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1. 太陽熱バロメータ-2010年(EU)(653KB)
NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 【再生可能エネルギー】太陽熱 太陽熱・バロメータ 2010 年(EU) ―2009年のEUの太陽熱市場は9.6%のマイナス成長― ―2009 年に EU で設置された太陽熱パネルの総面積は 416 万 6,056 m2― ―2009 年末時点の設置済み太陽熱システムの総設備容量は 2 万 2,786.1 MWth 注1― 本稿は、フランスの Observ’ER(Observatoire des énergies renouvelables:再生可 能エネルギー観測所) が 2010 年 6 月に発表した報告書「太陽熱・バロメータ 2010 年」 を、同観測所の許可を得て全訳・掲載するものである。 1. はじめに 2. 欧州市場は停滞 2.1 2009 年 EU の新規設置面積は 420 万 m2 2.2 主要な EU 市場 2.2.1 ドイツ連邦下院が助成を凍結 2.2.2 不動産危機がスペイン市場を引き下げ 2.2.3 イタリア市場は経済危機を持ちこたえる 2.2.4 やや構造的なしくみに欠けるフランス市場 2.2.5 オーストリア市場は安定 2.2.6 ギリシャ市場は急落 2.2.7 ポーランドは太陽熱を支持 2.3 3. 4. EUの総設置面積は3,260万m2 産業界の不調 3.1 市場の停滞は雇用機会の喪失を招く 3.2 自動化が進展 3.3 ヨーロッパ産業界は回復を待っている 3.3.1 GREENoneTEC社は生産能力を300万m2 まで引き上げることを狙う 3.3.2 Bosch Thermotechnik社は事業拡張を進める 3.3.3 将来の真空テクノロジーを先導するViessmann社 3.3.4 Vaillant社が空白の期間を埋め合わせる 3.3.5 Solvis社は製造を自動化 3.3.6 Kingspan社が新しい工場を開設 2011年までは、はっきりとした市場の回復はみられない MWth:megawatt thermal(メガワットサーマル)の略。ワットサーマルは熱出力の単位で、メガは 100 万のこと。 注1 1 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 2 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 1. はじめに 2008 年、ヨーロッパの太陽熱市場は強い伸びを見せたが、2009 年には停滞し、新規設 置面積は約 420 万 m2、前年比で 44 万 3,708 m2 の減少となった。5 月初旬のユーロ危機 と、経済危機の欧州市場への波及により、2010 年も太陽熱市場の停滞が続くと思われる。 太陽熱の集熱器は、主に温水用、あるいは暖房用に使用されている。夏期の建物内を冷 房する特定の技術は開発されてきたが、この市場は今もなお、比較的限定されている。太 陽熱の収集には大きく分けて 3 つの主要な方法があり、そのすべての方法において、熱伝 導流体を用いる。 ヨーロッパにおいて、最もよく利用されているタイプは、ガラス面の後部に設置された、 吸収シートの中で熱伝導流体を循環させる平板ガラス型集熱器であり、断熱ケーシング内 に組み込まれている。太陽熱利用の 2 つめのタイプは、真空型集熱器技術であり、熱伝導 流体が二重の真空の管の中を循環する。この場合、真空状態によって断熱が実現される。 3 つ目のタイプとしては、非ガラス集熱器があり、黒色プラスティック管網(ネットワーク) を使用し、それぞれの管を積み重ねて並べて外気中に置いておくというものである。この タイプは主に、夏季にスイミング・プールの水温を上げるために使われている。 太陽熱温水器を設置した個人用住宅 3 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 2. 欧州市場は停滞 2.1 2009 年の EU の新規設置面積は 420 万 m2 経済危機は、ヨーロッパ太陽熱市場の急成長を凌ぐものになった。 「EurObserv’ER」の 見解では、2009 年の欧州連合(EU)加盟国の新規設置面積は、全体でおよそ 417 万 m2(熱 容量では 2.9 GWth に相当する)に達するとのことである(表 2) 。これは、2008 年の新 規設置面積、およそ 461 万 m2(表 1)と比較して 9.6%の減少となる。EU 加盟国すべて が同じように影響を受けたという訳ではなく、ドイツ、フランス、ギリシャ、スペインな ど、欧州の主要な市場における設置数の漸減を目の当たりにした一方、ポーランド、英国、 ポルトガルなどの国々のように設置数が伸びているケース、あるいはオーストリアのよう に成長が安定している場合もある。 専門家たちは、金融引き締め政策により多くの人々がシステムへの投資を見合わせてい るという理由に加え、太陽熱市場の縮小に関して別の見解を述べている。 特にドイツとフランスの自動車産業の再生計画が、一部の世帯の資金力をひっ迫させて いる。また、2009 年に設置数に急激な伸びがみられた太陽光発電部門との同類同士の競争 のため(詳細は海外レポート 1065 号「太陽光発電・バロメータ 2010 年(EU)」で参照 できる注2)、太陽熱市場が負担を強いられているのかもしれない。 2009 年のヨーロッパ市場では、真空型集熱器の割合が 9.8%、非ガラス集熱器が 3.6% (図 2 を参照)に対し、平板ガラス型集熱器技術は 86.6%となっており、市場のほとんど を占めている。 注2 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1065/1065-1.pdf 4 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 表 1 2008 年に新規設置された集熱器の種類別設置面積(m2)および出力容量(MWth) 国名 ガラス集熱器 平板型 真空型 集熱器 集熱器 非ガラス 集熱器 合計面積 (m2) 出力容量 (MWth) 1,710,000 190,000 20,000 1,920,000 1,344.0 スペイン 414,000 32,000 20,000 466,000 326.2 イタリア 361,000 60,000 421,000 294.7 フランス* 352,252 16,000 6,000 374,252 262.0 オーストリア 343,617 4,086 15,220 362,923 254.0 ギリシャ 295,000 5,000 300,000 210.0 ポーランド 89,820 39,812 129,632 90.7 ベルギー 66,860 20,640 3,500 91,000 63,7 チェコ共和国 26,500 8,500 55,000 90,000 63.0 ポルトガル 86,620 86,620 60.6 英国 47,250 33,750 81,000 56.7 スウェーデン 14,530 12,283 28,648 55,461 38.8 