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中学終始業式講話(H28.9.29) 21日夕方、学校に、ある女性から一本

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中学終始業式講話(H28.9.29) 21日夕方、学校に、ある女性から一本
中学終始業式講話(H28.9.29)
21日夕方、学校に、ある女性から一本の電話がありました。
「20日の午後15:00頃、茅野駅で1人の男性が、足を滑べらせて転ん
でしまいました。その男性に寄り添い、近くにいる人たちに“誰か駅員さんを
呼んできてください”とお願いすると、1 人の中学生が“僕が行きます”と言っ
てすぐに走って駅員さんを呼んで来てくれました。早い対応ができたため、そ
の男性は無事でした。その中学生はそのまま行ってしまったため、近くにいた
友だちらしき生徒に尋ねてみると、
“清陵中の3年生の○○先輩です”と教えて
くれました。彼のとっさの対応や行動力に感動して電話をした次第です」とい
った内容でした。
皆さんはこの話をどう思いますか?
たと思いますか?
その場にいたら自分も同じ行動がとれ
私は皆さんに、この本校生の行動と、次の話をあわせて考
えてもらいたいと思います。
おとといのニュースで、埼玉県朝霞市女子中学生監禁事件の初公判が開かれた
ことが報じられました。女子中学生が大学生に誘拐され2年間にわたり監禁さ
れていたという事件ですが、そのなかで明らかにされたのが、女子中学生が、
誘拐の翌月に2度、部屋から脱出し、公園にいた人に助けを求めたものの、
「忙
しいから無理」などと言われ全く話を聞いてもらえずにショックを受け絶望し
たという事実です。
このニュース報道だけでは、状況が理解できないところもありますが、この
とき誰かひとりでいいから、彼女に真剣に対応してあげて警察に連れて行って
あげれば、2年間もの長期にわたり軟禁されるなどということにはならなかっ
たはずです。
もしも助けて下さいと声をかけられたのがあなただったら、あなたはどうした
でしょう。
「忙しいから無理」と断ってしまうことが絶対にないと言い切れるで
しょうか?
知らない人から声をかけられても簡単に応じるなと子どもたちに
指導しなければならないような物騒な世の中です。あきらかに様子のおかしな
女の子から助けてと言われても、関わり合いにならないように避けるというの
は、むしろ今の日本の世の中においては普通の行動なのかもしれません。そう
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考えると、それとは正反対の方向に一歩踏み出した本校生の勇気は、どれだけ
褒めても褒め足りないと私は思います。
中学校の終始業式で話をするのは3回目になりますが、過去2年間かけて、私
は同じような話をして来ました。
ダメな自分もまた、かけがいのない自分だと受け入れ、そんな自分自身とも真
正面から向き合ってほしい。人と自分を比較して一喜一憂しないでほしい。比
較するならば過去の自分と比較して、自分の成長を確かめてほしい。ゆっくり
進むことを恐れなくていい、ただ立ち止まることだけを恐れてほしい。これが
おととしです。去年はそれを踏まえて、皆さんには、共に進む仲間がいる。た
った一人で課題に立ち向かうのではない。みんなで共に成長していくのだから、
そのなかで誰が一番だなどと順位を付けてみても仕方ない。と言いました
なぜそんな話をしたのかと言えば、ここで皆さんが成績表を手にするからです。
その成績によって、皆さんには1番から80番までの順位が付けられてしまい
ます。そのことは皆さんにとって大きなプレッシャーだろうと思います。成績
上位者は成績表をもらうのをワクワクしながら待っているでしょうが、そうで
ない人にとっては心が暗く沈んでしまうような耐えられない時期だろうと思い
ます。そんな辛い思いをしているかもしれない生徒に向けて、励ましのつもり
でこんな話をしたのでした。
しかし、どんなに励まされても、慰められても、皆さんが教科の成績というた
ったひとつの物差しに縛り付けられている限りは、よい成績を取る以外に心が
晴れることはありません。しかし、全員が1番になることは出来ません。皆さ
んの学習評価を点数化し並べて行けば、どうやっても順位がついてしまいます。
もちろん皆さんは強い向上心を持ち続け、何とかして少しでもいい成績を取ろ
うと努力していることだろうと思います。それは正しい行動です。しかし、あ
まりにも成績というたったひとつの物差しに囚われ続けているとどうなってし
まうでしょうか。
例えば、冒頭で紹介したような、素晴らしい行為を、あなたもしたとします。
しかし、学校の成績が全てで、それ以外は価値がないと自分自身が思い込んで
いれば、どれだけ周りの人が褒めてくれたとしても、そんなことで褒められた
って仕方がないといった気持ちになってしまうでしょう。そして、次第に、
「褒
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められたって仕方がない」ことをしたってしょうがないと考えるようになり、
ついには、助けを求めて来た少女に、
「忙しいから無理」と言ってしまうような
大人になってしまうのではないでしょうか。
なぜこんな話をするのかというと、高校時代の私が劣等生だったからです。
当時の私は、勉強が出来るか出来ないかという、たった一本の価値基準に縛ら
