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本説明書の内容 - 船橋市立医療センター

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本説明書の内容 - 船橋市立医療センター
脳神経外科に入院する
患者さん・ご家族の皆様への全般的説明書
船橋市立医療センター脳神経外科(改訂第5版:2004年4月1日)
この説明書は、船橋市立医療センターの脳神経外科に入院する患者さんとご
家族に対して、全般的な説明をするために作成されたものです。入院時に全員
にお渡しします。個々の患者さんの疾患・状態によって、病態が異なりますの
で、担当のドクターはこれ以外に個別的な説明も行います。わからないことが
あれば、遠慮なく質問してください。
本説明書の内容
1、特にご理解いただきたいこと
2、脳神経外科が関係する疾患・診断
3、脳の構造
4、脳に関係する症状
5、脳神経外科の主な検査
CT,MRIの断層の種類
脳血管撮影の説明書
6、脳の病気または外傷で合併しやすい病態
7、脳神経外科の主な治療法
8、予後(今後の見通し)
参考資料:当院脳神経外科入院患者の転帰、死亡率(5年間の統計)
9、平均在院日数について、長期入院が必要な場合の転院のお願い
10、医療福祉相談室について、公的社会制度による支援について
11、当直体制、看護体制
12、家族の方の付き添いについて
13、リスクマネジメント
参考資料:医療事故防止対策マニュアル(船橋市立医療センター脳神経外科)
1、基本的認識と発想の転換
2、医療事故防止対策の基本原則と戦略
3、脳神経外科における具体的な医療事故防止対策
4、患者・家族のリスクマネジメント20か条
この部分は必ずお読
みください
<1>
1、特にご理解いただきたいこと
1)インフォームドコンセント
原則として、説明を十分に行いそして患者さん・ご家族の同意のもとに脳
神経外科の診療を行っていきます(緊急時の場合は救命治療を最優先いたし
ます)。担当医からの説明の他に、この全般的説明書を良くお読み下さい。
不明な点は遠慮なく質問して下さい。
2)リスクマネジメント
当脳神経外科の医療事故防止対策マニュアルを公開しますので、お読みく
ださい。そして「危険がいっぱい、みんなでリスクマネジメント」をご理解
下さい。必要に応じ、「リスクマネジメント連絡報告書(リスクマネジメン
ト・レター)」でご説明することがあります。また、実際に危険なことが生
じた場合にも報告いたします。担当医および脳神経外科部長の判断で即座に
警察に連絡することがあることをご承知おきください。
3)医の倫理基準と社会的公正
下記の5つの倫理基準にしたがって脳神経外科の診療を行います。特に
Social justice(社会的公正)についてご協力ください。
The Five Principles of Medical Ethics ( Luce JM: JAMA 263:
696-700,1990)
(1)Beneficence:患者に対する利益供与
(2)Nonmaleficence:患者に害を与えない
(3)Autonomy:患者・家族の自主決定権の尊重
(4)Disclosure:自主決定するのに役立つ情報の供与
(5)Social justice:社会的公正 「公平にかつ医学的需要にした
がって医療資源を分配する
4)セカンドオピニオンなど
脳神経外科の責任者から話しを聞きたいときは、そのように担当医または
ナースにお話しください。また、セカンドオピニオンなど他の病院の医師の
意見を求めたいときも、遠慮なくそのようにお話しください。
5)オープンベッド
オープンベッドに入院を希望する場合は、そのように担当医またはナース
にお話しください。
6)医事会計
医事会計については医事課でおたずね下さい。保険審査の結果当初の医事
会計が後日に訂正されることがあることもご承知おきください。
<2>
2、脳に関係する症状
1)頭痛、嘔気、嘔吐
2)意識障害、呼吸障害、体温調節障害
3)運動障害:片麻痺、四肢麻痺、不全麻痺と完全麻痺、不随意運動
4)感覚障害:しびれ、感覚低下、異常感覚
5)言語障害:失語症(運動性失語と感覚性失語)、構音障害