オランダ 23,305 28,216 51,521 36.1 アイルランド 31,727 11,883 43,610 30.5 キプロス 39,270 843 40,552 28.4 デンマーク 33,000 33,000 23.1 スロバキア 10,250 10,250 7.2 スロベニア 6,565 10,100 7.1 ハンガリー 10,000 10,000 7.0 ルーマニア 10,000 10,000 7.0 6,999 4.9 ドイツ 439 3,535 マルタ 3,758 ブルガリア 6,000 6,000 4.2 ルクセンブルグ 3,994 3,994 2.8 フィンランド 2,100 3,300 2.3 ラトビア 1,500 1,500 1.1 リトアニア 700 700 0.5 エストニア 350 350 0.2 4,609,764 3,226.8 EU27 ヵ国合計 3,989,968 3,241 1,200 441,573 *海外県含む 178,223 出典:EurObserv’ER 2010 5 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 表2 2009年*に新規設置された集熱器の種類別設置面積(m2)および出力容量(MWth) 国名 ガラス集熱器 平板型 真空型 集熱器 集熱器 ドイツ 1,440,000 160,000 19,800 1,619,800 1,133.9 スペイン 375,000 16,000 11,000 402,000 281.4 イタリア 340,000 60,000 400,000 280.0 オーストリア 349,000 7,700 8,300 365,000 255.5 フランス** 284,456 26,500 6,000 316,956 221.9 ギリシャ 204,000 2,000 206,000 144.2 ポーランド 106,494 37,814 144,308 101.0 ポルトガル 140,000 140,000 98.0 90,000 63.0 89,100 62.4 70,713 49.5 非ガラス 集熱器 50,000 合計面積 (m2) 出力容量 (MWth) チェコ共和国 30,000 10,000 英国 51,975 37,125 オランダ 43,713 ベルギー 44,000 11,000 55,000 38.5 デンマーク 53,683 817 54,500 38.2 スウェーデン 13,126 8,183 46,302 32.4 アイルランド 26,383 16,131 42,514 29.8 キプロス 31,973 2,736 34,963 24.5 スロベニア 16,920 6,970 23,890 16.7 ルーマニア 20,000 20,000 14.0 スロバキア 10,700 12,600 8.8 ハンガリー 10,000 10,000 7.0 8,508 6.0 27,000 24,993 254 1,900 マルタ 4,386 ブルガリア 5,000 5,000 3.5 ルクセンブルグ 3,352 3,352 2.3 フィンランド 2,000 3,000 2.1 ラトビア 1,500 1,500 1.1 リトアニア 700 700 0.5 エストニア 350 350 0.2 4,166,056 2,916.2 EU27 ヵ国合計 *推計 3,608,711 4,122 1,000 408,998 **海外県含む 148,347 出典:EurObserv’ER 2010 6 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 4,609,764 4,166,056* 3,125,302 3,054,867 2,142,220 1,596,792 725,815 849,538 944,277 981,776 1,271,591 1,007,039 1,731,104 1,461,040 1,119,069 *推計 図1 出典:EurObserv’ER EU における 1995 年以降の新規設置面積の推移(m2) 2.2 主要な EU 市場 2.2.1 ドイツ連邦下院が助成を凍結 ドイツにおける再生可能エネルギーの統計データの収集を行っている、「太陽エネルギ ーおよび水素研究センター(Zentrum fur Sonnenenergie und Wasserstoff-Forschung: ZSW)」は、2009 年に設置された太陽熱集熱器の総面積は 161 万 9,800m2 であったと述べ ている。2008 年は 2007 年比で約 2 倍(96 万 m2 から 192 万 m2)も伸びたが、2009 年の 太陽熱市場は 2008 年比で 9.2%縮小したことになる注3。 欧州太陽熱産業連盟(European Solar Thermal Industry Federation: ESTIF) の会長で ある Olivier Drucke 氏 によれば、この減少の主な原因は金融危機と石油の安値である。 他の要素として、ドイツの自動車産業支援計画がある。Drucke 氏は、 「およそ 200 万もの ドイツ世帯に対し、2,500 ユーロの中古車スクラップ手当注4(car scrapping allowance)が支 払われた(総額最大 50 億ユーロ) 。この手当がある程度まで、一般世帯に対して新しいソ 注3 表 1 と表 2 のドイツの数値(設置面積)を比較すると、約 16%の縮小となっている。この不一致の理由と して、①単純な誤り、②金額での比較、等の可能性が考えられる。 注4 9 年以上使用した車を新車に買い替える場合に 2,500 ユーロを支給する総額 15 億ユーロ(約 19 億 8,000 万ドル)の補助金制度。 http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-37312220090403 7 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 ーラーシステム設置よりも、新車購入を奨励してしまったことになる」と述べた。 さらに引き続いて、4 月 9 日には、ドイツ政府がコスト削減実施の一環として、市場刺 激プログラム(Marktanreizprogramm: MAP) への予算割当を打ち切るという悪いニュー スが発表された。 資金不足により、2010年5月3日に100kW未満の太陽熱システム、ヒートポンプ、バイ オマス暖房器具への投資に対する助成金プログラムが打ち切りとなった。2010年4月まで に、わずか8万2,000件の再生可能エネルギー・システムしか助成を受けておらず、今後2010 年内に助成が行われることはないだろう。以下のインセンティブが打ち切りの日まで適用 されていた。個人住宅用太陽熱温水器の助成金は、既存の住宅に対して60ユーロ/m2(1件 の設置につき、上限は410ユーロ) 、新築には45ユーロ/m2(1件の設置につき、上限は307.5 ユーロ)となっている。また、上限を40m2として、複合システム(温水と暖房)設置の割 増助成金(premium)は、既存住宅に対して105ユーロ/m2 、新築には78.75ユーロ/m2 とな っている。