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Hybridcast の展開

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Hybridcast の展開
講演2
HybridcastⓇの展開
NHKメディア企画室専任局長
加藤久和
The Deployment of HybridcastⓇ
Hisakazu KATOH
Deputy Head of Media Planning Bureau
概要
技研で開発を進めている放送通信連携システムHybridcastⓇ(ハイブリッドキャスト)は放
送と通信(インターネット)を組み合わせたサービスを実現するための技術基盤である。技
研公開2010でHybridcastを初めて発表し,今年で3回目の展示となる。国内外でさまざまな
放送通信連携サービスの提案が行われており,NHKの提案するHybridcastは,高品質・高
信頼・同報性という特徴を持つ放送と,膨大な情報を個別の要求に応じて提供することので
きる通信の利点を最大限に活用できるシステムである。放送事業者が提供するコンテンツを
視聴者の皆様に,より豊かに,より便利に,より安全に利用していただくことを目指してい
る。2012∼2014年度のNHK経営計画の4つの重点目標の1つの「創造・未来」の中で,
「放
送と通信が融合した新たなサービスの提供と開発」
,
「新たなメディア環境に対応する技術と
サービス基盤の確立」を具体的な目標として挙げている。Hybridcastはその目標を実現する
ための重要な手段であり,本稿では,Hybridcastの実用化に向けた研究開発の状況,標準化
への取り組み,今後の進め方について述べる。
Abstract
HybridcastⓇ is a system we have been developing at STRL to support cooperation between
broadcasting and communications. This year we are presenting it at the Open House for the third
time since it was first proposed in 2010. A variety of proposals for services that combine
broadcasting and communications have been made in Japan and other countries. The system we
propose uses broadcasting for high­quality, reliable delivery of the same content to multiple
destinations, and uses communication for the delivery of large amounts of information
individually tailored to each recipient. In this way, it can exploit the benefits of both types of
media to the greatest possible extent. We have also developed this system to provide viewers
with greater freedom, convenience and safety in their use of content provided by broadcasters.
In other words, Hybridcast is an environment where information can be used in new ways based
on collaboration between broadcasting and communications after the digital switchover has taken
place. NHK corporate plan for the 2012­ 2014 fiscal years specifically includes“the priority
objectives of developing and providing new services that combine broadcasting and
communications”
,and“establishing technologies and service platforms that are compatible with
new media environments”.Hybridcast is an important means for achieving these goals. In this
paper, I will discuss the current situation of Hybridcast R&D, our work on standardizing this
technology, and our future plans.
14
NHK技研 R&D/No.135/2012.9
®
2010
1図 HybridcastⓇの技研公開2010における展示(サービスの事例)
2011
(a)ネット連携のアプリケーション
(メーカー製試作STB)
2011
(b)同期字幕
(メーカー製試作TV)
2011
(c)マルチビュー(技研試作STB)
2011
