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立体テレビジョン - 特許庁技術懇話会

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立体テレビジョン - 特許庁技術懇話会
TECHNO
TREND
抄録
現在注目されている立体テレビジョン(立体映像関連
技術)の歴史は意外に古く、各業界が映像の立体化に
積極的である昨今の状況は、まさに「歴史は繰り返さ
れる」という印象もあるものの、一過性のブームで終
わらないという期待もある。本稿では、技術の基本原
理、歴史の変遷を報告すると共に、今回の立体テレビ
ジョンブームを生み出している各業界の思惑について
考察する。また、特許出願動向から現状を整理し、日
本の競争力向上のために取組むべき道筋を 3 つの提言
としてまとめた。日本は、裸眼方式に力を入れ、撮像
技術や分析/評価技術で差をつけ、異分野・異業種間
等の多様な連携と標準化活動の取組を進めることが重
要である。
立体テレビジョン
特許審査第四部審査調査室
橘 均憲
1.
現状を踏まえて今後どのように展開していくかについて
はじめに 〜 “立体テレビ元年” の到来〜
紹介したいと思います。
2.
2009 年 10 月に開催された CEATEC JAPAN1)にお
立体テレビジョンの基本原理
いて、大手電機メーカーはそろって 3D(3 次元)映像が
見られる立体テレビジョンの実用化をアピールしまし
た。そして 2010 年、米国ラスベガスで開催された家電
人間の左右の眼の間隔は約 6.5cm です。物体を眺める
見本市、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー
時、左右の眼には、位置の差によって異なった像が見え
(CES)を皮切りに、まず米国で立体テレビジョン市場
ています(両眼視差)。その像を脳で重ね合わせて空間
が立ち上がりました。その後、4 月下旬から、日本にお
の再構成を行い、立体的に感じます。逆に、左右の眼に
いても立体テレビジョンの販売が開始され、今では世界
対して意図的にずらした像、つまり、擬似的に両眼視差
中の市場に投入されています。
が生じるような像を認識させることによって、脳では立
このような市場の急速な拡大の背景には、薄型テレビ
体的に感じることになります。これが立体視の基本原理
の価格低下や映画興行成績不振から脱却したい各業界の
です。
思惑があり、その全てが“立体視”という付加価値に期
図 1 に立体視の例として、青赤メガネを利用するアナ
待をしています。
グリフ方式を示します。例えば、6.5cm 程の間隔をあけ
本稿では、現在注目されている立体テレビジョンにつ
て固定した 2 つのカメラで撮影した像をそれぞれ赤と青
いて、基本原理や歴史について簡単に説明すると共に、
の光で重ねます。そして青赤メガネを通して重ね合わせ
1)Combined Exhibition of Advanced Technologies Japan の略。アジア最大級の情報通信・エレクトロニクスの総合展示会。
2010.8.24. no.258
111
tokugikon
TECHNO TREND
右眼と左眼は
約6.5cm離れて
いる。
左右の眼に意図的
にずらした像を見
せると……
右眼と左眼では同じ物を見ても、少しず
れて見えている。脳においてこのずれを
認識し、重ね合わせることで、立体的に
感じている。
例えば、青赤メガネを使い、右眼と左眼
のそれぞれに少しずれた像を見せると、
脳で両眼からの像を重ね合わせ、立体的
に感じる。
図1 立体視の原理
た像を見ると、右眼には青いフィルムを通して赤い光の
コラム テクノ探検隊
像が見え、左眼には赤いフィルムを通して青い光の像が
見え、左右の眼でそれぞれ少しずれた像を認識すること
〜ゲーム〜
CEATEC JAPAN2009で3Dのゲーム映像を視聴しました。
カーレースのゲーム映像では、自分が実際にハンドルを
握り運転しているような迫力ある映像でした。また、設定
メニューなどの画面も飛び出してきて、3D効果をうまく利
用できていると感じました。まずは実写ではないこのよう
なゲームコンテンツが3Dテレビを牽引していくのではない
でしょうか。
になります。そして、脳が 2 つのずれた像を重ね合わせ、
立体的に感じることになります。このとき、左右の眼に
認識させる像のずれの程度を意図的に変えることで過度
な飛び出しや奥行きを表現することもできます。また、
映像は画像の連続ですので、図 1 の画像を連続的に切り
替えることで映像を表現できます。
このように、左右の眼に少しずれた像(画像や映像)
を認識させればよいので、アナグリフ方式以外にも様々
テレビ側では右眼用、左眼用の画像を時分割で交互に
な方法が考え出されています。例えば、左右の眼に異な
表示 2)します。一方、メガネ側ではテレビで表示される
る偏光の像を認識させる偏光メガネ方式なども昔から利
像に同期させて右眼と左眼の液晶シャッターを交互に開
