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128 96画素RGB積層有機撮像 デバイスの試作

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128 96画素RGB積層有機撮像 デバイスの試作
報告
128 96画素RGB積層有機撮像
デバイスの試作
堺
俊克
瀬尾北斗
相原
聡
渡部俊久
大竹
浩
久保田節
江上典文
Fabrication of a 128 × 96 Pixel RGB Stack−type Organic
Image Sensor
Toshikatsu SAKAI, Hokuto SEO, Satoshi AIHARA, Toshihisa WATABE, Hiroshi OHTAKE, Misao KUBOTA and
Norifumi EGAMI
要約
有機撮像デバイスでカラー撮像が可能なことを検証するために,まず,青色光,緑色光,赤色光
のそれぞれの色だけに感度を持つ有機膜を3種類作製した。次に,それらの有機膜と有機膜から
信号を読み出す酸化亜鉛薄膜トランジスター回路とを組み合わせた撮像素子を個別に作製し,こ
れらの素子を積層した画素数128
96,画素ピッチ100μmの原理検証用の有機撮像デバイスを
試作した。撮像実験の結果,試作したデバイスでは,被写体の色を再現するフルカラー映像が得
られ,光の3原色それぞれの色だけに感度を持つ有機膜を積層することでカラー撮像が可能であ
ることを初めて確認した。
ABSTRACT
32
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
With the aim of developing a compact and high­resolution single­plate color camera, a new­type
of image sensor overlaid with three organic photoconductive films, each of which are sensitive to
only one of the primary color components, was studied. To verify the color imaging in the vertically
stacked structure of organic photoconductive films, we fabricated a vertically stacked image
sensor with blue­, green­, and red­sensitive organic photoconductive films; each films had a thin
­film transistor array in which zinc oxide channels were used to read out the signal generated in
each organic film. The stacked image sensor produced a color image corresponding to the color
of the object and that result clearly demonstrated the feasibility of a stack­type organic color
image sensor.
B用素子
G用素子
外部回路へ
R用素子
ITO対向電極
Al対向電極
B
白色光 G
R
信号出力線
ZnO TFT
ゲート電極
ソース電極
B用有機膜
ZnO
G用有機膜
ドレイン電極
R用有機膜
絶縁層
ガラス基板
入射光
画素分離電極(ITO)
ZnO TFT回路
対向電極(ITOまたはAl)
1図 試作した原理検証用の有機撮像デバイスの断面構造
ガラス基板
光電変換層
1.まえがき
バッファー層
有機膜
当所では,次世代の超小型・高画質カラーカメラの実現
を目指して,光の3原色それぞれの色だけに感度を持つ
2図 各色用撮像素子の1画素の断面構造図
3種類の有機光電変換膜(以下,有機膜と呼ぶ)と各有