(d)端末連携(技研試作STB)
2図 Hybridcastの技研公開2011における展示
1.はじめに
HybridcastⓇ*1は2年前の技研公開2010で最初の発表を行い,今年の技研公開での展示は
3回目である。Hybridcastのこの2年間の進展状況と背景,今年の展示の概要を紹介すると
ともに,Hybridcastの実用化を目指した考え方,進め方を述べ,今後,どのような形で
*1
Hybridcast は ( 財 )
NHK­ESの登録 商 標
です。
Hybridcastを実現していくのかを,課題と展望を含めて紹介する。
2.これまでの2年間
1図は技研公開2010におけるHybridcastの展示の様子である。2年前の技研公開2010では,
技研のエントランスでHybridcastのサービスの事例を紹介するとともに,Hybridcastの基本
的な考え方を講演した。2図は技研公開2011におけるHybridcastの展示の様子である。技研
NHK技研 R&D/No.135/2012.9
15
講演2
放送のデジタル化
ブロードバンドの普及
■高品質・高信頼・同報性
■大容量・低コスト
■パーソナライズ
,
■高い普及率
■番組・動画のオンデマンド視聴
コンテンツ配信インフラの進化
■全国で約3,500万契約
インターネット技術と文化の発展
■クラウドコンピューティング
ネットアクセス端末の多様化
■SNS(ソーシャルネットワーク)
■スマートフォン,タブレット端末
■ユーザー作成コンテンツ
■モバイルPC
視聴者の好み・視聴形態の多様化
■ホームネットワークによる端末間連携
多様な選択肢により,ユーザー主導のコンテンツ利用環境に
3図 コンテンツを取り巻く状況と環境の変化
公開2011年では,テレビ受信機のメーカー2社にご協力いただき,ネット連携のアプリケー
ションを搭載したSTB(セットトップボックス)の試作機と同期字幕の仕組みを搭載したテ
レビの試作機を展示した。技研でも,放送と通信(インターネット)の映像をフレーム単位
の精度で同期させる技術を開発し,マルチビューのアプリケーションを展示するとともに,
端末連携の基盤となる技術を紹介した。
ここで,2年前の状況を振り返って見る。2010年には,まだ,テレビにアナログ放送が残っ
ており,スカイツリーは第1展望台までしか工事が進んでいなかった。2011年3月の東日本
大震災を経験して,放送局の使命がより明確になるとともに,さまざまな課題も見えてきた。
このような変化と研究開発の進展に伴って,今後,どのような形で放送通信連携サービスを
進めていけばよいのかがより明確になってきた。
3図に,コンテンツを取り巻く状況と環境の変化をまとめた。まず,放送のデジタル化の
完了に伴う変化である。インターネットへ接続可能なテレビは既に1億台以上普及している。
まだ全てのテレビがインターネットに接続されているわけではないが,少なくとも,基盤と
なるインフラは整ってきた。また,ブロードバンドの急速な普及に伴って,さまざまな動画
のオンデマンド視聴サービスが増えてきた。NHKにおいても,NHKオンデマンドを2008
年に始め,2012年にはタブレット対応のサービスも始めており,利用者が急速に増加してい
る。また,インターネット技術が発展し,クラウドコンピューティング技術がさまざまな所
で使われるようになってきている。SNS(Social Networking Service)も,特に,東日本大
震災以降,非常に重要なメディアとなっている。インターネットの発展に伴って,ユーザー
自身がコンテンツを発信するという動きも活発になっている。また,インターネットにアク
セスする端末も多様化してきている。ちょうど,2年前の技研公開2010の最中にアップル社
のタブレット端末iPadが発売され,2年後の2012年には3代目のiPadが発売されるなど,端
末の種類は急速に増えてきている。タブレット端末やモバイルPCを使って,家の中ではワ
イヤレスLAN(Local Area Network)で映像を視聴するという環境も急速に整ってきてい
*2
インターネットに接続
する機能のあるテレビ
を海外ではconnected
TVと呼んでいる。
16
る。このように,ユーザーには多様な選択肢が提供されるとともに,ユーザーが主体的にコ
ンテンツを選択し,利用するようになってきている。
海外のコネクテッドTV*2の状況を4図に示した。2010年の秋にアメリカでGoogle TV
NHK技研 R&D/No.135/2012.9
Internet enhanced TV
アメリカの放送事業者が
中心のモデル
ATSC2.0/3.0の仕様検討中。
蓄積コンテンツも対象。
同期機能,端末連携も指向。
ヨーロッパの放送事業者が中心の
モデル
CE-HTMLベース共通仕様。
ドイツ,フランス,スペイン,オランダで開始。
ビジネスは各国ごと。
次期の仕様ではHTML5化,同期機能も指向。
ネット企業が中心のモデル
Internet TV
2010年に販売開始。
検索機能が特徴。
イギリスで検討中の
モデル
2012年にも開始 ?
テレビ受信機メーカーが中心の
モデル
通信コンテンツのアプリケーションを提供。
端末販売の促進を目指す。
4図 海外のコネクテッドTVの動向
が発売された。検索機能を特徴としていたが,ビジネスとしてはそれほど大きな成功には至っ
ていない。韓国のサムスンなどはスマートTVと称して,さまざまなアプリケーションを実
行できるテレビを発売している。このようにネット企業やテレビ受信機のメーカーによる動
きも海外では活発である。一方,海外の放送事業者を見ると,ヨーロッパを中心とする
HbbTV(Hybrid Broadcast Broadband TV)は,既に,ドイツ,フランス,スペイン,オ