6)脳神経の症状:嗅覚、視覚、眼球運動、顔面の感覚、顔面の動き、聴覚、平衡感覚、発
声、嚥下などに関係する症状
7)その他:めまい、ふらつき、失調、けいれん
3、脳神経外科が関係する疾患・診断
1)脳血管障害(脳卒中)
(1)脳内出血(脳出血):高血圧性、脳血管奇形、アミロイド血管症、その他
(2)くも膜下出血:脳動脈瘤破裂、脳血管奇形(脳動静脈奇形など)、その他
(3)脳梗塞:脳血栓、脳塞栓、出血性脳梗塞、血管の閉塞・狭窄、一過性脳虚血発作
(4)その他:もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)、海綿状血管腫、その他 2)頭部外傷
(1)骨折:頭蓋骨骨折、顔面骨骨折、視神経管骨折など
(2)外傷性頭蓋内出血:脳挫傷、脳内血腫、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、外傷性く
も膜下出血、脳室内出血、硬膜下水腫、亜急性硬膜下血腫、慢性硬膜下血腫、その他
(3)その他:びまん性軸索損傷、外傷性血管損傷、外傷性てんかん
3)脳腫瘍(良性腫瘍と悪性腫瘍)
(1)神経膠腫(グリオーマ)、星状細胞腫、悪性神経膠腫、多形膠芽腫
(2)髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫(聴神経腫瘍、三叉神経腫瘍、その他)
(3)頭蓋咽頭腫、血管芽腫、松果体腫瘍、その他
(4)転移性脳腫瘍、悪性リンパ腫、その他
4)その他
(1)先天性疾患:水頭症、くも膜嚢胞、キアリ奇形、その他
(2)感染症:髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、その他
(3)頭痛:緊張型頭痛、血管性頭痛(片頭痛)、混合型頭痛、三叉神経痛
(4)その他:片側顔面けいれん、てんかん、脊椎、脊髄、末梢神経疾患、ギランバレー症
候群、痴呆症(アルツハイマー型痴呆、血管性痴呆)、パーキンソン病、その他:
<3>
4、脳の構造
脳は次の三つの部分から成り立っています。
(1)大脳:最も大きな部分で、左右の大脳半球からなります。運動・感覚・視覚・聴覚・
言語・思考・意欲・知性・感情などに関係します。記憶に関係しているのは側頭葉の深部の
海馬という部分であり、感情に関係しているのは、大脳皮質に包まれ脳室をとり囲む部分
(大脳辺縁系)であると考えられています。
(2)小脳:大脳の後下方に位置する小さなかたまりが小脳です。体のバランスをとったり、
運動をコントロールしたりします。
(3)脳幹:木の幹のようにみえる部分です。間脳・中脳・橋・延髄からなります。脳幹に
は、人間が生きていくために必要な呼吸・循環・体温調節などの中枢や意識の中枢が存在し
ます。
脳は硬膜、くも膜、軟膜という3つの膜で被われています。脳表の動脈はくも膜下腔に存
在します。
脳の中には脳脊髄液が生産され、くも膜下腔へと流れていく脳室という通路があります
(側脳室、第3脳室、中脳水道、第4脳室)。脳脊髄液はくも膜顆粒で静脈に吸収されます。
大脳
大脳皮質
頭頂葉
前頭葉
運動
知的・
精神的
機能
間脳
脳幹
中脳
感覚
発語
言語理解
聴覚
小脳
視覚
後頭葉
橋
側頭葉
延髄
くも膜顆粒
頭皮
側脳室
頭蓋骨
硬膜
くも膜
第3脳室
くも膜下腔
脳表の動脈
中脳水道
第4脳室
軟膜
大脳皮質
③
くも膜下腔
<4>
5、脳神経外科の主な検査
1)レントゲン検査: X線(レントゲン線)で頭部・頸部・胸部などを撮影する。
2)CT(コンピュータ断層撮影):X線とコンピュータを利用して断面像をつくる。造影剤を
使用して撮影することもある。
3)MRI(磁気共鳴画像)、MRA(MR血管造影):X線を使わず、磁場の中の生体の原子核から
出る反響信号をコンピュータにより画像化する。MRAは血管を画像化する。造影剤を使用する
こともある。
右
左
右
左
4)脳波:脳細胞が示す電位変化を波として頭皮上から記録する(頭皮に皿電極または針電
極をつける)。
5)ABR(聴性脳幹反応):ヘッドホーンで音を聞かせ、頭皮上から電位変化を記録する。聴
神経と脳幹の機能を検査する。
6)SPECT(single photon emission CT):脳血流量(脳循環)を測定する。