用されています。ただ、アナグリフ方式では色を表現し
閉します。つまり、テレビ側で右眼用の画像が表示され
難いという欠点があり、また偏光メガネ方式ではやや暗
ている間は、メガネ側では左眼のシャッターを閉じ、右
い像になってしまうといった欠点があります。
眼だけに画像を認識させます。逆に左眼用の画像が表示
そこで、現在販売されている立体テレビジョンでは、
されている間は、右眼のシャッターを閉じ、左眼だけに
フレーム・シーケンシャル方式(シャッターメガネ方式)
画像を認識させます。そのようにテレビとシャッターメ
と呼ばれる方式が用いられています。この原理を図 2 に
ガネを同期させることにより左右の眼に異なる像を認識
示します。
させることができます。厳密には左右の眼で 0.02 秒程
2)毎秒 60 フレーム程度。つまり片眼では毎秒 30 フレーム程度。
tokugikon
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2010.8.24. no.258
コラム テクノ探検隊
〜3D映画〜
先日、3D映画を初めて視聴しました。ティム・バートン
監督の「アリス・イン・ワンダーランド」です。3Dメガネ
をかけ、それほど映像の飛び出しは感じられなかったもの
の、立体映像を体験できました。
やはり、映画の興行収益はコンテンツの善し悪しで決ま
ります。3D映画においては、さらに何をどの程度立体的に
表現するかが重要です。今後の映画制作編集技術の向上に
期待します。
なお、個人差があると思いますが、眼の疲れを感じる場
合もありそうです。健康への影響評価や、影響を最少化す
るための技術開発が進むことでしょう。
と言われています。これまでの 2 度の立体映画ブームは
い ず れ も 1 年 程 度 で 去 っ て し ま い ま し た が、 日 本 で
2009 年末に公開された「アバター」は公開から約 50 日
図2 シャッターメガネ方式について
間で、2010 年 4 月に公開された「アリス・イン・ワンダー
ランド」では公開から 37 日間で、いずれも興行収入が
度ずれて画像を認識することになりますが、視覚には残
100 億円を突破(日本経済新聞 2010 年 5 月 30 日)する
像効果があり、脳ではその時間差を認識することなく立
など、今回のブームはもはや一過性のものではなく、映
体的な映像として感じることができます。
画文化として根付き始めています。
一方、テレビ放送では、2007 年から日本 BS 放送が
3.
BS デジタル放送「BS11」で専用テレビ向け 3D 放送を
立体視の歴史と現在のブームについて
行ってきましたが、なかなか市場が拡大しませんでした。
しかし、家庭用の 3D テレビが家電メーカから発売され、
立体視の技術は非常に古くから研究されており、すで
ケーブルテレビでビデオオンデマンドによる 3D 番組の
に 19 世紀にはメガネを用いたアナグリフ方式や偏光メ
配信、CS 放送では 3D 番組の放送も開始される見込み
ガネ方式が考案されていました。そして、20 世紀初頭
であり、今後市場は急成長することが期待されます。
には商業利用も行われ、その後 1950 年代と 1980 年代の
このように、現在、映画やテレビ業界、またそれらに
2 度の立体映画ブームがありました。この最初の立体映
関係する業界では、“3D”を積極的に取り入れようとす
画ブーム(1950 年代)が起こった原因として、1954 年
る様子が伺えます。これはいくつかの背景が重なったこ
から米国でカラーテレビ本放送が開始 されたことに対
とによるものと考えます。
3)
してハリウッドが危機感を持ち、映画に付加価値を与え
る為に映像の 3D 化に踏み切ったという説があります。
背景その 1:技術の進歩と映画館のデジタル化
この真偽のほどは分かりませんが、業界への何らかの圧
力に対抗するために立体映像技術を付加価値として採用
情報通信技術の発展により、立体映像に必要な奥行き
したことは、現在のブームが起こった背景と共通します。
情報等の多量の情報を扱えるようになったことで立体テ
さて、今まさに、3 度目の立体映画ブームが到来した
レビ放送が可能となりました。また、テレビ表示技術の
3)1953 年にカラーテレビ放送規格が成立し、翌年から本放送が開始された。
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TECHNO TREND
進歩により、ディスプレイのフレームレート(1 秒あたり
そこで、メーカー各社は価格競争に対抗した低価格の製
に何度画面が更新されるか)が向上し、左右それぞれの
品を販売する一方で、付加価値の高い製品を市場に投入
眼に認識させる画像を交互に映しても、既存の 2D テレビ
し、利益確保を目指すという戦略に移ってきています。
と同程度に自然な表現ができるようになりました。
そして、各社の高付加価値化の戦略の一つとして、立体
一方、映画においては、近年、映画館のデジタル化が
視機能の搭載が実現されつつあります。
