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シンポジウム 【概要】 (PDF)

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シンポジウム 【概要】 (PDF)
美学会全国大会学術講演企画 同志社大学人文科学研究 所 第 16 研究主催
シ ン ポ ジ ウ ム「テロ リズム時代 のアート と美学の役割」 二部 構成
第 一 部 10 月 8 日 ( 土 ) 午 前 10 時 ~ 12 時 、 第 二 部 9 日 ( 日 ) 午 後 3 時 ~ 4 時 30 分
みなさんは現在の欧州においてテロが毎日のように起きていることをすでによくご存じで
しょう。このシンポジウム「テロリズム時代のアートと美学の役割」なのですが、そのよう
な事件の真只中の欧州において開催するのなら話は別です。開催の理由は単純で、アクチュ
アリティーがあるからですむでしょうが、そこから遠く隔たった、しかも現在のところでは
この問題では別世界のような感のある日本の現実において、あえてこのテーマで美学会全国
大会のシンポジウムを行う理由はどこにあるのかとみなさんは思われるでしょう。例えばも
うすぐ日本の地においてもこの種の事件が頻発するようになるだろうから、そのときのため
にも早手回しで緊急の議論をやっておいた方がよいとかいうそんなことではありません。す
で に ド イ ツ で は 2002 年 に 美 学 の 専 門 領 域 性 と 高 い レ ヴ ェ ル を 有 し た 議 論 が 始 ま っ て い ま し
た 。例 え ば そ の 年 の 12 月 に シ ュ リ ン ゲ ン ジ ー フ(Christoph Schlingensief, 1960-2010)と い う
映画兼舞台監督がベルリンの国民劇場にドイツの論客たち(スローターダイクを含
む )を 召 集 、
「 ア ッ タ イ ズ ム 」の 名 の 下 に 数 回 の 議 論 を 重 ね て い ま し た 。翌 年 の 1 月 に は 同 じ
監督の《アッタ》の舞台が上演の運びとなる。このようなテロの主題を大規模なアートや美
学の分野での議論の中に受け入れるのは、やはりドイツでもこのときがはじめてで、それ以
後現れてはいません。ドイツでもしこの議論を発展して行けないのであれば、その代理で日
本側がやればいい、ひとことで言えばそういうことです。そのために時間も 2 日間に亘り 3
時間半たっぷりとりました。
ま ず 10 月 8 日 、全 国 大 会 初 日 に シ ン ポ ジ ウ ム の 第 一 部 が 開 か れ ま す 。奇 才 シ ュ リ ン ゲ ン ジ
ー フ の 舞 台 作 品《 ア ッ タ ア ッ タ
ア ー ト が 脱 獄 し て い る( Atta Atta Die Kunst ist ausgebrochen
Art Has Broken Loose)》( 2003 年 )が 取 り 上 げ ら れ ま す 。こ の 舞 台 ア ク シ ョ ン( と い う 言 い 方
が よ く さ れ ま す ) は 、 そ の 題 名 か ら し て も い わ ゆ る 9・ 11( 2001 年 ア メ リ カ の ニ ュ ー ヨ ー ク
で起きた民間ジェット機ハイジャック による連続自爆テロ)の主犯モハメド・アタを扱った
ものと考えられます。しかも彼の名が二度続けて使われていることからして、ここには何か
意 図 が 隠 さ れ て い ま す 。ア タ の 名 前 に 20 世 紀 初 頭 の「 ダ ダ 」と い う 芸 術 運 動 を 象 徴 さ せ よ う
と い う 意 図 で し ょ う 。 手 っ 取 り 早 く 言 う と 、 こ う な り ま す 。 こ の 作 品 に お い て は 、 9・ 11 の
主 犯 ア ッ タ の や っ た こ と が 、 デ ュ シ ャ ン ( Marcel Duchamp, 1887-1968) と い う ラ デ ィ カ ル な
前 衛 芸 術 家 が 20 世 紀 以 前 の 伝 統 的 な 西 洋 の 芸 術 概 念 を 破 壊 し た こ と に な ぞ ら え ら れ て い る
と。この分かり易い推測は、かえって私たちを大きな間違いに導くことになります。詳しく
はシンポの本番の場で言うとして、ここでは常識的レヴェルからお話しを少しだけやってお
きましょう。
みなさん、アタはテロを自爆行為(殉教)として実行し、数百人を巻き添えにしました。
ですからこのような犯罪者を前衛芸術家になぞらえる理由など、ごく一部例外的に主張され
て き た に せ よ 、全 く あ り ま せ ん ― そ の 一 部 の 例 外 と は 、あ の 現 代 音 楽 の 作 曲 家 の シ ュ ト ッ ク ハ ウ ゼ ン
( Karlheinz Stockhausen, 1928-2007)に よ る「 9・11 テ ロ は 歴 史 上 最 も 偉 大 な 芸 術 作 品 だ 」と か 、
