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吉川教授の総評

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吉川教授の総評
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バランス・スコアカード・コンファレンス 2009
法政大学大学院教授
横浜国立大学名誉教授
エジンバラ大学客員教授
総評
吉川 武男
氏
皆様、この度は、2009 年 11 月 26 日
(木)
に開催されましたバランス・スコアカード・コンファレンス
2009(以下 BSC コンファレンス)にご参加いただき、本当にありがとうございました。
心から厚く御礼申
し上げます。
遅ればせながら、
同日、
丸一日通して行われたコンファレンスの総評を行いたいと思います。
まず、今回の BSC コンファレンスに出演した企業8社による講演の内容を簡単にまとめます。
最初は
BSC 導入企業の発表として、全日本空輸の小澤氏、奥野氏からそれぞれ、
「ANA オペレーション部門に
於ける BSC 導入の背景」
、
「BSC を活用した経営品質の向上」
を講演。
同社は空港オペレーション事業分
野でBSCを導入しており、経営品質の向上
(強い現場力と新しいオペレーションで、お客様の心をつ
かむ)
を、ミッションの視点、時間価値の視点、業務プロセスの視点、人材と組織の成長の視点、安全の視
点を通してチャレンジしている様子を披露。
引き続きタムラ製作所の西村氏から、
「グループ戦略推進に向けた中期経営計画への BSC 導入6年間
の軌跡と、今後に向けた新たな挑戦」
を発表。
同社は、長期と中期と半期計画のスパンの下でビジョンと
ミッションを目標に、人材の視点で現場力の強化と職場の活性化をはかり、業務プロセスの視点でム
リ、ムラ、ムダのない業務を推進し、顧客の視点で企画力・専門力・総合力による顧客価値の向上をは
かり、
財務の視点から利益追求による企業価値の向上をはかっています。
続いてBSCと知的資本経営活用セッションとして、アクセルの船橋氏より
「知識社会に於ける企業
の持続成長モデル」を発表。
これからの日本企業には自社の持つ知的資本を可視化し、知的資本経営の
実践により持続的成長をもたらすことを強調。
午後に入り、
BSC活用セッションとして、ビービーシステムの下橋氏から「マネージャーを育成し、
戦略ナレッジ・マネジメントツール」
を、マイクロソフトの米野氏から
「不確実な経済状況に備え組織体
質を改善するパフォーマンス・マネジメント・システム」
を、それぞれ発表。
BSCを運用していくうえ
で、経営者から現場の社員にいたるまで全社でコミュニケーションを良くし、各種情報を共有してBS
Cを推進していくうえで、
さまざまなITツールの活用が不可欠であることを実感させられました。
それからふたたび BSC 導入企業講演として、ジェネリック薬品のメーカーである大洋薬品工業の安
藤氏が、
「社会に信頼され、貢献するジェネリックファーマになる為に ∼競争力のある医療品工場を
めざして∼」
を発表。
同社は、平成17年にポーター賞を受賞しており、バランス・スコアカードを中期
経営計画の
「見える化」
と、工場の進化を
「数値化」
に活用しようと試みています。
BSCの取り組みから
得られた利点として、
①工場内の結束力の強化、
②コミュニケーションの強化、
③柔硬な物の見方の促
2
進、
④方向性、
を挙げていました。
続く、住友セメントシステム開発の中野氏が
「BSC 定着への取り組みと、目標管理、人事評価制度への
展開」
を発表。
同社は、平成16年に経営トップが交代したタイミングからBSCを導入し、当時のBS
C導入効果は、
①戦略、アクション・プランの明確化と目標値の定量化、
②戦略策定スキルの向上、
③財
務の視点+非財務の視点への意識改革、
④効率的な進捗管理の実現。
同社は、現在こうしたBSCが定
着しております。いずれの事例もBSCを導入していくうえでトップのリーダーシップの存在が鍵で
あることを強く印象付けられました。
そして最後の特別講演として、今回の BSC コンファレンスの為にサンフランシスコから来日したユ
ニオンバンク(米国)の南雲氏が「バランスト・スコアカード(BSC)の未来形」を発表。
南雲氏は当研究会
にて、
東京三菱銀行
(当時)
時代より過去3回出演。
今回は特別講演ということで、
BSC導入・運用に1
0年の長きに携わっている経験から、
“BSCの将来の姿 ”はこうなるだろう、といったところを語っ
ていただきました。
南雲氏によるとBSCの未来形は、次の通り5つの局面があるとのことです。
①マネジメント・プ
ラットフォームとしての統合領域の拡大・体系化、
②BSC適用組織・領域の拡大、
③BI
(ビジネス・
インテリジェンス)との統合化、
④BSCコミュニティによるBSCの共創、
⑤BSC担当者のプロ
フェッショナル化。
といったBSCの熟練者ならではの多くの示唆に富む講演を披露。
このように BSC 導入企業、導入支援企業各社よる発表は、すばらしい内容で、感動いたしました。
特
に、
心の底から感じたことは、
今こそ日本にBSCの導入が必要不可欠である、
と言うことです。
即ち、
日
本の現状は、ハーバードビジネススクールのキャプラン教授がBSCを提唱した当時
(’
92 年)
のアメリ
カ以上に厳しい状況にあるからです。
このような時代では、
「感と度胸」
や
「がんばろう」
に代表される精
神論的経営ないし有視界経営ではなく、将来をしっかり見据えて、ビジョンと戦略を明確に掲げ、掲げ
たビジョンと戦略を絵に描いた餅にしないよう組織の全員に浸透させ、トップから従業員1人ひとり
に至るまで、組織全員のチーム・ワークと結束力を強化し、自分たちの夢であり目標であるビジョンを
戦略の実行を通して実現に向けて、
果敢に挑戦させる、
BSCの重要性を非常に感じさせられました。
この様に、経済環境の大変厳しい時代にあり、今回の BSC コンファレンスでは、実践から多くのこと
を学ぶことが出来、たいへん有意義なコンファレンスであった、と確信しております。
これも一重に参
加者の皆様によるご支援と、出演各社の皆様と、これまでバランス スコアカード研究会の運営・実施し
ている日経ピーアールによるもの、
と深く感謝を申しあげます。
これからもバランス・スコアカードで日本の企業や行政や病院等を元気にするよう頑張っていきた
いと思います。
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