機膜で生成された電荷を読み出すための透明な回路とを交
ム・スズ酸化物)対向電極を,R用有機膜の上には不透明
互に積層した有機撮像デバイスの開発を進めている。
なアルミニウム(Al)対向電極を形成して,青色用撮像
この有機撮像デバイスの開発に関しては,これまでに,
素子(B用素子)
,緑色用撮像素子(G用素子)
,赤色用撮
適切な有機材料を選択することで,光の3原色のうちの
像素子(R用素子)を作製した。次に,3種類の素子を光
いずれか1色だけを吸収して電荷を発生させ,吸収しな
が入射する側からB用,G用,R用の順に積層して,原理
1)2)
い光を透過させる有機膜が得られること
や,有機膜で
は画素を分離することなく高い解像度が得られることなど
3)
を実証している 。
検証用の有機撮像デバイスとした。
試作したデバイスでは,白色光が入射すると,B用素子
内の有機膜で青色光だけが選択的に吸収され,吸収された
そこで,今回,有機撮像デバイスでカラー撮像が可能な
光の量に応じて電子−正孔対が生成される。この電子−正
ことを検証するために,光の3原色に感度を持つ有機膜
孔対は膜内に印加された電界によって電子と正孔に分離さ
と酸化亜鉛薄膜トランジスター(ZnO TFT:ZnO Thin
れ,画素ごとに配置されたZnO TFTによって外部に読み
Film Transistor)回路とを組み合わせた画素数128
出される。また,B用素子に入射した緑色光と赤色光はB
96,
画素ピッチ100 μmの原理検証用の有機撮像デバイスを試
用素子を透過し,次のG用素子に到達する。G用素子で緑
作した。
色光だけが吸収され,吸収された光の量に応じて電子−正
本稿では,原理検証用の有機撮像デバイスの構成と動作
孔対が生成される。同様に,赤色光はG用素子を透過し,
原理,主要な構成要素の特性について述べた後,試作デバ
R用素子で赤色光に対応した電子−正孔対が生成される。
イスを用いて行った原理検証実験の結果について報告す
最終的に,デバイスに入射した白色光は,各素子で光の3
る。
原色に分離され,それぞれ電荷に変換された後,映像信号
として外部に出力される。
2.原理検証用の有機撮像デバイスの構成
原理検証用の有機撮像デバイスを構成する撮像素子の1
試作した原理検証用の有機撮像デバイスの断面構造を
画素分の断面構造を2図に示す。各素子の1画素は,画
1図に示す。3枚のガラス基板の上に有機膜で生成され
素ごとに絶縁分離された電極(画素分離電極)と対向電極
た電荷を読み出すためのZnO TFT回路をそれぞれ形成し
の間に光の3原色のうちのいずれか1色だけに感度を持
た後,青色光に感度を持つ有機膜(B用有機膜)
,緑色光
つ有機膜を挟んでいる。また,画素内にZnO TFTを1つ
に感度を持つ有機膜(G用有機膜)および赤色光に感度を
持っている。画素分離電極は透明なITOで,対向電極は
持つ有機膜(R用有機膜)を個別に成膜し,B用とG用有
ITOまたはAlで形成されている。なお,ZnO TFTはゲー
機膜の上には透明なITO(Indium Tin Oxide:インジウ
ト電極がTFTの最下部に位置するボトムゲート型で,ド
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
33
報告
1表 試作した素子の構成
素子の種類
素子の構成(括弧内は膜厚)
B用
ガラス / ZnO TFT / フラーレン添加C30(150nm)/ Alq3(20nm)/ NTCDA(900nm)/ ITO(40nm)
G用
ガラス / ZnO TFT / NN ­QA(100nm)/ Py­PTC(100nm)/ NTCDA(900nm)/ ITO(40nm)
R用
ガラス / ZnO TFT / ZnPc(100nm)/TiOPc(100nm)/ Alq3(30nm)/ Al(40nm)
ゲート幅(60μm)
1画素領域
画素分離電極(ITO)
(78μm×68μm)
ゲート長
(12μm)
ZnO TFT
100μm
3図 ZnO TFT回路の顕微鏡写真
レイン電極は画素分離電極に,ソース電極は信号出力線に
度を持つ亜鉛フタロシアニン(ZnPc)
(ドナー)に,チタ
それぞれ接続されている。対向電極には信号出力線よりも