より広い設置面積に対する割増助成金は、既存住宅に対して45ユーロ/m2、新 築には33.75ユーロ/m2と金額が下げられた。ソーラー冷房システムへの助成金は、既存の 住宅に対して105ユーロ/m2、新築には78.75ユーロ/m2が割り当てられていた。この決定(助 成金プログラムの打ち切り)は、2010年の再生可能エネルギー暖房器具の売り上げに打撃 を与えるだろう。 2.2.2 不動産危機がスペイン市場を引き下げ スペイン太陽熱産業協会(Spanish solar thermal industry association: ASIT)によれば、 2009年の太陽熱パネルの新規設置面積は40万2,000 m2で、2008年と比較すると6万4,000 m2の減少(-13.7%)となる。この設置面積のうち33万2,000 m2 は、建築技術基準(Codigo Tecnico de la Edificacion: CTE)の順守により設置されたものである。この基準では、新築 または、増改築の計画のすべてを対象に、屋内の温水の30%∼70%は太陽熱システムを使 用してまかなうことを義務付けている。上記以外では、自治コミュニティ助成プログラム (5万5,000 m2)の一環としての設置、産業用(5,000 m2)や他の用途(1万m2)などがある。 スペイン市場縮小の理由のひとつとして、同国の壊滅的な不動産業界の停滞があり、数 え切れないほどの建設計画や再開発計画が中止になったことがある。この危機によって、 新しい建築基準の効果が制限された。2009年時点で、わずかに24万件の新規建設や増改築 計画が建築基準の適用を受けた。2010年には、件数が19万件に下落すると予測されている。 ASITは、新しいメカニズムの実施によって、この傾向が修正されなければ、2010年の市 場は20%以上縮小し、32万m2 にとどまると考えている。これでは、2005年から2010年の 再生エネルギー計画目標である500万m2には遠く及ばない。 スペイン産業省は現在、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率に関する法律を作成 中である。そして、EU再生可能エネルギー新指令の目標を組み込んだ新しい再生可能エ ネルギー計画(PER 2011-2020)を策定中である。ASITは太陽熱に対する反論を一掃するた め、システムエネルギー効率の検査方法が組み込まれるよう、主張している。協会が議論 している主な方法とは、太陽熱システムのエネルギー効率を促進するための規制の枠組み 8 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 を確立することであり、それにより、産業界は、新規の、より強くて競争力の高い技術に 対して投資を行うことになる。ASITは、地方行政区(それぞれの地方は独自の助成方針を 持つ)が設置面積を基にして助成を行っている現状は、最も効率の高いシステムを優遇し ていないため、正しい選択ではないと考えている。 9.8% 3.6% 真空型集熱器 非ガラス集熱器 86.6% 平板型集熱器 出典:EurObserv’ER 2010 図2 2.2.3 2009 年の EU 太陽熱市場の技術分野による内訳 イタリア市場は経済危機を持ちこたえる 数年前に定められた、個人向けの太陽熱システム設置への減税政策(ソーラー・システ ム1台分の費用全額の55%が控除される)は、2006年から2008年のイタリア市場の着実な 成長(この期間に130%)を支えた。Assoltherm(Italian Solar Thermal Industry Association: イタリア太陽熱産業協会)は、2009年の経済危機を太陽熱市場が持ちこたえ、 新規設置面積40万m2 (2008年は42万1,000 m2)を達成したものと推定している。イタリア の世帯の経済的困難は当面の間、太陽熱システム設置数に何らかの影響を及ぼす可能性が 高いと考えられており、太陽熱部門は非常に厳しい状況になると予想されるが、協会は 2010年の市場が縮小するとは考えていない。イタリア市場における将来の成長の重要な要 9 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 素のひとつに、太陽熱システム設置業者の育成があげられる。Assolthermは、イタリアは この分野に関して、著しく進歩したと考えている。また、育成は主に太陽熱システムのメ ーカーが関わっているが、イタリア市場の将来の成長を築くという方向性において、育成 を継続していかなければならないと協会は考えている。イタリアの地方行政区にも、国の 法律を適用してもらうよう取り組まなくてはならない。その内容は、温水需要の少なくと も50%は太陽熱でまかなうよう、新築建物に太陽熱システムの設置を義務づけるというも のである。この法律は、実施するにあたっての条件がまだ明確にされておらず、地方自治 体と市町村はこの法律の強制力に関する検討を行っている。2009年には、20地方行政区の うち、7地方のみが太陽熱システム設置の義務化を決定し、 (8,000の市町村のうち)253市 町村のみが太陽熱システム設置の義務化を建築基準法に組み入れた。現在、Lombardy(ス イスと国境を接するイタリア北部の州)がシステムの設置率が最も高い。 2.2.4 やや構造的なしくみに欠けるフランス市場 2009 年のフランスの太陽熱市場は、 約 10 年間の安定した成長から、 小康状態になった。 Enerplan (フランスのソーラー・エネルギー産業協会)によれば、フランス本土の市場は 2008 年に設置面積で 31 万 3,000 m2 であったが、2009 年は 26 万 5,000 m2 程度であった と推定されている。個人住宅向け太陽熱温水ヒーターの設置数は 2008 年の 4 万 2,000 台 から、2009 年には 3 万 6,000 台へと減少し、この減少は温水と暖房の複合システムの場 合、5,800 台から 2,600 台とより急激に下落している。唯一、見通しの明るい分野は、集 合住宅部門であり、 フランス本土において拡大が続き、 設置面積は 2008 年の 5 万 6,000 m2 から 2009 年の 6 万 6,600 m2 へと伸びている。 「Observ’ ER」は、公共および民間のスイ ミング・プール用の非ガラス集熱器の設置面積として、さらに 6,000 m2 を加えた。 プールの屋根に取 り付けた非ガラス 集熱器 10 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 フランス環境・エネルギー管理庁(ADEME)の現地事務所からのデータによれば、フラ ンス海外領の市場はフランス本土の市場を反映して、2008年の5万5,252 m2 に対して 2009年は4万5,956 m2 となった。不況とそれに続く失業に対する怖れが、市場縮小の主な 理由として挙げられている。他の要因としては前述の通り、化石エネルギー燃料価格の下 落、太陽光発電容量の増加、中古車払戻し計画により多くの世帯に新車購入を奨励したこ とが、市場の不振の一因となった。 より悩ましい構造的な問題があるために、周期的な問題が悪化する。フランスの太陽熱 部門はいまだに構造改革が難航しており、多くの市場関係者によって投機の対象にされ易 い。