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口から食べるためのリハビリテーション
第25回 日本意識障害学会 2016.7.23 教育実践セミナー2 摂食・嚥下・口腔ケア 口から食べるためのリハビリテーション 香川大学医学部附属病院 黒川 リハビリテーション部 清博 本日の内容 うどん食べた? 1. 摂食・嚥下に関する基本的知識 2. リハビリの視点に立った口腔ケア 在宅でできる! 3. 嚥下の評価とリハビリのポイント * 写真や動画の使用については患者、ご家族の同意を得ています 香川大学医学部附属病院 病床数:613床 平均在院日数:15.1日 診療科:32科 診療施設:24施設 耳鼻咽喉科・頭頚部外科 ST リハビリテーション部 ST ST ST ST依頼件数と内訳 (人) 600 摂食・嚥下障害 500 構音障害 400 失語症 300 200 100 218 284 347 357 371 その他 0 2011 2012 高次脳機能障害 2013 2014 2015 (年度) 当院における脳損傷者の意識レベルと摂食状況 脳損傷による摂食嚥下障害患者数:307名/1577名 軽度 (GCS:14・15) 中等度 (GCS:9~13) 重度 (GCS:3~8) (223名) (67名) (17名) 3食経口 摂取不能 18% 11% 3食経口摂取可能 82% 3食経口摂取不能 89% 3食経口摂取不能 100% 意識障害が重度化すれば3食経口摂取は困難 なにかしらの経口摂取はできるの? 軽度 (GCS:14・15) 中等度 (GCS:9~13) 重度 (GCS:3~8) (223名) (67名) (17名) 摂食訓練不能 4% 摂食訓練可能 96% 摂食訓練 不能 51% 摂食訓練 可能 49% 摂食訓練 8名 不能 摂食訓練 36% 可能 64% 重度意識障害でも食べられる可能性はある 24名 1.摂食・嚥下に関する基礎知識 Q. 意識障害の人に食べる練習はできるの? A. 食べるための練習はできます! ごっくん 摂食・嚥下障害になってみよう! ① 普通に唾を飲んでください ・口唇が閉じる ・ごっくんの前に舌先を上の歯の裏に当てる ・ごっくんの時に舌全体が上あごにしっかり付く ② 口を開けて唾を飲んでください 口唇 ③ 舌を動かさずに唾を飲んでください (舌先を下の歯の裏に付けたまま) 舌 ④ あごを上げ上を向いたまま唾を飲んでください 姿勢 嚥下には「口の動き」と「姿勢」が重要 口唇が閉じない ・口からこぼれる ・圧力が口から逃げる 舌の動きが悪い <動画内容> 同じ被験者で嚥下造影検査(VF)を実施 ①普通にゼリー摂取 ②口を開けて舌を歯の下に付けて上を向いてゼリー摂取 ↓ <結果>咽頭に残留が多くなりなかなか飲みこめない ↓ 嚥下は咽頭の動きだけではなく、口腔や姿勢も大きく関係 している ・のどに送り込めない ・力強い嚥下ができない あごが引けない ・喉頭が上がりにくい ・舌が上あごに付きにくい 2. リハビリの視点に立った口腔ケア 咽頭ケアと口腔リハビリ ガラガラうがい 咽頭は痰、食物残渣が貯まりやすく細菌が繁殖しやすい 誤嚥性肺炎を起こす背景には嚥下障害がある 咽頭ケアを行い、口腔機能を改善する必要がある R ○ くるリーナブラシ の特徴 柄 付 き く る リ ー ナ ブ ラ シ ・ ミ ニ 吸 引 く る リ ー ナ ブ ラ シ ・ ミ ニ 咽頭ケアが容易に行える 口腔周囲の筋肉のストレッチが可能である 唾液腺刺激により口腔内が湿潤してくる 咳反射を促し自己喀出を導ける 口腔内に安全かつ容易に挿入できる 痰や食物残渣を絡め取ることができる 口腔ケア・咽頭ケア・口腔リハビリを簡単かつ 効果的に行なうことが可能である 口腔ケア・口腔リハビリの効果 舌の形が違う リハビリ前 20分後 リハビリ後 鼻腔のチェックも忘れずに! 口腔ケア中は基本的に 鼻呼吸になるので 鼻腔のチェックも重要です あると便利! 「真空式スプレー」 100円ショップで売っています 簡単にできる咽頭ケアと口腔リハビリ <動画内容> ①口唇を濡らして出血予防 ②口腔乾燥が強い場合は事前に保湿剤を塗布 して乾燥痰をふやかす ③くるりーなブラシで大きな汚れを取る (口唇裏→口蓋→咽頭→舌) ④歯のある方は歯ブラシでブラッシング ⑤口輪筋や舌をくるりーなブラシでストレッチ (口輪筋は内から外に広げるように) (唾液腺を刺激して漿液性唾液を分泌) (舌は奥から手前→上から下→下から上に かけてストレッチ) ⑥口蓋垂付近を軽くこすり、咳反射を誘発 ⑦口腔内が漿液性唾液で湿潤したら、下顎や 口唇を徒手的に閉鎖して、唾液嚥下を誘発 する 3. 嚥下の評価とリハビリのポイント Q. 