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と畜場の衛生管理指導について
と畜場の衛生管理指導について 上田食肉衛生検査所 ○本島直子 橋詰祐樹 青山真子 加藤澄恵 今村 睦 宮入崇夫 金井真佐三 1 はじめに 当所が所管する S センターでは、数年来のと畜頭数の減少や、経営状況の厳しさ等の現状があり、毎 年衛生管理講習会、監視指導等を実施しているが、期待する衛生管理の向上が見られない。 このような状況を改善するために、本年度当所では、他県の先進地の食肉センターへの視察研修を行い、 視察で得た情報と拭き取り検査結果を衛生講習会の資料として用いて S センターに指導を行った。衛生講 習会はと畜場管理者、と畜従事者等から大きな反応があり、その後のと畜場における拭き取り検査結果に も改善が見られた。従前の衛生講習会と比べて効果があったと考えられるのでその概要を報告する。 2 検査方法及び講習会 (1)拭き取り検査 検査対象:牛・豚の枝肉 検査項目:枝肉の一般細菌数 検査時期:平成 24 年 6 月~平成 25 年 1 月 検体採取及び検査方法: 洗浄後の最終枝肉の胸部と肛門周囲部の 2 ヶ所を、滅菌プース(乾性)を用いて、100cm2 拭き取 り、滅菌生理食塩水 10ml を加え、これを試料原液とした。希釈液を使って、10 倍階段希釈液を作り、 1ml ずつ、ペトリフィルムに接種し、35℃48 時間培養後、コロニー数をカウントして、1cm2 あたり の一般細菌数を求めた。 (2)衛生講習会 従来は、年度末に S センター主催の食肉衛生研修会に合わせて行っていたが、本年度は拭き取り検 査結果に基づき、衛生講習会を 10 月と 1 月の 2 回開催した。 第一回衛生講習会 細菌検査項目について説明した後、グラフを用いて一般細菌数の推移について説明し、一般細菌数 が増加した原因とその対策方法について指導した。 第二回衛生講習会 一般細菌数の増加に歯止めがかかっていることを指摘し、模範となる食肉衛生センターの様子をス ライドで紹介し、模範的な枝肉洗浄方法を動画で紹介した。 3 結果 (1)拭き取り検査結果 細菌数/cm2 H24 牛 一般細菌数 700 600 500 400 300 200 100 0 胸部平均 肛門周囲部平均 最終剥皮担当者が辞めてしまい、慣れない従事者が剥皮を担当したため、去年より一般細菌数が多く なってしまった。担当者が慣れると一般細菌数も減少した。 細菌数/ 細菌数/cm cm2 H24 豚 一般細菌数 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 胸部平均 肛門周囲部平均 9 月までは、去年よりも、一般細菌数は低くかった。しかし、9 月末に、従事者が 2 名辞めてしまい、 一般細菌数が増加してしまった。講習会を行い、手洗い等注意する様指導したところ、一般細菌数は減 少した。その後も、その状態を維持出来ている。 参考値:平成 23 年 8 月~10 月の一般細菌数の平均値(個/cm2) H23 牛胸部 H23 牛肛門周囲部 H23 豚胸部 H23 牛肛門周囲部 228.87 267.03 316.9 150.77 (2)衛生講習会 ① 第一回目の衛生講習会 講習会では、普段検査している細菌の一般知識について説明し、検査結果からどんなことがわ かるのかを簡単に説明した後で、一般細菌数の推移の様子をグラフを使って説明した。汚染ゾー ンから非汚染ゾーンへの移動を伴う作業の掛け持ちが豚枝肉で菌数が上がってしまった原因であ ることを説明し、汚染拡大防止について注意するよう指導し、その対策について説明した。牛で は、剥皮担当者が交代したことによる菌数の増加を指摘し、作業従事者が担当を変わるときには 要注意であることを説明した。 S センターも汚染拡大を防ぐために、手洗いは重要であることを認識し、洗浄液が適切に充填 されるようになった。従業員も豚のレーンで汚染を広げないように、作業を掛け持ちする際には 特に手洗いや、エプロン等の洗浄・消毒に気を付けるようになった。 講習会以降、従事者不足が解消した訳ではないのにもかかわらず、豚枝肉の一般細菌数が高く なる現象は見られなくなり、一般細菌数が一番悪い時より、約 300 個/cm2 減少した。講習会の 指導内容を従業員がきちんと実行している様子が見られた。 ② 第二回目の衛生講習会 細菌数の推移を示したグラフを使って、一般細菌数が少し減ったことを説明し、第一回目で指 摘した人の作業の掛け持ちによる汚染拡大の防止を実践できていることや、手洗いを使って洗っ ていることを指摘した。しかし、従事者不足による一般細菌数の増加を完全に補うことはできて いないので、より一層、一般細菌数を減らすことを目標に取り組むよう指導した。今回は一般細 菌数のグラフだけでなく、S センターを利用している馬の業者による模範的な枝肉洗浄の様子の 動画を見せて、良い洗い方の説明をした1)。当所が他県の食肉センターへ視察に行ったときに撮 影した施設の写真や、そこの食肉センターのやり方などを説明した。S センターは高い関心を持 ったようで、自分たちで視察に行きたいと語っていた。講習会後、入念に清掃を行うようになり、 カビとりを行ったり、汚れたビニールカバーの交換を自発的に行うようになった。 4 考察 豚の枝肉の一般細菌数は減少に転じ、現在も減少した状態で維持できている。牛の枝肉は一般細菌数 300 個/cm2 以下で維持できている。当所の行った衛生講習会の内容を理解し、納得したうえで、解体 作業を行っていることがうかがえた。 適切に充填された手洗い用洗浄液は、牛と畜ラインでは減っているので、手洗い用洗浄液を利用して 手を洗っていることが確認できた。 豚と畜ラインでは、 牛と畜ラインに比べてあまり減っていなかった。 豚の方が解体速度が速く、手を洗っている余裕がないことが原因と思われる。これが豚枝肉の一般細菌 数の改善の妨げになっている要因の一つであると考えられる。また、手洗いの殺菌・消毒方法について、 正しい方法を知らないようなので、基本的な衛生指導が必要であると考えられる。人の出入りが激しい 職場なので、正しい知識が従事者に浸透するように定期的に講習会を行う必要性を感じた。検査員も、 科学的根拠に基づき、分かりやすく丁寧な指導をし、欠点を指摘するだけではなく、一般細菌数等衛生 管理に改善が見られたなら改善点も指摘し、従事者のやる気を向上させるような指導を心掛けなければ いけないと思った。グラフや動画、他の施設の様子を見せることも従業員の理解を深め、向上心を引き 出すうえで効果的であることが分かった。 S センターは、県内のと畜場の中でも比較的新しく、作業スペースも広いため、衛生管理に気を付け ながらと畜・解体すれば、一般細菌数を減らすことができる施設であり、従事者も高い技術力をもって いることが分かった。 今、S センターは様々な要因により困難な状況にあるが、より良いと畜場になろうと努力を始めてい る。このピンチを S センターの体質改善のチャンスととらえ、衛生意識の高いより良いと畜場へと生ま れ変われるよう、今後の S センターの状況を見ながら、状況に合った指導をしていきたい。 参考文献 1) 長野食肉衛生検査所 豚の処理工程における衛生対策について(2009)