ランダで開始されている。このHbbTVは日本のデータ放送に相当するコンテンツから,ネッ
トワーク経由の映像コンテンツへ効率的に接続できるというもので,日本のデータ放送に設
けられたアクトビラへのリンクの機能に近いものである。既に,HbbTVは次期の仕様に発
展させるための検討を始めている。また,アメリカのATSC(Advanced Television Systems
Committee)の次のバージョンの規格は蓄積コンテンツも対象とした放送通信連携機能を含
んでいる。いずれもインターネットのコンテンツとの同期や端末連携などを目指しており,
Hybridcastが目指す方向とかなり一致している。同様に,イギリスではYouViewという新
たな放送通信連携サービスの検討が進められている。このように各国の放送事業者もネット
環境を想定した新しいサービスの検討を始めている。
これらの動きを見ることで,日本におけるコネクテッドTVのあるべき形がはっきりして
きた。日本では,数年前からデータ放送の機能を拡張して,IPTV(Internet Protocol TV)
と連携するサービスを始めている。NHKでもデータ放送を通して,IPTVサービスのNHK
オンデマンドに遷移させ,効率的にコンテンツを探すことができる環境を実現している。最
近,データ放送のBML(Broadcast Markup Language)でVOD(Video On Demand)のコ
ンテンツを直接制御するための連携タイプ2と呼ばれる規格がまとめられた。このような観
点からも,今後の放送通信連携サービスの展開が期待されている(5図)。
3.Hybridcastの目指すもの
NHKは2012∼2014年度の3か年経営計画「豊かで安心,たしかな未来へ」を発表してい
る。その中で,4つの重点目標を挙げている。この重点目標の1つの「創造・未来」では
「放送と通信の融合時代にふさわしい,さまざまな伝送路を利用した新たなサービスを充実
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17
講演2
放送サービス
IPTVサービス デ ー タ 放 送 か ら
連携タイプ1
ハイライト動画
(IPTVサービス)
サ イ ト に 遷 移 。シ
ームレスに放送サ
ービスに戻ること
ができない。
IPTV用のHTMLの
ブラウザーに遷移
再生
運用中
停止
ハイライト動画
再生
連携タイプ 2
データ放送から
VODの動画再生
ハイライト動画
(IPTV サ ー ビ ス)
を放送サービスの
枠組みの中で表示
し,ハ イ ラ イ ト 動
画からシームレス
に放送サービスへ
戻ることができる。
2012年夏以降
開始予定
停止
5図 データ放送の進化
4つの重点目標
3.「創造・未来」 放送と通信の融合時代にふさわしい,さまざまな伝送路を
利用した新たなサービスを充実させます
放送と通信が融合した新たなサービスの提供と開発
インターネットを活用した
ニュース・コンテンツの開発強化
地域ニュースのネット配信
NHK オンデマンドの
サービスの充実・利便性向上
スマートフォン向け
番組アプリケーション
さまざまなメディアを
連携させたサービスの開発
番組
テレビ・パソコン・タブレット・スマートフォン
など多様な端末を連携させた利用
番組連動
コンテンツ
番組との連動
放送の同報性と,個別の要
求に応えられる通信の特徴を
生かし,豊かな放送サービス
を実現
®
6図 3か年経営計画との関わり
させます」と述べている。また,6図に示すように,
「放送と通信が融合した新たなサービ
スの提供と開発」の中で,
「インターネットを活用したニュース・コンテンツの開発強化」や
「NHKオンデマンドのサービスの充実・利便性向上」
,
「さまざまなメディアを連携させたサー
ビスの開発」を具体的な目標として挙げている。すなわち,Hybridcastの実現は経営計画の
目標を達成するための重要な手段である。
7図にHybridcastが目指すものを示す。青の枠で囲ったテレビは,マスメディアであり,
個別の要求に沿ったきめ細かな情報を提供することはできない。また,放送時間という制約
もあり,インターネットと比較して提供できる情報の種類や量は少ない。ただし,専用の伝
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SNSによる新たな
メディア環境
安心安全
な環境
高品質
高信頼
インターネット
テレビ
・マスメディア
・限られた種類と量の情報
・高い伝送品質
新たな
ビジネス基盤
相互に活性化
・個別の要求に対応
・多様な情報
・ベストエフォート ハイブリッド化を
実現する新しい基盤
産業育成
・インターネットを利用した放送の高度化・強化
・テレビとインターネットが相互に活性化され,安心・安全な世界を構築
7図 Hybridcastの目指すもの
放送と連動して
情報を提供
SNS
オンデマンド番組
お薦め番組
放送番組への
追加のコンテンツ
1.通信ならではのソーシャルやパーソナルな
サービスを放送と連携させて,放送をより豊かにする
2.放送番組と通信コンテンツを合
成して表示し,放送番組をより面白
く,分かりやすくする
セカンドスクリーンで
番組情報の閲覧や
テレビの操作をする
4.信頼できる情報を確実に
提供する
3.携帯端末やPCをテレビに連携させて,
番組をより便利に,より深く楽しむ
8図 Hybridcastで実現できる4つの柱
送路を使用することができるので,一斉に同報される映像や音声の伝送品質は高い。一方,
緑の枠で囲ったインターネットは,個別の要求に応えられる多様な情報を提供できる。しか
