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06章 シュレーディンガー方程式2
6章 Schrödinger 方程式 1.1次元領域に閉じ込められた粒子(箱型のポテンシャルを持つ系) Schrödinger 方程式の最も簡単な応用例のひとつである。細いチューブの中に質量 m の粒子が閉じ込 められていて前後(x軸方向)にしか動けない状況を考える。 L 0 x 狭くて細長い領域に電子や陽子などが閉じ込められた場合は概ねこのモデルの適用範囲である。具体的 な例として、直鎖ポリエンのπ軌道を占有する電子が挙げられる。 領域の長さを L とすると、ポテンシャル V ( x) は次式で表現できる。 ( x < 0) ⎧∞ ⋅⋅⋅ ⎪ V ( x) = ⎨ 0 ⋅⋅⋅ (0 ≤ x ≤ L) ⎪ ∞ ⋅⋅⋅ ( x > L) ⎩ (1) ポテンシャルが無限大の領域(上図では灰色の部分)へは粒子は侵入できないので波動関数はゼロである ( Φ ( x) = 0 )。つまり下図の太線の部分は決まる。点線の部分を Schrödinger 方程式で決める。 Φ ( x) 0 L x ポテンシャルがゼロの領域 (0 ≤ x ≤ L) での時間に依存しないシュレーディンガー方程式は次式である。 E Φ( x) = − h2 d 2 Φ( x) 2m dx 2 (2) この方程式は直ちに解けて、一般解は次式である(実数の範囲で解いている:複素数に拡張して解く必 要はない)。 Φ ( x) = A cos 2mE 2mE x + B sin x h h (3) 波動関数は連続でなければならないから、上図から解るように、境界条件 Φ (0) = Φ ( L) = 0 を課す。 (3)式に Φ (0) = 0 を代入すると A が決まる。 Φ(0) = A cos 0 + B sin 0 = A = 0 次に Φ ( L) = 0 を代入して、以下のように E を決める。 Φ ( L) = B sin 2mE L=0 h sin 関数の周期性を考慮すると、上式が成立するためには、次の条件が成立する。 2mE L = nπ (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) h すると、 E は n ごとに決まる。従って、記号に添字 n を付けて、 Φ n ( x) = B sin nπ x , L 2mEn h = nπ , L (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) 。 (4) n 2π 2 h 2 En = (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) (5) 2mL2 このように状態が整数 n ごとに決まるとき、「量子化されている」と表現する。また、その n を 量子数と呼ぶ。エネルギーは飛び飛びの不連続な値をとる。 前章で述べた波動関数の規格化条件を適用する。 ∫ L 0 Φ ( x)* Φ ( x)dx = 1 (6) 実際の波動関数を代入して積分すると B が決まる。 ∫ L 0 L Φ1 ( x)* Φ1 ( x)dx = B* B ∫ sin 2 0 nπ x dx L ∴B = 2 L (7) (7)(8)式において、波動関数が実数の場合は複素共役の記号*は意味がないのだが形式的に付けてある。 全波動関数は時間因子を乗じて次式となる(前章の(25)(26)式を復習せよ)。 2⎛ nπ x ⎞ − iEn t / h ⎜ sin ⎟e L⎝ L ⎠ Ψ n ( x, t ) = Φ n ( x) × e − iEn t / h = (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) (8) 波動関数とエネルギーを図示しておこう。 