進んだことにより、左右の映像の切り替えとメガネの
シャッターの開閉タイミングを同期させることが容易に
以上のような背景で、映像の立体化が進みつつありま
なりました。
すが、更なる市場拡大の観点からはハードウェアの導入
そのような技術の進歩とインフラ整備に支えられ、比
費用が問題となります。現段階では、3D 映像を見るた
較的スムーズに立体映像が導入されたと考えられます。
めにテレビやメガネ、そして記録するためには専用のレ
コーダなどを買い揃える必要があります。2010 年 5 月
現在では立体テレビが販売されたばかりで、既存の 2D
背景その 2:ハリウッドの興行成績不振
テレビよりも数万円高く、追加の専用メガネは 1 個 1 〜
昨今の立体映像市場の隆盛は、米国でのハリウッドを
2 万円程度しますので、まだまだ立体テレビ市場は拡大
中心とした 3D 映画の公開がきっかけとなっていること
の段階ではありません。ただ、将来的には既存の 2D テ
は疑う余地はありません。ではなぜハリウッドがそのよ
レビの付加価値機能の一つという位置付けで、3D 機能
うな戦略を打ち立てたのか? その理由は、近年の興行
を搭載して販売する可能性も指摘されていますし、各社
成績の不振が原因だと考えられます。
から販売され次第、価格競争が激しくなることが予想さ
1950 年代に起こった 1 度目の立体映画ブームの時と
れます。このようなテレビメーカの動きと連動しながら、
同様の理由、つまり、ハリウッドは興行収益の低下に危
映画会社やテレビ放送局が立体映像の放映を開始して
機感を持ち、映画に付加価値を与える為に 3D 映画を投
3D の映像コンテンツが増え、市場が拡大していくこと
入し、興行収益の回復を期待したと考えられます。
が期待されています。
その戦略が功を奏し、興行収益は急激に回復しました。
4.
米国では 2008 年以降の 3D 映画の上映数は増加し、3D
映画に対応した映画館が急増しています。そして、映画
館のインフラ改善によりその回復基調は安定的なものと
特 許出願動向から読み解く日本の競争力向
上への道筋 〜 3 つの提言〜
なってきました。
ここで、平成 21 年度特許出願技術動向調査「立体テ
また、ハリウッドでは、映画と同じく、テレビ番組、
レビジョン」4)を紹介します。この調査は、急速に市場
DVD 等のホームエンターテイメントも「メディア企業」
が拡大しつつある立体映像関連技術について、現状を整
の支配下にあるというビジネス構造であるため、現在活
理し、日本の競争力向上のために取組むべき道筋を 3 つ
況を呈している 3D 映画のコンテンツを後にテレビ番組
の提言としてまとめたものです。
や DVD としてホームシアターで鑑賞することを視野に
まず、公開された立体テレビジョン関係の特許文献
入れたビジネス展開は自然な流れと言えます。
に基づく出願人国籍別の出願件数推移を図 3 に示しま
す。全体的に出願件数は緩やかに増加傾向を示し、現
在の立体テレビジョンブームが技術的にも支えられて
背景その 3:テレビ価格の下落
いることが伺えます。出願件数の割合では日本国籍出
テレビ業界ではどうでしょう。昨今のテレビを取り巻
願人が 49.2% と最も高いこと、2004 年以降に韓国籍出
く状況として、シェア拡大を狙う各社が価格競争を激化
願人による出願件数が急速に増えていることが分かり
させており、薄型テレビの価格は下落し続けています。
ました。
4)調査内容は「立体動画像表示に関する技術」だが、想起しやすいように「立体テレビジョン」とした。
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1000
その他
212件 1.8%
韓国籍
1,232件 10.7%
900
中国籍
265件 2.3%
800
欧州国籍
1,645件 14.4%
700
881
817
日本国籍
5,643件
49.2%
米国籍
2,466件 21.5%
775
635
619
602
出願件数
578
570
600
749
543
534
532
500
464
421
402
421
400
300
200
828
791
782
281
265
140
100
0
365
339
311
279
127
75
39
1 55
84
1989
1990
38
43 1
63 74
56 6
1991
339
336
322
284
323
253
249
151
375
212
126
103
63
43
1 06
1992
83 4
1993
94
41
55 4
1994
81 80
28 23
2
1995
122
97
137
109
92
31
12 5
1996
122
76
24
8 17
1997
62
2124
8
45
13
8
1998
1999
178
122
115
82
52
8 13
2000
13 15
2001
130
106
148
120
54
12 19
48
2 11
2002
2003
187
137
105
3 14
2004
301
214 230 209
