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ドイツのナノテク研究開発の概要 ドイツのナノテク研究開発の概要

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ドイツのナノテク研究開発の概要 ドイツのナノテク研究開発の概要
NEDO海外レポート NO.991,
2006.12.13
【産業技術】ナノテク
ドイツのナノテク研究開発の概要
新エネルギー・産業技術総合開発機構
ナノテクノロジー・材料技術開発部
ドイツのナノテク研究開発の概要
ドイツは欧州で第一のナノテク研究開発国である。ここではその規模と研究開
発体制をおおまかにみた後、その開発戦力の特徴に触れておく。
■ 2005 年のナノテク研究開発政府予算(連邦教育研究省 BMBF と経済産業
省)
以下の三つの予算ラインに分かれ、合計で3億ユーロ規模の助成となっている。
•
•
•
•
1 億 2920 万ユーロ(テーマ別プロジェクト助成支援)
2370 万ユーロ(企業間共同プロジェクト助成支援)
1 億 4550 万ユーロ(研究機関組織に対する基礎研究助成支援)
合計:2 億 9830 万ユーロ
EU15 でみれば、これはメンバー国政府が行っている公的助成全体の 40%にあ
たるという。
■
助成体制
主に以下の三つを通じて助成支援が行われている。
•
•
教育研究省 BMBF による産業用研究開発支援
DFG が支援する基礎的研究に対するプロジェクト支援
-----------------------------------------------------------------------この報告書は、NEDO平成17年度成果報告書「欧州のナノテクノロジー戦略・標準等
に関する動向調査」(バーコード番号 100008031)より一部抜粋したものである。
NEDO成果報告書データベースは、 http://www.tech.nedo.go.jp/index.htm
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NEDO海外レポート NO.991,
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2006.12.13
主要な研究開発機関に対する機関助成
教育研究省 BNBF の助成によるナノテク研究開発
BMBF は 1980 年代からナノテクに対する助成を行っており、当初はナノ材料と
物理技術プログラムにおいて、ナノパウダーの生産やシリコン上の側面構造の
創造、ナノ分析メソッドの開発などが行われていた。その後、レーザー研究や
オプトエレクトロニクスなどのさらに広い分野でのナノテク研究が実施される
ようになった。1998 年には 2760 万ユーロ程度であったナノテク助成額は、
2005 年には 1 億 3000 万ユーロ弱と、4倍以上の増加となっている。分野別の
助成額の推移と、分野毎の主な研究項目は次のようになっている。
2002
ナノ材料
生産技術
光学技術
マイクロシステム
技術
通信技術
ナノエレクトロニ
クス
ナノバイオ
技術革新と分析技
術
合計
ナノ分析、ナノバ
イオ、ナノ構造物
質、ナノ化学など
超薄膜、超微細表
面
ナノオプティク
ス、超微細加工、
マイクロ顕微鏡、
フォトニクス結
晶、分子エレクト
ロニクス、ダイオ
ード・レーザー、
OLED
システム統合、ナ
ノセンサー、ナノ
アクター、エネル
ギー・システム
量子構造システ
ム、フォトニクス
結晶
EUVL、リトグラ
フィー、マスク技
術、e バイオチッ
プス、磁気エレク
トロニクス 、SiGe
エレクトロニクス
操作技術、機能性
ナノ粒子、バイオ
チップス
ITA 調査
81
2003
2004
2005
19.2
20.3
32.7
38.1
0.2
0.8
2.2
2.2
18.5
25.2
26.0
26.0
7.0
7.0
9.4
10.2
4.3
4.0
3.6
3.4
19.9
25.0
44.7
46.2
4.6
5.4
5.0
3.1
0.2
0.2
0.2
73.9
88.2
123.8
129.2
NEDO海外レポート NO.991,
2006.12.13
出典:Nanotechnology conquers Markets : German Innovation Iniative for Nanotechnology
この表から分かるように、BMBF の産業技術プログラムでは、ナノエレクトロ
ニクス、ナノ材料、光学技術、マイクロシステムが中心になっている。この四
分野のうち三つについては、NanoFab(ナノエレクトロニクス)、NanoMobile
(ナノ材料)、nanoLux(光学技術)という専用のアクション・ラインを持っ
ている。ここから分かるように、ナノ材料は、「自動車におけるナノ材料と ナ
ノテクノロジー」とされ、自動車用のナノ材料開発である。
セクター別のナノテク利用例として BMBF は以下を挙げている。
●
自動車
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
●
センサー・ベースの始動防止装置(盗難、アルコール量など)
万能センサー(加速、空気圧、タイヤの疲弊、温度、排気ガスなど)
擦り傷防止プラスチック・スライド