n = 1 n = 2 Φ 2 ( x) Φ1 ( x) L 0 x 0 L x E3 E E2 E1 0 本章の粒子(長さ L の1次元領域に閉じ込められた粒子)は、定常状態において、 E1 , E2 , E3 , ⋅⋅⋅ 以外の 値を取ることができない。これは、長さ・張力・素材を同じにしたギターの弦からは定まった音程しか 出ないのと同じ。また、 E1 > 0 なので、粒子が完全に静止した状態( E = 0 の状態)は存在することがで きない。この最小のエネルギー E1 をゼロ点エネルギーと呼ぶことがある。 (5)式から、質量 m が大きいほど、領域長 L が長いほど、飛び飛びのエネルギーの間隔は狭くなる。つ まり、日常的なサイズ・質量になると、エネルギーの不連続性は気にならないほどに小さくなる。この イメージを下図に示す。 E3 E' E E2 我々はこの辺のほぼ連続な部分で 生活している。 E1 0 原子・分子の世界 (量子論の状態) 日常的な状態 左右のエネルギースケール E と E ' は異なる。 ド・ブロイ波と(5)式の関係 上式(5)はド・ブロイ波(物質波)の式から導くことができる。ド・ブロイ波長の式を再掲する。 λ= h p (a) 両端 ( x = 0, x = L) が固定されているので、領域内の波の波長は、 λ= L , 2 L, 3 L, ⋅ ⋅ ⋅ = 2 nL (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) 2 (b) に限定される。一方、エネルギーは、 p2 E= 2m (c) であるので、(a)(b)式を(c)式に代入して λ を消去すると次式を得る。 n 2π 2 h 2 (n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) (5)と同じ 2mL2 このような簡単な系( V ( x) = 一定値、の系)ではド・ブロイ波を使って解釈することが可能である。 En = (a)式ではプランク定数 h 、(5)式では簡約プランク定数 h 、が使われているので注意せよ。 h= h 2π 粒子の存在確率密度 1次元の細長いチューブに閉じ込められた粒子は、どの様に存在(分布)するだろうか。本章の最初 に示した図を再掲する。 L 0 x 古典論的に考えると、ゼロでない運動量・運動エネルギーを持った粒子は、両端で跳ね返りながら、チ ューブの中を何度も往復する。両端が完全弾性衝突であれば(エネルギーを失わなければ) 、この往復運 動が永久に続く。このとき、粒子の存在確率密度 ρ ( x) を考えると下図のように一定値となる。 ρ ( x) L 0 x さて、量子論の場合の存在確率密度は、5章(19)式で示すように ρ ( x, t ) ≡ Ψ ( x, t ) Ψ ( x, t ) である。時間 * に依存しない波動関数では ρ ( x) = Φ ( x) Φ ( x) となる。量子数 n の状態の存在確率密度 ρ n ( x) は次式。 * 2 ⎛ π nx ⎞ ρ n ( x) = Φ n ( x) Φ n ( x) = ⎜ sin ⎟ L⎝ L ⎠ 2 * L = 1 の図を示す。 ρ1 ( x) 2 ρ 2 ( x) 2 (9) ρ3 ( x) 2 ρ1 ( x) では粒子の存在する確率は中央に集まっている。ρ 2 ( x) では粒子が中央に居る確率は減り、左右の どちらかに居る確率が増加する。 因みに、 n = 20 を下図に示しておく。 n が大きくなると、チューブの端も真ん中も違いがなくなり、古 典論の ρ ( x) に近ずくことが解る。 2 期待値 1次元の細長いチューブに閉じ込められた粒子は、「平均すると、どの位置に存在するか」、を考えて みよう。細長いチューブが透明で中の粒子が見えるとして、何度も何度もチューブの中の粒子の写真を 撮って、粒子が写った位置の座標を平均すればよい。量子論では、写真を撮って位置を調べる作業は、 位置座標 x を波動関数 Φ ( x) に掛ける事 x Φ ( x) に対応し、平均をとる作業は、複素共役な波動関数 Φ ( x)* を掛けて積分する事に対応する。