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有機撮像デバイスの研究動向

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有機撮像デバイスの研究動向
解 説
有機撮像デバイスの研究動向
相原
聡
久保田節
■
当所では,次世代の超小型・高画質カラーカメラを実現するために,光の3原色それぞ
れの色だけに感度を持つ有機光電変換膜と可視光を透過する電荷読み出し回路とを交互
に積層した新たな単板カラー撮像デバイス「有機撮像デバイス」の研究開発を進めてい
る。この単板カラー撮像デバイスでは,光の進行方向に沿って色を分離するので,色分
解プリズムを用いた3板式と原理的に同等の画質を持つカラー撮像を実現することがで
きる。ここでは,有機撮像デバイスの概念について述べた後,有機光電変換膜の諸特性
やデバイスの開発状況などを紹介する。
1.まえがき
現在,放送に用いられているほとんどのカメラには,高画質なカラー映像を得るため
に色分解プリズムと3つの撮像デバイスを用いる3板式カラー撮像方式が採用されてい
る。多様化が進む番組制作に求められる機動性を実現するためには放送用カメラの小
型・軽量化が強く望まれるが,3板式のカメラでは小型・軽量化が難しいという問題が
ある。この問題を解決する方法として,色分解プリズムが不要な単板カラー撮像デバイ
スの適用が考えられる。しかし,現状では3板式と比較して画質が劣っているので,高
画質が求められる放送用カメラへの採用はあまり進んでいない。
当所では,上記の問題を抜本的に解決するために,デバイスの深さ方向,すなわち,
光の進行方向に沿って光を3原色に分離し,分離した3原色のそれぞれに対応した光生
成電荷を独立に取り出すことのできる新たな単板カラー撮像デバイス「有機撮像デバイ
ス」の研究開発に取り組んでいる。有機撮像デバイスでは,入射した光の全てを利用し
てカラー映像信号を生成することができるので,3板式と同等な画質を持つ理想的な単
板カラー撮像デバイスを実現することができる。
本稿では,現在のカラー撮像方式の課題と有機撮像デバイスの動作原理について述べ
た後,原理を検証するために試作した有機光電変換膜の諸特性や,それを積層した有機
撮像デバイスの開発状況などを紹介する。
2.現在のカラー撮像方式
現在のカメラに採用されているカラー撮像方式を1図に示す。3つの撮像デバイスで
カラー情報を得る3板式と,1つの撮像デバイスでカラー情報を得る単板式とがある。
主に業務用カメラに採用されている3板式では,光学レンズを通して入射した光を色分
解プリズムで光の3原色(青色(B)
,緑色(G)
・赤色(R)
)に分離した後,3つの撮像
4
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
R
G
光
赤
(R)
用撮像デバイス
R
色分解プリズム
G
G
B
G
B
R
G
R
G
R
G
B
G
B
拡大図
光
G
カラーフィルター
B
緑
(G)
用撮像デバイス
青
(B)用撮像デバイス
光
撮像デバイス
(a)3板式 (b)単板式
1図 現在のカラー撮像方式
光
出力信号(B)
B
G
R
出力信号(G)
出力信号(R)
n
p
n
p
−
−
− 電子
Si基板
2図 Siフォトダイオードを積層した単板カラー撮像デバイスの1画素の模式図
デバイスでそれぞれの光を電気信号に変換する(1図(a)
)
。3板式は,感度や解像度,
色再現性に優れているが,色分解プリズムと3つの撮像デバイスが必要であり,カメラ
の小型・軽量化には限界がある。一方,民生用のビデオカメラやデジタルカメラには,
表面に光の3原色に対応したカラーフィルターをモザイク状に配置した撮像デバイスを
1つ用いる単板式のカラー撮像方式(1図(b)
)が主に採用されている。単板式では,
色分解プリズムが不要で撮像デバイスも1つでよいので,カメラの小型・軽量化が可能
である。しかし,撮像デバイスの平面上にカラーフィルターをモザイク状に配置してい
るので,3板式と比較して入射光の利用効率や解像度などが原理的に劣るという問題が
ある。
このように,現状の3板式と単板式には一長一短があるが,撮像デバイスの深さ方向,
すなわち,光の進行方向に沿って光を3原色に分離するための層を3つ設け,それぞれ
*1
光を吸収して電流を出力する光
検出器。
の層から3原色の各光量に対応する電荷を独立に取り出すことができれば,原理的に
は3板式と同等な画質を有する単板式のカラー撮像を実現することができる。
この考えに基づいた撮像デバイスとして,既に,フォトダイオード*1をシリコン(Si)
基板の深さ方向に積層した単板カラー撮像デバイスが提案されている1)。このデバイス
は,Si基板に入射した光は波長の長い光ほど基板の奥深くまで進入するという現象を利用