7)脳血管撮影:DSA(digital subtraction angiography):脳の動脈・静脈などを造影す
る検査。
8)腰椎穿刺による髄液検査:腰部から髄液を穿刺採取し、検査する。腰椎穿刺後に頭痛が
生じることがある(腰椎穿刺の2∼40%)。腰椎穿刺により髄液の漏出が生じ、24∼48時間後
に頭痛、嘔気、嘔吐、めまいが生じる。頭痛の持続は平均4日。
側臥位で腰椎穿刺
座位で腰椎穿刺
<5>
Cerebral Angiography (脳血管撮影、脳血管造影)
DSA ( Digital Subtraction Angiography )
(1)脳血管撮影とは
頭蓋内や頸部の病変が疑われる場合には、その診断および治療のために、脳血管撮影が必
要になります。DSAとは、デジタル方式で頭蓋骨などを消去して造影剤が流れる血管だけを
見やすくする方法です。脳血管撮影は、必要に応じて複数回行うことがあります。
(2)脳血管撮影の方法
検査は血管撮影室で行います。鼠径部(下肢のつけね)、肘、わきの下、頸部などからカ
テーテルを挿入し、造影剤を血管内に注入して撮影します。
(3)脳血管撮影の合併症、造影剤の副作用
脳血管撮影は脳神経外科の検査の中では通常よくおこなわれている検査ですが、合併症ま
たは副作用が全くないわけではありません。主な合併症としては、血管内の血栓や塞栓によ
り、運動障害・感覚障害・言語障害などの神経症状がでるものです。これらが生じる頻度は
1%で、永続するものは0.5%、そして死亡率は0∼0.1%です。造影剤による副作用(アレル
ギー)の頻度は0.03∼0.3%で、死亡に至る可能性は 0.01-0.05%といわれています。血管内治
療が長時間になり放射線被曝により脱毛・皮膚炎が生じることもまれにあります。脳動脈瘤
などがある場合には、検査中に破裂し出血が起こることもあります。高齢者や高血圧・糖尿
病・腎機能障害のある場合には、合併症が生じやすいともいわれています。
(4)今までに服用している薬はどうするのか
ワーファリン、パナルジン、バッファリンなどを服用していると出血しやすい状態になっ
ています。病態により、①これらの薬剤の服用を続けながら検査する、または②服用を中止
してから検査します。
造影剤を
注入
<6>
6、主な救命治療: 呼吸管理、循環管理、栄養管理
1)呼吸管理:意識障害患者では、舌根低下・痰や吐物による気道閉塞が生じやすい。
また呼吸の失調・微弱化により低酸素にもなりやすい。次のような呼吸管理が必要に
なる:酸素投与、経口・経鼻のエアウェイ、気管(内)挿管、人工呼吸、気管切開
●気管挿管
適応: ①気道の確保、②適正な換気と酸素化の維持、③呼吸障害の発生が予想される
合併症:歯の損傷、鼻出血、気管狭窄など
●人工呼吸
適応:①自発呼吸消失、②意識障害があり誤嚥の危険性あり、③換気、酸素化障害
合併症:肺障害、酸素中毒、循環抑制、呼吸筋の萎縮
●気管切開
適応:①気道閉塞、②気道の清浄化、③人工呼吸管理
合併症:凝血塊や分泌物で狭窄・閉塞、肉芽組織による狭窄・出血、創感染、 チューブの抜去、チューブ再挿入不能など
経鼻
気管挿管
エアウェイ
気管切開
気管カニューレ
2)循環管理
点滴:末梢静脈からまたは中心静脈カテーテルから:中心静脈カ
テーテルにより6-12%で合併症が生じることがある(動脈穿刺、
血胸、気胸、血栓形成など)。
薬剤投与:降圧剤投与、昇圧剤投与
胃管
3)栄養管理:点滴、胃管からの流動食
4)その他:;輸血
中心静脈カテーテル
大腿静脈から
内頸静脈から
鎖骨下静脈から
<7>
7、脳神経外科の治療法
□ 開頭手術
□ 血管内治療(血管内手術)
□ 頸部頸動脈の治療(頸動脈血栓内膜切除術、その他)
□ 機能的手術
□ 定位脳手術
□ 保存的治療
□ 脳圧管理:脳圧測定、脳圧降下剤、脳室ドレナージ
□ 体温と脳温の管理
□ 全身管理:心臓などの循環器管理、肺などの呼吸管理、栄養管理、
糖尿病の治療、肝臓・腎臓などの治療
□ リハビリテーション、言語治療
□ 水頭症の治療:脳室腹腔シャント、脳室ドレナージ、ルンバールドレナージ
□ 血圧の管理:降圧剤、昇圧剤(強心剤)
□ けいれんの予防:抗けいれん剤(抗てんかん剤) 8、脳疾患に合併しやすい病態
1)けいれん発作、けいれん重積状態
2)感染症:気管支炎、肺炎、膀胱炎、敗血症、MRSA感染症