数年にわたって、ソーラーシステムの値段は高騰し、年々、設置の原価償却期間が増 えている。Observ’ER の調査によると、4.6m2 サイズの個人向け温水システムの税抜き 平均価格は、2005年は5,290ユーロだったが2008年には6,817ユーロになり、4年間で1,500 ユーロ上昇した。銅などの原料価格の上昇だけでは、この価格上昇を説明できない。他の 構造的な問題として、個人住宅や集合住宅用のシステム設置業者の育成がある。現在のと ころ、この分野の成長に直ちに対処できる熟練した設置工の人数が十分でない。フランス 当局は再生可能エネルギーの開発に非常に熱心である。フランスのインセンティブ・シス テムはヨーロッパで最も魅力的なシステムのひとつである。個人向けシステムの場合、設 備費用に対する税額控除50%に加えて、地方自治体(地域、県、市町村)から数百ユーロ に上る割増助成金が支給される。 システム導入のもうひとつの奨励要素として、2009年に政府により設立された、3年間 で10億ユーロを支援するヒート・ファンド(heat funds)がある。このファンドはAdemeに よって管理され、集合住宅、施設、すべての企業(農業、産業、サービス業)に割り当て られる。再生可能エネルギー源による熱生産コストが通常のエネルギー源による熱生産コ ストを下回るよう保証し、再生可能エネルギー源による熱生産プロジェクト(バイオマス、 地熱、ソーラー等)への融資を行っている。この助成は、再生可能エネルギー由来の熱が、 化石燃料由来のものよりも、少なくとも5%は低価格で販売が可能なように等級分けされ ている。もし、太陽熱システムの経済的妥当性、技術的効率、信頼性が実証できれば、フ ランスの太陽熱部門の利益は巨大なものである。 11 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 複合ソーラーシステムが 設置された生物気候学的 (Bioclimatic)設計の家 2.2.5 オーストリア市場は安定 オーストリアでは、太陽熱部門の試行と検証が行われている。ソーラーへの移行は、す でに人々の生活の中によく浸透している。オーストリア・ソーラー(Austrian Solar Industry Association)によれば、オーストリア市場は、2008 年の新規設置面積約 36 万 3,000m2 に対し、2009 年は 36 万 5,000m2 と安定している。不況の時代に安定している理 由として、連邦政府による大規模なコミュニケーション・キャンペーンによる信頼できる 政治的支援が太陽熱部門を支えていることが挙げられる。2010 年 2 月 28 日以来、すべて のメディア(テレビ、ラジオ、インターネット、報道など)でキャンペーンが流されてい るが、最近のキャンペーン・スローガンは、”Schlauer heizen mit der Sonne”(賢い人は 太陽熱で温める)というものである。各州は独自のインセンティブ政策を持ち、個人向け の 6m2 サイズの太陽熱温水器の設置に対して 600 ユーロから 1,700 ユーロの範囲で助成 金の割り当てを行う。15 m2 複合システムの設置への助成は、1,250 ユーロから 3,325 ユ ーロの範囲となっている。 2.2.6 ギリシャ市場は急落 ギリシャでは、財政・経済危機により、太陽熱市場が深刻な打撃を受けた。専門家によ ると、市場は 2009 年には、新規設置面積 20 万 6,000 m2 と 31.1%下落した模様である (2008 年は 30 万 m2) 。この下落の主な理由は、多くの世帯が新しいソーラー温水器への 支出を延期すると判断したことにある。ギリシャのソーラー温水器の設置レベルはすでに とても高く、ギリシャの市場は主として現在設置されているシステムの大規模な買い替え であるということを銘記しておかなければならない。 12 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 ギリシャ市場の大部分は熱サイフォンシステムで占められている。熱サイフォンシステ ムは地中海の気候に適しており、強制循環式のソーラーシステムより、費用がかからなく て済む。ギリシャは個人世帯向けに、設置費用の 20%を税控除するという政策を基にした、 インセンティブ・システムを実施してきた。どのケースにおいても、減税額は 700 ユーロ を上限としている。差し当たり、このインセンティブは、政府が実施する公的債務削減政 策に脅かされてはいない。 ギリシャ議会は数週間、法律の草案について議論を行う予定である。この議論では、す べての新しい建築物の屋内温水ニーズの少なくとも 60%は、再生可能エネルギーで生産さ れることを義務化することに焦点を当てる予定である。現在の提案では、再生可能エネル ギー由来の暖房テクノロジーを特定していないが、太陽熱が最も道理にかなった解決法だ と思われる。義務化は、ギリシャが EU 指令に沿って再生可能エネルギー政策を実施して いることを示すものである。しかし、新しい建物の建築が停滞しているため、この政策の 太陽熱市場に対する影響は限定的なものになるだろう。 屋根に設置された 真空型集熱器 13 NEDO海外レポート 2.2.7 NO.1066, 2010.9.15 ポーランドは太陽熱を支持 ポーランドは、太陽熱市場がプラス成長の傾向(2008年から2009年で11.3%の伸び)を 維持している、ヨーロッパ諸国の中では数少ない国のひとつである。IEO EC BREC (Polish Institute for Renewable Energy: ポーランド再生可能エネルギー研究所)によれ ば、2008年の新規設置面積12万9,632 m2 に対して、2009年は14万4,308 m2 と拡大して いる。ポーランド市場の主要な要素は、集合住宅(2008年の3万8,890 m2 に対して、2009 年は4万3,292m2)によって占められている。関係者達は、6月に発表された再生可能エネル ギー国別行動計画(EU指令の一環で立案)に促され、2020年に向けた計画を立てた。こ れに関連して、IEO EC BRECは、ソーラー設備メーカーおよび設置業者の利益を代表す るソーラー同盟20*2020(Solar Alliance 20*2020)という新組織と共同で、7,700 GWth 以上(設置面積にすると2,000万m2)と推定される同国の太陽熱エネルギーの潜在能力を 開発するために必要なリソース注5 を明らかにした。 この計画に呼応して、ポーランドにおける再生可能エネルギー資金の助成を行う、国家 環境保護基金が、2010年から2012年の間、最大で3億ポーランド・ズロチ (7,400万ユーロ) の助成を行うと発表した。この助成の優先対象は、個人住宅の持ち主と集合住宅の持ち主 となるだろう。助成は設置費用の最大45%、そして、1m2 当たり2,500ズロチ(790ユー ロ)が上限となるだろう。このプログラムは2010年秋までに実施される予定である。 集合住宅に温水を供 給する平板ガラス型 集熱器 注5 リソースとは、資金、手段、材料、人、設備など、ある目的を実現するために必要となるものを幅広く指 す言葉。 