している。このデバイスの1画素の断面構造を2図に示す。Si基板の深さ方向にpn接合
層*2から成るフォトダイオードが3層形成されている。白色光が入射すると,波長の短
*2
p 型半導体(正孔が電気伝導に
寄与する半導体)と n 型半導体
(電子が電気伝導に寄与する半導
体)が接合した層。半導体デバ
イスの基本的な構造で,整流性
(一方向にしか電流を流さない性
質)や光電流,光起電力,発光
などが得られる。
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5
B用有機膜
G用有機膜
R用有機膜
B
光
G
R
信号読み出し用の光透過型回路
3図 有機撮像デバイスの構造概念図
いB光は基板表面の1層目のフォトダイオードで,B光より波長の長いG光は2層目の
フォトダイオードで,G光より更に波長の長いR光は3層目のフォトダイオードで吸収さ
れる。各フォトダイオードでは吸収された光の量に応じた電荷が生成され,これらを独
立に取り出すことでカラー情報を得る。しかし,このデバイスでは,光電変換材料とし
て用いているSiが可視域全域にわたって光を吸収するので,B光用のフォトダイオードで
もG光やR光の一部が吸収されるなど,各フォトダイオードの分光特性はプリズムやカ
ラーフィルターの分光特性よりも広がりを持つ。そのため,この方式では3板式に匹敵
する色再現性や光の利用効率を得ることが難しい。
3.有機撮像デバイスの構造と動作原理
*3
炭素を基本骨格とする化合物。
有機材料*3の多くは特定の波長域の光だけを選択的に吸収する性質を持つので,光の
3原色を正確に選択する有機光電変換膜(以下,有機膜と呼ぶ)を積層すれば,3板式
と同等の画質を持つ単板カラー撮像デバイスを実現することができる。3図に有機撮像
デバイスの構造と動作原理を示す。有機撮像デバイスは3枚の有機膜とそれぞれの有機
膜で発生した電荷を読み出す光透過型の回路とを交互に積層したものである。光が入射
するとB光はそれに感度を持つ有機膜(B用有機膜)で吸収され,吸収された光の量に対
応した電子−正孔対が生成される。この電子−正孔対は電界によって電荷(電子と正孔)
に分離され,これらの電荷が光透過型回路を通して外部に読み出される。G光とR光はB
用有機膜を透過し,G光に感度を持つ有機膜(G用有機膜)に到達し,G用有機膜におい
てG光だけが吸収され,それに対応した電子−正孔対が生成される。同様に,R光はG
用有機膜を透過し,R光に感度を持つ有機膜(R用有機膜)で吸収され,それに対応した
電子−正孔対が生成される。このように,入射光は各有機膜で光の3原色に分離される
とともに電荷に変換され,外部に出力される。有機撮像デバイスでは,入射した光をデ
バイスの深さ方向で正確に3原色に分離することができるので,カラーフィルターを用
いた単板式と比較して光の利用効率が格段に高い。また,Siを用いたフォトダイオード積
層型単板撮像デバイスと比較しても感度や色再現性が優れている。
4.有機膜の諸特性
有機材料の多くは特定の波長域の光だけを吸収する性質を持つので,有機材料を光電
6
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C6
R6G
ZnPc
光電流(規格化)
1
0
400
500
600
700
波長(nm)
4図 有機膜の分光感度特性の一例
100
光透過率(%)
80
60
40
ZnPc
20
C6
0
400
R6G
500
600
700
波長(nm)
5図 有機膜の光透過率の一例
変換部に用いることにした。ただし,デバイス化に際しては,①各有機膜は光の3原色
のうち,1つの光だけを選択的に吸収して電荷を発生し,吸収しない色の光を全て透過
すること,②感度(量子効率*4)の高い有機膜であること,③膜を画素ごとに区切らな
*4
照射した光子1個に対して出力
される電子の数。
くても高い解像度が得られることを考慮した。
4.1 分光感度と光透過率
光の3原色のうち,1色だけを吸収して電荷を発生する有機膜の色は,膜が吸収する
色の補色になる。そこで,成膜後の膜の色がB,G,Rの補色となるイエロー(黄色)
,マ
ゼンタ(赤紫)
,シアン(水色)の有機材料を探索した。この条件を満たす材料の一例と
して,B用にクマリン6(C6)
,G用にローダミン6G(R6G)
,R用に亜鉛フタロシア
ニン(ZnPc)を選択し,これらの材料を透明電極とアルミニウム電極で挟んだ実験用セ
ルを試作して分光感度特性2)と光の透過率とを調べた。各セルの分光感度特性を4図に,
光透過率を5図に示す。4図から,各セルでは3原色の光のいずれかにほぼ対応した光
生成電荷が得られることが分かった。また,5図から,C6膜ではB領域の光が吸収され
るが,GやR領域の光は90%以上透過すること,R6G膜ではG領域の光が吸収されるが,