3)心臓病:心筋梗塞、不整脈、心不全
4)糖尿病の悪化、電解質異常(低ナトリウム、高ナトリウムなど)
5)血栓症:肺梗塞、深部静脈血栓症
6)消化管出血
9、予後(今後の見通し)
病態、重症度、年齢などにより見通しは異なります。脳の病気や外傷に関しては、
一般的に次のようなことがいえます。
1)脳の病気と外傷は死亡率が高い。
2)重症度が高いと死亡率も高い。
3)症状が変動することがある。
4)初めに症状が軽くても進行することがある。
5)小児、若年者は脳圧亢進により急変しやすい。
6)高齢者は若年者と比べると回復が悪い。
7)異なる病態を合併することがある(例:出血性の病気に脳梗塞を合併、脳梗塞に
脳出血やくも膜下出血を合併、外傷に内因性の病気を合併)
8)脳の病態はのりきっても、心不全・呼吸不全・肝不全・腎不全・消化管出血・感
染症などにより死亡することがある。
9)脳の障害により後遺症が残る。
10)重症患者でも治療に反応し改善することもある。
<8>
参考資料:当院入院患者の転帰(1998∼2002年までの脳神経外科入院患者4,208人の統計)
全治 52.9%
軽度後遺症 高度後遺症 16.2%
いわゆる「植物状
態」1.5%
1)疾患別死亡率
脳血管障害:16.5%
死亡
16.8% 12.5%
くも膜下出血:29.7%
脳内出血:26.4%(脳幹出血では62.5%)
脳梗塞:7.4%(脳幹梗塞では15.6%)
頭部外傷:9.8%
脳腫瘍:7.5%
2)意識レベル別死亡率
GCS
3- 5
70.6%
GCS
6-12
21.8%
GCS 13-15
2.6%
3)年代別死亡率
0-9 10-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 80-89 904.2% 1.2% 4.8% 4.0% 14.4% 11.8% 13.7% 17.1% 19.8% 20.0% 10、平均在院日数について、転院のお願い
0∼7日 8∼30日 46.0% 1∼3ヵ月
37.5%
12.6%
3ヵ月以上
3.9%
当院脳神経外科では在院日数は非常に短くなっています(1998∼2002年まで
の入院患者4,208人の統計:平均在院日数=20日)。次の救急患者さんが入院
できるように、今まで入院している患者さんには他院に転院していただいてお
ります。その結果、46%の患者さんは入院期間が1週間以内、そして84%の患
者さんは入院期間が1ヵ月以内です。
<9>
11、医療福祉相談室について、公的社会制度による支援について
医療福祉相談室では医療ソーシャルワーカーがいろいろな相談援助を行います。入
院時にお渡しする「医療福祉相談室のご案内」をお読みください。
小児脳腫瘍(新規18歳未満、継続20歳未満)、もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞
症)、本態性パーキンソン病、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、クロイツフェルト・
ヤコブ病、神経線維腫症などでは特定疾患の認定が受けられます。また、てんかんで
は精神障害者保健福祉手帳の交付が受けられます。くわしくは当院の医療福祉相談室
までお問い合わせください。 12、当直体制、看護体制、家族の付き添い
脳神経外科医は夜間・休日でも必ず当直しております。看護体制は日勤・準夜・深
夜に分かれております。準夜・深夜はナースの人数が少なくなります。
家族の方の付き添いは必ずしも必要ありません。しかし、病状によっては、または
リスクマネジメントのために付き添っていただいた方がよい場合があります。付き添
いを希望なさる場合は、病棟のナースにそのご希望をお話し下さい。
13、リスクマネジメント
脳神経外科に入院する患者さんの場合、病気または外傷のために次のような危険が
あります。
①
□ 点滴のチューブをからませてしまう。チューブがはずれてしまう。
②
□ 点滴を自分で抜いてしまう。
③
□ ベッドから転落
④
□ 病室、廊下などで転倒
⑤
□ 病室、病棟、病院から外へ行こうとする。
⑥
□ 自分のベッド、病室がわからない。他の部屋にはいってしまう。
⑦
□ ベッドの柵に手足をぶつけてけがをしてしまう。
⑧
□ 乱暴になる。
⑨