ニルフタロシアニン(TiOPc)
(アクセプター)を接合し
高い電圧が印加され,これにより有機膜内に電界が形成さ
たものを用いた。全ての有機膜にバッファー層を挿入した
れる。入射光によって有機膜内に生成された電子−正孔対
が,B用とG用有機膜ではその機能を強化するためにナフ
はこの電界によって分離され,電子は対向電極側に,正孔
タレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)を使用した。
は画素分離電極側に移動し,一定の時間,蓄積される。
これは,B用とG用素子では透明なITO対向電極をスパッ
ZnO TFTをオンにすると,蓄積された電荷がZnO TFT
ター法で形成する必要があり,スパッター法は下地である
および信号出力線を通って外部の閉回路に流れ,画素分離
光電変換層にダメージを与えやすいからである。今回の試
電極の電位は信号出力線の電位(0V)にリセットされ
作では,B用有機膜のバッファー層には厚さ20nmのトリ
る。ZnO TFTをオンにしたときに流れる電流(光電流)
ス−8−ヒドロキシキノレート・アルミニウム(Alq3)
をピックアップすることで,光の3原色のうちのいずれ
層に厚さ900nmのNTCDA層を接合したものを用いた。
か1色だけに対応した映像信号を得ることができる。
ま た,G用 有 機 膜 の バ ッ フ ァ ー 層 に は 厚 さ900nmの
B用,G用およびR用素子の構成を1表に示す。各素子
NTCDA層を用い,R用有機膜のバッファー層には厚さ30
に用いた有機膜は光電変換層とバッファー層から成る。光
nmのAlq3層を用いた。B用とR用有機膜に用いたAlq3層
電変換層は光の3原色のうちのいずれか1色だけを吸収
は可視域の光を透過する材料で,電子の輸送性にも優れて
して電子−正孔対を生成する有機材料(ドナー)と,生成
いる。また,B用とG用有機膜に用いたNTCDAも可視域
された電子−正孔対の分離を促進するための有機材料(ア
の光を透過する材料である。NTCDAは有機太陽電池の分
クセプター)から成る。また,バッファー層は対向電極を
野において,太陽電池の特性を劣化させることなく電極間
形成する際に光電変換層を保護する役割を担っている。B
の短絡を防止できることが確かめられている4)。
用有機膜の光電変換層には青色光に感度を持つクマリン30
既に述べたように,B用とG用素子ではITO対向電極を
(C30)
(ドナー)にフラーレン(アクセプター)を10%添
スパッター法で形成したが,最下層のR用素子では下地に
加したものを用いた。G用有機膜の光電変換層には緑色光
与えるダメージが比較的少ない真空蒸着法でAl対向電極
に感度を持つNN −ジメチル・キナクリドン(NN −QA)
を形成した。なお,3種類の有機膜の光電変換層とバッ
(ドナー)に,9−ジ(ピリド−2−イル)−アントラ
ファー層は全て真空蒸着法で作製した。
[2,
1,
9­def:6,
5,
10­d e f ]ジ イ ソ キ ノ リ ン−
ガラス基板上に形成したZnO TFT回路の外観を3図に
1,
3,
8,
10−テトロン(Py­PTC)
(アクセプター)を
示す。画素数は水平128×垂直96,画素ピッチは100 μm
接合したものを,R用有機膜の光電変換層には赤色光に感
である。また,ZnO TFTのゲート長は12 μm,ゲート幅
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(b)G用素子
(a)B用素子
(c)R用素子
4図 試作した素子の外観
10−6
ドレイン電流(A)
10−7
10−8
10−9
10−10
10−11
10−12
−10
0
10
20
ゲート電圧(V)
5図 ZnO TFTの伝達特性
は60 μm,ITO画素分離電極のサイズは78 μm
68 μm
(ターンオン電圧)は約−0.5Vであった。これらの特性は
である。4図に試作したB用,G用,R用素子の外観を示
TFTとしてよく用いられているアモルファスシリコン
す。各素子の有機膜の色は吸収する光の色の補色なので,
TFTの特性と比較しても遜色はない。
B用有機膜の色はイエロー,G用有機膜の色はマゼンタ,
4.有機膜の光電変換特性