し,伝送の観点から見るとベストエフォート*3であり,特に,通信が集中した場合には安
定な伝送が保証されるものではない。Hybridcastは,最近,メディアとして確立しているSNS
の利用も含めて,放送と通信(インターネット)の両方の利点を生かすための新しい技術基
*3
サービスの品質の保証
が無い通信ネットワー
クのこと。
盤である。この基盤の上で,最終的には放送を高度化・強化することが目的である。その結
果として,テレビとインターネットが相互に活性化され,皆様が安心して安全に利用できる
情報環境が構築される。また,これを機に,新たなビジネス基盤が構築され,産業の育成が
図られることを期待している。
4.Hybridcastで実現できる4つの柱
Hybridcastで実現できる4つの柱を8図に示す。放送局は番組を制作し,一方向で番組を
提供している。また,放送局は番組を制作する過程で得られる番組に関連するさまざまな情
報を持っている。Hybridcastでは,番組に関連するさまざまな情報をインターネットを通し
NHK技研 R&D/No.135/2012.9
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講演2
9図 Hybridcastの技研公開2012における展示
て提供し,その情報を利用して放送番組へ追加のコンテンツを表示したり,お薦め番組を提
示したりするなどの新たなサービスを実現する。
*4
人とのつながり。
第1の柱は,通信ならではのソーシャル*4やパーソナルなサービスを放送と連携させる
ことである。これにより,放送をより豊かにすることができる。第2の柱は,同期技術を用
いた放送番組と通信コンテンツの合成である。これにより,放送番組をより面白く,より分
かりやすく見ることができる。第3の柱は,携帯端末やPCをテレビに連携させることであ
る。タブレットなどのセカンドスクリーンを単にリモコンとして使うだけではなく,放送番
組と連携させた新たな使い方を提案し,それに必要な技術環境を作る。これにより,番組を
より便利に,より深く楽しむことができるようになる。第4の柱は,放送された,信頼ので
きる情報を視聴者の皆様に確実に提供するための機能を実現することである。これにより,
さまざまな事業者がHybridcastのビジネスに安心して参加できる環境を提供することができ
る。
5.技研公開2012における展示
技研公開2012では,Hybridcastによって実現できるさまざまなサービスをショールーム的
に展示した(9図)
。これらの展示は,Hybridcastのサービスを実現するための基盤となる
技術を実証することが目的である。
受信機メーカー5社の協力を得て試作した受信機には,国際標準化が進んでいるHTML
(HyperText Markup Language)5 をベースにしたアプリケーションを実装した。この展示
はHybridcastを実現するための重要な過程であると考えている。メーカー各社の試作受信機
の他に,技研で開発中のより高度な機能を実装した試作受信機を展示した。また,フジテレ
ビとWOWOWの協力を得て,NHKでは実現できないCMベースのアプリケーションの事例
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NHK技研 R&D/No.135/2012.9
HTML5の機能を使って,
クラウド上のWebサービスを最大限に活用
■ 魅力的で使いやすい画面デザインの構成が可能
共通のブラウザー仕様
■ どのメーカーの受信機でも
各種サービスの利用が可能
■
HC
Hybridcast
アプリケーション
HC
HC
HC
HC
HC HC
HTML5のブラウザー
拡張機能
ダウンロード
受信機の機能を
※ PI
利用する A
HTML5でアプリケーションを記述
受信機の機能
(放送受信・選局・画面合成など)
Hybridcastアプリケーション
Hybridcast受信機の機能構成
※ Application Programming Interface
10図 Hybridcastアプリケーションの実行環境
タブレットで指定した
VOD番組の再生
Hybridcast受信機
アプリケーション
端末間
連携機能
サーバー群
端末間連携API
受信機の機能
連携
視聴タイミングに応じて
サーバーから各種情報を提供
家庭内LAN
タブレット
スマートフォン
携帯端末のアプリケーション
と連携
端末から受信機へ
・VOD再生制御
・チャンネル切り替えなど
■ 受信機から端末へ
・放送中の番組情報
・視聴中の番組のタイミング情報など
■
シーンごとの関連映像や
番組に連動したWebページ
11図 携帯端末との連携
や有料放送でのアプリケーションの事例を展示した。更に,NTTとも連携して将来に向け
たより高度なアプリケーションの事例を展示した。
6.Hybridcastの技術
ここで,技研公開2012で展示したHybridcastの技術を紹介する。
6.1 アプリケーションの実行環境
最初に紹介するのは,10図に示すHTML5のWebアプリケーションの実行環境である。
HTML5を使うことで,オープンで,少なくとも,国内では共通に使える環境を実現するこ
とができる。従来のBMLとは異なり,多くのさまざまなクリエイターがコンテンツ制作に
参加できる環境になる。
6.2 携帯端末との連携
次に紹介するのは,11図に示す携帯端末との連携である。携帯端末を単なるリモコンと
して利用するのではなく,セカンドスクリーンとして活用するなど,放送をより豊かにする
ために活用することができる。アプリケーションと受信機の機能に携帯端末からアクセスす
