...

手術支援ロボット 「ダビンチ」

by user

on
Category: Documents
37

views

Report

Comments

Transcript

手術支援ロボット 「ダビンチ」
手術支援ロボット
「ダビンチ」
がんの標準治療のひとつである「外科手術」。病巣は微細なりとも見逃さずに取り除い
た上で、患者さんの体への負担は少なければ少ないほどいい。そして、神経や血管が細
かく張り巡らされた場所で、緻密な作業を限られた時間で進めなければなりません。日
本でもようやく導入が進んできた手術支援ロボット「ダビンチ」は、解剖学者でも有名なレオナルド・ダ・ビンチからとった医療機器
で、“執刀医がこびとになって体の中に入りこんで処置をするような感覚”で手術が進められるとも言われています。千葉県がん
センターでダビンチを県内で初めて取り入れ、その第一人者である千葉県がんセンターの植田健医療局長(泌尿器科専門医)に
ダビンチを使った手術についてお聞きしました。
―ロボット支援手術とはどのような手術方法なのですか?
ロボット支援手術はアメリカ製の手術支援ロボット
「da
Vinci サージカルシステム(以下ダビンチ)」を使い、術者が遠隔
操作で行う腹腔鏡手術のことです。ダビンチは、サージャンコンソールという操作部、ペイシェントカートと呼ばれる腹腔鏡内
3Dカメラと手術用鉗子装置一式、ヴィジョンカートというモニターなどの3つの機器で構成されています。私は、2000年ころ
にアメリカでこのシステムが発売された時に、偶然にもこの機器に触れるチャンスがあり、術者が開腹手術の時のような直観
的な操作ができることに驚きました。そののち、日本でも2009年ごろから医療機器として認可を受けて使われるようになり
ました。千葉県がんセンターでは2年前の2011年7月に導入しました。千葉県内では初、自治体病院としては国内で最初に取り
入れられました。
サージャンコンソール
遠隔操作機器
ヴィジョンカート
モニター、光源
ペイシェントカート
内視鏡鉗子などを装着して
直接の手術操作を行う
遠隔操作で内視鏡手術を行う
―手術は具体的にどのように行いますか?
ダビンチはロボットが医師に代わって手術を行うわけではありません。医師が
ダビンチを使って作業することにより、より緻密な手術ができるというのが特徴
です。ダビンチを使って行う手術で現在最も多い前立腺がん切除術では、全身麻
酔をした患者さんをペイシェントカートに寝かせ、腹部に6か所の小さな傷穴(ポー
ト)を開け、そのうち4か所のポートにカートに取り付けられたメスや鉗子、内視鏡
などの“腕”を差し込みます。執刀医は患者から2~3メートル離れたところに置か
れたサージャンコンソールに座り、内視鏡が映し出した3D画像などを見ながら手
元のコントローラーを動かし、遠隔操作で切除や縫合を行う仕組みです。
4
直観的な動作ができる開腹術と、体への負担を抑える腹腔鏡術の特徴を兼ね備える
―ダビンチを使った手術を行うことによる具体的なメリットはどのような点ですか?
この手術のもっとも大きな利点は、直接臓器に触れながら処置する開腹手術と腹部に小さな穴を開けてカメラを入れ
ながら行う腹腔鏡術の両方の利点を兼ね備えていることです。医師はイスに座って自然な姿勢で3次元(3D)かつ10倍の
拡大視野に映し出されるモニター画面を見ながら、手術操作を行います。その際、開腹手術の時のよう直観に基づいた組
織の剥離や切開、縫合などの操作をストレスなく自由に行うことができます。腹腔鏡術と同様、ダビンチを使う際も炭酸ガ
スでおなかを膨らます(気腹)ため、血管や神経、そのほかの臓器の観察が容易になり、出血も少なく患者さんの体への負
担も軽くなります。前立腺がんではこれまでにダビンチを使った手術を200例以上行っていますが、今までに自己血(あら
かじめ採血しておいた自分の血液を手術中に輸血すること)を2例行ったのみです。傷も小さいため見た目のメリットも大
きいですが、術後の痛みも少なく、尿失禁の回復も早いため予定通りの退院が可能であり、早期の社会復帰にもつながり
ます。現在では平均して術後8日目には退院できます。
千葉県がんセンターにおける前立腺全摘術の推移
(ロボット支援手術が前立腺術の主流へ)
100%
開腹手術
ロボット手術
超音波療法
80%
60%
40%
20%
0%
前立腺全摘術の7割をダビンチで実施
保険適用で大幅増
―千葉県がんセンターでの実績はどのぐらいありますか?
現在ダビンチを使った手術では、泌尿器科の前立腺がん以外にも婦人科、消化器外科でも取り組んでいますが、前立腺
がんのみ保険診療の対象となっており、千葉県がんセンターでも前立腺がんの手術を中心に行っています。昨年度から保
険診療で受けられるようになったおかげで、前立腺全摘では全体の7割近くの患者さんがダビンチを使ったロボット支援術
の恩恵を受けております。前立腺がんの場合の手術費用は150万円ですが、保険適用の3割負担で50万円、さらに高額医
療制度で申請すれば自己負担は8万円程度となる計算です。ダビンチの操作時間も最初のころは5~6時間かかっていま
したが、手術チームもダビンチ操作に慣れて現在では2~3時間と短くなってきました。現在、ダビンチを使う手術は7~8
週間ほどお待ちいただくこともありますが、できるだけスムーズに進められるよう工夫していきたいと思います。また、今
後は泌尿器科において腎がんの部分切除術や膀胱がんの膀胱全摘除術にも応用を広げていきたいと思っています。そし
て、患者さんの安全、負担軽減を第一にこのダビンチを使った手術を行っていきたいと思います。
5
Fly UP