□ 傷口を自分の手でさわる。
⑩
□ 食べ物の飲み込みが上手にできない。
⑪
□ 痰が出しにくい。
その他、院内のシステムだけでなく医療機器もほとんどがコンピュータ化されてお
ります。コンピュータが故障し、検査が遅れたりできなくなることもあります。入院
中のいろいろな事故を防ぐために脳神経外科部長を中心にリスクマネジメントを行い
ます。お気づきのことがありましたら、主治医またはナースにお話しください。
脳神経外科では、当脳神経外科の「医療事故防止対策マニュアル」を患者さん側に
公開します。「危険がいっぱい、みんなでリスクマネジメント」という共通の認識を
もっていただくとともに、患者さんおよびご家族にもリスクマネジメントに参加して
いただきます。マニュアルをよくお読みいただくとともにご協力をお願い申し上げま
す。
< 10 >
14、医療事故防止対策マニュアル(船橋市立医療センター脳神経外科)
危険がいっぱい、みんなでリスクマネジメント
1)基本的な認識と発想の転換
まず「当脳神経外科は危険がいっぱいである」という基本的な認識をもつこと。その理
由は以下のごとくである。
(1)当院の使命:当院の使命は①救命救急医療、②高度医療、③開放型病院。
(2)多くの患者:脳神経外科に関する年間統計は以下のごとくである。一般外来の延べ
患者数は約2万人。救急外来の患者数は約1700人。入院患者数は約800人(約40%は紹介患
者)。手術件数は約300件。
(3)多くの死亡患者:入院患者のうち死亡する患者数は年間約120人である。
(4)重症患者は死亡率が高い:GCS 3-5の患者の死亡率は約70%である。
(5)急変と合併症:脳神経疾患では急変することがある。脳の病態はのりきっても、心
不全・呼吸不全・肝不全・腎不全・感染症などにより死亡することがある。
次に、従来の方法だけでは事故を完全に防止することはできないと認識すること。従来
とは異なる発想が必要である。また総論的な対策ではなく具体的な対策が必要である。
以上より、当脳神経外科では従来の発想を180度転換することにした。第一に「医療従
事者がリスクマネジメントを行う」という考えを捨て、「医療従事者だけではなく、患
者・家族とともにみんなでいっしょにリスクマネジメントを行う」という考え方に大転換
する。第二に、「医療事故対策マニュアルは医療従事者のもの」という考えを排し、「マ
ニュアルは医療従事者だけのものではなく患者・家族と共有する、つまり患者・家族にも
手渡す」という方針にする。
2)医療事故防止対策の基本原則と戦略
(1)リスクマネジメントの目標:リスクマネジメントの目標は、ずばり患者の安全確保
(Patient safety)である。
(2)リスクマネジメントの責任者と窓口になる第三者:脳神経外科の診療はチーム医療
であり、すべての責任は脳神経外科部長がとる。事故防止の責任も事故が生じた場合の責
任も脳神経外科部長がとる。事故が生じた場合、透明性を確保するためにドクター・ナー
ス以外の第三者的立場で医事課または総務課が患者および家族の訴えの窓口になる。
(3)説明に徹するとともに記録に残す:全般的および疾患別の説明書を充実させ、説明
に徹する。そして説明は記録に残す。
(4)チームワークを大切にするだけでなく異なる意見も付け加える:病院全体のチーム
ワークが大切。特に他の診療科に協力を依頼すること。症例検討会では全員が同じ意見に
ならないように、あえて異なる意見も付け加えること。
(5)リスクマネジメントの手法:病棟および外来のリスクマネジメントはエラーレジス
タントな手法(エラー発生自体を抑える手法)だけでなく、エラートレラントな手法(エ
ラーが生じても事故に結びつかないまたは大きな事故にはならないような手法)も取り入
れる。具体的なリスクマネジメントの方法は戦略的に実施する。
< 11 >
3)脳神経外科における具体的な医療事故防止対策
(1)空床の確保:空床を確保しておくことが最大のリスクマネジメントである。Social
justice(社会的公正)のために転院可能な患者は説明を行った上で転院してもらう。ただしかな
りリスクが高いと予想される場合は入院加療を続ける。
(2)基本的な認識の共有:医療従事者と患者・家族が「危険がいっぱい、みんなでリスクマネ
ジメント」という共通の認識を持つようにする。本医療事故防止対策マニュアルを入院時に手渡