「アタらは
メディア・アーティストである」とかの発言ですが、この物議を醸した「なぞらえ」もその後急激にしぼ
んでしまいました。アタたちがやったこと(テロを世界にメディアを通じて配信するやり方)はそれ以後
行われなくなっている―これは川俣正評ですが―とみるべきでしょう。
ここまで長々と《アッタ・・》作品においてアタがどういう存在として扱われているのか、
みなさんにお話してきたからには、この予告編のようなこの紙面においても一応の結論を出
し て お き た い と 思 い ま す 。 私 が こ の 作 品 を DVD で み て 、 は じ め か ら 終 わ り ま で 入 念 に チ ェ
ッ ク し て 、彼 の 役 を 演 じ る 俳 優 は い な い し 、さ ら に 彼 の 名 前( the Atta と い う 言 い 方 で 、つ ま
りこの作品でのアタという存在の意味?)は一度だけ舞台でつぶやかれただけです。これは
ひとつの謎でした、と過去形で言うからには、今はなぜその名がただ一度だけ挙げられたの
かはある程度解明できています。この件で分かったことが二つあります。一つ目、根本的に
この舞台アクションは、誰かを主人公にしてその人生や、ある決断を演劇的に浮かび上がら
せ よ う と す る 類 の も の で は あ り ま せ ん 。 例 え ば ア タ に は お 構 い な し に ( こ れ が 第 一 の 原 則 )、
監督(でも主演でもある)シュリンゲンジーフが勝手に別種の(テロ)戦争芝居を舞台で お
っ 広 げ よ う と し て い ま す 。死 ん だ ア タ は 、最 初 は 監 督 に《 ア ッ タ ア ッ タ・・》と 作 品 題 名 に
二度も採用され、すごく持ち上げられていたのですが、作品の中身では事実上「裏切られ」
てしまっています。しかしさすが奇才監督だけのことはあります。なぜアタを「裏切った」
かを、ちゃんと芝居の中で説明する「覚悟」が、彼にはできていたということです。実はそ
の 「 覚 悟 」 が 芝 居 的 に 上 演 さ れ て い る と 考 え ら れ る の で す ( Peter Nadas / Frank-Patrick Steckel:
Die Waffen der Kunst, in: Ausbruch der Kunst, 2003, S.21 )
。二つ目は、一つ目の応用編になりますが、
シ ュ リ ン ゲ ン シ ー フ は 、 ア タ を 「 裏 切 り 」、 今 度 は 手 の ひ ら 返 し た よ う に 、 1960 年 代 に 活 躍
し た ア ク シ ョ ン・ア ー テ ィ ス ト 、ヨ ー ゼ フ・ボ イ ス( Joseph Beuys, 1921-1986)の ― 有 名 な フ
ェルトの布をかぶりステッキの先だけを頭から出す―扮装を思い出す姿で 自ら舞台に登場し
ます。これは監督が心変わりしたことの告白とみるべきでしょうか。案外このボイスのアク
シ ョ ン 、 オ リ ジ ナ ル の 題 名 I like America, America likes me が ア タ へ の 監 督 の メ ッ セ ージ と 考
えるのが普通なのではないでしょうか―これまでにしましょう。もうこれ以上言うとシンポ
本番がつまらなくなりそうです。
10 月 8 日 の シ ン ポ 第 一 部 は 、こ ん な 調 子 で シ ュ リ ン ゲ ン ジ ー フ の《 ア ッ タ 》の 内 容 を で き
るだけ分かりやすく解説するつもりですが、私の作品解説は監督の側からの意図にしたがっ
たものですから、大胆な発想に欠けるところが多くあり、解釈の面白みも不足している。そ
の面を補う任に当たられるのは次の3名です。
・前田茂(京都精華大学)
・村上真樹(同志社大学)
・ 川 俣 正 ( フ ラ ン ス 国 立 エ コ ー ル ・ デ ・ ボ ザ ー ル )、 ビ デ オ ・ メ ッ セ ー ジ の 形 で 。
つぎの 2 日目の、シンポジウム第二部(9 日の午後 3 時から)では、現代ドイツで最も著
名な哲学者・美学者であるスローターダイクの暴力イメージの解明が行われます。この任に
当たられるのは次の 4 名です。
・高田珠樹(大阪大学)
・山口和子(岡山大学)
・石田圭子(神戸大学)
・香川檀(武蔵大学)
皆様どうぞご期待ください。
( な お 8 日( 土 )と 9 日( 日 )開 催 の シ ン ポ ジ ウ ム 会 場 で は「 テ ロ リ ズ
ム時代のアートと美学の役割」に関連するスローターダイク、シュリンゲンジーフらのドキ ュメント資料
を 収 録 し た タ ブ ロ イ ド 版 の 新 聞( 朝 刊 8 日( 土 )、夕 刊 9 日( 日 )共 に 無 料 )を 発 行 し ま す 。他 の 場 所 で は
配 布 さ れ な い 限 定 版 に な り ま す 。)
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