190
179
177
167
148
104
29
81
60
56
12
2005
10
2006
10
2007
出願年(優先権主張年)
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
合計
出願人国籍
図3 立体テレビジョンに関する出願人国籍別の出願件数推移
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年):1989年~2007年)合計出願件数:11,463件
なお、特許分析を行うに当たっては、国際特許分類
理技術、通信/記録技術、表示 ・ インターフェース技術、
(IPC)の立体テレビジョンおよび立体カラーテレビジョ
および撮像 ・ 表示される映像を評価する分析/評価技術
ンを示す集合(H04N13/00,H04N13/02,H04N13/04,H04
の 5 つの技術区分にグループ化しています。
N15/00)と、立体テレビジョンに関連するキーワード
を用いた集合の集合和を特許動向分析の調査範囲としま
提言 1:メガネあり方式から裸眼方式へ移行する
した。また、調査対象は特に日本、米国、欧州、中国、
韓国において出願あるいは登録された、優先権主張年が
表示方式はメガネあり方式からメガネを用いない裸眼
1989 年から 2007 年に出願された特許であって、2009 年
方式へと推移していくことが予想されます。日本におい
6 月 30 日までに公開・公表・再公表がなされた特許文
ても裸眼方式の実用化に向けた研究開発の一層の推進が
献 です。
期待されます。
5)
このように、公開された特許文献を中心に、論文や各
種文献等についても調査分析をおこない、技術発展状況
現在販売中の立体テレビジョンや上映中の 3D 映画は
や研究開発状況を総合的に把握しました。その結果、日
ほとんどがメガネあり方式です。市場環境調査によると、
本の競争力向上のために取組むべき道筋を 3 つの提言と
立体テレビジョン放送は自宅など屋内での視聴が想定さ
してまとめましたので以下に紹介します。
れており、しばらくはこのメガネあり方式が主流である
なお、調査分析においては図 4 に示す立体テレビジョ
との結論に至りました。しかし、特許動向調査の用途別
ンの技術俯瞰図に沿って技術を区分しました。技術俯瞰
出願件数分析(図 5)では、モバイルや広告(デジタルサ
図では立体テレビジョンの関連技術を撮像技術、画像処
イネージ)など屋外での利用を想定するものも考えられ
5)出願から公開までの期間、あるいは PCT 出願後の国内移行までの期間、さらにデータベースへの収録の遅れの影響などから、直近
の出願件数については必ずしも実数を反映していない可能性がある点には注意が必要。
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TECHNO TREND
立体テレビジョンの対象技術
(IPC: H04N13/00,H04N13/02,H04N13/04,H04N15/00
+ 立体テレビジョンに関連するキーワード)
技術区分
技術例
2 眼・多眼方式
ホログラフィ入力
レーザ・赤外線測位
レンズ
撮影デバイス
センサ
視差・輻輳角・ピント制御
制御
ヘッドトラッキング
コンテンツ生成 2D-3D 変換
/編集
立体画像合成
画像補正
サイズ・フォーマット変換
変換処理
フィルタ処理
高効率符号化
符号化
3 次元形状符号化
−
多重化
−
伝送
記録媒体
記録
記録方式・記録装置
表示方式/装置 −
ディスプレイパネル
表示デバイス
メガネ
プロジェクタ
スクリーン
フィルム・フィルター
視差・輻輳角・ピント制御
制御
ヘッドトラッキング
分析
視差・奥行き推定
安全性評価
評価
快適性評価
画質評価
再現性評価
表示方式
技術要素
撮影方式
A 撮像技術
B 画像処理技術
C 通信/記録技術
D 表示・インター
フェース技術
E 分析/評価技術
視差情報
メガネあり
覗きメガネ方式、HMD 方式
アナグリフ方式
計算量削減・高速計算
情報量圧縮
シャッタメガネ方式
偏光メガネ方式
高解像度化
波長分割方式
メガネなし
パララックスバリア方式
レンチキュラ方式
HOE 方式
画質向上
自然な奥行き感
光源分割方式
大画面化
大凸レンズ・大凹面鏡方式
インテグラルフォトグラフィ方式
超多眼方式
任意視点での観察
空間像
多人数鑑賞
奥行き標本化 ( 体積表示)方式
低消費電力化
バリフォーカル方式
光源回転方式
長寿命化
移動スクリーン方式
空中プラズマ発光方式
利便性向上
奥行き融合方式
DFD 方式
小型化・簡素化
ホログラフィ方式
生体への影響
擬似的な立体表示
像浮遊・空中投影
応用産業
映画 放送 計測 広告 医療
設計 シミュレーション
教育 運輸・交通 テレワーク
モバイル ゲーム Web
テーマパーク・美術館・博物館
2 眼 / 多眼・メガネ / 裸眼
より自然な視聴が可能な方式へ
現在
これまで
コンテンツ生成の容易化
プルフリッヒ方式
映画 放送 広告