多機能コーティング(デザイン、熱反射、容易な洗浄、自己加熱)
スイッチ可能粘着テープ(航空機、列車用にも)
道順計画(高性能 IC システムによる)
切り替え可能な表面・背景照明(感知・視覚、受動・能動切り替え可能
性能を持った材料)
軽量ロードベアリングと構造コンポーネント、スマートな緩衝要素、低
摩擦ベアリング、走行要素(高速車には省エネ・ドライブ)
燃料電池システム(メンブラン、貯蔵タンクなど)
低摩耗・超ハイ・グリップ・タイヤ
長寿命かつ信頼性の高い省エネ・高性能照明要素(LED ベース)
摩擦の最小化
コンピューター・ドライブ
化学/薬品/医療
•
•
•
•
•
•
•
•
•
予防医療診断(呼気分析、SNP 分析など)
長期投薬インプラント(センサー機能付き活性体システム)
遺伝子治療用遺伝子ベクター
新しい抗ガン・システム(投薬システムもしくはアクティブ要素として
のナノ粒子)
安全なタンニン作用(センサー日焼け防止紫外線 A/B のスマート探知)
人口皮膚/器官組織機能(ナノ構造インプラント表面)
最小侵襲度の高解像度の映像プロセス
機能性衣服(身体機能センサー、吸汗性サイクロデクストリン
cyclodextrins、芳香ディスペンサーなど)
プログラム可能材(柔から硬、透明から吸収性、反射からぼんやり、電
気特性の切り替え、自己組織性など)
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排気ガス浄化用メンブラン(化学リアクター、石炭火力発電所など)
健康へのリスクを抑え使用感を改善した化粧品(ナノスフィア・クリー
ム)
安定化ナノ粒子ビタミン
超吸収剤
触媒
光学
•
•
•
•
•
•
•
●
オプトエレクトロニクス・コンポーネントによる照明技術(LED による
省エネ白色灯など)
大衆家電用オプトエレクトロニクス・コンポーネント・アプリケーショ
ン(DVD、レーザーTV など)
ナノ構造物によるデータ記録(DVD、CD)
ナノ構造物コンポーネントによるディスプレイ要素
機能レイヤーを備えためがね類(赤外線吸収サングラス、ひっかき瑕防
止めがねなど)
写真フィルム用ナノ粒子
X 線めがね
ITC/エレクトロニクス
•
•
•
•
•
•
•
•
•
●
大規模統合技術用、高密度・高速データ送信・処理
新しいタイプの軽量、省エネ、高解像度ディスプレイ
携帯用 ITC 切り替えセンター(腕時計、身体エレクトロニクスなど)
多機能設備機器(デジカメ、アルコール・センサー、ディジタル・キー、
タイマーなどを統合した携帯電話など)
ナノ構造物ポリマー・エレクトロニクスの経済的大量生産
家具設備にフィットし声で制御できる完全ディジタル化家庭電化システ
ム
シミュレーターや大衆電化製品用大型三次元映像ディスプレイ
汎用電子翻訳ハンドセット(バベル・フィッシュ)
車内機転性警告支援システム-ディジタル運転手
バイオテクノロジー
•
•
•
•
装着可能ラボ・オン・チップス、バイオチップなどの個人診断用テス
ト・システム
新しい DNA シークエンシング・プロセス(ナノポアー・シークエンシ
ング)
改良マイクロ顕微鏡(AFM)
分子構造直接操作
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•
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•
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•
•
•
●
トランスフェクションの新しいメソッド(遺伝子トランスファー)
遺伝子バンク用システム(ナノ分析と非揮発性データ貯蔵によるマイク
ロシステム技術)
バイオ分子ベース上のデータ貯蔵
本人同定用バイオ分子
化学品のゴミ節約生産用バイオ触媒
バイオロジック・ベース上の細胞機械
DNA ラベル/マーカー
食品
•
•
•
•
●
(鮮度を示す)センサー機能付き、透過率の低い透明パッケージ
食品ナノ粒子(色味をます作用、毒に対するセンサー機能など)
水浄化用メンブラン(海水浄化用ナノチューブ・システムなど)
鮮度保証付きプラスチック・パッケージ
エネルギー・セクター
•
•
●
安価なソーラー・セル(色素増感型)
効率的でコンパクトな貯蔵(高速充電特性を持つナノ粒子キャピテータ
ー)
建設セクター
•
•
•
•
•
•
●
インテリジェントな壁面
汚れ防止やバクテリア防止表面(キッチン家具や衛生品)
スチールや銅のための透明な防御コーティング
暖房システム(セラミクス・コンポーネント、燃料電池メンブラン)
PV(二酸化チタン表面、グレッツエル電池)
断熱性に優れた軽量建材(アエロジェル、ポリマー・コンポジット、防
火壁、ナノキャプセル熱保存など)
レジャー
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•
•
■
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スキー・ワックス
スポーツ・シューズ
レジャー用衣服
テニス・ラケット
すべての種類のスポーツ用重装備品
機関助成によるナノテク研究開発
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ドイツの研究開発体制の特色である研究機関をネットワーク化したアソシエー
