元や1時間の目標の達成状況を評価し、どれだ けの教育成果が得られたか、どれだけ習得目標が達せられたかを総括的に明らかにし、 以降の学習や指導に役立てる評価法と考えることができます。 8 分析的な評価 各教科を「関心・意欲・態度」や「思考・判断」、「表現・技能」 、「知識・理解」など のようにいくつかの観点から分析的にとらえる評価のことで、観点別学習状況の評価が それに当たります。分析的な評価では、どの部分に改善の必要性があるかを比較的とら えやすいといわれています。 9 記述的な評価 児童生徒のよい点や特徴を文章で記述する方法であり、総合的な学習の時間の評価や 児童(生徒)指導要録の「総合所見及び指導上参考となる諸事項」などがこの評価に当 たります。 記述的な評価を行うに当たっては、日ごろから児童生徒の学習活動の観察や作品、自 己評価などから児童生徒のよい点や特徴などをとらえて記録を蓄えておくことなどが必 要になると考えられます。 10 観点別学習状況の評価 目標に準拠した評価において、児童生徒の学習状況を複数の観点から評価し、学力を 分析的・多面的にとらえようとする方法が、観点別学習状況の評価です。具体的には、 教科目標を、基本となる四つの能力(「関心・意欲・態度」 「思考・判断」「技能・表現」 「知識・理解」)に分類してとらえ、評価しようとする考え方です。このことにより現行 の児童(生徒)指導要録では、能力の分類により観点を立てています。 11 観点別学習状況の評価の観点「関心・意欲・態度」の評価の留意点 この観点は、本来、それぞれの教科の学習内容や学習対象に対して関心をもち、進ん でそれらを調べようとしたり、学んだことを生活に生かそうとしたりする資質や能力を 評価するための観点です。 しかし、この評価については、情意面にかかわる観点であることなどから、目標に準 拠した評価であることが十分理解されてなかったり、授業中の挙手の回数や発言の回数 といった表面的な状況のみで評価されるなど、必ずしも適切とはいえない面も見られて きました。また、評価が教員の主観に頼りがちであるという面も見受けられました。 そこで、「関心・意欲・態度」の観点の評価に当たっては、例えば次のような方法で継 続的・総合的に多様な評価方法を工夫して見取り、生徒個々の学習指導や教員の授業改 善等に生かしていく必要があると考えます。 ポイント ○発言内容の観察による評価 ○作品の評価 ○児童生徒の自己評価や相互評価 ○予習・復習の状況の評価 ○ポートフォリオ評価 など多様な評価方法 12 「評定」の考え方の変化 指導要録の改訂では、次のように「評定」の考え方が変わっています。 昭和55年 集団に準拠した評価(いわゆる相対評価)である評定を主体とした評価 平成 3年 目標に準拠した評価を加味しつつ、集団に準拠した評価 ※観点別学習状況の評価を補完するものとした 平成13年 目標に準拠した評価 なお、小学校第3学年以上において3段階、中学校の必修教科においては5段階で評 定を行うことは、今回の改定でも変わっていません。 さらに、教育課程審議会答申(平成12年12月4日)には、「集団に準拠した評価に ついては、各学校において必要に応じ、集団の中での相対的な位置付けに関する状況を 提供することも考えられる。指導要録においても、目的に応じて、集団に準拠した評価 に関する情報を『総合的所見及び指導上参考となる諸事項』欄に記録できるようにする ことが適当である。」と述べられています。 指導要録では、各教科の学習の実現状況を示すものとして、観点別学習状況、評定、 所見の欄が設けられています。観点別学習状況や所見は、分析的・記述的な観点で評価 されるのに対して、評定は、総括的・数値的な観点で評価がなされ、簡潔でわかりやす い評価結果を提供するものとして位置付けられています。 評価というと、往々にして学期末や学年末に生徒に成績をつけることだと思われてい る面もありますが、評定と評価を同じ概念でとらえないことも押さえておくことが大切 です。 13 学校全体としての評価の取組 『教育課程審議会答申(平成12年12月4日)』や国立教育政策研究所が作成した『評 価規準の作成、評価方法の工夫改善のための参考資料-評価規準、評価方法等の研究開 発(報告)-』を参考にし、教職員の共通理解を図ります。その後は、例えば、各教科 において小学校では6学年間、中学校では3学年間を見通した系統性のある評価規準を 単元ごとや単位時間ごとに作成したり、基礎的・基本的な学習内容の洗い出しと指導方 法の工夫・改善、さらには評価補助簿を作成したりすることなどが考えられます。 これからの評価の基本的な考え方や評価方法などについては、情報公開の視点からも、 学校の説明責任が求められています。そこで、評価に関して、児童生徒や保護者に対し、 入学時や年度当初はもとより、日常的に説明をする機会を設けることが必要です。その 取組を通して、共通理解を図るとともに指導や評価の改善に生かすことによって、学校 への信頼を高めていくことが大切になってきます。 また、評価には、信頼性が求められますが、評価を指導に生かしていくためには、単 に数値化されたデータだけが信頼性の根拠になるのではなく、評価の目的に応じて、評 価する人、評価される人、それを利用する人が、互いにおおむね妥当であると判断でき ることが信頼性の根拠として意味を持ちます。その意味でも、評価規準や評価方法等に 関する情報を児童生徒や保護者に適切に提供し、共通理解を図ることが、より客観的で 信頼性のある評価へと高めていくことにつながるのです。