設計 シミュレーション
2 眼・メガネ
課題
将来
図4 立体テレビジョンの技術俯瞰図
放送
医療
ゲーム
ビデオ
計測
映画
シミュレーション
テーマパーク・美術館・博物館
運輸・交通
広告
遠隔監視・操作
Web
設計
モバイル
コミュニケーション
教育
テレワーク
分析・評価
上記以外
不特定
16.1%(1,841件)
8.5%(980件)
8.4%(962件)
6.7%(765件)
6.2%(705件)
5.2%(599件)
5.0%(570件)
4.2%(477件)
3.9%(450件)
3.6%(411件)
3.2%(367件)
2.6%(301件)
2.4%(273件)
2.3%(267件)
1.7%(199件)
1.5%(170件)
1.2%(143件)
0.9%(101件)
8.0%(913件)
50.1%(5,745件)
0.0%
20.0%
40.0%
※1つの特許出願に対して複数の用途を付与しているものが含まれています。
図5 用途別の出願件数割合
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年):1989年~2007年)合計出願件数:11,463件
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2010.8.24. no.258
60.0%
てきており、その場合、視聴のためにメガネを用意しな
眼方式のインテグラル方式やホログラフィ方式が重要技
くても立体視が可能な裸眼方式のニーズが高くなると考
術として具体的に明記されており、研究開発面での後押
えることは自然です。
しもなされていることが分かりました。
また、特許動向調査における表示方式別の出願状況の
以上の状況を鑑みると、日本は他国よりも裸眼方式の
分析(図 6)から、最近では裸眼方式の出願件数が増え
技術開発環境は整っており、一歩先んじていると考えら
てきており表示技術別出願に変化が起きていることがわ
れます。今後もこれらの研究・技術開発を進め実用化を
かりました。
加速させることで世界での地位を確固たるものにできる
そこで、日本の現状をみると、他国と比較して裸眼方
と考えられます。そして、まずは裸眼方式を取り入れや
式を含む様々な表示方式での取組がなされていることが
すいモバイルや広告(デジタルサイネージ)などの分野
分かりました(図 7,8)。
で実用化に向けた研究開発を進めていき、新たな市場を
また、政策動向調査においても、日本政府によって裸
作り出していくことが重要と考えます。
400
352
350
329
298
300
出願件数
200
175
123
92
100
79
43
50
59
1989
1990
107
91
183
152
127
147
112
103
141
173
196
148
123
114
107
102
99
101
61
62
1991
1992
1993
1994
271
204
194
173
170
150
0
262
253
250
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
80
77
2006
2007
出願年(優先権主張年)
メガネあり方式
メガネなし方式
※1つの特許出願に対して複数の表示方式を付与しているものが含まれています。
※メガネあり方式、メガネなし方式の小分類を単純に足しあげた数値となります。また、各方式の不特定は除いています。
図6 出願件数推移(メガネあり方式・メガネなし方式)
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年):1989年~2007年)
視差情報
3995
超多眼方式
空間像方式
25
370
1235
0
1055
685
126
0
10
0
0
146
102
10
42
24
2
8
1
6
1
擬似的な
立体表示
96
54
22
その他の
表示方式
52
14
9
1179
1018
473
日本
米国
不特定
186
1
64
欧州
中国
出願人国籍
502
韓国
視差情報
超多眼方式
25
空間像方式
205
擬似的な立体表示
56
21
不明
545
0
その他
100
200
300
400
500
600
(件)
図7 出願人国籍別出願件数(表示方式別)
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年)
:1989年~2007年)
2010.8.24. no.258
663
117
図8 国内研究機関論文件数(表示方式別)
(発行年ベース:1989年〜2008年)合計件数:1,421件
tokugikon
700
TECHNO TREND
コラム テクノ探検隊
〜裸眼立体映像〜
2010年5月末にNHK放送技術研究所(以下、NHK技研)の公開で、裸眼方
抄録
式の立体映像を視聴しました。インテグラル方式という技術で、特殊な眼
鏡などを使用せずに立体像を見ることができ、頭を傾けたり横になったり
企業発展に必要な特許および特許活動とは如何なる