るための端末間連携API(Application Programming Interface)の検討を進めている。
アメリカでの事例であるが,1.1億人が視聴した2012年2月のスーパーボールでは,6割
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講演2
手話CG
素材・関連データなど
放送番組
放送局
スーパーハイビジョン
から切り出した複数の映像
同期して提示
放送
追加コンテンツサーバー
通信
Hybridcast受信機
放送番組と同期合成する
追加コンテンツの例
映像(マルチビュー,手話CGなど)
音声(ゆっくりと聞きやすくした音声など)
■ テキスト(多言語字幕など)
■
■
手話CGサービス
マルチビューサービス
12図 放送と通信の同期合成技術
放送
緊急地震速報などを受信したときには
アプリケーションを非表示
緊急地震速報
放送局
正しいアプリケーション
提示制御技術
インターネット
アプリケーション提供者
不正なアプリケーション
認証技術
正しいアプリケーションだけを実行
13図 Hybridcastを支えるセキュリティー技術
の人が視聴中に携帯端末を使っており,このゲーム中に携帯端末による検索が25%から41
%に増えた。このような事例からも,放送に連携したタブレットなどのセカンドスクリーン
の使用は,今後,ますます増えていくと考えられる。放送と携帯端末の連携は重要な技術に
なると確信している。
6.3 放送と通信の同期合成技術
次に紹介するのは,12図に示す放送と通信の同期合成技術である。技研公開2011では野
球中継のマルチアングル映像の同期合成技術を展示した。技研公開2012では,スーパーハイ
ビジョンで撮影したアイドルグループの映像から好きな歌手の映像を切り出して同期再生す
る技術や,手話CG(Computer Graphics)を同期再生して聴覚に障害のある方にも放送を
理解していただくための技術を展示した。受信機への実装の可能性など技術的な課題を検討
し,早期に実現したいと考えている。
日本では,放送波を直接受信している世帯やパススルー方式のCATVに加入している世帯
が多く,放送番組の時刻を基準とする同期合成技術を実現することは比較的容易である。同
期合成技術は日本発の放送通信連携サービスの1つとして非常に重要なものであると確信し
ている。
6.4 セキュリティー技術
最後に紹介するのは,13図に示すセキュリティー技術である。放送と通信は異なる背景
を持っており,放送と通信が連携するHybridcastでは,視聴者の皆様の安心・安全を守る技
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認証・認可サーバー
各種情報リソース
(個人情報)
個人向けサービスサーバー
リソース取得
利用確認
インターネット
個人向けサービス
認証情報
認可情報
TV
視聴者に応じた
個別サービスの提供
認証情報
ID/パスワード
認可情報
引き渡し
(継承)
個人情報の利用
の許諾
認証情報
認証状態を示す情報
認可情報
タブレットなどの
パーソナルデバイス
個人情報へのアクセス権限
14図 端末連携のための認証技術
Hybridcast用に拡張する部分
TV機能
選局,EPG,データ放送
機能等
BMLの
ブラウザー
ミドルウエア
ハードウエア
HTML5 Webアプリケーション
サービスレイヤー
HTML5のブラウザー
(アプリケーションの実行環境)
Hybridcast機能
アプリケーション管理,同期合成,
提示制御,端末連携
APIで提供される
付加機能
(チューナー,デコーダー, I / O,・・・)
15図 Hybridcast受信機のアーキテクチャー
術が非常に重要である。例えば,緊急地震速報が発令されたときには,放送番組に重ねて表
示していたアプリケーションを消して,放送局からの緊急地震速報を確実に表示するように
しなければならない。また,悪意のあるアプリケーションやサービスを確実に排除して,受
信機にある個人情報が絶対に漏えいしないようにする必要がある。セキュリティーを確実に
実現することで,放送の信頼性を確保したまま,視聴者の皆様が安心してサービスを利用で
きるようになる。更に,14図に示すように,携帯端末をテレビと関連付けるための認証技
術も必要である。テレビはリビングルームにおいて家族みんなで見ることが多く,タブレッ
トは個人で利用する可能性が高い。個人を認証する技術を使って,個人の世界と家族みんな
の世界を簡単にうまく使い分ける機能が今後重要になる。
7.Hybridcast受信機のアーキテクチャー
これまで説明してきたアプリケーションやサービスを実現するための受信機の要件を解説
する。15図にHybridcast受信機のアーキテクチャーを示す。緑の破線の左側は,現在の一
般的なデジタル放送受信機である。ハードウエア,ミドルウエアの上にテレビの機能とデー
タ放送を受信するためのBMLのブラウザーが載っている。Hybridcast受信機では,緑の破
線の右側に示すように,アプリケーションの実行環境であるHTML5のブラウザーを載せる。
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講演2
1表 HTML4,HTML5,BMLの機能の比較
分類
基本機能
表現
通信
HTML4
HTML5
BML
ページ遷移
項目
○
○
○
同一ページ内のマルチタスク処理※1
×
○
×
ビデオ表示 ・オーディオ再生
×
○
○
ベクトルグラフィックス
×
○
×
複数ウインドーの同時表示
○
○
×