R用有機膜の色はシアンである。
3種類の有機膜の光電変換特性を調べるために,ITO
3.ZnO TFTの伝達特性
電極を形成した3枚のガラス基板上に,3種類の有機膜
試作した素子と同じZnO TFTを別のガラス基板の上に
を個別に成膜し,その上に対向電極を形成したサンドイッ
作製し,ゲート電圧−ドレイン電流特性(伝達特性)を測
チセル(B用セル,G用セル,R用セル)を3種類作製し
定した。なお,測定の際にはソース電極の電位を0Vに固
た。B用およびG用セルの対向電極にはITOを,R用セル
定し,ドレイン電極の電位を0.1Vに設定した。ドレイン電
の対向電極にはAlを用いた。測定では各セルのガラス基
極の電位を0.1Vに設定した理由は,試作した素子の有機膜
板側から光を照射した。また,基板側のITO電極の電位を
に光が入射すると電荷が生成・蓄積され,ドレイン電極の
0Vに固定し,対向電極に正の電圧を印加した。
電位が約0.1V上昇するからである。試作した素子では,
4.1 電流−電圧特性
ZnO TFTがオンになると電荷がソースに流れ,ドレイン
試作した3種類のセルの電流−電圧特性を6図に示す。
電極の電位はソース電極の電位(0V)にリセットされ
6図の赤の実線はセルに光を照射したときの光電流,青
る。5図にZnO TFTの伝達特性を示す。ゲート電圧が20
の破線は光を遮断したときの暗電流である。光電流の測定
V(オン状態)のときのドレイン電流は0.56 μA,ゲート
では,B用,G用,R用セルにそれぞれ50 μW/cm2の波長
電圧が−1.0V(オフ状態)のときのドレイン電流は0.37
430nm,530nm,680nmの光を照射した。いずれのセル
6
pAで,ドレイン電流のオンオフ比として10 という値が得
においても測定した印加電圧の範囲で光電流が暗電流を上
られた。また,ドレイン電流が立ち上がるゲート電圧
回っており,試作したセルが光センサーとして機能するこ
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10−5
10−6
10−6
光電流
10−7
10−8
暗電流
10−9
10−10
10−5
電流密度(A/cm2)
10−5
電流密度(A/cm2)
電流密度(A/cm2)
報告
光電流
10−7
暗電流
10−8
10−9
0
2
4
6
印加電圧(V)
8
10−7
暗電流
10−8
10−9
10−10
10
光電流
10−6
0
1
2
印加電圧(V)
(a)B用セル
3
10−10
0
(b)G用セル
5
10
印加電圧(V)
15
(c)R用セル
6図 3種類のセルの電流−電圧特性
とが分かった。測定した光電流を基に,それぞれの有機膜
の量子効率
*1
で,ドナーで生成された電子−正孔対の分離が効率よく促
を算出した。その結果,量子効率はB用セル
進される。しかし,接合型では電子−正孔対の分離が促進
では印加電圧10Vのときに7.6%,G用セルでは3Vのとき
される領域がドナーとアクセプターの接合面の近傍に限定
に7.0%,R用セルでは15Vのときに18%であった。量子効
されるので,ドナーで生成された大半の電子−正孔対が再
率はいずれも高くはない。特に,B用およびG用セルの量
結合によって消滅し,量子効率が低下すると推定される。
子効率は低い。しかし,B用有機膜に関しては,フラーレ
この問題を解消するために,今後,G用およびR用セルに
ン添加C30光電変換層と厚さ20nmのAlq3バッファー層に
おいてもドナーにアクセプターを添加した光電変換層の適
Al対向電極を形成した膜では,印加電圧10Vのとき最大で
用を検討する予定である。
5)*2
。
一方,暗電流に関しては,全ての有機膜で印加電圧を上
従って,ここで試作したセルの量子効率が低かった理由
昇させると暗電流が増加した。有機膜を適用した撮像管の
は,ITO対向電極を用いたことと厚さ900nmのNTCDA
特性評価実験によると,良好な画質を得るためには,有機
バッファー層を付加したことであると推定される。
膜の暗電流を電流密度換算で1×10−9A/cm2未満に抑える
NTCDAバッファー層の厚さは900nmと厚く,印加電圧
ことが望ましい6)。従って,今回試作したB用セルでは1