す(全般的説明書の中に盛り込む)。必要に応じ個々の患者のリスクについても説明する。
(3)説明に徹し記録に残す:入院時の全般的説明書を入院患者全員に手渡す。説明の際に、複
写式説明書を活用し、説明内容をカルテに残す。また、実際に危険なことが生じた場合にも必ず
「リスクマネジメント連絡報告書」で報告する。
(4)オープンベッド利用:入院患者はできるかぎりオープンベッドに入院してもらう。患者・
家族だけでなくかかりつけ医に対して医療の透明性を確保する。かかりつけ医にもリスクマネジ
メントに参加してもらう。
(5)他の医療機関への紹介:当院での治療が難しいと考えられた場合は、必要な治療を行うこ
とができる医療機関へ紹介する。
(6)病棟および外来におけるリスクマネジメント:病棟ではそれぞれの病棟のリスクマネジメ
ントマニュアルにしたがう。外来では、必要に応じ次の説明書を手渡す(「脳神経外科の一般外
来を受診された患者さんへ」または「救急外来で脳神経外科の診察を受けた後に帰宅する患者さ
んへ」)。
(7)ダブルチェックと所見の記録:カンファランスを充実させ、診療行為のダブルチェックを
行う。X-P、CT、MRI、MRA、DSA所見などを記載する。
(8)特に注意する事項:①検査・手術の適応を厳しくする(年齢、重症度、社会的状況を考慮
する)、②患者の確認とフィルムなどの氏名の確認、左右を間違えないように確認、③人工呼吸
器使用患者、シリンジポンプ使用患者は要注意、④治療の併用は要注意(点滴と流動食な
ど)、⑤、血管撮影、血管内治療では血管内操作を確認しながら慎重に行う、⑥薬剤の投与量に
注意(今まで投与されていた薬剤にも注意)、⑦急変時はできるかぎり多くの人を呼ぶ(特に他
の医者を呼ぶこと)。
(9)患者に何らかの危険な事が生じた場合に即座に行うこと
①患者の救命治療に全力を尽くす。できるかぎり多くの人を呼ぶ。他の応援医師を呼ぶ。関係診
療科に協力を依頼する。
②記録係を決め、すべての事項を時間経過とともに記録に残す。
③患者の救命治療を行いながら現場の凍結保存に努める。現場の凍結保存はドクター・ナース以
外の院内第三者である医事課または総務課が行う。
④警察、家族、院長などへの連絡と説明。
⑤オープンベッドの場合には、医師会主治医にも即座に連絡する。
(10)警察への連絡:下記に該当する場合は即座に警察に連絡する。
①原因不明の患者急変時、現場保存の必要がある場合(内因性の原疾患の悪化が急変の原因であ
る場合は警察に連絡する必要はない。しかし、急変時にその原因が不明の場合または外因性の疑
いがある場合はとにかく警察に一報しておくこと。警察が来院するかどうかは警察自身が判断す
ることである。)。
②公益優先、新たな犯罪予防の必要がある場合。
③外因死となる可能性がある場合。異状死体となる可能性がある場合。
(11)院長への連絡:必要な場合は即座に院長に連絡する。必要に応じ保健所にも連絡する。
(12)迅速な対策実行:リスクが予想された場合、インシデント・アクシデントが生じたとき
は、すぐに対策を実行する(Patient safety strategiesにしたがってPrompt actionをとる)。
< 12 >
4)患者・家族のリスクマネジメント20か条(患者・家族・かかりつけ医に参加してもらうリス
クマネジメント)
★患者・家族にできること
参考
①:わから
ないことが
あっても、
そのままに
しない
★わからないことは、ドクターま
たはナースにおききください。
★脳神経外科の責任者から説明を
ききたいときは、遠慮なくドク
ターやナースにそのようにお話し
ください。
●当院の脳神経外科はドクター7名で
チーム医療の体制をとっています。研修
医もチームの中で診療にあたります。
●当院は厚生労働省認可の臨床研修医の
研修施設であり、日本脳神経外科学会の
専門医訓練施設でもあります。
②:できれ
ば二人以上
で説明をき
く
★ドクターからの説明は、できれ
ば患者さんお一人ではなくご家族
といっしょにおききください。
★家族が別々の時間に来院し、そ
れぞれ説明を求めることはひかえ
てください。
●担当医からまとまった説明をききたい
ときは、ご家族で相談しご希望の日時を
ナ‐スにお話しください。担当医に連絡