従って、位置座標 x の平均値 < x > を計算する式は次式となる。 <x> = L ∫ Φ ( x)* x Φ ( x) dx 0 (10) n = 1 で実際に計算してみよう。(4)と(7)式を使う。 ∫ < x > n =1 = L 0 2 L ⎛ πx⎞ x ⎜ sin ⎟ dx L ∫0 ⎝ L ⎠ 2 Φ1 ( x)* x Φ1 ( x) dx = 積分計算を進めると、 L < x > n =1 2 ⎡ x πx πx L ⎛ πx⎞ x2 ⎤ L sin = ⎢ − cos + 2 ⎜ sin + ⎥ = 。 ⎟ L L 2π ⎝ L ⎠ 2 L ⎥⎦ 2 ⎢⎣ π 0 (11) 結果は、 < x > = L / 2 、つまりチューブの中央、となる。すごく自然で、当然な結果である。 一般に、演算子 ô を Φ ( x) と Φ ( x) で挟んで積分した形は演算子 ô の期待値と呼ぶ。 * < oˆ > = L ∫ 0 Φ ( x)* oˆ Φ ( x) dx (12) 位置の演算子は位置座標 x そのものである。つまり ô = x 。演算子であることを強調するために ^ を 付けることがある。 次に、運動量 p の期待値を計算してみよう。運動量の演算子は、前章の(15)式で与える。 pˆ = ih d dx 波動関数の変数は x のみ故、偏微分 ∂x は全微分 dx に置き換えた。 期待値は次式となる。 < pˆ > = ∫ L 0 Φ( x)* pˆ Φ( x) dx = ∫ L 0 ⎛ d ⎞ Φ ( x)* ⎜ ih ⎟ Φ( x) dx ⎝ dx ⎠ (13) n = 1 で実際に計算してみよう。 < pˆ > n =1 = ∫ = i L 0 2 L πx ∂ πx ⎛ ∂ ⎞ dx Φ1 ( x)* ⎜ ih ⎟ Φ1 ( x) dx = ih ∫ sin ⋅ sin L 0 L ∂x L ⎝ ∂x ⎠ 2π h L π x πx ⋅ cos sin dx = 0 2 ∫0 L L L (14) 直上の式は、 x = 0 ~ L において、被積分関数の+の部分と-の部分が同じ形なので、計算しなくてもゼ ロだと解る。 < pˆ > = 0 となる意味は、粒子が右方向へも左方向へも運動しており、平均すればゼロ、と いうことである。5章の問題(b)と対応している。 2.確認事項 物質(粒子)の運動を波動関数で表現するために幾つかの取り決めがある。前節迄で述べたことから、 今後に必要となるであろう事項を以下に改めて纏めておく。 ★波動関数に関して (a) 量子論では力学系の運動状態は波動関数 Ψ (r, t ) で指定される。 (b) 位置 r に粒子が存在する確率の密度は ρ (r , t ) ≡ Ψ (r, t ) Ψ (r, t ) である。 * 領域 V に粒子が存在する確率 P は次式となる。 P = ∫ ρ (r, t )dr V (c) 波動関数は規格化されている(粒子を全空間のどこかで見出す確率は1)。 ∫ Ψ (r, t ) Ψ (r, t )dr = ∫ ρ (r, t )dr = 1 * 但し、粒子が存在できる全領域で積分する。 (d) 波動関数は運動状態を表現するので、有限、一価、連続、でなければならない。 Ψ Ψ ∞ Ψ x 無限× x x 多価× 不連続× ★演算子 (e) 波動関数から何らかの情報を取り出す作業(「観測」と呼んでおこう)は波動関数に 演算子を作用させることで表現する。演算子であることを強調するために^を付す。 運動量の演算子と全エネルギーの演算子は前章で導入した。 pˆ x = h ∂ 、 i ∂x Ê = ih ∂ ∂t 3次元の運動量の演算子は次式となる。 pˆ = ( pˆ x , pˆ y , pˆ z ) = h⎛ ∂ , ⎜ i ⎝ ∂x ∂ , ∂y ∂ ⎞ ⎟ ∂z ⎠ 位置の演算子は波動関数に r を掛けるだけである。 rˆ = r = ( x, y, z ) これらを組み合わせると種々の観測(物理量)の演算子ができる。 