14 NEDO海外レポート 2.3 NO.1066, 2010.9.15 EUの総設置面積は3,260万m2 廃棄された古いシステムを除いて集計しなければならないため、太陽熱集熱器の総設置 面積の算出はより難しくなっている。EurObserv’ERは、廃棄条件を以下のように仮定し た。 - 20年経過した平板ガラス型集熱器 - 12年経過した非ガラス集熱器 また、私たちがコンタクトした専門家が国独自の廃棄条件を適用して集計した場合、あ るいは公的な推定がある場合、EurObserv’ERは、これらを用いている。 それによると、EUで使用されている太陽熱集熱器の総設置面積は3,260万m2という規模 であり、容量では22.8 GWth(表3)となる。集熱器の面積が最も大きい国は、ドイツ、 オーストリア、ギリシャとなっている。一人当たりの設置面積は、太陽熱技術に対する国 の取り組みをより強く反映した指標である。なぜなら、国土面積が大きければ、設置面積 も大きくなるといったような、データの歪みが生じる心配がないからである。この新しい 分類では、キプロスは住民1,000人当たり873.9 m2 とオーストリア(517.1 m2)やギリシ ャ(360.5m2)を上回っている。この指標は、EUの他の国々もまだまだ、太陽熱システム を増やすことが可能であることを示している(表4) 。 15 NEDO海外レポート 表3 国名 NO.1066, 2010.9.15 2008 年末および 2009 年末*の EU の太陽熱集熱器の総設置面積および総設備容量** 2009 年末 2008 年末 2 (m ) (MWth) (m2) (MWth) 11,307,000 7,914.9 12,899,800 9,029.9 オーストリア 3,964,353 2,775.0 4,330,000 3,031.0 ギリシャ 3,870,200 2,709.1 4,076,200 2,853.3 イタリア 1,616,010 1,131.2 2,014,875 1,410.4 フランス*** 1,691,016 1,183.7 1,994,772 1,396.3 スペイン 1,463,036 1,024.1 1,865,036 1,305.5 オランダ 703,632 492.5 774,345 542.0 キプロス 665,752 466.0 700,715 490.5 チェコ共和国 423,750 296.6 513,750 359.6 ポーランド 365,528 255.9 509,836 356.9 デンマーク 430,880 301.6 484,080 338.9 英国 387,160 271.0 476,260 333.4 ポルトガル 390,000 273.0 445,000 311.5 スウェーデン 388,000 271.6 422,000 295.4 ベルギー 280,013 196.0 335,013 234.5 スロベニア 134,012 93.8 157,902 110.5 アイルランド 78,454 54.9 120,967 84.7 ルーマニア 94,300 66.0 114,300 80.0 スロバキア 91,920 64.3 104,520 73.2 ハンガリー 56,700 39.7 66,700 46.7 マルタ 36,359 25.5 44,867 31.4 ブルガリア 31,600 22.1 36,600 25.6 フィンランド 25,463 17.8 28,463 19.9 ルクセンブルグ 16,809 11.8 20,161 14.1 ラトビア 6,850 4.8 8,350 5.8 リトアニア 4,150 2.9 4,850 3.4 エストニア 1,820 1.3 2,170 1.5 28,524,767 19,967.3 32,551,532 22,786.1 ドイツ EU27 ヵ国合計 *推計 **非ガラス集熱器を含むすべての技術 ***海外県含む 出典:EurObserv’ER 2010 16 NEDO海外レポート 表4 NO.1066, 2010.9.15 2009 年*の住民(1,000 人)あたりの太陽熱設備容量**注6 m2/1,000 人 kWth/1,000 人 キプロス 873.9 611.7 オーストリア 517.1 362.0 ギリシャ 360.5 252.4 ドイツ 157.8 110.4 マルタ 107.8 75.4 デンマーク 87.3 61.1 スロベニア 76.9 53.8 チェコ共和国 48.9 34.2 オランダ 46.7 32.7 スウェーデン 45.1 31.6 ポルトガル 41.8 29.3 スペイン 40.5 28.3 ルクセンブルグ 40.1 28.1 イタリア 33.4 23.4 ベルギー 30.9 21.7 フランス*** 30.8 21.6 アイルランド 27.2 19.0 スロバキア 19.3 13.5 ポーランド 13.4 9.4 英国 7.7 5.4 ハンガリー 6.7 4.7 ルーマニア 5.3 3.7 フィンランド 5.3 3.7 ブルガリア 4.8 3.4 ラトビア 3.7 2.6 エストニア 1.6 1.1 リトアニア 1.5 1.0 64.9 45.5 国名 EU27 ヵ国合計 *推計 注6 **非ガラス集熱器を含むすべての技術 総設備容量/住民(1,000 人) 17 ***海外県含む 出典:EurObserv’ER 2010 NEDO海外レポート 3. NO.1066, 2010.9.15 産業界の不調 3.1 市場の停滞は雇用機会の喪失を招く 太陽熱セクターは、再生可能エネルギーの中で最も雇用と利益を生む部門のひとつであ る。その理由として、ヨーロッパで販売されている太陽熱システムコンポーネントの圧倒 的多数がヨーロッパ内で生産されていること、そして他の理由としては、システムの販売、 設置とメインテナンスは労働集約型であることなどが挙げられる。 しかし、ヨーロッパ市場の成長はさまざまであり、それが太陽熱セクターによって創出 される雇用数(正社員相当)と付加価値に影響を与える。BSW(ドイツソーラー産業協会) によれば、ドイツ市場の縮小は5,000人分の雇用喪失を引き起こし、同セクターの雇用総 数は2万まで減少した。また同時に、同セクターの登録された売上高は、17億ユーロから、 12億ユーロへと転落した。スペインの太陽熱セクターは、国内市場の停滞による影響を受 けている。ASIT(スペイン太陽熱産業協会)は、同セクターの雇用数が1万(直接雇用が 8,000、間接雇用が2,000)から7,500(直接雇用が6,000、間接雇用が1,500)へと25%減 少したと発表した。同時に、売上高も3億7,500万ユーロから3億2,200万ユーロへと、14% 減少している。 4 つのレーザー光源を持つ ロボットが、コイルをアル ミニウム板に溶接 18 NEDO海外レポート NO.1066, 表5 2010.9.15 2009 年* EU 太陽熱部門を代表する企業 企業名 国名 GREENoneTEC オーストリア 2008 年の 生産量 (m2) 2009 年の 生産量 (m2) 平板型集熱器 1,320,000 980,000 真空型集熱器 1,440,000 1,110,000 技術の種類 Viessmann ドイツ 太陽熱暖房設備 Schüco ドイツ 二重ガラス・ 410,500** 308,000** 320,000 n.a. 