ション、ライプニッツ研究所 WGL、ヘルムホルツ協会 HGF、マックスプラン
ク協会 MPG、フラウンホッファー協会 FhG において、 ナノテクノロジーは基
礎的な研究から産業技術にいたるまで幅広い研究開発の対象になっている。こ
れに学術的な研究プロジェクトに対する助成を行う助成組織 DFG を加えた五
つが、機関助成のチャンネルであり、 ナノテクノロジーに対し年間 1 億 4000
万ユーロほどを助成している。2005 年これらに対するナノテク関連の助成予算
は次のようになっている。
•
•
•
•
•
•
ドイツ研究基金 DFG:6000 万ユーロ
ライプニッツ科学協会 WGL:2350 万ユーロ
ヘルムホルツ協会 HGF:3780 万ユーロ
マックスプランク協会 MPG:1480 万ユーロ
フラウンホッファー協会 FhG:490 万ユーロ
カエサル:440 万ユーロ
これらのうち DFG はプロジェクト助成用の基金であるが、重要な研究ネット
ワーク毎の ナノテク関連活動は次のように概観される。
•
ライプニッツ科学協会 WGL:ナノ材料に関する研究開発が中心で、ザ
ールブリュッケンの新材料研究所 INM、ドレスデンの固体・材料研究所
IFW、ドレスデンのポリマー研究所 IPF などが知られている。また表面
加工技術に関する研究も、ライプニッツの表面加工研究所 IOM、ロッセ
ンドルフ・リサーチ・センターで行われている。
•
ヘルムホルツ国立研究センター:特にカールスルーエとユーリッヒ研究
所におけるナノ材料とナノエレクトロニクスに関する研究が知られてい
る。カールスルーエ研究所は、ナノ構造物質とナノエレクトロニクス分
野で、カールスルーエ大学とストラスブルグ大学との間で、ナノバレ
ー・リサーチ・アソシエーションを形成している。
マックスプランク協会:ナノ科学の基礎的な研究が知られており、シュ
ツットガルトの固体研究所や金属研究所、ハレのマイクロ構造研究所に
おけるナノ材料、特性決定手法、新しい機能材に関する研究がある。こ
れらのうちでも特に固体研究所のナノイオン、カーボン・ナノチューブ、
ナノ薄膜、バリヤー・レイヤー、ナノ粒子に関する研究が有名である。
•
■
ドイツのナノテク戦略の特徴
以上のようにドイツは、全土にわたるナノテク研究拠点を通じ幅広い活動を行
っているが、2004 年に連邦教育研究省 BMBF が発表したドイツのナノテク・イ
ニシアチブや、これまでにみたナノテク研究開発からその特徴をみると、総合
的な特徴が第一にあげられる。総合性は、大企業を中心にしたセクター別の助
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成プログラム、中小企業の育成策、若手研究者の養成、地域の研究開発能力の
開発維持といった国土政策などが盛り込まれている点にみられる。
セクター別助成プログラム:一方で、大メーカーを中心にセクター別に組まれ
た NanoMobile(自動車用ナノ材料)、NanoLux(照明・光学セクターの ナノテ
クノロジー)、Nano for life(医療用 ナノテクノロジー)といった助成プログラ
ムがある。また最近ではナノ粒子の健康や環境に対する影響を研究するための
NanoCare が3年プロジェクトとして開始されている。BMBF が 500 万ユーロを
助成し、Degussa、BASF、Solvay 等の化学大手を中心にした企業や、
カールスルーエ研究所や大学等の研究機関、合計 13 組織が参加している。プ
ロジェクトには企業側か 260 万ユーロが提供され、総額 760 万ユーロ規模で実
施される。
•
中小企業育成策:「ナノチャンス」とよばれるナノテク分野に専用の、
スピン・オフやスタート・アップ企業に対する助成支援スキームが設け
られている。こうした財務面での援助に加え、市場分析調査助成、イベ
ント参加や開催支援、ネットワークへの組み込み支援なども行われてい
る。
•
若手研究者の育成:基礎的な学問領域からエンジニアリングに及ぶ多面
的な性格から、 ナノテクノロジーを従来の学問領域にとどまらず起業精
神にも富んだ新しいタイプの研究者の育成に適した領域として、BMBF
は 2002 年、ナノテク分野の研究者を対象に、5年間に及ぶ大きな額の
研究奨学金を 250 人分用意し、コンクールを行っている。これは米国へ
の頭脳流出防止措置の一環でもあり、ナノテク研究者の育成が、教育・
研究体制改革の先端に位置付けられている。
•
地域の研究開発能力の開発維持:BMBF は年間予算 200 万ユーロほどの
ナノテク・センターを 1998 年、全国に六カ所設置した。この活動は
2003 年に第三期に入り、現在は以下の九カ所に、ナノテク分野の特定の
技術領域を対象にしたナノテク・センターが設置されている。
o
o
o
o
o
o
o
o
o
超薄機能性レイヤー(ドレスデン)
ナノ材料:化学的機能(ザールブリュッケン)
超微細表面加工(ブランシュビック)
ナノバイオ分析(ミュンスター)
ハンザナノテク(ハンブルグ)
ナノ分析(ミュンヘン)
オプトエレクトロニクスにおけるナノ構造-NanOp(ベルリン)
ナノバイオテク(カイゼルシュラウテルン)
ナノマット(カールスルーエ、カールスルーエ研究所の資金によ
り設置)
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