表示の一意性確保の容易さ
×
×
○
非同期なサーバー通信(Ajax)※2
○
○
△
ページ(ウインドー)間通信
△
○
×
プッシュ型伝送への対応
×
○※4
○※5
○
×
UI(ユーザー
インターフェース)
アクセシビリティー情報の埋め込み※3
△
リモコン対応
△
△
セキュリティー
コンテンツ保護
×
△(検討中)
※1
※2
※3
※4
※5
※6
○
○※6
ブラウザーでの画像やデータベース処理の終了を待つことなくUIの操作が可能。
ページをリロードせずに一部のコンテンツを自動で更新可能。
ページ内のコンテンツの役割(ヘッダー,メニュー,本文など)を定義可能。
通信によるプッシュ型伝送(WebSocket,Server­Sent Events)
。
放送によるプッシュ型伝送(イベントメッセージ)。
別レイヤーで対応(CAS:Conditional Access Systems)
。
このブラウザーからAPIを使ってHybridcastに必要なアプリケーション管理,同期合成,提
示制御,端末連携などのミドルウエアの機能を呼べるようにして,共通仕様の受信機を構成
しようと考えている。
1表にHTML4,HTML5,BMLの機能を比較して示す。HTML5では,BMLやHTML4
では実現できなかった機能が実現でき,さまざまな事業者がアプリケーションを提供できる
ようになる。
8.標準化
技研ではこれまで,デジタル放送,衛星放送,ハイビジョンなど,さまざまな標準化に貢
献してきた。特に,放送システムのようなオープンなプラットホームの実現には標準化が重
要である。Hybridcastの場合には,通信に関わる部分もあり,仕様を全て決めてからスター
トするというこれまでの標準化とは多少異なる方法を取る方が良いと考えている。すなわち,
Hybridcastの仕様がある程度固まった段階でシステムを立ち上げて,それを改良していく方
法が有効であると考えている。
16図に現在の国内の標準化の審議体制を示す。中央のIPTVフォーラムの中にHTML5
WG(Working Group:作業部会)がある。ここに,受信機メーカー,放送事業者,通信事業者
が参加して,日本の放送通信連携サービスに適したHTML5の仕様を検討している。具体的
には,15図の受信機のアーキテクチャーにある拡張部分に,何をどういう形で入れるのかを
検討している。一方,総務省のICT国際標準化推進会議の中に次世代ブラウザーWeb and
TVに関する検討会がある。この検討会の下に作業部会があり,W3C(World Wide Web
Consortium)の動きを見ながら,日本からW3Cに何をどのように発信していくのかを議論
して,IPTVフォーラムで議論された内容を国際規格として提案する取り組みを進めている。
また,W3Cの動きを見ながら国内規格の調整をしている。放送の標準化はARIB(Association
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NHK技研 R&D/No.135/2012.9
ARIB
IPTV Forum
放送通信連携
放送サービス
検討作業班
HTML5 WG
リエゾン
■
■
放送通信連携技術
の調査・検討
■
放送通信連携システ
ムの課題抽出
■
ICT国際標準化推進会議
次世代ブラウザーWeb and TVに
関する検討会
仕様の国際標準化
に貢献
■
国内規格(ARIB),
国際標準化
(ITU-R)
への対応
ITU-R
受信機メーカー
HTML5の要件(サー
ビス,機能,アプリケー
ション管理)検討,放送
通信連携システム技術
仕様の策定
作業部会
リエゾン
W3Cにおける国際的な
WebとTVの動向や
HTML5の仕様検討の動き
を国内の関係事業者にフ
ィードバック
■
HTML5 WGが検討した仕
様のうち,特に,ブラウザ
ーに直結した部分を中心
に,日本発の国際標準にす
るために,対応戦略を議論
し,
W3Cなどへ提案
仕様の国際標準化
に貢献
国際動向の反映
HTML5のブラウザー
仕様書とW3Cの議論・
検討内容を分析
放送事業者
■
通信事業者
W3C
16図 国内の標準化の審議体制
放送信号への追加情報
放送番組
放送局
放送局仕様
望ましい仕様
メーカー仕様
サービス事業者仕様
標準化
サービス事業者
アプリ
ケーション
アプリ
ケーション
受信機
アプリ
ケーション
アプリケ ーション
サ ー バー
セキュリティー
サービスごとの
サーバー
スト リ ーム
サ ー バー
放送局サーバー
API
アプリケーションの
管理/配布
リポジトリー
アプリ
ケーション
API
放送通信
連携機能
トランスポート
フォーマット
一部標準化
セキュリ
ティー
API
基本機能
アプリ
ケーション
PC
アプリ
ケーション
携帯端末
17図 IPTVフォーラムで想定するシステムモデル
of Radio Industries and Businesses:一般社団法人 電波産業会)で行なっている。この中
に放送通信連携放送サービス検討作業班があり,放送通信連携に関わる動向を調査・検討し
ている。今後,ITU­R(International Telecommunication Union ­ Radiocommunication
Sector:国際電気通信連合無線通信部門)における放送通信連携システムの勧告化に向けて,
IPTVフォーラムでの検討結果を基にARIBを通じて提案していくことになる。
W3Cでの議論も考慮して,IPTVフォーラムでは,現在,17図に示すシステムモデルを想
定している。放送局は放送信号に情報を追加するとともに,サービス事業者に放送局が持っ