ものか。企業の特許戦略および特許活動に携わるもの
しても立体像を鑑賞できるという優れた特長を持ちます。
(本紙面上では立
にとっては、永遠の命題のように思える。この命題を
体的に見えませんが)会場には写真のようにわざとディスプレイを傾けてイ
少しでも解決するために、特許の成功事例を分析して
ンテグラル方式による立体画像の展示も行われていました。かなり注目さ
優れた特許戦略や活動の一部をご紹介したい。一般に
れている技術で、1回40秒の視聴に、長蛇の列ができていました。
広い特許請求の範囲で権利化することは製品保護の観
インテグラル方式は下図に示すように、直径1mm程度のレンズを約10万
点から望ましいことであるが、権利化後に係争に巻き
個並べたレンズアレイを通して、映像を撮影・表示させます。原理的には
込まれることがある。その係争の根拠や理由は、審判
目の焦点がディスプレイ面に合うのではなく、再生立体像自体に合う*とさ
決や論文などから知ることができる。従って、係争に
れており、両眼視差を用いて表現された3D映像と違い目が疲れにくい3D
巻き込まれるあるいは巻き込まれやすい特許の問題点
ディスプレイが実現すると考えられています。ただ、画質は映像の画素と
については、公表された内容から容易に把握すること
レンズの大きさに依存するので現状ではまだ粗く、NHK技研の方に尋ねたところ、
さらに小さなレンズを用いて、映像もスーパー
ができる。そして、この問題点を解消する対策や努力
ハイビジョンよりもさらに高画質のものを用いれば、より自然になるのではないかとご説明頂きました。なお、NHK技研では20
は絶えずなされていると思うが、係争事件は絶えず発
年以内の実用化を目指しているとのことです。
生している。ここにご紹介する成功事例は複数の特許
*立体映像の解像度が低いので、目の焦点が映像に合っているかどうかを実証できていない。
異議申立を受けるものの、特許請求の範囲を全く変更
することなく特許として登録され、その後係争事件に
巻き込まれないで期間満了している。この事例の分析
(インテグラル方式説明図)
では、係争になる特許の問題点ではなく、係争になり
難いあるいは係争を事前に回避するための研究開始前
から権利化後までの特許戦略や活動に焦点を当。
スーパー
ハイビジョンカメラ
撮影用レンズアレイ
再生立体像
ディスプレー
表示用レンズアレイ
提言1で述べたように、今後は裸眼方式の立体映像技術が主流になっていくものと考えられていますが、インテグラル方式では
実写をそのまま表現することを目的としていますので、過度な立体表現が可能な両眼視差を用いる技術(パララックスバリア方
式やレンティキュラ方式)とは棲み分けて利用されることが予想されます。
に、ユーザーのニーズを満足するために、今後、高精細
提言 2:撮像技術や分析/評価技術で差をつける
な映像を滑らかに表示するための高速動画表示技術の開
「撮像技術」や「分析/評価技術」の重要性が増すと考
発が進むと予想されます。したがって、そのベースとな
えられ、今後はそれらの分野での積極的な技術開発や特
る「画像処理」や「通信/記録」の技術が今後ますます重
許出願が望まれます。
要になることは共通の認識でしょう。つまり、今後各国
で、表示 ・ インターフェース、画像処理、通信/記録の
立体テレビジョンに関連する各技術の出願人国籍別出
各技術の開発競争が激化すると考えられます。
願件数(図 9)の日本人国籍における技術区分別の出願
ここで、本調査により、さらなる市場での競争力を高
件数をみると、
「表示 ・ インターフェース技術」の割合が
めるためには、「撮像技術」や「分析/評価技術」の向上
多いということが分かります。これから、現時点では立
が重要であることが分かりました。
体映像をどのように表示するかが主要な研究課題となっ
有識者へのインタビュー調査によると、国内では当面
ていることが読み取れます。
はアニメ映画を中心とした立体コンテンツ化が進み、次
立体テレビジョンにおいても従来のテレビ開発と同様
の展開として実写映像の立体コンテンツ化が予想されて
tokugikon
118
2010.8.24. no.258
撮像技術
います。この場合、いかに立体映像を撮影するかといっ
………………………………
た、「撮像技術」が重要となります。現状では立体映像
の撮像は、技術者のノウハウに依存している部分があり、
立体映像の情報は2次元の映像撮影に比べて大量の映像情
報の取得が必要。超多眼方式や空間像方式の場合には、
レンズアレイやレーザ照射によって光線情報を取得する
ために更に多くの情報の取得が必要となる。今後立体テ
レビジョンが普及するに伴い、いかにコストを抑えて良
質のコンテンツを市場に供給できるかが課題である。
実写版立体映像の普及のボトルネックになる可能性があ
ります。今後は、簡単に撮像し、立体映像コンテンツを
制作できるような手法や装置の研究開発を推進すること
が重要となるでしょう。
また、今後、立体テレビジョンの市場が拡大するにつ
画像処理技術
れ、立体映像の人体への影響も、個別手法による評価結