が同じ場合には有機膜内の電界が小さくなり,電子と正孔
桁,G用およびR用セルでは2桁∼3桁暗電流を低減させ
に分離しにくくなる。また,電子の走行距離が長くなり,
る必要がある。印加電圧の上昇に伴って暗電流が増大して
輸送が妨げられていると考えられる。従って,NTCDA
いるので,暗電流の発生原因としては電極から有機膜への
層を無くすことで量子効率が改善できると期待される。今
電荷の注入が考えられる。7図に試作したセルのエネル
後,NTCDA層無しで有機膜にダメ−ジを与えることなく
ギー準位を示す。対向電極にITO電極より高い電圧が印加
透明な対向電極を形成する手法を開発する予定である。こ
されている場合には,対向電極から正孔が,ITO電極から
のことは,NTCDA層をバッファー層として用いているG
電子が有機膜に注入され暗電流となる。対向電極の仕事関
用有機膜に関しても同様である。
数と有機膜バッファー層のHOMO*3のエネルギー準位と
64%の量子効率が得られることが分かっている
更に,G用およびR用セルではドナーとアクセプターを
の差が大きいほど,また,ITO電極の仕事関数と有機膜光
接合した光電変換層を用いたことが,量子効率を低下させ
電変換層のLUMO*4のエネルギー準位との差が大きいほ
た一因と考えられる。B用セルのように,ドナーにアクセ
ど,有機膜に注入される電荷が減るので,今後,さまざま
プターを添加した混合型の光電変換層では,光電変換層の
な材料を検討し,暗電流の抑制に取り組む。
全域でドナー分子とアクセプター分子が接触しているの
4.2 分光感度特性
試作した3種類のセルをそれぞれ単独で測定したとき
*1 照射した光子1個に対して出力される電子の数。
*2 本特集号の報告「青色光に感度を持つ有機光電変換膜の量子効率改
善」
。
*3 Highest Occupied Molecular Orbital。有機分子の基底準位である最
高被占分子軌道。
*4 Lowest Unoccupied Molecular Orbital。最低空分子軌道。
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NHK技研 R&D/No.132/2012.3
の分光感度特性を8図に示す。B用,G用,R用セルの対
向電極には,有機膜の暗電流が10nA/cm2以下となるよう
に5.0V,1.0V,4.0Vの電圧をそれぞれ印加した。B用有機
膜の光電流のピークは波長440nmの青色領域に,G用の
ピークは波長500nm∼540nmの緑色領域に,R用のピーク
−2
フラーレン Alq3 NTCDA
添加C30
(点線:フラーレン)
NN'-QA
ZnPc
Py-PTC NTCDA
LUMO
TiOPc
Alq3
LUMO
エネルギー(eV)
−3
LUMO
−4
対向電極
(AI)
−5
ITO
ITO
対向電極
(ITO)
−6
ITO
対向電極
(ITO)
HOMO
(基底準位)
HOMO
(基底準位)
HOMO
(基底準位)
−7
(a)B用セル
(b)G用セル
(c)R用セル
7図 試作したセルのエネルギー準位
B用
光電流(規格化)
1
G用
R用
0.5
0
400
500
600
700
波長(nm)
8図 試作したセルの分光感度特性
は波長740nmの赤色領域にあり,光の3原色にほぼ対応
素子から出力されるアナログ信号の電流をデジタル信号に
した出力電流が得られた。また,R用セルではAlq3の光吸
変換し,後で述べる信号処理を行った後,カラーモニター
収に起因する波長400nm∼450nmの青色領域で光電流が
に表示した。また,各素子を駆動するために,B用,G
増加したが,原理検証用の有機撮像デバイスでは,光入射
用,R用素子の対向電極にそれぞれの有機膜の暗電流が10
側からB用,G用,R用の順に素子を積層するので,青色
nA/cm2以下となる5.0V,1.0V,4.0Vの電圧を印加した。
光はB用素子でほとんど吸収される。従って,R用素子に
更に,ZnO TFT回路のゲート電極に+8Vと−8Vから
は青色光は到達しないので,カラー撮像への影響はほとん
成るパルス電圧を印加してオンとオフを制御した。各素子
どないと考えられる。
では水平1ラインのZnO TFTを同時にオンにして,128