R領域の光は90%以上透過すること,ZnPc膜ではR領域の光が吸収されることが分かっ
た。
R6GおよびZnPc膜ではB領域での光の透過率が低く,必ずしも上述した要件①を満た
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6図
有機膜を組み込んだ撮像管による撮像例
してはいないが,選択した有機材料を適切な順序で積層することで,デバイスの深さ方
向で光を3原色に分離し,電荷に変換できることが確認できた。
4.2 量子効率
有機膜では光吸収に伴う電子−正孔対の生成効率が非常に高い。そのため,発生した
電子−正孔対を効率よく電子と正孔に分離して外部に取り出すことができれば高い量子
効率を得ることができる。しかし,有機材料の多くは電子−正孔対の結合エネルギー*5
*5
電子と正孔が互いに引き合う力
によって発生するエネルギー。
が大きいので,容易に分離できないという問題がある。この問題は,近年,開発が活発
に進められている有機太陽電池においても高効率化を阻む1つの大きな要因となってい
る。しかし,有機太陽電池の分野では電子を吸引する能力の高い材料(電子吸引性材料)
と光電変換材料とを分子レベルで接触させると,その接触界面で電子−正孔対を容易に
分離できることが知られている3)。この現象は有機撮像デバイスに用いる光電変換膜の量
子効率の改善にも有効であると考え,B光に感度を持つ有機材料の1つであるクマリン30
*6
数十個の炭素原子が球状に結合
した物質。
(C30)に,代表的な電子吸引性材料であるフラーレン*6を添加した膜を試作して量子効
率の改善効果を調べた。その結果,フラーレンを10%添加したC30膜の量子効率は,C30
単体の膜の量子効率より6倍以上大きいことが分かった4)。すなわち,機能の異なる有機
材料を適切に組み合わせることで,要件②を満たす高い量子効率の有機膜が得られるこ
とが分かった。
なお,量子効率の改善の詳細については,本特集号の報告「青色光に感度を持つ有機
光電変換膜の量子効率改善」を参照していただきたい。
4.3 解像度
要件③を検証するために,G光に感度を持つ有機材料の1つであるジメチルキナクリド
ンを光電変換膜として用いたハイビジョン用撮像管を試作し,解像度を調べた。撮像管
では光生成電荷は最大1/60秒間,有機膜内に蓄積される。有機膜は画素ごとに分離され
ていないので,膜自身の解像度が十分でない場合には蓄積された電荷が膜の横方向に拡
散して解像度が低下する。撮像実験の結果,6図に示すように,良好な解像度を持つ画
像が得られた。このことは,有機膜を画素ごとに区切らなくても,ハイビジョンに対応
する高い解像度が得られること5),すなわち,要件③を満たすことを示している。
5.有機撮像デバイスの開発状況
*7
非晶質構造のシリコン。大面積
デバイスへ応用しやすい。
*8
多数の結晶粒から成るシリコン。
電子の移動速度がa­Siと比較し
て格段に速い。
8
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現在,有機膜を積層した単板カラー撮像デバイスの試作に取り組んでいる6)7)。有機膜
からの電荷読み出し回路には,透明基板上に形成可能な薄膜トランジスター(TFT:
Thin Film Transistor)回路が適している。現在,液晶ディスプレイ用のTFTとしてア
*7やポリシリコン(poly­Si)
*8が広く利用されているが,
モルファスシリコン(a­Si)
a­Siやpoly­Siは可視光に感度がある。従って,単板カラー撮像デバイスに適用する場合
光
光透過型TFT回路アレイ
+有機膜
約1.4mm
ガラス基板
(厚さ0.7mm)
7図 これまでの積層構造
にはトランジスター部を遮光しなければならず,光の利用効率が低下するという問題が
ある。そこで,可視域に感度のない酸化物半導体に着目した。代表的な酸化物半導体と
しては,酸化亜鉛(ZnO)やインジウム・ガリウム・亜鉛複合酸化物(IGZO)などがあ
る。いずれのバンドギャップ*9も可視光の最大エネルギー3.0eVより大きく,可視光に
*9
半導体における価電子帯(電子
が占有しているエネルギー準位
の帯)の上端と伝導帯(電子が
空のエネルギー準位の帯)の下
端とのエネルギー差。半導体は
バンドギャップを超えるエネル
ギーの光しか吸収することがで
きない。
感度がなく,遮光部を作る必要がない。すなわち,酸化物半導体で遮光部のないTFT
回路を作ることができる。
これまでに単板カラー撮像の原理を検証するために,3枚のガラス基板の上にそれぞ
れZnOを用いた電荷読み出し用TFT回路と,B用,G用,R用のいずれか1つの有機膜を
形成した3種類の素子を作製し,これらの素子を光の入射側からB用,G用,R用の順に