ている番組に関連する情報を提供する。サービス事業者はインターネットを通してアプリケー
ションとコンテンツを提供する。このシステムモデルはHybridcastとよく似た構成である。
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講演2
2表 IPTVフォーラムでのアプリケーションの定義
マネージド
(放送番組と関係があり,放送事業者が放送番組との
同時提示も認めた信頼できるアプリケーション)
アンマネージド
(左記以外)
アプリケーションの種別
放送マネージド
放送外マネージド
一般
アプリケーションの認証
放送信号
放送信号以外(署名など)
−
放送機能の利用
(放送動画,音声,SI※)
可能
不可能
アプリケーションの例
多言語字幕,マルチビューなど
チャンネル横断のVODサービス,
SNSなど
その他
標準化時期
早期
次期
−
※Service Information:デジタル放送を視聴するために必要な情報,番組タイトル,放送時間,出演者などの情報で構成される。
3表 Hybridcastに求められるセキュリティー機能
機能
内容
アプリケーション認証
・信頼できるアプリケーションだけを受信機で利用可能にする
提示制御
・災害報道などの緊急時においては,アプリケーションを一時的に非表示にして,放送番組を全画
面で表示することができるようにする
・放送事業者の意図に基づいてアプリケーションの表示方法※1を決定する
アクセス制御
・信頼できるアプリケーションだけが放送リソース※2および受信機の機能を参照可能とする
エンフォースメント
・非対応受信機でのアプリケーションの利用を排除可能とする
リボケーション
・放送事業者や利用者の利益を損なう,問題のあるアプリケーションを無効化する
※1 表示・非表示の制御,表示領域,表示サイズ,放送画面へ重ねて表示することの可否。
※2 放送による映像,音声,SI情報など。
また,IPTVフォーラムでは,2表に示すようにアプリケーションをマネージドとアンマネー
ジドの2種類に分類している。マネージドは放送事業者が信頼できると保証したアプリケー
ションであり,常に安全に使うことができる。放送波で連携情報を取得できない放送外マネー
ジドの場合には認証・署名などを使って安全を確保する。現在,このような標準化を行いな
がら,Hybridcastを中心とした新しいビジネス環境の構築を目指している。
9.新しいビジネス環境に向けて
先に述べたように,放送通信連携サービスには,新しい組織や新しいコンテンツ提供事業
者といったサードパーティーの参加で,より有益で面白いサービスが実現されると期待され
るが,放送の公共性は確保する必要がある。このため,認証技術などで安全性を確実に実現
する必要がある。このような議論はヨーロッパやアメリカでも活発である。
3表に,放送と通信が連携したHybridcastのような環境で求められるセキュリティー機能
を示す。第1に,信頼できるアプリケーションだけを受信機で利用可能にするためのアプリ
ケーション認証機能が必要である。次に,緊急時,例えば,緊急地震速報が発令されたとき
などにアプリケーションを一時的に非表示にして,放送番組を全画面で表示するなど,放送
局がアプリケーションの表示をコントロールできるようにする提示制御機能が必要である。
また,信頼できるアプリケーションだけが放送コンテンツや個人情報などの受信機の情報や
機能にアクセスできるようにするためのアクセス制御機能や,Hybridcastに非対応の受信機
ではアプリケーションを利用できないようにするエンフォースメント機能が必要である。更
に,問題となるアプリケーションが万が一出回ったときに,それを無効化するリボケーショ
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4表 放送法の一部
放送法第15条
協会は,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ良い放送番組による国内基幹放送を
行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的
とする。
放送法第20条
協会は,第15条の目的を達成するため,次の業務を行う。
(省略)
2 協会は,前項の業務のほか,第15条の目的を達成するため,次の業務を行うことができる。
二 協会が放送した放送番組及びその編集上必要な資料(これらを編集したものを含む。次号において「既放送番組等」
)
。
という。
)を電気通信回線を通じて一般の利用に供すること(放送に該当するものを除く。
三 既放送番組等を,放送番組を電気通信回線を通じて一般の利用に供する事業を行う者に提供すること。
八 前各号に掲げるもののほか,放送及びその受信の進歩発達に特に必要な業務を行うこと。
(関連項目だけを記載)
ン機能が必要である。Hybridcastを実現するためには,このような機能をあらかじめ備えて
おくことが重要である。
10.Hybridcastの法制度上の課題
放送事業者は放送法を順守しなければならない。4表にその一部を抜粋して示す。
放送法の第15条には,
「NHKは放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行う」と記載
されている。放送通信連携サービスは放送の進歩発達に必要な技術であり,技研はHybridcast
の研究をこの条文にのっとって行なっている。また,放送法の第20条には,NHKがネット
を利用するためのルールが記載されている。2項の二には,
「放送した放送番組及びその編
集上必要な資料を電気通信回線を通じて一般の利用に供すること」ができると記載されてい