太陽熱システム Thermosolar ドイツ 太陽熱暖房システム 300,000 270,000 Solvis ドイツ 太陽熱・PV システム 250,000 n.a. Ritter Solar ドイツ 太陽熱暖房システム 211,264 140,000 Wolf ドイツ 太陽熱暖房システム 200,000 200,000 アイルランド 太陽熱・PV システム 180,000 135,000 ドイツ 太陽熱暖房設備 128,000 190,000 Kingspan Solar Vaillant *推計 **平板集熱器、Viessmann 製真空型集熱器は含まれていない 出典:Sun & Wind Energy (2009/12)、EurObserv’ER 2010 イタリア市場の安定にもかかわらず、太陽熱セクターの雇用数が上昇したのは、新たな 製造設備の建設によるものである。Assolterm(イタリア太陽熱産業協会)によれば、2009 年は雇用数が300増え、総数は4,500となった。イタリアでの売上げは、市場の縮小を受け て、4億2,000万ユーロから4億ユーロへとわずかな減少がみられる。 フランスもまた、太陽熱セクターの雇用数が減少すると予測されている。Ademe(フラ ンス環境・エネルギー管理庁)が調査を行い、2008年の雇用数は4,420となっている。雇 用の減少が予測されているのは、オーストリア(オーストリア・ソーラーによれば、2008 年の雇用数は7,400)とギリシャ(EBHEによれば、2008年の雇用数は3,300)も同様であ り、国内生産の多くは輸出用である。各国の専門家たちによる情報と多様な要因から我々 が出した暫定的な予測では、ヨーロッパの太陽熱セクター関連の直接雇用数と間接雇用数 は合わせて約5万人である。この数字は、2008年のヨーロッパ太陽熱セクターの雇用数の 我々の最新の予測(2009年6月発行)が、かなり控えめであったことを示しており、2008 年のヨーロッパ・セクターでの雇用数は、5万8,000人近くになっているはずである。 19 NEDO海外レポート 3.2 NO.1066, 2010.9.15 自動化が進展 ヨーロッパの太陽熱産業界は、2010年の市場停滞の見通しに対して、過度の心配はして いないようにみえる。 これは、ヨーロッパでエネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの促進が求められて いることを考慮すれば、太陽熱市場の短期的、あるいは中期的な大量生産市場への成長は、 ますます確実になるとみられているのがその理由だろう。 さらなる大量生産の必要性により、すでに多くのメーカーが、製造ラインの一部自動化 を進めている。FIX Maschinenbau 社、Reis社、KG Maschinenfabrik社、DTEC社、 Reimann und Kahl社、ATS Automation Toolng Systems社といった設備の自動化に特化 しようとする多くの企業は、新型で自動化がより進んだ生産ラインの設計と構築の分野で 吸収器メーカーや集熱器メーカーと協力している。 DTEC社のようないくつかの企業は、すぐに稼働可能なターン・キー方式の設備をメー カーに提供している。太陽熱産業界は、高い品質を確実に維持するのと同時に、コストを 減らすため、製造サイクルの期間を大幅に減らす必要がある。 メーカーは、費用効果を高めるために大量に生産する必要があるので、これらの投資は 戦略的な選択である。そのため、製造の自動化のレベルは、各メーカー毎に、特有なもの である。 溶接ロボットの全体像 20 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 吸熱器製造ラインは、吸熱器の質と設計を向上させるレーザーや超音波の溶接機の出現 によって、最も早く自動化が進んだ。自動化はまた、ガラスの洗浄、フレーム、裏板、吸 収器、フレームの絶縁体などの組み立て、ガラス部分の接着など、様々な集熱器の組み立 て段階にまで進んでいる。自社の自動化に最も投資した集熱器メーカーでは、いまや、2 分以内で集熱器1台の製造が可能になった。自動化のレベルは、今後数年間でさらに上昇 するだろう。現状では、太陽熱業界において、吸熱器と集熱器の製造工程が分かれている。 多くの場合、集熱器メーカーは、吸熱器製造に関わることはなく、吸熱器専門メーカーか ら調達することを好む。そして、自社で吸熱器を製造することを選択した集熱器メーカー は、工場内の吸熱器と集熱器の製造工程を分けている。このような製造シナリオは、近い 将来変わるかもしれない。増産への動きにより、設備の自動化を専門にする多くの企業は、 吸熱器生産を統合した集熱器生産ラインを持つ完全自動製造工程を開発することを考える ようになった。 自動化が専門であるFix Maschinenbau社は、顧客である集熱器メーカー2社(会社名と 製造ラインの稼働予定日は明かされていない)が、この方向で動いていることを確認した。 太陽熱産業の他の企業家たちは、総合的な自動化自体が最終目的ではなく、真の課題は生 産サイクルの短縮よりも、コストを下げることだとはっきりと述べている。ソーラー産業 の主な問題のひとつは、吸熱器の製造に広く使われている銅の価格の急激な上昇である。 進められている研究のひとつは、主に銅パイプの厚さを薄くすることによって集熱器製造 に必要な銅の量を減らすことである。他の解決方法として実施されているのは、銅の代わ りにアルミニウムを利用することである。しかし、アルミニウムを使用した場合、接触し た部分から生じる腐食を防ぐために集熱器の設計を調整する必要があり、このため開発プ ロセスが遅れている。 3.3 ヨーロッパ産業界は回復を待っている 目を見張る成長から5年が過ぎ、ヨーロッパ産業界が成長軌道に回復するまで、しばら く時間がかかるだろう。 「黄金期」には、近代化、新規製造設備への投資により、より信頼 性が高く効率の良い製品を生産することが可能だった。結果的に、太陽熱市場は無傷では すまなかったが、産業界は、市場の将来の成長を危険にさらすような困難を切り抜けるの に必要な財源を持っている。EU諸国は太陽熱テクノロジーに対してますます好ましい認 識を持っているため、より良好な経済状況へ回復することにより、市場動向は再び勢いよ く上向きになるはずである。 しかし現在の状況は、不況の影響をまだ引きずっており、また2010年中は市場が回復す る前兆が見られないため、かつてないものといえる。それにもかかわらず、関係者の中に は、ヨーロッパ市場における(次の章を参照)新規生産能力への投資を回避してはいない ものがいる。一方、他のヨーロッパの製造関係者は、アジアと北米地域の太陽熱市場の健 全な成長をうまく活用するため、これら2つの地域への投資を選択している。 21 NEDO海外レポート 3.3.1 NO.1066, 2010.9.15 GREENoneTEC社は生産能力を300万m2 まで引き上げることを狙う GREENoneTEC社の成功のカギのひとつに、同社の製造工程を徐々に自動化していった ことが挙げられる。同社のSt.Veit工場(オーストリア)の生産能力は、いまや最大160万 m2 となった。