し、説明日時のアポイントメントをとり
ます。
●説明する時間は、夕方の回診の前また
は後になります。
●説明するドクターはチーム内の担当医
が行いますが、至急の場合は、チームの
中でその時点で説明可能なドクターが対
応します。
③:質問事
項をあらか
じめ紙に書
いて手渡す
★質問したいことをあらかじめ紙
に書いておいて、ドクターが説明
するときに渡してください。
●患者さんの中には、質問したいことが
あるのに、忘れてしまったり、言い出せ
なかったりする方がいます。質問事項を
紙に整理しておいて遠慮しないで質問し
てください。
④:意思表
示は明確に
しておく
★輸血に関する希望、宗教的なこ
と、ドナーカード、人工呼吸器の
使用など、意思表示がある場合は、
明確に表示してください。
●救命救急医療が最優先されます。その
中で患者自身の意思表示が明確かつ有効
な場合は、できるかぎりその意思を尊重
します。患者自身が意思表示できない場
合は、家族の希望をおききします。
⑤:写真、
図、絵を見
せてもらお
う
★脳の構造や働きは複雑です。写
真などを見せてもらって、自分の
病気を理解してください
●当院の脳神経外科では、わかりやすく
説明するために、説明書を充実させてい
ます。また、写真・図・絵・脳の模型を
使って説明します。また、複写になって
いる説明書の一部をお渡しします。
< 13 >
★患者・家族にできること
参考
⑥:セカン
ドオピニオ
ン
★他病院のドクターの意見をきき
たいときは、ドクターやナースに
お話しください。
●いわゆるセカンドオピニオンを希望す
る場合は、脳神経外科医・神経内科医な
どのいる他の病院を紹介します。
⑦:身内に
医療関係者
がいるとき
★身内に医療関係者がいるときは、
遠慮なく連絡をとり、当院の主治
医にもそのことを教えてください。
専門的な立場で質問・意見などを
何なりとおっしゃってください。
●身内である医療関係者の方にも説明し
ます。
●医療関係者である身内の方の病院に転
院を希望される場合、遠慮なくそのよう
にお話しください。
⑧:かかり
つけ医との
協力、オー
プンベッド
の利用
★かかりつけ医がいれば、お教え
ください。かかりつけ医が船橋市
医師会に所属していれば、オープ
ンベッドの利用を申し込んでくだ
さい。
●必要に応じてかかりつけ医と連絡をと
ります。当院は厚生労働省から認可され
たオープン病院です。船橋市医師会のド
クターと医療センターのドクターが共同
診療を行います。オープンベッドの利点
は継続診療ができることと透明性を確保
できることです。
●脳神経外科のドクターの専門は脳疾患
です。脳神経外科医はいわゆるホームド
クター=かかりつけ医にはなれません
(脱かかりつけ医宣言)。かかりつけ医
は住所地の近くの内科医が最適です。患
者・家族の方のご希望をおききし、こち
らでかかりつけ医をさがすこともできま
す。
★今までかかりつけ医がいない方
は、今回の入院を機会にかかりつ
け医を決めてください。
⑨:検査や
治療の事故
を防ぐ
★検査や治療などでわからないこ
とがあるときは、遠慮なくドク
ターやナースにおききください。
●治療方針は脳神経外科チームとして統
一されています。国際的または全国的な
ガイドラインがある場合はそれにしたが
い、「スタンダード治療+オプション治
療」(標準的・画一的な治療に、患者個
別の状態および当院で実施可能な治療を
加えた治療)を行います。
⑩:患者氏
名の誤認を
防ぐ、点滴
や投薬の誤
りを防ぐ、
左右の誤り
を防ぐ
★できるかぎり自分の氏名を自分
から名乗ってください。
★点滴ボトルや内服薬などに自分
の名前が書いてあるかどうか、で
きれば確認してください。
★予定手術の前には、家族の方は
できれば手術前に来院し、リスト
バンド・点滴ボトルの氏名などを
ご確認ください。
意識障害・失語症なども考慮し、医療側
は事故防止マニュアルにしたがい対策を
とっています。リストバンドを全員に装
着させていただきます。衣服に大きく名
前をはるということもあります。特に左
右のどちらを手術するのかは、複数の者
がチェックするようにしています。
●点滴・注射・投薬内容は脳神経外科
チームとして統一されており、コン
ピュータ入力されます。
< 14 >
★患者・家族にできること
参考
⑪:輸血事