今の飲み込む力はどのくらいあるの? <経口摂取開始基準> ① 全身状態が安定している ② 覚醒する時間がある ③ 嚥下反射を認める ④ 痰が少なく、口腔内が清潔 ・嚥下機能評価 ・直接訓練 間接訓練 (食べるための準備が必要) 間接訓練:座位練習 少しずつ前に体重をかける 足の裏をしっかり床に付ける 自立動作を誘導する 使い慣れた道具を利用して 日常生活動作を取り入れる 間接訓練:口腔リハビリ 送り込みや嚥下前には口角が引かれる:「イ」 口角を引けば舌は横に広がる 奥舌を口蓋に付ける 口をすぼめると舌は細くなる 食べ物を取り込む時の口:「ウ」 間接訓練:アイスマッサージ <動画内容> くるりーなブラシを使用して ①常温水でアイスマッサージ ②氷水でアイスマッサージ <結果> 氷水の方が嚥下反射は良好 →口腔内には冷点の方が多く 冷たい刺激は感覚入力しやすい <ポイント> いきなり軟口蓋や奥舌をマッサージするのではなく、口の動 きを出して、嚥下反射前には必ず口を閉じてから唾液嚥下を してもらうように誘導する 口を閉じる 唾液嚥下を誘発 間接訓練:味覚刺激(飴なめ) <動画内容> 棒付き飴を使用して ①味覚刺激にて口腔の動きを誘発 ②飴をなめた後に口を閉じて、嚥下反射を誘発 アイスマッサージだけでは味覚がないので、飴なめを 実施することで、嚥下機能だけではなく、脳へのアプローチ (覚醒や認知向上)も意識して行う 脳神経の40%は顔面領域 脳へのアプローチ 意識障害患者に対する間接訓練のポイント ① 口腔内を清潔にして誤嚥性肺炎を予防する ② 座位姿勢を取り覚醒を促す ③ 口腔リハビリにて口唇や舌の動きを出す 漿液性(さらさら)唾液を上手に飲める 食べ物を用いた評価・直接訓練へステップアップ! 嚥下評価や直接訓練で大切なこと 嗜好品と食事習慣を知る <動画内容> 嚥下造影検査(VF)にてうどんを食べ方の違いを検証 ①岡山県出身の方 しっかりうどんを咀嚼して、食塊形成をしたあと、咽頭に 送り込んで嚥下する ②香川県出身の方 うどんを一気にすすり、咀嚼せずそのまま咽頭まで送り 込み、丸飲み嚥下する (うどんは喉ごし!) ↓ 香川の方にとっては、うどんは「丸のみ」が正常。 食事を診るには、その方の食事習慣も踏まえて評価・訓練 することが重要であることの参考動画。 食事姿勢 座高の約1/3 足底をつける 握りこぶし1個分 手をテーブルの上に置く 食べ物を用いた嚥下評価 ゼリーやプリンを食べてもらう 評価項目 ① スプーンを入れる前に口が開く ② 食べ物が入ると唇が閉じる 判断 覚醒度や認知機能低下 ⇒ 誘導しても無理なら中止 ③ 口や舌が動いて嚥下反射が出る 嚥下反射が多い ⇒1回に飲める量が少ない ④ 遅れて咽せないか 不顕性(むせない)誤嚥の可能性あり ⑤ 飲んだ後の声はきれい 喉に残留 ⇒ 喉の感覚低下 ⇒ 不顕性誤嚥 ⑥ 最後まで同じペースで食べられる 耐久性低下 ⇒ 少量ずつ摂取 バナナボード食 軟らか食 極きざみあんかけ食 ペースト食 易 ⑦ 口腔内残留はないか 一口大食 難 口腔内残留は咽頭残留と比例 ⇒ 食事形態を下げる らくらくごっくん <動画内容> らくらくごっくんを使用した患者VF (主訴:水分摂取に時間がかかりむせ込む) R ○ 口の開きが悪い 食物を口にため込む ①スプーンで全粥摂取 咀嚼動作が出現するため、それにつられて 嚥下反射が出やすく、時間がかからない ②スプーンでとろみ水分摂取 咀嚼運動が出現しにくく、1分経過しても喉に 少しずつ水分がたまるだけで嚥下反射が出 にくい ③らくらくごっくんにてとろみ水分摂取 咽頭付近まで直接水分を流し込めるので 嚥下反射が早い (注意:咽頭期が良好な方が対象) 上:ミキサー食用 下:水分用 ① 先端部を舌の真ん中に挿入 ② 口腔を刺激しながら少量ずつ出す 直接訓練の進め方 誤嚥を疑う症状 ・むせる ・37度以上の発熱 ・痰の増量(膿性) ・息が荒くなる ・食事時間の遷延 食事内容アップの目安 アップの順番 ・嚥下がスムーズ ① 食事回数 ・30分以内に2/3摂取 ・誤嚥を疑う症状が 3日以上みられない ② 食事形態 患者さんやご家族の方から学んだこと 橋出血後、2年間人工呼吸器管理 ST介入開始 ・嚥下反射なし 家族に提供した 口腔リハビリ道具 ・頸部不安定 口腔リハビリを中心に実施 3か月後 嚥下反射出現 1年半後 PEG ゼリー摂取訓練開始 2年後 楽しみ程度の経口摂取 (ゼリー、プリン) ← <動画内容> ①口腔リハビリを3か月実施して、ようやく嚥下反射が出現 (当初は嚥下するために舌を上から5秒以上押す必要があり) ②嚥下反射が安定して出現するようになり、ゼリー摂取もスムーズ あきらめない 「食べる」幸せ、「食べさせてあげられる」幸せ ご清聴ありがとうございました