画素からの信号を並列に読み出す線順次走査を行った。ま
5.原理検証用の有機撮像デバイスの特性
光が入射する側からB用素子,G用素子,R用素子を積
層した原理検証用の有機撮像デバイスを試作した。9図
に試作したデバイスを評価するための実験系統図を示す。
た,出力映像信号から暗電流成分を除去するために,事前
に暗電流を測定し,信号処理回路でこの暗電流を差し引い
た。
原理検証用の有機撮像デバイスを10フレーム/秒のフ
実験では,入射した光学像がG用素子の有機膜にフォーカ
レームレートで駆動したときの撮像例を10図に示す。試
スするように光学レンズの焦点距離を調整した。また,各
作したデバイスでは,被写体の色を再現するフルカラー映
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
37
報告
積層した有機撮像デバイス
カラー
B G R
レンズ
モニター
光
A/D
B信号
A/D
信号処理回路
G信号
A/D
R信号
9図 積層した有機撮像デバイスを評価するための実験系統図
よって発生するので,今後,欠陥を低減するために,デバ
イスの作製環境や基板洗浄プロセスの見直しを行う予定で
ある。
6.あとがき
有機撮像デバイスでカラー撮像が可能であることを検証
10図 有機撮像デバイスの出力画像
するために,光の3原色のいずれか1色だけに感度を持
つ3種類の有機膜とZnO TFT回路とを組み合わせた撮像
素子を個別に作製し,これらの素子を積層した原理検証用
像が得られ,光の3原色それぞれの色だけに感度を持つ
の有機撮像デバイスを試作した。撮像実験の結果,試作デ
有機膜を積層することでカラー撮像が可能なことを実証す
バイスでは被写体の色を再現するカラー映像が得られ,光
ることができた。また,R用素子単独での評価を行った結
の3原色それぞれの色だけに感度を持つ有機膜を積層す
果,画素数に対応した解像度(約100TV本
*5
)が得られ
ること,残像がないことなどが確認できた。
ることでカラー撮像が可能なことを初めて実証した。
今後,1枚のガラス基板上に青色光,緑色光および赤
ところで,試作デバイスでは,フルカラー映像のうち青
色光だけに感度を持つ有機膜を直接積層した直接積層型有
色光と赤色光の映像で解像度が劣化した。また,10図に
機撮像デバイスの開発を進める。また,有機膜の特性改善
示すように,出力映像には線欠陥や点欠陥が見られた。青
や電極作製法の見直し,画像欠陥の低減に取り組む予定で
色光と赤色光の映像で解像度が劣化した原因は,光学像を
ある。
G用有機膜にフォーカスさせたためで,B用とR用有機膜
では光学像がデフォーカスとなり,ぼけが生じたものと推
なお,本稿で述べたZnO TFT回路に関する研究は高知
工科大学との連携で進めた。
定される。現在,この問題を解決するために,1枚のガ
ラス基板上にB用有機膜,G用有機膜およびR用有機膜を
本稿はJapanese Journal of Applied Physics誌に掲載された以
直接積層した直接積層型有機撮像デバイスの開発に取り組
下の論文の内容を元に加筆・修正したものである。
んでいる。また,出力映像の線欠陥は主にZnO TFT回路
H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, T. Sakai, M. Kubota,
に接続された信号出力線やゲート配線の断線に起因し,点
N. Egami, T. Hiramatsu, T. Matsuda, M. Furuta and
欠陥は画素ごとに配置したZnO TFTの動作不良や有機膜
T. Hirao:“A 128 x 96 Pixel Stack ­ Type Color Image
の構造欠陥に起因するものと考えられる。これらの欠陥
Sensor : Stack of Individual Blue ­ , Green ­ , and Red ­
は,デバイスを試作するときに混入する不純物粒子などに
Sensitive Organic Photoconductive Films Integrated with
a ZnO Thin Film Transistor Readout Circuit,
”Jpn. J. Appl.