故防止
★自分の血液型・自分の名前をで
きるかぎり確認してください。
★輸血の前後に、不安なこと・不
明な点・体調不良などがあれば、
遠慮なくドクターやナースにお話
しください。
●医療側は事故防止マニュアルにしたが
い対策をとっています。
⑫:転倒・
転落の防止
★転倒・転落が予想される場合は、
そのように説明しますのでご協力
ください。
★家族はできるかぎり患者のそば
にいてください。
●必要に応じてベッドの工夫、椅子の工
夫、薬剤投与、抑制などの危険防止対策
を脳神経外科部長の責任において行いま
す。
●危険なことが予想されるとき、または
実際に生じたときは、リスクマネジメン
トレターを手渡します。
⑬:病棟の
特徴を知る
★どこの病棟に入院しているのか、
しっかりと把握してください。面
会にくる方にも病棟名をきちんと
教えておいてください。
★入院病棟の特徴を把握してくだ
さい。ICUとは集中治療室の略で
す。A3病棟は救命救急センターの
病棟です。B3病棟は脳神経外科を
含む一般病棟です。
●初めての面会者が違う病棟に面会にき
て、ナースがその患者の病棟をさがさな
ければならないことがあります。それに
時間をさかれ、結果として患者のリスク
が増加してしまいます。
⑭:面会時
間と面会者
★そばにいた方がよい場合を除き、
面会時間を守ってください。
★必要以外の方は面会を遠慮して
ください。
●面会時間は病棟によって異なります。
面会時間以外の時間帯に、検査・治療・
処置などが行われています。
●必要以外の面会者が来院すると、医療
従事者は必要以外の対応に時間をさかれ、
結果として患者のリスクが増加してしま
います。
⑮:回診時
間とその利
用方法
★回診時間に、ドクターに気軽に
質問してください。説明の約束が
なくてもこの時間を利用して簡単
な質問をしてくださってもけっこ
うです。
★この時間を利用して、検査・手
術・転院・退院などの簡単な打ち
合わせをすることもできます。
●回診時間は、朝8時、朝10時ごろ、そ
して夕方5∼6時ごろです。このときにド
クターが検査結果や今後の予定などを話
すことがあります。
★この時間を利用して、検査・手術・転
院・退院などの簡単な打ち合わせをする
こともできます。
< 15 >
★患者・家族にできること
参考
⑯:他科受
診の希望
★院内の他の診療科を受診したい
ときは、遠慮なくドクターやナー
スにお話しください。
●主治医が他科受診依頼を行います。
⑰:不安が
ある、痛み
がひどい、
苦しいとき
★遠慮なくドクターやナースにお
話しください。
●不安・苦痛に対しては、できるかぎり
対応します。しかし、投薬量には限度が
あること、病態によっては投薬できない
場合があることをご理解ください。
⑱:院内感
染防止
★家族の方も手の消毒・ガウンテ
クニックなどご協力ください。方
法はナースが説明します。
★乳児同伴での面会(赤ちゃんを
連れてくること)は原則としてひ
かえてください。
●院内感染は主に医療従事者を介して生
じます。医療従事者は院内の感染防止対
策マニュアルにしたがって医療行為をし
ています。病院内にはいろいろな病原菌
をもった患者が入院しています。重症患
者、抵抗力の弱い患者は、感染しやすい
状態になっています。
⑲:ドク
ターやナー
スに相談し
にくいとき
★ドクターやナースに相談しにく
いことがありましたら、医療福祉
相談室の医療ソーシャルワーカー
に相談してください。
●医療ソーシャルワーカーとは、患者・
家族への相談援助を行う医療専門職です。
●直接、相談室を訪室されてもけっこう
です。主治医から紹介してほしいときは、
そのようにおっしゃってください。
⑳:その他
★病院に貴重品は持ち込ま
ないようにしてください。
★病院内に不審者がいたら、
ドクター・ナースにすぐに
連絡してください。
★自分だけでなく、他の患
者の安全のこともお考えく
ださい。
●病院の駐車場で車上荒らしが、外来・
病棟などで置き引きが発生しています。
●当院の総務課が中心となり、警備会社
とともに病院の安全確保をはかるように
しています。
●医療従事者は入院患者全員の安全確保
という考えで行動します。
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