同社の期待に反した工場の稼働レベルは、2009年のヨーロッパ市場の停滞 によるものと説明がつく。Sun & Wind誌上に2009年末に発表されたSolrico調査によれば、 GREENoneTEC社による平板ガラス型集熱器の生産量は、2008年の127万m2 に対し、 2009年は98万m2 に、吸熱器の生産量は、2008年の144万m2 から、2009年には111万m2 へ と減少した。GREENoneTEC社は、真空型集熱器数万m2も生産している(2008年は5万 m2) 。 集熱器 FK8000 モ デルのロボット化 された生産ライン 新しいレーザー溶接機能を備えた工場自動化への作業は、2009年を通して続けられた。 この生産ラインでは、吸熱器の部品数を削減して軽量化し、ロボット化が導入されたライ ンの生産目的に合うように設計されたFK8000という最新式集熱器シリーズを製造する予 定である。地面に直接設置する、あるいは屋根一体型にするために、集熱器にはモジュー ル式組立システムが取り付けられる予定である。 2009年の初めに、GREENoneTEC社は、同社のガラス・サプライヤーであるPetraglas 社を自社の敷地内に移したため、自前のガラス生産工場を持つことになった。この新しい 配置で、輸送費と倉庫代のコストが減ることにより、両社とも競争力が高まるだろう。ま 22 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 たGREENoneTEC社は、市場のさまざまな需要に応えるための柔軟性が増し、事業を拡張 することが可能となるだろう。そこで、同社は集熱器の年間生産量を300万m2 まで徐々に 増やすことを望んでいる。GREENoneTEC社の株の50%を所有するオーストリアのグル ープ企業、Kioto Clear Energy社(残りの50%はデンマークの持ち株会社VKR社が所有) は、北米市場へ進出することを決意した。昨年、同社はKioto社という名のパネル組み立て 工場をメキシコに開設した。Kioto社は10万m2 の初期生産能力を持ち、GREENoneTEC 社製の吸熱器を使用する予定である。 3.3.2 Bosch Thermotechnik社は事業拡張を進める Bosch Thermotechnik社は、太陽熱事業に大規模な投資を行ったヨーロッパを代表する 企業のひとつである。このドイツの暖房装置の企業グループによる最近の投資は、中国の 上海近郊に2万2,300m2 の初期生産能力を持つ平板ガラス型集熱器の製造ラインを開設す るためであった。この新規の投資は、ドイツのWettrigen工場での集熱器の生産能力拡大 に続くもので、2008年に比べ年間5万台増えて現在は20万台生産している。工場の従業員 数は25%増加し、200人近い社員が働いている。2007年以来、同グループはポルトガルの Aveiroに年間15万台の生産能力がある工場を持っている。直近の3年間で、集熱器の生産 能力が50万m2以上拡大し、総生産能力は86万m2 以上となった。太陽熱集熱器は、Buderus、 Junkers のブランド名で販売されている。Bosch Thermotechnik社の再生可能エネルギー 事業は、2009年で総売上の15%を占めるようになり、金額にして28億7,000万ユーロ相当 となった。 3.3.3 将来の真空テクノロジーを先導するViessmann社 2009年10月、ヨーロッパ内で第4位のドイツの暖房装置の企業グループは、中国の北京 から30km南に位置するDachangに真空型集熱器の製造工場を開設した。この戦略的投資 は、世界の主要な太陽熱市場をはるかに凌ぐ高景気に沸く中国市場における、このドイツ グループ企業の基盤を強化する。当初は、その工場で300人を雇い、2010年時点で真空管 の生産能力が65万本、2012年には100万本に成長する予定である。そのため、Viessmann 社は平板ガラス型集熱器と同様に、真空型集熱器テクノロジーでも世界的な主要メーカー となるだろう。Viessmann社は2008年以来、中国の真空管製造会社であるEurocone社の 大株主である。Eurocone社は、Viessmann社のこの新しい投資の基盤としての役割を果た している。同グループのヨーロッパでの集熱器生産はフランスのFaulquemont工場に集中 しており、同工場は66万m2 (年間29万台分)の生産能力を持つ。Viessmann社は2010年 4月に新しいレーザー溶接設備を稼働させることにより、吸熱器の生産能力を拡大した。 オーストリアの工作機械メーカーであるDTEC社から供給されているこの設備は、72秒毎 に1台の吸熱器を生産することが可能である。 ヨーロッパ市場の縮小はViessmann社の太陽熱ビジネスに影響を与えている。 同社のFaulquemont工場では、2008年の41万500m2 に対し、2009年は30万8,000m2 の平 板ガラス型集熱器を生産している。同工場は、真空型集熱器のハウジングも製造している 23 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 (真空管はDachangで製造) 。これらのハウジングの生産量は1万2,000台(3万3,000 m2 相 当)で、2010年の生産量は、1万3,700台と推測されている。Viessmann社は、自社の最新 製品である2m2 サイズと3m2 サイズの真空型集熱器を2010年4月から市場に投入する予 定であると発表した。 3.3.4 Vaillant社が空白の期間を埋め合わせる ドイツのVaillantグループは、Bosch社に続くヨーロッパ第二の暖房設備企業グループで あり、やや遅れて太陽熱集熱器事業に参入した。 2008年、年間10万台(25万m2 相当)の生産能力を持つ、同社にとって初めての集熱器 製造工場をドイツのGelsenkirchenに開設することにより、参入への第一歩を踏み出した。 2009年9月、このドイツの企業グループは、年間12万5,000台(年間30万m2 相当)の生産 能力を持つ2番目の集熱器製造工場を、フランスのNantesに開設した。これにより、同グ ループ企業の年間生産能力は年間22万5,000台(55万m2 相当)へと成長した。同社は、環 境に優しい暖房テクノロジー製造活動の大幅な拡大を目指し、欧州投資銀行から、貸付限 度額である1億2,000万ユーロを借り入れることを決意した。 100 白 書 24.0 28.5 32.6 35.9 出典:EurObserv’ER 2010 図3 現在の傾向と白書の目標の比較(単位:百万 m2) 24 NEDO海外レポート 3.3.5 NO.1066, 2010.9.15 Solvis社は製造を自動化 自動化へ巨額の資金を投資し、生産能力を上げている再生可能テクノロジー専門の企業 が数多く存在する。ドイツのメーカーであるSolvis社はまさに、この好例である。2009年 5月、同社はロボット化された生産ラインを開設し、年間生産量を30万m2 まで拡大した。 それと同時に、Solvis社は吸熱器の年間生産量を50万m2 まで増やすため、3台目のレーザ ー溶接設備に資金を投入した。これらの機械の購入は、 「ゼロ・エミッション」生産拠点の 拡張も合わせて、1千万ユーロという巨額の投資によるものである。 