……………………………
果ではなく、客観性を持ったデータで説明することが求
められます。特許出願動向調査(図 9)や研究開発動向
実写映像や3DCGに対する画像処理や、立体テレビジョン
の撮像技術・表示技術に付随する処理としても不可欠。
立体テレビジョンの技術としては複数のカメラで撮影し
た画像データから立体表示に必要な画像を生成する技術、
奥行きセンサや複数画像から奥行き情報(デプスマップ)
や視差分布を生成する技術、1枚の2次元画像から立体画
像を生成する2D-3D変換技術や3DCG関連技術、立体映像
の編集やフォーマット変換等がある。
発が進んでいない分野であることが分かりました。今後
大分類
通信/記録技術
調査(図 10)から、「分析/評価技術」は各国とも研究開
…………………………
立体映像のデータ量は膨大で、通信や記録のためには情
報の圧縮が必要。また、高解像度の立体映像の通信のた
めには広帯域の通信回線が必要となる。2009年初めに多
視点画像を効率よく圧縮する方式(H.264 MVC(multi-view
coding))が規格化され、立体映像への適用が期待されて
いる。またMVCをもとに2009年末にBlu-ray Disc(Blu-ray
はブルーレイディスクアソシエーションの登録商標)への
3D映像の記録方式が規格化されるなど、立体テレビジョ
ン関連の規格化・標準化と関わりの深い技術である。
撮像技術
1552
516
343
画像処理技術
1316
641
397
通信/記録技術
704
表示・インター
フェース技術
3272
208
1586
37
28
米国
欧州
170
分析/評価技術
日本
43
193
65
20
166
133
780
3
中国
38
373
38
167
1041
138
38
6
8
韓国 その他
出願人国籍
図9 出願人国籍別出願件数
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年):1989年〜2007年)
表示・インターフェース技術
…………………
分析/評価技術
大分類
現在は表示機器として平面ディスプレイを用いたものが多
いが、今後立体表示に特化した専用ディスプレイが開発さ
れることで、より自然な立体映像を表示できる可能性があ
る。また、視域が狭い、奥行き感が不自然に感じられる等
の問題をたとえばヘッドトラッキングのようにディスプレ
イ装置を制御することで改善させる場合もある。
撮像技術
5
5
3
画像処理技術
8
12
15
通信/記録技術
3
6
11
表示・インター
フェース技術
43
16
17
分析/評価技術
10
…………………………
日本
3D映像の鑑賞は疲労感や違和感を覚える場合がある。立
体テレビジョンの画質や質感に対する主観・客観評価や、
人が鑑賞する際の安全性や快適性の評価と関わりの深い技
術である。
1
米国
12
欧州
0
1
2
3
0
中国
0
5
10
8
10
5
13
4
9
3
韓国 その他
研究者所属機関国籍
※1つの論文に対して複数の技術区分を付与しているものが含まれてい
ます。
図10 研究者所属機関国籍別の主要国際誌掲載論文件数
(発行年ベース:1989年〜2008年)合計件数:200件
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119
tokugikon
TECHNO TREND
重要性が増すと考えられる「分析/評価技術」分野の研究
テンツ制作側」と「表示装置製造関係者」の間で十分な
を促進し、同時に特許出願につなげていくことで、市場
情報交換が求められるでしょう。また、分析/評価技術
での競争力をより強固なものにできると考えられます。
の研究開発では人体が対象となるため、工学的アプロー
チとともに医学的なアプローチが必要となり、「企業」
と「大学の医学部」等のような異業種・異分野間連携が
提言 3:異分野・異業種間等の多様な連携と標準化活
ますます重要となります。
動の取組を進める
また、日本においては、これまで立体テレビジョンに
異分野・異業種間等の多様な主体間連携により先端研
関するルール化や情報共有は、製品や技術分野ごとに関
究開発テーマを発掘し、新たな市場を創り出すことが重
連する団体単位で行われていましたが、今後は技術 ・ 分
要です。同時に標準化活動への取組促進により、市場お
野横断的に標準化活動に取組むことが期待されます。
よび技術競争力の一層の確保が期待されます。
ここで、標準化活動において各国で特許を取得してい
ることは重要なポイントですが、特許出願動向調査の結
今後は、異業種・異分野間連携が一層重要になると考
果(図 11)から、日本は海外への出願が少ないことが明
えられます。例えば、快適な立体映像の視聴には、表示
らかとなりました。一方、韓国は自国だけでなく海外へ
装置側で微調整が可能ですが、コンテンツ制作側が一定
の出願も多いことが分かりました。標準化活動を通して
のルールに基づいて撮像することで、高品質な立体映像
世界市場でのシェアを確保する為にも、日本においては