積層した撮像デバイス(画素数128 96,画素ピッチ100μm)を試作した7)。撮像実験の
結果,カラーの動画像を得ることができ,有機撮像デバイスが単板カラー撮像デバイス
として機能することが確認できた。その詳細については,本特集号の報告「128 96画素
RGB積層有機撮像デバイスの試作」を参照していただきたい。
ここでは,7図に示すように,光の3原色に対応した有機膜を個別にガラス基板上に
形成し,3種類の素子を重ねて撮像デバイスを構成した。この構成では,3層の中央に
位置するG用有機膜に光学像をフォーカスさせると,B用およびR用有機膜では光学像が
ぼけ,出力画像の解像度が劣化するという問題がある。光学像のフォーカスが外れてい
てもぼけとして認識されないフォーカス面の前後の間隔,すなわち,焦点深度 ΔX は
(1)
式で表すことができる。
(1)
ここで,F はレンズの絞り値,δ はデバイスで許容できる光学像の広がり(許容錯乱円の
直径)である。
試作した撮像デバイスで,許容錯乱円の直径を画素ピッチ(100 μm)と等しいと仮定す
ると,レンズの絞り値 F =2.0で焦点深度 ΔX は±200 μmとなる。このことは,G用有機膜
に光学像をフォーカスさせたときにB光およびR光の出力画像でぼけが生じないようにす
るためには,B用またはR用有機膜とG用有機膜との間隔をそれぞれ200 μm以下にする必
要があることを意味している。しかし,現状では厚さ700 μm(0.7mm)のガラス基板上に
各有機膜を形成しているので,ぼけが生じている。このぼけは光学レンズの絞りを開く
ほど顕著になる。現在の放送用ハイビジョンハンディーカメラで用いられている2/3型撮
像デバイス*10の画素ピッチ(5μm)まで画素の微細・高集積化を進めた際には,B用また
*10
有効撮像領域の対角長が約11
mmの撮像デバイス。
はR用有機膜とG用有機膜との間隔を10 μm以下にする必要があり,3枚のガラス基板に
個別に有機膜を形成して積層する手法では,出力画像のぼけを抑制することができない。
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9
有機光電変換膜(1µm以下)
光
10µm
ガラス基板
光透過型TFT
回路アレイ
(1µm以下)
拡大
層間絶縁膜(1∼2µm)
8図 直接積層構造
(a)金属配線のTFT回路
(b)透明なTFT回路
9図 金属配線のTFT回路と透明なTFT回路を形成したガラスウエハーの外観
そこで,1枚のガラス基板上に,層間絶縁膜を挟んでB用,G用,R用の有機膜を近接
。有機膜および光
して配置した直接積層型有機撮像デバイスの開発に着手した8)(8図)
透過型TFT回路の厚さはどちらも1μm以下であり,層間絶縁膜の厚さを1∼2μmとす
ることで,表面側の有機膜から最深部の有機膜までの間隔を約10μmにすることができ
る。すなわち,直接積層することでハイビジョンハンディーカメラに適用可能なデバイ
スを実現することができる。直接積層型有機撮像デバイスを開発するためには,8図に
示すように,下層の有機膜上に層間絶縁膜やTFT回路アレイを作製しなければならない。
しかし,有機材料の耐熱性は一般的に低く,層間絶縁膜やTFT回路の作製温度(300℃
以上)は高いので,現状の工程ではデバイスを作製することができない。そこで,当所
では,有機材料の耐熱性を考慮し,150℃以下の温度でデバイスを作製するための要素技
術の開発を進めている。
また,原理を検証するための実験では,金属配線を用いたTFT回路を使用していたの
で,デバイスの光透過率が低い(約52%)という問題があった。そこで,回路の配線材
料を金属から透明なインジウム・スズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)に代えたTFT
回路とR用有機膜を組み合わせた単層撮像デバイスを新たに試作した9)。9図(a)に金
属配線でTFT回路を形成したガラスウエハーの外観を,9図(b)に透明なTFT回路を
形成したガラスウエハーの外観を示す。配線を透明にしたことで,TFT回路の光透過率
を80%まで改善することができ,デバイスの光利用効率を大幅に高めることができた。
また,全透明TFT回路には,画素を微細化した際にも安定した動作が期待できる酸化物
半導体のIGZOを適用し,画素ピッチを従来の1/2の50 μmまで微細化することができた。
6.あとがき
色分解プリズムを用いた3板式と同等な画質が期待できる新たな単板カラー撮像デバ
イス「有機撮像デバイス」の研究開発の概要を紹介した。
10
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
有機撮像デバイスはB光,G光,R光のそれぞれの光だけに感度を持つ有機膜と,それ