*5 TV本とはテレビ画面の水平表示解像度を表す単位で,画面の高さに
等しい水平方向の範囲内に白黒の垂線を何本まで分離して表示でき
るかを表す。
38
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
Phys., Vol.50, No.2, pp.024103.1­024103.6(2011)
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”Appl. Phys. Lett. Vol.82, No.4, pp.511­513(2003)
2)H. Seo, S. Aihara, T. Watabe, H. Ohtake, M. Kubota and N. Egami:
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Stacked Organic Photodetectors,
”Jpn. J. Appl. Phys., Vol.46, No.49, pp.L1240­L1242(2007)
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”Appl. Phys. Lett., Vol.85, No.25, pp.6269­6271(2004)
5)H. Seo, S. Aihara, M. Kubota and N. Egami:
“Improvement in Photoconductive Properties of Coumarin
30­evaporated Film by Fullerene Doping for Blue­sensitive Photoconductors,”Jpn. J. Appl. Phys.,
Vol.49, No.11, pp.111601.1­111601.4(2010)
6)S. Aihara, K. Miyakawa, Y. Ohkawa, T. Matsubara, T. Takahata, S. Suzuki, M. Kubota, K. Tanioka, N.
Kamata and D. Terunuma:
“Photoconductive Properties of Organic Films Based on Porphine Complex
Evaluated with Image Pickup Tubes,
”Jpn. J. Appl. Phys., Vol.44, No.6A, pp.3743­3747(2005)
さかい
としかつ
堺
俊克
2003年入局。同年より放送技術研究所におい
て超高精細ディスプレイおよび有機撮像デバ
イスの研究に従事。現在,放送技術研究所撮
像・記録デバイス研究部に所属。
あいはら
さとし
相原
聡
2001年入局。同年より放送技術研究所におい
て有機光電変換材料を適用した撮像デバイス
の研究に従事。現在,放送技術研究所撮像・
記録デバイス研究部専任研究員。博士(学術)
。
おおたけ
ひろし
大竹
浩
1982年入局。同年より放送技術研究所におい
て固体撮像デバイス,超高速度CCDおよび高
フレームレートSHV撮像デバイスの研究に従
事。現在,放送技術研究所撮像・記録デバイ
ス研究部主任研究員。
えがみ
のりふみ
江上
典文
せ
お
ほくと
瀬尾 北斗
2002年入局。松山放送局を経て,2005年か
ら放送技術研究所において有機光電変換材料
を適用した撮像デバイスの研究に従事。現在,
放送技術研究所撮像・記録デバイス研究部に
所属。
わたべ
としひさ
渡部 俊久
1991年入局。新潟放送局を経て,1994年か
ら放送技術研究所において半導体デバイス,
固体撮像デバイスおよび高フレームレート
SHV撮像デバイスの研究に従事。現在,放送
技術研究所撮像・記録デバイス研究部専任研
究員。
く
ぼ
た
みさお
久保田 節
1983年入局。福井放送局,放送技術研究所,
大阪放送局を経て,2003年から放送技術研究
所において増倍型光電変換膜の研究に従事。
現在,放送技術研究所撮像・記録デバイス研
究部主任研究員。
1980年入局。徳島放送局を経て,1983年か
ら放送技術研究所においてハイビジョンHARP
撮像管,冷陰極HARP撮像板の研究・開発に従
事。現在,放送技術研究所撮像・記録デバイ
ス研究部部長。博士(工学)
。
NHK技研 R&D/No.132/2012.3
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