コンテンツが出回ることになります。そのため、「コン
海外への出願がより一層期待されます。
日本への出願
6,142件
欧州国籍
283件 4.6%
中国籍
3件 0.0%
韓国籍
139件 2.3%
その他
87件 1.4%
米国籍
238件 3.9%
日本国籍
5,392件
87.8%
米国への出願
2,454件
その他
79件 3.2%
日本国籍
94件 3.8%
韓国籍
183件 7.5%
中国籍
9件 0.4%
欧州国籍
166件 6.8%
94件
238件
欧州への出願
1,583件
142件
283件
3件
139件
その他
韓国籍
54件 3.4% 31件 2.0%
166件
米国籍
1,923件
78.4%
中国籍
2件 0.1%
190件
2件
183件
54件
欧州国籍
1,164件
73.5%
日本国籍
142件 9.0%
米国籍
190件 12.0%
9件
49件
中国への出願
392件
その他
8件 2.0%
9件
6件
66件
日本国籍
6件 1.5%
米国籍
49件 12.5%
韓国籍
58件 14.8%
中国籍
249件
63.5%
日本国籍
9件 1.0%
22件
欧州国籍
22件 5.6%
58件
2件
米国籍
66件 7.4%
その他
7件 0.8%
10件
欧州国籍
10件 1.1%
韓国籍
798件
89.5%
図11 出願人国籍別の出願先国別出願件数収支
中国籍
2件 0.2%
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年):1989年〜2007年)
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120
2010.8.24. no.258
韓国への出願
892件
なお、その韓国は図3のとおり近年出願件数を急速に伸
事実上の標準(デファクトスタンダード)を目指した活動
ばしてきていますが、特にモバイル分野において、積極
を展開しているとの情報もあります。モバイルのような
的に特許出願を行っていることが明らかとなりました(図
製品ライフサイクルの短い分野においては、標準化活動
12)
。また、市場に技術投入し、シェアを確保することで
が活発になる可能性があり注視しておく必要があります。
220
放送
943
325
280
医療
510
276
128
ゲーム
596
193
91
ビデオ
333
193
125
計測
460
115
104
映画
292
162
72
シミュレー
ション
285
181
69
テーマパーク・
美術館・博物館
346
運輸・交通
広告
198
225
46
111
77
85
2
4
16
52
107
53
176
128
38
26
64
78
77
43
5
23
38
34
38
2
18
1
89
27
0
9
5
114
65
31
7
49
1
100
43
38
0
12
6
79
49
17
0
21
4
68
44
20
0
10
1
62
20
12
0
4
3
175
132
12
56
25
遠隔監視・
操作
200
204
Web
180
208
160
143
14
設計
20
モバイル
140
2
14
10
コミュニ
ケーション
19
42
12
教育
2
25
8
テレワーク
2
25
6
分析・評価
2
22
10
その他
40
513
13
36
7
不特定
20
2608
1237
838
日本
米国
欧州
120
100
80
60
162
801
99
0
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
中国
韓国
その他
出願人国籍
出願人国籍
※1つの特許出願に対して複数の用途を付与しているものが含まれてい
ます。
※1つの特許出願に対して複数の用途を付与しているものが含まれてい
ます。
図12(a) 用途別の出願人国籍別出願件数 その1
図12(b)
用途別の出願人国籍別出願件数 その2
(日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年)
:1989年~2007年) (日米欧中韓への出願、出願年(優先権主張年)
:1989年~2007年)
5.
お わりに 〜市場拡大に向けて、筆者からの3つの提言〜
筆者は立体テレビジョンの市場拡大には今後以下の 3
つの条件が必要であると考えています。
①魅力あるコンテンツ(要は中身)
profile
②ど んな人にも自然な感覚で立体に見える技術の開発
(汎用性の向上)
橘 均憲(たちばな
③安全性の確保に配慮した規格の整備
今後の展開が楽しみです。
まさのり)
平成 12 年 4 月 特許庁入庁
平成 16 年 4 月 審査官昇任
総務課、英国ケンブリッジ大学工学部客員研究員、特許審査
第四部情報記録を経て、
平成 21 年 4 月より現職
2010.8.24. no.258
121
tokugikon
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