らの有機膜から独立に電荷を読み出すTFT回路とを交互に積層したものである。これま
でに原理の検証をほぼ完了し,現在,その高精細化に向けて,画素の微細・高集積化を
可能とする要素技術の開発に取り組んでいる。
3板式と同等な画質を持つ単板カラー撮像デバイスが実現できれば,放送用カメラの
小型化はもとより,家庭用ビデオカメラやデジタルカメラの高性能化にもつながる。有
機単板カラー撮像デバイスの早期の実用化に向けて,研究開発を更に加速していく予定
である。
なお,本稿で述べた有機光電変換膜の研究は埼玉大学と,また,電荷読み出し用TFT
回路の研究は高知工科大学との連携で進めた。
参考文献
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あいはら
さとし
相原 聡
6)S. Aihara, H. Seo, M. Namba, T. Watabe, H. Ohtake, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T.
2001年入局。同年より放送技
術研究所において有機光電変
換材料を適用した撮像デバイ
スの研究に従事。現在,放送
技術研究所撮像・記録デバイ
ス 研 究 部 専 任 研 究 員。博 士
(学術)
。
Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:
“Stacked Image Sensor with Green­ and Red­
Sensitive Organic Photoconductive Films Applying Zinc­Oxide Thin Film Transistors to a
Signal Readout Circuit,”IEEE Trans. Electron Devices, Vol.56, No.11, pp.2570­2576
(2009)
7)H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, T. Sakai, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T.
Matsuda, M. Furuta, H. Nitta and T. Hirao:“A 128 x 96 Pixel Stack­Type Color Image
Sensor:Stack of Individual Blue­, Green­, and Red­Sensitive Organic Photoconductive
Films Integrated with a ZnO Thin Film Transistor Readout Circuit,”Jpn. J. Appl. Phys.,
Vol.50, No.2, pp.024103.1­024103.6(2011)
8)H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, T. Sakai, M. Kubota, N. Egami, T. Hiramatsu, T.
Matsuda, M. Furuta and T. Hirao:
“A 128 x 96 Pixel Stack­Type Color Image Sensor with
B­, G­, R­sensitive Organic Photoconductive Films,”Proc. 2011 International Image
く
9)T. Sakai, H. Seo, S. Aihara, M. Kubota, N. Egami, D. Wang and M. Furuta:“A 128 x 96
Pixel, 50μm Pixel Pitch Transparent Readout Circuit Using Amorphous In­Ga­Zn­O Thin
Film Transistor Array with Indium­Tin Oxide Electrodes for an Organic Image Sensor,”
Jpn. J. Appl. Phys., Vol.51, No.1, pp.010202.1­010202.3(2012)
ぼ
た
久保田
Sensor Workshop(IISW2011)R33, pp.236­239(2011)
みさお
節
1983年入局。福井放送局,放
送技術研究所,大阪放送局を
経て,2003年から放送技術研
究所において増倍型光電変換
膜の研究に従事。現在,放送
技術研究所撮像・記録デバイ
ス研究部主任研究員。
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
11
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