運動エネルギーの演算子: pˆ 2 h2 2 Tˆ = =− ∇ 2m 2m 角運動量の演算子: Lˆ = rˆ × pˆ = ( ypˆ z − zpˆ y , zpˆ x − xpˆ z , zpˆ x − xpˆ z ) (f) 観測(演算子 Â )に対して次式(固有値方程式)が成立するなら、状態 Ψ (r, t ) を観測すると 観測値 a が確定していると考える。 Aˆ Ψ (r, t ) = aΨ (r, t ) (g) 上記(f)の固有値方程式が成立しない場合、観測(演算子 Â )に対する観測値は確定しない。 つまり、観測するたびに異なる観測値を得る。但し、観測値の平均値を知ることはできる。 観測 A^の平均値<a>は次式となる。但し、 Ψ (r, t ) は規格化されており、積分は全空間で 行うものとする。 <a> = ∫ Ψ (r, t ) * Aˆ Ψ (r, t )dr ★時間に依存しない Schrödinger 方程式 ポテンシャル V (r ) が時間に依存しないとき、波動関数は Ψ (r, t ) = Φ (r ) ⋅ Ω(t ) のように変数分離 できて、以下の2つの方程式が成立する。最初の方程式を「時間に依存しないシュレーディンガ ー方程式」とよぶ。 ⎡ h2 2 ⎤ ∇ + V (r ) ⎥ Φ (r ) = E Φ (r ) ⎢− ⎣ 2me ⎦ ih ∂ Ω(t ) = EΩ(t ) ∂t → ⎡ Et ⎤ Ω(t ) = exp ⎢ ⎥ ⎣ ih ⎦ 多くの場合、時間に依存しないシュレーディンガー方程式とその解 Φ (r ) だけを扱い、時間依存部分 Ω(t ) は暗黙に存在していると仮定する(次章以降では特に必要でない場合は書かない)。 6章設問 (a) 長さ L の1次元領域に閉じ込められた質量 m の粒子の波動関数は本章(8)式にある。この波動関数 にエネルギー演算子 Ê を作用させて、 Eˆ Φ ( x) = eΦ ( x) の形式を持つ固有値方程式になっているこ とを示せ。但し、エネルギー演算子 Ê は、2節(e)に記載してある。 (b) 2節(e)に記載してある運動エネルギー演算子は、1次元の場合は次式となる。 2 1 ⎛ d ⎞ pˆ 2 h2 d 2 Tˆ = = i = − h ⎜ ⎟ 2m 2m ⎝ dx ⎠ 2m dx 2 これを波動関数(4)式、(8)式のどちらに作用させても固有値方程式を得ることを示せ。 (c) 本章(4)式の Φ n ( x) において、 Φ1 ( x) と Φ 2 ( x) が次式を満たすことを示せ。 ∫ L 0 Φ1 ( x)* Φ 2 ( x)dx = 0 このような関係が成立するとき「 Φ1 ( x) と Φ 2 ( x) は直交している」と表現する。 (d) 本章(4)式の Φ1 ( x) と Φ 2 ( x) の状態について、粒子が中央付近に存在する確率を計算せよ。 「中央付近」とは以下の領域であるとせよ。 1 2 L≤x≤ L 3 3 Φ1 ( x) の場合、粒子がこの領域に存在する確率は次式の積分値である。 P1 = ∫ 2L /3 L/3 Φ1 ( x)* Φ1 ( x)dx (e) 本章(4)式の Φ1 ( x) について考える。 (i) 位置の平均値 < x > =L/2 からの分散 σ x を計算せよ。分散 σ x は次式である。 2 2 σ x2 =< x 2 > − < x > 2 つまり < x > を計算すればよい。但し、以下の結果を使ってよい。 2 x3 ⎡ x 2 1 ⎤ x cos 2α x x (sin x ) dx sin 2α x − α = − − ⎢ 3⎥ ∫ 6 ⎣ 4α 8α ⎦ 4α 2 2 2 (ii) 運動量の分散 σ p =< pˆ > − < pˆ > を計算せよ。 < pˆ >= 0 である。上問(b)の結果と、 2 2 2 (6)(7)式を使えば容易に計算できる。 (iii) 不確定性原理の式が成立していることを示せ。不確定性原理の式は次式である。 σ xσ p > h 2