れ、自分を見失いかけていました。その当時のことをしゃべり出すと長くなり
ますので、校長のみじめな高校時代と、そこからどう脱出したかに興味のある
人は、高校のHPの学校概要のなかの「学校長より」というページを覗いて見
てください。そこに「劣等生であるということ」という学友会誌に書いた長文
が載っています。
私の話を誤解してほしくないのですが、私は勉強が出来ることには価値がな
い、だから勉強なんて出来なくてもいいと言っているわけではありません。言
うまでもなく勉強は大事です。問題はその勉強の中身です。もしも皆さんが持
っている勉強というもののイメージが、高校時代の私を縛りつけていた勉強と
同じものだとしたら、そこから皆さんを自由にしてあげることは出来る。そう
いう話をしようと思います。
日本では明治以来ずーっと、ペーパーテストの点が高い人を勉強が出来る頭の
いい人だということにして来ました。それは、それ以外の客観的な測定方法がな
かったからです。ではテストでいい点を取るためにはどうしたらいいか。大量の
知識を詰め込み、それを制限時間内に正確に吐き出す訓練をすればいい。そうい
う「答えのある問い」に早く正確に答える能力に優れている人が、優秀な成績を
修め、いい高校に進学し、いい大学に合格し、いい就職をしてきました。高校時
代の私を苦しめて来たのは、まさにそういう勉強でした。
もしも、皆さんが、勉強が出来て頭がいいということを、そういうことだと
思っているとしたら、そういう考えはもう捨てたほうがいいです。いま、テス
トそのもののあり方が根本から変わろうとしています。理由は、そういう古い
勉強に勝ち抜いてきた日本のトップエリートが世界で全く通用しないことが明
らかになって来たからです。
そこで文科省は大学入試を全く新しいものに変えることにしました。いつか
らかというと平成32年からです。その最初の受験生がいまの中学2年生のみ
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なさんです。新しいテストでは知識・技能は相変わらず大切ですが、それだけ
でなく、知識・技能の活用力や、思考力・判断力・表現力を問うことになって
います。これを簡単に言えば、これからは、答えが一つに決められない問いや、
答えがないかもしれない問いに答えることが求められるということです。
それが出来るためには、具体的にどんな勉強をすればいいのでかと問われれ
ば、私は自信を持って、いま皆さんがしているような勉強ですと答えます。皆
さんはいま、日本の最先端の授業を日々受けています。そんな中学生は、日本
中を探しても、そうはいません。ですから学年順位が何番であろうと、そんな
こととは無関係に、清陵附属中の集団そのものが新しい学力におけるトップラ
ンナーなのです。そういう学びを日々していることに皆さん全員が自信をもっ
ていいのです。
こういった話を聞いたら、少しは気持ちが楽になったと言ってくれればいい
のですが、それだけではとてもという人にはこの話もしましょう。いま話した
のはテストのこと、つまり学力の中身のことですが、文科省では、全ての学校
が目指すべき目標として、確かな学力とともに、豊かな人間性と、健康や体力
をあげています。その3つをあわせたものを「生きる力」と言います。残念な
がら豊かな人間性を計る客観的な物差しがないので、現時点ではそのことを皆
さんの成績に加味することは難しいのですが、社会に出たら、学力よりも、人
間性や、健康・体力の方が重要という場面はいくらでもあります。
最初の話にもどれば、茅野駅で勇気ある行動をした本校生の行為を、点数化
して評価してあげることは現時点では難しいですが、この生徒が、「生きる力」
のひとつである豊かな人間性における優等生であることは間違いありません。
皆さんにお願いしたいのは、まずは古い学力観を捨てて、学力というものに
対する考え方を新しいものにしてほしいということ。そのうえで、そういった
学力だけでなく、豊かな人間性、健康・体力をあわせた人間としての総合力と
しての「生きる力」の優等生になってほしいということです。そういう視点で、
いまの自分の状態を見つめ直してほしいと思います。
いまの話は考え方を変えろという話でした。考え方を変えることは重要です
が、考えと行動は一体のものです。行動が伴わないと考えはすぐに変わってし
まいます。だから具体的に何かすべきことを示してほしいという人もいるかと
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思います。そういう人には、学校外の活動に参加することを薦めたいと思いま
す。例えば、先日行われた「中高生防災フォーラム」もそのひとつです。中高
生防災フォーラムは、先生や大人の指示に従っていた生徒のほとんどが亡くな
ってしまった宮城県石巻市の大川小学校の教訓からはじまっています。そうい
った本当の自主活動に参加し、本校以外の中学生や、いろんな年代の人たちと
出会うことで、自分自身を見つめ直すことが出来ると思います。
そして、そういうことが許されるのが中高一貫校の強みです。特に3年生の
皆さんは、普通の中学にいたらこれからつらく苦しい受験勉強をしなければな
らない時期を迎えますが、皆さんには、その必要がありません。ぜひ、この期
間を、自分の価値を高める新たなチャレンジに振り向けてほしいと思います。
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