る。つまり,この条項で,放送済みの番組とそれに関連する情報をインターネットを利用し
て提供することができると定められている。
これまでに紹介したHybridcastのサービスの中には,放送法との整合性が微妙なサービス
もあるが,技研としては,放送と通信の機能を最大限に活用するために,さまざまなことが
できる環境をきちんと作ろうと考えて,技術開発を進めている。多くの視聴者の皆様に利便
性の高いサービスであれば,そのとき,法制度上の問題を解決していこうというスタンスに
立っている。
11.Hybridcastの今後の展開
18図にHybridcastの今後の展開をまとめた。ピンクの吹き出し部分がHybridcastを実際
に運営していく際に必要となる業務である。放送局は放送番組に関連する情報をサービス事
業者に提供し,サービス事業者はそれを使うアプリケーションとコンテンツを提供する。こ
の他に,対応受信機を普及促進させるための連携体制を作る必要がある。
緑の吹き出し部分がHybridcastを構築する際の業務である。プラットホームを開発すると
ともに運用環境を整備し,放送や個人情報を守る技術を開発・整備する。また,そのための
標準仕様も策定する必要がある。これらの業務は,NHKだけでできる業務ではなく,さま
ざまな事業者と連携を取りながら推進していきたい。
先にも述べたように,Hybridcastの目的はテレビ放送を強化することである。テレビは,
歴史的に見ても「あたかもその場にいるかのような」情報を伝えることを目指して発展して
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講演2
アプリケーションの開発
コンテンツの提供
放送番組に関連した
情報を提供
プラットホームの構築
サービス事業者
コンテンツ
サーバー
tag
放送局
放送や個人情報を守る
基盤技術の開発・整備
アプリケーション
サーバー
各種
ネットサービス
クラウド技術
連携体制の組織
管理
サーバー
運用環境の整備
対応受信機の
普及促進
tag
放送番組
標準仕様の策定
®
連携
携帯端末
18図 Hybridcastの今後の展開
独自にアプリケーション
を開発し,多彩なサービ
スを提供
■ 番組に多国語音声や手話
CGなどを追加して誰で
も楽しめる
心
安全・安
みんなで
便利に
豊かに
■ さまざまなプレーヤーが
■ 放送・インターネットの
多種多様なコンテンツが
視聴可能に
■放送番組とSNSが連携
■インターネット上の友達
■重要な情報を確実・迅速・正確に
■災害時の安否・ライフライン情報
と会話しながら番組を視
聴
を情報フィルタリングやSNSを
活用して適確に提供
■ セカンドスクリーンでよ
り見やすく・より使いや
すく
山口県に洪水警報
山口放送局ニュース
下関市 定点カメラ
HTML5をベースとしたオープンなプラットホーム
公開APIを用いて,アプリケーションが放送と通信のコンテンツを利用可能
放送番組
Hybridcast受信機
通信コンテンツ
放送の高品質化も推進
19図
Hybridcast で実現できるもの
きた。これは,現在,技研で取り組んでいる大画面高画質という方向と同じである。臨場感
の高い情報を伝えることが視聴者の皆様の放送の利用につながると考えている。Hybridcast
はテレビ放送を強化するためにインターネットを活用しており,既存のコネクテッドTV
などとは異なる特徴である。放送が発展すると,Hybridcastはその放送を更に強化する役割
を果たす。今後,放送の高精細化に合わせて,Hybridcast4K,Hybridcast8Kという形に
発展することも視野に入れて開発を進めることが,受信機などの産業の育成にもメリットが
あると考えている。
12.まとめ
19図にHybridcastで実現できるものをまとめた。Hybridcastの目的はインターネットを
使って放送を強化することである。Hybridcastを使って放送を豊かにし,放送事業者だけで
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NHK技研 R&D/No.135/2012.9
なくさまざまな事業者がサービスを提供できるようになる。また,技研の研究方針の1つで
もある,障害のある方にも有効なサービスを提供することができる。放送やインターネット
の多種多様なコンテンツを有効に活用することで利便性が高くなり,SNSを利用してバーチャ
ルなお茶の間のような世界でコンテンツを楽しむこともできる。また,放送には不可欠な安
全・安心もHybridcastで実現できる。更に,放送の高品質化もHybridcastの研究開発を通し
て推進することができる。本稿を通して,皆様と連携してHybridcastの仕組みを作り,早期
にHybridcastのサービスを始められるように進めていきたい。
か と う ひさかず
加藤久和
1982年NHK入局。甲府放送局を経て1985
年から放送技術研究所において,衛星放送シ
ステム,BSデジタル放送方式の研究開発,
ARIBおよびITU­Rでの標準化活動に従事。
1998年から技術局でBSデジタル放送の設備
整備と標準化に従事。2001年から放送技術
研究所において企画業務。2003年から技術
局において放送事業用周波数計画,デジタル
放送,サーバー型放送,IPTVの規格化などに
従事。2009年から放送技術研究所において
Hybridcastの立ち上げに従事。2012年から
メディア企画室専任局長。博士(工学)
。
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