3.3.6 Kingspan社が新しい工場を開設 2009年の厳しさにもかかわらず、真空型集熱器メーカーのRitter Solar社(2008年の販 売実績およそ21万1,000m2 に対して、2009年は14万m2)とKingspan Solar社(2008年の 販売実績およそ18万 m2 に対して、2009年は13万5,000 m2)は将来のヨーロッパ市場の 成長に備えるため、ロボット化を導入するという賭けに出た。アイルランドの企業グルー プであるKingspan Solar社の最近の投資は、2010年の第1四半期にアイルランドのポータ ダウンにおいて、完全に自動化された新生産ラインを開設するものであった。しかし、同 グループは、自社の新しい生産能力を発表してはいない。 4. 2011年までは、はっきりとした市場の回復はみられない 2010年にヨーロッパの太陽熱市場の成長は回復するだろうという当初の見込みは期待 薄とみられている。財政難と経済停滞の後、ほとんどのEU加盟国は、今年の初めからユ ーロ危機に取り組まなくてはならなかった。 この新しい混乱は痛みを伴い、ギリシャとスペインによる金融引き締め対策は、両国の 太陽熱市場を迅速な好転へとは導かないとみられる。一般的に、加盟国の多くは政治上の 知恵として、公共支出の引き締めを行うものと思われるが、これでは投資を促進する余地 に限界が生じる。再生可能エネルギー暖房器具向けの投資助成への予算割り当てを一部停 止するというドイツの決断は、2010年のドイツ市場の回復を支援しないだろう。しかし、 いくつかの市場は他の市場に比べて、危機をうまく切り抜けるだろう。特にポーランドと 英国の市場は、成長し続けるに違いない。2010年に、イタリアとオーストリアは少なくと も現状を維持するだろう。フランス市場に関しては、集合住宅部門の成長から、利益を生 み続けるだろう。個人住宅市場の回復は、非常に有利なインセンティブ計画があるにもか かわらず、まだ不安定のままである。市場の回復には大幅なシステム費用の軽減を必要と するだろう。2009年のヨーロッパ市場の40.4%はドイツが占めているので、結局、2010 年のEUにおける集熱器設置数は、大規模な助成システムがなくても稼働しているドイツ 市場の能力に大きく左右されるだろう。 このような様々な要因は、2011年までは、太陽熱市場の成長の見込みはないであろうこ とを示している。2010年はさらなる停滞に苦しむだろう。EurObserv’ERによれば、この 減少は約10%であり、2010年の新規設置面積は、約370万m2 とみられている。廃棄され 25 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 るシステムを考慮に入れると、EUの集熱器の総設置面積は最終的に、3,600万m2 弱とな るだろう。 それにもかかわらず、太陽熱セクターの将来には暗雲が立ち込めているわけではない。 6月に公開される、EU諸国から欧州委員会に提出義務のある再生可能エネルギー国別行動 計画では、再生可能エネルギー部門の開発促進について、加盟国の様々な方策が盛り込ま れているであろう。これを踏まえて、ESTIF(欧州太陽熱産業連盟)は、EUにおける2009 年の太陽熱の可能性に関する調査結果を発表した。エネルギー効率対策によって2020年ま でに、総エネルギー需要を2006年比で9%削減することを前提としたとき、「EUのエネル ギー需要の20%を再生可能エネルギーでまかなう」というEUの目標の内、6.3%が太陽熱 による貢献となるだろう。これは、政策的、財政的支援メカニズム、エネルギー効率化施 策、及び研究活動からなる「完全な研究開発と政策シナリオ(full R&D and Policy (RDP) scenario)注7」が実施された場合の予測である。一方、目標を控えめにし、政策的、財政的 支援メカニズム、より緩やかなエネルギー効率化施策、研究活動の強化を包含した AMD(Advanced Market Deployment: 先進市場導入)シナリオの場合には、太陽熱エネル ギーの貢献はわずか2.4%となるかもしれない。目標の達成に必要な太陽熱集熱器の総設置 面積は、RDPシナリオの場合は1億4,550万m2 (101.9 GWth)、AMDシナリオの場合は3億 8,800万m2 (271.6 GWth)となるだろう。BAU(Business As Usual: 現状通り)シナリオは、 「現行ペースでの開発」を意味し、同じ期間で集熱器の総設置面積は9,700万m2 (67.9 GWth)となるだろう。こうした研究結果は、野心的に見えるが、加盟国のコミットメント に沿ったものである。各国の行動計画の一環として発表されたこのロードマップは、太陽 熱セクター開発の明確なビジョンを提示してくれるだろう。 表1 と表2の出典: ZSW(ドイツ) 、ASIT(スペイン) 、Assolterm(イタリア) 、Enerplan (フランス) 、Ademe(フランス) 、Austria Solar(オーストリア) 、IEO EC BREC(ポ ーランド) 、ATTB(ベルギー) 、Ministry of Industry and Trade(チェコ共和国) 、ADENE (ポルトガル) 、Solar Trade Association(英国) 、Svensk Solenerg(スウェーデン) 、CBS (オランダ) 、SEAI(アイルランド共和国) 、Cyprus Energy Institute(キプロス) 、 PlanEnergi(デンマーク) 、Energy Centre Bratislava(スロバキア) 、IJS(スロベニ ア) 、 MRA(マルタ) 、Sofia Energy Center(ブルガリア) 、STATEC(ルクセンブルグ) 、 BSRIA(英国) 翻訳:NEDO(担当 総務企画部 髙村 祐子) 出典:“Solar Thermal Barometer” 注7 EU 再生可能エネルギー「20-20-2020 目標」における、太陽熱シナリオ(想定)のひとつ。Full R&D and Policy (RDP) シナリオ、Advanced Market Deployment (AMD)シナリオ、Business As Usual (BAU)シナリ オの 3 種類のシナリオがある。http://aee-intec.at/0uploads/dateien710.pdf 26 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 http://www.eurobserv-er.org/pdf/baro197.pdf フランスの Observ’ER(Observatoire des énergies renouvelables:再生可能エネルギー 観測所) が作成した刊行物を同観測所の許可の基に翻訳・掲載した。この刊行物は 「EurObserv’ER プロジェクト」の成果であり、その詳細は下記のとおりである。 27 NEDO海外レポート NO.1066, 2010.9.15 EU 諸国における太陽熱集熱器設備容量*(単位:MWth) 2009 年末時点の総設 2009 年の新規設置容量 備容量 28 出典:EurObserv’ER 2010